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2. 潜水方程式系の導出 見延庄士郎 ( 海洋気候物理学研究室 ) minobe@mail.sci.okudai.ac.jp 第 1 回まとめ 1/2 二つの変数の関係の強さを表す統計量は相関であり, 最小値は -1, 最大値は +1, 無相関は である. 過去数十年間の ( 気象庁は 3 年 ) 月ごとの平均値を, 月平均データの平年値または気候値という. 観測値から平年値を引いたものが, 偏差である. エル ニーニョは,3~6 年に一度熱帯東太平洋の海洋表面水温が異常に上昇する現象で, 北半球の冬季に最盛期. 特に 1982/83 年と 1997/98 年のエルニーニョは強かった. 地球温暖化で, エルニーニョが強くなることが懸念されている. 1 2 第 1 回まとめ 2/2 エルニーニョの最盛期の特徴 海洋表面水温は, 赤道東太平洋で高くなる. 降水は, 赤道東太平洋で増加する. 気圧は, 熱帯東太平洋で低気圧偏差, 海大陸付近で高気圧偏差, となる. このような東西の気圧のシーソーを, 南方振動と呼ぶ. 東西風速は, 赤道中央太平洋で, 西風偏差 ( 東向きの風速偏差 ) となる. 上空 2 Pa の等圧面高度は, 熱帯東太平洋で高気圧偏差, そのすぐ南北で低気圧偏差, さらにその先の北米北西部と南大洋の 6S, 11W 付近に高気圧偏差を示す. 水温躍層は, 赤道東太平洋で深く, 赤道西太平洋で浅くなる. エルニーニョの 9 ヶ月前の特徴 水温躍層は, 赤道中央太平洋で深くなる. 3 本日の目的 本授業の後のほうで, エルニーニョのメカニズムを議論したい. たとえば, 概要は ttps://www.sci.okudai.ac.jp/~minobe/elnino/ に解説がある. ただし,3 年後期にふさわしい授業として扱うには, 数式も必要である. そこで, 支配方程式系を導出しよう. 方程式系は, 未知変数と式の数が同じで, 系 (= システム ) の挙動を記述できる連立方程式. 3 つの式を導出する. そのうち二つは, 東西方向と南北方向の運動方程式で, もう一つの式は, これらの式で必要となる圧力を与える式である. たった 3 つの式だが, 大気海洋の気候力学で重要な流れと波の性質を深く学ぶことができる. 4

運動方程式の基本 座標系と変数を導入 (u,v) ニュートンの第一法則 力 = 質量 加速度 大気や海洋に加わる力を, 思いつくだけ挙げてみよう 重力, 圧力傾度力, コリオリ力, 摩擦力 水平方向に働く力に下線をつけよう. したがって水平方向の運動方程式は 質量 水平加速度 = コリオリ力 + 圧力傾度力 + 摩擦力 流体の運動方程式は単位体積について立てることにして, 質量は密度 ρ で表される. 独立変数, : 東向き 北向き座標, t: 時間未知の従属変数 u, v: 東向き 北向き速度, p: 圧力, ρ: 密度 = 単位体積 (1 m 3 ) 当たりの質量 5 6 コリオリ力のまとめ ( 復習資料から ) 角速度 Ω> で回転する回転系で, 速度 v で運動する物体は, 進行方向右向きに加速度 2vΩ で加速するように見える. この時, 物質の質量を m とすると, 力 2 v Ωm が働いたように見え, これをコリオリ力という. 地球の角速度ベクトルの, それぞれの地点での鉛直成分を 2 倍したものを, コリオリ パラメータといい,f で表す. 地球の自転角速度を Ω(=2 π/ 自転周期 ) として, 緯度 θ でのコリオリパラメータは, f = 2 Ω sin θ である. コリオリ力のみが働く場合に, 回転系での運動方程式は, 以下のとおりである. du fv dt = dv dt = f u d/dt と / 合成関数の微分の一般解説をする方がよいか? du = + + 左を使う? dξ ξ ξ ξ またdu/dtは合成関数の微分から, 本来は du = + + = + u + v dt t t であるが, 赤字第二 三項は非線形で厄介なのと, また現象の振幅が小さいなら第一項よりも小さくなるので du/dt / と近似 ( 線形化 ) する.v についても同様. すると支配方程式は du = + + = + u + v dt t t 7

