日本内科学会雑誌第107巻第5号

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本書の読み方 使い方 ~ 各項目の基本構成 ~ * 本書は主に外来の日常診療で頻用される治療薬を取り上げています ❶ 特徴 01 HMG-CoA 代表的薬剤ピタバスタチン同種同効薬アトルバスタチン, ロスバスタチン HMG-CoA 還元酵素阻害薬は主に高 LDL コレステロール血症の治療目的で使 用

院外処方箋の検査値活用法につ??

1治療 かっていたか, 予想される基礎値よりも 1.5 倍以上の増加があった場合,3 尿量が 6 時間にわたって 0.5 ml/kg 体重 / 時未満に減少した場合のいずれかを満たすと,AKI と診断される. KDIGO 分類の重症度分類は,と類似し 3 ステージに分けられている ( 1). ステー

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CQ1: 急性痛風性関節炎の発作 ( 痛風発作 ) に対して第一番目に使用されるお薬 ( 第一選択薬と言います ) としてコルヒチン ステロイド NSAIDs( 消炎鎮痛剤 ) があります しかし どれが最適かについては明らかではないので 検討することが必要と考えられます そこで 急性痛風性関節炎の

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

別紙様式 (Ⅱ)-1 添付ファイル用 商品名 : イチョウ葉脳内 α( アルファ ) 安全性評価シート 食経験の評価 1 喫食実績による食経験の評価 ( 喫食実績が あり の場合 : 実績に基づく安全性の評価を記載 ) 弊社では当該製品 イチョウ葉脳内 α( アルファ ) と同一処方の製品を 200

わが国における糖尿病と合併症発症の病態と実態糖尿病では 高血糖状態が慢性的に継続するため 細小血管が障害され 腎臓 網膜 神経などの臓器に障害が起こります 糖尿病性の腎症 網膜症 神経障害の3つを 糖尿病の三大合併症といいます 糖尿病腎症は進行すると腎不全に至り 透析を余儀なくされますが 糖尿病腎症

BSA(m 2 )= 体重 (kg) 身長 (cm) =1.27m 2 となり 173.6mL/min/1.73m 2 を 1.27m 2 である患者個人の腎機能に換算 ( で補正を外すと ) すると 127.4mL/min になりますが これでも実測 CCr

腎薬ニュース第 5 号 (2007 年 6 月 ;2012 年 1 月加筆修正 ) 熊本大学薬学部臨床薬理学分野平田純生 添付文書どおり腎機能に基づいた投与量にしても起こるアシクロビル中毒の原因は? 1. アシクロビル中毒の症状は? 慢性腎臓病 (CKD) 患者に頻発するアシクロビル バラシクロビル

Ⅰ. 改訂内容 ( 部変更 ) ペルサンチン 錠 12.5 改 訂 後 改 訂 前 (1) 本剤投与中の患者に本薬の注射剤を追加投与した場合, 本剤の作用が増強され, 副作用が発現するおそれがあるので, 併用しないこと ( 過量投与 の項参照) 本剤投与中の患者に本薬の注射剤を追加投与した場合, 本

1)~ 2) 3) 近位筋脱力 CK(CPK) 高値 炎症を伴わない筋線維の壊死 抗 HMG-CoA 還元酵素 (HMGCR) 抗体陽性等を特徴とする免疫性壊死性ミオパチーがあらわれ 投与中止後も持続する例が報告されているので 患者の状態を十分に観察すること なお 免疫抑制剤投与により改善がみられた

尿試験紙を用いたアルブミン・クレアチニン検査の有用性

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学術委員会学術第 1 小委員会 慢性腎臓病(CKD) 患者への適正な薬物療法に関する調査 研究 ~ 腎機能低下患者への投与に関係する添付文書記載の問題点の調査 ~ 委員長東京薬科大学薬学部医療実務薬学教室竹内裕紀 Hironori TAKEUCHI 委員白鷺病院薬剤科和泉智 Satoshi IZUM

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第 90 回 MSGR トピック : 急性冠症候群 LDL-C Ezetimibe 発表者 : 山田亮太 ( 研修医 ) コメンテーター : 高橋宗一郎 ( 循環器内科 ) 文献 :Ezetimibe Added to Statin Theraphy after Acute Coronary Syn

④資料2ー2

腎機能を有効かつ安全な薬物療法に活かす

資料 3 1 医療上の必要性に係る基準 への該当性に関する専門作業班 (WG) の評価 < 代謝 その他 WG> 目次 <その他分野 ( 消化器官用薬 解毒剤 その他 )> 小児分野 医療上の必要性の基準に該当すると考えられた品目 との関係本邦における適応外薬ミコフェノール酸モフェチル ( 要望番号

標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会

Microsoft PowerPoint - 薬物療法専門薬剤師制度_症例サマリー例_HP掲載用.pptx

2 CKD 1. 不適当な食事 2. 感染症 : 尿路感染, 肺炎, 敗血症など 3. 急激な循環状態の変動 : 高血圧, 低血圧 4. 水 電解質異常 : 脱水, 溢水, アシドーシス 5. 尿路疾患 : 尿路結石 狭窄 感染 6. 腎毒性薬剤 : 造影剤, 抗生物質,NSAIDs 7. 手術およ

