2. 厚生経済学の ( 第 ) 基本定理 2 203 年 4 月 7 日 ( 水曜 3 限 )/8 本章では 純粋交換経済において厚生経済学の ( 第 ) 基本定理 が成立することを示す なお より一般的な生産技術のケースについては 4.5 補論 2 で議論する 2. 予算集合と最適消費点 ( 完全 ) 競争市場で達成される資源配分がパレート効率的であることを示すための準備として 個人の最適化行動を検討する 財 の価格を p 財 の価格を 価格の組をp と表すことにする すなわち p ) である そして 個人 の初期保有 ( 点 ) は (, ) であるので 個人 の所得 ( 額 ) はp である (, ) 同様にして 個人 の消費支出 ( 額 ) はp c と表すことができる 2 したがって 個人 の所得を全て使って消費できる消 費点の集合 ( 領域 ) は直線になるので 予算線 (buget lne) と呼び ) と置けば ) { c p c p, c 0} (2-) である また 個人 の所得の範囲内で消費できる消費点の集合を 予算集合 (buget set) と呼び ) と表せば 次のように定義される ) { c p c p, c 0} (2-2) 初期保有点 と価格の組 p,) のもとでの予算制約を満たしつつ 最も好ましい ( 効 用を最大化する ) 消費点 c (, ) を 最適消費点 と呼ぶことにする また と をそれぞれ財 と財 に対する 需要量 と呼ぶ そして 最適消費点 ( あるいは需要量 ) は次の 2 つの条件から求められる まず 最適消費点 c は予算制約を満たすので c, ) (2-3) である また 予算の制約を満たす消費点でc より好ましい消費点は存在しないので 厳密な上方位集合 ( P c ) と予算集合 ) の共通部分は存在しないことになる すなわち ( P c ), ) (2-4) である ここに は空集合である \ 予算集合から予算線を取り除いた集合 ( 領域 ) を ) と表す つまり \ ) { c p c p, c 0 } (2-5) である そのとき 選好の 単調性 の仮定と (2-4) から 上方位集合 P ) に関して (2-3) と (2-4) より ( P c ) \, ) (2-6) が成立する なお (2-6) の導出は 2.6 補論 で行うこととし ここでは一つの例を図示して そのケースにおいて (2-6) が成立していることを確認しよう ( 問題 2-) 価格の組 p とp のもとでの予算線 ( p, ) 予算集合, ) を 平面に図示しなさい また (2-4) を満たし 選好の 単調性 と矛盾しない P ) を一つ図示して そのケースにおいて (2-6) が成立することを確認しなさい (2-3) と (2-6) より c P ) なので 次の関係が成立することになる c p, ) (2-7) ( 一般的に 数の組 g ( g, g2) と h ( h, h2 ) に関して g h gh g 2h2 と定義する したがって p p である 2 p c p である
2.2 競争均衡とワルラス法則 203 年 4 月 7 日 ( 水曜 3 限 )2/8 価格の組 ( p p,) と消費点 c (, ) が c p, ) (, ) (2-8) P ) ( p, ) (, ( ) (2-9) (2-0) (2-) の 6 つの条件を満たすとき, c, c ) あるいは,,,, ) は 競争均衡 である なお (2-8) は予算制約の条件 (2-9) は個人の最適化の条件である ((2-3) と (2-4) を参照 ) また 条件 (2-0) と (2-) は それぞれ財 と財 の総需要量と総供給量が一致することを表しており (2-0) は財 市場の均衡条件 (2-) は財 市場の均衡条件である (2-8) (2-9) (2-0) (2-) の 6 つの条件式で決定される競争均衡の変数は 5 つであり 条 件式の数が変数の数より つ多い しかし (2-7) (2-8) (2-9) より c, ) が成立するので p c p である (, ) したがって p c ) 0 (2-2) が成立する すなわち p ( ) ( ) 0 (2-3),,,, なので ) が (2-8) (2-9) (2-0) の 5 つの条件を満たしていれば,,,, ) は (2-) も満たすことになる ( 問題 2-2),,,, ) が (2-8) (2-9) (2-) の 5 つの条件を満たしていれば,,,, ) は (2-0) も満たすことを示しなさい 以上より (2-0) あるいは (2-) は独立ではない 言い換えれば 財市場の均衡条件のうち つを無視して 均衡 ( 相対 ) 価格 p と均衡における資源配分 a (, ),(, ) めることができることになる そして この性質は ワルラス法則 と呼ばれる を求 ( 相対 ) 価格 p のもとでの個人 の財 の需要量が一意的に定まるとき その需要量 は価格 p の関数になるので その関数を ) と表し 財 の需要関数 と呼ぶことにする また同様にして 財 の需要量が一意的に定まるとき 個人 の 財 の需要関数 を ) と表す そして 競争均衡 における均衡価格 p は ワルラス法則 より ) ) (2-4) ) ) (2-5) のどちらか片方の財市場の均衡条件から求めることができる そして 競争均衡における ( で達成される ) 資源配分 (, ),(, ) a は ) かつ ) より求められる (, ) 2
