2015 年 7 月 8 日放送 抗 MRS 薬 最近の進歩 昭和大学内科学臨床感染症学部門教授二木芳人はじめに MRSA 感染症は 今日においてももっとも頻繁に遭遇する院内感染症の一つであり また時に患者状態を反映して重症化し そのような症例では予後不良であったり 難治化するなどの可能性を含んだ感

Similar documents
第 88 回日本感染症学会学術講演会第 62 回日本化学療法学会総会合同学会採択演題一覧 ( 一般演題ポスター ) 登録番号 発表形式 セッション名 日にち 時間 部屋名 NO. 発表順 一般演題 ( ポスター ) 尿路 骨盤 性器感染症 1 6 月 18 日 14:10-14:50 ア

耐性菌届出基準

ン (LVFX) 耐性で シタフロキサシン (STFX) 耐性は1% 以下です また セフカペン (CFPN) およびセフジニル (CFDN) 耐性は 約 6% と耐性率は低い結果でした K. pneumoniae については 全ての薬剤に耐性はほとんどありませんが 腸球菌に対して 第 3 世代セフ

抗菌薬の殺菌作用抗菌薬の殺菌作用には濃度依存性と時間依存性の 2 種類があり 抗菌薬の効果および用法 用量の設定に大きな影響を与えます 濃度依存性タイプでは 濃度を高めると濃度依存的に殺菌作用を示します 濃度依存性タイプの抗菌薬としては キノロン系薬やアミノ配糖体系薬が挙げられます 一方 時間依存性

2011 年 11 月 2 日放送 NHCAP の概念 長崎大学病院院長 河野茂 はじめに NHCAP という言葉を 初めて聴いたかたもいらっしゃると思いますが これは Nursing and HealthCare Associated Pneumonia の略で 日本語では 医療 介護関連肺炎 と

通常の市中肺炎の原因菌である肺炎球菌やインフルエンザ菌に加えて 誤嚥を考慮して口腔内連鎖球菌 嫌気性菌や腸管内のグラム陰性桿菌を考慮する必要があります また 緑膿菌や MRSA などの耐性菌も高齢者肺炎の患者ではしばしば検出されるため これらの菌をカバーするために広域の抗菌薬による治療が選択されるこ

<4D F736F F D D8ACC8D6495CF8AB38ED282CC88E397C38AD698418AB490F58FC782C982A882A282C48D4C88E E B8

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

15,000 例の分析では 蘇生 bundle ならびに全身管理 bundle の順守は, 各々最初の 3 か月と比較し 2 年後には有意に高率となり それに伴い死亡率は 1 年後より有意の減少を認め 2 年通算で 5.4% 減少したことが報告されています このように bundle の merit

第11回感染制御部勉強会 『症例から考える抗MRSA治療薬の使い方』

2012 年 2 月 29 日放送 CLSI ブレイクポイント改訂の方向性 東邦大学微生物 感染症学講師石井良和はじめに薬剤感受性試験成績を基に誰でも適切な抗菌薬を選択できるように考案されたのがブレイクポイントです 様々な国の機関がブレイクポイントを提唱しています この中でも 日本化学療法学会やアメ

Microsoft Word - JAID_JSC 2014 正誤表_ 原稿

割合が10% 前後となっています 新生児期以降は 4-5ヶ月頃から頻度が増加します ( 図 1) 原因菌に関しては 本邦ではインフルエンザ菌が原因となる頻度がもっとも高く 50% 以上を占めています 次いで肺炎球菌が20~30% と多く インフルエンザ菌と肺炎球菌で 原因菌の80% 近くを占めていま

づけられますが 最大の特徴は 緒言の中の 基本姿勢 でも述べられていますように 欧米のガイドラインを踏襲したものでなく 日本の臨床現場に則して 活用しやすい実際的な勧告が行われていることにあります 特に予防抗菌薬の投与期間に関しては 細かい術式に分類し さらに宿主側の感染リスクも考慮した上で きめ細

スライド 1

よる感染症は これまでは多くの有効な抗菌薬がありましたが ESBL 産生菌による場合はカルバペネム系薬でないと治療困難という状況になっています CLSI 標準法さて このような薬剤耐性菌を患者検体から検出するには 微生物検査という臨床検査が不可欠です 微生物検査は 患者検体から感染症の原因となる起炎

染症であり ついで淋菌感染症となります 病状としては外尿道口からの排膿や排尿時痛を呈する尿道炎が最も多く 病名としてはクラミジア性尿道炎 淋菌性尿道炎となります また 淋菌もクラミジアも検出されない尿道炎 ( 非クラミジア性非淋菌性尿道炎とよびます ) が その次に頻度の高い疾患ということになります

