産業組織論 ( 企業経済論 ) 第 12 回 井上智弘 2010/6/30 産業組織論第 12 回 1
注意事項 次回 (7/7) は小テストを行う.» 範囲は価格差別. 第 1 種 ~ 第 3 種の分類 単一の独占価格を設定する場合と比べて, 価格や利潤, 余剰がどう変わるのか. 講義の資料は, 授業終了後にホームページにアップしている. http://tomoinoue.web.fc2.com/index.html 2010/6/30 産業組織論第 12 回 2
第 1 種価格差別 前回の復習» 消費者を財 サービスに対する留保価格の違いで個人別に分け, それぞれに対して留保価格に等しい価格で販売する. 完全価格差別» 消費者の留保価格 = 企業の限界費用となるまで生産が行われるため, 総余剰が最大となる.» 企業が消費者余剰をすべて利潤として吸い上げることで, 生産者余剰は最大となるが, 消費者余剰はゼロになる. 2010/6/30 産業組織論第 12 回 3
前回の復習 通常の独占 第 1 種価格差別 P A P A P M M C F MR E MC D C E MC D O Q M Q O Q PD Q 2010/6/30 産業組織論第 12 回 4
第 3 種価格差別 前回の復習» 消費者のグループごとに需要の価格弾力性に応じて異なる価格で販売する. 各グループ市場ごとに,MR = MC が成立するように価格を設定する.» ラーナー指数と需要の価格弾力性の関係から, 弾力性が低いグループであるほど高い価格で販売する. MC はどの市場も同じなので, 需要の価格弾力性が高いほど, 価格は低くなる. P MC 1 i = Pi 1 MC P ε = i i ε i 2010/6/30 5 1
第 1 グループ市場 P 第 2 グループ市場 弾力性が相対的に高い 弾力性が相対的に低い 相対的に低い価格を設定 M P 2 相対的に高い価格を設定 M P 1 MC MC D 1 MR 1 MR 2 D 2 Q 1 M Q 1 M O Q 2 Q 2 2010/6/30 産業組織論第 12 回 6
P 集計された需要曲線 集計された限界収入曲線 M P 2 M P M P 1 MC MC D 1 MR 1 MR 2 D 2 Q 1 M Q 1 M Q 2 O Q 2 Q M 2010/6/30 産業組織論第 12 回 7
第 2 種価格差別 前回の復習» 購入量ごとに異なる価格を設定して, 消費者に自己選択させることで, 価格差別を行う.» その1つの例として, 二部料金制がある. 支払額 = 固定料金 ( 基本料金 )+ 従量料金 ( 使用料金 ) 2010/6/30 産業組織論第 12 回 8
二部料金制 あるスポーツジム ( 企業 ) は, 非会員は 1 日 1,000 円で施設が利用できるが, 会員であれば 1 日 500 円で利用できる. ただし, 会員になるには年会費 60,000 円を支払わなければならない. 年会費が固定料金,1 日の使用料金が従量料金である. 消費者は, 会員 非会員を選択する. 2010/6/30 産業組織論第 12 回 9
会員の場合 二部料金制» 年間支払額 (T c ) = 60000 + 500Q» 一日当たりの平均料金 (T c /Q) = 60,000/Q + 500 非会員の場合» 年間支払額 (T n ) = 1000Q» 一日当たりの平均料金 (T n /Q) = 1000 2010/6/30 産業組織論第 12 回 10
二部料金制 会員になった場合, 利用日数が増えれば増えるほど, 平均料金は安くなる. たくさん利用する消費者ほど, 会員になろうとする. スポーツジムは, 需要の高い消費者に対しては, 相対的に低い従量料金を課している. 2010/6/30 産業組織論第 12 回 11
二部料金制 需要の高い消費者に低い従量料金を課すことで, 企業にメリットはあるのか? 消費者は, 留保価格が従量料金と等しくなる点まで消費するため, 従量料金を低く設定すると, 需要量が増え, 消費者余剰が大きくなる. この消費者余剰を固定料金によって吸い上げることで, 高い利潤を得ることができる. 2010/6/30 産業組織論第 12 回 12
消費者の逆需要関数が P = 2000-10Q, 企業の限界費用が MC = 500 で, 会員の 1 日の利用料金を限界費用に等しい 500 とする場合. 2000 P 消費者余剰 消費者は留保価格が利用料金と等しくなるまで消費を増やすので, Q = 150 となり, 年会費がゼロであれば, 消費者余剰は 112,500 となる. 500 D 従量料金 =MC 150 Q 2010/6/30 産業組織論第 12 回 13
企業は, 利用料金に加えて年会費 60,000 を設定することで, 消費者余剰を吸い上げて利潤とする. 2000 500 P 消費者余剰消費者余剰 + 利潤 このとき, 利潤は 60,000 となり, 単一の独占価格をつける場合の利潤 56,250 よりも高い. また, 年会費を消費者余剰と等しい 112,500 に設定すれば, 消費者余剰をすべて吸い上げることができる. D 従量料金 =MC 150 Q 2010/6/30 産業組織論第 12 回 14
