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様式 C-19 科学研究費補助金研究成果報告書 平成 22 年 6 月 16 日現在 研究種目 : 基盤研究 (B) 研究期間 :2007~2009 課題番号 :19390370 研究課題名 ( 和文 ) プロテインホスファターゼを標的とした 肺癌の診断 治療開発のための研究研究課題名 ( 英文 ) Development of genetic diagnosis and drugs f on protein phosphatase targeting 研究代表者佐藤雅美 (SATO MASAMI) 宮城県立がんセンター研究所 薬物療法学部 特任研究員研究者番号 :30250830 研究成果の概要 ( 和文 ): (1) プロテインホスファターゼによる mrna スプライシング KIF3 モーターを介した細胞内輸送 および細胞増殖 (ERK) 経路におけう制御機構に関して重要な知見を得た (2) 肺癌サンプルにおけるプロテインホスファターゼ遺伝子発現の異常に関して重要な知見を得た 研究成果の概要 ( 英文 ): (1) Regulation of mrna splicing, intracellular transport using KID3 motor, and ERK activation by protein phosphatases has been revealed. (2) Expression of protein phosphatase genes in lung tumor tissues has been analyzed. 交付決定額 ( 金額単位 : 円 ) 直接経費 間接経費 合 計 2007 年度 5,900,000 1,770,000 7,670,000 2008 年度 5,100,000 1,530,000 6,630,000 2009 年度 2,300,000 690,000 2,990,000 年度年度 総 計 13,300,000 3,990,000 17,290,000 研究分野 : 医歯薬学科研費の分科 細目 : 外科系臨床医学 胸部外科キーワード : 呼吸器外科学 プロテインホスファターゼ スプライシング 細胞内トランスポート KIF3 モーター MAPK 経路 遺伝子発現異常 遺伝子変異 1. 研究開始当初の背景 タンパクのリン酸化レベルは キナーゼ ( リン酸化酵素 ) と ホスファターゼ ( 脱リ ン酸化酵素 ) の拮抗する作用によって調節さ やイレッサ (EGF レセプター阻害剤 ) の登場 で 細胞内タンパク質のリン酸化制御による 癌治療は 極めて有望かつ現実的な治療法となった れる キナーゼに対する阻害剤として開発さ肺癌におけるキナーゼの研究は先行してれた抗癌剤の グリベック (BCR/ABL 阻害剤 ) おり 例えば非小細胞癌でEGFレセプターの

増幅や変異が認められ イレッサ治療が現実 となった 一方ホスファターゼ側からの研究 は その重要性にも関わらず 基礎研究その ものが遅れていたこともあり 肺癌の発生や 悪性化に関して その詳細はほとんど不明であった ーゼ 26) が Kif3A( キネシンモータータンパク ) と結合することを見出していた 本研究においては DUSP26 による Kif3A の制御機構 およびその異常と癌化との関係を明らかにする 現在主に開発されている分子標的抗癌剤 がキナーゼに対する阻害剤であとから 次の 世代の抗癌剤の標的が ホスファターゼとな ることは自明の理である 現在 世界中の基 礎研究者や製薬会社が この新しいこの分野 に参入しつつある 2. 研究の目的 本研究は以下の 4 つの研究からなる このう ち (1)(2)(3) はホスファターゼの基礎 研究を癌診断 治療への発展させる試みであ る 一方 (4) は 臨床サンプルを用いて肺 癌組織におけるホスファターゼの異常の有 無を調べる研究である これら 4 つの研究に より ホスファターゼを標的とした全く新し い診断および治療の開発を目的としている (3) ホスファターゼによる 増殖制御の新しい分子機構の解明 MKP7(MAPK ホスファターゼ 7) は 我々が 同定した JNK 特異的ホスファターゼである が 他方で ERK とも強い結合活性をもつこと がわかっていた 本研究においては 基質で はない ERK との結合のもつ意義を明らかに し 新たな増殖制御機構および発癌との関係 を解明する (4) 肺癌組織における ホスファターゼ分 子の異常の有無の検討 癌におけるタンパクのリン酸化に関して 初期の段階では キナーゼ = 癌化因子 ホス ファターゼ = 癌化抑制因子 と想定されてい た しかし 個々のホスファターゼ分子の機 (1) ホスファターゼによるスプライシン能が明らかにされ むしろ悪性化に働く場合グの制御を標的とした新規癌治療法の開発があることも示されてきた 我々は 以前マイクロアレイの手法を用本研究では 先ず 宮城県立がんセンターいて 肺癌細胞培養株においてスプライシにおいて肺癌組織バンクおよび肺癌の cdna