首都大学東京 新技術説明会 日時 : 平成 27 年 9 月 25 日 ( 金 ) 場所 :JST 東京別館ホール ノイズ耐性フリップフロップの開発と 信頼性要求電子機器への応用可能性 首都大学東京システムデザイン研究科情報通信システム学域 教授 三浦幸也
本研究課題の背景 (1/2) ( 従来技術とその問題点 ) LSI の微細化 高速化 低電圧化 - ノイズマージンの低下化 - ノイズ ( ソフトエラー, クロストーク ) の影響 - 同期式回路 ( フリップフロップ (FF)) への影響 ノイズによる誤動作の発生 素子ばらつき トランジスタ劣化 - 組合せ回路の遅延への影響 - タイミングエラー ( 遅延故障 ) の発生 FF が正しい値を取込めない ( 誤動作の発生 ) 2
本研究課題の背景 (2/2) ( 従来技術とその問題点 ) FF のノイズ対策 (1) 多重データサンプル法 : 複数タイミングのデータ取込み (2) 多重冗長化法 : 複数 FFのデータ比較 (3) ノイズ低減化法 : マスク, フィルタ効果による振幅低減 時間的 空間的冗長化によるコスト増大, ノイズの完全ブロックの困難さ 信号遅延検知 訂正 (4) 2 重化 FFの活用 :Razor, anary FFなど 冗長化によるコスト増大, 訂正機構の付加回路の実現 3
考案技術の目的 基本的立場 - ノイズ等は意図せずに突発的に発生 ( 事前予測は困難 ) ノイズ等が発生しても正常動作を保証できる設計が有効 正常動作を保証する積極的アプローチ 目的安全 安心 高信頼性 - ディペンダブル設計によるノイズ対策 - 正当な信号を確保できるデータサンプリング方法 - 従来設計に適用可能な実装 - 対象回路 : マスタースレーブ FF( 同期式回路 ) - ノイズ : データ信号線に発生 ( クロストークも含む ) 4
通常のマスタースレーブ FF (MS-FF) - =0: TG1=on, マスターラッチ動作 (D 入力サンプリング ) - =1: TG3=on, スレーブラッチ動作 ( 値の保持 ) -=0 の期間の最後の D 入力値をサンプリング 保持クロックエッジ近傍にノイズ発生 : マスタ スレーブにノイズ D 信号が伝搬 TG1 QM MS-FF の動作 TG3 Q D QM ノイズ マスターラッチスレーブラッチ Q エラー 5
ノイズパルス データとノイズ - データ : 継続時間が十分長い信号 FF のタイミング制約条件 (tsu & th) を満足 - ノイズ : 継続時間の短いパルス状の信号 FF のタイミング制約条件を満たさない信号 正当なデータ信号 D N tsu th 時間制約を満たさない信号に FF が反応したとき, FF は誤動作する. ノイズ N N tsu: セットアップ時間 th: ホールド時間 6
ノイズ対策 MS-FF (1/3) 基本的考え方 - マスターラッチ内でデータの継続時間を監視 - 正当なデータ信号の場合, 入力値を取込んで, スレーブラッチに信号を伝搬 - ノイズの場合, 前状態 ( スレーブラッチの値 ) を保持 D マスターラッチ スレーブラッチ Q 7
ノイズ対策 MS-FF (2/3) 原理 - マスターラッチに 2 回目のサンプリングを付加 (2 回のデータ取込み ) - 両者のデータの一致 不一致の比較 信号継続の判断 - 正当な信号の場合, スレーブラッチに信号を伝搬 1 回目のサンプリング (origin) (1) (2) (3) (4) D QM 2 回目のサンプリング (addition) Q Data Noise ノイズブロック 8
ノイズ対策 MS-FF (3/3) 特徴 - D@1st = D@2nd 正当データ スレーブラッチに転送 - D@1st D@2nd ノイズ ブロック ( 出力は前の値を保持 ) - 警告信号 (D@1st D@2nd) - 付加信号不要 1st 2nd sampling sampling Q W (1) 1 1 1 0 (2) 0 0 0 0 (3) 1 0 Hold 1 (4) 1 1 1 0 9
(1) 2 回目のサンプリングタイミングの内部生成 (2) 2 回目のサンプリング機構 実現に必要な機能 (3) 2 個のサンプルされた値の比較 (4) スレーブラッチへのデータ転送の判定 マスターラッチ :(1)-(4) の機能の付加が必要 - 通常の MS-FF に上記機能を追加 スレーブラッチ : 通常のものと同一 - スレーブラッチはデータの保持 出力の役割 10
ブロック図 -1 回目のサンプル : 通常のマスターラッチ, 元のクロック使用 -2 回目のサンプル : 入力信号, 内部生成クロックパルス (p) - 保持, 比較, 出力判定 : - 素子 D 2 回目サンプル 実装例 1 (1/2) Master 1 回目サンプル 比較, 判定 QM -elem. p Pulse gen. DS 付加回路 Slave Q - 素子 D QM DS 0 0 0 0 1 No change 1 0 (previous sate) 1 1 1 11
実装例 1 (2/2) 機能 - D@1st = D@2nd: 入力信号 スレーブラッチに伝送 - D@1st D@2nd: 入力信号 スレーブラッチブロック & 前の値の保持 1st 2nd QM D Q W (1) 1 1 1 0 (2) 0 0 0 0 (3) 1 0 Hold 1 (4) 0 1 Hold 1 12
