高 齢 者 が 増 え 続 ける 今, 脳 梗 塞 にいかに 立 ち 向 かうか 各 種 抗 凝 固 薬 の 特 徴 とリスク 評 価 Characteristics of Various Anticoagulants and Evaluation Methods for Risk of Bleeding and Thrombosis 家 子 正 裕 北 海 道 医 療 大 学 歯 学 部 内 科 学 分 野 北 海 道 医 療 大 学 歯 学 部 内 科 学 講 座 教 授 のほか,2009 年 より 北 海 道 大 学 病 院 客 員 臨 床 教 授 を 兼 任. 日 本 内 科 学 会 ( 認 定 内 科 医 ), 日 本 医 師 会 ( 認 定 産 業 医 ), 日 本 血 液 学 会 ( 専 門 医, 指 導 医 ), 日 本 検 査 血 液 学 会 ( 評 議 員, 北 海 道 支 部 会 長 )など, 多 くの 学 会 に 所 属 し, 血 液 学 の 発 展 に 貢 献 して いる. ワルファリンは, 細 胞 性 凝 固 反 応 の 開 始 期, 増 幅 期, 増 大 期 に 存 在 する 凝 固 第 Ⅶ,Ⅳ,Ⅹ 因 子 およびト ロンビンの 原 料 となるプロトロンビンの 蛋 白 量 を 低 下 させ, 強 力 な 抗 凝 固 効 果 を 発 揮 する.しかし, 出 血 性 副 作 用 も 多 く,プロトロンビン 時 間 - 国 際 標 準 比 (PT-INR)を 頻 回 に 測 定 し, 用 量 を 調 節 しなくてはな らない. ダビガトランは, 初 期 トロンビンおよび 増 幅 期 にフィードバックするトロンビンを 阻 害 し, 結 果 的 に 凝 固 増 幅 期 を 阻 害 することでトロンビン 産 生 速 度 を 低 下 させる. 活 性 化 部 分 トロンボプラスチン 時 間 (APTT)で 過 剰 状 態 をモニタリングできるものの,APTT のトロンビン 阻 害 薬 感 受 性 は 試 薬 ごとに 大 きく 異 なっているため, 標 準 化 が 必 要 である. Xa 阻 害 薬 は 凝 固 増 大 期 のプロトロンビナーゼ 複 合 体 を 阻 害 し,トロンビン 生 成 速 度 および 産 生 総 量 を 低 下 させ, 抗 凝 固 効 果 を 発 揮 する.リバーロキサバンおよびエドキサバンでは, 過 剰 状 態 を PT でモニタ リングできるが,PT の Xa 阻 害 薬 感 受 性 は 試 薬 ごとに 異 なるため 注 意 を 要 する.また,アピキサバンは PTに 反 応 しないことから, 今 後 新 たなモニタリング 検 査 の 開 発 が 望 まれる. 一 方, 抗 血 栓 効 果 の 確 認 には,D ダイマーや 可 溶 性 フィブリンモノマー 複 合 体 などの 血 栓 マーカーが, すべての 抗 凝 固 薬 で 有 用 である. JPN. J. ELECTROCARDIOLOGY Vol. 34 No. 2 2014 149
は じ め に 血 栓 症 に 対 する 経 口 抗 凝 固 療 法 は, 半 世 紀 にわた りワルファリンのみに 頼 ってきた.ワルファリンは 抗 凝 固 活 性 作 用 が 強 く,しかも 細 かな 用 量 調 節 が 可 能 であるため, 様 々な 血 栓 性 疾 患 の 治 療 予 防 薬 と して 頻 用 されてきた.しかし,ワルファリン 療 法 は, 投 与 量 の 決 定 に 頻 回 な 採 血 による 血 液 検 査 が 必 要 なことや, 脳 出 血 を 中 心 とする 出 血 性 の 副 作 用 が 多 いことなど, 問 題 点 も 多 かった.そのため,これら の 欠 点 を 補 う 新 たな 経 口 抗 凝 固 薬 が 望 まれていた. 