基礎現代化学 ~ 第 11 回 ~ 分子集合体とその性質 Ⅰ 通知 : 期末試験 (7 月 30 日 ( 水 )5 限 ) 教養学部統合自然科学科 小島憲道 2014.06.18 1
第 1 章原子 1 元素の誕生 2 原子の電子構造と周期性第 2 章分子の形成 1 化学結合と分子の形成 2 分子の形と異性体第 3 章光と分子 1 分子の中の電子 2 物質の色の起源 3 分子を測る第 4 章化学反応 1 気相の反応 液相の反応 2 分子を創る第 5 章分子の集団 1 分子間に働く力 2 分子集合体とその性質 Ⅰ 3 分子集合体とその性質 Ⅱ 参考書 現代物性化学の基礎 小川桂一郎 小島憲道共編 ( 講談社サイエンティフィク ) 原子 分子の現代化学 田中政志 佐野充著 ( 学術図書 ) 2
分子軌道からバンドへ α: 原子軌道のエネルギー β: 原子間の結合エネルギー 3 現代物性化学の基礎 小川桂一郎 小島憲道共編 ( 講談社サイエンティフィク )
ベンゼンにおける分子軌道の対称性 ベンゼンの分子軌道 二次元の波の方位節 位相が入れ替わる節では 電子密度が 0 である 節数 :3 節数 :2 - + + - + - + - - + - + + - 節数 :1 節数 :0 + - + + - 環状の六個の炭素上に π 電子が非局在化している 4
分子軌道の対称性と希ガスの共有結合分子 何故 Xe が F と結合するのか : 3 中心 4 電子結合 分子軌道の対称性の制約から Xe の 5p z 軌道が入ることが出来ない 5
分子軌道のエネルギーを表す α と β 6
一次元のシュレディンガー方程式 7
H = :Hamiltonian と呼ぶ HΨ = EΨ 波動関数のエネルギーを求める方程式 α: 原子軌道のエネルギー β: 原子間の結合エネルギー 8
金属結合の次元性とバンド幅 a b 9
C 金属結合結晶の構造 10
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アルカリ土類元素の単体が金属になる原因 :np 軌道の寄与 3p e - 3s 12
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気伝導度価電子帯電半導体 σ 伝導帯 低温 T ΔE σ = Aexp kt ΔE 伝導帯 価電子帯 高温 σ 度自由電子は格子振動 によって散乱される 電気抵抗の起源 電気伝導金属 価電子帯 自由電子 自由電子 格子振動 T 高温 低温 14
単体の凝集エネルギーと周期律 Pd 遷移元素単体の凝集エネルギーが高いのは d 軌道のバンドが凝集エネルギーに寄与しているためである 岩波講座現代化学 5 周期表の化学 p. 96 15
放射光を用いた超高圧下での結晶構造解析放射光施設と放射光の発生原理 高エネルギー加速器研究機構 http://www.kek.jp/ja/index.html 産業技術総合研究所地質調査総合センター http://staff.aist.go.jp/a.ohta/myhome.htm 16
非金属元素の同素体と周期律 17
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多重極端条件で眺めた固体ヨウ素 : 圧力誘起分子解離 1 気圧,7.4 万気圧,15.3 万気圧における固体ヨウ素の電子分布 高圧下 X 線構造解析によ る固体ヨウ素の電子分布 の圧力変化 固体ヨウ素は21 万気圧を超えると分子内と分子間の化学結合が等価になり 金属になる 1 GPa = 1 万気圧 藤久裕司, 高圧力の科学と技術, 5, 160 (1996). 20
固体ヨウ素は極低温 超高圧下で超伝導体となる ダイヤモンドを用いた高圧発生装置 50 mm マイスナー効果 電気抵抗 天谷喜一, 石塚守, 清水克哉, 他, 固体物理,28, 435 (1993). 21
固体酸素は高圧下で超伝導になる 電気抵抗 電気抵抗 100 万気圧かけると酸素は金属となり 0.5 K で超伝導体となる 清水克哉, 高圧力の科学と技術,10, 194 (2000). 22
超伝導を示す元素 ( 単体 ) 23 小川桂一郎 小島憲道編 新版 物性化学の基礎 講談社 (2010)
