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関節リウマチ ( RA) 治療薬の効果評価法と応答性の個人差に関する 遺伝要因の検討 Studies on Scoring Methods of Drug E fficac y and G enetic Factors Associat ed with Inter-p atient Variab ility o f Clinical Response in Patients with Rheu matoid A rthritis 平成 28 年度論文博士申請者舟橋惠子 (Funahashi, Keiko ) 指導教員越前宏俊 関節リウマチ ( RA) は進行性の関節破壊が生じる自己免疫機序の多関節炎である 日本には約 70 万人の患者が存在し 最多の自己免疫疾患である 従来の治療は抗炎症薬と免疫抑制薬が使用されたが 発症機序の解明が進むにつれて 2003 年から組織壊死因子 (TNF)α を標的分子とする生物学的製剤 ( Bio) 等が続々と上市され RA の治療指針を大きく変更させている その一方で インターロイキン ( IL)-6 を標的分子とする Bi o の薬効評価には従来の標準的薬効評価法が適応できない可能性や 従来治療薬と新規 Bio に対する患者の治療前期待度の差異が患者の主観的薬効評価に重要な影響を持つ可能性など種々の薬学的問題が出現している また Bio は高価な薬剤であるため 一次および二次無効の予測も重要な課題である 申請者は これらの Bio に関係する諸問題を解決すべく研究を行った 1) Ⅰ. IL-6 受容体抗体薬の薬効評価法の検討従来 新規 RA 治療薬開発の臨床試験における疾患活動性の評価法には欧州 RA 学会が提唱した Disease A ctivity Sco re 2 8 ( DAS28) 1

が標準的に使用されて来た この方法は RA 活動度の評価を指定された 28 か所の関節の疼痛関節数 ( TJ C) 腫脹関節数 ( SCJ ) 患者の全般評価の視覚アナログ尺度 ( VAS ) 評価 ( 100 mmスケール ) 炎症のバイオマーカーである C 反応性蛋白 (CRP) 値 ( または血沈 ) のス コアを合計して評価する この方法は従来の疾患修飾性抗 RA 薬 (DMARD) から抗 T NFα 作用を持つ Bio には適切な薬効評価法であ った しかし 日本で開発されたヒト化抗 IL- 6 受容体抗体である トシリズマブの薬効評価においては その強力な抗 IL- 6 作用によ り他の Bio よりもはるかに強力に炎症マーカー抑制されるため 寛解判定が過大評価される可能性が想定された そこで 申請者は松原メイフラワー病院 ( 以下 当院 ) でトシリズマブが投与された 22 例の RA 患者の薬効評価を DAS28 と活動 度評価に炎症マーカー検査値を使用しない評価方法で ある Clinical Diseas e Activity In dex (CDAI) を用いて 36 ヶ月渡り評価し比較検討した 研究計画は事前に院内倫理委員会での承認を受け 患者から文書同意が取得された その結果 トシリズマブの効果は DAS28 では投与後 1 年後に寛解率とし 2

て 57% と高い評価がなされたが CDAI では寛解率は 33% に過ぎず DAS28 が効果を過大評価していることが明らかとなった (Fi g.1) また 解析の過程で血清マトリックスメタロプロテイナーゼ -3(MMP- 3) 濃度は CRP と同様に簡便に一般臨床検査で測定でき 血清 IL-6 濃度と相関し 抗 IL-6 の Bio でも過度に抑制されないため RA の関節炎症の新たなバイオマーカーとして有望である事も発見した この結果から 現在開発中の IL-6 阻害薬の薬効評価には DAS28 よりも CDAI が適切であり 参照されるべき臨床検査値としては MMP-3 が適切である事を提案できた Ⅱ. 患者意向を配慮した抗 RA 治療薬評価法の開発 2) 現在 標準的な抗 RA 薬の薬効評価法である DAS28 等では関節腫脹や炎症反応などと共に患者の疾患活動度に対する主観的評価が重要な因子となっている しかし 患者の主観的な薬効評価は投与される薬物に対して患者が事前に得た情報に基づく期待度や恐れに影響される可能性がある そこで 申請者は当院で従来の DMARD あるいは Bio により RA 治療を受けた患者の内文書同意が得られた 165 人を対象として RA 治療薬の事前の期待度 使用後の満足度等に関する患者のアンケート調査を実施した 調査内容は年代 性別 履病歴 治療歴等の基礎情報と 抗 RA 薬効果の期待度 薬剤への満足度および不満度 薬剤変更時に期待すること 薬剤投与前に知りたい情報 治療前後の薬剤への期待の変化 今後の RA 治療薬への期待等であり 多肢選択式 ( 順位 絶対評価 ) または自由記載で調査した 調査対象患者は罹病歴 10-20 年が多く 84% は女性で 年齢は 70 歳台が最多であった これらの患者背景は Bio と DMARD 使用者で差はなかった Bio 処方歴のある患者は 55 名 3