ータについては Table 3 に示した 両製剤とも投与後血漿中ロスバスタチン濃度が上昇し 試験製剤で 4.7±.7 時間 標準製剤で 4.6±1. 時間に Tmaxに達した また Cmaxは試験製剤で 6.3±3.13 標準製剤で 6.8±2.49 であった AUCt は試験製剤で 62.24±2

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糖尿病性腎症に合併したネフローゼ症候群の治療

糖尿病経口薬 QOL 研究会研究 1 症例報告書 新規 2 型糖尿病患者に対する経口糖尿病薬クラス別の治療効果と QOL の相関についての臨床試験 施設名医師氏名割付群記入年月日 症例登録番号 / 被験者識別コード / 1/12

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心房細動1章[ ].indd

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腎機能を正確に見積もるコツと理論 ~ 投与設計のすべてがここから始まる ~ 阿蘇の雲海 熊本大学薬学部附属育薬フロンティアセンター 臨床薬理分野平田純生

(2) 健康成人の血漿中濃度 ( 反復経口投与 ) 9) 健康成人男子にスイニー 200mgを1 日 2 回 ( 朝夕食直前 ) 7 日間反復経口投与したとき 血漿中アナグリプチン濃度は投与 2 日目には定常状態に達した 投与 7 日目における C max 及びAUC 0-72hの累積係数はそれぞれ

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プラザキサ服用上の注意 1. プラザキサは 1 日 2 回内服を守る 自分の判断で服用を中止し ないこと 2. 飲み忘れた場合は 同日中に出来るだけ早く1 回量を服用する 次の服用までに 6 時間以上あけること 3. 服用し忘れた場合でも 2 回量を一度に服用しないこと 4. 鼻血 歯肉出血 皮下出

はじめに イヌリンクリアランス (GFR) で用いるイヌリンは生体内で代謝されず タンパクと結合せず 完全に糸球体濾過され 尿細管で全く再吸収も分泌もされないため糸球体濾過量の gold standard になります チオ硫酸 Na や造影剤のイオヘキソールなどでもほぼ GFR に近い値が得られます

TDMを活用した抗菌薬療法

デベルザ錠20mg 適正使用のお願い

を用いる必要があります Du Bois の式を用いて体表面積を計算すると 3) BSA(m 2 )= 体重 (kg) 身長 (cm) =1.27m 2 となり 173.6mL/min/1.73m 2 を 1.27m 2 である患者個人の腎機能に換算 ( で補正

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葉酸とビタミンQ&A_201607改訂_ indd

総論 2 腎不全患者に特徴的な薬物動態の変化 薬効 薬物名 商品名 尿中排泄率 (%) 副作用 リバビリン レベトール 50 骨髄抑制, 意識障害 禁忌 アマンタジン シンメトレル 90 不穏, せん妄, 幻視 禁忌 抗ウイルス薬 オセルタミビル タミフル 70( 活性代謝物 99 悪心, 嘔吐,

ただ太っているだけではメタボリックシンドロームとは呼びません 脂肪細胞はアディポネクチンなどの善玉因子と TNF-αや IL-6 などという悪玉因子を分泌します 内臓肥満になる と 内臓の脂肪細胞から悪玉因子がたくさんでてきてしまい インスリン抵抗性につながり高血糖をもたらします さらに脂質異常症

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骨粗しょう症調査

2

Microsoft Word 高尿酸血症痛風の治療ガイドライン第3版主な変更点_最終

egfr(ml/min/1.73 m2 ) が標準体形に補正してある意義は何か? 小柄な体格の方は体格なりの小さな GFR で十分なのに 体表面積未補正値を用いると腎機能を過小評価して分類されてしまうことを防ぐためです かつては日本人の体表面積は 1.49m 2 が用いられていましたが 国際的に 1

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

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日経メディカルの和訳の図を見ても 以下の表を見ても CHA2DS2-VASc スコアが 2 点以上で 抗凝固療法が推奨され 1 点以上で抗凝固療法を考慮することになっている ( 参考文献 1 より引用 ) まあ 素直に CHA2DS2-VASc スコアに従ってもいいのだが 最も大事なのは脳梗塞リスク

虎ノ門医学セミナー

腎機能低下患者における薬剤業務マニュアル表紙 ( 案 ) 腎機能低下患者における薬剤業務マニュアル ( レイアウト例 ) 業務内容を記す 腎機能低下患者への薬学的管理の先駆的および特色ある取り組みをしている施設の業務内容を紹介することで, 多くの薬剤師に広め, 各施設の今後の業務改善の参考になるよう

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第1回肝炎診療ガイドライン作成委員会議事要旨(案)

2006 PKDFCJ

相互作用DB


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日本医薬品安全性学会 COI 開示 筆頭発表者 : 加藤祐太 演題発表に関連し 開示すべき COI 関連の企業などはありません

2. 改訂内容および改訂理由 2.1. その他の注意 [ 厚生労働省医薬食品局安全対策課事務連絡に基づく改訂 ] 改訂後 ( 下線部 : 改訂部分 ) 10. その他の注意 (1)~(3) 省略 (4) 主に 50 歳以上を対象に実施された海外の疫学調査において 選択的セロトニン再取り込み阻害剤及び

糖尿病の薬物療法としては, インスリン療法と経口糖尿病薬 ( 他の箇所との語句の統一が適当と考えられます 経口糖尿病薬 経口血糖降下薬 回答 : 上記のご指摘の点に関しまして修正と語句の統一をさせて頂きました P.12 解説 10 行目 : グリクラジド MR 薬を基本として グリクラジド MR 薬

