日 本 発 世 界 初 の 細 胞 シート 工 学 技 術 による 再 生 医 療 株 式 会 社 セルシード 知 的 財 産 部 長 東 京 女 子 医 科 大 学 教 授 坂 井 秀 昭 岡 野 光 夫 抄 録 患 者 本 人 の 細 胞 を 培 養 し 組 織 化 させる 細 胞 シート 工 学 技 術 により 角 膜 心 筋 食 道 歯 根 膜 膝 軟 骨 に 疾 患 を 持 つ 患 者 への 治 療 が 実 際 に 始 まった その 細 胞 シート 工 学 の 開 発 は 従 来 の 培 養 技 術 とは 全 く 異 なる 発 想 の 温 度 応 答 性 培 養 基 材 の 開 発 から 始 まる そして その 基 材 から 酵 素 処 理 されずに 作 製 さ れる 細 胞 シートは 予 想 通 り 細 胞 表 層 のタンパク 質 の 破 壊 がなく 細 胞 自 身 が 産 生 した 細 胞 外 マトリック スも 全 く 損 傷 していないなどの 多 くの 特 性 が 確 認 され 細 胞 シートを 積 層 化 する 技 術 も 開 発 され 細 胞 シート 工 学 の 基 盤 が 構 築 された 本 稿 では この 細 胞 シート 工 学 のこれまでの 開 発 経 緯 について 述 べ る 細 胞 シート 工 学 関 連 特 許 出 願 件 数 はすでに90 件 にのぼり その 約 1/3を 海 外 主 要 各 国 へ 出 願 して いるが こうした 再 生 医 療 研 究 成 果 を 特 許 化 するにあたり 現 行 の 特 許 法 では 依 然 として 制 約 がある 最 後 に こうした 特 許 法 のさらなる 整 備 の 必 要 性 について 問 題 提 議 したい 1. はじめに 失 われた 臓 器 や 損 傷 或 いは 機 能 が 低 下 した 臓 器 を 再 生 しようとする 再 生 医 療 が 今 医 学 ばかりでなく 工 学 理 学 の 広 範 囲 な 技 術 が 融 合 されさまざまな 形 となって 実 現 さ れている その 中 で 細 胞 を 利 用 した 再 生 医 療 技 術 は 細 胞 シート 工 学 さらには ips 細 胞 技 術 が 相 次 いで 開 発 され 著 しく 発 展 している 一 方 で 2013.4.26に 議 員 立 法 の 再 生 医 療 推 進 法 が 成 立 し 今 後 本 格 的 な 再 生 医 療 が 推 進 され 優 れた 技 術 の 創 出 開 発 を 通 し 臨 床 応 用 治 療 への 普 及 を 世 界 に 先 駆 けて 実 現 できるようになる さらに 政 府 は 2013.6 月 に 再 生 医 療 と 医 療 輸 出 を 成 長 戦 略 の 中 核 の 一 つ として 決 めた 医 療 分 野 については 医 療 の 国 際 展 開 をは かる 官 民 共 同 組 織 の 設 立 ips 細 胞 の 研 究 に 10 年 間 で 1100 億 円 の 支 援 再 生 医 療 製 品 の 審 査 機 関 の 大 幅 短 縮 な どの 医 療 分 野 の 産 業 化 策 をはじめ 米 の 医 学 研 究 拠 点 であ る 国 立 衛 生 研 究 所 (NIH)の 日 本 版 の 創 設 などを 打 ち 出 さ れた これまで 先 進 国 の 中 で 遅 れをとっていた 医 薬 品 医 療 機 器 の 承 認 制 度 の 問 題 を この 機 会 に 抜 本 的 に 変 えよう としている これからの 日 本 は 医 療 分 野 においても 世 界 をリードする 立 場 になるものと 確 信 している 2. 細 胞 シート 工 学 東 京 女 子 医 科 大 学 岡 野 は ティッシュエンジニアリン グ 技 術 である 細 胞 シート 工 学 というコンセプトを 世 界 に 先 駆 けて 提 案 した 1) この 技 術 によれば 温 度 応 答 性 ポ リマーであるポリ N イソプロピルアクリルアミド (PIPAAm)( 図 1)がナノスケールの 厚 さで 均 一 に 固 定 化 さ れた 温 度 応 答 性 細 胞 培 養 基 材 上 でコンフルエントになるま で 培 養 した 細 胞 は 温 度 を 下 げるだけでシート 状 に 剥 離 さ せられる( 図 2) 細 胞 を 基 材 上 で 培 養 すると 細 胞 はフィ ブロネクチンやラミニンなどの 接 着 タンパク 質 を 分 泌 して 細 胞 外 マトリックスを 形 成 させながら 基 材 表 面 に 接 着 す る これまで 培 養 した 細 胞 は 蛋 白 酵 素 EDTA などを 用 い 基 材 細 胞 間 のタンパク 質 を 化 学 的 に 破 壊 させる 方 法 或 いはラバーポリスマンを 用 い 基 材 細 胞 間 のタンパ ク 質 を 物 理 的 に 破 壊 させる 方 法 でしか 基 材 表 面 から 剥 離 さ せられなかった 本 基 材 を 用 いれば こうした 操 作 が 全 て 不 要 となり 温 度 を 変 えるだけで 培 養 した 細 胞 を 剥 がせる ようになる 本 基 材 から 回 収 した 細 胞 シートは 化 学 的 物 理 的 にも 損 傷 を 受 けておらず 細 胞 自 身 が 分 泌 した 接 着 性 タンパク 質 をそのまま 保 持 しており 生 体 組 織 にも 速 や かに 付 着 することができる 本 基 材 から 得 られる 細 胞 シー トは 従 来 の 技 術 では 得 られなかったような 高 付 着 性 で 高 活 性 なものとして 得 られ しかも 生 体 組 織 に 極 めて 良 好 に 付 着 する また 細 胞 シート 同 士 を 積 層 化 すれば 組 織 化 す ることもでき 今 後 の 再 生 医 療 技 術 の 展 開 のためのプラッ トホーム 技 術 と 位 置 付 けられる 2,3,4) この 細 胞 シート 工 学 を 駆 使 し 東 京 女 子 医 科 大 学 ではこ 1)Yamada N., Okano T., Sakai H., Karikusa F., Sawasaki Y., Sakurai Y.; Makromol. Chem., Rapid Commun. 