第 10 章新型コロナウイルスの流行による少子化への影響 笹間美桜 1 要旨 新型コロナウイルスの流行による少子化への影響について 出会い 結婚 出産 の各局面においてどのような影響があったかについて分析した 分析の結果 過去の経済危機と同様 将来不安を抱えていることに加え 人との接触の制限 健康へ

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結婚しない理由は 結婚したいが相手がいない 経済的に十分な生活ができるか不安なため 未婚のに結婚しない理由について聞いたところ 結婚したいが相手がいない (39.7%) で最も高く 経済的に十分な生活ができるか不安なため (2.4%) 自分ひとりの時間が取れなくなるため (22.%) うまく付き合え

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調査の背景 埼玉県では平成 29 年度から不妊に関する総合的な支援施策として ウェルカムベイビープロジェクト を開始しました 当プロジェクトの一環として 若い世代からの妊娠 出産 不妊に関する正しい知識の普及啓発のため 願うときに こうのとり は来ますか? を作成し 県内高校 2 年生 3 年生全員

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図表 02 の 01 の 1 世界人口 地域別 年 図表 2-1-1A 世界人口 地域別 年 ( 実数 1000 人 ) 地域 国 世界全体 2,532,229 3,038,413 3,69

1. 結婚についての意識 結婚について肯定的な考え方 ( 結婚はするべきだ 結婚はしたほうがよい ) の割合は男性の方が高い一方 自身の結婚に対する考えについて いずれ結婚するつもり と回答した割合は女性の方が高い 図表 1 図表 2 未婚の方の理想の結婚年齢は平均で男性が 29.3 歳 女性は 2

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次に 母親の年齢別 出生順位別の出生数をみていきましょう 図 2-1は母親の年齢別に第 1 子出生数をみるグラフです 第 1 子の出生数は20 年間で1,951 人 (34.6%) 減少しています 特に平成 18 年から平成 28 年にかけて減少率が大きく 年齢別に見ると 20~24 歳で44.8%

このジニ係数は 所得等の格差を示すときに用いられる指標であり 所得等が完全に平等に分配されている場合に比べて どれだけ分配が偏っているかを数値で示す ジニ係数は 0~1の値をとり 0 に近づくほど格差が小さく 1に近づくほど格差が大きいことを表す したがって 年間収入のジニ係数が上昇しているというこ

29 歳以下 3~39 歳 4~49 歳 5~59 歳 6~69 歳 7 歳以上 2 万円未満 2 万円以 22 年度 23 年度 24 年度 25 年度 26 年度 27 年度 28 年度 29 年度 21 年度 211 年度 212 年度 213 年度 214 年度 215 年度 216 年度

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ポイント 〇等価尺度法を用いた日本の子育て費用の計測〇 1993 年 年までの期間から 2003 年 年までの期間にかけて,2 歳以下の子育て費用が大幅に上昇していることを発見〇就学前の子供を持つ世帯に対する手当てを優先的に拡充するべきであるという政策的含意 研究背景 日本に

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第 3 章各調査の結果 35

第 16 表被調査者数 性 年齢階級 学歴 就業状況別 124 第 17 表独身者数 性 年齢階級 就業状況 家庭観別 142 第 18 表有配偶者数 性 年齢階級 就業状況 家庭観別 148 第 19 表仕事あり者数 性 年齢階級 配偶者の有無 親との同居の有無 職業別 154 第 20 表仕事あ

参考 男女の能力発揮とライフプランに対する意識に関する調査 について 1. 調査の目的これから結婚 子育てといったライフ イベントを経験する層及び現在経験している層として 若年 ~ 中年層を対象に それまでの就業状況や就業経験などが能力発揮やライフプランに関する意識に与える影響を把握するとともに 家

