dr

Similar documents
10,000 L 30,000 50,000 L 30,000 50,000 L 図 1 白血球増加の主な初期対応 表 1 好中球増加 ( 好中球 >8,000/μL) の疾患 1 CML 2 / G CSF 太字は頻度の高い疾患 32

PowerPoint Presentation

PowerPoint Presentation


PowerPoint プレゼンテーション

母子感染

1 8 ぜ 表2 入院時検査成績 2 諺齢 APTT ALP 1471U I Fib 274 LDH 2971U 1 AT3 FDP alb 4 2 BUN 16 Cr K4 O Cl g dl O DLST 許 皇磯 二 図1 入院時胸骨骨髄像 低形成で 異常細胞は認め

メディカルスタッフのための白血病診療ハンドブック

P002~014 1-1-A~B.indd

063 特発性血小板減少性紫斑病

ヒト慢性根尖性歯周炎のbasic fibroblast growth factor とそのreceptor

PowerPoint プレゼンテーション

<4D F736F F D204E6F C82518DC490B C790AB956E8C8C88E38E742E646F63>

日臨技九州支部血液卒後セミナー 解説 3

PowerPoint プレゼンテーション

スライド 1

芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍における高頻度の 8q24 再構成 : 細胞形態,MYC 発現, 薬剤感受性との関連 Recurrent 8q24 rearrangement in blastic plasmacytoid dendritic cell neoplasm: association wit


95

00-00大扉_責了.indd

PT51_p69_77.indd

最初に事後指導項目規定をお示し致します これらは 陰性スメアに対して行っております まず 取り扱い項目は要医療 要治療の 2 項目あります 要医療扱いの細胞所見は 一つ目に 炎症を伴う強度細胞異型の見られるもの 二つ目として 萎縮像に炎症を伴った強度細胞異型の認められるもの 三つ目として 核異型の伴

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 P EDTA-2Na( 薄紫 ) 血液 7 ml RNA 検体ラベル ( 単項目オーダー時 ) ホンハ ンテスト 注 外 N60 氷 MINテイリョウ. 採取容器について 0

【参考文献】

イルスが存在しており このウイルスの存在を確認することが診断につながります ウ イルス性発疹症 についての詳細は他稿を参照していただき 今回は 局所感染疾患 と 腫瘍性疾患 のウイルス感染検査と読み方について解説します 皮膚病変におけるウイルス感染検査 ( 図 2, 表 ) 表 皮膚病変におけるウイ

2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にあります

04骨髄異形成症候群MDS.indd

愛知県臨床検査標準化ガイドライン 血液特殊染色アトラス 愛知県臨床検査標準化協議会 AiCCLS : Aichi Committee for Clinical Laboratory Standardization

33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

貧血 

小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

PowerPoint プレゼンテーション

24 末梢血塗抹標本における低分葉好中球の分類および報告方法について 井本清美 1) 中川浩美 2) 山﨑法子 1) 山﨑哲 1) 聖マリアンナ医科大学病院 1) 広島大学病院 2) Web アンケートを用いた調査研究第 1 回調査報告 目的 先天性または後天性に出現する低分葉成熟好中球の形態学的特

白血病とは 異常な血液細胞がふえ 正常な血液細胞の産生を妨げる病気です 血液のがん 白血病は 血液細胞のもとになる細胞が異常をきたして白血病細胞となり 無秩 序にふえてしまう病気で 血液のがん ともいわれています 白血病細胞が血液をつくる場所である骨髄の中でふえて 正常な血液細胞の産 生を抑えてしま

はじめに 日本で最初の造血幹細胞移植が行われたのは 1974 年ですが 199 年代に入ってから劇的にその件数が増え 近年では年間 5, 件を超える造血幹細胞移植が実施されるようになりました この治療法は 今日では 主に血液のがんである白血病やリンパ腫 あるいは再生不良性貧血などの根治療法としての役

1. 研究の名称 : 芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍の分子病理学的研究 2. 研究組織 : 研究責任者 : 埼玉医科大学総合医療センター病理部 准教授 百瀬修二 研究実施者 : 埼玉医科大学総合医療センター病理部 教授 田丸淳一 埼玉医科大学総合医療センター血液内科 助教 田中佑加 基盤施設研究責任者

白血病

上原記念生命科学財団研究報告集, 30 (2016)

