臨床における フローサイトメーターの応用 測定原理の概略臨床検査におけるFCM 応用例標準化と精度管理 ベックマン コールター株式会社バイオメディカルリサーチ本部
フローサイトメーター (FCM( FCM) 細胞や粒子の特性を調べる ( 光を当てた時に ) 細胞から出る光の強さを分析 散乱光強度 ----- 細胞の大きさや内部構造 蛍光強度 ----- 細胞の性状 ( 予め試料を染色 ) サイトミクス FC500
FCM が苦手なこと 分子の細胞内局在や移動の検出 組織の構造や細胞の位置関係の把握 共焦点レーザー顕微鏡イメージサイトメーター免疫組織化学染色などで解析 鈴木, 丹羽 : MBL 研究試薬誌より引用
フローサイトメーター (FCM( FCM) Flow Cytometer Flow Cytometry ( フローサイトメトリー ) Flow 流れる Cyto 細胞 -meter 測定機械 (-metry 測定技術 ) 血球計数機と共通の起源 ( コールターカウンター ;1953 年 )
FCM で測定可能なサンプル 粒子の懸濁液 ( 細胞浮遊液 ) 細胞 ( 粒子 ) のサイズは 0.3~40μm 血液の細胞 ( ヒト, 動物 ) 他の組織の細胞 植物の細胞 微生物 プランクトン ビーズ 汎用性 サンプル処理が必要 細胞分離 赤血球除去 ( 溶血処理 ) 蛍光染色 ( 免疫染色 核染色など )
細胞表面マーカー ( 表面抗原 ) 分析 - 免疫蛍光法 ( 蛍光抗体法 )- 細胞に目印を付ける 細胞固有の目印となる糖タンパク ( マーカー分子 ) に結合する蛍光標識モノクローナル抗体で細胞を光らせる
CD 番号 細胞表面マーカーの国際名称 Cluster of Differentiation 集まり ( 細胞の ) 分化 ヒト白血球分化抗原に関する国際会議 (HLDA) CD1a~CD247 まで約 300 種類 ( 第 1 回 ~ 第 7 回 HLDA 会議 ) 2004 年 12 月に第 8 回 HLDA 会議開催 CD339 まで決定
FCM の測定原理 サンプル浮遊液をフローセルに押し出す レーザー光を細胞が一個ずつ通過 細胞がレーザー光を通過する際に生じる散乱光と蛍光を光学フィルタで分別 細胞 1 個ごとに散乱光と蛍光の強さを解析 統計ヒストグラムデータを作り プロットと計算結果を出力 レーザー 細胞
個々の細胞シグナルをヒストグラム解析 2 方向の散乱光 ( 白血球を分別 ) 前方散乱 FS ( 大きさ ) Ly Mo Gr 個数 ( ドットの濃淡または等高線で表示 ) 蛍光 個数側方散乱 SS ( 顆粒密度等 ) 蛍光陽性 レーザー 細胞 蛍光 ( 抗原量など )
SSSF数蛍光強度個ゲーティング ( 特定の細胞に限定したデータ解析操作 ) 目的の細胞に解析ゲート設定 ( この例ではリンパ球領域 ) ゲート : リンパ球領域 抗体陽性リンパ球 強 目的とする細胞に正しくゲーティングすることが重要
結果の判定 ( 陽性率 ) 1 パラメータ (1 カラー ) PE 2 パラメータ (2 カラー ) +/- +/+ -/- -/+ FITC ダブルポジティブ ヒストグラムの高さ = 細胞数の多少 ドットの濃淡や等高線で細胞数の多少を表現
蛍光ヒストグラムの解釈 (+ とーの判定 ) 胞数陰性 ( 弱 ) 陽性 ( 強 ) 陽性 低高蛍光強度細 弱陽性 (dim) の解釈 ポイント : ヒストグラムの右側ほど蛍光強度が強い細胞弱陽性 (±) では陽性率が結果を正しく反映していない
FCM の ( 臨床 ) 応用 細胞表面抗原や細胞内抗原による細胞解析 リンパ球サブセット分析 ( リンパ球の働きを調べる ) 白血病 / リンパ腫フェノタイピング ( 白血病 / リンパ腫細胞の由来を調べる ) CD34 陽性造血幹細胞測定 ( 造血幹細胞移植をサポートする ) 細胞周期 ( 核 DNA 量 ) 解析 その他 白血球機能の解析 抗血小板抗体などの検出 アポトーシス検出 遺伝子発現解析 可溶性成分測定 ( ビーズアレイ ) 細胞分取 ( セルソーティング )
