今までは総論的なところを話しましたけれども これから各論の部分に入ります 10
それでは急性白血病ですけれども 急性白血病は 年間に数万人あたり 1 人の割合で発症します 大人では骨髄性が多いのですが 小児ではリンパ性が多いです 診断後すみやかな治療の開始が必要で 治療が遅れると致命的になることがあるため 注意が必要です 11
急性白血病には 大きく分けて 2 つの分類があります 1 つ目は FAB 分類といって 1976 年に登場し これは形態学的 すなわち白血病細胞を顕微鏡で見たときの白血病の形や 白血病の割合を調べることによって分類していきます この分類の方法ですと どのような施設でも診断の一致率が 80% 以上あるとされています ただ FAB 分類でせっかく分類しても その後の治療内容や予後の分類にあまり影響を与えないということで 1999 年には WHO 分類が登場しました この分類では予後に関連すると言われている特徴的な染色体や遺伝子異常を組み入れた分類になっています この 2 つの分類ですが もう 1 つ大きな違いがあって 骨髄中の白血細胞の割合が FAB 分類では 30% 以上の場合に急性骨髄性と定義していますけれども WHO 分類では 20% に引き下げられました 12
続いて 白血病の分類の表になります この全部を覚える必要は全然ないのですが 一応載せています FAB 分類では 急性の骨髄性白血病 AML というように呼んでいますが M0 から M7 まで 8 種類に分けられます また 急性のリンパ性白血病 ALL と呼んでいますが L1 から L3 まで 3 種類に分けられます WHO 分類では このように染色体異常を加味した分類になっています ここで勘違いしないでいただきたいのですが 現在 FAB 分類は使われなくて WHO 分類と入れ替わった 取り替わったというわけではありません 両方使うということです 今でも FAB 分類は 形態学的にはとても重要な分類で使っていますし 染色体異常を加味した WHO 分類も 最近では使っています カルテには 初診の患者さんで FAB 分類では何々 WHO 分類ではこれこれというように記載するようにしています 13
続いて 急性白血病の治療の基本的な理念ですけれども Total Cell Kill という考え方で行っています 白血病細胞を徹底的にたたくということです 徹底的とは何かというと もちろん患者さんが耐えられる範囲で より強力な治療を 1 回だけではなく 繰り返し行うというのが 基本的な白血病の治療の考え方になっています 14
これは 急性白血病の治療の流れになります 白血病が発症したときに一番最初に行う初回治療のことを 寛解導入療法と呼びます 寛解とはどういうことかというと 採血をしても 骨髄の検査をしても 白血病細胞が少なくなっていて 正常な赤血球 白血球 血小板などの血球がつくられるような状態を寛解と呼んでいます 治療を始める前 寛解導入療法前には 縦軸に 10 の 12 乗個という白血病細胞があります これを数えると 1 兆個になります かなり多い数の白血病細胞が体の中にあるのですが 寛解に到達すると 10 の 9 乗個まで減ります 寛解という状況になっても まだ体の中にはたくさん白血病細胞が残っていますので この時点で治療をやめてしまうと 確実に再発します そのため 寛解後療法というものを 3~4 コース行うことが多いです 急性骨髄性白血病の場合は その寛解後療法でいったん治療は終わるのですが 急性リンパ性白血病の場合は その後 外来で約 2 年間 抗がん剤の治療を継続していきます このように 複数回に及ぶ抗がん剤治療で 白血病細胞が少なくなって消失すると治癒 残念ながら途中でふえてしまうと再発ということになります 寛解導入療法 寛解後療法というのは 大体 1 ヵ月に 1 回ペースで行っていきます この表でいうと 4 回 棒が引っ張ってありますが 4 コース治療すると 4~5 ヵ月くらいはかかります この間は ずっと入院になります そのため 急性白血病の寛解導入療法 その後の寛解後療法を含めると おおまかに言って 半年近くの入院が必要になる計算になります 15
続いて 急性白血病の治療法をアルゴリズムに分けて示しました 急性白血病には 先ほど FAB 分類でも少し言いましたが 骨髄性の白血病と リンパ性の白血病があります 骨髄性の白血病は FAB 分類の M3 と M3 以外で大きく治療方法が異なってくるため それぞれ分けて解説していきます 16
まず M3 以外のタイプから話していきます 寛解導入療法はイダルビシン あるいはダウノルビシンという抗がん剤に シタラビンという抗がん剤を併用して行います 寛解率は大体 70~90% に及びます 寛解後療法としては シタラビン大量療法 あるいはそのほかの抗がん剤の併用療法を 3~4 コース行います 再発 再燃した場合は このあとまた説明しますけれども マイロターグという薬や 造血幹細胞移植などを行っていきます まとめますと いきなり移植をするのではなく まず化学療法が基本になります 化学療法というのは 抗がん剤が基本になります 再発例や 予後不良の患者さんに対しては 同種移植 骨髄移植を考慮していきます 17