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第 10 章新型コロナウイルスの流行による少子化への影響 笹間美桜 1 要旨 新型コロナウイルスの流行による少子化への影響について 出会い 結婚 出産 の各局面においてどのような影響があったかについて分析した 分析の結果 過去の経済危機と同様 将来不安を抱えていることに加え 人との接触の制限 健康への不安 が加わることで 各ステージに過去の経済危機以上に悪影響が及んでいることが分かった 他の先進国においても同様の傾向が見られ 2021 年は大幅に出生数が減少する懸念がある また 子育て世帯の家事 育児負担の増大により夫婦関係が変化していることや 経済弱者に対する影響がより顕著に表れていることが分かった 1. はじめに 一昨年来 世界中で流行している新型コロナウイルスは 経済や社会に大きな変化を及ぼしており 少子化にも深刻な影響を与えることが懸念されている 日本は 新型コロナウイルスの流行前から少子化が深刻化しているが 2021 年は新型コロナウイルスの影響を受け これまでの想定を上回るペースで出生数が減少すると見込まれている そこで本章では 2021 年 4 月中旬時点で公表されているデータや意識調査を用いて 新型コロナウイルスの流行が少子化にどのような影響を与えているかを分析する その際 新型コロナウイルスの流行は 過去の経済危機にはなかった 人との接触を制限 することが求められたという特徴があるので これが少子化にどのような影響を与えているかを併せて確認する 分析に当たっては 日本では 結婚してから出産することが一般的であることを踏まえ 出会い 結婚 出産 の3 局面において確認する また 他の先進国においても日本と同様に 新型コロナウイルスの影響により出生数が減少することが懸念されており 例えばブルッキングス研究所によると 2021 年のアメリカの出生数は30 万人減少すると予測されている 2 これについて本章では 各国の最新のデータや意識調査を併せて確認する 1 財務省財務総合政策研究所総務研究部研究員 2 Kearney and Levine (2020).

2. 経済危機と出生に係る先行研究 (1) 先行研究過去の経済危機と出生の関係に係る先行研究はすでに多方面において実施されている 経済危機により景気の見通しの悪化や労働市場環境の悪化が引き起こされることによって将来の生活水準の不確実性が増大し 結婚 出産意欲の低下や出産の延期を引き起こし 出生数が減少すると考えられている さらに 感染症流行時においては 健康に係る不確実性の増大も生じると考えられている 以下では 日本とアメリカの事例を取り上げて確認する 1 日本の事例日本の経済と出生率についての先行研究によると 1956 年 ~2006 年における日本の経済成長率 完全失業率 合計特殊出生率の関係を分析した結果 経済成長率と合計特殊出生率の間には強い有意な相関があり 完全失業率と合計特殊出生率の間には強い有意な負の相関があると指摘されている 3 2 アメリカの事例アメリカの経済と出生率についての先行研究によると 2007 年の同国における15~44 歳の女性 1,000 人あたりの出生数は69.1 人であったが 世界金融危機の影響を受けた2012 年には 63.0 人に減少した これは 年間出生数が約 40 万人減少したことを示している さらに 2003 年から2018 年までの州レベルでのデータを分析した結果 失業率が1% 増加すると 同出生数が0.9% 減少すると推計されている 4 (2) 景気後退と婚姻率 出生率の関係アメリカの経済と婚姻数に関する先行研究によると 経済状況が悪化し 失業率が増加すると婚姻数が減少することが示されている 5 しかし 日本では図表 1のように婚姻率 出生率 ( 人口千対 ) ともに下降トレンドであり 景気変動による影響は見られない 3 松田 (2009) は景気や賃金の見通しの悪化は 未婚者の結婚意欲を減退させたと指摘している 具体的には 未婚者の約 5 割は結婚したいと思っているが このうちの約 6 割は経済的に結婚することが難しくなる不安を抱えており 特に今後景気が悪くなると考える未婚者ほど 今後の収入増が期待できないと考え結婚意欲が低くなっていた また 子どもが 1 人の場合は 景気が悪くなると考える人ほど追加の出産意欲が低くなるという関係はみられないが 子どもが 2 人の場合には出産意欲が低下していた つまり 景気や賃金の見通しの悪化は 既婚で子どもが 2 人いる夫婦において 3 人目を産もうとする出産意欲を減退させている と指摘している 4 Kearney and Levine (2020). 5 Schaller (2012).