2003 年 に 初 めて, 選 択 的 経 口 トロンビン 阻 害 薬 であるキシメラガトラン(ximelagatran)が 開 発 さ れ, 新 規 経 口 抗 凝 固 薬 (novel oral anticoagulants : NOAC)の 時 代 が 幕 開 けしたが,キシメラガトラン は 肝 障 害 の 副 作 用 が 認 められたため 販 売 中 止 となっ た.その 後,トロンビン 阻 害 薬 であるダビガトラン (dabigatran)が 2007 年 に 欧 州 で, 次 い で 2011 年 には 本 邦 で 非 弁 膜 症 性 心 房 細 動 による 脳 塞 栓 症 の 予 防 薬 として 認 可 された.2008 年 には 凝 固 第 Xa 因 子 (Xa 因 子 ) 阻 害 薬 であるリバーロキサバン (rivaroxaban)が 欧 州 で,2012 年 には 本 邦 でも 認 可 された.2011 年 にはエドキサバン(edoxaban)が 術 後 深 部 静 脈 血 栓 症 の 予 防 薬 として 本 邦 で 認 可 され, 2013 年 には 心 原 性 脳 塞 栓 症 の 世 界 的 な 大 規 模 臨 床 試 験 の 結 果 も 公 表 された.さらに,2013 年 にはア ピキサバン(apixaban)が 脳 塞 栓 症 の 予 防 薬 として 認 可 され, 今 やNOACも 選 択 できる 時 代 に 入 った 1). 本 稿 では,これらの 経 口 抗 凝 固 薬 の 凝 血 学 的 特 徴 について 述 べるとともに, 効 果 不 足 による 血 栓 塞 栓 のリスク 評 価 および 薬 物 過 剰 による 出 血 のリスク 評 価 の 可 能 性 についても 解 説 したい. Ⅰ. 抗 凝 固 療 法 の 目 的 抗 凝 固 療 法 の 目 的 は, 瞬 時 に 大 量 に 産 生 されるト ロンビン(トロンビンバースト)を 阻 害 することであ る.しかし,トロンビンは 非 常 に 重 要 な 酵 素 作 用 を 150 もつため,すべてを 阻 害 してはならない.トロンビ ンは 血 小 板, 凝 固 因 子, 血 管 内 皮 細 胞 を 活 性 化 し, 血 栓 炎 症 をすすめる 作 用 が 良 く 知 られている.ま た,PRA-1を 活 性 化 することにより, 抗 血 栓 作 用 ( 線 溶 亢 進, 血 管 拡 張, 血 小 板 機 能 抑 制 など)や,その 逆 の 血 栓 促 進 作 用 ( 血 小 板 活 性 化, 内 皮 細 胞 活 性 化 など), 炎 症 促 進 作 用 を 有 する.さらに, 血 管 内 皮 細 胞 上 のトロンボモジュリン(thrombomodulin : TM)と 複 合 体 を 形 成 することにより,プロテイン C の 活 性 化 を 通 じて 凝 固 抑 制 作 用 と 炎 症 抑 制 作 用 を,thrombin activatable fibrinolysis inhibitor (TAFI)を 介 して 線 溶 抑 制 作 用 と 炎 症 抑 制 作 用 を 示 す.このように,トロンビンは 凝 固, 線 溶, 炎 症 反 応 のバランサーとしての 役 割 を 有 する.その 他, 細 胞 増 殖 血 管 新 生, 抗 腫 瘍 効 果,アポトーシスの 阻 害 などに 関 与 する 重 要 な 生 理 作 用 も 有 している( 表 ) 2). 抗 凝 固 療 法 には,このように 生 理 的 なトロンビンを 維 持 しながらも, 血 栓 形 成 の 引 き 金 となるトロンビ ンバーストを 阻 害 する 工 夫 がなされている. Ⅱ. 抗 凝 固 薬 の 効 果 に 対 する 評 価 抗 凝 固 療 法 では 抗 凝 固 薬 の 効 果,すなわち 血 栓 予 防 効 果 を 評 価 することが 重 要 である. 