セットのバイオメカニクス 縄田亮太 テンポ を理解すれば 誰でも簡単に実践できる!! 世界標準のバレーボール ( ジャパンライム ) 1
セットの 目的 と 3 つ のエッセンス 1. 味方アタッカーの力を引き出す 2. 相手にギリギリまでアタッカーを絞らせない 1 同じようなフォームから 2 様々な方向に 3 ボールをコントロール 2
アンダーハンド パスの 原理 目標方向への 1 面のスイングと 2 重心移動による ( レフト方向 ) ( 腕の振り ) ( 左足から右足へ ) 2010 年世界選手権日本対アメリカ 3
アンダーハンド パスのデメリット? 3ボールをコントロール と 1 同じようなフォームから 2 様々な方向に が トレードオフ の関係になります 3を重視すると 原理 ( 面のスイング に加え 重心移動 が伴うので 12が成立しずらいです 一方 12を重視すると 面のスイング のみになり 正確性を高めるために必要な 重心移動 が伴わず 1が成立しずらいです つまり アンダーハンド パスは 3つ の エッセンス を同時に満たしづらい 原理 が デメリット になります 4
ボールを弾く 原理 一方で オーバーハンド パスの 原理 は適しています なぜなら 求められる3つの エッセンス を同時に満たすためには ボールを飛ばす 原理 が 比較的 ( アンダーハンド パスに比べ ) 可能だからです つまり 原理 の違いこそが 要素 目的 の達成に大きく影響しています そこで 本発表は オーバーハンド パスが適している理 由 を 原理 の観点から紹介していきたいと思います 5
本日の流れ ボールをコントロール 手の ばね で活かす? ( 原理 1) 身体の 力線 を活かす? ( 原理 2) 様々な方向にボールをコントロール ばね と 力線 を活かして方向転換?( 原理 3) 同じフォームから様々な方向にコントロール ジャンプ して方向転換? ( 原理 4) 6
縄田ほか (2013), 体育学研究 (58)1,111-122 ボールをコントロール 手の ばね を活かす? ( 原理 1) 身体の 力線 を活かす?( 原理 2) Makita et al.,(2015), the 25th Congress of the Int. Society of Biomechanics, AS-0165. 7
手の ばね とは どんなイメージ? 1 トランポリン 2 ロイター版 3 テニスラケット トーエイライトジャンピングシェイプ 100 H-8140 スプリングボード アイリス ミズノキャリバーコンプ 柔 硬 8
原理 1 ばね ( 筋腱複合体 ) 手を ばね にするとは筋腱複合体を活用すること ( ヒトの性能の1つ ) 筋腱複合体は 筋 のみよりも大きな力を発揮 ただし 外力によって腱が伸ばされ 縮む過程が必要 ( 弾性エネルギーの利用 ) 9
筋腱複合体 を感じる ( でこぴん ) 筋 ( 内力のみ ) 筋腱複合体 ( 外力のみ ) 筋腱複合体 ( 外力 + 内力 ) < < 収縮 内力 収縮 内力 1 予備緊張 2 受動的な伸展 3 即時のリリース 10
(1) 予備緊張 ( ボールに押される直前 ) ボール ( 外力 ) に押される直前 主に屈筋の力発揮 ( 内力 ) を意識し 適度に ばね が硬い状態で待つこと ( 伸筋の力発揮はしない = 能動的に伸展させない ) 11
(2) 受動的な伸展 ( ボールに押されて ) 屈筋が力発揮しながら ボールによって押されると ( 外力 内力 ) 腱 が伸ばされる過程で 弾性エネルギーが蓄積する ( 受動的な伸展 ) なお 弾性エネルギーの大きさは 外力と内力の大きさに影響される 12
(3) 即時のリリース ( ボールに押されながら ) ばね 活用するには 弾性エネルギーが大きくなった瞬間に リリース が必要です リリース のタイミングが遅くなると 弾性エネルギーが失われ うまく活用できません 弾性エネルギーが蓄積された状態からの 即時 の リリース が必要です 13
筋腱複合体が活かせない (3 パターン ) 1 ばね が柔らかすぎる ( 予備緊張 ) 2 自らキャッチしようとする ( 受動的な伸展 ) 3 リリースが遅い ( 弾性エネルギー ) キャッチ & スローは 筋腱複合体 を活用せず 筋 の力発揮に依存する別原理? 14
キャッチ & スローをしたことない S 中学校の生徒 ( バレーボール歴 1 年未満 ) ハンドリング ではなく 反動 ing ( ハンドウイング ) 15
ボールをコントロール 手の ばね を活かす? ( 原理 1) 身体の 力線 を活かす?( 原理 2) 16
ボールを弾く条件の設定 弾く方向を変える 1 方向を変える 2 真上からのボールを 真上方向へ 真上からのボールを横方向 ( 左 ) へ 飛来してくるボールを違う方向 ( 左 ) へ 鉛直方向 鉛直方向 鉛直方向 + 水平方向 17