ングの異常があることを報告した 最近のバンクを作製する 次に 我々の過去約 20 他のグループからの報告も含めると スプ年の基礎研究によって癌との関係が示唆さライシングは 新たな治療標的としての可れた PTP( ホスホチロシンホスファターゼ ) 能性が高いと考える DSP(2 重基質性ホスファターゼ ) および PP ( セリン / スレオニンホスファターゼ ) そ我々は 主要な PP1( セリンスレオニンホれに加えて 文献的に報告された癌関連スファターゼ1 型 ) とその制御タンパク PTP,DSP,PP から選んだ分子種に焦点を当て NIPP1 からなる PP1/NIPP1 複合体が 遺伝子肺癌 cdna バンクにおける これら分子の異発現におけるスプライシング調節に 重要常の有無を体系的に調べる な役割を果たすことを示唆するデータを得 ていた 本研究においては PP1/NIPP1 によ 3. 研究の方法るスプライシング制御機構に関して 新た (1) ホスファターゼによるスプライシングな治療標的としての可能性を探る の制御を標的とした新規癌治療法の開発 1 PP1/NIPP1 複合体と結合するタンパク質 (2) ホスファターゼによる細胞内輸送制を同定する 御を標的とした新規癌治療 診断法の開発 2 PP1 の新規基質タンパクを同定する 我々は 酵母 2 ハイブリッドスクリーニ 3 NIPP1 の過剰発現 発現抑制により スプングにより DUSP26(2 重基質ホスファタライシングあるいは翻訳に異常を示す遺伝

子を同定する 4 複合体に含まれる mrna の種類 他のタン1 パク質の同定を行う NIPP1 のノックダウンイシングのマシナリー ) にターゲットされる によりリン酸化状態の変化するタンパクの 同定を行う (2) ホスファターゼによる細胞内輸送制 3 PP1/NIPP1 酵素が 共発現させたベ 御を標的とした新規癌治療 診断法の開発 ータグロビン遺伝子のスプライシングを阻 1 DUSP26 が結合する KIF モー害することを見出した ター NIPP1 の C 末端欠損 (Kif3A/KIF3B/KAP3) 複合体に含まれるタン体を用いるとこの阻害作用が著しく増大す パクとして APC フォドリン SmgGDS PAR3 ることがわかった N-カドヘリン β-カテニンがある 我々の 4 PP1/NIPP1 酵素の脱リン酸化活性を 見いだした LDP4 ダイマーとこれらのタンパ増強させることにより スプライシングを阻 クとの関係 他の未知の構成タンパクの有無を解析する 害し 細胞死を誘導することが明らかとなった 5 SAP155 のリン酸化サイトにうち 2 DUSP26 の基質を明らかにする PP1/NIPP1 によって脱リン酸化される残基の 3 DUSP26 の活性を持たない変異体を細胞内一部の同定に成功した に発現させ 細胞 細胞の接着 細胞の運動以上の研究は PP1/NIPP1 という脱リへの影響を解析する ン酸化酵素がスプライシングに重要である (3) ホスファターゼによる 増殖制御の新しい分子機構の解明 MKP7 存在下による ERK のリン酸化 局在の向ける事 即ちこの作用を用いた新しい癌治変化 転写活性 (SRE と AP1 依存性 ) への影療の可能性が示された 一連の仕事は論文 7 響を調べる に発表された (4) 肺癌組織における ホスファターゼ分 子の異常の有無の検討 1 リアルタイム PCR で PTP,DSP,PP1 に属す低分子量 2 重基質性ホスファターゼのる各種ホスファターゼ遺伝子群の発現量新しい分子種である DUSP26 の機能を探るた (mrna レベル ) を定量的に測定する めに 2 ハイブリッドスクリーニングをし 2 HRM を用いて 上記の遺伝子の変異の有 無を調べる 3 特に記したもの ( タンパクの安定性が癌 によって異常になっている可能性があるも の ) に関しては 特異的抗体により タンパ ク量をウエスタンブロットで解析する 4. 研究成果 基礎研究 と癌との新しい接点 我々が見出したホスファターゼ (1) ホスファターゼによるスプライシン グの制御を標的とした新規癌治療法の開発 PP1 が NIPP1 により核内 ( 特にスプラ ことを見出した 2 PP1/NIPP1 酵素が SAP155 を脱リン 酸化することを明らかにした こと またこの PP1/NIPP1 酵素の働きを 人為的に変化させることによりスプライシ ングが止まり がん細胞が自ら死ぬように仕 (2) ホスファターゼによる細胞内輸送制 御を標的とした新規癌治療 診断法の開発 KIF3A を結合することを明らかとした 2 わかった 3 DUSP26 が KIF3 複合体に含まれることが DUSP26 が KAP3 が脱リン酸化されこと を明らかとした 即ち Dusp26 が KIF3A を 介して KAP3A と結合しかつ脱リン酸化するこ とを見いだした 4 KIF3A の脱リン酸化により N-cadherin βcatenin の細胞膜への輸送が障害され 細 胞接着が抑えられることを見いだした 以上の結果は Dusp26 は 細胞接着に重要 なホスファターゼであり その発現低下によ り細胞の播種や転移につながることが示唆 された Dusp26 の発現低下は様々な癌組織で

