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人間発達科学部紀要第 11 巻第 2 号 :73-82(2017) 学術論文 バレーボールのスパイク動作におけるバイオメカニクス的研究 - フォワードスイングに着目して - 鳥山大輔 * 布村忠弘 堀田朋基 Biomechanical study about spike motion in volleyball -focusing on forward swing- Daisuke TORIYAMA Tadahiro NUNOMURA Tomoki HORITA E-mail: thorita@edu.u-toyama.ac.jp Abstract This study shows that the spike form realizing the followings simultaneously; the player hits the faster ball, and the ball isn't blocked by the opponent blocker. Also this examines the element of moments realizing the form. The subject assumed it 20 professional league player. I photographed movement playing a game that carried out in a calibration(including left side and center field in the forward area)the spike motion was recorded by two high speed cameras(300fps). And I analyzed the motion by a three-dimensional analysis. Based upon the foregoing, it suggested that it was important to keep the relationship with a right shoulder joint angle and the swing angle against the direction that the trunk moved in the spikes which could avoid a block while keeping fast ball speed. In addition, it suggested that both of motion elements have relationship as trade-off when the player can avoid a block while keeping fast ball speed. Both of motion elements need to be decreased to get fast ball speed. Also both of motion elements need to be increased to avoid a block. keywords:ball speed, block, trade off Ⅰ. 諸言バレーボールにおいてスパイクは基本技術の一つである 他の基本技術と比べて最も違う点として動作を空中で行うということが挙げられる 支持する物のない空中で速いボールを打つ, コースに打ち分けるということは容易な技術ではない その中で体をどのように動かすかによって, 発揮できる力の強さと可動域は変容すると考えられる まさに体の動きだけで力を生み出すスパイク動作の実態を研究する スパイク動作における先行研究では動作の良し悪しの指標として打球速度を併せて算出することによってそれぞれの動作を評価しているものが多い 打球速度が速いスパイクは遅いスパイクよりも高いパフォーマンスを示していると言うことができるが, スパイクのパフォーマンスは打球速度によってのみ決まる * 富山市立光陽小学校教諭 ( 現職 ) のではない また, スパイク動作に関する研究は実験室的な研究が多く, 試合中においてブロックを抜くスパイク動作を三次元的に分析した先行研究はほとんどない しかし, スパイカーには阻害要因が存在する状況下で得点するスパイクを打つことが求められる また, 実際に点数がついた様々な圧迫感の中で, 強く打球しコースに打ち分けるスパイク動作では, 実験室的な研究とは違った動作要因を発現する可能性がある このとき試合中に求められる動作要因は試合中の動作を検証してみなければ分からない 試合中の動作を検証する上で, ブロックはスパイク動作を阻害する要因の一つである そのブロックを抜くことができるかどうかということに関しては, 都澤ら 9) は どのような位置でボールにコンタクトするのかは, スパイクで最も重要な基本の一つである と述べている また スパイクについても理想的なスイングのモデルが存在するはずであり, 求められることはいうまでもないことである とも述べ 73

