食中毒事件数の年次推移 ( 平成元年 ~ 平成 25 年 ) 病因物質別発生事件数 ( 平成元 ~25 年 ) サルモネラ菌属 ブドウ球菌 ボツリヌス菌 900 腸炎ビブリオ 腸管出血性大腸菌 腸炎ビブリオ サルモネラ菌属 カンピロバクター 病原性大腸菌 ウエルシュ菌 セレウ

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目について以下の結果を得た 各社の加熱製品の自主基準は 衛生規範 と同じ一般生菌数 /g 以下 大腸菌 黄色ブドウ球菌はともに陰性 未加熱製品等の一般生菌数は /g 以下であった また 大腸菌群は大手スーパーの加熱製品については陰性 刺身などの未加熱製品については

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はじめに 食中毒とは 食中毒を起こす微生物が付着して増殖した飲食物や 有毒又は有毒な化学物質 ( 自然毒 ) が含まれている飲食物を摂取することによって起こる健康障害です 東京都では 毎年 100 件程度発生する食中毒ですが 食中毒の大部分を占めるのは微生物による食中毒です このたび 食品衛生に関わ

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菌名原因食品及び感染したときの症状特徴 黄色ブドウ球菌 原因食品 : 弁当 おにぎりなど潜伏期間 :1~5 時間症状 : 吐き気 おう吐 下痢 腹痛などの症状が現れます ヒトや動物の化膿した傷口やおできなどに存在し 食品に付着し増殖するときに毒素を作ります 毒素は熱や乾燥に強い性質があります ウエル

(2) 平成 29 年食中毒発生状況 / 速報値 ( 千葉市 船橋市 柏市含む ) 1 月別発生状況 年 月 計 件数 患者数

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サルモネラ グラム陰性陰性 桿菌桿菌 周毛 通性嫌気性 分類 Salmonella enterica 亜種 enterica 血清型約 2500 亜種 enterica 約 1500 分布家畜 家禽家禽 温血動物温血動物 冷血動物 魚介類環境 : 河川

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食中毒の原因となる主な細菌やウイルス 食中毒とは 有害な微生物や物質に汚染された食品を食べることで起きる健康被害のことです 多くの場合 嘔吐 腹痛 下痢 発熱などの急性胃腸炎症状を起こします カンピロバクター 原因食品特徴潜伏期間 症状予防法 加熱不十分な食肉など 熱 乾燥に弱い 通常の加熱調理で死

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後などに慢性の下痢をおこしているケースでは ランブル鞭毛虫や赤痢アメーバなどの原虫が原因になっていることが多いようです 二番目に海外渡航者にリスクのある感染症は 蚊が媒介するデング熱やマラリアなどの疾患で この種の感染症は滞在する地域によりリスクが異なります たとえば デング熱は東南アジアや中南米で

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表 1-2. コーデックスガイドライン (Codex Guidelines)2018 年 2 月現在 78 ガイドライン コーデックスガイドラインは 食品の安全性 品質 取込み可能性を確実にするために 証拠に基づいて 情報と助言を推奨手順と同時に提供するものである ガイドラインタイトル策定 部会 最

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東京都微生物検査情報 第39巻第5号

卵管の自然免疫による感染防御機能 Toll 様受容体 (TLR) は微生物成分を認識して サイトカインを発現させて自然免疫応答を誘導し また適応免疫応答にも寄与すると考えられています ニワトリでは TLR-1(type1 と 2) -2(type1 と 2) -3~ の 10

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まとめとして 図 1 のように 第 21 回の感染の過程 第 22 回で触れました感染全体に関する3つの要因をここでは 3つのポイントとして大きな円で括りまとめました このようにいつかの過程も 大きく分けると以下の 3つのポイントになります 感染のしくみにおける3つのポイント Ⅰ. 病原体 : 感染

ボツリヌス症 (1) ボツリヌス食中毒 ( 食餌性ボツリヌス症 )Foodborne botulism (2) 乳児ボツリヌス症 :Infant botulism (3) 創傷ボツリヌス症 :Wound botulism (4) 成人腸管定着ボツリヌス症 :Adult intestinal toxe