圧力経度力のみが働く場合 コリオリ力が働かず ( 慣性系 ), 圧力経度力のみが働く場合の, 単位体積当たりの流体 ( 空気または水 ) についての運動方程式は次のとおり. = = ρ ρ コリオリ力と圧力経度力と摩擦力 ( 文字のまま ) が同時に働く場合は, = fv + 方向の摩擦力 (2.1a) ρ = fu + 方向の摩擦力 (2.2a) ρ 9 定常で摩擦力が働かない場合 この場合の, 運動方程式は次のとおり. fv = (2.2a) + fu = ρ ρ (2.2b) 2 力のバランス ( 平衡 ) が成り立っており, その 2 力は, コリオリ力と圧力傾度力である. このように吹く風を地衡風, 海の流れを地衡流という. Q. 右の圧力場が与えられている. 黒点における地衡風のベクトルを書き込め 1 浅水方程式へ 式の数が 2 つで, 未知変数の数が 4 つ. 閉じていない 式の数と未知変数の数が一致する, 閉じた方程式を得たい. そのためには, 簡素化が不可欠. 密度が一定 ρ である流体を仮定する. 密度が定数である流体を一層流体という. また, 地球流体の場合, 高さよりも水平方向のスケールがはるかに長いので, 一層流体のモデルを浅水モデルという. H 最後に残る従属変数, 残らない従属変数, 係数 u, v, p ρ 流体表面 静止時の流体表面 流体底面 (,,t): 表面変位 H(, ): 静止状態の流体の厚さ ( 水深 ) 11 圧力, ウォーミングアップ Q. ある場所での圧力は, その上に乗っている物体の質量 重力加速度で与えられる. 地表面に 1 気圧の圧力がかかっている場合に,1 m 2 の面積の上に存在する大気の質量を求めよ. ただし簡単のために, 1 気圧を 1 Pa とし, 重力加速度を 1 m/s 2 とする. なお,( ヘクト ) は 1 を意味する SI 接頭辞で, 1, Pa= 1, Pa = 1, N/m 2 である. A. 1, / 1 = 1, kg = 1 ton 12

1 層流体の圧力と圧力傾度 Q1. 流体表面から深さ d での圧力を求めよ. ただし流体の密度は一定で ρ, 重力加速度は g とする. A1. p = ρ g d Q2. A1 の圧力を図の ( 水面の静止状態からの高さ ) と,Z( 静止状態の水面からの水深 ) とで表せ. A2. p = ρ g (+Z) H Z d 流体表面 p ρ 静止時の流体表面 流体底面 Q3. A2の圧力の 微分 ( 水平微分 ) を求めよ A3. p = ( ρg( + Z)) = ρg 13 1 層流体の運動方程式 一つ前のスライドの圧力を,(2.1ab) 式に代入すると, その式のρは今 ρ であることに注意して, du = fv g + 方向の摩擦力 dt dv = fu g + 方向の摩擦力 dt となる. これが1 層流体の運動方程式である. だけでなく,u, v も,, tのみの関数 ( 深さによらない ) 次に, 摩擦力について考えよう. (2.3a) (2.3b) 14 摩擦力 摩擦力には2 通りある. 一つは, 大気や海洋が運動して, 周囲の空気や水あるいは地表面や海底から抵抗を受けて, 運動を減速させるように働く摩擦力である. これはしばしば簡潔に, 以下のように表され, レイリー ダンピングと呼ばれる. =... ru, =... rv したがって,(2.3ab) の, 摩擦力の項を置き換えて = fv g ru (2.4a) = fu g rv もう一つは, 海洋上を吹く風によって, 海が引きずられることによって生じる摩擦力である. これは海洋を駆動する上で重要である. (2.4b) 15 風応力による水柱の加速 単位面積 (1 m 1 m) で深さHの水柱を考える応力 = 面に働く力 水柱の重さはρ H この水柱にかかる風応力は 加速度 = 力 / 質量なので, この効果による加速 度は u =... + ρh したがって,(2.3ab) の摩擦力の項を置き換えて = fv g + ρh = fu g + ρ H u t (2.5a) (2.5b) 次に について考えよう. 上 16

連続の式 1/2 一層流体では密度が一定なので, 流体が圧縮されない ( 非圧縮 ). この場合, 体積が保存する. 下のように3 辺が,, Ηである直方体への流入流出を考えよう. v(, + / 2) w = t u( + / 2, ) Η v(, / 2) u( / 2, ) 側面からの入出の差の分だけ, 表面が上昇または下降する. これを差分式 ( などが有限の長さを持つ式. これが無限小なら微分式 ) 17 連続の式 2/2 = H u +, u, 2 2 H v, + v, 2 2 したがって, 両辺を微小体積 Ηで割って差分を微分で置き換えると ( ノートに計算してください ), = H + (2.6) という 1 層流体における連続の式が得られる. 結局, 閉じた浅水方程式系として,(2.4ab) と (2.6), または (2.5ab) と (2.6) が得られた. 18 第二回まとめ f をコリオリ パラメータといい, Ω を地球自転の角速度,θ を緯度として,f=2 Ω sin θ で表される. 密度一様な一層流体の, 運動方程式と連続の式からなる, 閉じた方程式系を, 浅水方程式系という. 摩擦が, 運動に伴う減速の場合, 潜水方程式系の運動方程式は, = fv g ru (2.4a) = fu g rv 摩擦が風応力である場合には, 運動方程式は = fv g + (2.5a) = fu g + ρ H ρ H 連続の式は = H + (2.6) (2.4b) (2.5b)