認められることから Dusp26 の発現制御 まことがわかった 現在 さらに症例数を増や たは KAP3 のリン酸化制御を標的とした新ししてその普遍性を検討しているところであ い治療への開発がつながることが期待され た この研究は論文 2 として発表された (3) ホスファターゼによる 増殖制御の新 しい分子機構の解明 1 MKP7 存在下において 細胞の ERK の活性 る EGFR を脱リン酸化し その活性を負に制 御するホスファターゼである PTPRT, 化はむしろ増大し遅延することがわかった 5. 主な発表論文等さらに この現象は MKP7 のホスファターゼ ( 研究代表者 研究分担者及び連携研究者に活性に依存しないことがわかった は下線 ) 2 MKP7 は リン酸化した ERK の核移行を阻 雑誌論文 ( 計 13 件 ) PTPRZ, LAR, PTPN13, PTPN18 の活性ドメインにおけ る変異の有無をスクリーニングしたが 50 の 症例において 変異は認められなかった 害し 細胞質の留めておく働きがあることが 1 Masuda K, Katagiri, Sato, C, MNomura M わかった Kakumoto K, Akagi T,, Kikuchi K, 3 MKP7 は AP-1 を介した転写活性は 酵 Shima. MKP-7, H a JNK phosphatase, b 素活性依存性に SRE を介した酵素活性非依 ERK-dependent gene activation by 存的に阻害することを明らかとした anchoring phosphorylated ERK in cytoplasm. 以上の所見は ホスファターゼが タンパ Biochem Biophys Res Commun 393:2 クータンパク結合を介してシグナル伝達を 2010 負に制御する稀有な例であった 従来ストレス制御にみに働くと考えられていた MKP7 が 2 Tanuma, Nomura N, Ikdea M M, Kusugai I, Tsubaki Y, Takagaki K, Kawamur 細胞増殖制御にも働くことを始めて報告し Yamashita Y, Sato, Katakura I, Sato R, M た ( 論文 1) Kikuchi K, Protein Shima H, phosphatase Dusp26 associates with KIF3 mot (4) 肺癌組織における ホスファターゼ分 promotes N-cadherin-mediaded c adhesion. 子の異常の有無の検討 Oncogene 28:752-76, 2009 1 前癌病変 早期肺癌 進行癌の生検 手術検体 胸水 気管ブラシ洗浄液に関して 3 Sagawa M, Endo Saito C, Sato Y, Sobue M, 凍結保存を行った T, Usuda K, Aikawa H, Fujimura S T, Four year experience of the s 2 上記サンプルからトータル RNA の抽出を quality control of lung cancer s 行い cdna のバンク化を行った サンプルは system in Japan. 匿名化され 組織バンクとして管理するシス Lung Cancer 63:291-294, 2009 テムを作製した 4 Endo C, Honda M, Sakurada A, 3 PTP, DSP, PP に属する全部で Saito 50 のホス Y, Kondo T, Immunocytoch ファターゼ遺伝子発現の解析のため TaqMan evaluation of large cell neuroe プローブを用いてのリアルタイム PCR の条件 carcinoma of the lung, を設定した Acta Cytol, 2009 53:36-40 4 遺伝子変異を簡便 安価 短時間にスク 5 Yamanaka S,, Gu Fujisaki Z, Sato R, M リーニングするために high resolution Inomata K, Sakurada A, Inoue A, melting (HRM) システムを導入することとし Kondo T, Horii A, sirna targetin た 注目している分子に関する条件設定を行 EGFR, a promising candidate for therapeutic application to った adenocarcinoma 以上の解析により ホスファターゼ遺伝子 Pathobiology 75:2-8,2008. のうち 肺癌でその発現の異常亢進が認めら得るもの 異常減少が認められるものがある 6 Gu Z, Mitsui H, Inomata K, Hond C, Sakurada, A, Okada Sato Y, M Kondo T,