これは難しいのですが 急性骨髄性白血病は 染色体異常によって予後分類がなされていて このような染色体異常を 3 群 予後良好群 中間群 不良群というように分けています 予後良好群の人の生存率のグラフになりますけれども 予後良好群の人は 5 年後 55% の生存率があり 中間群の人は約 40% 予後不良群の人は 10% と このようにはっきりと生存率が分かれてきます 18
先ほどマイロターグという言葉が出てきたのですが そのマイロターグの話を少しさせていただきます 一般名は ゲムツズマブオゾガマイシン 約して GO と 呼んでいます これはどういう薬かというと 急性骨髄性白血病は 多く CD33 という抗原が発現しているのですが その CD33 に対する抗体がマイロターグです この薬には抗腫瘍効果のあるカリキアマイシンという物質が結合されていて 抗腫瘍効果を高めています 日本では 2005 年に再発 治療抵抗性の急性骨髄性白血病に対して 単剤での認可が下りました 再発患者の寛解率は約 25% あり 一定の効果が期待できる薬です アメリカで行われた初発患者を対象にした化学療法に GO を併用した第 Ⅲ 相試験があったのですが その試験ではマイロターグの有益性が確認できず むしろ致死的な有害事象の発現率が高かったため アメリカでは昨年の 10 月から販売中止となって使用できないような状況になっています ただし日本では このアメリカで行われた試験とは全く違って 白血病の患者さんですけれども 対象の患者さんが違うということと あとは単剤 つまり投与の方向が違うということで 現在もマイロターグを使用することができます 19
これは急性骨髄性白血病の移植適応の表になります 聞き慣れない言葉が多いと思いますが 先ほど話したように 予後不良群 高リスクの患者さんに関しては 初回治療を行って 寛解に到達した第一寛解期に 積極的に移植が行われます ただし 初発時 低リスクの患者さんは 化学療法のみで ある程度治癒が期待できるので 第一寛解期での骨髄移植は基本的には行わず 再発後に寛解に到達した第二寛解期での移植を考慮していきます 骨髄移植というのは 骨髄を提供してくれるドナーがどうしても必要になってくるのですが ドナーの種類としては血縁 おおまかには兄弟と思っていただいていいのですが 血縁です 骨髄バンクでドナーを探す場合は 非血縁です あとは赤ちゃんのへその緒を使ったさい帯血 と 自分の幹細胞を使った自家移植などがあります 自家移植というのは 現在 急性骨髄性白血病ではあまり行っていないので 基本的には左の 3 つになります ドナーをどのように選んでいくかというと 優先順位としては 移植の効果と副作用の観点から 血縁ドナーを 1 番にして その次にバンクの非血縁 その次にさい帯血というように順位をつけて探します 20
続いて 急性白血病 骨髄性白血病の M3 の治療の内容について解説していきます FAB 分類の M3 なのですが 急性前骨髄球性白血病とも呼ばれています この病気の原因はある程度わかっていますので これもわかりにくいかもしれないのですが 図を使って病気の原因について解説していきます 21
このように 2 本の棒がありますけれども 両方とも染色体です 15 番目の染色体と 17 番目の染色体がここには描かれているのですが この部分とこの部分で染色体が切れて それぞれが入れ替わってしまうと このような図になります この M3 という病気の患者さんは この染色体異常があることが 1 つの特徴です この少し長くなった染色体ですけれども この部分には PML/RAR α 融合遺伝子があって それがつくり出す蛋白があるのですが その蛋白は 実は血球の分化を障害します 血球の分化を障害するというのは一体何かというと 骨髄の中で幹細胞から血球が成長していくのですが それが一定の段階で成長が止まってしまい 白血病細胞としてふえてくるということです 22
この病気には オールトランスレチノイン酸という ATRA という薬がよく効くのですが その ATRA がどのように効いていくかといいますと その蛋白に結合することによって分化障害を解除します 分化障害が解除されると その白血病細胞が分化 要するに成長していって 普通の成熟した好中球 少し形は違うのですが 好中球まで分化していって細胞が壊れるという こういうところで治療の効果が出てくる薬です 今話した内容は全然覚える必要はありませんが わかっていただきたいことは ATRA という薬はとてもよく効きますが これは抗がん剤ではありません これはビタミン A の一種で 分類すると 分化誘導体と呼ばれます よろしいでしょうか 急性前骨髄球性白血病の治療をもう一度 寛解導入療法からまとめますと オールトランスレチノイン酸 先ほど話した ATRA 抗がん剤の併用療法を行います それによって寛解率は 90% 以上と良好で その後 寛解後療法を同じように 3~4 コース行います 再発 再燃した場合は これもあとで解説しますが 亜ヒ酸や 造血幹細胞移植が考慮されていきます まとめますと まず分化誘導療法を行い 抗がん剤を併用していきます 再発 予後不良群は 自家 同種移植を考慮していくということです 23