ている そこで今回は試合中の動作を分析対象とし, 打球速度 と ブロックを抜くことができているかどうか という 2つの領域によって群分けを行う その上で 速い打球速度を保ちつつブロックを抜くことのできるスパイク をより理想のスパイクのモデルに近いとし, 試合の中に見られたスパイク動作を三次元分析によって定量的に解析し, 求められる動作の実態を明らかにする 本研究では, 試合中の分析であるが故に統制できない要因も含めた試合中の動作を, ブロックを抜いて強打できるスパイクとそうでないスパイクとの比較の中から 実際の試合において速い打球速度を保ちつつブロックを抜くことのできるスパイク フォームの実態とこれを発現させるために必要となる動作要素を探ることを目的とする 1. 被験者 Ⅱ. 方法 被験者はバレーボールV プレミアリーグ選手 9 名と,V チャレンジリーグ選手 11 名の計 20 名とした ポジションによる内訳はサイドプレイヤー 14 名, センタープレイヤー 6 名とした 2. 分析したスパイクの分類 306 本のスパイクの中から不適格試技を除いた39 試技を厳選した サイドのスパイクはサイドgood 群, サイドpoor 群 1, サイドpoor 群 2, サイドpoor 群 3の 4つの群に分類し, センターのスパイクは good 群と poor 群の 2つの群に分類した ( 各 5 試技 ) サイドのスパイクのサイド poor 群 2は, ブロックを抜くことができてはいるが, 打球速度が遅い試技である これは打球時にボールの進行方向を変えただけで, ブロックを抜けても容易にレシーブされてしまうことが考えられるため,poor 群の一部とみなした センタースパイクにおいてはブロックを抜くことができた試技を good 群, ブロックを抜くことができなかった試技を poor 群とした ( 表 1) 表 1 サイドのスパイク試技の群分け 打球速度ブロック 抜けた 抜けなかった 速い good 8 試技 poor3 8 試技 遅い poor2 6 試技 poor1 7 試技 群分けにおける打球速度の平均速度は不適格試技のみを除いた段階で得られた125 試技 ( 所属が曖昧なスパイクを除く前段階として306 本のスパイクの中から不適格試技のみを除いたスパイク ) の中からサイドの全スパイクを抽出し, その平均値を求めこれを平均速度とした ( 平均速度 19.34m/s) この平均速度を境界として打球速度の速い, 遅いを判別した 3. 実験日時 場所 1) 実験日時 場所 平成 26 年 7 月 4 日,5 日に富山県黒部市総合体 育センターにて開催された 2014 V サマーリー グ女子大会 1 次リーグ 西部大会 で撮影を行っ た 4. 撮影 測定 カメラは 2 階観客席にコート側方から 1 台, コート後方から 1 台設置した カメラは 2 台とも CASIO 製 EXILIM EX-F1 を使用し, 撮影速度 300fps, シャッタースピード 1/1000s,ISO 感度 200 に設定した キャリブレーションは4 本のキャリブレーションポール ( 図 1) を 3 回移動させて撮影し, これを合成することにより12 本のポールで三次元のキャリブレーションエリア ( 図 1) を作成した また, キャリブレーションポールでキャリブレーションエリアを作成するにあたり原点をレフト側のサイドラインとアタックラインが交差する点に設定した 原点からサイドライン方向を x 成分, 原点からアタックライン方向をy 成分, 原点から鉛直方向を z 成分と定義した 5. 分析 図 1 キャリブレーションポール及びキャリブレーション範囲 1) 動作分析両カメラによる動作分析は, 動作解析ソフト (DHK 社製,FrameDIASⅤ) を用いた 頭頂, 両 74