11, 571-76(1990) 2)Yamato M., Utsumi M., Kushida A., Konno C., Kikuchi A., Okano T.; Tissue Engineering, 7, 473-480(2001) 3)Kushida A., Yamato M., Konno C., Kikuchi A., Okano T.; J. Biomed. Mater. Res., 51, 216-223(2000) 4)Harimoto M., Yamato M., Hirose M., Takahashi C., Isoi Y., Kikuchi A., Okano T.; J. Biomedical Materials Research, 62, 464(2002) 44
医 療 技 術 の と の 温 度 応 答 性 上 の 細 胞 シート 性 20 m 温 度 (37 20 ) の 図 1 温 度 応 答 性 ポリマー (ポリ- N -イソプロピルアクリルアミド(PIPAAm)) 温 度 応 答 性 PNm PIPAAm 図 2 性 本 の 基 細 胞 シート 工 学 の 基 本 概 念 食 道 の 後 の 膜 シート による 再 生 治 療 角 膜 細 胞 膜 細 胞 シートによる 角 膜 の 再 生 治 療 細 胞 筋 細 胞 シートによる 心 筋 性 心 の 再 生 治 療 歯 根 膜 細 胞 シート による 歯 組 織 の 再 生 治 療 細 胞 シート 100 m 200 m の 細 胞 シート る 組 織 膜 細 胞 による 膜 組 織 の 再 生 治 療 細 胞 シート によるの 再 生 治 療 軟 骨 細 胞 シートによる 軟 骨 の 再 治 療 細 胞 シートによる 再 治 療 細 胞 シート 治 療 の 図 3 細 胞 シート 再 生 医 療 の 研 究 例 れまでに 多 くの 臓 器 に 対 する 再 生 医 療 技 術 が 開 発 され 実 際 に 角 膜 食 道 心 臓 歯 周 軟 骨 等 の 各 疾 患 に 対 しては 東 京 女 子 医 科 大 学 及 び 関 連 大 学 においてヒトへの 臨 床 研 究 治 験 が 世 界 に 先 駆 けて 始 めており 現 在 までに 角 膜 ( 治 験 ( 欧 州 )26 例 ) 食 道 ( 臨 床 研 究 9 例 ) 心 臓 ( 臨 床 研 究 17 例 治 験 実 施 中 ) 歯 周 ( 臨 床 研 究 6 例 ) 軟 骨 ( 臨 床 研 究 4 例 )の 実 績 をあげている( 図 3) 今 日 では 肺 耳 肝 臓 膵 臓 疾 患 などに 対 する 適 応 拡 大 をはかるばかりでな く 細 胞 シートが 細 胞 シート 同 士 においても 速 やかに 付 着 することから 細 胞 シートを 自 由 自 在 に 重 ね 合 わせて 3 次 元 組 織 を 構 築 させ 生 体 外 で 厚 い 組 織 を 構 築 することにも 成 功 している 3. 温 度 応 答 性 細 胞 培 養 基 材 細 胞 シートを 作 製 する 上 で 必 須 な 温 度 応 答 性 細 胞 培 養 基 45
材 とは 基 材 表 面 に 温 度 応 答 性 ポリマーであるPIPAAmを ナノスケールでグラフト 化 させたものである PIPAAmと は 水 中 において 32 に 下 限 臨 界 溶 解 温 度 (LCST)を 持 つ ポリマーであり 32 以 上 では 脱 水 和 し ポリマー 鎖 が 収 縮 した 構 造 をとる 逆 に 32 以 下 ではポリマー 鎖 は 水 和 し 水 中 に 大 きく 広 がった 状 態 となる( 図 1) このポ リマーを 基 材 表 面 に 固 定 化 させると 基 材 表 面 は 培 養 が 行 われる 37 では 疎 水 性 ( 細 胞 付 着 性 表 面 )に 32 以 下 に 冷 却 すると 親 水 性 ( 細 胞 非 付 着 性 表 面 )となる 温 度 応 答 性 細 胞 培 養 基 材 とはこうした 表 面 を 有 する 細 胞 培 養 基 材 であり この 固 定 化 された PIPAAm 鎖 は 細 胞 培 養 中 に 分 解 切 断 されることなく 安 定 である 温 度 応 答 性 細 胞 培 養 基 材 は 例 えば N イソプロピルアクリルアミドモノマー 溶 液 を 塗 布 し その 状 態 で 電 子 線 を 照 射 することで 得 られ る その 際 ポリスチレンが 化 学 的 に 極 めて 安 定 な 材 質 で あるため このものへ 温 度 応 答 性 ポリマーを 所 定 量 固 定 化 させるには 非 常 に 大 きなエネルギーを 必 要 とする 株 式 会 社 セルシードは 高 エネルギーな 電 子 線 を 利 用 すること で 市 販 のポリスチレン 製 細 胞 培 養 皿 への 温 度 応 答 性 ポリ マーを 薄 層 固 定 化 する 方 法 をとっている 電 子 線 照 射 条 件 モノマー 溶 液 濃 度 を 変 えることで さまざまな 量 の PIPAAmを 固 定 化 した 温 度 応 答 性 細 胞 培 養 基 材 が 得 られ る PIPAAm の 固 定 化 量 が 多 くなると 細 胞 の 付 着 性 増 殖 性 が 悪 くなり 逆 に PIPAAm 固 定 化 量 が 少 なすぎると 増 殖 させた 細 胞 を 冷 却 だけで 剥 離 させることができなくな る この 温 度 応 答 性 細 胞 培 養 基 材 の 特 性 は 基 材 表 面 に 固 定 化 されている 温 度 応 答 性 ポリマー 量 に 大 きく 影 響 すること が 分 かっている 上 述 したように 温 度 応 答 性 細 胞 培 養 基 材 上 で 細 胞 をコンフルエントになるまで 培 養 すると 本 基 材 から 蛋 白 分 解 酵 素 を 使 わずに 温 度 を 下 げるだけで 培 養 細 胞 を 剥 離 させられる 蛋 白 分 解 酵 素 を 使 わないため 培 養 した 細 胞 と 細 胞 間 も 破 壊 されないため 細 胞 シートとなっ て 剥 離 されることとなる 4. 