2.3 エッジワースの箱と予算集合 203 年 4 月 7 日 ( 水曜 3 限 )3/8 競争均衡の資源配分について検討する準備として 予算集合と予算線をエッジワースの箱 型図の中で表現しよう 個人 の予算線 ) を 資源の初期保有配分 (, ) が与えられたもとで エッジワースの箱の領域 E に制限して 個人 の消費平面で捉え たものを ( を に置き換えて ) ) と置けば ) { c pc p, c E } (2-6) ) { c pc p, c c, c E } (2-7) である (, ) 3 そして 次の関係が成立する 4 ) ) (2-8) 予算集合 ) を が与えられたもとで E に制限して 個人 の消費平面で捉 えたものを ) と置くことにする すなわち ) は (2-6) の p c p を p c p に置き換えたもの ) は (2-7) の p c p を p c p に置き換えたものである また ) から ) を取り除いた 集合を \ ) と表す 5 そして 次の関係が成立する 6 ) \ ) ) \ ) ) ) (2-9) ) ) E (2-20) \ ( 問題 2-3)(2-8) を導出しなさい また ) ) ) ) \ ) ) をエッジワースの箱型図の中に図示することで (2-9) と (2-20) が成立することを確認しなさい 3 E { c 0 c } 4 集合 X とY が X Y かつY X のとき X Y と表し X とY は 等しい と呼ぶ 5 すなわち \ ) は (2-6) の p c p を p c p に置き換えたも の \ ) は (2-7) の p c p を p c p に置き換えたものである 6 X Y { Xまたは Y} であり X Y は 集合 X とY の和集合 と呼ばれる 3
2.4 厚生経済学の ( 第 ) 基本定理 203 年 4 月 7 日 ( 水曜 3 限 )4/8 競争均衡 (, p ) における 資源配分 a, c ) がパレート効率的であるかどうかをエ ッジワースの箱型図を用いて検討しよう (2-8) と (2-9) の条件は (2-0) と (2-) より c E なので エッジワースの箱の領域に制限した予算集合と厳密な上方位集合を用い て 次のように書き換えることができる c, ), ) (2-2) ( P c ), ) (, ) (2-22) したがって P ) P ) I ) と (2-22) を用いれば 次の関係が成立する ( P c ), ) I ), ) (2-23) ( 問題 2-4)(2-23) を導出しなさい 7 また 問題 2-3 の図に ( P c ) と I ) を描き加えることで (2-23) が成り立っていることを確認しなさい (2-6) と同様にして 選好の 単調性 (2-2) (2-22) より 上方位集合は予算集合から予算線を取り除いた部分とは共通部分を持たないので エッジワースの箱の領域に制限してもその関係は成立する つまり ( P c ) \, ) (2-24) である (, ) したがって P ) E なので P ) は E から \, ) を取り除いた領域に含まれることになる そのとき (2-20) と (2-24) より ( P c ) ) (2-25a) ( P c ) ) (2-25b) が成立する したがって (2-25a) (2-25b) より ( P c ) ), ), P ) (2-26) である そして I ) I ) P ) P ) なので (2-23) と (2-26) より P ) P ) I ) I ) (2-27) が成立する ( 問題 2-5)(2-27) を導出しなさい また 問題 2-3 の図に ( P c ) と I ) を描き加えることで (2-27) が成り立っていることを確認しなさい したがって (-2) と (2-27) より 市場均衡における資源配分 a をパレート改善する資源配分は存在しない つまり P ( a ) (2-28) が成立する したがって (-3) と (2-28) より 次の定理が導かれることになる 8 厚生経済学の( 第 ) 基本定理 : 競争均衡における ( で達成される ) 資源配分 a はパレート効率的である 7 (2-23) を導出するとき 集合に関する分配法則を用いる なお 分配法則とは 集合 X Y Z について ( X Y ) Z ( X Z ) ( Y Z ) が成立することである 8 この定理は 無差別曲線 I ) の端点がエッジワースの箱の辺上に存在する ことを要請することなく導かれている 4