血 栓 形 成 がな いことを 直 接 確 認 できれば 理 想 的 であるが, 現 状 では 難 しい.そのため, 血 栓 形 成 やその 前 段 階 を 示 唆 する D ダイマー(D dimer : DD)や 可 溶 性 フィ ブ リ ン モ ノ マ ー 複 合 体 (soluble fibrin monomer complex : SFMC)などの 血 栓 マーカーを 確 認 し, 上 昇 の 有 無 を 見 る. DD はフィブリン 血 栓 形 成 とその 上 で 線 溶 反 応 が 惹 起 されたことを 意 味 するが, 判 断 時 期 としては 遅 い 場 合 がある.また, 血 栓 形 成 以 外 にも 妊 娠 や 炎 症 性 病 態 でも 増 加 するため, 特 異 度 に 少 し 難 がある. 一 方,SFMC 3) はトロンビンの 作 用 によりフィブ リノゲンから 生 じたフィブリンモノマー(FM)やそ の 複 合 体 (フィブリノゲン フィブリンモノマー 複 合 体 など)を 示 す 血 液 分 子 マーカーであり,Ca 2+ 存 JPN. J. ELECTROCARDIOLOGY Vol. 34 No. 2 2014
在 下 で XⅢa 因 子 により 架 橋 されると 血 栓 になる. 半 減 期 8~ 15 時 間 の SFMCは, 血 栓 直 前 の 分 子 マー カーとして 血 栓 準 備 状 態 の 確 認 に 有 用 である. プロトロンビンフラグメント 1+2(F1+2)も 血 栓 マーカーとして 用 いられるが, 凝 血 的 には F1+2 は トロンビン 産 生 マーカーである. 抗 凝 固 療 法 ではト ロンビン 産 生 阻 害 を 目 的 とするが,NOAC 療 法 で は 生 理 的 トロンビン 産 生 を 示 す 時 期 もあり,またト ロンビン 生 成 が 起 きても 血 栓 形 成 にはいたらない 場 合 も 多 い.F1+2 の 半 減 期 が 約 90 分 であることも 考 慮 すれば,F1+2 による 抗 凝 固 効 果 の 判 定 は 難 しい かもしれない. DD または SFMC による 抗 凝 固 効 果 の 評 価 は,す べての 抗 凝 固 薬 で 有 用 である. Ⅲ. 出 血 リスクの 評 価 出 血 リスクの 評 価 方 法 としては 2 種 類 が 存 在 す る. 抗 凝 固 療 法 を 行 う 際 に 出 血 しやすい 病 態 の 有 無 を 確 認 する 出 血 病 態 の 評 価 法 と, 抗 凝 固 薬 による 残 存 凝 固 能 の 低 下 に 伴 う 出 血 性 副 作 用 の 可 能 性 を 確 認 する 残 存 凝 固 能 の 評 価 法 である. 出 血 病 態 の 評 価 には, 心 房 細 動 における 脳 塞 栓 症 の 抗 凝 固 療 法 の 際 に 用 いられる HAS-BLED スコア を 使 い, 抗 凝 固 療 法 の 対 象 者 における 出 血 しやすい 病 態 の 有 無 を 判 断 する.HAS-BLED スコアの 項 目 のうち, 腎 障 害 脳 梗 塞 出 血 高 血 圧 は, 動 脈 硬 化 や 血 管 脆 弱 性 など 主 に 血 管 病 変 に 伴 う 病 態 で, 高 齢 に 加 えて 血 管 老 化 の 病 態 や 症 状 をスコア 化 したものと 考 えられる. 加 齢 による 凝 固 線 溶 状 態 JPN. J. ELECTROCARDIOLOGY Vol. 34 No. 2 2014 151