角 膜 再 生 細 胞 シートの 再 生 医 療 への 展 開 角 膜 は 角 膜 上 皮 角 膜 実 質 角 膜 内 皮 の 各 組 織 からなる 眼 の 最 表 層 にある 組 織 であり 眼 内 への 光 を 導 く 役 割 と 眼 内 組 織 を 物 理 的 生 物 学 的 に 保 護 する 役 割 を 持 っている 角 膜 上 皮 に 損 傷 がない 場 合 角 膜 上 皮 細 胞 が 脱 落 しても それを 補 う 為 に 角 膜 上 皮 組 織 の 基 底 細 胞 が 増 殖 することで 平 衡 を 保 っている そして この 基 底 細 胞 は 無 限 に 増 殖 性 を 持 つ 細 胞 でないため 徐 々に 分 裂 能 が 低 下 してしまうが 角 膜 輪 部 組 織 に 局 在 している 角 膜 上 皮 幹 細 胞 がゆっくりと 分 裂 し その 基 底 細 胞 を 補 うことで 恒 常 性 を 維 持 してい る その 角 膜 輪 部 組 織 が 何 らかの 原 因 で 損 傷 し 幹 細 胞 がな くなってしまうと 幹 細 胞 から 上 皮 基 底 細 胞 の 供 給 ができ なくなり 隣 接 する 結 膜 上 皮 組 織 の 細 胞 が 角 膜 に 進 入 し 血 管 を 伴 った 結 膜 組 織 が 被 覆 することとなる これにより 角 膜 混 濁 が 起 き 著 しい 視 力 障 害 をきたす このように 角 膜 上 皮 幹 細 胞 が 欠 損 する 疾 患 群 を 角 膜 上 皮 幹 細 胞 疲 弊 症 と 呼 び 熱 傷 や 酸 アルカリ 腐 蝕 薬 剤 毒 性 Stevens- Johnson 症 候 群 眼 類 天 疱 瘡 等 が 含 まれる これらの 疾 患 により 非 可 逆 的 にその 透 明 性 が 失 われた 角 膜 上 皮 組 織 は 再 生 できず 角 膜 移 植 が 必 要 になる しかしながら これ までの 角 膜 移 植 は 献 眼 に 依 存 しており その 献 眼 数 は 国 内 においては 絶 対 的 に 少 なく 角 膜 不 足 の 状 況 である 国 内 で は 年 2 万 5 万 人 世 界 的 にも 年 100 万 人 以 上 の 患 者 が 角 膜 移 植 を 必 要 としている 現 状 ではこうした 患 者 に 対 し 直 ちに 移 植 手 術 を 行 うことは 困 難 であり 新 しい 技 術 治 療 法 が 緊 急 かつ 重 要 な 課 題 となっていた 細 胞 シート 工 学 に よれば 従 来 ドナーから 取 り 出 した 1 つの 臓 器 を 患 者 の 1 つの 臓 器 に 置 き 換 える 1:1 の 治 療 に 代 わり 患 者 の 臓 器 に 正 常 な 組 織 が 残 っていさえすれば その 組 織 のごく 一 部 の 細 胞 を 取 り 出 すだけでその 臓 器 を 治 療 することができ るようになる 大 阪 大 学 西 田 らは この 細 胞 シート 工 学 による 再 生 角 膜 シートの 開 発 を 精 力 的 に 進 め その 有 効 性 や 安 全 性 に 関 する 知 見 を 得 てきた 5) その 結 果 温 度 応 答 性 細 胞 培 養 基 材 より 得 られた 角 膜 再 生 細 胞 シートは 透 明 性 に 優 れ しか もその 細 胞 シートには 接 着 性 タンパク 質 がそのまま 残 って いるため 移 植 時 に 角 膜 再 生 細 胞 シートを 眼 球 へ 縫 合 させ る 必 要 がなく 5 分 程 度 の 間 患 部 へ 載 せているだけで 付 着 することも 確 認 した このことは 患 者 側 の 手 術 の 負 担 軽 減 はもちろんのこと 移 植 を 行 う 医 師 側 の 負 担 も 顕 著 に 軽 減 させられることとなる これらの 結 果 をもとに 西 田 ら は 患 者 本 人 の 口 腔 粘 膜 細 胞 を 培 養 しシート 化 させ それ を 移 植 することで 角 膜 上 皮 組 織 の 再 生 に 成 功 し 患 者 自 身 の 口 腔 粘 膜 細 胞 シートを 移 植 利 用 するヒトへの 臨 床 研 究 を 実 施 した 6) これらの 成 果 をもとに 株 式 会 社 セルシードは 口 腔 粘 膜 細 胞 シート( 図 4)を 用 いた 自 家 移 植 治 療 を 早 期 に 実 現 するために 先 進 医 療 の 治 験 承 認 の 豊 富 なフランスで し かもすでに 皮 膚 の 再 生 医 療 を 実 現 しているリヨン 国 立 病 院 と 共 に 治 験 を 実 施 した 2007 年 8 月 にフランス 倫 理 委 員 会 および 厚 労 省 より 治 験 承 認 を 受 けることができ 2007 5)Nishida K., Yamato M., Hayashida Y., Watanabe K., Maeda N., Watanabe H., Yamamoto K., Nagai S., Kikuchi A., Tano Y., Okano T.; Transplantation, 77(3), 379-385(2005) 6)Nishida K., Yamato M., Hayashida Y., Watanabe K., Yamamoto K., Adachi A., Nagai S., Kikuchi A., Maeda N., Watanabe H., Okano T., Tano Y.; New England Journal of Medicine, 351, 1187-1196(2004) 46