バレーボールのスパイク動作におけるバイオメカニクス的研究 肩, 両肘, 両手首, 両大転子, 両膝, 両足首の13 点をデジタイズポイントとした デジタイズした座標値は,3 次元 DLT 法に基づいて実座標値に換算し, デジタルローパスフィルター ( 遮断周波数 28~ 35Hz( 自動設定 )) を用いてデータを平滑化した 2) スイング動作スイング動作のパフォーマンスの度合いを比べる指標として各要素を定量的に解析するべく, 以下の項目をあげた 打球速度 : インパクト時から 5コマ後までの平均速度ムチ動作 : スイング動作における右肘速度が最速点に達した時点での右手首速度との差 ( 各速度は三次元合成速度 ) 右手首速度 : インパクト時の右手首の速度体幹最大捻り角度 : 両肩を結ぶ線分と両大転子を結ぶ線分とのなす角がテイクバック開始時からフォワードスイング中の範囲内で最も大きい体幹の捻り角度体幹捻り戻し角速度 : 体幹捻り角度の角度変位を時間微分することによって得た角速度右肩関節角度 : インパクト時の右肩の関節角度フォワードスイング準備時間 ( 以下 FSPT): 三次元分析座標において, 右肩を定点とした 上肢のスイングにおけるテイクバック時の右肘 z 座標の変位が最下点に到達した瞬間からフォワードスイング開始による右肘 x 座標変位,y 座標変位双方が増加する時点までの時間対体幹スイング角度 : 左肩と右肩を結んだ線と右肩と右肘を結んだ線との成す角を求めた 右肩から左肩を第 1ベクトルとし, 右肩から右肘を第 2ベクトルとして第 1ベクトルを基準に定めたときの 2つの空間ベクトルが成す角度 ( 図 2) 図 2は YZ 平面に投射した時のスティックピクチャであるが, 本来はベクトルをもった部位の動作を三次元的に解析した時の左肩 - 右肩 - 右肘の成す角である 図 2 対体幹スイング左肘速度 : テイクバック角度定義 開始時からフォワードスイング中の範囲内における左肘の速度換算質量 : インパクト時に効率良く力を伝えているかどうかの指標体幹捻り戻し-スイング方向一致度 : 体幹の動きを回旋による捻り戻し動作に着目した時の, 体幹の動きと上肢のスイングの連動性 ( 一致度 ) 動作をxy 平面に投射した時の右肩速度がピークに達した時の右肩が動いた方向 A( 図 3) と右肘速度がピークに達した時の右肘が動いた方向 B( 図 4) をそれぞれx 軸との成す角として求め, 両角図 3 右肩が動いた方向 A 図 4 右肘が動いた方向 B 75

度の差の絶対値をこの項目の値とした プロットした,, は右肩及び右肘の軌道である スイング- 打球方向一致度 : 打球が進んだ方向と上肢のスイングの連動性 ( 一致度 ) 動作を xy 平面に投射し, インパクト後の右手首の動いた方向 C( 図 5) と打球が動いた方向 D( 図 6) をそれぞれ x 軸との成す角として求め, 両角度の差の絶対値をこの項目の値とした インパクト直後はイ ンパクトによる動きのブレがあるため, インパクト後 3コマ後から 4コマ後までに右手首と打球が動いた方向を算出した プロットした,,, は右手首及び打球の軌道である 3) 統計処理 6つに分類した群をそれぞれの動作分析項目間に相関関係があるかどうかを見るために相関分析を行った また, それぞれの群間に各動作要素の違いがないかを検証するべくサイドのスパイクにおいては一元配置の分散分析を行い, センターのスパイクにおいては独立したサンプルの t 検定を行った 分散分析においては Tukey の方法による多重比較を行った なお, 本研究ではいずれの検定においても有意性は危険率 5% 水準で判断した また, 危険率 5% 以上 10% 未満のものについては有意な相関傾向とした 統計処理には統計処理ソフト ( エスピーエスエス株式会社製,SPSSStatistics19.0) を使用した Ⅲ. 結果 考察 図 5 右手首が動いた方向 C 1. 各群の特徴 1) サイド poor 群 1 右肩関節角度と FSPT との間に有意な正の相関傾向, 体幹捻り戻し-スイング方向一致度との間に強い正の相関関係 ( 図 7) が見られた また FSPT とスイング- 打球方向一致度との間に有意な正の相関傾向が見られたことから, 動作の順序性を考えると FSPT が長くなることによって体幹の捻り戻し方向と上肢のスイング方向との間にズレが生じ, 右肩関節角度が大きくなるということが考えられる これによって打球速度が増大するということは動作の連動性から考えると合理的ではなく, 速い打球速度を得られなかった動作の特徴であると考えられる 図 6 打球が動いた方向 D 図 7 サイド poor 群 1 体幹捻り戻し - スイング方向一致度と右肩関節角度との関係性 76

バレーボールのスパイク動作におけるバイオメカニクス的研究 また平均値に着目すると右手首速度が8.49±1.72 m/s と最小でありながら換算質量も0.61±0.15kg と最小であることからインパクト時の効率の悪さも窺える 2) サイド poor 群 2 速い打球速度を生み出すために関連している項目はない 対体幹スイング角度と体幹捻り戻し角速度, 右肩関節角度との間に有意な正の相関傾向が見られた この中でも対体幹スイング角度と右肩関節角度との関係性を有していることがブロックを抜くことに繋がっていると考えられる また右手首速度が他の群よりも高い値を示したが, 換算質量は小さく打球速度も低い値を示したことから, 効率の悪いインパクトが行われたことが考えられる