FCM 分析に用いられる臨床検体 末梢血 骨髄血 リンパ節 脳脊髄液 関節滑液などの組織液 肺気管支洗浄液 腹水 胸水 尿沈渣 病変部 ( 腫瘍 炎症など ) の組織 固型組織は細胞を分散し浮遊液にする
リンパ球サブセット分析 リンパ球 CD2 CD5 CD7 CD3 Th CD4 CD3 Tc CD8 CD2 CD5 CD7 CD19 CD56 B NK CD20 CD16 リンパ球サブセットの細胞機能に関連したマーカーが発現 各々の陽性率を指標に疾患や病態に関連したサブセットの増減を調べる ( 例 :HIV 感染症の CD4 + リンパ球 )
リンパ球サブセット分析の臨床応用 HIV 感染症 HIV が CD4 陽性細胞に感染 ウィルス増殖に伴い CD4 陽性リンパ球 ( ヘルパー T 細胞 ) 減少 免疫機能不全による日和見感染や発ガン (AIDS) 死亡 検査パラメータ CD4リンパ球の比率( 陽性率 ) CD4 + 細胞数 CD4 のモニタリングで病態を把握
白血病 / リンパ腫タイピング ( 造血器悪性腫瘍細胞検査 ) 造血幹細胞 造血前駆細胞 細胞型を細胞表面 / 細胞質内抗原 ( マーカー ) で調べる 細胞系統 (cell lineage) 分化段階 (differentiation) 巨核球 赤芽球 顆粒球 血小板 赤血球 リンパ球 T B NK 単球 マーカー発現プロファイルから白血病 / リンパ腫細胞の細胞系統と分化段階を判断
白血病 / リンパ腫タイピングに用いるマーカーの例 白血病細胞のみが陽性となるマーカーはない 複数のマーカーを組み合わせたパネルで細胞系統と分化段階を判断 T 細胞系 CD1 CD2 CD3 CD4 CD5 CD7 CD8 TCR B 細胞系 CD19 CD20 CD22 CD23 CD79a IgM(μ 鎖 ) κ/λ(l 鎖 ) FMC7 骨髄系 CD13 CD14 CD33 CD34 CD64 CD65 CD117 MPO その他 CD10 CD38 CD56 CD58 HLA-DR CD41/CD61 CD42b CD235a
急性白血病フェノタイピング T 細胞性 CD2+ CD5+ CD7+ cycd3+ 成熟 ( 末梢 )T scd3+ 中間 ( 胸腺 )T CD1a+ Precursor-T CD34+ non-t 細胞 (B 細胞 ) 性 CD19+ cycd79a+ 成熟 B CD20+ sigm+ Pre-B CD10+ cyμ+ Pro-B CD34+ 骨髄性 CD13 and/or CD33+ MPO+ 未分化 低分化 CD34+ 単球系 CD4+ CD14+ CD64+ 前骨髄球 (APL) HLA-DR- ( 他の AML は通常 DR+) 赤芽球系 CD235a(Glycophorin-A)+ 巨核球系 CD41+ CD61+ ( 下線は細胞質内マーカー )
急性リンパ性白血病 (ALL( ALL) 分析例 CD19 のみ陽性 B 細胞性 ALL
慢性骨髄性白血病急性転化 (CML( CML-BC) ) 分析例 CD10 陽性 CD13/CD33 陰性 (B) リンパ性急性転化 ( 注 : 慢性期の CML はタイピングの対象外 )
急性骨髄性白血病 (AML( AML) 分析例 HLA-DR CD13 CD33 CD34 CD34( 幹細胞マーカー ) が強陽性 未分化な骨髄系細胞の可能性
白血病 / リンパ腫でみられる ユニークなマーカー発現 1 正常ではみられないマーカー発現の組み合わせ ( アベラント マーカー発現 ) AML M2 with t(8;21) におけるCD19, CD56 発現 Ph1 + ALLにおけるCD66c 発現など 2 非常にマイナーな細胞集団の腫瘍化 B 細胞性 CLL や MCL における CD5 発現など
悪性リンパ腫 (ML( ML) ) 分析例 CD5 陽性の B 細胞 MCL
成人 T 細胞白血病 (ATL( ATL) ) 分析例 典型的な ATL 細胞は CD4+ CD8- CD2+ CD3+ CD5+ CD7-