2012 年 2 月 22 日放送 人工関節感染の治療 近畿大学整形外科講師西坂文章はじめに感染人工関節の治療について解説していきます 人工関節置換術は整形外科領域の治療に於いて 近年めざましい発展を遂げ 普及している分野です 症例数も年々増加の傾向にあります しかし 合併症である術後感染が出現すれ

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

(案の2)

褥瘡発生率 JA 北海道厚生連帯広厚生病院 < 項目解説 > 褥瘡 ( 床ずれ ) は患者さまのQOL( 生活の質 ) を低下させ 結果的に在院日数の長期化や医療費の増大にもつながります そのため 褥瘡予防対策は患者さんに提供されるべき医療の重要な項目の1 つとなっています 褥瘡の治療はしばしば困難

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

70 例程度 デング熱は最近増加傾向ではあるものの 例程度で推移しています それでは実際に日本人渡航者が帰国後に診断される疾患はどのようなものが多いのでしょうか 私がこれまでに報告したデータによれば日本人渡航者 345 名のうち頻度が高かった疾患は感染性腸炎を中心とした消化器疾患が

2012 年 11 月 21 日放送 変貌する侵襲性溶血性レンサ球菌感染症 北里大学北里生命科学研究所特任教授生方公子はじめに b 溶血性レンサ球菌は 咽頭 / 扁桃炎や膿痂疹などの局所感染症から 髄膜炎や劇症型感染症などの全身性感染症まで 幅広い感染症を引き起こす細菌です わが国では 急速な少子

2012 年 1 月 25 日放送 歯性感染症における経口抗菌薬療法 東海大学外科学系口腔外科教授金子明寛 今回は歯性感染症における経口抗菌薬療法と題し歯性感染症からの分離菌および薬 剤感受性を元に歯性感染症の第一選択薬についてお話し致します 抗菌化学療法のポイント歯性感染症原因菌は嫌気性菌および好

TDMを活用した抗菌薬療法

2017 年 2 月 1 日放送 ウイルス性肺炎の現状と治療戦略 国立病院機構沖縄病院統括診療部長比嘉太はじめに肺炎は実地臨床でよく遭遇するコモンディジーズの一つであると同時に 死亡率も高い重要な疾患です 肺炎の原因となる病原体は数多くあり 極めて多様な病態を呈します ウイルス感染症の診断法の進歩に


公開情報 2016 年 1 月 ~12 月年報 院内感染対策サーベイランス集中治療室部門 3. 感染症発生率感染症発生件数の合計は 981 件であった 人工呼吸器関連肺炎の発生率が 1.5 件 / 1,000 患者 日 (499 件 ) と最も多く 次いでカテーテル関連血流感染症が 0.8 件 /

は減少しています 膠原病による肺病変のなかで 関節リウマチに合併する気道病変としての細気管支炎も DPB と類似した病像を呈するため 鑑別疾患として加えておく必要があります また稀ではありますが 造血幹細胞移植後などに併発する移植後閉塞性細気管支炎も重要な疾患として知っておくといいかと思います 慢性

一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

1. はじめに ステージティーエスワンこの文書は Stage Ⅲ 治癒切除胃癌症例における TS-1 術後補助化学療法の予後 予測因子および副作用発現の危険因子についての探索的研究 (JACCRO GC-07AR) という臨床研究について説明したものです この文書と私の説明のな かで わかりにくいと

情報提供の例

Q&A(最終)ホームページ公開用.xlsx

中医協総会の資料にも上記の 抗菌薬適正使用支援プログラム実践のためのガイダンス から一部が抜粋されていることからも ガイダンスの発表は時機を得たものであり 関連した8 学会が共同でまとめたという点も行政から高評価されたものと考えられます 抗菌薬の適正使用は 院内 と 外来 のいずれの抗菌薬処方におい

も 医療関連施設という集団の中での免疫の度合いを高めることを基本的な目標として 書かれています 医療関係者に対するワクチン接種の考え方 この後は 医療関係者に対するワクチン接種の基本的な考え方について ワクチン毎 に分けて述べていこうと思います 1)B 型肝炎ワクチンまず B 型肝炎ワクチンについて