医 療 技 術 の と 図 4 角 膜 再 生 細 胞 シート 現 時 点 で 角 膜 上 皮 幹 細 胞 疲 弊 症 の 治 療 に 対 する 再 生 医 療 製 品 は 国 内 外 ともに 上 市 されておらず 特 に 献 眼 が 極 端 に 少 ない 日 本 においては 患 者 本 人 の 組 織 から 作 製 された 角 膜 再 生 細 胞 シートは 細 胞 源 の 問 題 や 免 疫 抑 制 のリスクを 回 避 できる 有 効 な 手 段 であり 従 来 の 医 学 的 / 社 会 的 問 題 点 を 克 服 する 治 療 としても 社 会 的 要 請 が 高 いだけではなく 患 者 のQOLを 向 上 しうる 有 効 な 技 術 であるものと 考 えて いる 今 後 も 欧 州 での 再 生 角 膜 治 療 の 実 現 のため 欧 州 医 薬 品 庁 との 相 談 を 続 けていく 方 針 である 5. 心 筋 再 生 細 胞 シートの 再 生 医 療 への 展 開 移 植 前 移 植 1 年 後 図 5 角 膜 再 生 細 胞 シートの 治 験 結 果 年 9 月 より 両 眼 性 の 角 膜 上 皮 幹 細 胞 疲 弊 症 患 者 を 対 象 とし た 治 験 を 実 施 した フランス リヨン 国 立 病 院 眼 科 ブリオ ン 教 授 の 下 で 実 施 された 治 験 では 重 篤 な 角 膜 上 皮 幹 細 胞 疲 弊 症 患 者 26 症 例 に 対 して 角 膜 再 生 細 胞 シートによる 移 植 治 療 が 行 われ その 中 の 16 例 において 総 合 評 価 のもと での 成 功 が 認 められた また 術 後 1ヵ 年 の 経 過 観 察 が 可 能 であった 23 例 のうち 22 例 で 羞 明 や 潰 瘍 の 改 善 が 17 例 で 視 力 の 向 上 が 認 められ 本 治 療 の 有 効 性 が 示 唆 された ( 図 5) 7) 心 臓 病 は 先 進 国 の 多 くで 第 1 位 の 死 因 とされ 日 本 でも 生 活 習 慣 の 変 化 により 癌 に 続 く 第 2 位 の 死 因 となってい る その 心 臓 病 の 中 で 特 に 近 年 増 加 傾 向 にあるのが 虚 血 性 心 疾 患 であり 心 臓 病 による 死 亡 原 因 の 8 割 近 くを 占 める とされ 国 内 に 現 在 70 万 人 の 患 者 がいるとされている この 虚 血 性 心 疾 患 により 心 筋 組 織 が 機 能 不 全 に 陥 った 場 合 心 筋 組 織 は 再 生 困 難 な 状 態 であり 外 部 から 循 環 補 助 或 いは 心 臓 そのものの 供 給 が 必 要 となる これとは 別 に 心 筋 組 織 そのものに 障 害 が 起 こる 病 気 として 遺 伝 子 等 が 原 因 とされているが 未 だ 詳 細 な 原 因 が 分 かっていない 拡 張 型 心 筋 症 肥 大 型 心 筋 症 拘 束 型 心 筋 症 等 の 心 筋 症 があ る この 心 筋 症 については 他 の 心 臓 病 に 比 べると 発 症 頻 度 は 少 ない( 拡 張 型 心 筋 症 : 数 万 人 に 1 人 肥 大 型 心 筋 症 : 数 千 人 に 1 人 の 割 合 で 発 症 )が 現 時 点 で 根 本 的 な 治 療 はなく 重 篤 な 状 態 になると 外 部 から 循 環 補 助 或 いは 心 臓 そのものの 供 給 が 必 要 となる 東 京 女 子 医 科 大 学 清 水 はこうした 機 能 不 全 に 陥 った 心 筋 組 織 部 位 に 心 筋 組 織 の 細 胞 シートを 貼 付 して 心 機 能 を 改 善 させる 移 植 用 の 心 筋 シートの 開 発 に 成 功 した 8) 細 胞 シート 工 学 によれば 心 筋 細 胞 もシート 状 に 回 収 できる また その 心 筋 シートはシート 同 士 が 速 やかに 接 着 するた め 容 易 に 3 次 元 的 に 積 層 化 できる 心 筋 シートを 重 層 し 3 次 元 的 培 養 を 行 うと 組 織 と 組 織 が 構 造 的 にも 機 能 的 に も 一 体 化 して 心 筋 シート 全 体 が 同 期 して 拍 動 する 心 筋 様 組 織 を 構 築 させられた さらに 心 筋 シートをヌードマウ スの 皮 下 に 移 植 することで 心 筋 シート 内 に 血 管 形 成 が 観 察 され その 結 果 長 期 に 渡 り 自 律 的 な 拍 動 する 心 筋 様 組 織 を 構 築 することにも 成 功 している 本 技 術 により 作 製 し た 心 筋 シートは 冠 状 動 脈 の 閉 塞 ラットモデルで 損 傷 した 虚 血 部 に 簡 単 に 生 着 し 機 能 障 害 に 陥 った 心 機 能 の 改 善 が 見 られた 注 射 針 を 用 いて 細 胞 懸 濁 液 を 組 織 に 注 入 する 細 胞 移 植 では 移 植 細 胞 の 生 着 率 の 低 さや 細 胞 の 逸 散 が 問 題 7)C Burillon et al. Invest Ophthalmol Vis Sci.;53:1325-1331(2012) 8)Shimizu T., Yamato M., Isoi Y., Akutsu T., Setomaru T., Abe K., Kikuchi A., Umezu M., Okano T.; Circulation Research, 90, 40 (2002) 47