Biphenotypic Acute Leukemia (BAL) 同一の白血病細胞に異なる系統の抗原が発現 2 カラー FCM 分析で同定 ( ダブルポジティブ検出 ) 骨髄系抗原 リンパ系抗原 CD33+(My) CD19+(B)
Pan-T T 細胞マーカーの反応特異性 CD3 CD2 CD5 CD7 T 細胞未熟成熟 B 細胞 NK 細胞顆粒球単球 - + - - - + + + + + + - -/+ - +/- - + - - -/+ リンパ球サブセット分析と異なり 未熟な T 細胞も分析対象となる白血病タイピングでは CD3 のみでは不十分 複数のマーカーを分析し総合的に判断
Biphenotypic Acute Leukemia 鑑別スコアリングシステム (EGIL) B 細胞系,T 細胞系のいずれかと骨髄細胞系が 2 ポイント以上であれば BAL ポイント B 細胞系 T 細胞系骨髄細胞系 2 1 0.5 CD79a CD3 MPO IgM TCR-α/β (Lysozyme) CD22 TCR-γ/δ CD19 CD2 CD13 CD10 CD5 CD33 CD20 CD8 CD65 CD10 CD117 TdT TdT CD14 CD24 CD1a CD15 CD7 CD64 Bene MC, et al.: Leukemia (1995) vol. 9, 1783-86. Bene MC, et al. : Blood (1998) vol. 92: 596-599.
FCM によるタイピングが困難な検体 溶血 凝固の顕著な検体 ( 腫瘍細胞の生残率低下 凝集 ) 採血後著しく時間が経過している検体 ( 腫瘍細胞の生残率低下 ) 検体中の腫瘍の割合が低い検体 ( 正常細胞と腫瘍細胞との分別が困難 ) 大部分のマーカーは正常細胞にも分布 散乱光強度が大きく違わない場合 正常細胞と腫瘍細胞を区別できない 細胞形態の情報やゲーティングが重要
CD45 蛍光強度によるゲーティング CD45= 白血球共通抗原 (LCA) 白血球 = 陽性 リンパ球 = 強蛍光 単球, 好酸球 = 強 ~ 中蛍光 好中球 = 中 ~ 弱蛍光 好塩基球, 造血幹細胞 = 中 ~ 弱蛍光 赤血球, 血小板 = 陰性 FS/SS と CD45/SS を併用
白血病細胞の CD45 ゲーティング 急性白血病細胞は CD45 発現がしばしば低い 散乱光では正常リンパ球 単球と区別困難な白血病細胞を CD45 の蛍光強度で分別 FS Mo Gr CD45 Ly Mo Gr Ly SS SS
急性白血病細胞 CD45 ゲーティング例 (ALL 患者末梢血 CD10-FITC/CD19-PE/CD45-PC5) FS/SS CD45/SS
CD45/SS ゲーティングが 有効でなかった例 CD45/SS CD45 λ SS κ FS/SS FS λ SS κ 悪性リンパ腫患者末梢血 κ-fitc/λ-pe/cd45-pc5
蛍光 /FS 2パラメータ解析による正常細胞と白血病細胞の分別 白血病細胞 (FS= 大 ) 正常リンパ球 (FS= 正常 ) 検体 : 健常者末梢血に KM3 細胞株 (B 細胞性白血病由来 ) を混合
CD19 ゲーティングによる免疫グロブリン κ 鎖 /λ 鎖の分析例 検体 : 健常者末梢血 CD19 で B 細胞のみにゲートすることで 血漿由来の免疫グロブリンの影響を最少化
骨髄腫細胞の CD38 ゲーティング例 多発性骨髄腫患者骨髄 CD49e-FITC CD56 -PE CD38 -PC5 CD38 SS CD56 CD49e CD38 は様々な細胞に発現 形質細胞 / 多発性骨髄腫細胞は CD38 が強陽性 CD56 CD49e
造血幹細胞 / 造血前駆細胞の測定 有核細胞の 0.01%( 正常末梢血 )~1%( 骨髄, 臍帯血 ) 造血幹細胞 全ての血液細胞の源 造血前駆細胞 特徴 CD34: 陽性 CD45: 弱陽性 巨核球 赤芽球 顆粒球 側方散乱 (SS): 低 血小板 赤血球 リンパ球 単球 検体 : 末梢血,PBSCH, 骨髄, 臍帯血 T B NK 移植に十分な数かどうか? ( 少ないので高い精度が必要 )