3. 安全性本治験において治験薬が投与された 48 例中 1 例 (14 件 ) に有害事象が認められた いずれの有害事象も治験薬との関連性は あり と判定されたが いずれも軽度 で処置の必要はなく 追跡検査で回復を確認した また 死亡 その他の重篤な有害事象が認められなか ったことから 安全性に問

日本の糖尿病患者数は増え続けています (%) 糖 尿 25 病 倍 890 万人 患者数増加率 万人 690 万人 1620 万人 880 万人 2050 万人 1100 万人 糖尿病の 可能性が 否定できない人 680 万人 740 万人

(2) レパーサ皮下注 140mgシリンジ及び同 140mgペン 1 本製剤については 最適使用推進ガイドラインに従い 有効性及び安全性に関する情報が十分蓄積するまでの間 本製剤の恩恵を強く受けることが期待される患者に対して使用するとともに 副作用が発現した際に必要な対応をとることが可能な一定の要件

助成研究演題 - 平成 27 年度国内共同研究 (39 歳以下 ) 改良型 STOPP を用いた戦略的ポリファーマシー解消法 木村丈司神戸大学医学部附属病院薬剤部主任 スライド 1 スライド 2 スライド1, 2 ポリファーマシーは 言葉の意味だけを捉えると 薬の数が多いというところで注目されがちで

より詳細な情報を望まれる場合は 担当の医師または薬剤師におたずねください また 患者向医薬品ガイド 医療専門家向けの 添付文書情報 が医薬品医療機器総合機構のホームページに掲載されています

要望番号 ;Ⅱ-286 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 要望者 ( 該当するものにチェックする ) 学会 ( 学会名 ; 特定非営利活動法人日本臨床腫瘍学会 ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 優先順位 33 位 ( 全 33 要望

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複製 転載禁止 The Japan Diabetes Society, 2016 糖尿病診療ガイドライン 2016 CQ ステートメント 推奨グレード一覧 1. 糖尿病診断の指針 CQ なし 2. 糖尿病治療の目標と指針 CQ なし 3. 食事療法 CQ3-2 食事療法の実践にあたっての管理栄養士に

福岡大学薬学部薬学疾患管理学教授

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カテゴリー別人数 ( リスク : 体格 肥満 に該当 血圧 血糖において特定保健指導及びハイリスク追跡非該当 ) 健康課題保有者 ( 軽度リスク者 :H6 国保受診者中特定保健指導外 ) 結果 8190 リスク重なりなし BMI5 以上 ( 肥満 ) 腹囲判定値以上者( 血圧 (130 ) HbA1

者における XO 阻害薬の効果に影響すると予測される 以上の議論を背景として 本研究では CKD にともなう FX および尿酸の薬物体内動態 ( PK ) 変化と高尿酸血症病態への影響を統合的に解析できる PK- 薬力学 (PD) モデルを構築し その妥当性を腎機能正常者および CKD 患者で報告さ

透析看護の基本知識項目チェック確認確認終了 腎不全の病態と治療方法腎不全腎臓の構造と働き急性腎不全と慢性腎不全の病態腎不全の原疾患の病態慢性腎不全の病期と治療方法血液透析の特色腹膜透析の特色腎不全の特色 透析療法の仕組み血液透析の原理ダイアライザーの種類 適応 選択透析液供給装置の機能透析液の組成抗

ピルシカイニド塩酸塩カプセル 50mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにピルジカイニド塩酸塩水和物は Vaughan Williams らの分類のクラスⅠCに属し 心筋の Na チャンネル抑制作用により抗不整脈作用を示す また 消化管から速やかに

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日本内科学会雑誌第98巻第12号

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肥満者の多くが複数の危険因子を持っている 肥満のみ約 20% いずれか 1 疾患有病約 47% 肥満のみ 糖尿病 いずれか 2 疾患有病約 28% 3 疾患すべて有病約 5% 高脂血症 高血圧症 厚生労働省保健指導における学習教材集 (H14 糖尿病実態調査の再集計 ) より

腎機能を正しく評価するための 10 の鉄則改訂 5 版 熊本大学薬学部附属育薬フロンティアセンター 臨床薬理学分野平田純生 標準化 egfr(ml/min/1.73m 2 ) は CKD 重症度分類に使うためのものであり 薬物投与設計には使わない 薬物投与設

( 別添 ) 御意見 該当箇所 一般用医薬品のリスク区分 ( 案 ) のうち イブプロフェン ( 高用量 )(No.4) について 意見内容 <イブプロフェン ( 高用量 )> 本剤は 低用量製剤 ( 最大 400mg/ 日 ) と比べても製造販売後調査では重篤な副作用の報告等はない 一方で 今まで

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(別添様式1)

STEP 1 検査値を使いこなすために 臨床検査の基礎知識 検査の目的は大きく 2 つ 基準範囲とは 95% ( 図 1) 図 1 基準範囲の考え方 2

減量・コース投与期間短縮の基準

インスリンが十分に働かない ってどういうこと 糖尿病になると インスリンが十分に働かなくなり 血糖をうまく細胞に取り込めなくなります それには 2つの仕組みがあります ( 図2 インスリンが十分に働かない ) ①インスリン分泌不足 ②インスリン抵抗性 インスリン 鍵 が不足していて 糖が細胞の イン