図 6 心 筋 再 生 細 胞 シートによる 心 筋 組 織 の 再 生 になっているが 心 筋 シート 移 植 ではこのような 問 題 は 生 じない 本 技 術 は 組 織 周 辺 の 血 管 の 新 生 を 促 すとともに 心 機 能 を 回 復 されられるものと 期 待 される 大 阪 大 学 澤 は 東 京 女 子 医 科 大 学 と 共 同 で 細 胞 シート を 利 用 した 臨 床 研 究 に 向 けて 精 力 的 に 研 究 を 進 めた 澤 ら は 移 植 する 細 胞 として 骨 格 筋 筋 芽 細 胞 を 選 択 し それを シート 化 させ( 図 6) 拡 張 型 心 筋 症 動 物 モデルを 用 いて 心 筋 再 生 細 胞 シートの 有 効 性 を 検 証 した 9) そして 大 阪 大 学 内 倫 理 委 員 会 の 承 認 を 得 て 2007 年 8 月 より 患 者 への 治 療 が 開 始 され その 後 厚 生 科 学 審 議 会 科 学 技 術 部 会 で 承 認 を 得 て 適 用 患 者 を 拡 大 し 現 在 までに 17 例 の 重 症 虚 血 性 心 疾 患 患 者 及 び 重 症 拡 張 型 心 筋 症 患 者 への 臨 床 研 究 を 終 え 治 験 が 実 施 されている 10) 従 来 の 治 療 法 では 心 臓 移 植 しか 選 択 肢 のなかった 患 者 に 対 し 細 胞 シート 工 学 によ り 根 本 治 療 できる 可 能 性 があり 極 めて 注 目 される 成 果 と 言 える 6. 食 道 上 皮 組 織 再 生 細 胞 シートの 再 生 医 療 への 展 開 食 道 は 喉 ( 咽 頭 )と 胃 の 間 をつなぐ 管 状 の 臓 器 で その 組 織 は 内 側 から 外 側 へ 向 かって 粘 膜 粘 膜 下 層 固 有 筋 層 外 膜 の 4 つの 層 からなっている 粘 膜 下 層 には 血 管 やリン パ 管 が 豊 富 にある 日 本 人 の 食 道 癌 は その 半 数 が 食 道 の 中 央 付 近 から 発 生 し 次 いで 約 1/4 が 食 道 の 下 部 に 発 生 す ると 言 われている また 食 道 癌 の 90% 以 上 が 扁 平 上 皮 癌 で 粘 膜 層 の 表 面 にある 上 皮 から 発 生 すると 言 われてい る 食 道 粘 膜 の 扁 平 上 皮 癌 に 対 して 従 来 の 外 科 切 除 術 で は 侵 襲 性 が 高 く 患 者 の 心 身 的 な 負 担 が 大 きい 近 年 内 視 鏡 を 用 いて 病 変 部 を 局 所 的 に 切 除 するという 治 療 方 法 と して 内 視 鏡 的 粘 膜 下 層 剥 離 術 (ESD)が 開 発 された この 方 法 であれば 0 期 ( 癌 が 粘 膜 組 織 内 にとどまりリンパ 管 へ 浸 出 していない 状 態 )の 癌 であれば 短 時 間 で 低 侵 襲 の 治 療 ができ しかも 食 道 の 機 能 を 温 存 することができる 方 法 と して 注 目 されている しかしながら この ESD は 術 後 に 食 道 の 切 除 部 分 が 癒 着 し 狭 窄 を 起 こす 恐 れがあるというこ とで 日 本 食 道 学 会 では 粘 膜 層 内 に 限 定 した 癌 と 診 断 さ れ かつ 周 在 性 2/3 以 下 のものを 内 視 鏡 的 な 適 応 範 囲 とし ている ESD 後 の 狭 窄 予 防 のために 通 常 数 十 回 に 及 ぶ バルーンなどを 用 いた 拡 張 術 がなされ その 際 の 痛 み 狭 窄 による 嚥 下 困 難 性 等 の 患 者 のクオリティ オブ ライフ (QOL)を 著 しく 低 下 させてしまう 東 京 女 子 医 科 大 学 岡 野 大 木 らは ESD 後 の 食 道 潰 瘍 の 治 癒 促 進 や 術 後 の 狭 窄 の 防 止 を 目 的 として 患 者 本 人 の 口 腔 粘 膜 細 胞 から 細 胞 シートを 作 製 し( 図 7) それを 内 視 鏡 を 使 って 粘 膜 切 除 部 へ 移 植 するという 新 しい 方 法 を 開 発 し 東 京 女 子 医 科 大 学 内 の 倫 理 委 員 会 の 承 認 を 得 て 2008 年 より 臨 床 研 究 が 実 施 され 細 胞 シートの 生 着 上 皮 再 生 の 程 度 を 内 視 鏡 的 な 観 察 食 道 狭 窄 の 有 無 嚥 下 困 図 7 食 道 上 皮 組 織 再 生 細 胞 シートの 臨 床 例 9)Kondoh H., Sawa Y., Miyagawa S., Sakakida-Kitagawa S., Imran A. Memon, Kawaguchi N., Matsuura N., Shimizu T., Okano T., Matsuda H.; Cardiovascular Research, 69, 466-475(2006) 10)Sawa Y., Miyagawa S., Sakaguti T., et al.; Surg. Today, 42, 181-184(2012) 48
