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方向の3 成分を全て合成したもので 対象の体重で除して標準化 (% 体重 ) した 表 1を見ると 体格指数 BMI では変形無しと初期では差はなく 中高等度で高かった しかし 体脂肪率では変形の度合が増加するにつれて高くなっていた この結果から身長と体重だけで評価できる体格指数 BMI では膝 O

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増加すると報告した. 佐野らは 4), 足趾踵荷重立位は既存の足趾トレーニングと比較し足底内在筋の筋活動を誘発できる運動課題であり, 即時的に足趾把持筋力を向上させると報告した. また,3 週間の実施によって Functional Reach Test が向上したことから, 前方向への動的姿勢制御機能を向上させる運動であると報告した. しかしながら, 足趾踵荷重立位の足部形態に着目した検証はなされていない. そこで本研究は, 足趾踵荷重立位による筋力強化が内側縦アーチ高率, 最大一歩幅, 静的バランス能力及び足部柔軟性, 足関節のアライメントから, 足部形態について検討した. Ⅱ. 対象と方法 1. 対象過去 1 年間以内に骨折や靭帯損傷, 疼痛など下肢に病的な機能障害を認めない健常な成人女性 1 名を対象とした. 研究を開始するにあたり, 対象者には研究の目的と方法および被験者にならなくても不利益にならないことを十分に説明し, 同意を得た. 2. 方法 ⅰ. 運動課題足指 踵荷重起立台を使用した足趾踵荷重立位とし, 対象者には両側足指と踵接地で 1 日 1 分間,10 セット実施する.4 週間 (5 回 / 週の頻度 ) の介入を行う. 介入は, 原則, 検査者の管理下のもと実施し, 検査者の管理下で実施できない場合のみ, 自主トレーニングを実施する. 自主トレーニングを行う際は, 対象者にチェックシートを配布し, 実施状況を記載してもらう. ⅱ. 測定項目内側縦アーチ高率と最大一歩幅, 静的バランス能力, 柔軟性, 足関節のアライメントの 5 項目とし, 介入前と介入後を計測する. 内側縦アーチ高率の測定は, 安静座位で舟状骨粗 面から床面までの距離と足長を計測し, 舟状骨粗面から床面までに距離を足長で除した値を用いる. 最大一歩幅は, 裸足の静的立位から利き足を前方に大きく一歩踏み出し, 非利き足を踏み出した利き足の足部に揃える動作の軸足のつま先から踏み出したつま先までの距離とし, 床面に固定したメジャーで計測する. 静的バランス能力は, 開眼時における静的重心動揺から評価する. 静的重心動揺の計測は, 重心動揺計 ( アニマ社製 ) を用いて測定する. 対象者は, 壁から 2m に設置された重心動揺計に開眼立位の姿勢でのり,1 分間の重心動揺を測定する. 重心総移動距離と重心移動外周面積を計算し, 測定値とする. 柔軟性は, 足関節の可動域から評価する. 足関節の可動域は, 股関節と膝関節 90 度の仰臥位における足関節最大背屈角度をグラビティーゴニオメータで 3 回計測し, 平均値を測定値とする. また, 股関節と膝関節伸展位における足関節最大背屈角度も同様に計測する. 足関節のアライメントは, 安静立位 ( 足は肩幅 ) における Leg Heel Alignment( 下腿部と踵部のそれぞれの 2 等分線が成す角度, 以下 LHA), デジタルカメラで撮影し, その撮影した画像はデジタルデータのまま PC に取り込み, 取り込んだ画像は ImageJ というフリーソフトウェアで下腿部と踵部が成す角度の測定を行う ( 図 2 と図 3). ⅲ. 実験に用いる装置と使用方法足指 踵荷重起立台は, 足指と踵で荷重し立位姿勢を保持する運動機器である. 足指と踵で荷重することで, 内外側縦アーチが宙に浮き, 足底筋に張力を生じさせ立位姿勢の間中, 必然的に足底筋の等尺性収縮を起こす設計である. 本体の寸法は, 横 360mm, 縦 330 mm, 基盤厚 10 mm, 踵 足指台厚 15 mm, 踵台長 340 mm, 足指台長 135 mm である. 基盤上の足指台は移動可能とするため底面と基盤にマグネット板を張り付けて固定できるようにした. 足指 踵荷重起立台での立位姿勢は, 足のアーチが浮く構造になっている. 適応は, どのような足指の形状の者でも実施可能である. 尚, 本装置は - 21 -