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要望番号 ;Ⅱ-183 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 要望者学会 ( 該当する ( 学会名 ; 日本感染症学会 ) ものにチェックする ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 優先順位 1 位 ( 全 8 要望中 ) 要望する医薬品

ロペラミド塩酸塩カプセル 1mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにロペラミド塩酸塩は 腸管に選択的に作用して 腸管蠕動運動を抑制し また腸管内の水分 電解質の分泌を抑制して吸収を促進することにより下痢症に効果を示す止瀉剤である ロペミン カプセル

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第1 総 括 的 事 項

本日の内容 1. 薬剤師とは? 2. 薬のチェックポイント 3. 作用と副作用 4. 薬の飲み合わせ

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1 疾患別医療費札幌市国保の総医療費に占める入院医療費では 悪性新生物が 21.2% 循環器疾患が 18.6% となっており 循環器疾患では 虚血性心疾患が 4.5% 脳梗塞が 2.8% を占めています 外来医療費では 糖尿病が 7.8% 高血圧症が 6.6% 脂質異常症が 4.3% となっています

使用上の注意 1. 慎重投与 ( 次の患者には慎重に投与すること ) 1 2X X 重要な基本的注意 1TNF 2TNF TNF 3 X - CT X 4TNFB HBsHBcHBs B B B B 5 6TNF 7 8dsDNA d

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トピックス Ⅰ. 総論 薬剤師と医師の連携による慢性腎臓病患者の薬剤管理 要旨 診断し, 処方箋を書く医師は, 薬物動態 相互作用について必ずしも得意なわけではない. それを補うためには, これからの薬剤師は 調剤し服薬指導をする人 から 薬物適正使用を推進する人 に変わっていく必要がある. それによって,1 腎機能低下患者の中毒性副作用の未然防止,2 適切な服薬指導による腎機能悪化 心血管合併症の防止,3 腎毒性薬物による薬剤性腎障害の防止について, 医師との緊密な協力によって成し遂げなければならない. 平田純生 日内会誌 107:826~833,2018 Key words 慢性腎臓病, 薬物適正使用, 薬物動態, 相互作用, 薬剤性腎障害 はじめに腎機能が低下した患者に腎排泄型の薬剤を投与することで, さまざまな有害事象が発生する. 神経障害性疼痛治療薬のプレガバリン ( リリカ R ) による耐え難いめまいや意識消失, 同じく腎排泄型の抗不整脈薬のピルシカイニド ( サンリズム R ) による意識消失, シベンゾリン ( シベノール R ) による低血糖が腎機能低下症例で起こりやすいことはよく知られている. 抗ヘルペスウイルス薬のアシクロビル ( ゾビラックス R ) やバラシクロビル ( バルトレックス R ) による呂律困難を伴う意識障害や, 溶解度が低いために遠位尿細管や集合管で結晶を生じることによって起こる腎後性腎障害は皮膚科から, 非ステロイド性抗炎症薬 (non-steroidal anti- inflammatory drugs:nsaids) の漫然投与による腎障害や, 活性型ビタミンD3 誘導体製剤のエルデカルシトール ( エディロール R ) とCa 製剤の併用による高カルシウム血症から起こる薬剤性腎障害 (drug-induced kidney injury:dki) は整形外科からの処方で多発している. これらの診療科はあまり採血をしないため, 腎機能が不明なまま, 腎排泄性薬物やDKI 起因薬物を投与されることがある. このような中毒性副作用には, 薬剤師が十分な注意を払って処方監査し, 用量を適正化したうえで, 副作用の初期症状への対応を患者に服薬指導することで防げるものもある. 熊本大学薬学部附属育薬フロンティアセンター 臨床薬理学分野 Medication Control in Nephrology Field: Remarkable Points. Topics:General remarks:medication management for the patients with chronic kidney disease by collaboration of pharmacists and physicians. Sumio Hirata:Division of Clinical Pharmacology, Center for Clinical Pharmaceutical Sciences, Faculty of Pharmaceutical Sciences, Kumamoto University, Japan. 826 日本内科学会雑誌 107 巻 5 号