医 療 技 術 の と 図 8 食 道 上 皮 組 織 再 生 細 胞 シートの 臨 床 例 難 性 等 について 検 討 し 患 者 9 例 中 8 例 で 嚥 下 困 難 性 や 食 道 狭 窄 を 予 防 する 良 好 な 臨 床 結 果 を 世 界 で 初 めて 示 し た ( 図 8) 11) これにより 入 院 期 間 が 短 く 術 後 に 早 く 食 事 ができるようになり また 術 後 の 予 防 的 拡 張 術 が 不 必 要 となり 患 者 のQOLを 高 めることのできる 新 しい 治 療 の 可 能 性 を 示 した この 食 道 再 生 治 療 は 2011 年 より 東 京 女 子 医 科 大 学 と 長 崎 大 学 の 間 での 共 同 臨 床 研 究 も 進 められており 患 者 の 口 腔 粘 膜 組 織 を 空 輸 し それより 細 胞 シートを 東 京 女 子 医 科 大 学 内 のGMP 準 拠 のセルプロセシングセンター(CPC) で 作 製 し 得 られた 細 胞 シートを 長 崎 大 学 へ 送 り 返 す 方 法 がとられている 移 植 用 の 細 胞 シートは GMP 準 拠 のセル プロセシングセンターで 作 製 する 必 要 があるが 全 ての 医 療 機 関 にその 施 設 があるわけではなく 広 く 治 療 を 普 及 す るためには 組 織 自 己 血 清 および 細 胞 シートなどの 輸 送 システムの 確 立 や 輸 送 先 医 療 機 関 でも 細 胞 シートの 移 植 ができるような 体 制 を 構 築 する 必 要 があり 今 回 の 東 京 女 子 医 科 大 学 と 長 崎 大 学 の 間 での 共 同 臨 床 研 究 ではそれを 実 施 できることを 示 す 有 意 義 な 成 果 と 考 えている 本 法 は 現 在 さらに スウェーデンのカロリンスカ 研 究 所 においてもその 有 効 性 を 検 討 するために 2010 年 より 臨 床 研 究 が 進 められている 7. 歯 根 膜 再 生 シートの 再 生 医 療 への 展 開 歯 根 膜 は 歯 周 靭 帯 とも 呼 ばれ 歯 根 と 歯 槽 骨 の 間 に 存 在 し 歯 槽 骨 に 歯 を 植 立 させる 懸 架 組 織 である 歯 根 膜 は 歯 槽 骨 セメント 質 歯 肉 と 共 に 歯 周 組 織 を 構 成 する 組 織 である 歯 周 疾 患 は その 歯 周 組 織 に 歯 周 病 原 性 細 菌 に よって 惹 起 される 炎 症 性 疾 患 であり 歯 の 支 持 組 織 を 徐 々 に 破 壊 し 成 人 において 歯 の 喪 失 の 主 要 な 原 因 となってい る 自 覚 症 状 はほとんどないが 大 人 の 7 割 以 上 が 軽 い 歯 周 病 の 症 状 があり 40 歳 以 上 では 2 割 近 くが 重 症 といわ れる 従 来 の 治 療 法 は 病 原 因 子 の 除 去 を 主 体 としたもので 図 9 歯 根 膜 再 生 細 胞 シートの 臨 床 例 11)Ohki T., Yamato M., Ohta M., et al.: Gastroenterology, 143(3), 582-588(2012) 49
あり 歯 周 組 織 の 再 生 は 期 待 できない 東 京 医 科 歯 科 大 学 石 川 (その 後 東 京 女 子 医 科 大 学 )は 東 京 女 子 医 科 大 学 と 共 に 自 己 の 歯 根 膜 細 胞 を 温 度 応 答 性 細 胞 培 養 基 材 上 で 培 養 し 歯 根 膜 細 胞 をシート 状 に 回 収 す ることに 成 功 した 12) この 歯 根 膜 再 生 細 胞 シートを 歯 周 病 患 部 に 貼 付 して 歯 肉 退 縮 症 や 中 度 から 重 症 の 歯 周 炎 の 歯 周 組 織 を 再 生 した( 図 9) 13) 細 胞 接 着 分 子 が 無 傷 なため 容 易 に 損 傷 部 位 に 生 着 し 歯 根 膜 の 再 生 歯 槽 骨 の 再 生 を 促 すことが 分 かった これらの 治 験 をもとに 東 京 女 子 医 科 大 学 岩 田 らは 2010 年 に 東 京 女 子 医 科 大 学 内 倫 理 委 員 会 の 承 認 を 得 て 2010 年 12 月 に 厚 生 科 学 審 議 会 科 学 技 術 部 会 で 歯 周 領 域 では 初 となる 承 認 を 得 て 現 在 までに 6 例 の 患 者 への 臨 床 研 究 を 終 えている 細 胞 を 用 いないこれま での 再 生 医 療 に 比 べ 高 い 臨 床 効 果 適 応 症 の 拡 大 を 期 待 している 8. 軟 骨 再 生 シートの 再 生 医 療 への 展 開 軟 骨 とは 軟 骨 とそれを 取 り 囲 む 基 質 からなる 支 持 器 官 であり 血 管 神 経 リンパ 管 を 欠 く 組 織 である 膝 関 節 軟 骨 の 機 能 としては 荷 重 分 散 性 低 摩 擦 性 が 求 められ この 機 能 に 何 らかの 障 害 が 起 きると 関 節 症 となる その 中 で 関 節 痛 を 伴 う 変 形 性 関 節 症 患 者 の 割 合 は 高 く 国 内 で 約 1000 万 人 の 患 者 がいるとも 言 われ 国 内 では 年 間 90 万 人 のペースで 増 え 続 けていると 言 われている 変 形 性 膝 関 節 症 とは 肥 満 加 齢 遺 伝 職 業 スポーツ 外 傷 など を 原 因 とした 関 節 軟 骨 がすり 減 り 痛 みを 伴 う 疾 患 であ り 疾 病 の 程 度 により 初 期 中 期 末 期 の 3 段 階 に 分 かれ る 65 歳 以 上 の 成 人 の 約 50%が 多 少 なりとも 変 形 性 関 節 症 に 罹 患 しているとされ 高 齢 化 に 伴 い 誰 もがかかわりそ うな 疾 患 の 一 つと 考 えられている このように 多 くの 患 者 がおりながら 変 形 性 関 節 症 の 根 本 的 な 治 療 法 は 未 だ 確 立 されていない 実 際 に 治 療 現 場 では 痛 みを 消 炎 鎮 痛 剤 で 抑 え 軟 骨 表 面 の 滑 りを 関 節 内 に 直 接 ヒアルロン 酸 注 射 す ることで 改 善 することを 行 っているに 過 ぎない 消 炎 鎮 痛 剤 ヒアルロン 酸 を 投 与 し 続 け 病 状 の 進 行 をいかに 阻 止 するか 最 終 手 段 である 人 工 関 節 置 換 術 までの 期 間 をいか に 延 ばせるかが 焦 点 となっているだけなのである