図表 1 婚姻率と出生率 ( 人口千対 ) ( 出所 ) 厚生労働省 人口動態調査 内閣府 景気基準日付 より筆者作成 3. 日本における 出会い 結婚 出産 への新型コロナウイルスの影響 (1) 出会いへの影響新型コロナウイルス流行による恋愛への影響について 柏木 (2020) が2020 年 11 月に実施した調査結果が図表 2 図表 3である 本調査結果をみると 恋愛のしづらさを感じた人は半数以上に及んでいることが確認できる 恋愛がしにくい理由として 出会いの機会の減少 が最多となっていることから 人との接触機会の減少が直接的に影響を与えていると考えられる また 恋愛や結婚のための活動の実態について株式会社エウレカ (2020) が2020 年 5 月に実施した調査結果が図表 4である これによると 全体の約半数が以前は恋愛や結婚のための活動をしていたが 新型コロナウイルスの影響により活動を休止していることが確認できる

図表 2 新型コロナウイルスが 恋愛 活動に与えた影響 質問 : 新型コロナウイルスの影響で恋愛はしにくくなったか 全くそう思わない 16.7% 非常にそう思う 21.3% そこまで思わない 14.7% どちらでもない 17.4% 多少そう思う 29.9% ( 注 ) 調査対象 :10 代 ~20 代の男女 ( 回収サンプル数 :1,002 件 ) 調査期間 :2020 年 11 月 21 日 ~11 月 30 日 ( 出所 ) 柏木 (2020) の調査より筆者作成 図表 3 恋愛 活動がしにくい理由 経済的理由 恋愛への気力をなくした 出会いの機会が減少した 会えないために心も離れていく 0% 20% 40% 60% 80% 女性男性 ( 注 ) 調査対象 :10 代 ~20 代の男女 ( 回収サンプル数 :1,002 件 ) 調査期間:2020 年 11 月 21 日 ~11 月 30 日 ( 出所 ) 柏木 (2020) の調査より筆者作成 図表 4 新型コロナウイルス 恋愛 結婚 に与えた影響 現在恋活 婚活していない 70% 現在恋活 婚活している 30% 以前は活動していたが 新型コロナウイルスの影響で現在活動を休止している 64% 以前も活動していない 36% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% ( 注 ) 調査対象 :20~39 歳 未婚で交際又は結婚意向あり ( 有効回答数 :200 件 ) 調査期間 :2020 年 5 月 14 日 ~5 月 26 日 ( 出所 ) 株式会社エウレカ調べより筆者作成

(2) 結婚への影響 1 婚姻数の変化図表 5は 2018 年から2020 年の婚姻件数の推移を示したものである 2020 年の婚姻数 ( 速報値 ) は53.8 万件で2019 年の59.9 万件と比較して1 割以上減少し 統計開始以来 最低となっている 2021 年のデータ ( 速報値 ) を見ても 依然として低迷傾向である ただし 2019 年 5 月は令和改元で婚姻数が一時的に増加していることについて留意する必要がある 図表 5 婚姻数の推移 100,000 ( 単位 : 件 ) 90,000 80,000 70,000 60,000 50,000 40,000 30,000 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月 2018 年 2019 年 2020 年 2021 年 ( 出所 ) 厚生労働省 人口動態調査 より筆者作成 2 意識の変化内閣府が公表した若年層の男女 (34 歳以下 ) の結婚への意識変化を表したものが図表 6である 全体的には新型コロナウイルス流行前より結婚への関心が高まっている傾向があり 女性の方がよりその傾向が強い 非正規雇用の男性について サンプル数が102 名分と少ないため一概に判断できないが 正規雇用の男性と比較して 結婚への関心が低くなった と回答した割合が高い

男女男0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 図表 6 結婚への関心への影響 質問 : 今回の感染症の影響下において 結婚への関心に変化はありましたか 11.2% 24.5% 57.4% 3.3% 3.5% 18.3% 29.6% 42.5% 4.9% 4.7% 非正規雇用女正規雇用 5.9% 12.7% 15.1% 26.6% 65.7% 48.2% 5.9% 9.8% 5.8% 4.3% 関心が高くなったやや高くなった変わらないやや低くなった低くなった ( 注 ) 回答者数 : 正規雇用男性 538 名 正規雇用女性 405 名 非正規雇用男性 102 名 非正規雇用女性 139 名 ( 出所 ) 内閣府 (2020) 第 2 回新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識 行動の変化に関する調査 個票データより筆者作成 (3) 出産への影響 1 妊娠届出数の変化 2018 年から2020 年の妊娠届出数の推移を示したものが図表 7である 妊娠届出件数にはすでに新型コロナウイルスの影響が表れている 妊娠した人は母子保健法に基づき市町村に届け出る必要があるが 厚生労働省が全国の市町村から集計した結果によると 2020 年の妊娠届出数は前年を大きく下回っている 特に緊急事態宣言下の2020 年 5 月は前年比 17.6% と2 割近い減少となった 90,000 85,000 80,000 75,000 70,000 図表 7 妊娠届出数の推移 ( 単位 : 件 ) 65,000 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月 2018 年 2019 年 2020 年 ( 出所 ) 厚生労働省 人口動態調査 より筆者作成