スライド 1

ROCKY NOTE 特発性血小板減少性紫斑病 Idiopathic thrombocytopenic purpura:itp(130109) 5 歳男児 四肢に紫斑 特に誘因なし 関節内出血なし 粘膜に出血無

モノクローナル抗体とポリクローナル抗体の特性と


<4D F736F F D FAC90EC816994AD955C8CE38F4390B394C F08BD682A082E8816A8F4390B38CE32E646F63>

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft Word - all_ jp.docx

ハイドレア とは ハイドレア は ほんたいせいけっしょうばんけっしょう 本態性血小板血症 (ET) 6 ページ参照 しんせいたけつしょう 真性多血症 ( 真性赤血球増加症 : PV) 8 ページ参照 まんせいこつずいせいはっけつびょう 慢性骨髄性白血病 (CML) 10 ページ参照 に対して処方され

PowerPoint プレゼンテーション

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 10 年相対生存率に明らかな男女差は見られない わずかではあ

能性を示した < 方法 > M-CSF RANKL VEGF-C Ds-Red それぞれの全長 cdnaを レトロウイルスを用いてHeLa 細胞に遺伝子導入した これによりM-CSFとDs-Redを発現するHeLa 細胞 (HeLa-M) RANKLと Ds-Redを発現するHeLa 細胞 (HeL

精度管理調査の目的

骨髄線維症 1. 概要造血幹細胞の異常により骨髄に広汎に線維化をきたす疾患 骨髄の線維化に伴い 造血不全や髄外造血 脾腫を呈する 骨髄増殖性腫瘍のひとつである 2. 疫学本邦での全国調査では 患者数は全国で約 700 人と推定されている 発症年齢の中央値は 66 歳である 男女比は 2:1 と男性に


PowerPoint プレゼンテーション

血液 血液 知識 技術 技能 症例 頁 7) ヘパリン起因性血小板減少症 HIT A C 造血幹細胞移植 B C 血液疾患に対する特殊治療 B C 318 Ⅴ. 疾患 赤血球系疾患 318 1) 出血性貧血 A A 318 2) 鉄欠乏性貧血 A A 318

一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft Word - 01.docx

発作性夜間ヘモグロビン尿症 :PNH (Paroxysmal Nocturnal Hemoglobinuria) 1. 概要 PNH は PIGA 遺伝子に後天的変異が生じた造血幹細胞がクローン性に拡大する 造血幹細胞疾患である GPI アンカー型蛋白である CD59 や DAF などの補体制御因子

第58回日本臨床細胞学会 Self Assessment Slide

スライド 1

がん登録実務について

<4D F736F F D F73696B6B616E C8C8B858C6E82CC8EBE8AB C08C8C897493E089C82E646F63>

日本医科大学医学会雑誌第11巻第4号



当院の血液検査室の概要 血液検査 system 自動血球分析装置塗抹標本作製装置 La-vietal LS (Sysmex 社 ) XN-3000 (Sysmex 社 ) XN 台 ( RET WPC PLT-F の各チャンネル ) XN 台 SP-10 (Sysmex

ロミプレート 患者用冊子 特発性血小板減少性紫斑病の治療を受ける患者さんへ

1.若年性骨髄単球性白血病の新規原因遺伝子を発見 2.骨髄異形症候群の白血病化の原因遺伝子異常を発見

Photo. 1 大脳皮質 / 圧挫標本 a) パパニコロウ染色 (Pap, 対物 40) 正常組織では, 神経細胞, 星膠細胞, 乏突起膠細胞がバランスよく出現しているが, 胞体や突起, 線維とも不明瞭である. 神経基質は微細な網目状構造として認める. b) GFAP 免疫染色 (GFAP, 対物

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

精度管理調査の目的

学位論文要旨 牛白血病ウイルス感染牛における臨床免疫学的研究 - 細胞性免疫低下が及ぼす他の疾病発生について - C linical immunological studies on cows infected with bovine leukemia virus: Occurrence of ot

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

血液部門精度管理調査 責任者済生会高岡病院 高田哲郎

入院時検査所見検査所見 WBC /µl RBC /µl Hb 13.4 g/dl Ht 38.4 % MCV 85.7 Fl MCH 29.2 pg MCHC 34.9 % PLT /µl PT-% 63.8 % PT-INR 1.23 APTT