そのような 中 で 東 海 大 学 佐 藤 は 温 度 応 答 性 細 胞 基 材 を 利 用 した 細 胞 シート 工 学 に 着 目 し 自 家 軟 骨 細 胞 をシー ト 化 することに 成 功 し さらにその 軟 骨 細 胞 シートを 積 層 化 することで 軟 骨 様 組 織 を 作 製 することに 成 功 した( 図 10) 14,15) 得 られた 積 層 化 軟 骨 シートは 優 れた 組 織 修 復 再 生 能 組 織 接 着 能 を 有 しており 変 形 性 膝 関 節 症 に 対 す る 根 治 治 療 の 再 生 医 療 製 品 として 大 いに 期 待 される 佐 藤 らは この 積 層 化 軟 骨 細 胞 シートによる 再 生 医 療 を 早 期 に 実 現 すべく 骨 軟 骨 損 傷 治 療 を 対 象 としたヒトへの 臨 床 研 究 実 施 について2011 年 2 月 に 東 海 大 学 内 倫 理 委 員 会 の 承 認 2011 年 10 月 には 厚 生 科 学 審 議 会 科 学 技 術 部 会 の 承 認 を 得 て 現 在 までに 4 人 の 患 者 へ 移 植 し 全 例 において 良 好 な 経 過 を 得 ている 上 述 のように 変 形 性 膝 関 節 症 の 初 期 から 中 期 に 見 られ る 軟 骨 部 分 欠 損 に 関 しては 従 来 有 効 な 治 療 法 がなく 積 層 化 細 胞 シートからなる3 次 元 複 合 体 による 新 規 治 療 法 が 確 立 されれば 軟 骨 の 変 性 抑 制 効 果 変 形 性 膝 関 節 症 の 進 行 遅 延 防 止 が 期 待 でき まさに 画 期 的 な 治 療 法 となる 軟 骨 細 胞 シート 図 10 軟 骨 再 生 細 胞 シートの 臨 床 例 12)Hasegawa M., Yamato M. Kikuchi A., Okano T., Ishikawa I.; Tissue Engineering, 11, 469-478 (2005) 13)Iwata T., Yamato M., Tsuchioka H., et al.; Biomaterials, 30(14), 2716-2723(2009) 14)Kaneshiro N., Sato M., Ishihara M., Mitani G.., Sakai H., Mochida J.; Biochemical and Biophysical Research Communications, 349, 723-731 (2006) 15)Ebihara G., Sato M., Yamato M., et al.; Biomaterials, 33, 3846-3851(2012) 50
医 療 技 術 の と 9. 今 後 の 展 開 これまでに 細 胞 シート 工 学 による 角 膜 心 臓 食 道 歯 根 膜 軟 骨 再 生 の 臨 床 研 究 成 果 を 報 告 してきた 細 胞 シート 工 学 は 現 在 さらなる 展 開 がなされており 東 京 慈 恵 医 科 大 学 と 東 京 女 子 医 科 大 学 とで 行 われている 耳 腔 再 生 医 療 が 厚 生 科 学 審 議 会 科 学 技 術 部 会 の 承 認 を 受 けてお り ヒトへの 臨 床 研 究 が 準 備 されつつある また 東 京 女 子 医 科 大 学 では 肺 における 気 漏 や 肝 臓 等 の 臓 器 からの 出 血 を 止 める 機 能 を 有 する 細 胞 シートについて 厚 生 科 学 審 議 会 科 学 技 術 部 会 での 承 認 を 得 るための 申 請 を 準 備 してい る 細 胞 シート 工 学 は さらに 蛋 白 質 ホルモン 酵 素 な どを 産 生 分 泌 している 実 質 組 織 の 再 生 を 目 指 しており 肝 臓 機 能 の 中 心 的 な 機 能 を 担 う 肝 実 質 細 胞 を 含 む 細 胞 シー ト 膵 臓 機 能 の 中 心 的 な 機 能 を 担 うβ 細 胞 を 含 む 細 胞 シー トが 調 製 され 現 在 その 機 能 を 確 認 している 一 方 で 細 胞 シート 工 学 は 単 に 細 胞 シートを 重 層 化 積 層 化 させるのではなく 厚 い 組 織 を 構 築 させる 技 術 も 積 極 的 に 研 究 されている 東 京 女 子 医 科 大 学 清 水 らは 動 静 脈 を 備 えた 生 体 組 織 を 支 持 体 としその 上 へ 細 胞 シートを 積 層 化 することで1mm 厚 の 組 織 を 生 体 外 で 構 築 することに 成 功 し 16) さらにミクロ 流 路 を 備 えたコラーゲンゲルを 支 持 体 とすることでも 同 様 な 厚 い 組 織 を 作 製 することに 成 功 し ている 17) 生 体 内 の 組 織 はさまざまな 細 胞 が 特 定 の3 次 元 構 造 に 並 べられ 各 組 織 の 機 能 として 発 現 させている 肝 臓 のような 多 くの 機 能 を 持 つ 臓 器 もその 特 定 の 組 織 の 集 合 体 である 細 胞 シート 工 学 により それらの 組 織 を 一 つ 一 つ 作 製 することで 最 終 的 には 臓 器 そのものを 作 製 できる ものと 確 信 している 細 胞 シート 工 学 は 当 初 の 数 層 の 細 胞 シートから 厚 い 組 織 へ さらには 実 質 組 織 の 構 築 へ 向 けてさらなる 研 究 が 活 発 に 進 められている 細 胞 シート 工 学 は これまでの 医 薬 品 による 治 療 とは 異 なり 疾 患 の 根 本 治 療 を 実 現 しうる 世 界 で 初 めての 技 術 と 確 信 している 10. 