2 出生数の変化 2018 年から2020 年の出生数の推移を示したものが図表 8である 2020 年の出生数 ( 速報値 ) は約 87 万人となっている 妊娠と出産に10か月程度の時間のずれがあるため 2020 年までのデータでは新型コロナウイルスの影響は把握できないが 現時点で公表されている2021 年 1 月 ~2021 年 2 月の出生数 ( 速報値 ) は12.4 万人で 前年の14.1 万人と比較して大幅に減少している 例えば 日本産科婦人科学会が2020 年 12 月 12 日に公表した全国 390 施設に対するアンケート調査の結果では 該当施設での2020 年 10 月から2021 年 3 月までの出産の予約の数は7 万 6,871 件で 同じ施設での前年の同時期の出産数 11 万 218 件と比べて およそ31% 少なくなっており 新型コロナウイルスの影響により出産数減少の見込みが示唆されている ただし 予約をせず出産する場合もあるため 実際の出産はこれよりやや増加する可能性がある 図表 8 出生数の推移 85,000 80,000 ( 単位 : 人 ) 他単位 75,000 70,000 65,000 60,000 55,000 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月 2018 年 2019 年 2020 年 2021 年 ( 出所 ) 厚生労働省 人口動態調査 より筆者作成 3 今後の出生数の見通し国立社会保障 人口問題研究所が2017 年 4 月 10 日に公表した 将来推計人口 ( 出生 死亡中位仮定 ) では 年間出生数が70 万人台になるのは2033 年と想定されていた しかし 新型コロナウイルスによる影響を踏まえた試算結果によれば 6 新型コロナウイルスの流行により妊娠を中止又は延期した影響で 2021 年は79 万 2,000 人まで落ち込む見込みと指摘している 6 日本総合研究所の藤波匠 上席主任研究員が新聞社の依頼により 5~10 月の妊娠数を基に試算した結果 https://www.yomiuri.co.jp/national/20201226-oyt1t50230/ ( 最終閲覧日 :2020 年 4 月 30 日 )

4 第 2 子妊娠に係る意識の変化株式会社ベビーカレンダー (2020) の調査によると 7 新型コロナウイルス感染拡大の影響により妊活や不妊治療を休止 延期した人及び妊娠を諦めた人は 第 2 子以降希望者の約 32%( 調査対象者 703 名のうち約 15%) にのぼることが明らかになっている ( 図表 9) 図表 9 第 2 子以降妊娠への影響 ( 注 ) 調査対象 : 株式会社ベビーカレンダーのサービスに会員登録している経産婦 (2016 年 5 月 23 日 ~2019 年 5 月 23 日に出産 ) のうち 現在妊娠中ではない女性 ( 調査件数 :703 件 ) 調査期間 :2020 年 5 月 23 日 ~2020 年 5 月 24 日 ( 出所 ) 株式会社ベビーカレンダー調べより筆者作成 5 家事 育児に関する時間と役割分担の変化 Doepke M. and Kindermann F. (2019) では 女性の家事 育児の負担と出生率には負の相関があることを示している 新型コロナウイルス流行による家事 育児時間の変化及び役割分担の変化を示したものが図表 10 図表 11である ステイホームにより 子育て世帯における男性 女性いずれも家族と過ごす時間が増えたことが調査結果に示されており その分家事も増えたことが想定される 図表 10によると 家事 育児時間の変化は性別による差はあまり見られず いずれも増加傾向が見られた 図表 11によると 家事 育児の役割分担について 夫の役割が増加したという回答が多くなっている 一方で 女性の回答を見ると 妻の役割が増加した 又は 妻の役割がやや増加した と回答した割合が3 割を超えており 夫 妻ともに役割が増加 した割合と合計すると約半数となっていることから 女性の家事 育児負担は増加している傾向であると考えられる 7 株式会社ベビーカレンダー

