河川工学 ( 第 3 回 ) 流出解析法 1 ( 流出成分の分離と有効降雨 合理式 単位図法 )
(1) 大雨に関する予警報 流出現象の概説 (2) 流出解析法 1 (2-1) 合理式 (2-2) 単位図法
大雨に対する予警報 愛媛県中予地方の場合の注意報 警報基準 ( 松山地方気象台 HP より ) 松山市 警報 大雨 ( 浸水害 ) 雨量基準 平坦地 :1 時間雨量 45mm 平坦地以外 :3 時間雨量 100mm 洪水 雨量基準 平坦地 :1 時間雨量 45mm 平坦地以外 :3 時間雨量 100mm 注意報 大雨 雨量基準 平坦地 : 1 時間雨量 30mm 平坦地以外 :3 時間雨量 70mm 洪水 雨量基準 平坦地 : 1 時間雨量 30mm 平坦地以外 :3 時間雨量 70mm 記録的短時間大雨情報 1 時間雨量 100mm
流出 (runoff): 降水から河川流への変換現象 降水 降雨遮断 浸透 蒸散 浸透 窪地貯留 表面滞留表面流 表面流出 蒸発 地下水面 地下水流 地下水流出 河道河川流 速い中間流出 遅い中間流出
降水 (precipitation): 上空より地上に降る水を総称して降水という 雨, 雪, 霧, あられ ひょうなどが含まれる 河川に関係するものは主に雨と雪であるが, 特に雨と関係が深い
ある流域に雨量観測所 ( 黒丸 ) がある. この流域全体に降った平均的な雨量 ( 流域平均雨量 ) を求める 流域 雨量観測所 流域全体に同一の雨量強度で雨が降れば, どこか一カ所の雨量で代表できるが, 場所によって降雨強度が異なる場合はどうすればよいか?
算術平均法 各観測所の観測値を単純平均する方法 R 1 n Ri n i = 1 = 観測所が均等にある場合は各観測所の雨量の算術平均でよい.
観測所の配置が均等ではない場合は各観測所が代表する領域の面積を重みとする荷重平均で求める ( ティーセン法 (Thiessen method)). R n ai = R A i= 1 i 隣り合う観測所を結び, その結んだ線の垂直二等分線を引く. これら二等分線からある観測所を囲む多角形が形成される. この多角形の領域の雨量をその観測所が代表するものと考える.A は流域の面積.a i はある領域の面積.
等雨量線法 各雨量観測所のデータを用いて等雨量線を描き, 各等雨量線によって囲まれた部分の面積を求めて, それらに等雨量線の雨量の平均値を乗じたものを作成し, それらの平均をとったもの R R + R a = A n i i+ 1 i i= 1 2 等雨量線 50mm a1 a4 a3 20mm 40mm 30mm a2 R = 50 a1 + 45 a2 + 35 a3+ 25 a4 a1+ a2+ a3+ a4
降雨遮断 (interception): 降った雨が地表面まで到達せず最終的に蒸発してしまう現象. 樹木による損失を樹冠遮断損失という. これは総降雨量の 10~30% に達する. ( 樹木を伝わって地表面に届く流れを樹冠流という.) 蒸発 (evaporation): 水の水蒸気への変換. 蒸散 (transpiration): 植物が光合成をする際に, 根から吸収した水を葉の気孔から蒸発させる作用. 蒸発散 (evapotranspiration): 蒸発と蒸散をあわせて用いる用語. 浸透 (infiltration): 地表に達した降雨の地表面を横切って地中へと移動する現象.