性食中毒である きのこ類による食中毒や貝毒による食虫毒は 毒素型の自然毒食中毒である ウエルシュ菌や ベロ毒素陽性の大腸菌が原因の場合には 感染毒素中間型細菌性食中毒に分類 されるべきものである 学校医が知っておくべき食中毒に関連する法律は 主に食品衛生法と感染症法 それに学校保健安全法である 食品

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2001年(平成13年)10月1日創刊  2007年(平成19年) 1月1日発行

目次 1. 実施期間 1 ページ 2. 実施範囲 1 ページ 3. 実施体制と関係機関との連携 1 ページ 4. 監視指導対象業種と監視数 1 ページ 5. 監視時の指導事項 1 ページ 6. 重点的に実施した監視指導事項 1 ページ 7. 継続的に実施した監視指導事項 2 ページ 8. 食品の収去

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DNA/RNA調製法 実験ガイド

原因食品 事件数 (%) 患者数 (%) 食肉 鶏肉 482 うち 生食 鶏刺し,鶏たたき等 306 (16.2) 食品の77 4 鶏肉の 64 (3.1) 牛肉の 98% (0.1) 43 その他* 不明** (1.5) 696 (3.7) 7 (0.2) 281 (1.5) 2,343 (78.

HACCP 自主点検リスト ( 一般食品 ) 別添 1-2 手順番号 1 HACCP チームの編成 項目 評価 ( ) HACCP チームは編成できましたか ( 従業員が少数の場合 チームは必ずしも複数名である必要はありません また 外部の人材を活用することもできます ) HACCP チームには製品

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参考資料 1 野生鳥獣肉の衛生管理に関するガイドライン 平成 26 年 5 月 鳥獣保護法の改正に伴い 今後 野生鳥獣の捕獲数が増加し 食用としての利活用が増加する見込みであり 食用に供される野生鳥獣肉の安全性の確保を推進していく必要がある 1 1 平成 26 年 5 月 22 日参議院環境委員会附

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食中毒予防と 食品の安全確保

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手順 / 原則 内容 手順 6 / 原則 1 危害分析 ( ハザード分析 ) 手順 7 / 原則 2 重要管理点 (CCP) の決定手順 8 / 原則 3 管理基準を設定する手順 9 / 原則 4 モニタリング方法を設定する手順 10 / 原則 5 改善措置の方法を設定する 何をどこでコントロールす

Transcription:

食品を科学する - リスクアナリシス ( 分析 ) 連続講座 -( 平成 26 年 7 月 3 日 ) サルモネラ属菌 相手を知ってやっつけよう ~ 主な細菌性食中毒の特徴と対策 ~ 黄色ブドウ球菌 カンピロバクターの電子顕微鏡写真 委員長熊谷進 1

食中毒事件数の年次推移 ( 平成元年 ~ 平成 25 年 ) 病因物質別発生事件数 ( 平成元 ~25 年 ) サルモネラ菌属 ブドウ球菌 ボツリヌス菌 900 腸炎ビブリオ 腸管出血性大腸菌 800 700 600 腸炎ビブリオ サルモネラ菌属 カンピロバクター 病原性大腸菌 ウエルシュ菌 セレウス菌 エルシニア エンテロコリチカカンピロバクター ナグビブリオ 件数 500 400 ノロウイルス コレラ菌赤痢菌その他の細菌ノロウイルス 300 その他のウイルス クドア 200 サルコシスティス アニサキス 100 その他の寄生虫 0 1 6 11 16 21 年次 厚生労働省食中毒統計資料 過去の食中毒発生状況 に基づき食品安全委員会事務局作成 メタノールその他の化学物質植物性自然毒動物性自然毒その他 2

食中毒患者数の年次推移 ( 平成元年 ~ 平成 25 年 ) 病因物質別患者数 ( 平成元 ~25 年 ) サルモネラ菌属 ブドウ球菌 ボツリヌス菌 30,000 25,000 ノロウイルス 腸炎ビブリオ腸管出血性大腸菌病原性大腸菌ウエルシュ菌セレウス菌 人数 20,000 15,000 サルモネラ菌属 腸炎ビブリオ ブドウ球菌 エルシニア エンテロコリチカカンピロバクター ナグビブリオ コレラ菌 赤痢菌 その他の細菌 ノロウイルス 10,000 その他のウイルス クドア サルコシスティス 5,000 アニサキス その他の寄生虫 0 1 6 11 16 21 年次 メタノール その他の化学物質 厚生労働省食中毒統計資料 過去の食中毒発生状況 に基づき食品安全委員会事務局作成 3