地球の内部構造と圧力 現在では ダイヤモンドの先端で地球の中心部の圧力を発生させることができる 24 http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/research_highlights/no_57/
物質の磁性 25
磁石 (magnet) の語源 古代ギリシャでは 鉄を引き寄せる石して磁石はすでに知られていた プラトンは その著書 イオン にて マギネシアの石 として磁石のことを言及している ローマ帝国の博物学者大プリニウスは 著書 博物誌 にて マグネスという羊飼いが磁石を偶然発見したと述べている この マグネシアの石 ないし 羊飼いマグネス が ヨーロッパの様々な言語で磁石を指す言葉である magnet の語源になったと考えられる 磁石に対し 近代的な科学の光をあてたのは エリザベス1 世の侍医であったウィリアム ギルバートである その著書 磁石及び磁性体ならびに大磁石としての地球の生理学 (De Magnete, Magneticisque Corporibvs,et De Magno Magnete Tellure) においてギルバートは 磁石に関する俗説や既知の現象について詳細に検証している 例えば 羅針盤の指北性を論じるにあたり 球形の磁石を作製し これに対する磁針の振舞いを観察している この結果 地球そのものが磁石であると結論付けている Magnesia Magnesia( マグネシア ) 磁石を意味する英語の マグネット ( magnet) は ギリシャ語で マグネシアの石 を意味する マグニティス リトス ( μαγνήτης λίθος) に由来するという説があるように この地域では鉄鉱石や磁鉄鉱だけでなく マグネシウムやマンガン ( 双方とも名称はこの地域に由来する ) が産出されることが 古くから錬金術師達に知られていた 紀元前 7 世紀以前の植民地時代には マグネシアの都市国家も植民都市を建設し イオニア地方に マグネシアという都市を建設した 26
常磁性と反磁性 物質が磁場中に置かれると, 磁気的な分極 ( 磁気モーメント ) が生じるが, 単位体積当りの磁気モーメントを磁化 (M) と呼ぶ 自発磁化を持つ強磁性体を除けば, 弱い磁場下では 磁化は磁場に比例しており,M = χh の関係がある 比例定数 (χ) を磁化率と呼び,χ が 正の場合を常磁性, 負の場合を反磁性という 常磁性の場合は χ が正であるから, 磁場 の強い方向へ力を受ける 言い換えれば常磁性物質は磁石から引力を受ける 逆に, 反磁性物質の場合は χ が負であるから, 磁石から斥力を受ける 磁気天秤 ( ファラデー法 ) 27
反磁性の起源 電磁誘導による誘導起電力 : 誘導起電力による電子の加速 誘導起電力によって発現する磁気モーメント 28
各軌道電子群の反磁性磁化率に対する寄与 単位は 10-6 cm 3 /mol Cs + 電子群計算値全体に対する比率計算値 I - 全体に対する比率 1s 0.0015 0.0041 % 0.0016 0.0029 % 1s,2s 0.0693 0.1893 0.0751 0.1356 3s,3p 0.3930 1.0735 0.4318 0.7796 3d 0.8208 2.2420 0.9271 1.6739 4s,4p 2.1734 5.9365 2.5314 4.5705 4d 8.0300 21.9335 10.5167 18.9882 5s,5p 25.1266 68.6320 40.9108 73.8493 計 36.6 100% 計 55.4 100% * w.r.maycrs,rev.mod.24,15,(1952),table III 29
反磁性 原子 ( または分子 ) に磁場をかけると 環状の導体の場合と同じく軌道に誘導電流が流れ 磁場が遮蔽される この時誘起される磁場は印加した磁場と逆向きなので 反磁性を示す いま, 質量 m の電子が原子核の周りを回っている場合を考え,z 方向に磁場をゼロから H まで磁場を印加すると誘導起電力によって生じる磁気モーメント (Δμ) は次式で表される Δμ = (e 2 H/6m) <r 2 > (1) 内殻電子の軌道運動は反磁性を与え その大きさは温度によらず一定である また 反磁性磁化率は軌道半径 (r) の 2 乗に比例するため, 最外殻の軌道が最も大きく寄与する 水の反磁性による磁場中でのモーセ効果 S. Ueno and M. Iwasaka, IEEE Trans. On Magnetics, Vol. 75, p. 7177 (1994). モーセの出エジプト : 旧約聖書 ( 出エジプト記 (14:15-25) http://wave.ap.teacup.com/ 30