図 1 細 胞 性 凝 固 反 応 とワルファリン の 作 用 機 序 ワルファリンの 推 定 される 抗 凝 固 作 用 機 序.ワルファリンは 凝 固 開 始 期 のⅦa 因 子, 凝 固 増 幅 期 のⅨa 因 子, 凝 固 増 大 期 の Xa 因 子 およびトロ ンビンの 原 料 となるプロトロンビ ンの 量 を 減 らすことでトロンビン 産 生 総 量 を 低 下 させ, 抗 凝 固 効 果 を 発 揮 する. 文 献 4)より 引 用 改 変 は, 血 管 の 老 化 による 易 血 栓 性 かつ 易 出 血 性 であ る. 脳 梗 塞 発 症 リスク 評 価 に 用 いる CHADS 2 スコ アもその 病 態 を 反 映 するため,HAS-BLED スコア とオーバーラップする 項 目 が 多 いことも 理 解 できる. 残 存 凝 固 能 の 評 価 としては,ワルファリン 療 法 に おけるプロトロンビン 時 間 - 国 際 標 準 比 (PT-INR) が 代 表 的 である. 様 々な 抗 凝 固 薬 の 薬 理 作 用 を 紹 介 しながら,その 出 血 リスクのモニタリング 検 査 につ いて 以 下 にまとめる. 1.ワルファリン ワルファリンは,ビタミン K 依 存 性 凝 固 因 子 で あるプロトロンビンおよびⅦ,Ⅸ,X 因 子 の 肝 臓 で の 生 成 を 阻 害 し, 凝 固 活 性 のない 蛋 白 質 (Protein- Induced Vitamin K Antagonist : PIVKA)を 生 成 す ることで 強 い 抗 凝 固 活 性 を 示 す 抗 凝 固 薬 である. 細 胞 性 凝 固 反 応 における 開 始 期 のⅦ 因 子, 増 幅 期 のⅨ 因 子, 増 大 期 の X 因 子 を 阻 害 することでトロンビ ン 産 生 速 度 を 遅 くし,トロンビンの 材 料 であるプロ トロンビンを 減 らすことでトロンビン 産 生 総 量 を 減 少 させる( 図 1) 4).ワルファリンの 薬 理 作 用 のうち プロトロンビン 阻 害 が 最 も 影 響 が 強 く,プロトロン ビンの 血 中 半 減 期 が 約 2 日 間 と 長 いため,その 効 果 発 現 に 3 ~ 4 日, 効 果 消 失 に 4 ~ 5 日 かかるとされ る. 152 ワルファリン 療 法 における 過 剰 投 与 または 出 血 出 現 の 評 価 は,プロトロンビン 時 間 (PT)を 測 定 し, PT-INR 換 算 することで 行 われている.PT-INR に より 投 与 量 を 調 節 し, 残 存 凝 固 能 を 健 康 人 よりやや 低 い 値 に 設 定 する.PT-INRは 患 者 PTと 健 康 人 PT の 比 に 国 際 感 度 指 数 (ISI)を 乗 じて 得 られる 標 準 化 された 値 で,この 値 をもとにワルファリンの 用 量 を 細 かく 設 定 する.Time in Therapeutic Range(TTR) によりワルファリン 療 法 の 効 果 は 判 断 され,65% 以 上 であれば 良 好 なワルファリン 療 法 が 行 われている とされる.しかし, 米 国 検 査 標 準 化 協 会 (CLSI)の ガイドラインでは,PT-INR の 測 定 幅 が 管 理 血 漿 の 15% 以 内 であることが 推 奨 されている. 例 えば PT- INR 3.0 の 管 理 血 漿 を 用 いて,ある PT 試 薬 では PT-INRが 2.6,また 別 の PT 試 薬 では PT-INRが 3.4 と 測 定 されても 許 容 範 囲 内 と 判 断 される.ワルファ リン 投 与 量 の 判 断 に 迷 う 際 には, 検 査 時 期 を 改 め, PT-INRを 再 検 のうえ 考 慮 すべきである. 2. 新 規 経 口 抗 凝 固 薬 NOAC にはトロンビン 阻 害 薬 と Xa 阻 害 薬 がある が, 両 者 には 短 い 半 減 期 (8~ 14 時 間 )など, 共 通 の 特 徴 がある.NOAC では 血 中 濃 度 にピーク 期 とト ラフ 期 が 存 在 し,ピーク 期 には NOAC の 抗 凝 固 作 用 が,またトラフ 期 には 患 者 自 身 が 有 するプロテイ JPN. J. ELECTROCARDIOLOGY Vol. 34 No. 2 2014