4 細菌は細胞ウイルスは粒子 腸管出血性大腸菌 ノロウイルス直径 30 nm 前後の小球形 < 埼玉県衛生研究所提供 >

微生物による食中毒 微生物が健康障害を起こす仕組みによって 二種類ある 感染型食中毒 毒素型食中毒 生きている微生物が消化管内で作用して 健康障害を生じる 生きている微生物を摂取しなければ 健康障害が起こらない 腸管出血性大腸菌サルモネラ属菌カンピロバクターノロウィルス腸炎ビブリオ ウエルシュ菌 食品中で微生物によって産生された毒素が作用して健康障害を生じる 生きている微生物を摂取しなくとも 毒素を摂取すれば健康障害が起こる 黄色ブドウ球菌ボツリヌス菌セレウス菌 5

6 食中毒予防の三原則 原因微生物を

7 食中毒微生物の汚染源 つけない 食中毒微生物の生息場所 ( 汚染源 ) を知っておくと つけない ( 汚染を防止する ) ための注意点が判る 主な汚染源人と動物の糞便人の糞便沿岸海水 海産魚介類二枚貝人の化膿創 手指 鼻汁 乳土壌乳肉 微生物の種類サルモネラ属菌 カンピロバクター腸管出血性大腸菌 その他病原大腸菌ウエルシュ菌ノロウイルス 赤痢菌 コレラ菌腸炎ビブリオ コレラ菌ノロウイルス黄色ブドウ球菌ボツリヌス菌 セレウス菌エルシニア エンテロコリチカ リステリア菌

8 細菌とウイルスの増殖 ふやさない 細菌は周囲の成分を利用し 細胞分裂で増殖 ウイルスは生きている細胞内で 細胞成分を利用して増殖

9 細菌の検出と菌数測定 CFU: 細菌の数を表す単位 集落形成単位

菌数細菌の増殖曲線 ( イメージ ) ふやさない 10 9 30 10 8 10 7 10 6 10 5 10 4 10 10 3 ~ 時間 10

11 食中毒細菌が増殖できる条件 ふやさない 栄養素が必要 温度 : 5~45 とくに 30~40 で増殖しやすいただし, さらに低温で増殖できる菌もある ph: 4.4~11.0 最適 ph: 6.0~8.0 水分活性 (Aw): 0.92 以上ただし 例外もある 好気的条件で 嫌気的条件で または それとは無関係に ( 偏性嫌気性菌 微好気性菌 通性嫌気性菌 ) 逆手に取れば増殖を防ぐことができる ただし 増殖不可でも生残できる場合もある!

水分活性 (Aw) とは? ふやさない 微生物が利用できる食品中の水分量を表す単位水分活性は 0~1.0 の範囲 食品名 Aw 値 生鮮野菜 生肉 生魚 0.99~ アジの開き 0.96 塩サケ ( 辛口 ) 0.88 イカの塩辛 0.80 干しエビ 0.64 煮干 0.58 同じ種類の食品でも 塩分濃度や乾燥程度の違いなどにより 製品によって異なる 12

食中毒細菌の増殖速度 ふやさない 菌種 至適温度 ( ) 時間 / 分裂 腸管出血性大腸菌 37 0.30 サルモネラ 40 0.30 腸炎ビブリオ 37 0.15 カンピロバクター 42 0.80 黄色ブドウ球菌 37 0.39 ひとつの菌が 1 回分裂するために必要な時間 13

14 芽胞形成菌 ーボツリヌス菌 ウエルシュ菌 セレウス菌等ー ふやさない 芽胞は長期間生残し 加熱や乾燥などに強い 芽胞によっては 加熱では死滅しないことがあるので 要注意! 概念図 増殖に適した条件 増殖し難い条件 増殖に適した条件 芽胞形成 発芽 増殖

