1 ミクロ経済学基本講義 第 1 回企業行動 Ⅰ イントロダクション 科目の性質と学習方法 経済学 理解 練習型 ( 暗記科目ではない!) [ 講義中 ] : 覚える ことよりも 分かる ことに注力する ( 話の流れを見失わないように注意すること!) [ 講義終了後 ] : 1 予習は不要 指示されたことをしっかりと復習する 2 グラフや用語を紙に 描 ( 書 ) きながら 話の展開を確認する 3 最低限解くべき問題 ( レジュメの後ろの方を参照 ) を解いてみる ミクロ経済学の 3 つの枠組み ミクロ経済学 ざい 世の中にある数ある商品 (= 財 ) の中から 1 つだけを取り上げて 財の 取引 がどのように行われるかを説明する 財の 売り手 取引 財の 買い手 きぎょうこうどう企業行動の理論 きょうきゅう 供給の理論 しょうひしゃこうどう消費者行動の理論 じゅよう 需要の理論 しじょうりろん 市場理論 需要と供給の分析
2 Ⅰ. 企業 ( 生産者 ) 行動理論の課題 結論 価格 20 円 きょうきゅうきょくせん 供給曲線 (S:Supply) 10 円 ( 普段の状況 ) 5 円 5 個 10 個 20 個 販売量 かかく 価格が 10 円のときに 10 個の財を販売している企業があるとする ( 普段の状況 ) 価格の上昇 価格の下落 これまでよりも高い金額で販売することができる きょうきゅうりょう 販売量 (= 供給量 ) を増やそうとする 赤字 ( 損失 ) を発生させる可能性がある 販売量を減らそうとする 変化前と変化後の点を線で結ぶと 右上がり の直線 ( 曲線 ) が描ける 企業行動の理論 きょうきゅう きょくせん供給曲線が なぜ 右上がり になるのかを説明する Ⅱ. 企業の行動原理 企業は なぜ財を供給 (= 生産 販売 ) するのか? 目的 制約 りじゅん財を供給することで 高い利潤 ( 利益 儲け ) を得るため ひようじょうけんせいさんぎじゅつ各企業には費用条件 (= 生産技術 ) という制約がある
3 利潤 (π ぱい ) の計算式 : 利潤 (π) = 収入 (R) - 費用 (C) りじゅんさいだいか 企業は 利潤を最大にするように財の供給を行う ( 利潤最大化 さいてきせいさん ) 最適生産 利潤を最大にする 方向 は 2 つある 利潤 (π) = 収入 (R) - 費用 (C) 利潤 (π) = 収入 (R) - 費用 (C) しゅうにゅうさいだいか 収入最大化問題 ひようさいしょうか 費用最小化問題 注意! 基本的には 費用最小化 の方向で企業の行動を考えます しゅうにゅうかんすう Ⅲ. 収入関数 収入 = 財価格 生産量 ミクロ経済学では 生産量 = 販売量 と考えてしまいます! 仮定 財の価格は自身で決定することはできず 世の中の 相場 を一定のものと して受け入れざるを得ない プライス テイカーの仮定 R = P (R: 収入 P: 財価格 ( 一定 ) : 生産量 ) P=10 円だとすると 収入関数は R=10 となる 収入 (R) しゅうにゅうかんすう 収入関数 (R:Revenue) 生産量 ()
4 Ⅳ. 費用条件を決めるもの せいさんようそ (1) 生産要素 生産要素 財の生産に必要となるもの (= 投入物 ) 使った分だけ 費用 がかかる! ろうどう労働 (L) し資 ほん本 (K) 企業の生産活動 生産量 () 費用最小化のためには 生産量 () に対して必要最低限の生産要素を投入する必要がある ひようさいしょうかこうどう ) (= 費用最小化行動 何個作るか? 必要最低限の生産要素は? 最小の費用額の決定 生産量 労働 資本 費用 () (L) (K) (C) 費用関数 生産量 () と最小の費用 (C) との関係 せいさんきかん (2) 生産期間 資本 (K) を増減させることができるか否かにより 2 つの生産期間に分ける 短期 (Short-run) 資本 (K) が固定的となる生産期間 労働 (L) 生産量に応じて増減できる かへんてきせいさんようそ 可変的生産要素 資本 (K) 生産量に関係なく一定量 こていてきせいさんようそ 固定的生産要素 長期 (Long-run) すべての生産要素が可変的となる生産期間 労働 (L) 資本 (K) 生産量に応じて増減できる 可変的生産要素