この群のフォームではブロックを抜くことはできてはいるが, 効率の悪いインパクト等の速い打球速度を保つことを阻害する要因があったと考えられる 3) サイド poor 群 3 FSPT と体幹捻り戻し-スイング方向一致度との間に有意な負の相関傾向が見られたことから, 長くタメることが体幹の力を上肢のスイングに連動させることに繋がっていると考えることができる この動作要素関係を有していることが打球速度に関係していると推察される また和田ら 12) の先行研究では 手速度は大きなボール速度を得るための必要条件の一つであると考えられる と述べられており, 右手首速度が速いと打球速度も速いと言える この群では右手首速度が高い値を示していないにもかかわらず, 打球速度は高い値を示していた これは換算質量が高い値を示していたことから効率の良いインパクトが発現されていることが考えられる しかしブロックを抜くための対体幹スイング角度と右肩関節角度との関係性が見られなかったことがブロックを抜けないことに繋がっている 4) サイド good 群打球速度は対体幹スイング角度との間に強い負の相関関係が, 右肩関節角度との間に負の相関関係が見られた また, 右肩関節角度と対体幹スイング角度との間にも正の相関関係が見られた このことは両動作要素が打球速度を遅くすることを示唆している 両動作要素が大きくなることで打球速度を減速することに繋がるが, 同時にブロックを抜くことに寄与していることが考えられる すなわち速い打球速度を保ちつつブロックを抜くことができているス 77 パイクでは, 打球速度を速くすることとブロックを抜くことはトレードオフの関係性を有していることが示唆され, このバランスを上手く保った動作であると言える 対体幹スイング角度の値が, サイド 4 群の中でこの群のみ低い値を示した このことから他群と相違ないが, 対体幹スイング角度を一定の大きい値に保っていることが窺える 各動作要素は図 8の関係性を示している 図 8 サイド good 群相関関係図 5) センター poor 群右肩関節角度と打球速度との間に負の相関関係 ( 図 9) が見られた このことから高い位置でボールをとらえることによって打球速度が遅くなることが示唆される また, ムチ動作と右手首速度との間に正の相関関係 ( 図 10) が見られた 図 9 センター poor 群 右肩関節角度と打球速度 との関係性 図 10 センター poor 群との関係性 右手首速度とムチ動作

6) センター good 群体幹最大捻り角度と体幹捻り戻し角速度との間に正の相関関係 ( 図 11) が見られた また, ムチ動作と右手首速度との間に負の相関関係 ( 図 12) が見られた これらから大きく体幹を開くことが体幹の捻り戻し速度を速くすることにつながり, これが打球速度の増大にも関係していると考えられる ブロックを抜くことに寄与していると動作項目と考えられる対体幹スイング角度は打球速度との間に有意な負の相関傾向が見られた したがって, 打球速度を速くすることはブロックを抜くことに関しては阻害要因になると考えられる 図 11 センター good 群体幹捻り戻し角速度と体幹最大捻り角度との関係性 せるためにはムチ動作, 右手首速度, 体幹捻り戻し速度が重要と考えられるが, 今回差が見られなかったことは試合中の動作を分析したことによると思われる 打球速度を速くするだけでなくブロックを抜くという指標が加わっていることから, ムチ動作を発現するのびやかなフォームを発現している時間がないスパイクであったことが窺える 打球速度において右肩関節角度がサイド poor 群には逆相関関係 ( 図 13), サイド poor 群 1には相関関係 ( 図 14) が見られたことから右肩関節角度が両群において逆の関係性を持つことが考えられる 両群の右肩関節角度と相関関係をもつものは異なっている good 群においてはスイング- 打球方向一致度と有意な正の相関傾向が見られ,poor 群 1においては FSPT と有意な正の相関傾向, 体幹捻り戻し-スイング方向一致度との間に強い正の相関関係が見られた また平均値に有意な差を見ることはできなかったが, サイド 4 群の内 good 群は打球速度, 換算質量が最も高く,poor 群 1では最も低い値を示し加えて右手首速度も最小であった このことから, インパクト時の効率の良し悪しが打球速度に差を生んでいると考えられる また poor 群 1に 図 12 センター good 群の関係性 右手首速度とムチ動作と 図 13 サイド good 群の関係性 右肩関節角度と打球速度と 2. 各群間の比較それぞれの比較においては 打球速度の大小 と ブロックを抜けるか抜けないか を指標とし, 共通点 相違点から考察する 1) サイド good 群とサイド poor 群 1との比較打球速度の相違両群間で打球速度に有意な差が見られた 他の動作要素に有意な差は見られなかった 堀田ら 7), 橋原 6), 和田ら 12) の先行研究から, 打球速度を増大さ 図 14 サイド poor 群 1 との関係性 右肩関節角度と打球速度 78