(1) 手を ばね にする 手 肘 体幹 膝 足 実際のプレーラケットモデル力の作用モデル 18
(2) 足で ばね を活かす 手 肘 体幹 膝 足 実際のプレーラケットモデル力の作用モデル 19
(3) 肘で ばね を活かす 手 肘 体幹 膝 足 実際のプレーラケットモデル力の作用モデル 20
(4) 肘 足で ばね を活かす 手 肘 体幹 膝 足 実際のプレーラケットモデル力の作用モデル 21
(5) 肘 膝 足で ばね を活かす 手 肘 体幹 膝 足 実際のプレーラケットモデル力の作用モデル 22
原理 2 ばね は 打突 で活かす 1. 手の ばね を活かすには 力線 ( すべての力の合成 ) の 軸 を最大限活用する( 打突 ) 身体重心 ボール の 移動方向 が コントロール に影響する ( 最小限度の力発揮でボールを弾く ) 手 肘 体幹 膝 足 上肢の伸展力 床反力 23
コントロールするとは? 力線 ( 軸 ) を活用できない? A B ボールを同じ高さに上げる 色々 な高さに調整する課題であれば B に比べ Aの方が簡単です なぜなら Aであれば ばね の硬め具合 ( 筋発揮 ) にのみ集中できるのに対し Bであれば力発揮の大 手 肘 体幹 上肢の伸展力 きさ ( 例えば 肘 と 膝 が余計 に力発揮 ) 方向 ( 床反力 上肢の 膝 伸展力の方向 打突の位置など ) など調整する部分が増えるからです 足 床反力 24
ボールをコントロール のまとめ 手の ばね を活かす 筋腱複合体 ( 原理 1) 身体の 力線 を活用する 打突 ( 原理 2) ボールコントロール ( 力の伝え具合 ) の難しさ 床反力 と 上肢の伸展力 によって発揮される 身体重心 が移動する 力 の 大きさ と 方向 に対する ボール が移動する 力 と 方向 によって変わる ( 身体重心とボールの移動方向のなす角が小さいと比較的簡単で 身体重心とボールの移動方向のなす角が大きいと比較的難しい ) 25
本日の流れ ボールをコントロール 手の ばね で活かす? ( 原理 1) 身体の 力線 を活かす? ( 原理 2) 様々な方向にボールをコントロール ばね と 力線 を活かして方向転換?( 原理 3) 同じフォームから様々な方向にコントロール ジャンプ して方向転換? ( 原理 4) 26
全日本インカレ 2011 女子決勝東海大学対日本体育大学 2014 世界選手権ポーランド 様々な方向にボールをコントロール ばね と 力線 を活かして方向転換?( 原理 3) 27
ボールを弾く条件の設定 弾く方向を変える 1 方向を変える 2 真上からのボールを 真上方向へ 真上からのボールを横方向 ( 左 ) へ 飛来してくるボールを違う方向 ( 左 ) へ 鉛直方向 鉛直方向 鉛直方向 + 水平方向 28
力線 を傾ける 手 肘 体幹 膝 足 29
目標 ボール 身体の位置関係 ( 直線 ) ( 真上から見た場合 ) 目標ボール身体 天使の輪? 原理 3 身体ボール目標 360 目標に応じてボールを捉える位置を変えることで方向転換 30
力線 の活用 ( 直線 ) 1/6 ワールドカップ 2015 アメリカ対ポーランド 31
力線 の活用 ( 直線 ) 2/6 全日本インカレ 2011 女子決勝東海大学対日本体育大学 32
力線 を活用 ( 直線 ) 3/6 1) 青色 3 番 (Face to 4 からライト ) 2) 黄色 8 番 ( Face to 2 からレフトへ ) 奇跡のレッスン バレーボール編 NHK BS1 2015.12.13 放送分 33
力線 の活用 ( 直線と非直線 ) 4/6 ( イメージ ) ボールの描く放物線軌道の一部になったように 34
力線 の活用 ( 非直線 ) 5/6 ( イメージ ) ボールの描く放物線軌道の一部になったように 35
力線 の活用 ( 非直線 ) 6/6 2011 欧州選手権ロシア対ブルガリア 36
様々な方向へ のまとめ 目標に応じてボールを捉える位置を変える ( 原理 3) (= 身体全体の力線を傾ける ) なお 下肢の力線 ( 床反力 ) と 上肢の力線 ( 上肢の伸展力 ) の方向が一致しない時は 上肢の力線 の方向とボールの移動方向のなす角が 小さくなるとコントロールが比較的簡単に 大きくなると比較的難しくなる 37
本日の流れ ボールをコントロール 手の ばね で活かす? ( 原理 1) 身体の 力線 を活かす? ( 原理 2) 様々な方向にボールをコントロール ばね と 力線 を活かして方向転換?( 原理 3) 同じフォームから様々な方向にコントロール ジャンプ して方向転換? ( 原理 4) 38
同じフォームから様々な方向にボールをコントロール ジャンプ して方向転換? ( 原理 4) 39