窪地貯留 (depression storage): 降雨の一部が地表面の凹地に貯まる現象. 貯留した水はやがて表面流, 蒸発, 浸透のいずれかの形態で移動する. 表面滞留 (surface detention): 雨の降り始めは地表到達と同時に浸透するが, 時間経過とともに地表面が濡れてくる. 地表面に水が一時留まる現象を言う. 留まった水はやがて表面流, 浸透のいずれかの形態で移動する. 表面貯留 (surface storage) とも言う. 損失 (loss): 流域に降った雨のうちで流出しない成分全流出に対し, 蒸発散が損失直接流出に対し, 基底流量, 蒸発散が損失
重要! 損失 (loss); 蒸発散 降雨 初期損失 (initial loss); 降雨遮断 余剰降雨 ( 浸透できなかった降雨 ) 表面流 (overland flow) 速い流出 浸透 中間流 (subsurface flow) 遅い流出 地下水流 (ground water flow) 表層流 地中流 直接流出 (direct runoff) 短い時間で流出する成分 全 ( 総 ) 流出 基底流出 (base runoff) 長い期間をかけて流出する成分
流出解析 : 流域に降った雨から河川流量を推定すること. 降雨から流量増加まである程度の時間がかかるので, その間に流出解析を行い河川増水を予測する. 避難勧告や水門操作などに役立てる. 治水計画では想定降雨量から想定洪水流量を算出して計画を立てる. ( 降水量のほうが計測しやすくデータも多い.) 降水量 (mm) インプット 流出解析 河川流量 (m 3 /s) アウトプット
ハイエトグラフ (hyetograph): 降雨時における降水量と時間の関係 ハイドログラフ (hydrograph): 河川流量と時間の関係 ハイエトグラフ 時間 降水量 集中曲線 流量 逓減曲線 直接流出の始まり ハイドログラフ 時間 洪水などの短期流出では直接流出が解析対象ダム貯水などの利水では総流出や基底流出が解析の対象
対数表示した流直接流出量の算定既知のハイドログラフから直接流出成分を分離する logq ピーク流量 P A 点は直接流出の始まり. 終わりは? 逓減 ( ていげん ) の度合いが G 点で変化 ( 一般的には変化点が現れる ) G1: 表面流出と中間流出の境 G2: 中間流出と地下水流出の境 量G1 G2 時間 ( 普通目盛 ) A B 点は A 点を水平に伸ばし, ハイドログラフと交わる点 B
1)AB 線よりも上部を直接流出成分とする方法 ( 水平分離法 ) 2)AG2 線よりも上部を直接流出成分とする方法 ( 勾配急変点法 ) 注 ) ハイドログラフの直接流出成分には河川への直接降水を含んでいる 有効雨量 (net effective rain) 流域に降った雨の内 河川流出にならないものが生ずる これを降雨の損失という 洪水流出では直接流出分とならない降雨分を損失雨量という 総雨量から損失雨量を引いたものが有効雨量という
流出モデル (runoff simulation model) の種類 流出モデル : 流出解析を行うための具体的解析方法. 複雑な流出現象を比較的簡単な物理的概念で説明し数学的に記述している. モデルには通常, 適用範囲がある. 合理式 (rational formula) 単位図法 (unit-hydrograph) 貯留関数法 (storage function method) 等価粗度法 (kinematic wave method) タンクモデル (tank model)
合理式 洪水到達時間 T( 流域最遠端に降った雨が流出し流域末に到達する時間 ) 以上の降雨の継続時間があった場合 流域末地点での最大流出量 ( ピーク流量 ) を求める手法 流量 到達時間 T で流量は最大になる 時間到達時間 T 流出と時間の関係は上図 ( 単位図 ) のようになると仮定している 全流域にわたって同一の強度で雨が降り続けると仮定 小流域 雨量記録の少ない流域で適用される
雨が 20 分だけ降った場合流域最下流における流出流量 小流域 C 小流域 B 小流域 A 20 分 20 分 20 分 流量 Aからの流出 Bからの流出 Cからの流出 Q 時間 20 分 40 分 60 分 足し合わせる ( 線形 ) 流量 この地点の流量を考える Q 流域全体の到達時間は 60 分 20 分 40 分 60 分 時間
雨が 40 分だけ降った場合流域最下流における出流量 小流域 C 20 分 Q 流量 A からの流出 B からの流出 C からの流出 小流域 B 20 分 小流域 A 20 分 流量 20 分 40 分 60 分 80 分 時間 2Q この地点の流量を考える 20 分 40 分 60 分 80 分 時間
雨が 60 分 ( 流域の洪水到達時間 ) だけ降った場合流域最下流における出流量 流量 Q 時間 20 分 40 分 60 分 80 分 120 分 流量 Q p =3Q 時間 20 分 40 分 60 分 80 分 120 分
