2 ヶ所の穿孔で発症した Enteropathy-type T-cell lymphoma の 1 例
緒言 Enteropathy-type T-cell lymphoma ( 以下 EATL) は, 小腸に発生する比較的まれなリンパ腫である. 多くは穿孔で発症し化学療法に不応で予後不良とされる. 2 ヶ所の穿孔で発症した ETL の 1 例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.
症例 84 歳女性 主訴 現病歴 身体所見 腹痛 数日前から体調不良と食欲低下を自覚. 腹部に激痛が出現し当院に救急搬送. 身長 142cm, 体重 32kg 体温 39.0, 血圧 134/65, 脈拍 130 意識清明. 顔貌は苦悶様. 腹部は膨満し上腹部中心に圧痛あり, 反跳痛 筋性防御の腹膜刺激症状を認めた.
既往歴 X-16/3/3 アクタリット WBC 9700/μl RBC 390 万 /μl Hb 10.5g/dl Ht 32.5% Plt 46.2 万 /μl 30 歳代より慢性関節リウマチで加療 X-6/1/8 6/10 メソトレキセート4mg X/2/25 X-7/12/18 腹膜炎発症フ レト ニソ ロン5mg X-4/5/11 フ レト ニソ ロン2.5mg 初診時血液検査所見 T.Bil 0.39 mg/dl AST 23 IU/l ALT 15 IU/l LDH 198 IU/l AMY 46 IU/l PT-INR 1.13 TP BUN Cr 血糖 CRP 5.5 g/dl 13.8 mg/dl 0.57 mg/dl 135 mg/dl 6.44 mg/dl APTT 28.2sec
free air free air ascites ascites 腹腔内遊離ガス像と腹水を認め消化管穿孔による汎発性腹膜炎の診断で緊急手術を施行.
術中所見 混濁した黄色腹水を認めた. 十二指腸 胃に穿孔を認めず, 小腸に穿孔 2 ヶ所を認めた. 腸切除し肉眼的に健常な部位で吻合. Treitz から 110cm Bauhin から 130cm 穿孔部の間は 110cm
ホルマリン固定後の肉眼像
CD3 CD8
granzyme B
小腸壁全層に小 ~ 中型のリンパ球様細胞のびまん性増殖を認めた. 免疫染色で,CD3 (+), CD8 (+), CD4 (-), CD10 (-), CD79a (-), CD20 (-), CD45RO (-), granzyme B (+), CD56 (-), CD30 (-). 以上より enteropathy-associated T-cell lymphoma (EATL ) typeⅡ 相当と診断.
近位側および遠位側断端にも腫瘍細胞はみられた
EBER
術後経過 縫合不全等の重篤な合併症や通過障害は認めず. 年齢, 化学療法への反応性および副作用を考慮し, 家族とも相談の上, 対症療法のみの対応. 経口摂取が増加せず, 術後 3 ヶ月で死亡. 追加検査 HTLV-1 抗体 : 陰性遺伝子検査 : HLA DQ9 陽性
消化管悪性リンパ腫 消化管悪性腫瘍の 1-2% 非 Hodgkin リンパ腫の 4-20 (10) % 部位 : 胃が最多, ついで小腸, 結腸 ほとんどは B 細胞由来 治療手術放射線療法抗癌剤化学療法 CHOP 療法ほか抗 CD20 抗体療法
Enteropathy-type T-cell lymphoma 全消化管悪性リンパ腫の 5% ほど 消化管上皮内 T 細胞由来 TypeⅠ : Celiac 病 ( グルテン不耐症 ) の7-10% HLA-DQ2 陽性 : 90% TypeⅡ : Celiac 病と無関係 発症年齢の中央値は60 歳 : 性差なし消化管穿孔 狭窄のリスクが高い 40% が急性腹症で受診 診断時には進行していることも多い抗癌剤化学療法にも不応で予後不良 2 年生存率 15-20% (Al-toma ), 28% (Daum )
本症例における問題点 消化管穿孔 汎発性腹膜炎で発症重篤化術後の経口摂取が増加しなかったこと消化管悪性リンパ腫の症状? 高齢かつ全身状態不良で抗癌剤化学療法にむかえず 参考 ) 慢性関節リウマチと悪性リンパ腫 通常びまん性 B 大細胞型リンパ腫
EATL を含む小腸悪性リンパ腫についての考察 ハイリスクな集団の抽出 Celiac 病 慢性関節リウマチ (?) 検査カプセル内視鏡 ダブルバルーン内視鏡 PET スクリーニングか, 症状があらわれたときか 治療有効な抗癌剤 レジメンの開発 ( 分子標的治療含む )
考察 本症例でも, 既報のごとく高齢かつ汎発性腹膜炎で発症した. 集中治療により救命は可能であったが, 経口摂取が増加せず, 化学療法や退院には到らなかった. 救命はできても, 治癒せしめることは困難な病態と思われ, 年齢や全身状態を総合的に判断し緩和的対応が必要となる. 慢性関節リウマチとの関連治療歴 ( 使用薬剤 ) により小腸の精査? TypeⅡ に関しては? 有効な診断法がない 腸閉塞や腹膜炎での発症で気づかざるをえない? ハイリスク患者の選定自己免疫疾患 免疫抑制剤 小腸の評価小腸鏡 カプセル内視鏡の改善
結語 2 ヶ所の穿孔で発症した Enteropathy-type T-cell lymphoma の 1 例を経験した. 潜在的に進行し, 発症形態が重篤 ( 腹膜炎 ) かつ抗癌剤にも不応で予後不良であり, 早期診断法および有効な治療法の確立が望まれる.
本症例で Lymphoma 発症に関連した可能性のある因子 Methotrexate 現在 Rheumatoid arthritis (RA) の患者への methotrexate 治療が Lymphoma の発生を誘導しているのではないかと考えられている B cell lymphoma Diffuse large B-cell lymphoma Follicular lymphoma Burkitt lymphoma MALT lymphoma T cell lymphoma Peripheral T-cell lymphoma Extranodal NK/T-cell lymphoma Hodgkin lymphoma 更に RA 患者に Methotrexate 治療を行い lymphoproliferative disorder あるいは lymphoma を生じた症例では EBV が 40% の症例で陽性を示し EBV 感染も lymphoma の発症に関わっている可能性も示唆されている Rheumatoid arthritis RA 患者で methotrexate 治療を受けていない患者でも 2-20 倍 Lymhoma の発生率が上がるという報告もある
Immunodeficiency-associated lymphooroliferative disorders Lyphoproliferative diseases associated with primary immune disorders Lymphomas associated with HIV infection Post-transplant lymphoproliferative disorders Other iatrogenic immunodeficiency-associated lymphoproliferative disorders
Enteropathy-associated T cell lymphoma (EATL) 発生は比較的稀 空腸 回腸でみられる 十二指腸 胃 大腸でも生じるが 稀である 腹痛で来院するが しばしば穿孔で気づかれる 腸菅からの吸収不全を伴い予後不良である Type I 背景にCoeliac diseaseあり EATLの80~90% を占める 中型 ~ 大型のリンパ球様細胞の増殖 immunophenotype CD3 (+) CD4 (-) CD5 (-) CD8 ( 多くは (-)) CD56 ( 多くは (-)) Type II 背景にCoeliac disease 無し EATLの10~20% を占める 小型 ~ 中型のリンパ球様細胞の増殖 immunophenotype CD3 (+) CD4 (-) CD5 (-) CD8 ( 多くは (+)) CD56 ( 多くは (+))