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Transcription:

福武元良, 池邉一典 The association between oral function and nutrition intake in community-dwelling Japanese elderly people Motoyoshi Fukutake,Kazunori Ikebe 大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座有床義歯補綴学 高齢者歯科学分野 キーワード : 高齢者 口腔機能 栄養摂取 要旨高齢化が進む日本において どういった要因が健康長寿に関わっているかを明らかにすることは極めて重要であり 近年重要視されている問題である その中でも栄養摂取は高齢者の健康と関係が強く さらに口腔機能が栄養摂取と関係があるということは 過去の様々な研究から報告されている 現在我々は 70 歳以上の高齢者を対象とした SONIC Studyという文理融合型のコホート研究を行っており 心身の健康変化や死亡にどういった要因が関わっているかを検討している 本研究の調査データより 高齢者における口腔機能と栄養摂取との関係を分析した結果 現在歯数や咬合力 口腔感覚といった口腔機能が食品栄養摂取や BMI 体組成などと関連があることが明らかとなった 今後は縦断データも用いて口腔機能と栄養摂取や栄養状態との関係性を明らかにしていく はじめに近年高齢化が進んでいる日本において 平均寿命だけではなく 健康寿命を延伸させることが極めて重要となっている 高齢者の健康寿命の延伸に関わる要因としては様々なものがあるが その 著者連絡先 565-0871 大阪府吹田市山田丘 1-8 大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座有床義歯補綴学 高齢者歯科学分野福武元良 TEL:06-6879-2954 FAX:06-6879-2957 E-mail:m-fukutake@dent.osaka-u.ac.jp 受付日 :2017 年 11 月 13 日受理日 :2017 年 12 月 5 日 中でも栄養摂取は高齢者の健康に大きく関わっていると考えられている 栄養を摂取する際には 咀嚼や嚥下などの口腔機能が重要な役割を果たすのは当然であり 高齢者の口腔機能と栄養摂取や栄養状態との関連を調べることは なぜ口腔の健康が健康寿命の延伸に関わるのかを明らかにすることに繋がる これまでに 口腔機能と栄養摂取や栄養状態について様々な報告がなされている 1,2) が 今回は我々が行っているSONIC Studyのデータを用いて 両者の関係を明らかにした SONIC Study の概要現在我々が行っているコホート研究である SONIC Studyを紹介する この研究は ゲノム 53

から死生観まで をコンセプトとした研究であり 歯学だけではなく 栄養疫学 医学 心理学 社会学の研究者が 健康長寿に対する包括的アプローチを行っている文理融合型の研究である 医学の分野では 遺伝因子や 高血圧や糖尿病といった生活習慣病の有無 さらにはその治療歴や服薬状況などを 心理学 社会学の分野では 学歴や職業 経済状況といった社会経済学的因子の他に 認知機能や運動機能 性格などを調査している SONIC Studyでは 70 歳 (Septuagenarian) 80 歳 (Octogenarian) 90 歳 (Nonagenarian) の 10 歳間隔の各コホートと 100 歳以上 (Centenarian) の高齢者を対象とし 3 年ごとの長期縦断調査を行っている 本研究の参加者は自立した生活を送っている地域高齢者とし ベースライン時の各年齢群の参加者の人数は 70 歳群が 1000 名 80 歳群が 973 名 90 歳群が 272 名であった 調査は関東と関西で行っており それぞれ都市部と農村部の計 4か所の地域で調査している 最終的なアウトカムを心身の健康変化や死亡とし どのような要因がアウトカムにつながっていくかを調べるために 健康長寿に関連するさまざまなデータを収集している 歯科での調査では 歯と歯周組織の検査だけではなく 口腔機能の検査も行っている そのなかには 咬合力や舌圧の測定 咀嚼能率試験 反復唾液嚥下テストなどが含まれる また口腔感覚検 査として 口腔立体認知能 (OSA:Oral Stereognostic Ability) 試験を行っており 味覚検査では 4 基本味である甘味 酸味 塩味 苦味を検査している 調査項目の中でも 咬合力や咀嚼能率 舌圧 舌口唇運動機能などの口腔機能の検査は 今年度より老年歯科医学会で提唱された口腔機能低下症の診断にも用いられている検査項目になっている 栄養状態の評価に用いられる項目は BMIや上腕周囲径 下腿周囲径 体組成計を用いた筋肉量や体脂肪量といった体組成 血液検査による血清アルブミン値 簡易型自記式食事歴法質問票 (BDHQ: Brief-type Self-Administered Diet History Questionnaire) を用いた食品栄養摂取状態などである 食品栄養摂取状態の評価に用いている BDHQとは 過去 1か月間の各食品の摂取頻度を回答するものであり, 日本において一般的な 15 種類の食品群と各種栄養素について 1000kcalあたりの摂取量を算出することができるよう構造化された質問票である 分析には 1 年以内に食習慣を変更した人や 医師や栄養士の指導の下食事コントロールをしている人は除外している SONIC Study から明らかとなった口腔機能と栄養摂取 栄養状態との関係ベースライン時の各年齢群における歯数のデータを図 1に示す 一般に言われているように 本 図 1 ベースライン時の現在歯数の比較 54