再 生 医 療 研 究 における 特 許 法 の 制 約 我 々は こうした 細 胞 シート 工 学 による 再 生 医 療 技 術 の 特 許 化 を 進 めてきた 最 後 に この 特 許 化 における 幾 つか の 問 題 点 をまとめたい 再 生 医 療 とは 失 われた 臓 器 や 損 傷 或 いは 機 能 が 低 下 し た 臓 器 を 再 生 する 医 療 であり 患 者 を 治 療 するためのもの である しかもその 方 法 としては 従 来 の 医 薬 品 のように 経 口 静 注 して 治 療 する 形 ではなく 多 くの 場 合 外 科 医 が 体 の 一 部 を 切 開 し 特 定 の 場 所 へ 意 図 的 に 移 植 する 形 とな る 特 許 法 では 特 許 法 第 二 九 条 第 一 項 柱 書 において 人 間 を 手 術 治 療 又 は 診 断 する 方 法 を 特 許 化 することを 認 めてい ない しかしながら 現 実 には 同 じ 材 料 を 用 いて 移 植 場 所 移 植 手 順 などを 変 更 させ より 良 い 移 植 法 が 開 発 され す なわちこの 行 為 そのものが 再 生 医 療 技 術 に 含 まれており 移 植 法 の 違 いによって 多 大 な 効 果 が 見 出 されても 特 許 化 で きない 状 況 になっている こうした 問 題 を 解 決 するために 2003 年 より 産 業 構 造 審 議 会 (2003 年 ) 内 閣 府 知 財 戦 略 本 部 (2004 年 ) 内 閣 官 房 知 的 財 産 戦 略 推 進 事 務 局 (2008 2009 年 )と 何 度 かにわたって 審 議 されてきたが 結 果 として 特 許 法 条 文 は 変 わらず 特 許 庁 内 の 審 査 基 準 が 少 し ずつ 変 えられてきたに 過 ぎず 現 在 に 至 っている 治 療 方 法 と 同 様 に 最 近 では たとえば 一 度 生 体 の 中 に 細 胞 を 含 む 構 造 物 を 埋 入 し 特 定 の 状 態 になるまで 体 の 中 に 保 持 させ 最 終 的 に 得 られたものを 本 来 の 臓 器 へ 移 植 する 方 法 或 いは 移 植 するものの 機 能 強 度 を 補 完 するため 別 の 生 体 組 織 を 併 用 する 試 みも 数 多 く 行 われ 実 際 に 多 くの 良 好 な 成 績 が 上 げている このような 生 体 (ヒ トに 限 る)を 利 用 する 発 明 も 特 許 化 することが 認 められて いない また 生 体 にすでに 存 在 している 細 胞 や 生 体 成 分 も 特 許 としては 新 規 性 のないものとして 認 められていない この ことは たとえば ips 細 胞 のような 技 術 が 開 発 されても その ips 細 胞 と もともと 生 体 内 にある ES 細 胞 とは 同 じよ うな 機 能 を 持 ち 今 の 生 物 学 上 では 区 別 がつかず ips 細 胞 そのものでは 特 許 化 することができない 事 実 京 都 大 学 では ips 細 胞 へ 誘 導 する 方 法 でしか 特 許 化 できない 事 態 となっている さらに 再 生 医 療 研 究 は 従 来 の 医 薬 品 開 発 と 異 なり 基 本 的 に 大 学 医 学 部 が 中 心 となって 進 められていることが 特 徴 としてあげられる これは 再 生 医 療 という 技 術 が 医 療 そのものに 直 接 かかわっているためと 考 えている 大 学 が 中 心 となって 開 発 される 以 上 学 会 発 表 論 文 投 稿 など による 研 究 の 普 及 活 動 も 重 要 視 され これまで 企 業 が 行 っ てきたような 特 許 管 理 ( 特 に 特 許 出 願 )が 必 ずしも 実 行 でき なくなってきている こうした 課 題 を 解 決 し 再 生 医 療 研 究 のさらなる 発 展 をはかる 上 で 特 許 法 三 十 条 ( 発 明 の 新 規 性 の 喪 失 の 例 外 )の 整 備 も 必 要 になるものと 考 えている 上 述 したように 現 在 の 再 生 医 療 研 究 においては 現 行 の 特 許 法 では 表 現 できない 発 明 も 数 多 く 見 出 されてきてい る 今 後 何 人 も 平 等 に 受 けられる 医 療 という 立 場 は 守 り つつ 発 明 は 発 明 として 産 業 化 の 可 能 性 があるものとして 整 備 していく 必 要 があるものと 考 えている 16)Sakaguchi K., Shimizu T., Haraguchi S., et al.; Scientific Reports, 3, 1316(2013) 17)Sekine H., Shimizu T., et al.; Nature Communications, 4, 1399(2013) 51
profile 坂 井 秀 昭 (さかい ひであき) 1983 年 東 京 工 業 大 学 大 学 院 理 工 学 研 究 科 有 機 材 料 工 学 専 攻 修 了 1983 年 花 王 株 式 会 社 入 社 2002 年 株 式 会 社 セルシード 入 社 profile 岡 野 光 夫 (おかの てるお) 1979 年 早 稲 田 大 学 大 学 院 高 分 子 化 学 博 士 課 程 修 了 ( 工 学 博 士 ) 1994 年 東 京 女 子 医 科 大 学 教 授 1984 年 ユタ 大 学 薬 学 部 併 任 教 授 2001 年 東 京 女 子 医 科 大 学 先 端 生 命 医 科 学 研 究 所 所 長 2004 年 早 稲 田 大 学 生 命 医 療 工 学 研 究 所 客 員 教 授 2012 年 東 京 女 子 医 科 大 学 副 学 長 日 本 再 生 医 療 学 会 理 事 長 日 本 学 術 会 議 会 員 52