図 2 細 胞 性 凝 固 反 応 とトロンビン 阻 害 薬 の 作 用 機 序 トロンビン 阻 害 薬 の 推 定 される 抗 凝 固 作 用 機 序. 初 期 トロンビンおよび 増 幅 期 に フィードバックする 少 量 のトロンビンを 阻 害 することで 凝 固 増 幅 期 を 阻 害 し,ト ロンビン 産 生 速 度 を 遅 延 させて 抗 凝 固 効 果 を 発 揮 する. 文 献 4)より 引 用 改 変 ン C,プロテイン S,アンチトロンビンなどの 生 理 的 凝 固 制 御 因 子 がトロンビン 生 成 をコントロールす る.トラフ 期 には 多 少 なりのトロンビン 産 生 があ り, 生 理 的 トロンビン 作 用 を 維 持 しているものと 思 われる.しかし, 凝 固 制 御 因 子 が 低 下 している 場 合 や 極 めて 強 い 凝 固 亢 進 が 誘 発 された 場 合 には,トラ フ 期 に 血 栓 形 成 の 可 能 性 が 生 じ, 血 栓 マーカー 測 定 などの 抗 凝 固 薬 の 効 果 の 評 価 が 必 要 となる. 一 方, 腎 障 害 により NOAC の 血 中 濃 度 が 増 加 した 際 など では, 出 血 性 副 作 用 に 留 意 しなければならない. NOAC は 薬 効 の 個 人 差 が 少 なく,かつ 広 い 有 効 域 のため,モニタリングによる 用 量 微 調 節 が 不 要 とさ れているが,やはり 何 らかの 残 存 凝 固 能 の 評 価 が 必 要 となる.しかし, 現 在 のところモニタリング 検 査 は 標 準 化 されてはおらず,また NOAC の 半 減 期 が 短 いため, 随 時 採 血 による 検 査 は 難 しい.これらの ことも, 残 存 凝 固 能 評 価 を 困 難 にしている. 1)トロンビン 阻 害 薬 トロンビン 阻 害 薬 であるダビガトランは, 最 大 の 凝 固 促 進 酵 素 であるトロンビンの 活 性 部 位 に 選 択 的 に 結 合 し, 初 期 トロンビンおよび 増 幅 期 にフィード バックする 少 量 トロンビンを 阻 害 する( 図 2) 4). 結 果 的 には, 凝 固 増 幅 期 を 阻 害 してトロンビン 産 生 速 度 を 遅 延 させ,トロンビンバーストを 抑 制 する. 凝 固 増 幅 期 は 活 性 化 内 因 系 凝 固 因 子 からなる tenase (Xase)によって 形 成 されており,ダビガトランの 抗 凝 固 効 果 は 内 因 系 凝 固 因 子 のスクリーニング 検 査 である 活 性 化 部 分 トロンボプラスチン 時 間 (APTT) に 反 映 されるため, 残 存 凝 固 能 の 評 価 に 用 いられる 可 能 性 がある.しかし,APTT のダビガトラン 感 受 性 は 試 薬 により 大 きく 異 なっており 5), 現 状 では ひとつの APTT 試 薬 を 用 いて 経 時 的 に 判 断 するこ とが 推 奨 される.また,Hemoclot Thrombin Inhibitor (HTI)などのトロンビン 時 間 (TCT)は 残 存 凝 固 能 を 示 さないが,ダビガトランの 血 中 濃 度 を 良 好 に 反 映 し, 薬 物 蓄 積 の 確 認 には 有 用 である.