図表 10 子育て世帯における家事 育児時間の変化 質問 : 昨年 12 月 ( 感染症拡大前 ) と比べて 家事 育児に費やす時間はどのように変化 しましたか 男性 2.3% 8.5% 13.2% 62.3% 4.2% 4.3% 5.2% 女性 2.9% 8.3% 10.9% 62.9% 5.7% 2.7% 6.5% 0% 20% 40% 60% 80% 100% 大幅に増加増加やや増加おおむね変化なしやや減少減少大幅に減少 ( 出所 ) 内閣府 (2020) 第 2 回新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識 行動の変化に関する調査 個票データより筆者作成 図表 11 子育て世帯における家事 育児の役割分担の変化 質問 : 今回の感染症の影響下において 家事 育児に関する夫妻間の役割分担に変化があ りましたか 男性 女性 1.0% 7.3% 9.4% 25.0% 22.7% 14.2% 16.7% 9.5% 35.5% 1.4% 40.6% 16.6% 夫の役割が増加夫の役割がやや増加夫 妻ともに役割が増加 夫 妻ともに役割が減少妻の役割がやや増加妻の役割が増加 ( 出所 ) 内閣府 (2020) 第 2 回新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識 行動の変化に関する調査 個票データより筆者作成

6 家事 育児に関する役割分担の変化と夫婦関係の変化図表 12をみると 子育て世帯において 夫の役割が増加した家庭において夫婦の関係が 良くなった と回答する割合が高い 反対に 妻の役割が増加した世帯において夫婦関係が悪くなる傾向があることがうかがえる 女性の負担と出生率についての先行研究によると 8 女性の負担を下げると出生率が上がることが明らかにされていることから 夫婦関係の改善は 出生率の改善につながる可能性があると考えられる 9 図表 12 夫婦関係の変化 質問 : 家事 育児に関する夫妻間の役割分担が変化して 夫妻の関係はどのように変 化しましたか 夫の役割が増加 15.4% 26.8% 46.6% 3.0% 7.0% 1.0% 夫 妻ともに役割が増加 16.7% 25.0% 45.2% 4.8% 4.8% 3.6% 妻の役割が増加 5.1% 12.0% 63.2% 1.7% 10.3% 7.7% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 良くなったやや良くなった概ね変化無いやや悪くなった悪くなったわからない ( 出所 ) 内閣府 (2020) 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識 行動の変化に関する調査 個票データより筆者作成 7 不安の増加本章 2.(1) 先行研究に記載した通り 将来の先行きへの不安が高まると結婚意欲の低下や出産意欲の低下 延期を引き起こすことが先行研究で示されていることから 不安の増加結果を図表 13に示す 結婚 出産期に相当する20~30 歳代に着目すると 感染症拡大前に比べて 健康や将来全般 生活の維持 収入 仕事に不安が増していると回答する割合が高く 従来の経済危機と同様 経済不安が高まったと感じる人が多いと考えられる 8 Doepke and Kindermann (2019). 9 データのサンプル数に制約があるため 家族構成や家族の就業状況等 家族特性により家事 育児の役割分担がどう変化するか といった分析は実施していない