特集 腎疾患領域における薬剤管理今注目されるポイント 1. 薬物動態 薬物相互作用に強い薬剤師 1 例を挙げてみる. 例えば, ネフローゼ症候群では血中 LDL-C(low density lipoprotein-cholesterol) 値が上昇しやすくなるため, しばしばスタチン系薬剤が併用される. シンバスタチン ( リポバス R ) のバイオアベイラビリティ ( 非静注製剤が静脈内に入る割合で, 吸収率と初回通過効果によって規定される ) は5% 以下であるが, グレープフルーツジュースを一緒に飲むことで, 活性体のシンバスタチン酸のAUC(area under curve) が7 倍にもなる 1). これにより, 筋肉痛, 横紋筋融解症のリスクが極めて高くなってしまう. しかも, グレープフルーツジュースは小腸の代謝酵素 CYP3A4 を不可逆的に阻害するため, 朝にグレープフルーツを摂取し, 夕食後にシンバスタチンを服用しても相互作用は起こり得る. ネフローゼを起こしやすい膜性腎症等では, 脂質異常症を伴いやすいため, スタチン薬が高頻度で投与されるが, ステロイド抵抗性であることが多く, ステロイドが無効の場合には免疫抑制薬としてシクロスポリンが併用されることがある. シクロスポリンとストロングスタチンであるピタバスタチン ( リバロ R ), ロスバスタチン ( クレストール R ) は併用禁忌となっている. 添付文書上では ピタバスタチン ロスバスタチンの血漿中濃度が上昇し, 副作用の発現頻度が増加するおそれがある. また, 横紋筋融解症等の重篤な副作用が発現するおそれがある と記載されているが, この相互作用はフルバスタチン ( ローコール R ) 以外の全てのスタチンで起こり, そのメカニズムは有機アニオントランスポータであるOATP1B1(OATP-C/ OATP2) を介するスタチンの肝取り込みをシクロスポリンが阻害するためといわれている 2). つまり, シクロスポリンを服用している患者はスタチンが肝で取り込まれない, つまり, 肝代謝されないため, 筋毒性の強いスタチンによる 横紋筋融解症が発症する可能性がある. ピタバスタチン ロスバスタチンのみがシクロスポリンと併用禁忌になっているため, 仕方なくアトルバスタチン ( リピトール R ) をスタチンと併用する医師が多いが, これによって, 多くの患者が筋肉痛を発症している. これに気付かずに放置して横紋筋融解症になれば, 筋肉が崩壊してミオグロビンが血中に入り, 尿細管が障害されて急性腎不全を引き起こす. 今までは, このようなケースは腎炎が急に増悪して腎不全を起こしたと考えられていたが, 実は医原病のケースが多いと思われる. 薬物動態を知っている薬剤師が適切な処方監査をすれば, このようなことから不幸にして透析導入となるような事態は防げる可能性がある. 実は, アトルバスタチンはOATP(organic anion transporting polypeptide) 阻害に加えて肝代謝酵素 CYP3A4 の基質であるため, シクロスポリンによるCYP3A4 の阻害作用もあるためか, 併用禁忌になっているピタバスタチン ロスバスタチンよりも相互作用が強い ( 表 1) 2). これも薬物動態 相互作用の専門家である薬剤師だからこそ防げる相互作用といえるかもしれない. 今や, 薬剤師は 調剤し服薬指導をする人 から, 薬物適正使用を推進する人 に変わりつつある. 2. 病態を踏まえた服薬指導薬剤師には, この他にも, 薬物の適正使用に地道に貢献する重要な仕事がある. 慢性腎臓病 (chronic kidney disease:ckd) は早期発見し, 適切な処置を行えば治療が可能な疾患である. 例えば, 腎機能はそれほど悪化していないものの, タンパク尿が出ている状態 ( ステージ1~ 2: 表 2) では, 糖尿病や高血圧, メタボリックシンドローム等のリスクファクターを有する症例の腎機能が悪化する確率が極めて高いことが知られている. そのため, レニン アンジオテ 日本内科学会雑誌 107 巻 5 号 827

トピックス Ⅰ. 総論 表 1 シクロスポリンとスタチン薬の相互作用 成分名商品名 プラバスタチンメバロチン シンバスタチンリポバス フルバスタチンローコール アトルバスタチンリピトール ピタバスタチンリバロ ロスバスタチンクレストール 脂溶性 + ++++ +++ +++ ++++ ++ バイオアベイラビリティ 18% 5% 以下 30% 12% 60% 20% 主な CYP 代謝酵素 ( ) は基質特異性が低い (3A4) 3A4, 2C8 2C9 3A4, (2C8) (2C9) 2C9, (2C19) グレープフルーツジュースによる血中濃度上昇 2-10 1-4 (AUC) シクロスポリン併用による筋肉痛 横紋筋融 Yes( 数例 ) Yes No Yes Yes Yes 解症の発症 OATP1B1 の基質 Yes Yes or No No ** Yes Yes Yes シクロスポリン併用による血中濃度上昇 (AUC) * 腎機能低下患者への減量の必要性 5-10 倍 23 倍 5-12 倍 6-8 倍 2.6~8.0 倍 3-8 倍 2-4 倍データなし 3 倍 6-15 倍 7.5 倍 6-9 倍 5 倍 4.5 倍 5 倍 5-10 倍 3.8 倍 7 倍 必要なし必要なし必要なし必要なし必要なし減量すべき * 上段は Neurvonen らの報告 a) より, 中段は杉山らの報告 b) より, 下段は平田らの報告 c) より引用 a)neuvonen PJ, et al:simvastatin but not pravastatin is very susceptible to interaction with the CYP3A4 inhibitor itraconazole. Clin Pharmacol Ther 63:332-341, 1998. b) 杉山雄一, 前田和哉 : 薬物トランスポーターの分子多様性, 組織特異性, 遺伝子多型. 日薬理誌 125:178-184, 2005. c) 平田睦子, 他 : シクロスポリンによるスタチン系薬剤の著しい血中濃度増加作用とその機序及び添付文書における情報の解析. Bull Natl Inst Health Sci 123:37-40, 2005. ** フルバスタチンが OATP1B1 の基質になるか否かについては統一された見解がないが, 他のスタチン薬に比しフルバスタチンの血中濃度上昇の影響が最も小さく, たとえ OATP1B1 の基質であったとしても, その基質親和性は低いと考えられている. 表 2 CKD の重症度分類 (CKD 診療ガイド 2012 より引用 ) 重症度は原疾患 GFR 区分 蛋白尿区分を合わせたステージにより評価する.CKD の重症度は死亡, 末期腎不全, 心血管死亡発症のリスクを のステージを基準に,,, の順にステージが上昇するほどリスクは上昇する. 原疾患 尿蛋白区分 A1 A2 A3 糖尿病 尿アルブミン定量 (mg/ 日 ) 正常微量アルブミン尿顕性アルブミン尿尿アルブミン /Cr 比 (mg/gcr) 30 未満 30~299 300 以上 高血圧, 腎炎正常軽度蛋白尿高度蛋白尿尿蛋白定量 (g/ 日 ) 多発性嚢胞腎, 移植腎尿蛋白 Cr 比 (g/gcr) 不明, その他 0.15 未満 0.15~0.49 0.50 以上 G1 正常または高値 90 G2 正常または軽度低下 60~89 GFR 区分 (ml/ 分 /1.73 m 2 ) G3a 軽度 ~ 中等度低下 45~59 G3b 中等度 ~ 高度低下 30~44 G4 高度低下 15~29 G5 末期腎不全 (ESKD) <15 ンシン系 (renin-angiotensin system:ras) 阻害 薬, つまり ACE(angiotensin-converting enzyme) 阻害薬や ARB(angiotensin type1 receptor blocker) の投与を, 血圧低下だけでなくタンパク尿抑制 のために開始する. それによって,CKD の進行 はかなり抑えられるが, この段階では, 患者に 828 日本内科学会雑誌 107 巻 5 号