バレーボールのスパイク動作におけるバイオメカニクス的研究 おいて各動作要素が連動していないことも打球速度の低下に影響を与えていると考えられる ブロックを抜けるか抜けないかの相違 good 群では右肩関節角度と対体幹スイング角度との間に正の相関関係 ( 図 15) が見られたが poor 群 1には見られなかった またgood 群では対体幹スイング角度がムチ動作との間に負の相関関係が見られたことから, ムチ動作は小さい方がブロックを抜く動作を発現することに寄与すると考えられる 対して poor 群 1のムチ動作には FSPT との間に有意な正の相関傾向が見られた このことから FSPT が長い方が, ムチ動作が大きい傾向が見られ, これは実験的な動作においては理想的な動作連動であるが, 結果的に打球速度が遅くブロックを抜くこともできていないことから, 試合中のスパイク動作においては阻害要因になる可能性も考えられる 図 15 サイド good 群対体幹スイング角度と右肩関節角度との関係性 2) サイド good 群とサイド poor 群 2との比較打球速度の相違 poor 群 2において, 体幹の速い捻り戻し動作は右肩関節角度と対体幹スイング角度との間に相関傾向があることが分かった good 群のデータから, ブロックを抜いたうえで速い打球速度を得るためには インパクト時の右肩関節角度を小さく し, インパクト時の対体幹スイング角度を小さく し, スイング- 打球方向一致度を小さくする ( 一致させる ) ことが重要であることが考えられる したがって poor 群 2において体幹を速く捻り戻すことは, 右肩関節角度と対体幹スイング角度を大きくすることに関係があるという点から good 群の結果と相反するものであると言える 橋原 6), 和田ら 12) の先行研究から, 捻り戻しの速度を速くすることは打球速度を速くするために必要と考えられるが,poor 群 2においては体幹の捻り戻し角速度が条件と逆の関係性をもっていることから速い打球速度を得ることができなかったことが考えられる ブロックを抜くための共通点両群に共通して対体幹スイング角度と右肩関節角度との間に相関関係が見られたことから, ブロックを抜くことにおいてこの関係性が重要であることが分かる また good 群では対体幹スイング角度と打球速度との間に強い負の相関関係が見られた このことから, 対体幹スイング角度を打球速度を落とさない限りで大きく保つことが求められる このバランスを保てずに右肩関節角度が大きくなり対体幹スイング角度が大きくなった動作の群が poor 群 2であり, 結果的にブロックを抜くことはできたが, 打球速度は遅くなっているということが考えられる good 群に見られたトレードオフの関係性が poor 群 2には見られなかったことは,poor 群 2において両動作要素のバランスを上手く保てなかったことが打球速度の差として現れたことを示している 3) サイド good 群とサイド poor 群 3との比較打球速度が速い共通点打球速度が速いことに関して両群に共通点は見られなかった このことから, 同じ速い打球速度を保てているスパイクフォームも, ブロックを抜くことができているかできていないかによって, 打球速度を速くする動作要素は変わってくると考えられる ブロックを抜けるか抜けないかの相違前述の good 群と poor 群 1との比較においてバランスが重要と述べたが, その中で大きい対体幹スイング角度を得ていたことが poor 群 3との違いであることから, 大きい対体幹スイング角度を保てていなかったことが, ブロックが抜けないことに関係していたと考えられる poor 群 3は速い打球速度を得た動作群であるが,good 群に見られる右肩関節角度と対体幹スイング角度との関係によるものではなかったため, ブロックを抜くことができていないと考えられる 4) サイド poor 群 1とサイド poor 群 2との比較打球速度が遅い共通点 poor 群 2においては効率の悪いインパクト,poor 群 1に至ってはさらに各動作要素の非連動性によって, 速い打球速度が得られないといった結果に至っている 平均値に差を見ることはできないが両群はサイド 4 群の内で打球速度, 換算質量の値が共に 79