エカリン 凝 固 時 間 (ECT) 6) は 残 存 凝 固 能 を 良 く 反 映 し 有 用 であ るが, 本 邦 では 一 般 的 ではない.いずれにせよ,ダ ビガトランが 最 大 の 凝 固 促 進 酵 素 であるトロンビン を 阻 害 することは, 血 栓 形 成 を 抑 制 するうえでは 極 めて 効 果 的 である.しかし, 効 果 発 現 および 出 血 性 副 作 用 の 抑 制 のためには, 微 妙 な 薬 剤 のコントロー ルが 要 求 されることは 否 めず,やはり 何 かしらの 残 存 凝 固 活 性 のモニタリング 検 査 が 必 要 となると 推 察 される. 2)Xa 阻 害 薬 リバーロキサバンおよびエドキサバンは,1 日 1 回 投 与 の 経 口 Xa 阻 害 薬 である.Xa-Va- リン 脂 JPN. J. ELECTROCARDIOLOGY Vol. 34 No. 2 2014 153
図 3 細 胞 性 凝 固 反 応 と Xa 阻 害 薬 の 作 用 機 序 Xa 阻 害 薬 の 推 定 される 抗 凝 固 作 用 機 序. 凝 固 増 大 期 であるプロトロンビナーゼ 複 合 体 の Xa 因 子 を 阻 害 する.トロンビン 産 生 総 量 および 産 生 速 度 を 阻 害 すること で 抗 凝 固 効 果 を 発 揮 させる. 文 献 4)より 引 用 改 変 図 4 リバーロキサバンとアピキサバンの Xa 因 子 阻 害 活 性 の 違 い アピキサバンのピーク 期 の Xa 因 子 阻 害 活 性 はリバーロキサバンの 約 60% 以 下 で,また トラフ 期 はリバーロキサバンより 約 40% 高 い.その 抗 凝 固 効 果 はワルファリン 療 法 の 抗 凝 固 効 果 に 類 似 する. 文 献 8)より 引 用 改 変 質 -Ca 2+ からなるプロトロンビナーゼ 複 合 体 ( 凝 固 増 大 期 )を 阻 害 することでトロンビン 産 生 総 量 を 減 少 させ, 若 干 ながらトロンビン 産 生 速 度 も 低 下 させ て 抗 凝 固 効 果 を 示 す( 図 3) 4).Xa 因 子 はプロトロン ビンを 活 性 化 しトロンビンに 変 換 するが,プロトロ ンビナーゼ 複 合 体 を 形 成 することで,1 分 子 の Xa 因 子 より 128 分 子 のトロンビンを 産 生 でき,しかも 154 フリーの Xa 因 子 と 比 べ 10 ~ 30 万 倍 の 速 度 でトロ ンビンを 産 生 する.このプロトロンビナーゼ 複 合 体 こそ,トロンビンバーストの 本 体 といっても 過 言 で はない.プロトロンビナーゼ 複 合 体 は, 主 に 活 性 化 された 共 通 系 凝 固 因 子 からなり,その 効 果 は 外 因 系 共 通 系 凝 固 因 子 のスクリーニング 検 査 であるプ ロトロンビン 時 間 (PT)にある 程 度 反 映 される 7). JPN. J. ELECTROCARDIOLOGY Vol. 34 No. 2 2014
図 5 様 々な PT 試 薬 の Xa 阻 害 薬 感 受 性 人 工 的 に 各 Xa 阻 害 薬 の 血 中 濃 度 が 1,000 ng/mlとなるサンプルを 用 いて, 様 々 な PT 試 薬 で 測 定 した.その 際 の PT 時 間 と PT-INR を 示 す.リバーロキサバンにお いては,PT 試 薬 によって 非 常 に 大 きな 乖 離 を 認 めた. 一 方,アピキサバンでは 小 さ な 変 動 で, 正 常 上 限 よりやや 延 長 した 結 果 であった. 適 量 のアピキサバン 濃 度 では, PT 試 薬 に 反 応 しないことが 推 察 される. 