図表 13 不安の増加 ( 年代別 ) 質問 : 昨年 12 月 ( 感染症拡大前 ) に比べて不安が増していることがありますか ある場 合はどのような不安か あてはまるもの全てを回答してください 10 歳代 20 歳代 30 歳代 40 歳代 健康 22.6% 22.5% 28.3% 30.4% 将来全般 36.9% 27.3% 24.7% 28.0% 生活の維持 収入 15.8% 29.0% 32.8% 36.2% 仕事 16.1% 28.0% 24.4% 27.9% 人間関係 社会との交流 20.8% 16.9% 15.7% 13.4% 親などの生活の維持 支援 8.0% 8.6% 13.4% 15.8% 子供の育児 教育 2.1% 8.0% 22.5% 18.2% 地球環境 地球規模の課題 8.3% 5.2% 5.6% 7.5% 結婚 家庭 5.1% 15.1% 13.0% 6.7% 不安はあるが増してはいない 15.2% 13.6% 15.8% 18.5% 不安はない 7.4% 6.9% 5.8% 5.5% ( 出所 ) 内閣府 (2020) 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識 行動の変化に関する調査 個票データより筆者作成 4. 各国における 出会い 結婚 出産 への新型コロナウイルスの影響 (1) 世界各国における出生数の見通し国際連合経済社会局が公表した 世界人口推計 2019 年版 (UN Population Prospects 2019) における出生数の予測を図表 14で示している 10 日本の2020 年から2025 年の推計値の年平均は87.8 万人となるが すでに2020 年の出生数が85 万人を割っており 2021 年は80 万人を割ると想定されることから 推計値より大幅に減少することが見込まれる 特に 2021 年は推計から約 1 割下回ることとなる また ブルッキングス研究所によると 2021 年のアメリカの出生数は2020 年より約 30 万人減少すると予測されており 日本より減少幅は小さいものの 推計値から1 割近く下回ることとなる 11 2008 年の世界的な金融危機の際には アメリカで出生数の減少が確認されており 新型コロナウイルスによる経済的悪影響が長期化すれば 特に先進国における出生数は急激に減少する可能性がある 10 本章執筆時点では 2020 年版はまだ公表されていない 11 Kearney and Levine (2020). 失業率が 1% 上昇すると出生率が 1% 低下するという分析結果をもとに試算を実施 パンデミック開始後の 1 年間 (2020 年 4 月から 2021 年 3 月まで ) に 失業率が 3.5% から約 9% へと約 5.5% ポイント上昇した可能性が高い この推定値は 米労働統計局の 4 月から 11 月までの観測データに基づいており 今後数ヶ月間はほとんど変化がないと仮定する よって 出生数が 5.5% 減少すると予測し これを 2019 年の出生数 (375 万人 ) に当てはめると 2021 年の出生数は 20 万 6 千人減少するこ とになる

図表 14 世界における出生数の見通し ( 出所 )UN Population Prospects 2019 より筆者作成 (2) 結婚への影響韓国及びスウェーデンの婚姻数の推移を示したものが図表 15である 12 韓国 スウェーデンともに婚姻数は2020 年 4 月頃に減少しており 新型コロナウイルス流行の影響を受けていると考えられる 韓国では 2020 年の婚姻件数が21.4 万件と 前年の23.9 万件と比較して約 1 割減少となっている スウェーデンでは 2020 年の婚姻件数が7.0 万件であり 2019 年の8.9 万件と比較して2 割以上減少している 13 12 月別の婚姻数データが取得可能な国が限られており 本章では韓国およびスウェーデンのみ取り上げ る 13 スウェーデンは事実婚を選ぶ割合も多く 婚外子の割合が半数程度であるため 婚姻数が出生数と同じ動きをするわけではないという点に注意が必要である また 韓国は日本と同様に結婚してから子供を産むカップルが多くの割合を占めているが 婚姻件数は新型コロナウイルスの流行前から下降トレンドであることに留意が必要である

図表 15 各国の婚姻数の推移 ( 単位 : 件 ) 26,000 24,000 22,000 20,000 18,000 16,000 14,000 韓国 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月 2019 年 2020 年 ( 単位 : 件 ) 16,000 14,000 12,000 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 スウェーデン 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月 2019 年 2020 年 ( 出所 ) 大韓民国統計庁 スウェーデン統計局より筆者作成 (2) 出産への影響 1 出生数の変化世界各国の出生数の変化を示したものが図表 16である 一般的に 妊娠から出産まで10か月程度要することから 2020 年のデータでは新型コロナウイルスの影響を測ることは難しいが イタリアでは2020 年 2 月頃から新型コロナウイルスが流行していることを踏まえると 12 月の件数が前年比 1 割減となったのは新型コロナウイルスの影響が出ている可能性があると考えられる 5.0% 図表 16 各国の出生数の増減 ( 前年比 ) 0.0% -5.0% -10.0% -15.0% -20.0% 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月 韓国イタリアスウェーデン アメリカフランス日本 ( 出所 ) 大韓民国統計庁 スウェーデン統計局 フランス国立統計経済研究所 イタリア国家統計局 アメリカ全国保健統計センターより筆者作成