(2) レパーサ皮下注 140mgシリンジ及び同 140mgペン 1 本製剤については 最適使用推進ガイドラインに従い 有効性及び安全性に関する情報が十分蓄積するまでの間 本製剤の恩恵を強く受けることが期待される患者に対して使用するとともに 副作用が発現した際に必要な対応をとることが可能な一定の要件

H26大腸がん

57巻S‐A(総会号)/NKRP‐02(会長あいさつ)

医療法人高幡会大西病院 日本慢性期医療協会統計 2016 年度

抗MRSA薬の新規使用患者のまとめ

PowerPoint プレゼンテーション

2009年8月17日

抗菌薬と細菌について。

頭頚部がん1部[ ].indd

2015 年 9 月 30 日放送 カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE) はなぜ問題なのか 長崎大学大学院感染免疫学臨床感染症学分野教授泉川公一 CRE とはカルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症 以下 CRE 感染症は 広域抗菌薬であるカルバペネム系薬に耐性を示す大腸菌や肺炎桿菌などの いわゆる

抗菌薬の適正使用に向けた8学会提言 抗菌薬適正使用支援(Antimicrobial Stewardship ; AS)プログラム推進のために

臨床研究の概要および研究計画

平成 28 年度感染症危機管理研修会資料 2016/10/13 平成 28 年度危機管理研修会 疫学調査の基本ステップ 国立感染症研究所 実地疫学専門家養成コース (FETP) 1 実地疫学調査の目的 1. 集団発生の原因究明 2. 集団発生のコントロール 3. 将来の集団発生の予防 2 1

2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にあります

Microsoft Word _ソリリス点滴静注300mg 同意説明文書 aHUS-ICF-1712.docx

PowerPoint プレゼンテーション

データの取り扱いについて (原則)

に 真菌の菌体成分を検出する血清診断法が利用されます 血清 βグルカン検査は 真菌の細胞壁の構成成分である 1,3-β-D-グルカンを検出する検査です ( 図 1) カンジダ属やアスペルギルス属 ニューモシスチスの細胞壁にはβグルカンが豊富に含まれており 血液検査でそれらの真菌症をスクリーニングする

Microsoft Word - <原文>.doc

資料2 ゲノム医療をめぐる現状と課題(確定版)

それでは具体的なカテーテル感染予防対策について説明します CVC 挿入時の感染対策 (1)CVC 挿入経路まずはどこからカテーテルを挿入すべきか です 感染率を考慮した場合 鎖骨下穿刺法が推奨されています 内頚静脈穿刺や大腿静脈穿刺に比べて カテーテル感染の発生頻度が低いことが証明されています ただ

スライド 1

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

日本内科学会雑誌第98巻第12号

161013_pamph_hp

緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa グラム陰性桿菌 ブドウ糖非発酵 緑色色素産生 水まわりなど生活環境中に広く常在 腸内に常在する人も30%くらい ペニシリンやセファゾリンなどの第一世代セフェム 薬に自然耐性 テトラサイクリン系やマクロライド系抗生物質など の抗菌薬にも耐性を示す傾

CQ1: 急性痛風性関節炎の発作 ( 痛風発作 ) に対して第一番目に使用されるお薬 ( 第一選択薬と言います ) としてコルヒチン ステロイド NSAIDs( 消炎鎮痛剤 ) があります しかし どれが最適かについては明らかではないので 検討することが必要と考えられます そこで 急性痛風性関節炎の


2006 年 3 月 3 日放送 抗菌薬の適正使用 市立堺病院薬剤科科長 阿南節子 薬剤師は 抗菌薬投与計画の作成のためにパラメータを熟知すべき 最初の抗菌薬であるペニシリンが 実質的に広く使用されるようになったのは第二次世界大戦後のことです それまで致死的な状況であった黄色ブドウ球菌による感染症に

indd

シプロフロキサシン錠 100mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにシプロフロキサシン塩酸塩は グラム陽性菌 ( ブドウ球菌 レンサ球菌など ) や緑膿菌を含むグラム陰性菌 ( 大腸菌 肺炎球菌など ) に強い抗菌力を示すように広い抗菌スペクトルを

虎ノ門医学セミナー

10050 WS2-3 ワークショップ P-129 一般演題ポスター症例 ( 感染症 ) P-050 一般演題ポスター症例 ( 合併症 )9 11 月 28 日 ( 土 ) 18:40~19:10 6 分ポスター会場 2F 桜 P-251 一般演題ポスター療

第1回肝炎診療ガイドライン作成委員会議事要旨(案)