Horii A, The methylation 4 高橋里美 佐藤雅美 一ノ瀬高志 佐川 status of FBXW7 beta-form correlates with 元保 遠藤千顕 佐藤 histological 徹 鈴木弘行 千田 subtype in human thymoma, 雅行 佐久間 勉 佐藤信之 谷田達男 中 Biochem Biophys Res Commun 村好宏 羽隅 377: 透 菅野隆三 近藤 685-688, 丘 : マ 2008. レイン酸イルソグラジンを用いた原発性肺 癌完全切除術後治療の無作為化比較試験 7 Tanuma, Kim N SE, Buellens 第 48 M, 回日本肺癌学会総会 名古屋 Tsubaki 2007/11/9 Y, Mitsuhashi, S, Kawamura Nomura T, M Isono K, Koseki, Bollen H, Sato M, M Kikuchi K,, Nuclear Shima H inhibitor 図書 ( 計 1 件 of ) protein phosphatase-1 (NIPP1) directs protein phosphatase-1(pp1) 1 佐藤雅美, 他 to 呼吸器症候群 ( 第 2 dephosphorylate the U2 版 )III small - その nuclesr 他の呼吸器疾患も含めて - ribonucleoprotein VIII 腫瘍性疾患 E. その他の腫瘍性病変 重 particle(snrnp)component, 複癌 p246-249. spliceosome 日本臨床社 -associated protein 155 (Sap155). J Biol Chem 285,52:35805-35814,2008. 産業財産権 出願状況 ( 計 0 件 ) 8 Yamanaka S,, Gu Fujisaki Z, Sato R, M Inomata K, Sakurada A, 名称 Inoue : A, Nukiwa T, Kondo T, Horii A, 発明者 sirna : targeting against EGFR, a promising 権利者 : candidate for a novel therapeutic application 種類 : to lung adenocarcinoma. 番号 : Pathobiology 75(1):2-8, 出願年月日 2008 : 国内外の別 : 学会発表 ( 計 35 件 ) 1 Miyuki Nomura,, Nobuhiro Isao Tanuma Kasugai, Masami, Hiroshi Sato, Shima 取得状況 ( 計 0 件 ) Dusp26 Associates with KIF3 Motor and Promotes Cadherin-Mediated 名称 : Cell-Cell Adhesion 発明者 : EUROPHOSPHATASE 2009, 権利者 : Protein phosphatases in development 種類 : and disease, Egmond aan Zee, The 番号 Netherlands, : 2009.07.16 取得年月日 : 国内外の別 : 2 佐藤雅美 高橋里美 前田寿美子 阿部 二郎 前門戸任 松原信行 シンポジウム 2 気管支鏡による肺門部画像診断の最先端 その他 Optical biopsy の時代へ-OCTホームページ等による上皮層 から軟骨層までの画像観察 - http://www.pref.miyagi.jp/mcc/ 第 32 回日本呼吸器内視鏡学会学術集会, 東京 2009/5/29 6. 研究組織 3 Yoshikazu Nishino,, Yuko Masami (1) 研究代表者 Sato Minami, Ichiro Tsuji, Trends 佐藤雅美 in (SATO incidence MASAMI) of lung cancer by histological 宮城県立がんセンター研究所 薬物療法学 type in Miyagi, Japan 部 特任研究員 IACR meeting, Sydney, 2008/11 研究者番号 :30250830 4 前田寿美子 野津田泰嗣 高橋里美 小 (2) 研究分担者池加保児 佐藤雅美 : 肺切除術後における血島礼 (SHIMA HIROSHI) 清トロンボモジュリン値の変化宮城県立がんセンター研究所 薬物療法学第 25 回日本呼吸器外科学会総会 2008/5/29 部 部長宇都宮研究者番号 :10196462

(3) 研究分担者田沼延公 (TANUMA NOBUHIRO) 宮城県立がんセンター研究所 薬物療法学部 研究員研究者番号 :40333645 (4) 研究分担者野村美有樹 (NOMURA MIYUKI) 宮城県立がんセンター研究所 薬物療法学部 技師研究者番号 :40390893 (5) 研究分担者佐々木希 (SASAKI NOZOMI) 宮城県立がんセンター研究所 薬物療法学部 臨時職員研究者番号 :50467429