現在日本国特許庁に特許出願済みである ( 登録第 3201544 号 ). ⅳ. 実験の手続き手順は次の通りとした. 測定前, 足指台に MP 関節より末梢, 踵台に踵骨部が乗るように被験者の足の大きさに合わせて調節する. 台上での立位姿勢は, 開眼で 2m 前方の目の高さに設定された目標点を注視させ, 両上肢を体側に付けさせる. 前足部と踵部が同程度の荷重となるように説明する. 足指 踵荷重起立台の足指台と踵台が, 足の大きさに合わせて調節できていることを検査者 1 名が十分に確認をする. 足指 踵荷重起立台での立位保持を 1 分間実施する. ⅴ. 被験者への教示被験者に対しての教示は, 体全体を真っ直ぐに立てて, 背中を伸ばして自然体で立って下さい 右足と左足に均等に体重をかけて下さい つま先と踵, 同じように意識を置いて立って下さい の 3 つとする. ただし, 足指 踵荷重起立台での立位姿勢においては, その台の形状の特殊性から, 理解困難な被験者には 足のアーチが浮くようにしてください と指示も加える. 本研究については申告すべき利益相反はない. Ⅲ. 結果介入前後の測定結果を表 1 に示す. 内側縦アーチ高率, 膝関節伸展位での足関節背屈角度, 最大一歩幅,LHA, 総軌跡長, 単位面積軌跡長, 動揺中心変位 (x 座標 ) では介入前後で主効果が認められた. 本研究では, 足趾踵荷重立位運動の介入効果を, 足部形態に与える影響を扁平足症例に対して予備的研究の位置付けとして実施した. その結果, 内側縦アーチ高率, 膝関節伸展位での足関節背屈角度, LHA, 総軌跡長, 単位面積軌跡長, 動揺中心変位 (x 座標 ), 最大一歩幅が向上したことから, 前方向への動的姿勢制御機能を向上が認められた. その一方で, 膝関節屈曲位での足関節背屈角度, 実効値面積や動揺中心変位 (y 座標 ) は, 介入後でも機能改善を認めることはできなかった. Ⅳ. 考察足趾踵荷重立位運動によって, 舟状骨高が増加することを確認することができた. これは, 足趾踵荷重立位運動を実施することで, 足趾屈筋群や後脛骨筋, 足底筋膜の筋活動が増大し, 舟状骨を頭側に引き上げたと考えられる. 足底筋膜は踵骨から足趾まで付着しているため, 収縮すると起始部と停止部が近づき, 足部の中央部を頭側に引き上げ, 内側縦アーチを高める作用をもつ. また, 後脛骨筋は下腿骨間膜から舟状骨, 内側, 外側, 中間楔状骨, 立方骨, 第 2,3,4 中足骨底に付着するため足底筋膜と後脛骨筋の筋活動が高まることで, 舟状骨高が増加し, 内側縦アーチが上昇したと考えられる. 右後足部アライメントは, 介入前と介入後を比べると LHA13 から LHA5 に,LHA の値が低下したことから, 足趾踵荷重立位運動により距骨下関節のアライメントが回外位に改善された. 両足の立位では, 体重の垂線は両足の舟状骨を結ぶ線の中間に落 - 22 -

表 1. 介入前後の測定結果 介入前 介入後 内側縦アーチ高率 (%) 右 13.7 15 左 15.3 16.2 足部柔軟性 ( ) 右 ( 屈曲位 ) 20 25 左 ( 屈曲位 ) 25 25 右 ( 伸展位 ) 10 20 左 ( 伸展位 ) 15 20 最大一歩幅 (cm) 106.6 113.3 LHA( ) 右 13 5 左 7 7 総軌跡長 (cm) 60.6 50.59 単位面積軌跡長 (1/cm) 23.95 21.71 実効値面積 (cm2) 0.17 0.17 動揺中心変位 x(cm) -0.66-0.41 動揺中心変位 y(cm) -3.2-3.28 ちる. 体重は下腿から足関節を経て距骨に負荷され, 距骨から足根骨, 中足骨, 趾骨へと分散, 伝達される. 