これは M3 の初発に対する ATRA と抗がん剤併用療法の治療の成績になります まだ説明はしていませんが 実はこの M3 というタイプの白血病は 診断されたときに DIC という病態になっている患者さんが多いです DIC というのはとても出血しやすい病気で 脳出血などで亡くなってしまう患者さんがいますが 治療を開始して ここで少し生存率が落ちていますが 出血などで治療初期に亡くなる患者さんがいます そこを乗り越えると この病気はおおむね生存率は良好で 白血病という病名ですが 長期の生存率が 84% あります 白血病の中では 今最も生存率が高い病気になっています 24
今は初発の話をしたのですけれども 今度は再発に対する亜ヒ酸の話をしようと思います 先ほど少し亜ヒ酸の話が出てきましたが 亜ヒ酸というのは ATRA とは少し違いますが 同じように白血病細胞を分化させていく分化誘導療法で 誘導剤です これによって再発時の寛解率は 80~90% ととても良好で 再発に対する第一選択薬になっています 25
続いて 今度は急性リンパ性白血病の治療について話します 急性リンパ性白血病というのは Ph が陽性か陰性かで治療方針が変わります Ph というのは あとでまた解説していきますが フィラデルフィア染色体というものです 26
Ph 陰性の化学療法について説明していきます 急性リンパ性白血病 Ph 陰性の治療についてですが このように多剤を使った併用療法を行っていって 寛解割合は 70~90% と まずまず良好です その後 地固め療法を 3~4 コース行います 行ったあとに 外来で維持療法を約 2 年間行っていきます この病気は 中枢神経への浸潤が多い病気なので 中枢神経への予防的な抗がん剤投与が必須になります どのように予防しているかというと 抗がん剤の髄腔内投与 もしくはプロトコールによっては 中枢神経への移行のいい抗がん剤であるメトトレキサートとか シタラビンという薬を点滴で大量投与していきます 27
これは急性リンパ性白血病の初回治療の成績です この左のものは生存率になります 寛解率は 先ほど言ったように 85% と高いのですが 再発が多く 全生存率も良好とは言えません 年齢的に見てみると 30 歳以下の患者さんでは大体 70% くらいの生存率が期待できますが それよりも年齢が進んでいくと このように生存率が低下していきます 28
続いて Ph 陽性 フィラデルフィア染色体陽性の白血病について解説していきます 29
Ph 陽性の急性リンパ性白血病ですが これは 9 番染色体と 22 番染色体の転座により Bcr/Abl 融合遺伝子が構成されます この遺伝子から Abl チロシンキナーゼという酵素ができて これが恒常的に活性化されると 白血病細胞が増殖します この病気は 予後 治りにくさですが 予後が絶対的に悪いと言われています ただ イマチニブという薬が開発されて使われるようになってから 化学療法の成績が格段に上がりました 30
そのイマチニブのことについて少し話をします 左側のほう これが Ph 陽性の白血病の患者さんの持っている酵素です この緑のチロシンという部分と リン酸塩という部分がくっつくことによって酵素が活性化され 白血病細胞がふえていきます ですが イマチニブというのは ちょうどこの部分に結合することによって チロシンにリン酸化が起こらずに 白血病細胞が増殖しないような形になります こういうことで イマチニブは治療効果を発揮します 31
フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病の治療のグラフです これは イマチニブを使った場合と使わない場合の比較試験になっています イマチニブを使わないと これは月単位ですけれども 長期生存は望めません ほぼ全例で亡くなってしまいます 移植を行わない患者さんでは さらに早期に生存率が悪くなります ただ イマチニブを使った場合は これだけ治療成績が上がる という画期的なデータです 32
続いて 急性リンパ性白血病の移植適応の表に移ります 急性リンパ性白血病の予後不良因子ですけれども この左下にあるような いろいろな因子があると予後不良と言われます こういう因子があると 高リスク群に当てはめられて 高リスク群の患者さんでは 第一寛解期に積極的に移植が勧められます 予後不良因子がない標準リスクの患者さんでは 同種移植を行うことがメリットとしてはっきりとは確認されていませんので 第一寛解期での移植は慎重に考える必要があります ただ 第二寛解期以降に骨髄移植を行った場合は 第一寛解期に移植を行ったときと比べると成績が落ちるので いいドナーがいたりした場合は 第一寛解期からの移植も選択肢に上がって考えていきます 33