低い また poor 群 2においては右肩関節角度と対体幹スイング角度のトレードオフの関係性を上手く調整することができなかったことによることも打球速度の低下に関係していると考えられる ブロックを抜けるか抜けないかの相違両群において体幹の捻り戻し角速度が対体幹スイング角度との間に有意な正の相関関係を見ることができ, この関係性については共通している しかし右肩関節角度と対体幹スイング角度との間に相関関係が poor 群 1には見られず, この違いがブロックを抜けるか抜けないかに関わっていると考えられる 5) サイド poor 群 1とサイド poor 群 3との比較打球速度の相違 poor 群 3においては打球速度を速くすることに関係性をもっている動作要素がなかった しかし poor 群 1においては右肩関節角度と打球速度との間に正の相関関係が見られ, この結果は good 群と真逆の性質をもつと言えるため, 打球速度に差が見られたと考えられる ブロックを抜くことができない共通点右肩関節角度と対体幹スイング角度との関係性が両群に見られなかったことがブロックを抜けないことに繋がっていると考えられる ブロックを抜くことができている good 群,poor 群 2においては体幹捻り戻し角速度もパフォーマンスに影響を与えていることが相関関係から考えられるが, これらの動作要素に関係性を見ることができなかったこともブロックを抜けなかったことに関係していると考えられる 6) センター good 群とセンター poor 群との比較ブロックを抜けるか抜けないかの相違右手首速度とムチ動作との間に good 群では負の相関関係 ( 図 12) が,poor 群では正の相関関係 ( 図 10) が見られ, 両群間において両動作要素の関係性が逆の性質をもつことが分かる また, ムチ動作と換算質量との間にgood 群では強い正の相関関係が,poor 群では有意な負の相関傾向が見られた したがって大きいムチ動作を得ることによって右手首速度を速くすることなく効率良くインパクトすることがセンタースパイクにおいてブロックを抜けるか抜けないかに関係していると考えられる 両群において体幹最大捻り角度と関係性のある動作要素がそれぞれある good 群においては体幹捻り戻し角速度との間に正の相関関係が見られ,poor 群にお いてはスイング- 打球方向一致度との間に正の相関関係が見られた また, 両群間において体幹捻り戻し角速度の平均値に, 有意な相関傾向が見られた これらのことから, 体幹を大きく捻ることはブロックを抜く上で重要であるが, ブロックを抜けていない時は体幹を大きく捻ることがブロックを抜くことではなく, 打った方向とスイングした方向にズレを生じさせることに繋がっていると言える 対してブロックを抜けている時は速い捻り戻しの角速度を発現することに繋がっていると言える また平均値の差から, センタースパイクにおいてブロックを抜くためには, 体幹の捻り戻し角速度の増大が重要であることが示唆される したがって体幹を大きく捻ることによって体幹の捻り戻し角速度を増加させることがブロックを抜くことに寄与していると推察される また,poor 群においては体幹捻り戻し角速度が体幹捻り戻し-スイング方向一致度との間に有意な正の相関傾向が見られたことから, 体幹を速く捻り戻すことはブロックを抜く上で重要であるが, 体幹の捻り戻し方向とスイングの方向とにズレが生じるとブロックを抜けないスパイクに繋がることが考えられる その他の動作要素に差が見られなかったことは, 今回ブロックを抜くということに焦点を置いたことに起因している可能性がある 体幹捻り戻し角速度に有意な差がある傾向が見られたことは, 体幹捻り戻し角速度がセンタースパイクにおいてブロックを抜くために必要な動作であることを裏付けている またサイドのスパイクの群比較において行った Tukey の方法による多重比較では, どの動作要素においても有意な差は見られなかった 以上のことから速い打球速度を得ることのできるスパイクにおいては, 右肩関節角度と対体幹スイング角度との関係性を保つことが重要であることが示唆された またブロックを抜くことができている群 (good 群,poor 群 2) とできていない群 (poor 群 1,poor 群 3) とでは, 右肩関節角度と対体幹スイング角度との間に違いが見られた ブロックを抜くことができている群では右肩関節角度と対体幹スイング角度との間に有意な相関が見られたが, ブロックを抜けていない群には有意な相関は見られなかった このことから, ブロックを抜くことにおいては両動作要素の関係性を保つことが重要であると考えられる この時, 打球速度を速くすることとブロッ 80