常磁性 電子は自転運動に相当する運動の自由度があり, この自由度は角運動量で表される 電子のスピン角運動量は ħ/2 であり, この電子スピンに付随して電子 固有の磁気モーメントが存在するが, この磁気モーメントが常磁性の起源とな る 磁気モーメント μ s は電子スピン s と μ s = 2 (e ħ/2m)s の関係にある こ こで e は電子の電荷,m は電子の質量,s はスピン角運動量を ħ で割ったもので その大きさは 1/2 である 電子の磁気モーメントはボーア磁子 (Bohr magneton) μ B (= e ħ/2mc) が単位である 遷移金属錯体においてn 個の不対電子があると,n 個の不対電子による磁気モーメント (μ) は,μ= 2 S ( S + 1) μ B = n( n + 2) μ B となる 31
400 電子スピンの発見 : 電子スピンは磁石の最小単位 450 500 フラウンホーファー線 550 600 Na D 線 650 l 700 λ (nm) Na の D 線の分裂 電子スピン (S = 1/2) の発見 Uhlenbeck & Gouclsmit (1925) l 3P3/2 s -s 3P1/2 D1 589.594 nm D2 588.998 nm 右まわり軌道運動と右まわり自転する電子 ( 全角運動量 = l + s) 右まわり軌道運動と左まわり自転する電子 ( 全角運動量 = l s) 3S1/2 Na 原子の 3p 3s 遷移 軌道運動により電子が原子核から受ける磁場 32
常磁性の起源 : 電子スピン電子の軌道への詰まり方と スピンの向き μ e 磁気モーメント e I 電子スピン 核 電子 e 核 電子 e 電子は 小さな磁石として振舞う α スピン β スピン 一つの軌道に二個の電子 α β 二つの電子のスピンは逆並行スピン同士は打ち消しあう Hund 則 ふたつの軌道に二個の電子 α α 二つの電子のスピンは並行磁石としての性質が残る 液体酸素は磁石に引き寄せられる 33
O2 分子の常磁性 直交する 2 つの分子軌道にスピンを平行にして収容される ( フント則 ) 原子軌道分子軌道原子軌道 O2 の分子軌道 液体酸素は 沸点が 90K の淡青色の液体である 磁石に近づけると 液体酸素は磁石に吸い寄せられる 小川桂一郎 小島憲道編 新版 物性化学の基礎 講談社 (2010) 34
電子スピン : 常磁性状態と様々なスピン秩序状態 常磁性 強磁性 反強磁性 フェリ磁性 35
磁石の条件 : 強い保磁力 36
磁石の応用 : ファラデー効果による偏光面の回転 光の進行方向に対して磁化の方向が逆向きになると 偏光面の回転は逆回転になる M ファラデー効果を用いた磁区の直接観測 Http://www.magnet.okayama-u.ac.jp/magword/mop/index.html 37
Http://www.neomag.jp/magnet_history/ 38
磁石の応用 : 磁気メモリー 電子スピンの方向 ( ) による情報の記録 巨大磁気抵抗効果を用いた磁気メモリーの読み出し 巨大磁気抵抗効果 (GMR: Giant Magneto Resistive effect) 普通の金属の磁気抵抗効果 ( 物質の電気抵抗率が磁場により変化する現象 ) は数 % だが 1nm 程度の強磁性薄膜 (F 層 ) と非強磁性薄膜 (NF 層 ) を重ねた多層膜には数十 % 以上の磁気抵抗比を示すものがある このような現象を巨大磁気抵抗効果と呼ぶ 1987 年にドイツのPeter Grünberg, フランスのAlbert Fertらによって発見された 巨大磁気抵抗効果は 多層膜の磁気構造が外部磁場によって変化するために生じる 磁気多層膜以外においても ペロブスカイト型マンガン酸化物においても見られる 巨大磁気抵抗効果を応用した磁気ヘッドの登場によって HDDの容量が飛躍的に増大した Peter GrünbergとAlbert Fertはこの発見によって 2007 年のノーベル物理学賞を受賞している 39 http://ja.wikipedia.org/