大腸ESD/EMRガイドライン 第56巻04号1598頁

PowerPoint プレゼンテーション

サイトメトリー12-1.indd

貧血はその成因から 赤血球の1 産生障害と 2 崩壊亢進 喪失 ( 出血 ) そして先天性と後天性に分類します 造血幹細胞の正常な分化と増殖が障害される骨髄不全が再生不良性貧血です 成人例のほとんどは後天性の特発性再生不良性貧血ですが 小児では新生児期から発症する先天性骨髄不全症候群や後天性の肝炎後

PowerPoint プレゼンテーション

EBウイルス関連胃癌の分子生物学的・病理学的検討

白血病治療の最前線

BLF57E002C_ボシュリフ服薬日記_ indd

科目科目区分 単位数 (1 単位当た りの時間 ) 必修 選択 区分 開講時期 授業形態 病理病態学 専門基礎科目 病気と治療 2 単位 (30 時間 ) 必修 1 年次 通年 講義 演習 科目担当者科目責任者 : 黒田雅彦担当教員 : 井上理恵 佐藤栄一 松本哲哉 長尾俊孝 後藤明彦 河合隆 森安

第28回血液部門卒後研修会 症例7

1 AML Network TCGAR. N Engl J Med. 2013; 368: 種類以上の遺伝子変異が認められる肺がんや乳がんなどと比較して,AML は最も遺伝子変異が少ないがん腫の 1 つであり,AML ゲノムの遺伝子変異数の平均は 13 種類と報告された.

日本内科学会雑誌第97巻第7号

kari.indb

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

Microsoft PowerPoint FCM.....p2005.htm

60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

読んで見てわかる免疫腫瘍

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

正常好中球の染色性と比較して判定を行う 細胞分 類において白血球を 200 細胞分類することを基本と する 2 骨髄穿刺 骨髄塗抹標本は末梢血と同様に May-Giemsa また は Wright-Giemsa 染色を行い 有核細胞を 500 細胞 分類するが 骨髄巨核球は異形成を示すものも含め て

<4D F736F F D20322E CA48B8690AC89CA5B90B688E38CA E525D>

Microsoft Word 病理所見の書き方(実習用).docx

日本内科学会雑誌第104巻第7号

Microsoft PowerPoint - ASC-Hの分析について.ppt


Transcription:

造血器 ( 骨髄 ) 組織診断の免疫染色 昭和大学藤が丘病院臨床病理診断科 岸本浩次, 関口孝次, 外池孝彦, 光谷俊幸 はじめに 造血器 ( 骨髄 ) 疾患の診断には通常, 骨髄穿刺吸引塗抹標本と骨髄組織標本が用いられている. 骨髄検査は白血病の診断をはじめ, 各種造血細胞の異常から様々な病態が診断可能となる. 標本作製については骨髄穿刺吸引塗抹標本が血液検査室, 骨髄組織標本は病理検査室において作製されることが多い. 各々の方法には長所, 短所があり両者を合わせ行なうことにより正確な診断が導かれる. 塗抹標本の特徴としては個々の細胞の詳細な観察が可能となり造血細胞を百分率で表現することができる. しかし, 塗抹によるアーチファクトが起こりやすいことや, 吸引した細胞量が尐ない場合など骨髄組織を反映しないことが起こりうる. 骨髄組織標本の利点は骨髄の状態を広範囲に観察することができ, さらに造血細胞の cellularity( 細胞髄 / 脂肪髄比率, 造血細胞密度 ) の評価が正確になされる. しかし, 塗抹標本に比べ個々の詳細な細胞観察には限界があり, 芽球の異型性が乏しい場合や芽球数が尐ない場合には判定が困難となる 1). 一方, 造血器の診断においては腫瘍細胞の免疫学的形質を知ることが必須である. 骨髄穿刺吸引材料を用いたフローサイトメトリーの検索は日常的に行なわれており, さらに近年では病理組織分野においてもパラフィン包埋切片を用いた各種造血器細胞マーカーが多数市販されている. 本稿では代表的な造血器 ( 骨髄 ) 疾患 ( 急性骨髄性白血病, 急性リンパ性白血病, 骨髄異形成症候群, 悪性リンパ腫の骨髄浸潤, 赤血球細胞の異常, 血小板, 骨髄巨核球の異常など ) について免疫染色の有用性を解説する 1) 2). 当院で使用している造血器 ( 骨髄 ) 疾患の主な診断用マーカー マーカー 目的 CD34 芽球の同定 c-kit 芽球の同定 MPO 骨髄系細胞の同定 CD42b 巨核球の同定. 微小巨核球の同定 CD61 巨核球の同定 CD71 赤芽球の同定 Glycophorin 赤芽球の同定 CD68 単球系, マクロファージの同定 TdT 主にリンパ球系の幼若細胞の同定 1. 急性骨髄性白血病, 急性リンパ性白血病 FAB 分類は塗抹標本での血球形態観察が基本的手法であり急性骨髄性白血病 acute myeloid leukemia(aml) は芽球の評価から M0~M7 に分類されている. 病理組織標本においても同様で形態観察が基本的な見方となる. しかし, 近年の新 WHO 分類においては血球形態観察に加え, 臨床所見, 染色体, 遺伝子異常, 芽球の比率によって各種疾患が定義されている. この新 WHO 分類では AML の芽球比率を 20% 以上としている. 何れの分類においても病理組織標本の場合, 芽球比率が高く多数みられる症例ではそれほど問題とならないが芽球の出現が尐ない場合には免疫染色が有用となる.Myeloperoxidase(MPO) は幼若顆粒球 ~ 成熟顆粒球, および単球に陽性で白血病細胞が骨髄系腫瘍で有効となる. 造血幹細胞のマーカーとしては CD34,CD117(c-kit) などがあり,CD34 は急性白血病 ( 骨髄性, リンパ性 ) において 30% 程度の発現があり, 診断, 再発の判定には有用である.c-kit は造血幹細胞をはじめ AML における骨髄系芽球に陽性となる. 急性リンパ性白血病 acute lymphoid leukemia(all) は FAB 分類で L1,L2,L3 に分類されていたが, 新 WHO 分類では B, T,T/NK-cell に分け, さらに前駆細胞性腫瘍と成熟細胞性腫瘍に分類している. 最も経験するリンパ性白血病は急性リンパ芽球性白血病であり, 診断時, 骨髄組織はリンパ芽球のびまん性密な増殖によって占められる. 免疫染色のマーカーとしては各種 B, T,T/NK マーカーが用いられるが骨髄系マーカーが陽性を示すことがある. また TdT はリンパ球系のマーカーとして用いられるが幼若な AML でも陽性となるため注意を要する. -1-