バレーボールのスパイク動作におけるバイオメカニクス的研究 クを抜くことにおいて両動作要素はトレードオフの関係性を有していることが示唆された 求められるスパイクにおいて速い打球速度を得るためには両動作要素を小さくすることが必要であり, ブロックを抜くためには両動作要素を大きくすることが必要であることが考えられる 図 16 に見られるように対体幹スイング角度の平均値と打球速度の値を見ると対体幹スイング角度が大きくなるほど打球速度が低くなることが分かる 図中で, 縦軸 横軸の点線はそれぞれの項目の平均値を示している また打球速度が速い値では右肩関節角度と対体幹スイング角度の値は低くなり, これはブロックを抜けないことに繋がる すなわち両動作要素のバランスが重要であることが分かる 図 16 対体幹スイング角度と右肩関節角度との関係性 また試合中であることによる統制できない環境の差によって, 実験室的に行われた研究とは異なった結果が得られたことから, 環界の差を含めた試合中の動作は整った環境での動作とは違った動作になり得ることが示唆された Ⅳ. 結論 速い打球速度を保ちつつブロックを抜くことのできるスパイクにおいては, 右肩関節角度と対体幹スイング角度との関係性を保ち, 両動作要素のトレードオフの関係性からバランスを上手く保つことが重要である Ⅴ. 要約 本研究では実際の試合において速い打球速度を保ちつつブロックを抜くことのできるスパイクフォー ムの実態と, これを発現させるために必要となる動作要素を探ることを目的とした 被験者はプロリーグ所属選手 20 名とし, キャリブレーション範囲内で行われた試合中の動作をレフトとセンターのポジションごとに撮影し, 結果を元にスパイクの群分けを行った 1サイドスパイクにおいて, ブロックを抜くことができる点で共通している good 群と poor2 群との間には, 右肩関節角度と対体幹スイング角度に相関関係が共通して見られた 2センターのセンタースパイクにおいて, ブロックを抜くためには大きいムチ動作を得ることによって右手首速度を速くすることなく効率良くインパクトすることが重要である 3サイド good 群においては打球速度を速くするためには, 右肩関節角度と対体幹スイング角度を小さくすることが重要である 4 打球速度を速くすることとブロックを抜くことにおいて, 右肩関節角度と対体幹スイング角度はトレードオフの関係性を有していることが示唆された 以上のことから速い打球速度を保ちつつブロックを抜くことのできるスパイクにおいては, 右肩関節角度と対体幹スイング角度, どちらか一方の値が変わることによってパフォーマンスが低くなるということが分かる 両角度が大きくなることによってブロックは抜きやすいがその分打球速度が遅くなる 速い打球速度を求めるとブロックを抜くための両角度が小さくなる したがって, ブロックを抜きつつ速い打球速度を得るフォームの発現のためには, 両角度の関係性を保ちつつ, ブロックの状況に応じて角度を調整することが重要であると結論づけた Ⅵ. 参考文献 1) 明石正和, 永都久典 (1981): バレーボールのスパイク動作に関する研究 城西大学研究年報 8, 19-26 2) 青山繁 (2009):DVD バレーボールテクニックバイブル, 西東社,94 3)A. セリンジャー,J. アッカートマン-ブルント (1993): パワーバレーボール, ベースボールマガジン社,113 4) 豊田博 (2004): バレーボール指導教本, 大修 81

館書店,60 5) 橋原孝博, 溝下洋子 (1989): バレーボールのスパイクにおける打ち分け技術に関する研究 広島体育学研究 16:53-61 6) 橋原孝博 (1988): バレーボールのスパイク技術に関する運動学的研究 高い打点で強く打撃するためのスイング動作として役立つ動き 広島体育学研究 14:11-22 7) 堀田朋基, 宮本浩哉, 山地啓司, 北村潔和 (1988): バレーボールのスパイクにおける上肢の動作の定量解析 JapaneseJournalofSports Sciences 第 7 巻第 4 号 8) クルト マイネル (1981): マイネル スポーツ運動学, 大修館書店,197 9) 都澤凡夫, 塚本正仁 (1999): スパイク理論に関する研究 フォアスイングについて バレーボール研究第 1 巻第 1 号 10) 中西康己, 都澤凡夫 (2007): バレーボールのスパイクスピードと体幹屈曲力との関係 バレーボール研究第 9 巻第 1 号 11) 坂井純子, 加藤達郎, 平岡秀雄, 斎藤勝 (1981): バレーボールにおけるスパイクコースの変更に関する研究 東海大学紀要 体育学部 11,61-70 12) 和田尚, 阿江通良, 遠藤俊郎, 田中幹保 (2003): バレーボールのスパイク動作における体幹のひねりに関するバイオメカニクス的研究 バレーボール研究第 5 巻第 1 号 13)WinterDavid A(1990):Biomechanicsand motorcontrolofhumanmovement.2 nd ed, JohnWiley& Sons,NewYork.41-43, (2016 年 10 月 20 日受付 ) (2016 年 12 月 7 日受理 ) 82