菌数D 値とは殺菌条件を決めるために利用する やっつける D 値 = 菌数を 1/10 に減少するために必要な時間 10 6 10 5 10 4 10 3 10 2 10 1 10 0 D 値 時間 菌種 温度 ( ) D 値 ( 分 ) 腸管出血性大腸菌 65 0.14 サルモネラ 65 0.5-1.5 腸炎ビブリオ 53 1.2-3.5 カンピロバクター 65 0.22 黄色ブドウ球菌 60 0.6-5.3 ボツリヌス菌 A 芽胞 121 0.06-0.23 食品の組成 Aw や ph によって値が変わる 表中の値は 例示 Z 値 =D 値を 1/10 に減少するために必要な温度増加 15

ここからは代表的な食中毒細菌の各論です 16

サルモネラ属菌 特徴通性嫌気性菌 2500 以上の血清型に分類される食中毒を起こすのは一部の血清型死亡例あり 病原性の強さはいろいろ ( 数個で発症の記録あり ) 鶏 牛の糞便に比較的多量 高頻度に排出される鶏卵に含まれることあり ( 主にオンエッグ ) 乾燥 酸 加熱に比較的強い 多様な食材が汚染される ( 芽野菜 乾燥いか菓子 アイスクリーム ピーナツバター etc.) 17

サルモネラ属菌 2000 年サルモネラ食中毒 527 事例中原因食品判明事例 卵を使った料理 自家製マヨネーズを用いたハマグリの素焼き及び海老の素焼きマヨネーズ和えタルタルソース自家製マヨネーズ卵入り納豆 (6) とろろ ( 生卵入り )(4) 生卵 卵 (10) 生卵入りツナトーフステーキに使用された卵オムレツ (4) オムライスロブスターの黄金焼き伊勢海老黄金焼サンドウィッチフレンチトーストポテトサラダサラダ (2) すごもりかまぼこ錦糸卵をのせたまぜごはんバラずしちらしずしちらしずしの中の錦糸卵寿司おにぎり及び巻きずし 卵を使ったデザート アイスクリーム (2) レアチーズアイスティラミスシュークリームスイートポテトババロア (2) 肉を使った料理 焼肉 生レバー ユッケ鶏生肉ハンバーグ牛レバー刺身生レバーカツ丼弁当カツ皿カツ丼牛肉の柳川丼風鹿肉の琉球フォアグラの美食家風 その他 冷やしうどん麦とろ定食ホウレンソウの胡麻和え赤飯惣菜類おでん青菜の辛子和えおにぎりがんも ずいき煮物おはぎ甘酒氷菓冷麺 2012 年サルモネラ食中毒 40 事例中原因食品判明事例 卵または肉を使った料理 生卵入りとろろご飯焼肉 ( 鶏肉 ) プリン鶏刺しかつ煮卵プリン等 厚生労働省食中毒統計資料 過去の食中毒発生事例 より食品安全委員会事務局集計 18

サルモネラ属菌 食中毒患者からの分離株の血清型 ( 食品安全委員会リスクプロファイル ) 血清型 2002 年 2009 年 Enteritidis 60.7% 28.6% Typhimurium 2.8% 6.0% Infantis 4.4% 11.1% Thompson 2.5% 7.9% Saintpaul 3.3% 7.9% Braenderup 1.3% 2.8% Montevideo 0.8% 0.9% Litchfield 0.8% 1.5% 19

サルモネラ属菌 農場ブロイラー糞便からの分離株の血清型 (2000-3 年 ) 検査羽数 陽性羽数 血清型 分離株 % 283 57 Infantis 71.4 Agona 4.4 Virchow 4.4 Enteritidis 3.3 Hardar 3.3 Thompson 2.2 Blockley 2.2 Haifa 2.2 Istanbul 2.2 Newport 2.2 UT 2.2 食品安全委員会リスクプロファイル 20

21 サルモネラ属菌 殻付き卵中のサルモネラ汚染実態 検査総数陽性数時期 15,000 3 (0.02%) 1992 年 1-3 月 9,000 3 (0.03%) 1992 年 8-10 月 105,033 3 (0.0029%) 2010 年 6 月 - 2011 年 1 月