二部料金制 単一の独占価格を設定する場合よりも総余剰が増加する.» 従量料金が独占価格よりも低く設定されるため, 限界費用との差が小さくなり, 生産量が増加する.» 消費者余剰が固定料金として企業に吸い上げられたとしても, 総余剰は変わらないため, 総余剰は増加する. 2010/6/30 産業組織論第 12 回 15
二部料金制 購入量ごとに異なる料金設定を行うことで, 企業は利潤を高めることができる.» それぞれの消費者に, 自身の需要に合った料金プランを選ばせることで, 消費者のタイプを識別する.» そのためには, それぞれの消費者がその料金プランを選ぶことによって, 他の料金プランを選ぶよりも, 平均料金が安くなるように設定しなければならない. 2010/6/30 産業組織論第 12 回 16
設定 需要の高い消費者 (A) の需要関数 Q = 200 - (1/10)P 需要の低い消費者 (B) の需要関数 Q = 150 - (1/10)P それぞれ1 人ずついるとする. 料金プランは次の2つ.» プランX: 固定料金 60,000, 従量料金 500» プランY: 固定料金 0, 従量料金 1,000 独占企業の限界費用を500で一定とする C(Q) = 500Q 17
需要の高い消費者 :» 相対的に高い固定料金» 相対的に低い従量料金» 消費量が多いため, 消費 1 単位当たりの固定料金が安くなる. 需要の低い消費者 :» 相対的に低い固定料金» 相対的に高い従量料金» 消費量が少ないため, 消費 1 単位当たりの固定料金が高くなる. 2010/6/30 産業組織論第 12 回 18
価格差別まとめ 独占企業は, すべての消費者に対して単一の価格で財を販売するよりも, 何らかの方法で消費者を分断し, 異なる価格で販売することで, より大きな利潤を獲得できる. この分断の方法として,» 個別の消費者の留保価格に基づく価格設定 ( 第 1 種価格差別 )» 消費者の購入量に応じた価格設定 ( 第 2 種価格差別 )» 消費者のグループごとに, 需要の価格弾力性に応じた価格設定 ( 第 3 種価格差別 ) 2010/6/30 産業組織論第 12 回 19
残りの講義内容 自然独占 コンテスタブル市場 独占的競争 2010/6/30 産業組織論第 12 回 20
自然独占 電気 ガス 水道 通信 鉄道などの事業では, 国営 公営企業による独占事業化や参入規制による独占権の付与が行われていた ( 行われている ). これらの事業では, 産業の設立費用が非常に大きく, 巨額な初期投資を必要とする. 設備投資費用としての固定費用が大きい. 2010/6/30 産業組織論第 12 回 21
固定費用が大きいほど, 生産量が増えたときに平均費用が減少する範囲が広い.» 平均費用が減少する範囲 = 規模の経済が働く範囲 AC,MC MC AC 規模の経済が働く範囲 2010/6/30 22
自然独占 産業の設立費用が極端に大きい産業では, 規模の経済が発生する範囲が非常に大きくなる. その結果, 平均費用曲線と市場需要曲線の交点において, 平均費用曲線が右下がりになるということが起こる. このような産業を費用逓減産業と呼ぶ. 2010/6/30 産業組織論第 12 回 23
自然独占 費用逓減産業は産業の設立費用が極端に大きい. 2 つの企業が同時に存在すると, 設立費用に二重に投資することになる. 社会的に無駄が発生する. 2 つの企業が需要を分け合うため, 設立費用に比べて収入が少なくなり,2 企業ともに赤字となる. 生き残った企業が独占企業となってしまう. 2010/6/30 産業組織論第 12 回 24
自然独占 また, 費用逓減産業で既に独占企業が存在している場合, 巨額の設立費用を負担して新規に参入しても, 設立費用を回収するだけの利益を得ることは困難である. 新規参入が発生せず, 独占が維持される. 2 社以上で生産するよりも 1 社で生産した方が総費用が少なくて済むような状態を自然独占と呼ぶ. 2010/6/30 産業組織論第 12 回 25
自然独占の問題点 ただし, 自然独占であっても, 企業は MR = MC で生産量と価格を決定する.» 生産量は少なくなり, 価格は高くなって, 死荷重が発生する. 電気 ガス 水道 通信 鉄道などの産業では, 産業の確立期に独占状態になった. 産業の設立費用が大きく, 設立費用を回収できる見込みのある地域でしか投資が行われないという問題が発生した. 2010/6/30 産業組織論第 12 回 26
自然独占の問題点 電気やガスなど, 生活の基盤となるサービス産業は費用逓減産業であることが多い. サービスの供給が過少になり, 価格が著しく高くなって大きな死荷重が発生することは望ましくない. 政府によって介入が行われている.» 国営 公営企業による独占事業化» 参入規制と価格規制 2010/6/30 産業組織論第 12 回 27