特集 腎疾患領域における薬剤管理今注目されるポイント CG 式による推算 CCr (ml/ 分 ) 50 40 30 50 体表面積補正 egfr (ml/ 分 /1.73 m 2 ) 40 30 体表面積未補正 egfr (ml/ 分 ) 30 40 50 60 70 80 体重 (kg) 図 1 体重と eccr,egfr の関係 85 歳女性, 血清 Cr 値 1.0 mg/dl, 身長 150 cm の場合 ダビガトランや TS-1 の禁忌領域 自覚症状はないため, 往々にして服薬アドヒアランスが不良で, 再受診しないことが多い. そこで, 薬剤師による服薬指導が不可欠になってくる. これは血圧を下げる薬と書かれていますが, 実はあなたの腎臓を守るとともに, 心臓を守る薬でもあります.CKDは, この薬を飲まなければ, 心筋梗塞や脳卒中, 心不全等で死亡するリスクが非常に高い病気です. 早いうちにCKDが見つかったのはむしろラッキーなことなのですから, この薬をしっかり飲んでください. そして, 毎月必ず受診してください. そうすれば, 腎臓だけでなく, 心臓 血管も守ることができます このように, 早く見つかって良かったですね とポジティブに伝えることが肝心であり, それだけで, 服薬アドヒアランスの改善につながると思われる. また, ほとんどの患者は重症にならなければ症状が出ないためか, 病識を持っていない方が多いため,CKD がどのような病気なのかをしっかり伝えることも, 薬剤師の努めとして大切である. 医学部同様, 薬学部も6 年制となった今, 薬剤師は病態に関する知識及び高いコミュニケーション能力もしっかり身につけていく必要がある. 3. 正確な腎機能の把握も大切添付文書に記載されている腎機能表記の多くがクレアチニンクリアランス (creatinine clearance:ccr) であり, その予測式としてCock- croft-gault(cg) 式の使用が推奨されている. ただし,CG 式は体重が2 倍になればCCrが2 倍に推算され, 加齢とともに低下しやすい式であるという特徴を知っておく必要がある ( 図 1). すなわち, 肥満患者では腎機能を過大評価してしまうという欠点があるため, ハイリスク薬であるダビガトラン ( プラザキサ R ) やTS-1( ティーエスワン R ) の投与時には, このような腎機能の見誤りが出血リスクや 3), 骨髄抑制のリスク増大につながることが想定される. また, 抗がん薬で唯一, 腎機能に応じた推奨投与量を計算できるCalvert 式は以下のように表される. 投与量 (mg)= 設定 AUC(mg/ml/ 分 )[ GFR (ml/ 分 )+ 25)] 欧米では, この式のGFRにCCrを代入しても問題なかった. なぜならば, 血清 Cr 値が0.2 mg/dl 高めに投与されるJaffe 法によって測定していたので,CCr GFRとなっていたためである. しか 日本内科学会雑誌 107 巻 5 号 829