研究の結果からも 年齢が高くなるほど現在歯数は少なくなることが明らかとなった SONIC Studyでは 70 歳で平均 20.7 本 80 歳で 15.6 本 90 歳で 9.6 本と現在歯数は減少していっていることが分かった また現在歯数は個人差が大きいことも特徴として挙げられる 例えば80 歳では 歯が 20 本以上ある人は 43.4% と半数弱を占めたのに対して 上下無歯顎の人も 16.3% いた さらに100 歳以上の方だけをみると 71.9% もの人が無歯顎となっていた 一方で ベースライン時の各年齢群の咬合力のデータをみてみると 70 歳に比べて 80 歳で約半分 90 歳で 3 分の 1と 現在歯数の減少と筋力の低下によって 咬合力は急激に減少していくことが分かった ( 図 2) さらに 200N 未満の参加者は 70 歳群で 17.6% 80 歳群で 36.6% 90 歳群で64.9% となっていた 76 歳の被験者 353 名を対象とし 現在歯数と体組成との関連を調べた 体組成計では骨格筋量や体脂肪量などを測定し 体脂肪率や BMI SMI (Skeletal Muscle Mass Index) を算出することが出来る SMIはサルコペニアの診断にも用いられるもので 骨格筋指数を表し 四肢骨格筋量を身長の 2 乗で割ったものである 分析には 性別を調整因子とした 偏相関係数を用いた 結果 残存歯数は 体脂肪率が負の相関をみとめ (p<0.05) たが BMIやSMIと有意な相関をみとめなかった 過去の研究からも 口腔機能の低下により炭水化物中心の食事になり 肥満になると言われている 3) 今回の結果からも 現在歯数の減少により炭水化物中心の食事となり 体脂肪率が増加していくことが示唆された 低栄養のスクリーニングにも用いられるBMIと咬合力との関連を調べた 咬合力を各年齢群 男女別で高位群 ( 上位 75%) と低位群 ( 下位 25%) に分け BMIについては70 歳以上の目標範囲とされている 21.5から 24.9の者を適正群 21.5 未満の者を痩せ群 25 以上の者を肥満群とした 咬合力とBMIとの関連を調べるためにカイ二乗分析を行なった ( 図 3) ところ 70 歳群では高位群と比較して 低位群になると適正群の割合が減少し 痩せ群と肥満群の割合がわずかに増加していた 80 歳群では 咬合力低位群で痩せ群の割合が同様に増加しており さらに90 歳群では痩せ群の増加傾向が顕著になっていた どの年齢群でも咬合力とBMIとに有意な関連はみられなかったが 咬合力が低い程 痩せている人の割合が多くなる傾向にあることが分かった 咬合力と食品栄養摂取との関連について調べた 4) 分析では 70 歳群の調査参加者の内 1 年以内 図 2 ベースライン時の咬合力の比較 図 3 咬合力と BMI との関係 55