2.5 厚生経済学の基本定理 と限界代替率 203 年 4 月 7 日 ( 水曜 3 限 )5/8 競争均衡における資源配分 a, c ) が以下の 3 つの条件 () 資源配分 a はエッジワースの箱の領域 E の内点であり ( o c ( E ) ) (2) 限界代替率 MR ) が存在し (, ) (3) 上方位集合 P ) が凸性を満たす (, ) 場合は 厚生経済学の基本定理を 限界代替率を用いて次のように導出することができる 競争均衡における資源配分 a, c ) では 個人 の最適消費点 c における限界代替率 ( MR c ) と均衡 ( 相対 ) 価格 p が一致する すなわち 最適消費点 c は MR ) p (2-29a) を満たす なお (2-29a) は (-5) の導出と同様に行うことができるが ここでは (2-29a) が成立することを つの例を図示することで確認する ( 問題 2-6) 上述の 2 3が満たされているケースを図示しなさい また その図において (2-29a) が成立していることを確認しなさい 同様にして 個人 の最適消費点 c は MR ) p (2-29b) を満たす したがって (2-29a) と (2-29b) より MR c ) p MR ) (2-30) ( である すなわち 競争均衡における資源配分における両個人の限界代替率は 均衡価格を仲介として 一致することになる したがって ここに (-5) の の主張 を適用す れば (2-28) が成立するので 競争均衡における資源配分 a, c ) はパレート効率的な資源配分である ( 問題 2-7) 問題 2-3 で描いた図において 上述の 2 3が満たされているならば (2-30) が成立していることを確認しなさい また 問題 2-3 で描いた図において 上述の 2 3が満たされていないならば それらが満たされているケースを別に図示して (2-30) が成立していることを確認しなさい ( 問題 2-8) パレート効率的な資源配分を 市場を通じた民間経済主体間の交換活動で達成する方法と 政府が計画的に配分することで達成する方法について 必要な情報量の観点から比較検討しなさい 特に どの経済主体がどれだけの情報量を必要とするかについて比較検討しなさい また 競争均衡を定義するときに ( 暗黙に ) 想定されている重要な前提を指摘するとともに それらの前提の現実経済における妥当性について検討しなさい 5
2.6 補論 :(2-6) の導出 203 年 4 月 7 日 ( 水曜 3 限 )6/8 (2-6) が成立することを背理法で説明する そのために 初期保有点 と価格の組 ( p p,) のもとでの (2-3) を満たす最適消費点 c に関して (2-6) が成立しないとする す なわち (2-3) を満たすc に関して ( P c ), ) であるとする そのとき (2-3) より c 0 だから P ) が存在するので ˆ c P ) (2-3) かつ ĉ, ) (2-32) となる cˆ ( ˆ, ˆ ) が存在する そして (2-5) より \, ) { c p c p, c 0 } (2-33) なので (2-32) と (2-33) より p c p p p cˆ 0 p (2-34) を満たす を用いて (, c ) を c (, ) ( ˆ, ˆ ) (2-35) と定義する そのとき (2-32) と (2-33) よりcˆ 0 なので (2-34) と (2-35) より c (, ) 0 (2-36) である また (2-34) (2-35) (2-36) より p c p (2-37) が成立する したがって (2-2) (2-36) (2-37) より c, ) { c p c p, c 0 } (2-38) である ( 問題 2-9)(2-37) を導出しなさい また 平面に ( P c ) \, ) を図示することで (2-37) が成立することを確認しなさい c ĉ c また (2-34) と (2-35) より c ( ˆ, ˆ ) ( ˆ, ˆ ) cˆ (2-39) なので 選好の単調性と (2-3) より c P ) (2-40) である ( 問題 2-0).3 節の議論を用いて (2-40) を導出しなさい したがって (2-38) と (2-40) より c P ), ) であるので ( P c ), ) (2-4) となり (2-4) が成立しないことになる これはc が最適消費点であると仮定したことと矛盾する 以上より (2-6) が成立することになる 6