原理 4 上半身の打突 で活かす 1. 手の ばね を活かすには 力線 すべての力の合成 の 軸 を最大限活用する( 打突 ) 上肢の伸展 ( 体幹は土台 ) と ボール の 移動方向 が コントロール に影響する ( 最小限度の力発揮でボールを弾く ) 手 肘 体幹 膝 足 上肢の伸展力 床反力 40
力線の活用 ( ジャンプ )1/4 2010 世界選手権アルゼンチン対日本 41
力線の活用 ( ジャンプ )2/4 テンポ を理解すれば 誰でも簡単に実践できる!! 世界標準のバレーボール 42
力線の活用 ( ジャンプ )3/4 全日本インカレ 2011 女子決勝東海大学対日本体育大学 43
力線の活用 ( ジャンプ )4/4 2014 年世界選手権ブルーノ選手 44
力線の活用 ( ジャンプ ) 静止画編 ( イメージ ) ボールの描く放物線軌道の一部になったように 2014 年世界選手権ブルーノ選手 45
力線の活用 ( ジャンプ ) 静止画編 2014 年世界選手権ブルーノ選手 46
力線の活用 ( ジャンプ ) 静止画編 2014 年世界選手権ブルーノ選手 47
力線の活用 ( ジャンプ ) 静止画編 2014 年世界選手権ブルーノ選手 48
力線の活用 ( ジャンプ ) 静止画編 2014 年世界選手権ブルーノ選手 49
力線の活用 ( ジャンプ ) 静止画編 2014 年世界選手権ブルーノ選手 50
セットの 目的 と 3 つ のエッセンス 1. 味方アタッカーの力を引き出す 2. 相手にギリギリまでアタッカーを絞らせない 1 同じようなフォームから 2 様々な方向に 3 ボールをコントロール 51
オーバーハンド パスの 原理 1 ばね ( ギリギリまで方向を変えられる ) 2 打突 ( 長軸方向の重心移動でいつも同じ ) 3 捉える位置 ( 直前まで変えられる ) 4 上肢のみ打突 ( ギリギリまで操作が可能 ) 52
現場への示唆 手の ばね を育もう! ( センサーを磨く ) 身体の 力線 ( 軸 ) を感じさせよう! スモールステップ ( 鉛直方向 高めのボール ) ゲームライク ( コートを細長くする ) 天使の輪 ( 捉える位置は色々 ) をつくろう! サイドセット を当たり前にカッコよく! 53
最後に 資料 (PDF 等 ) が必要な方はご提供します (nawata@auecc.aichi-edu.ac.jpにご連絡下さい) ご協力して頂いた方々に感謝申し上げます ご清聴ありがとうございました 54
本資料の活用における注意点 1 図表について スライド内の右図 ( 力の作用のモデル ) で 示した各矢印における 力の方向 手 肘 上の伸展力 大きさ を始め 体幹が剛体 などの 体幹 表現も含めて わかりやすさ イメー ジ を優先したもので 現実的なものとは異なりますので ご注意ください 膝 足 床反力 55
本資料の活用における注意点 2 本資料を講習会 ( バレー教室など ) などで活用される場合 日本バレーボール学会第 21 回大会, セッターに求められるスキルと戦術, フォーラム セットのバイオメカニクス ( 縄田亮太 ), 明治学院大学, 2016. の発表資料 という旨を必ず表記 ( 周知 ) ください 56
本資料の活用におけるお願い 1 最後になりますが この内容 ( パワポ ) は 現時点での研究や 知識でまとめたものであり この先さらに前向きな加筆 修正す べき点は予想されます ( 完全ではないことはご承知の通りです ) これからも少しずつ このパワポを進化させていくつもりです 要は スマホのようにアップデートを繰り返していきたいです そこで 皆さんに協力を頂きたいとおもっています 57
本資料の活用におけるお願い 2 活用した場合の簡単な 報告 をお願いします 活用された場合は 講習会の情報 ( 例えば 市指導者講習会 地区バレー教室 ) を 事前でも事後でも教えて頂ければと思います もちろん 先生自身で不明な点 理解しにくい点はお尋ねください ( すべて答えられるわけではありませんが 相談には乗ることは可能です ) このような活動を通じて 様々な方の疑問や質問に出会うと思います その1つ1つが貴重なものになるとおもっています 現場での 困り を拾い上げて頂けると幸いです それを基にアップデートできればと思っています 58
本資料の活用におけるお願い 3 成功体験 ( うまくいった ) 失敗体験( うまくいかなかった ) が出てくるかと思いますので それを聞きたいです 特に 失敗体験が貴重だと思っています たくさんの克服するべき課題が眠っているはずですので 現場の指導者の皆さんが 指導実践知 を持ち寄って オーバーハンド パス セット の指導方法を 構築 していくようなことができればと思 います そのお手伝いをさせてください 以上です 皆様のバレーボールコートでのご活躍 ご発展を心から祈念しております 59