に食習慣を変更している者や 医師や栄養士の指導の下食事コントロールをしている者を除いた 757 名を対象とした 食品栄養摂取量は BDHQ を用いて算出し 1000kcal 当たりの摂取量を分析に用いた 今回の分析では 咬合力が高位の 1/3 の者を 100とし 性別 教育歴 経済状態 家族構成 居住地域を調整したトレンド検定を行った その結果 咬合力によって摂取エネルギー量に有意な差はみられなかったが 咬合力が低いと 摂取エネルギー当たりのタンパク質の摂取割合が少なく 炭水化物が多くなる傾向にあることが示された 咬合力が小さいとどのようなものが食べられていないのかを調べたところ 咬合力が低位の者は にんじんやかぼちゃなどの緑黄色野菜 トマトやレタス キャベツなどの生野菜 調理したキャベツや白菜など野菜類の摂取が少なく またいわし さば さんまなど脂が乗った魚 骨ごと食べる小魚の摂取も少なくなっていた その結果 咬合力が低位の者では カルシウムや鉄などのミネラル ビタミンA C Eなどの抗酸化ビタミン 認知機能との関連が示されている葉酸や食物繊維などの栄養素で 摂取エネルギー量当たりの摂取量が低い結果となった すなわち 咬合力が低い者は 炭水化物の摂取が多くなり 緑黄色野菜の摂取が少なくなり さらに抗酸化ビタミンや食物繊維といった健康に重要な栄養素の摂取が少なくなるということが明らかになった 最後に 口腔感覚と食品栄養摂取との関連を示す 口腔感覚の評価には口腔立体認知能 (OSA: Oral Stereognostic Ability) 試験を用いた この OSA 試験とは 義歯床用レジンを用いて製作した円 楕円 正方形 長方形 正三角形の 5 種類の小さな試験片を被験者の口腔内に入れてもらい 舌と口蓋で触らせ形を判別させる試験である 正答を 2 点 円と楕円 正方形と長方形などの類似した形態との誤答については1 点 それ以外の誤答は 0 点とし 5 回の合計スコアを OSAスコアとし 10 点満点となるようにした 70 歳群 80 歳群の上下顎全部床義歯装着者 164 人を対象とし OSAスコアと食品栄養摂取量との関係について Spearmanの順位相関係数を用いて分析した 加えて 多変量解析として これまでの研究で緑黄色野菜の摂取と関連があるとされている年齢 性別 教育歴 経済状況 さらに咬合力を調整変数とし 重回帰分析を行った 2 変量解析の結果 口腔感覚は 食品群で穀物の摂取量と負の相関を 緑黄色野菜の摂取量と正の相関をみとめた さらに栄養素でみてみると OSAスコアは野菜に多く含まれている抗酸化ビタミンである ビタミンA C E さらにビタミン B2の摂取重量と正の相関をみとめた 重回帰分析の結果 咬合力を調整した上でも 口腔感覚と緑黄色野菜の摂取には有意な関連をみとめた つまり 上下顎全部床義歯装着者の中で 口腔感覚が衰えている人は緑黄色野菜の摂取が少なくなっていることが示唆された 口蓋が義歯床で覆われている全部床義歯装着者にとって 緑黄色野菜の摂取には これまでに報告されている咬合力よりも 舌の感覚や舌の巧緻性といった機能が重要であると考えられた 一方 歯が 28 本全て残っており 一本も欠損していない人を対象として 口腔感覚と食品摂取との関連をみてみると 全ての食品群の摂取量は 口腔感覚や咬合力と有意な相関をみとめなかった 現在歯数や口腔機能が食品の選択に影響を与えるとの報告もあるが それは歯が少なくなってきた人に言えることで 歯が全て残っている人に関しては 食品選択はその人の嗜好が大きく関わってくるのではないかと考えられた これまでの我々の研究より 歯数や咬合力 口腔感覚といった口腔機能が 様々な栄養指標と関連があることが明らかとなった 現状 課題と提言現在 横断研究による口腔機能と栄養摂取や栄養状態との研究結果が多く報告されており 我々のSONIC Studyからも様々なことが明らかとなっている すなわち 我々の研究より 現在歯数や咬合力 口腔感覚といった口腔機能が 食品栄養摂取や BMI 体組成などと関連があることが示された しかし これまでの分析はあくまで横断研 56

究の結果であり 関連の方向 例えば口腔機能の低下が栄養摂取の低下に影響を与えるのか もしくは栄養摂取の低下が口腔機能の低下に影響を与えるのかは分からない 現在 6 年経過のデータも揃ってきているので 今後は縦断データを分析し 口腔機能と栄養摂取や栄養状態との関係性を示していくことが重要であると考えている 歯の健康や口腔機能の維持は健康長寿に関わっていくものであり 高齢者が健康で長生きする為に どのように口腔機能が維持されなければならないのか そのためにはどういった治療や指導が必要であるかを明らかにして行く予定である 文献 1)Zhu Y, Hollis JH: Tooth loss and its association with dietary intake and diet quality in American adults, J Dent, 42:1428-1435,2014. 2) Hung HC, Colditz G, Joshipura KJ: The association between tooth loss and the self-reported intake of selected CVD-related nutrients and foods among US women, Community Dent Oral Epidemiol, 33: 167-173,2005. 3) Lee IC, Yang YH, Ho PS, et al: Chewing ability, nutritional status and quality of life, J Oral Rehabil, 41:79-86,2014. 4)Inomata C, Ikebe K, Kagawa R, et al: Significance of occlusal force for dietary fibre and vitamin intakes in independently living 70-year-old Japanese: from SONIC Study, J Dent, 42:556-564,2014. The association between oral function and nutrition intake in community-dwelling Japanese elderly people Motoyoshi Fukutake,Kazunori Ikebe (Department of Prosthodontics, Gerontology and Oral Rehabilitation, Osaka University Graduate School of Dentistry, Osaka, Japan) Key Words : Elderly people, Oral function, Nutrition intake It is important to clarify what factors are related to health and longevity. Nutrition intake is related to health in elderly people, and furthermore it has been reported from previous studies that oral function is related to nutrition intake. Currently, we are conducting a cohort study called SONIC Study for elderly people over the age of 70, and we are investigating what factors are related to mental and physical health changes and deaths. As a result of investigating the association between oral function and nutrition intake in the elderly people, it was concluded that number of teeth and oral function such as occlusal force and oral sensation was related to dietary intake, BMI and body composition. It is necessary to clarify the relationship between oral function and nutrition intake by using longitudinal data. Health Science and Health Care 17(2): 53 57,2017 57