2.7 補論 2: 微分と接線の傾き 203 年 4 月 7 日 ( 水曜 3 限 )7/8 この補論では 微分の基本的な性質について 今後の議論で用いる性質に絞って確認する 関数 f () ( あるいは f () ) を 平面に図示した曲線において f ( h) f ( ) (2-42) h は点 (, f ( )) と点 ( h, f ( h)) を結ぶ直線の傾きであり この値は ( が から h まで変化したときの f () の ) 平均変化率 と呼ばれる ( 問題 2-) 平面に曲線 f () を描き その中に ( が から h まで変化したときの f () の ) 平均変化率 を図示しなさい 平均変化率 (2-42) の h を正に保ちつつゼロに近づけて行った場合の極限値と h を負に保ちつつゼロに近づけて行った場合の極限値が一致するとき ( 関数 f () は において ) 微分可能 であると呼び その極限値を f () と表す すなわち f ( h) f ( ) f ( ) lm (2-43) h0 h である そして f () を ( 関数 f () の における ) 微分係数 と呼ぶ また を変数として考えれば 微分係数 f () は変数 の関数になる そして 関数 f () の変数 を に置き換えた f () は ( 関数 f () の ) 導関数 と呼ばれる 以下では 曲線 f () の点 (, f ( )) における接線が存在する ( すなわち 関数 f () が において微分可能である ) 場合に限定して議論する 上の点, f ( ) ( 問題 2-2) 問題 2- で描いた曲線 f () であることを 図を用いて説明しなさい における接線の傾きが f () ( 問題 2-3) 関数 h() を h( ) f ( ) g( ) と定義するとき h( ) f ( ) g( ) が成立することを説明しなさい 2 ( 問題 2-4) f ( ) a b c のとき f ( ) 2a b であることを説明しなさい 2 ( 問題 2-5) f ( ) a / のとき f ( ) a / であることを説明しなさい ( 問題 2-6) f ( ) 2a b のとき f ( ) a / であることを説明しなさい 問題 2-2 の結果はこれからの議論で頻繁に用いられる関係である また 問題 2-3 の結果は 3.3 節の議論で用いられる関係である さらに 問題 2-4 の結果はこれから出てくる計算問題で頻繁に用いられる関係である 問題 2-5 と問題 2-6 の結果は これから扱われる発展的な計算問題で用いられる 7
203 年 4 月 7 日 ( 水曜 3 限 )8/8 2.8 補論 3: 厚生経済学の基本定理についての計算問題 この補論の全ての問題で 個人 の初期保有が (, ) (5, 2) 個人 の初期保有が (, ) (,2) であるとする また 効用関数に関しては 問題 2-7 から問題 2-20 まで は 個人 の効用関数が k,0 2 u ma (2-44) であるとする (, ) すなわち u k 2 f f k k (2-45) である ここに k は定数であり 個人 と個人 のその値はそれぞれ k 8 かつ k 6 であるとする なお 問題 2-9 で確認するように (2-44) の効用関数のもとで導出される 財 の需要曲線は直線になる また 以上の想定のもとでは k k の関係が成立しているので 効用関数がu k 2 であるとして問題を解いても答えは同じに なる ( 問題 2-7) 個人 の消費点 c (, ) (4,0) における限界代替率 MR c ) を求 めなさい ( ヒント ) 問題 2-4 の結果を用いる ( 問題 2-8) パレート効率的な資源配分の軌跡 ( 契約曲線 ) を求めなさい ( 問題 2-9) 価格 p の下での個人 の需要量 ) ) を求めなさい (, ) また 個人 の財 の需要関数 ) 両個人の需要量の合計を対応させる関 数 ) ) を p 平面に図示しなさい ( 問題 2-20) 競争均衡における価格 p と資源配分 (, ),(, ) を求め その資源 配分がパレート効率的であることを確認しなさい 問題 2-2 では 個人 と個人 の効用関数が それぞれ ( u mn( 2, ) (2-46) u 2 (2-47) であるとする ( 問題 2-2) 競争均衡における価格 p と資源配分 (, ),(, ) を求め その資源 配分がパレート効率的であることを確認しなさい また パレート効率的な資源配分の軌跡 ( 契約曲線 ) を求めなさい ( ヒント ) 問題 -4 と問題 -6 の結果を参照 8