2. 骨髄異形成症候群 (MDS) MDS とは造血幹細胞のクローナルな細胞増殖で血球減尐症, および造血 3 系統の細胞形態異常 ( 異形成 ) をきたし, 白血病に移行する危険性を有する疾患である. 新 WHO 分類では 7 型に分類されており 1 系統の異形成がみられ, 芽球は 5% 未満とする不応性貧血 Refractory anemia (RA) をはじめ,1 系統 ~ 多系統の異形成, 芽球も 10~19% の増加を伴う不応性貧血 RA with excess of blasts-2(raeb-2) など様々な病型に分けられている. また芽球が 20% 以上存在する急性白血病で MDS の形態像を伴う病型もある.3 系統の血球 ( 赤芽球系, 顆粒球系, 巨核球系 ) 異常を以下に記す. 1 赤芽球系 : 赤芽球系細胞の多核化, 細胞質の空胞, 巨赤芽球様変化, 赤芽球細胞の過形成, 2 顆粒球系 : 顆粒球系の異常では顆粒球の核形不整, 顆粒の減尐, 核過分葉, 3 巨核球系 : 巨核球系では細胞質は成熟しているが細胞のサイズが小さく, 低分葉状の核の小型巨核球, 細胞サイズが多系統と同等以下の微小巨核球などの出現を特徴とする. 骨髄組織標本では骨髄の過形成, 赤芽球系細胞の過形成, 赤芽球島の形成,RAEB では正常な造血細胞の分布パターンとは異なる異常な分布, 尐数の芽球のクラスターを形成する. このような場合, 芽球の同定に CD34 が有用となる. また微小巨核球や他の異形成を伴う小型巨核球は HE 染色標本では同定困難である. これらの同定には CD42b,CD61 の免疫染色が有用で MDS において最も診断価値が高いとされている. 3. 悪性リンパ腫の骨髄浸潤悪性リンパ腫の場合, 骨髄浸潤の有無は病期の確定に必須である. 病理組織標本における骨髄へのリンパ腫細胞の浸潤様式には, 骨梁周囲型, 間質浸潤型, 結節浸潤型, びまん型などが知られている. 悪性リンパ腫の各組織型にも特徴があり一般に B 細胞性リンパ腫では骨梁周囲型, 結節型, びまん型がみられる. なかでも濾胞性リンパ腫は骨髄浸潤が約半数の例にみられ線維化を伴い中型リンパ球大の腫瘍細胞が骨梁周囲型に増殖する特徴を有する.T,T/NK 細胞リンパ腫は間質型を基本とし, 病期が進行すると結節型, びまん型に移行する 3). 免疫染色ではこの骨髄浸潤様式を参考に各種 B, T,T/NK マーカーが用いられる. 4. 赤血球系細胞の異常貧血の原因は骨髄の低形成, 過形成であっても無効造血, 赤血球自体の異常などである. 造血幹細胞の障害, 赤血球産生の低下による再生不良性貧血や赤芽球癆, 赤血球産生過程の障害による巨赤芽球性貧血, サラセミア, 鉄欠乏性貧血などが知られている. 一方, 腫瘍性では赤芽球が骨髄有核細胞の 50% 以上を占める場合,WHO 分類によると, 抗癌剤や放射線使用後に発症するもの, 遺伝子変異を有するカテゴリー, また芽球比率によって AML with MDS, 赤白血病などに分かれている. 再生不良性貧血は末梢血の汎血球減尐症 pancytopenia( 貧血, 血小板減尐, 好中球減尐 ) を示す疾患で, 骨髄は著明に低形成であるが, 島状に散在する造血巣では赤芽球の過形成を伴う場合がある. 本疾患の重要な所見は骨髄巨核球の低形成とされている. 赤芽球癆は赤芽球のみが減尐し, 赤芽球系以外は減尐することなく保たれている. 巨赤芽球性貧血はビタミン B12, 葉酸欠乏による DNA 合成障害による無効造血である. 骨髄像は赤芽球の過形成で, 巨赤芽球の血球形態は核が類円形, 核網が繊細, 大型で明瞭な核小体を有することである. 免疫染色ではこれらの貧血を起こす疾患について CD71 や glycophorin を用いて赤芽球の同定に役立つ. また, 腫瘍性では赤芽球の増加が 50% 以上を示す骨髄性腫瘍の病理組織標本における赤芽球の認識が困難な場合, 赤芽球マーカーを用いた免疫染色が重要である. 5. 血小板, 骨髄巨核球の異常骨髄巨核球の減尐は造血障害による再生不良性貧血や様々な疾患における骨髄低形成や白血病などでみられる. 骨髄巨核球の増加は非腫瘍性疾患で特発性血小板減尐性紫斑病 (ITP) が代表的で, 本疾患は出血傾向を示す血小板減尐症をいう. 骨髄像は脾臓における血小板破壊に反応して骨髄では骨髄巨核球が代償的に増生する. 骨髄像では骨髄巨核球は正常大の大きさで細胞質, 核に異型性はみられない. 一方, 腫瘍性の場合には形態異常をきたし,MDS や MDS 関連変化を伴う AML, 急性巨核芽球性白血病 acute megakaryoblastic leukemia(amkl) などがあげられる.AMKL は巨核芽球が増殖する疾患であるが塗抹標本における骨髄芽球と類似した形態を示し確実な鑑別は難しい. 免疫学的表現型の解析や電顕 PPO 陽性反応の証明が必要となる.HE 標本においても組織学的に巨核芽球の同定は困難で, このような場合,CD42b,CD61 などを用いた免疫染色が有用となる. -2-