で 従来の DMAR D 服用患者は 110 名であった 最も使用頻度が多 い DMARD はメトトレキサート (M T X) で 70% が服用していた し かし DMARD 使用患者では糖質ステロイド使用者と非ステロイド 性消炎鎮痛薬 ( NSAIDs) の使用頻度はともに約 40% あり Bio 処方群 の 22% と 9% と比較して統計学的有意 (p<0.005) に高値であった 治 療薬に対する期待内容では Bio と D MARD 使用者共に確実な効果 関節破壊の抑制と効果の持続が重視されており 効果の即効性に対 する期待は低かった また 注目すべきことに Bio 使用患者は DAS28 スコアで評価した薬 効 が DMARD 使用患者より明らかに高いにも関わらず 37% が薬剤の効果に不満足を感じており DMARD 使用者の 28% と有意差がなかった この理由は Bio の登場により医師が評価する客観的な RA 治療効果は DMARD よりも飛躍的に改善したものの 患 者の治療効果への期待値も Bio の事前情報により高まっているた め ( Fi g.2) と推測された Bio に対する患者の治療効果への期待の増加は特に QOL の向上 関節破壊停止と修復において顕著であった (Fi g.2) Bio 使用患者における治療に対する不満で最多の原因は 4

1 次および 2 次無効であった 一方 DMARD 使用者では副作用に対する不満を Bio より強く感じていた 薬剤変更時の不安に関しては両群ともに副作用の出現が主体で差は無く 副作用の内容と頻度に関心が高かった 以上の結果から Bio 使用患者の治療満足度を向上させるためには 使用される Bio について治療前に 1 次または 2 次無効の可能性を予測し 確実な効果を担保できる Bio を選択することが重要であると考えた 以上の結果に基づき申請者は以下の研究を実施した 3) Ⅲ. エタネルセプトの 2 次無効発現に関連する遺伝因子の検討 Bio は RA 治療において従来薬に勝る薬効を発揮するが 2 次無 効を生じる患者が 20% 前後存在することが知られている 現在の Bio は抗 T NFα 薬が中心である T NFα 抗体であるインフリキシマ ブの 2 次無効には中和抗体の出現が関連する事が報告されている が TNFα 受容体抗体であるエタネルセプトの 2 次無効に中和抗体は関係しない そこで 申請者は同薬の 2 次無効の機序に関わる遺伝因子をゲノムワイド関連解析 ( GWAS) の手法で解明する事を試みた 対象は当院でエタネルセプトが投与された患者で 研究に文書同意が得られた 1 34 名の患者であった 患者は効果が観察期間を通じて持続した有効群 (n=90 ) 当初は良好な効果を認めたが 6 ヶ月以後に効果が減弱した 2 次無効群 ( n=27) 当初から効果が認められなかった無効群 (n =17) の 3 群に分類した これらの患者の SNP 解析はイルミナ社の H uman Hap 300k を用いて実施した その結果 投与開始時点で3 群間に臨床的背景因子と重症度に差は無かったが 有効群と 2 次無効群の間に p<5 10-5 でアレル頻度が異なる 12 種の SNP を検出し その中に STK10 遺伝子関連の 3SNP が検出され 5

た ( Table) STK10 は CD28 を介して IL-2 産生を負に制御する作用 を有するため変異アレル保有者では その機能に影響を与えエタネ ルセプトの応答性に影響を与える可能性が示唆された 2 次無効に 関係する可能性が示唆された SNP は 従来の報告で 1 次無効との 関連が示唆されたものと重複しなかった また 本研究で 1 次無効 との関連が示唆された 5 種の SNP(p<10-6 ) は 2 次無効には関係しな かった 本研究からエタネルセプトの 2 次無効に STK10 の SNP が関係している可能性が示唆されたため 今後 より大きな患者集団での検証試験を行う意義がある事を示すことができた 参考文献 1) Funah ashi K., Ko yano S., Miura T., Hagiwara T., Okuda K., Matsubara T., Mod Rheumatol., 19, 507-512 (2009). 2) Funah ashi K., Matsubara T., Clin Rheu matol., 31, 1559-1566 (2012). 3) Funah ashi K., K o yano S., E chizen H., Matsubara T., M od Rheumatol., in press. 6