超伝導を利用した磁石と永久電流 超伝導材料で作った永久電流回路スイッチの温度を超 伝導転移温度よりも高い温度にして外部電源をかけ, 次 に外部電源をかけたままで転移温度よりも低い温度に永 久電流回路スイッチを冷やしたのち外部電源を切ると, 永 久電源回路には減衰することのない電流が流れ続ける これを永久電流といい超伝導材料にだけ起こる現象であ る 永久電流を利用すると, 磁場を保つための電力を必要としない電磁石 ( 超伝導磁石 ) を作ることができる http://www.neomag.jp/mailmagazines/200812/ 40
酸化鉄の磁性と地磁気の逆転 外から磁場をかけなくても物質が磁化を持つ場合, その物質は磁石として振舞う. 磁石の用途は様々であるが, ここでは鉄の酸化物が磁石になることを利用して 今から数十万年前に地磁気の極が逆転していたことを発見した日本の科学者のことを紹介する. 水中に溶解している鉄イオンは一部 酸化鉄の小さな粒子となって底に体積していく.Fe 3 O 4 や Fe 2 O 3 などの酸化鉄は, 磁場がなくても室温で鉄イオンのスピン同士が互いに整列し, 小さな磁石として振舞うため, 湖底や海底に沈殿として堆積するときには地磁気の方向を向いて沈殿し やがて堆積岩として固定される. したがって, 湖底や海底に堆積した酸化鉄を含む地層には, 古い時代の地磁気の方向が記録されていることになる. 1929 年, 日本の地球物理学者の松山基範 (1884 1958) は, 溶岩が固まってできた火成岩に含まれる磁石 ( 酸化鉄 ) の向きを調べ, 約 70 万年以前の地球の磁場の向きが逆転していることを発見した. 発見当時, 地磁気が逆転するなどと考えるのはあまりにも非常識と思われ, 実験そのものに疑いを持たれた. その後, 松山博士の後継者達により, 琵琶湖の湖底や太平洋の海底の堆積物に含まれる磁石の方向が詳しく調べられ, 約 70 万年前を境に地磁気の向きが逆転していることが証明された. 今や, 世界各地で古い時代に地磁気が逆転していたことが確認された.69 万年前から 243 万年前までの時期は, 地磁気が逆転していた時期で 松山期 と呼ばれ, 日本人の名前が地質年代の区分に採用されている. 図に地磁気の逆転した時期を示す. 新生代後期の地磁気極性 黒い箇所は現在と同じ極性 白い部分は現在と逆の極性 AgeのMaは百万年 今から70 ~250 万年前は地磁気が殆ど逆転していた 41
Fe 3 O 4 の結晶構造 ( 逆スピネル構造 ) 42
太陽風とバンアレン帯 : 地磁気が消滅するとバンアレン帯が消滅し 地球は太陽風 ( 荷電粒子 ) 直接曝される フレミングの左手の法則 http://www.planetary.or.jp/earth.html バンアレン帯 : 地球の赤道上空に 荷電粒子が地球の磁場にとらえられてたまっている場所があり 発見者の名を取ってそれをバンアレン帯という 1958 年アメリカが最初に打ち上げた人工衛星エクスプローラー 1 号のデータを解析したバン アレン博士が発見した この荷電粒子の起源は太陽風ばかりではなく 遠くの宇宙からのものも含まれる 43
古地磁気の解析による日本列島の折れ曲がり フォッサマグナ形成時期 日本列島の折れ曲がり時期の解明 1450 万年前 ( 第 3 紀中新世 ) 日本海が拡大した オホーツク海も拡大し 千島弧が出来始めた 1500 万年前になると日本海の拡大は完了した このとき 西南日本は時計方向に回転し 東北日本は反時計方向に回転したので日本列島の折れ曲がるところが陥没した これがフォッサマグナ ( ラテン語で 大きな溝 の意 ) である フォッサマグナの西端は糸魚川 - 静岡構造線である Http://www.nishida-s.com/main/categ3/mtl-nagano/index.html 44