( 写真は全て対物 40 倍です.) a) HE b) MPO c) c-kit d) CD34 症例 1.1 歳代, 女性.AML. FAB 分類 M2 高度過形成性骨髄で芽球のびまん性増殖がみられる.blastic cell は N/C 比の増大, 核クロマチン繊細, 核形不整を有する. 大半の細胞は骨髄系マーカーの MPO(+), 芽球マーカーである c-kit は大半の細胞に (+) も,CD34(+) 細胞は尐なめである. リンパ球系マーカーである TdT は全く染まらず (-) である. a) HE b) CD71 c) MPO d) c-kit 症例 2.70 歳代, 男性.AML. FAB 分類赤白血病 M6 過形成骨髄で約半数の有核細胞は赤芽球細胞で占められており骨髄球系は尐数である. 赤芽球マーカーである CD71 は大半の細胞に (+) で MPO は散在性に (+),CD34 は (-) で c-kit は芽球に (+) である. -3-

a) HE b) CD42b c) c-kit d) MPO 症例 3.1 歳代, 男性.AML. FAB 分類巨核芽球性白血病 M7 過形成骨髄で芽球の単調な増生がみられる.MPO(+) 細胞はごく僅かで, 芽球は巨核球マーカーの CD42b(+),c-kit(+) である. a) HE b) TdT c) CD10 d) CD79a 症例 4. 1 歳代, 男性.ALL 過形成性骨髄で小型リンパ球系の芽球が単調に出現している. リンパ球系の幼若細胞のマーカーである TdT が大半の芽球に (+),CD10(+),B cell マーカーである CD79a(+) である. -4-

a) HE b) MPO c) TdT d) CD79a 症例 5.1 歳代, 女性. AML+ALL 高度過形成骨髄で大部分が芽球で占められている. 芽球は MPO(+) と,TdT(+) 細胞が混在しており, 染色強度は低いが CD79a(+) 細胞が散見される. フローサイトメトリーなどの他の検査所見から mixed lineage leukemia と診断されている. -5-

a) HE b) MPO c) CD20 d) CD3 e) CD42b f) CD71 症例 6.70 歳代, 男性. MDS 造血細胞は正形成からやや過形成. リンパ球の集蔟巣もみられる. ごく一部に成熟巨核球 ( ) をみるが 3 系統の細胞の区別が困難である. リンパ球は T,B マーカー共に陽性でクローナリティーを認めない. 巨核球マーカー (CD42b) では小型巨核球 ( ), および MDS の診断の決め手となる微小巨核球 ( ) が観察される. a) HE b) MPO c) CD42b 症例 7.90 歳代, 女性. MDS with AML 高度過形成骨髄で約半数近くの芽球が出現している. 他の赤芽球系細胞, 巨核球系細胞もみられる. 芽球は MPO(+),CD42b では小型巨核球, 微小巨核球がみられることから MDS を伴った病変である. -6-

a) HE b) CD10 症例 8.50 歳代, 女性. 濾胞性リンパ腫骨梁の周囲を密に小型リンパ球が取り囲んでいる. 濾胞性リンパ腫の骨髄浸潤の特徴であり CD10(+) である. a) HE b) MPO c) CD42b d) CD71 症例 9.70 歳代, 男性. 再生不良性貧血 Aplastic anemia 低形成骨髄であり脂肪の多い組織である. 細胞成分は MPO(+),CD71(+) 細胞が散見されるが CD42b に染まる巨核球系細胞はほとんどみられない. -7-

a) HE b) MPO c) CD71 d) CD42b 症例 10. 20 歳代, 男性. 赤芽球癆 Pure red cell 軽度過形成骨髄であり幼若細胞から成熟顆粒球の各段階の骨髄球系細胞,MPO(+), 成熟巨核球,CD42b(+) をみるが, 赤芽球系細胞,CD71 は著減している. a) HE b) CD71 症例 11. 80 歳代, 女性. 巨赤芽球性貧血 Megaloblastic anemia 過形成骨髄のなかにスリガラス状の淡く大きな核を有し, 核小体の目立つ巨赤芽球が島状に散見されている. 巨赤芽球は CD71(+) である. 文献 1) 光谷俊幸 : 造血器腫瘍, 腫瘍病理鑑別診断アトラス, 編集 : 定平吉都, 北川昌伸, 文光堂,2013 2) 松谷章司 : 血液 骨髄, 外科病理学 第 4 版 Ⅱ, 編者 : 向井清, 真鍋俊明, 深山正久, 文光堂,2006 3) 竹下盛重 : 造血器腫瘍, 腫瘍病理鑑別診断アトラス, 編集 : 定平吉都, 北川昌伸, 文光堂,2013-8-