ブロック図 実装例 2-1 回目のサンプル : 通常のマスターラッチ, 元のクロック使用 -2 回目のサンプル : 付加マスターラッチ, 遅延クロック (d) - 保持, 比較, 出力判定 : - 素子 1 回目サンプル D Master1 QM1 2 回目サンプル Master2 d QM2 -elem. DS 比較, 判定 Slave 付加回路 Q 13
シミュレーション結果 (1/3) 条件 - TSM 0.18 m, VDD=1.8V - 基本機能の確認 p D Q W 1.0V 0V 1.0V 0V 1.0V 0V 1.0V 0V 1.0V SEL>> V(10) V(90) V(11) V(70) D=1 Noise Noise Noise D=0 block D=0 D=1 D=0 0s 4ns 8ns 12ns 16ns 20ns 24ns 28ns V(161) Time 14
シミュレーション結果 (2/3) 性能 - 非 2 重化 FF: 少数トランジスタ, 低消費 -- 素子 : トランジスタ幅大, 低速 改善の必要 - エネルギー遅延積 (ED 積 ) : 類似法と同等 Impl 1 Impl 2 Razor canary MS-FF # trs. 32 42 62 46 22 total tr. W W [ m] 110.95 129.80 137.35 88.30 42.00 propagation tpq [ns] 0.577 0.599 0.280 0.254 0.169 delay energy E [pw] 0.721 1.060 1.879 1.516 0.398 min. period T [ns] 0.718 0.740 0.431 0.398 0.302 ED product E*D 0.416 0.635 0.526 0.385 0.067 [pw*ns] 15
シミュレーション結果 (3/3) ノイズブロック性能 -2 回目のサンプリングタイミングに依存 (tsu+th+tb) - 遅い 2 回目タイミング 幅の広いノイズをブロック, 速度の 低下 (2 回目タイミングによる遅延 ) 2 回目サンプル & 出力タイミング N1 N2 N3 tsu th tb ブロックされるノイズ幅 Blocked noise width [ns] 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 Impl 1 Impl 2 0.0 0.4 0.8 1.2 1.6 2.0 2nd sampling time [ns] 16
応用例 (1/2) 遅延故障検出 & 信号訂正 - D@1st D@2nd: 警告信号 遅延故障 ( 信号遅延 ) の検出 - ノイズ : 前の値を保持 本来の信号の反転値を出力 - 反転値 = 遅延した信号値 遅延信号の訂正 2nd D Q W 1st 遅延ノイズブロック検出 反転 Q 訂正 17
応用例 (2/2) ブロック図 D DOMS-FF 警告回路 Q W 遅延訂正 XOR Qc 遅延回路 遅延検知 信号訂正 (Q の反転 / 非反転 ) - クロック同期の XOR - W=0: Qc=Q ( 非反転 ) - W=1: Qc=QB( 反転 ) W Q d db Qc 18
新技術の特徴 ( 従来技術との比較 ) ノイズによりマスタースレーブ FF で誤動作発生 従来法の多くは空間的 時間的冗長構成 回路規模, 消費電力の問題 従来型のマスタースレーブFFに信号継続時間の検知機能を追加 付加信号なしでノイズをブロックできるマスタースレーブFFを実現 従来回路に置き換え可能 19
ノイズ対策回路として : 想定される用途 ボード回路, 電子回路への適用 高信頼性要求分野への適用例 : 信号システム, 医療分野, ノイズの多い環境 応用例として : 遅延検知 訂正に特化した回路 20
実用化に向けた課題 消費電力 - 内部クロックによるスイッチング増加 - 消費電力増加の可能性, ただし動作速度に依存 - 消費電力 vs. 動作速度の評価の必要 動作速度 - クロックパルス幅 ノイズブロック性能 -1 周期 ( 時間 ) の増加の可能性 - 素子の改善 - 性能 ( ノイズブロック, 信号訂正 ) vs. 動作速度の関係評価 - 信号遅延訂正の処理時間 21
企業に期待すること ( 連携, 共同研究 ) ノイズ対策の基本機能は実現できたが... 回路開発メーカー - 提案 FF の具体的な実装方法 -FPGA による実現方法 - 性能評価 装置メーカー - 適用可能分野の検討 ニーズ - 実装置での有効性確認 22
関連する知的財産権 学術文献 学術文献 Yukiya Miura and Yoshihiro Ohkawa, A Noise-tolerant Master-slave Flip-flop, Proc. IEEE 20th International On-Line Testing Symposium, pp.55-61, July 2014. 知的財産権 発明の名称 : マスタースレーブ型のフリップフロップ装置 出願番号 :2014-012955 出願人 : 公立大学法人首都大学東京 発明者 : 三浦幸也 23
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