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

< F2D C D838A8BDB92CA926D2E6A7464>

「手術看護を知り術前・術後の看護につなげる」

未承認薬 適応外薬の要望に対する企業見解 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 会社名要望された医薬品要望内容 CSL ベーリング株式会社要望番号 Ⅱ-175 成分名 (10%) 人免疫グロブリン G ( 一般名 ) プリビジェン (Privigen) 販売名 未承認薬 適応 外薬の分類

蘇生をしない指示(DNR)に関する指針

要望番号 ;Ⅱ-286 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 要望者 ( 該当するものにチェックする ) 学会 ( 学会名 ; 特定非営利活動法人日本臨床腫瘍学会 ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 優先順位 33 位 ( 全 33 要望

2. 平成 9 年遠隔診療通知の 別表 に掲げられている遠隔診療の対象及び内 容は 平成 9 年遠隔診療通知の 2 留意事項 (3) イ に示しているとお り 例示であること 3. 平成 9 年遠隔診療通知の 1 基本的考え方 において 診療は 医師又は歯科医師と患者が直接対面して行われることが基本

Microsoft Word - todaypdf doc

売れる! インターネット活用術 < 第 3 回 > SEO の基礎知識 株式会社スプラム 代表取締役竹内幸次 ( 中小企業診断士 ) SEO で新規顧客を導く 世界一の検索サイト Google で http とだけ入力して検索すると 252 億ページがヒットします ( 見つかります ) 日本語のペー

抗ヒスタミン薬の比較では 抗ヒスタミン薬は どれが優れているのでしょう? あるいはどの薬が良く効くのでしょうか? 我が国で市販されている主たる第二世代の抗ヒスタミン薬の臨床治験成績に基づき 慢性蕁麻疹に対する投与 2 週間後の効果を比較検討すると いずれの薬剤も高い効果を示し 中でもエピナスチンなら

未承認の医薬品又は適応の承認要望に関する意見募集について

ROCKY NOTE 食物アレルギー ( ) 症例目を追加記載 食物アレルギー関連の 2 例をもとに考察 1 例目 30 代男性 アレルギーについて調べてほしいというこ

精神科専門・様式1

査を実施し 必要に応じ適切な措置を講ずること (2) 本品の警告 効能 効果 性能 用法 用量及び使用方法は以下のとお りであるので 特段の留意をお願いすること なお その他の使用上の注意については 添付文書を参照されたいこと 警告 1 本品投与後に重篤な有害事象の発現が認められていること 及び本品

2014 年 10 月 30 日放送 第 30 回日本臨床皮膚科医会② My favorite signs 9 ざらざらの皮膚 全身性溶血連鎖球菌感染症の皮膚症状 たじり皮膚科医院 院長 田尻 明彦 はじめに 全身性溶血連鎖球菌感染症は A 群β溶連菌が口蓋扁桃や皮膚に感染することにより 全 身にい

資料 3 1 医療上の必要性に係る基準 への該当性に関する専門作業班 (WG) の評価 < 代謝 その他 WG> 目次 <その他分野 ( 消化器官用薬 解毒剤 その他 )> 小児分野 医療上の必要性の基準に該当すると考えられた品目 との関係本邦における適応外薬ミコフェノール酸モフェチル ( 要望番号

こうすればうまくいく! 薬剤師による処方提案

PowerPoint プレゼンテーション

がんの診療の流れ この図は がんの 受診 から 経過観察 への流れです 大まかでも 流れがみえると心にゆとりが生まれます ゆとりは 医師とのコミュニケーションを後押ししてくれるでしょう あなたらしく過ごすためにお役立てください がんの疑い 体調がおかしいな と思ったまま 放っておかないでください な

ビジネスパーソン外飲み事情

<4D F736F F F696E74202D202888F38DFC AB38ED28FEE95F182CC8BA4974C82C98AD682B782E B D B2E >

2. 延命措置への対応 1) 終末期と判断した後の対応医療チームは患者および患者の意思を良く理解している家族や関係者 ( 以下 家族らという ) に対して 患者が上記 1)~4) に該当する状態で病状が絶対的に予後不良であり 治療を続けても救命の見込みが全くなく これ以上の措置は患者にとって最善の治

助成研究演題 - 平成 27 年度国内共同研究 (39 歳以下 ) 改良型 STOPP を用いた戦略的ポリファーマシー解消法 木村丈司神戸大学医学部附属病院薬剤部主任 スライド 1 スライド 2 スライド1, 2 ポリファーマシーは 言葉の意味だけを捉えると 薬の数が多いというところで注目されがちで