トピックス Ⅰ. 総論 し, 我が国では, 正確に測定される酵素法によるため, 腎機能が過大評価され, 投与量過多になり, 血小板減少症等の副作用が多発している. 体表面積補正 egfr(ml/ 分 /1.73 m 2 ) はmg/ kg,mg/m 2 表記の薬物の投与設計には有用であるが, 標準体型男性以外では固定用量の薬物投与設計には使えない. 図 1 を見ると, 体表面積補正 egfrには体格が全く考慮されていないことがわかる. ただし, 身長 体重から体表面積を算出して補正を外したeGFR(ml/ 分 ) は血清 Cr 値を基にした予測式のなかでは正確性が高いものの, 痩せた高齢者では過大評価しがちであることも理解しておくべきである.MRSA (methicillin-resistant staphylococcus aureus) 等の院内感染では, 痩せた長期臥床高齢者のような易感染患者がターゲットとなり, 血清 Cr 値が低値の症例が多い. そのため, 腎排泄型抗菌薬であるバンコマイシンの投与設計時には, 腎機能の過大評価を避けるため, 血清 Cr 値をもとにした推算式を使用せず, 実測 CCrの測定あるいはシスタチンCをもとにしたeGFRの推算が推奨される. 薬物投与設計には薬物の尿中排泄率と正確な患者の腎機能が必要であり, 医師も薬剤師も患者の体格 活動性を評価したうえで, 腎機能を正しく評価する必要性がある. 4. 薬剤性腎障害を防ぐ DKIが起こりやすい最大のリスクは, 既存の腎機能低下または高齢者であり, 腎毒性のある薬剤に関する医師への情報提供 提言も薬剤師の重要な役割である. 例えば, 高齢者では膝関節痛や腰痛等さまざまな障害を持つ場合が多く, 整形外科で漫然とNSAIDsを長期投与されていることがよくある.NSAIDsは腎血流を低下させるため, 高血圧や動脈硬化が進行している高齢者では腎障害が進行する危険性が高くなる 4). また, 腎虚血を助長する利尿薬,RAS 阻害薬, カルシニューリン阻害薬等の併用でも NSAIDsの腎障害を悪化させる. そのような場合は, 血清 Cr 値の定期的な測定を医師に依頼し, 医師にはNSAIDsの頓服での使用やアセトアミノフェンへの変更を考慮いただきたい. また, 重篤な腎障害患者には, シスプラチン ( ランダ R ), アミノグリコシド系抗菌薬等の腎毒性の強い薬物の投与を避け, できるだけ他剤を選択すべきである. 5. 何がハイリスク薬か米国では, 年間推定 10 万人の高齢者が薬剤有害反応のために入院し, 緊急入院の原因のほとんどが2 つの薬効で占められることが報告されている 5).1 つは抗凝固薬 抗血小板薬による出血, もう1 つはインスリン 血糖降下薬による低血糖である ( 図 2). これら4 種の薬剤が薬剤関連の緊急入院の3 分の2を占め, これまでに ハイリスク薬 と指定された薬剤は入院原因のわずか1.2% しかに関わっていないことが報告された. そして, 入院のほぼ半数を80 歳以上の高齢者が占め, そのほぼ3 分の2が意図的でない過剰服薬によるものである. 具体的には, 抗凝固薬のワルファリンが緊急入院の33% に, インスリンが14% に, アスピリン及びクロピドグレル ( プラビックス R ) 等の抗血小板薬が13% に, 経口血糖降下薬が11% に関与している. もちろん, 抗がん薬は超ハイリスク薬であるという点では, 医療従事者の意識は高いと思われるが, 症例数が多く, 高齢者に投与されることが多いため, 抗がん薬等についても, 投与後の注意深いモニタリングが必要である. ワルファリンは, 透析患者を含む末期腎不全患者で出血リスクが10.3 倍と有意に上昇し 6), 腎機能低下患者に腎排泄性抗凝固薬のダビガトランが投与されたことによって多くの出血による死亡者が出た. スルホニル尿素 (sulfonylurea:su) 薬は重篤な腎障害には禁忌となって 830 日本内科学会雑誌 107 巻 5 号

特集腎疾患領域における薬剤管理今注目されるポイントワルファリンインスリン抗血小板薬血糖降下薬麻薬ジゴキシン HEDIS Beers criteria 用薬薬ジゴキシン除く Beers criteria 通常使用される薬剤不適切使0 5 10 15 20 25 30 35 ハイリスク10,000 人の外来患者あたりの緊急入院者数 図 2 緊急入院の 2/3 を抗血栓薬, 糖尿病薬が占める (Budnitz DS, et al:n Engl J Med 365:2002-2012, 2011 より改変 ) いるが,HbA1cが非常に高値の症例には投与せざるを得ない場合があるかもしれない. ただし, グリベンクラミド ( オイグルコン R, ダオニール R ), グリメピリド ( アマリール R ) 等の代謝物に活性のあるSU 薬は, 活性代謝物が尿中排泄されやすく, 腎不全患者では蓄積して重篤な低血糖を起こしやすいため, 使用すべきでない. 同様に, ナテグリニド ( スターシス R, ファスティック R ) も, 活性代謝物の蓄積によって重症低血糖が起こったことから, 透析を必要とするような重篤な腎機能障害のある患者 には投与禁忌となった. また,SU 薬の投与によって分泌が亢進したインスリンの33% が腎で代謝されるが, 腎機能が低下すると, インスリンの腎における代謝が遅延することによって低血糖が遷延しやすく, 同様に, 腎機能低下患者では低血糖を起こしやすい. しかも,SU 薬による重篤な低血糖は心血管死亡リスクを上昇させることが報告されている 7). ただし, これらの副作用を恐れるあまりに, これらの治療薬が適正に使用されないことになると, 前者では血栓症, そして, 後者では高血 糖によって, 心血管病変の危険性が高まる. これらの薬は必要性が高いものの, 有効治療域の狭いハイリスク薬であるため, 有効かつ安全な投与設計を行う必要がある. 腎機能正常者に投与されても有害反応が起こらない薬物であっても, 腎機能が低下するとハイリスク薬に変わる薬物がある.RAS 阻害薬服用者にスピロノラクトン ( アルダクトン R A) や ST 合剤 ( バクタ R ) を併用すると, 高カリウム血症による突然死を招く可能性が高くなる. また, ワルファリンによる大出血発生率は, 末期腎不全患者では高くなるため, 透析患者の PT-INR(prothrombin time-international normalized ratio) は2.0 未満に維持することがガイドラインで推奨されている. 重症心不全患者を対象としたRALES(Randomized Aldactone Evaluation Study) 試験において, 既存の心不全治療薬に抗アルドステロン薬のスピロノラクトンを追加し, 死亡率を30% 減少できることが明らかになった.RAS 阻害薬とスピロノラクトンの併用はRALES study 後に増加するとともに, スピロノラクトンによる高カリウム血症による死亡者数 日本内科学会雑誌 107 巻 5 号 831