2 ヨーロッパ主要国における妊娠計画の変化ヨーロッパ主要国における妊娠計画についての先行研究によると 14 2020 年に妊娠の計画があった女性のうち約 7 割が計画の中止又は延期を選択したと回答している 特にイタリアでは 計画を 中止 するとの回答が多く 延期 と回答する割合は他国と比較すると低い 中止 とした回答者の属性は国により異なっており イタリアでは30 歳未満で教育年数が少ない人に多く ドイツでは新型コロナウイルス感染者が多い地域でやや多く イギリスでは今後の所得低下の可能性が高い人に多いという結果となっている 図表 17 ヨーロッパ諸国における妊娠計画への影響 イタリア 36.5 37.9 25.6 スペイン 29.3 49.6 21.2 イギリス 19.2 57.8 23.0 フランス 17.3 50.7 32.0 ドイツ 14.2 55.1 30.7 0% 20% 40% 60% 80% 100% 中止延期変更なし ( 注 ) イタリア フランス ドイツ スペイン イギリスの女性 (18~34 歳 ) を対象に調査した Rapporto giovani を用いている 調査期間 :2020 年 3 月 27 日 ~4 月 7 日 ( 出所 )Luppi et al. a (2020) The impact of COVID-19 on fertility plans in Italy, Germany, France, Spain and UK より筆者作成 3 アメリカにおける女性の妊娠計画の変化アメリカにおける女性の妊娠計画についての研究によると 15 パンデミックにより妊娠を遅らせる又は子供の計画人数を減らすと回答した女性の割合は全体で約 3 割に達する 人種別にみると 白人よりも黒人やヒスパニックの方が影響を受ける割合が高い また 世帯年収別にみると世帯年収が低い方が影響を受ける割合が高い 14 Luppi et al. (2020). 15 Lindberg et al. (2020).

図表 18 アメリカにおける妊娠を遅らせる又は子供の計画人数を減らすと回答した割合 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 全体 白人 28% 34% 黒人 ヒスパニック 44% 48% 世帯年収が連邦貧困水準 200% 以上 世帯年収が連邦貧困水準 200% 未満 32% 37% ( 注 1) 対象 : アメリカの女性 (18 49 歳 ) 調査期間 :2020 年 4 月 30 日 ~5 月 6 日 ( 注 2)1 人世帯連邦貧困水準 (2020 年度 )200% の場合 : 約 270 万円 / 年 ( 出所 )Lindberg et al, (2020) Early Impacts of the COVID-19 Pandemic: Findings from the 2020 Guttmacher Survey of Reproductive Health Experiences より筆者作成 5. まとめ 本章では 新型コロナウイルスの流行が少子化にどのような影響を与えるかを調査した 新型コロナウイルスの拡大がこれまでの景気後退と異なる点は 人との接触を制限 することが求められたことである 人との接触の制限 に 経済環境の悪化 や 健康への不安 が加わることで 出会い 結婚 出産 の各局面に過去の経済危機以上に悪影響が及んでいることが分かった また 新型コロナウイルスによる影響を詳細に確認した米欧の調査によれば 非正規雇用労働者等の経済弱者の方が 結婚 出産いずれにおいても影響を受けていることが分かった 現在は 新型コロナウイルスのワクチン接種が始まったが 仮に 感染症の拡大が一定程度収まったとしても 経済の回復が遅れれば 引き続き結婚 出産への影響が長引く可能性がある 新型コロナウイルスの流行した多くの家庭においてステイホームや在宅勤務の影響で家族と過ごす時間が増えたが 家事 育児時間の変化は家庭により状況が異なっていることが分かった 家事 育児の役割分担をみると 夫の役割が増えていると夫婦関係が良くなっている傾向にあり 家事 育児の役割分担が出産をはじめとする夫婦間の関係に影響を与えていることが分かった 先行研究では女性の家事 育児負担軽減が出生率の向上に資することが指摘されており そのような観点からも女性の家事 育児の負担軽減を政策的な課題として検討していく必要がある

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