日産婦誌58巻9号研修コーナー

葉酸とビタミンQ&A_201607改訂_ indd

ども これを用いて 患者さんが来たとき 例えば頭が痛いと言ったときに ではその頭痛の程度はどうかとか あるいは呼吸困難はどの程度かということから 5 段階で緊急度を判定するシステムになっています ポスター 3 ポスター -4 研究方法ですけれども 研究デザインは至ってシンプルです 導入した前後で比較

2.7.3(5 群 ) 呼吸器感染症臨床的有効性グレースビット 錠 細粒 表 (5 群 )-3 疾患別陰性化率 疾患名 陰性化被験者数 / 陰性化率 (%) (95%CI)(%) a) 肺炎 全体 91/ (89.0, 98.6) 細菌性肺炎 73/ (86

< F2D817988C482C682EA94C5817A895E97708E77906A2E6A7464>

Taro-プレミアム第66号PDF.jtd

Transcription:

2015 年 7 月 8 日放送 抗 MRS 薬 最近の進歩 昭和大学内科学臨床感染症学部門教授二木芳人はじめに MRSA 感染症は 今日においてももっとも頻繁に遭遇する院内感染症の一つであり また時に患者状態を反映して重症化し そのような症例では予後不良であったり 難治化するなどの可能性を含んだ感染症でもあります 従って その診断と治療を考える場合 的確な早期診断と適切な抗菌薬療法 および宿主状態に応じた十分な支持療法が必要になります MRSA 感染症の診断と患者状態の把握我が国で臨床医が遭遇する MRSA 感染症の多くは日和見感染的なものであり 何らかの感染発症のリスク因子を有する場合が多いので 抗菌薬療法に加えて そのようなリスク因子の排除も重要な治療の要素となります すなわち 基礎疾患として存在する糖尿病のコントロールや呼吸 循環器系疾患の治療 あるいはカテーテル留置症例ではその抜去や差し換えなどが抗 MRSA 薬の選択と投与と同様に患者の治癒には重要であることを意識しておく必要があります 今一つ MRSA 感染症で専門医として相談を受ける場合 よく思うことであらかじめ担当医の方々に知っておいていただきたいことは MRSA 感染症の診断が正しいかどうかを確認していただきたいということです 培養検査は繰り返し行っていただいて 感染巣や病原菌である MRSA の薬剤感受性などを把握しておくことは 治療を行う場合に最も重要な要素となります 抗 MRSA 薬も全く耐性がないわけではありません 同時に患者状態の把握が重要であることはすでに述べたとおりです 患者状態や感染病原菌を的確に把握せずに治療を考えることは 装備不十分で冬山登山をするほどに無謀なことです MRSA 感染症の診断で 特に留意していただきたいことは 血液培養の積極的な実施

と 喀痰培養で陽性となった MRSA の臨床判断です 前者は言うまでもなく敗血症や感染性心内膜炎の診断に直接関連することですから 繰り返し それも 2 セット以上で実施して原因菌の把握に努めてください しばしば培養も行わずに経験的治療として抗 MRSA 薬が使用されているようなケースに遭遇しますが とんでもないことです 好中球減少状態の不明熱 いわゆる FN などでは昨今 VCM の経験的治療は認められてはいますが 当然培養検査の実施がなされなければ FN とも言えません 培養を実施したのちに 経験的治療を開始してください 逆に喀痰培養からの MRSA の培養陽性は 多くの場合 おそらく 80% 以上は単なる保菌であると考えられます 従って 患者状態や喀痰グラム染色での貪食像の有無あるいは菌数など 幾つかの情報から総合的に判断しなければなりません 培養結果のみを見て 短絡的に抗 MRSA 薬を使うことは不必要な使用となる場合が多く 耐性化や本来生じるものではない副作用の元凶になります しかし その判断は必ずしも容易ではありません 適当な判断をすることなく 早期に専門医に相談することをお勧めします 抗 MRSA 薬の特徴と使用状況さて 前置きが長くなりましたが 感染症の診断と患者状態の把握が的確になされたという前提で 治療について考えてみましょう 現在抗 MRSA 薬として承認されているものは VCM TEIC ABK LZD そして最も新しい DAP の 5 種類があります 最近までの考え方では MRSA 感染症の診断がなされた場合 まず VCM あるいは同系統の TEIC を第一選択し それが無効あるいは副作用で使用できない場合の第二次選択として それ以外の抗 MRSA 薬の使用を検討する というのが一般的でした 事実 私どもの施設でも 主治医におまかせしていると 9 割ぐらいの症例でそのようになります さらに驚くべきことに VCM 無効例に用いられる第二次選択の抗 MRSA 薬で 最も使用頻度が高いのは なんと TEIC なのです 安全性の理由で変更したのならわか