5 たんきひようの費用 Ⅴ. 短期 (1) 労働に関する費用 かんすうそうひよう関数 ( 総費用曲線 きょくせん ) 生産量が変化すると 労働に関する費用も変化する かへんひよう可変費用 (VC) (Variable Cost : VC) VC 50 円 VC 生産量 () を増やす場合 労働量も増やす必要がある このため 費用の額 (VC) 20 円 も増加することになる 形は 逆 S 字型 が前提 10 個 20 個 生産量 () (2) 資本に関する費用 生産量に関係なく 一定額発生する こていひよう固定費用 () (Fied Cost : ) 生産量 () を増やす場合に 一定額 40 円 も資本の量は増やせないの で 費用の額 () も変化 しないことになる 10 個 20 個
6 そうひようきょくせんたんきひようかんすう (3) 総費用曲線 (= 短期費用関数 ) の導出 (Total Cost : ) = VC + (VC: 可変費用 : 固定費用 ) そうひようきょくせん 総費用曲線 () 1 0 VC 0 1 試験で出題される 総費用曲線 (= 短期費用関数 ) には 以下のようなものがある 1 7 [ 東京都 Ⅰ 類 ] = q 3 - q 2 +10q+25 (q: 生産量 ) 3 2 VC 1 [ 国家一般職 ] =20+10-2 2 + 3 (: 生産量 ) 3 [ 国税 労基 ] C() = 3-2 2 +4+7 費用関数は問題文に与えられるケースが多いので 基本的に 暗記や計算して導けるように しておく必要はありません 大切なのは VC と の区別と費用関数から始まる計算 ( 次ページ以降 ) です
7 へいきんひようへいきんかへんひようげんかいひよう 平均可変費用 限界費用 Ⅵ. 平均費用 基本的に すべて 生産量 1 個あたりの費用 になります へいきんひよう (1) 平均費用 (verage Cost : C) 平均費用 (C) 生産量 ()1 単位 (1 個 ) あたりの総費用 ( 生産コスト ) 計算による場合 C = 総費用 生産量 = グラフで示す場合 原点からの直線の傾きの大きさ 原点からの直線 C 公式 傾き = 縦軸の値 横軸の値 60 円 40 円 10 個 C C a へいきんひようきょくせん 6 円 平均費用曲線 (C) b c 10 個 C
8 へいきんかへんひよう (2) 平均可変費用 (verage Variable Cost : VC) 平均可変費用 (VC) 生産量 ()1 単位あたりの可変費用 (VC) 計算による場合 VC = 可変費用 生産量 = - グラフで示す場合 切片からの直線の傾きの大きさ 切片からの直線 C 20 円 E F 40 円 10 個 E F C VC 2 円 1 円 a e f へいきんかへんひようきょくせん 平均可変費用曲線 (VC) c 10 個 E F C
9 げんかいひよう (3) 限界費用 (Marginal Cost : MC) 限界費用 (MC) 生産量 () を追加的に 1 単位増やしたときに 費用がどれだけ 増加するかを表す 計算による場合 MC = 費用の増加分 生産量の増加分 = 費用関数 () を生産量 () で 微分 する グラフで示す場合 費用関数の接線の傾き の大きさ ( デルタ ) 変化分 ( 増加分 ) を表す記号 e. 生産量が 10 個から 11 個に増加 =1 60 円 接線 変曲点 H F C 40 円 1.5 10 個 H F C MC げんかいひようきょくせん 限界費用曲線 (MC) c 1.5 円 a h f 10 個 H F C
10 限界概念と微分の方法 ある関数を微分すると その関数の 接線の傾きの大きさ が出る! ~ 微分のやり方 ~ e. 費用関数 : = 2 2 + 100 定数 (100) は 変化しない数 なので 微分の際にはゼロとする 限界費用 : MC = =~ の式を で微分 = 2 2 2-1 +0 = 4 肩の数字を前に掛けて 1 を引く と覚えておきましょう ~ 微分のイメージ ~ 342 円 G = 42 300 円 F = 1 10 個 11 個 [ 中学校数学 ] F 点から G 点への変化でみると ( 中学校数学 ) 限界費用 (MC) は MC = 42 円 = = 42 円 1 個 [ 高校数学 ] F 点からの生産量の変化を限りなくゼロに近付ける ( 微小変化分 )( 0) 傾きを捉える 三角形 は次第に小さくなっていき 微小な変化が生じたときの 傾きは 接線の傾きの大きさ ( ) に近似する