距骨は踵骨に対して前上方に位置しており, 下腿からの過度の負荷によって前内方へ滑る傾向がある. この変化が踵骨に対する荷重負荷の作用中心を内側へ偏位させ, 踵骨を外がえし, 底屈させる. 踵骨の外がえし底屈に伴い, 内側縦アーチは低下する. 今回の予備的研究の介入後では, 内側縦アーチは上昇した. 立位姿勢において足圧中心位置が外側へ偏移し後足部の踵骨を回外させ,LHA の値の低下を引き起こしたと推察される. 動的バランスの要素をもつ最大一歩幅で向上が認められた. これは, 本研究のトレーニング期間が 4 週間という短期間であったことから, 村田ら 5) が推察しているように, 足指把持力トレーニングにより足底の固有感覚が賦活されたことによる姿勢制御能力の向上が考えられた. また, 辻野らは 6), 足圧中心位置の前方移動距離と足指を鉛直下方へ圧迫する力との間には正の相関関係が認められることを報告している. このことから, 最大一歩幅の遂行時には, 鉛直下方へ足指の大きな圧迫力も生じていることが考えられる. そのため, 足趾踵荷重立位運動の足指への直接的効果により, 足指を鉛直下方へ圧迫, 把 持する能力が向上したことにより, 動的な平衡機能が向上したことが考えられる. その他, 静的重心制御機能に向上が認められなかった要因として, 対象者が足部および足趾の関節可動域制限や整形外科的疾患を持たない健常成人であったことが考えられる. 若年者においても足趾機能トレーニングによって足趾機能が改善するとされているが, その多くは動的バランス機能や, パフォーマンステストの改善である. 健常成人においては, そもそも静止時立位時の重心動揺は少なく, 介入効果が認められなかったと考える. 本研究では, 扁平足症例に対しての予備的研究の位置付けにとどまっており, 足部形態に与える影響を明らかにしてはいない. 今後は, 対象者を増やし, 今回の結果が当てはまるのか否かを明らかにするとともに, より足趾機能が低下するとされる高齢者に対する効果検証も行なう必要があると考える. 本研究は, 足趾踵荷重立位運動の介入効果を足部形態から予備的研究の位置付けとして実施した. その結果, 内側縦アーチ高率, 膝関節伸展位での足関節背屈角度, 最大一歩幅,LHA, 総軌跡長, 単位面積軌跡長, 動揺中心変位 (x 座標 ) に向上が認められた. 上記より, 足指 踵荷重起立台を使用した足 - 23 -

指踵荷重立位運動による筋力強化は, 内側縦アーチが上昇することが確認され, 静的立位バランスには影響を及ぼさないことが確認された. アーチ高が上昇されたことにより, 踵骨回外位となり後足部のアライメントが改善された. 足部のアライメントは運動連鎖による影響をうけ下肢全体に影響を与え, 特に膝関節には関係が深い. 扁平足症例に対して有用な運動であると想定していたが, 今回の予備的研究により, 膝関節に障害がある症例に対しても有用な運動であることが示唆された. 文献 1) Kelly LA, Kuitunen S, Racinais S:Recruitment of the plantar intrinsic foot muscles with increasing postural demand. Clin Biomech, 2012,27:46-51 2) 昇寛, 石川孝司, 松本泰章 : 足指 踵起立盤の考案と作製. 日本スポーツリハビリテーション学会誌,2015,4:35-37 3) 嶋田裕司, 昇寛, 冨田圭佑 他 : 足指 踵荷重起立の下肢 7 筋への影響 活動電位による観察. 理学療法科学,2017,32:297-300 4) 佐野徳雄, 昇寛, 中山彰博 他 : 足指踵荷重での立位保持時間が足指把持筋力に与える影響. 理学療法科学,2017,32:377-3805 5) 村田伸, 忽那龍雄 : 在宅障害高齢者に対する転倒予防対策 足把持力トレーニング. 日本在宅ケア学会誌,2004,7:67-74 6) 辻野綾子, 田中則子 : 足趾圧迫力と前方リーチ動作時の足圧中心位置の関係 : 理学療法科学,2007, 2:245-248 - 24 -