るのですが VCM 無効例に同系統の TEIC を躊躇なく使う臨床医や薬剤師がいます このような方々は基礎からもっと勉強しなくてはいけません 無論 VCM も優れた抗 MRSA 薬で 半世紀以上前に発見され 我が国でも 1981 年から 30 数年にわたって使われてきた薬剤ですが 耐性菌出現はほとんど見られず 今でもそれなりの効果を期待できる力も維持されています しかし 昨今ではすでに述べたように VCM や TEIC 以外に いくつかの優れた抗 MRSA 薬が存在し それらがどのような特性を持っているか どのような感染症で あるいはどのような症例でその良さが発揮されるかは それぞれ 先生方も既にご存じではないかと思います それなのにとりあえず VCM を使ってみて それがうまくいかなかった場合に考えてみようでは あまりにも知恵がないとしか言いようがありません VCM は先にも述べたようにいい薬です しかし 弱点もあります 分子量が多くて組織移行性は一般に不良です 殺菌力はやや弱い部類に入ります 腎毒性があり 腎機能障害時には使いにくい薬です また TDM が必要で 適正投与量が保証されるのは 3 から 4 日後になります などなど 枚挙にいとまがありません 無論他の抗 MRSA 薬にも長所や短所があり いずれもそれひとつですべての感染症が賄える理想的な抗 MRSA 薬などはありません ですが 明らかに VCM ではなく 例えば当初から DAP を使うほうが良い結果が得られるだろうと 予想されるケースもあります 例えば血流感染症です 早期に殺菌的な DAP をまず使用することで 治療効果が高まり 治療期間の短縮ができるとする報告があります また DAP は TDM が不要ですので 3 日後に投与量が少ないとあわてることもありません くわえて DAP はバイオフィルム内の菌も殺菌する力が強いので カテーテルがどうしても抜けない あるいは人工物の除去ができないケースなどでも重宝します また 驚くべきことに VCM を先行投与し その後に DAP を使用する場合 DAP の感受性が VCM によって低下し DAP の有効性までが低下するとの報告もあります 従って やはりよい治療薬は早い時期に投与することが重要なのであります

また LZD は静菌的ですが 比較的安全性が高く 用量調整も不要です 組織移行性がきわめて高いこともこの薬剤の特性です 血流感染では DAP に一歩ゆずりますが 呼吸器感染症や整形外科領域感染症でその真骨頂を発揮します また VCM や TEIC あるいは ABK を用いる場合 TDM を実施しますが その考え方も若干変わってきており 以前のように安全性を担保するための TDM ではなく より理論的に治療効果を高めるための攻めの TDM が行われるようになっています このように昨今では それぞれの抗 MRSA 薬の特性を十分に理解して第一選択薬や経験的治療薬を選択すること あるいはその使用法についても理論的な裏付けが必要とされる などが当たり前に行われていることですし 臨床医や薬剤師には当然求められていることでもあるのです これらを怠ったために訴訟されてしまったケースをも私は知っています

治療ガイドライン本日は疾患ごとに詳細に触れる時間はありませんが 2013 年に日本感染症学会と日本化学療法学会が合同の委員会を立ち上げ作成した MRSA 感染症の治療ガイドラインにはそのことが詳細に記述されており どのような MRSA 感染症にはどのような薬剤を選択すべきか が解説されています 抗菌薬の TDM のガイドラインも公表されています 各々是非一読いただくことをお勧めします DAP のような新しい抗 MRSA 薬も登場しましたし 現在 LZD の後継薬の開発も国内で進んでいるようです また 欧米では市中感染型 MRSA が猛威を振るっており その治療薬としての抗 MRSA 薬開発も活発なようです しかし 市中感染型 MRSA が多くはない我が国で 開発が試みられている抗 MRSA 薬は殆どありません ただ やはり新しい抗菌薬の開発は以前に比べると停滞気味で 抗 MRSA 薬もその例外ではありません しかし いずれ現在の各種抗 MRSA 薬に耐性を示す MRSA が次々と登場してくることは避けられものではありません それを少しでも遅らせるために抗菌薬の適正使用が強く望まれる時代です 抗 MRSA 薬の選択や使用についても 十分な配慮や知恵を働かせ ガイドラインなども活用していただいて 患者さんにとって良い治療が行われるように心がけていただきたいと思います