CD34 陽性細胞測定に関する ISHAGE プロトコール CD34 陽性造血幹細胞を精密かつ正確に測定するために DR. Sutherland, et al. : J. Hematotherapy Vol. 5: 213-226, 1996 ( 通称 ISHAGE ガイドライン ) CD34 抗体の選択 (classⅢ または PE 標識 classⅡ 抗体推奨 ) CD45/CD34 の 2 カラー分析と階層化ゲーティング 白血球数 (CD45 + ) 75000 個以上で 2 回測定した平均値 M. Keeney, et al. : Cytometry vol. 34: 61-70, 1998 内部標準ビーズによる CD34 陽性細胞数の直接測定 (single-platform ISHAGE 法 ) 7-AAD による死細胞の除外 ( 生 CD34 陽性細胞の測定 )
CD34 + 細胞 ( 造血幹細胞 ) 測定 (Single -Platform ISHAGE 法 ) 絶対数測定用内部標準ビーズ CD45+ CD34+ CD45dim FS 正常 SS 低 7AAD- CD34: 陽性 CD45: 弱陽性側方散乱 (SS): 低
CD34 + 細胞 ( 造血幹細胞 ) 測定 (Single -Platform ISHAGE 法 ) CD45とCD34の階層化ゲートによる絞込みで精密測定 (1~4) 絶対数測定用内部標準ビーズによる直接測定 (7) 7-AAD 核染色による死細胞除去 ( 生 CD34 + 細胞 ) 測定 (8) 1 2 5 6 3 4 8 7 検体 : 骨髄
ISHAGE プロトコールの拡張 第 3 蛍光, 第 4 蛍光チャンネルの活用 DNA 色素 (7-AAD) の併用 CD34 + 細胞の亜分画測定 T 細胞 (CD3 + ) の同時測定
CD58 による白血病微少残存腫瘍検出 Chen J-S J S et al.: Blood (2001) vol. 97, 2115-2120. 2120. CD58(LFA-3) は 正常骨髄 B 前駆細胞にほとんど発現しないが 同じステージ (CD10 + CD19 + CD34 + ) の白血病細胞には過剰発現 治療後の骨髄の残存腫瘍細胞をマルチカラー FCM で高感度に検出染色体 遺伝子異常の有無に関係なく適用可能と考えられる
白血病 / リンパ腫タイピング検査の動向 リンパ腫や多発性骨髄腫への拡張 マルチカラー化 効率化 CD45 ゲーティング法 MRD( 微少残存腫瘍 ) の高感度検出 ( 再発モニタリング ) 細胞質内マーカーの併用 方法の標準化と自動化 CD79a CD45 ゲーティング MPO
FCM 検査の標準化の現状 外国 : 各種ガイドライン, 推奨パネル, 共通プロトコル 日本 : JCCLS ガイドライン 1 リンパ球表面抗原検査 (JCCLS H1) 改訂版 ( 最終版 ) 承認 2 造血器腫瘍細胞表面抗原検査 (JCCLS H2) 委員会案公開中 3CD34 + 細胞測定委員会案検討中 サイトメトリー学会 : DNA 量 ( 細胞周期 ) 解析学会案検討中 小児白血病免疫診断標準化ワーキンググループ ( 厚労省研究班 )
日本臨床検査医学会 HP にて JCCLS ガイドライン H2-P へのコメント募集中 http://www.jscp.org/news/release/relid=200411101.htm
FCM 検査の精度管理の現状 内部精度管理 コントロール血球は複数メーカーより入手可能精度管理用ツール (L-Jチャート等) 自動作成 外部精度管理 公的機関によるサンプルサーベイ : CAPサーベイ ( 米 ) メーカー運営の外部精度管理プログラム : IQAP( 日本 )
臨床検査における FCM の位置付け 3 大アプリケーションは血球計数検査の拡張 造血幹細胞 造血幹細胞移植をサポートする CD34 陽性細胞測定 白血病 / リンパ腫細胞の由来を調べる 白血病 / リンパ腫タイピング 血球計数 リンパ球 血小板赤血球白血球 リンパ球の働きを調べる リンパ球サブセット分析
詳細 最新情報はサイトメトリー Web サイトへ http://www.bc-cytometry.com