文 献 9)より 引 用 改 変 しかし,PT 試 薬 のリバーロキサバンへの 感 受 性 は 様 々であり, 現 状 では 感 受 性 の 良 い PT 試 薬 1 種 類 で 経 時 的 に 判 断 することがすすめられる. 血 中 濃 度 を 反 映 する anti-xa chromogenic assay も 有 用 であ るが, 残 存 凝 固 能 を 必 ずしも 反 映 しない. アピキサバンは,1 日 2 回 投 与 の Xa 阻 害 薬 である. やはり, 凝 固 増 大 期 を 阻 害 してトロンビンバースト を 抑 制 するが,ピーク 期 の Xa 因 子 阻 害 活 性 はリ バーロキサバンの 約 60% 以 下 であり,トラフ 期 に は 約 40% 高 く 8) 推 移 する( 図 4).そのトロンビン 生 成 の 阻 害 様 式 は, 低 活 性 の Xa 阻 害 薬 を 1 日 2 回 服 用 することで, 抗 凝 固 効 果 を 持 続 的 に 発 揮 させると いうものである.これは,ワルファリン 療 法 の 抗 凝 固 効 果 に 類 似 する.その 正 確 な 機 序 は 不 明 である が,1 日 1 回 投 与 の Xa 阻 害 薬 のリバーロキサバン およびエドキサバンとは 少 し 異 なる Xa 因 子 阻 害 機 序 と 推 定 される.その 抗 血 栓 効 果 に 関 しても, 今 後 多 くの 臨 床 経 験 を 通 じて 判 断 されると 考 えられる. 腎 排 泄 が 少 なく 有 効 域 が 広 いとされているアピキサ バンも, 何 かしらの 原 因 で 蓄 積 する 可 能 性 は 否 定 で きず, 残 存 凝 固 活 性 の 評 価 が 必 要 になる 場 合 もあ る.しかしながら,1 日 1 回 投 与 の Xa 阻 害 薬 と 異 なり,PT 検 査 ではその 抗 凝 固 効 果 を 捉 え 難 い. 1,000 ng/mlという 高 濃 度 サンプルで PTおよび PT- INR が 少 し 変 化 する 程 度 である( 図 5) 9). 抗 血 栓 効 果 と 同 様, 今 後 多 くの 投 与 経 験 から, 効 果 の 詳 細 や モニタリング 方 法 が 解 明 されるものと 思 われる. お わ り に 抗 凝 固 薬 の 使 用 は 諸 刃 の 剣 である. 血 栓 症 を 予 防 するが, 出 血 も 覚 悟 しなければならない. 十 分 な 抗 血 栓 作 用 を 維 持 しながら, 出 血, 特 に 頭 蓋 内 出 血 な どの 重 症 出 血 を 起 こさないようにコントロールする ことが 大 切 である.ワルファリン 療 法 は 半 世 紀 に 渡 る 歴 史 とエビデンスがあるのみならず,ワルファリ ン 療 法 に 経 験 豊 かな 医 師 が PT-INR をうまく 使 うこ とで, 良 好 な 抗 凝 固 療 法 をある 程 度 期 待 できる. 一 方,NOAC は 頻 回 なモニタリング 検 査 のない 抗 凝 固 療 法 を 目 的 としており, 抗 凝 固 療 法 にあまり 精 通 していない 医 師 にも 処 方 できることを 目 指 している. 本 稿 の 抗 凝 固 薬 の 特 徴 を 理 解 していただき, 適 正 な 用 量 用 法 を 処 方 し,より 多 くの 患 者 さんの 健 康 が 維 持 できることを 期 待 したい.そのためにも, 過 剰 投 与 を 判 断 できる NOAC のモニタリング 検 査 が 標 準 化 されることを 切 に 望 んでやまない. JPN. J. ELECTROCARDIOLOGY Vol. 34 No. 2 2014 155
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