サルモネラ属菌 殻付き卵中 SE の急速増殖開始までの日数 log 10 YMT = 2.0872-0.04257T as yolk membrane breakdown time (YMT) 菌数 10 6 10 概念図 30 20 10 温度 日数 10 45.9 日 20 17.2 日 30 6.6 日 日数 35 1.8 日 Schoeni, J.L., Glass, K.A., McDermott, J.L., & Wong, A.C.L. 1995. Growth and penetration of Salmonella enteritidis, Salmonella heidelberg and Salmonella typhimurium in eggs. International Journal of Food Microbiology, 24(2): 385 396. (FAO/WHO Risk assessments of Salmonella in eggs and broiler chickens. に引用 ) 22

23 サルモネラ属菌 卵殻表面からのサルモネラの侵入の実験 表面乾燥 保存 表面殺菌 培養 菌液 殻つき卵 (25 一群 10 個 ) をサルモネラ菌液 (10 S.E.10 6 CFU/ml) に 10 分間浸漬後 乾燥後に 25 下で保存後 表面を殺菌してから卵内容物中のサルモネラを検出 ( 小沼博隆 2000) 卵グレード 期間 [ 日 ] < 保存温度 25 > 0 3 7 10 正常卵 1( 個 ) 3 7 10 A 級破卵 4 6 10 10 B 級破卵 9 9 10 -

24 サルモネラ属菌 サルモネラ食中毒防止に向けた行政対応 卵とその加工品の衛生対策 ( 厚生労働省通知 1992 年 ) 破卵とひび割れ卵の加熱と冷蔵 液卵の加熱殺菌 ( 全卵バッチ式 58 10 分間 ) 冷蔵 (8 以下 ) 冷凍 正常殻付卵の新鮮使用と冷蔵保存 生卵と半生卵の室温長時間放置の回避採卵鶏農場におけるサルモネラ衛生対策指針 ( 農林水産省 1993 年 ) 媒介動物の駆除 モニタリング衛生検査 鶏舎の消毒 清浄ヒナの導入など卵の規格基準の策定 ( 厚生労働省通知 1998 年 ) 洗卵 消毒 (150ppm 以上の次亜塩素酸ナトリウム溶液など ) 表示基準 ( 期限表示 生食用または加熱加工用の表示など ) 液卵の表示基準 ( 殺菌方法の表示 未殺菌の場合は要加熱の表示 期限表示など ) 調理基準 ( 殻付卵や未殺菌液卵を用いる食品の製造 加工 調理における加熱条件 ) 液卵の規格基準 ( サルモネラ属菌などの成分規格 温度管理を含む製造基準と保存基準その他農場対策 SE,ST 等の鶏サルモネラ症を届出伝染病に指定 (1998 年 )

25 サルモネラ属菌 市販食品汚染実態調査 ( 厚生労働省 ) 検体 2011 2012 2013 牛ミンチ肉 3/102 1/99 1/55 豚ミンチ肉 2/144 4/136 5/119 ミンチ肉 ( 混合 ) 3/103 1/100 4/88 鶏ミンチ肉 88/159 104/217 15/32 牛レバー 加熱用 2/225 4/233 0/3 牛結着肉 0/198 0/203 1/9

26 腸炎ビブリオ 特徴 通性嫌気性菌好塩性最適増殖 NaCl 濃度 =3% 増殖可 NaCl 濃度 =0.5-10% 腸管内で耐熱性溶血毒 (TDH) などが作用する TDH:Thermostable direct hemolysin TRH もあり TDH 産生菌株の検出は TDHまたはtdhの検出によってビブリオ属の菌は沿岸海水域や汽水域で生息夏場に増加 ( 海水温 20 以上で検出頻度増 ) 環境中ではTDH 非産生菌が主体 発症はTDH 産生菌による患者糞便中ではTDH 産生菌 ( 病原性菌株 ) が主

腸炎ビブリオ 食中毒原因食品中の腸炎ビブリオ菌数 原因食品中腸炎ビブリオ菌数 ( 個 /g) 1 以下 1-10 10-100 100-1000 1000 超 食中毒事例数 1 1 1 6 2 原因食品 まぐろ ボイルカニ ウニ さしみアサリカキタイラギ赤貝調理済み卵 オムレツハマグリ ( 薬事 食品衛生審議会食品衛生分科会乳肉水産食品部会 2000/1/21 参考資料 ) 27