流出量の最大流量 ( ピーク流量 ) Qp = ra r: 平均降雨強度 ( 通常単位は mm/h) A: 流域面積 ( 通常単位は km 2 ) Q p : ピーク流量 ( 通常単位は m 3 /s) 単位をそろえるための係数を導入 Qp = 1 3.6 ra 実際には降水が全て流出しないので補正係数 ( 流出係数 ) を導入する 合理式 1 Qp = f p ra 3.6 到達時間 0.7 自然流域 T p L 3 = 1.67 10 S 都市流域 T p 0.7 3 L = 2.40 10 S L: 流域最遠点から流量計算地点までの距離 (m) S: 平均流路勾配
流域の状況 流出係数 急な山地 0.75-0.90 起伏のある土地, 山林 0.50-0.75 平らな耕地 0.45-0.60 山地河川 0.75-0.85 平地小河川 0.45-0.75
流域が流出係数に応じていくつかの領域に分割できる場合 N 1 Q = r f A p pi i 3.6 i= 1 流出係数に応じて分割された領域 f p2 =0.5 f p3 =0.4 f p1 =0.8 流域全体
例題 1 ある流域 ( 面積 2km 2, 到達時間 0.8h) に降雨強度 15mm/h, 継続時間 3h の降雨があった 流出係数 f p が 0.6 のとき, ピーク流量を求めよ
1 Qp = f p ra 3.6 1 = = 3.6 2 3 0.6 15(mm/h) 2(km ) 5(m /s)
例題 2 ある流域 ( 面積 2km 2, 到達時間 0.8h) に降雨強度 15mm/h, 継続時間 3h の降雨があった この流域の 3 割は流出係数 f p が 0.8 であり, 残り 7 割は 0.5 である この場合のピーク流量を求めよ
N 1 1 Q = r f A = r f A + f A ( ) 1 1 2 2 p pi i p p 3.6 i= 1 3.6 1 = ( + ) = 3.6 3 15 0.8 0.3 2 0.5 0.7 2 4.9(m /s)
単位図法 河川のある地点における単位時間 単位有効雨量による流出ハイドログラフは同型と仮定して 線形に重ね合わせてハイドログラフを求める ( 線形応答システム ) 雨量 A 時間 上図のような単位時間 単位有効雨量があった場合に 例えば下図のような流出が発生すると仮定する 流量 Q 時間 T 単位図
雨量 B 1.5 倍の雨量では? A 時間 流量 単位図を 1.5 倍にすればよい 1.5Q Q 時間 T
雨量 A B 0.5 倍の雨量が後に続く場合は? 時間 雨量 B に対しこのような流出が発生 流量 雨量 A に対しこのような流出が発生 流量 Q 時間 0.5Q 時間 T 単位図 T 0.5 倍した単位図 両ハイドログラフを足し合わせれば良い
流量 雨量 A に対する流出 流量 雨量 B に対する流出 Q 時刻 + 0.5Q 時刻 T 単位図 T 0.5 倍した単位図 流量 雨量 B の流出開始時刻は降り始め時間から計ると雨量 A の分だけ遅れていることに注意!! = 時刻 任意のハイエトグラフに対して同様の操作を行う 貯留効果の小さい流域 ( 線形性の確保 ) で実測値が豊富なところで適用される
P.43 例題 3.1 1 時間に 10mm の雨が降った場合の流出量 (m 3 /s) 単位図 0 時間後 1 時間後 2 時間後 3 時間後 4 時間後 5 時間後 流量 0 20 50 30 10 0 60 50 流量 (m3/s) 40 30 20 10 0 0 1 2 3 4 5 6 時間 (h) 単位図
mm 35 30 25 20 15 10 5 0 7-8 時の雨 8-9 時の雨 9-10 時の雨 単位図 0 時間後 1 時間後 2 時間後 3 時間後 4 時間後 5 時間後 流量 0 20 50 30 10 0 単位図法による計算法 (p.44) 時刻 8 時 9 時 10 時 11 時 12 時 13 時 14 時 15 時 7-8 時の雨 20mm 0 40 100 60 20 0 0 0 8-9 時の雨 30mm 0 0 60 150 90 30 0 0 9-10 時の雨 5mm 0 0 0 10 25 15 5 0 流出量 0 40 160 220 135 45 5 0
120 100 流量 (m3/s) 80 60 40 20 0 0 2 4 6 8 10 12 14 時刻 7~8 時の雨量 (20mm) に対する流量
160 120 流量 (m3/s) 80 40 0 0 2 4 6 8 10 12 14 16 時刻 8~9 時の雨量 (30mm) に対する流量
30 25 流量 (m3/s) 20 15 10 5 0 0 2 4 6 8 10 12 14 16 時刻 9~10 時の雨量 (5mm) に対する流量
250 200 流量 (m3/sec) 150 100 50 0 8 9 10 11 12 13 14 15 時刻
演習レポート 1: p.51 の練習問題 3 において 問表 3.1 のハイエトグラフと p.187 の解表 3.1 の単位図を用いて問表 3.2 が得られることを確かめよ 次回講義日に提出すること レポート提出は単位取得のための必要条件です. 未提出の場合は欠席 減点対象になります. 単位図 0 時間後 1 時間後 2 時間後 3 時間後 4 時間後 流量 (m3/s) 0 20 30 10 0 2-3 時の雨 10mm 3-4 時の雨 5mm 4-5 時の雨 15mm 5-6 時の雨 20mm