11 ちなみに y = 2+10( 一次関数 ) を で微分すると 公式 y = 1 2 1-1 +0 = 2 0 = 1 y y = 2+10 10 傾き = 2 ~ 計算練習 ~ 平均費用 (C) 平均可変費用 (VC) 限界費用 (MC) を計算してみよう 企業の短期費用関数 : = 1 q 3-7 q 2 +10q+25 3 2 C = q 1 7 = q 2 - q+10+ 3 2 25 q VC = VC q 1 7 = q 2 - q+10 3 2 MC = q 1 = 3 7 q 3-1 -2 q 2-1 +10q 1-1 +0 3 2 = q 2-7q+10
12 (4) C 曲線 VC 曲線 MC 曲線の対応関係 H F 各費用の 最低値 に注目する! H F C VC MC MC C VC C 最低値 b VC 最低値 h f H F 平均費用曲線 (C) の最低点 (b 点 ) で 平均費用曲線 (C) と限界費用曲線 (MC) は交わる (C=MC) 平均可変費用曲線 (VC) の最低点 (f 点 ) で 平均可変費用曲線 (VC) と限界費 用曲線 (MC) は交わる (VC=MC)
13 最低限解くべき問題 番号 1 回目 2 回目 コメント 001 / / C VC MC の 3 つの曲線を描きながら考えること 002 / / 同上 003 / / 下記の説明と 解説 の分かりやすい方で押さえて下さい ~ 練習問題 ~ (V 問題集 003) 図は ある企業の短期総費用を表したものである この企業は 可変的生産要素と固定的生産要素を用いて ある財を生産している この図に関する次の記述のうち 妥当なのはどれか なお 図において 短期総費用曲線は半直線である 短期総費用 短期総費用曲線 財の生産量 1. 生産量がゼロのとき 平均費用と平均可変費用はそれぞれ最も小さくなっている 2. 生産量が増えるにしたがって 限界費用は逓増し 平均可変費用は逓減している 3. 生産量が増えるにしたがって 限界費用は逓減し 平均費用は逓増している 4. 生産量の大きさにかかわらず 限界費用は平均費用を上回っている 5. 生産量の大きさにかかわらず 限界費用は平均可変費用と等しい 一般的な短期総費用曲線 (= 短期費用関数 ) の形状は 縦軸に切片をもった 逆 S 字型 ですが 本問では 右上がりの直線 になっています ちょっとした応用問題ですが 各費用概念の図形的なとらえ方は変わりありません なお 解説 では式を立てて説明を行っていますが 以下に示すように与えられたグラフから図形的に考えてもかまいません 平均費用 限界費用 平均可変費用に分けて考えてみましょう
14 1 平均費用 (C) 平均費用は 原点 きます から 総費用曲線上の任意の点に引いた直線の傾きの大きさとして示すことがで 今 3 通りの生産水準を考えます 生産量が 0 のときには 平均費用は線分 の傾きの大きさ になります 同様に 生産量が 1 のときには線分 の傾きの大きさ 2 のときには線分 C の 傾きの大きさとなります ここで生産量が次第に拡大していくと仮定します 原点から引いた直線の傾きの大きさは 次第 に小さくなっていく (= 逓減 ) ことが分かります 短期総費用 C 短期総費用曲線 0 1 2 財の生産量 2 限界費用 (MC) 限界費用は 総費用曲線上の任意の点における接線の傾き の大きさとして示すことができます 以下の図 ( 次ページ ) における C の各点で接線をとると どこも総費用曲線と接線が重な ってしまい 総費用曲線の傾きと接線の傾きが同じ大きさで一致することが分かります 総費用曲 線が直線であるためです つまり 生産量が増加したとしても 接線の傾きは常に一定であり 限 界費用は変化しないことを示しているのです ( 肢 2 3 は誤り ) また 限界費用と平均費用の大きさを比較してみると 何れの生産量においても平均費用よりも 限界費用の方が小さくなっていることが分かります ( 肢 4 は誤り )
15 短期総費用 C 短期総費用曲線 0 1 2 財の生産量 3 平均可変費用 (VC) 平均可変費用は 縦軸の切片 すことができます から 総費用曲線上の任意の点に引いた直線の傾きの大きさとして示 以下の図における C の各点に切片から直線を引こうとすると 総費用曲線そのものが切 片から引かれた直線であるために 切片からの直線と総費用曲線が重なってしまいます これは 生産量が増加したとしても切片からの直線の傾きに変化はなく 平均可変費用は変化しないことを 示しているのです また 平均可変費用は総費用曲線の傾きと常に一致するので 2 の説明より平均可変費用と限界 費用も常に一致することになります ( 肢 5 が正解 ) 短期総費用 C 短期総費用曲線 0 1 2 財の生産量 以上