腸炎ビブリオ 28

29 腸炎ビブリオ 腸炎ビブリオ食中毒防止に向けた行政対応 (2001 年 ) 腸炎ビブリオについての成分規格 ゆでだこ 飲食に供する際に加熱を要しないゆでがについては陰性 生食用鮮魚介類 剥き身の生食用カキ 生食用冷凍鮮魚介類については 100MPN/g 以下 (TDH 産生菌 + 非産生菌 ) 生食用魚介類の加工基準 生食用魚介類の加工に用いる水は 飲用適の水, 殺菌済み海水または飲用適の水を用いた人工海水とする ( 沿岸海水使用禁止 ) 生食用魚介類の保存基準 冷凍ゆでがには -15 以下で 飲食に供する際に加熱を要しないゆでがに ( 冷凍ゆでがにを除く ) は 10 以下で保存

30 腸炎ビブリオ 病原性株 (tdh 陽性株 ) の分離頻度 魚介類年検体数 tdh+vp 年検体数 tdh+vp ホッキ貝 2001 121 3 (2.3%) アサリ 2001 36 2 (5.6%) 全魚介類 2001 329 11 (3.3%) 2007-9 101 4 (4.0%) 2007-9 256 4 (1.6%) 2007-9 842 18 (2.5%) (Hara-Kudo et al (2012)Int.J.Fd.Microbiol., 157, 95-101 より抜粋 )

31 ボツリヌス菌 特徴 偏性嫌気性菌 缶詰 瓶詰 真空パック中など嫌気的条件下で増殖 耐熱性芽胞 土壌中に芽胞あり 易熱性毒素産生 A,B,C,D,E,F,G 型のうち A,B,Eが人に食中毒を起こす 死亡例あり 潜伏期 8-36 時間症状は重篤な神経症状 型 芽胞死滅 毒素失活 脱力感 複視 嚥下障害 血圧低下 筋麻痺 呼吸困難抗毒素投与による治療 A B B 121.1 120 82.2 0.051 0.19 1.49-73.61 74 74 1.5 2 min min E 79.4 1.3 74 2 1/15M PB ph7.0 or 7.1 PB ph6.8 Microorganisms in foods, ICMSF, Vol.5

32 ボツリヌス菌 主な食中毒事例 年 毒素型 患者数 死者数 あずきばっとう 2012 A 2 0 自家製アユのいずし 2007 E 1 0 井戸水 2006 A 1 0 真空パックハヤシライス 1999 A 1 0 瓶詰オリーブ 1998 B 18 0 いわないずし 1997 E 1 0 ハヤいずし 1997 E 3 0 不明 1996 A 1 0 < 略 > 真空パック辛子レンコン 1984 A 36 11

33 乳児ボツリヌス症 特徴 生後 1 歳未満の乳児芽胞の経口摂取症状 : 便秘傾向 全身の筋力低下 泣き声や乳を吸う力が弱まり 頸部筋肉の弛緩によって頭部を支えられなくなる 散瞳 眼瞼下垂 対光反射の緩慢などボツリヌス食中毒と同様の症状 呼吸障害が生じ重症化すると死に至ることもあるが 死亡率は食中毒よりも低い 我が国では A,B,C,E 型による事例あり 発生 1986 年 ~1987 年 :9 例いずれもはちみつが原因 1989 年 :2 例以降も年によって1~2 例 井戸水 (2010 年 ) による事例など 1987 年 :1 歳未満の乳児にはちみつを与えないように指導

34 生産から消費までの各段階で 三原則をどのように実現するか? その方法を取り入れた場合の効果は?

35 もっとも欲しいのは 微生物学的リスク評価 例えば 流通販売の過程で菌の増殖を低減する対策の効果を推定する場合 栽培収穫製造加工流通販売摂取 汚染 増殖 リスク 栽培収穫製造加工流通販売摂取

36 リスク分析 食品安全委員会リスク評価 リスクの同定 ADI,TDIの設定 リスク管理施策の評価等 厚生労働省 農林水産省 消費者庁等 リスク管理 最大残留基準値 (MRL) の設定 規格 輸入基準の設定 検査 サーベイランス 指導等

おわり 37