トピックス Ⅰ. 総論 は 6.7 倍になったことが報告されている 8). また, スピロノラクトンとST 合剤併用により, 他の抗菌薬併用者の12.4 倍 (7.1~21.6 倍 ), 高カリウム血症による入院リスクが上昇するという報告がある 9). このように, 高カリウム血症は, 腎機能低下時に発現する可能性が高くなる致命的な副作用の1 つであり, 外来においては, 高齢者で心不全患者の場合は特に, 検査を十分に行う必要があるものと考えられる. このため, 致命的な副作用を来たす恐れのあるハイリスク薬による有害反応を防ぐことも医師 薬剤師の重要な役割と思われる. 前述のように,2011 年には新規抗凝固薬であるダビガトラン ( プラザキサ R ) 服用患者で出血性副作用による死亡例が, 発売半年で24 例報告された. 多くは,CCrが 30 ml/ 分未満の投与禁忌の高齢者であった 10). ダビガトランは尿中排泄率が85% と高い腎排泄性薬物であり,P 糖タンパク質の基質薬物であるため, 心房細動でレートコントロールに併用されるベラパミル ( ワソラン R ) によって血中濃度が上昇し, 出血リスクが高まる相互作用に配慮する必要がある. 実際にベラパミルが投与されているにもかかわらず, ダビガトラン300 mg/ 日 5 日間投与で脳出血を起こし, 意識回復を認めていない 80 歳代男性の報告もある. 他の直接経口抗凝固薬 (direct oral anti-coagulants:doac) は腎排泄性薬物ではないとはい え, いずれも代謝酵素の CYP3A4 の基質であり, 薬物排泄トランスポータの P 糖タンパク質の 基質でもあるため, イトラコナゾール ( イトリ ゾール R ) 等の阻害薬による出血リスク増大は もちろん, リファンピシン ( リファジン R ) 等 の代謝酵素誘導薬による血栓症リスク増大等の 相互作用にも厳重な注意が必要である. これら の点については, 薬物動態 相互作用を専門と する薬剤師との連携及び薬剤師による処方監査 が非常に重要である. まとめ 薬剤師は薬物動態や相互作用の知識に長けて おり, 医師の異なった視点から処方を見て, よ り有効かつ安全で, 目の前の患者さんに配慮し た最高の薬物療法を責任もって提供できるよう にする役割を担っていると考える.2018 年には 看護師, 管理栄養士とともに薬剤師も腎臓病療 養指導師に認定されることから, 今後, 慢性腎 臓病の薬剤管理を多職種連携を充実させるため のリーダーシップを医師とともに担っていく必 要性がある. 著者の COI(conflicts of interest) 開示 : 本論文発表内容に関連して特に申告なし 832 日本内科学会雑誌 107 巻 5 号

特集 腎疾患領域における薬剤管理今注目されるポイント 文献 1 ) Lilja JJ, et al : Grapefruit juice-simvastatin interaction : effect on serum concentrations of simvastatin, simvastatin acid, and HMG-CoA reductase inhibitors. Clin Pharmacol Ther 64 : 477 483, 1998. 2 ) 平田純生, 門脇大介 : 緊急提言 :CKD を腎不全に進行させない薬物療法腎毒性薬物の投与忌避. 薬局 58 : 3010 3121, 2007. 3 ) 平田純生, 他 : 患者腎機能の正確な評価の理論と実践. 日腎薬誌 5 : 3 18, 2016. 4 ) 平田純生, 他 :NSAIDs による腎障害 :COX-2 阻害薬およびアセトアミノフェンは腎障害を起こすか. 日腎誌 58 : 1059 1063, 2016. 5 ) Budnitz DS, et al : Emergency hospitalizations for adverse drug events in older Americans. N Engl J Med 365 : 2002 2012, 2011. 6 ) Jun M, et al : The association between kidney function and major bleeding in older adults with atrial fibrillation starting warfarin treatment : population based observational study. BMJ 350 : h246, 2015. 7 ) Schejter YD, et al : Characteristics of patients with sulphonurea-induced hypoglycemia. J Am Med Dir Assoc 13 : 234 238, 2012. 8 ) Juurlink DN, et al : Rates of hyperkalemia after publication of the Randomized Aldactone Evaluation Study. N Engl J Med 351 : 543 551, 2004. 9 ) Antoniou T, et al : Trimethoprim-sulfamethoxazole induced hyperkalaemia in elderly patients receiving spironolactone : nested case-control study. BMJ 343 : d5228, 2011. doi : 10.1136/bmj.d5228. 10) 高橋尚彦 : 市販後調査に学ぶ. 心臓 47 : 130 134, 2015. 日本内科学会雑誌 107 巻 5 号 833