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1 MDS 読者諸賢は, 英文の文献では, しばしば myelodysplastic syndromes と複数で記載されていることに気づいておられるであろうか. もちろん,myelodysplastic syndrome と単数扱いのときもある. 略号になれば両方とも MDS であり,MDSs などと表記されることはないので, この違いは見落とされがちであるが, 周知のように英語では単数と複数を峻別するので, この s はもちろん意識して使われているのである. 複数扱いで書かれた際には,MDS はたくさんの症候群の集まり, すなわち,king of kings ならぬ,syndrome of syndromes という感覚なのであろう. しかしながら,syndrome という単語自体がすでに疾患の寄せ集めであることを考え合わせると,myelodysplastic syndromes という言葉は何ともすさまじく,MDS のとらえどころのなさ, 怪しさ を見事に言い表しているといえよう. A FAB 実際,MDS という診断名がカバーする疾患群は, ほかの骨髄球系の疾患と比較して特段に広く, かつ不均一で, 主要な血液疾患のなかで最も理解しにくいカテゴリーであろう. 多岐にわたる MDS の特徴を大胆に抽出すれば,1 造血細胞の異型性の存在,2 末梢血での血球減少,3 骨髄正形成 過形成,4 骨髄性白血病への高頻度の移行の 4 点ということになろうが, 例外も多く, つかみどころのない曖昧な疾患概念であると感じている人も多いと思う. 歴史的にみれば, フランス, アメリカ, イギリスの血液学者が集まって FAB(French- American-British) グループ を結成し, この混沌とした疾患グループをはじめとする造血腫瘍の診断基準を整理することを試みたのが,1970 年代のことであった. これらの努力は 1976 年と 1982 年に出版された, いわゆる FAB 分類の論文に結実し 1, 2), 近年 WHO 分類に置き換わるまで世界中で広く用いられてきた. しかし, こうした 煮え切らない 病気があること自体は, ずっと以前より認識されており, 不応性貧血 (refractory anemia; RA), 前白血病 (preleukemia) やくすぶり型白血病 (smoudering leukemia) などの診断病名が, ときにビタミン B 12 不足による悪性貧血などと混同されながら, 用いられていた. たとえば,1964 年に書かれた C 群染色体欠失を伴った不応性貧血 3 症例 (Refractory anemia, granulocytic hyperplasia of bone marrow, and a missing chromosome in marrow cells. A new 2 1. 疾患概念 病因 病態

図 1-1 1964 年に書かれたモノソミー 7 を伴う MDS の 3 例報告 clinical syndrome? の報告 3 は B5 判 1 枚の抄録程度の長さであるが 図 1-1 当時の血液学 の水準の高さを認識し 学問の進歩を振り返る意味で一読の価値がある この論文は モノソ ミー 7 の最初の報告例でもある 当時は 分染法が開発されておらず ヒトの染色体が 46 本で あることが確認されてはいたものの 22 対の常染色体を 1 本 1 本同定することは不可能であっ た 染色体全体の長さと 短腕と長腕のバランスから ヒトの染色体を A 群から G 群までの 7 群に分類していたのである この報告は C 群染色体 6 番から 12 番 が 1 本足りないという 共通の特徴を有し 骨髄では顆粒球系が過形成である不応性貧血の 3 症例が 数年後に急性骨髄 単球性白血病 AMMoL に移行したとするもので 現在の言葉でいうと モノソミー 7 を有し た 3 例の MDS 患者が白血化 したという 高齢者 MDS の典型的な経過である フィラデル フィア Ph1 染色体の発見が 1961 年のことであるので 染色体異常などのゲノム DNA の変異 が 白血病や MDS の原因であることが認識されたのは ちょうど半世紀前であることがわかる 混沌とした疾患概念を整理し MDS というカテゴリーを確立した点で FAB 分類の歴史的意 義は大変大きい 現在使われている WHO 分類も よくも悪くも FAB 分類の基本的な考え方を 踏襲している 1 MDS の疾患概念 病因 病態 3

B MDS 3 FAB 分類では, 悪性度が低く 貧血色 の強い RA/RARS(RA with ringed sideroblasts, 骨髄における芽球比率が 5% 以下 ) から, 悪性度が高まり 白血病色 の強まる RAEB(RA with excess of blast, 同 5 20%), さらに悪性度が高まる RAEB-t(RAEB in transformation, 同 20 30%) の 出世魚 の悪性化コースをたどるグループを MDS の中心に据えた. ちなみに骨髄における芽球の割合が 30% 以上になると AML である. 重要なことは,FAB 分類では MDS の AML との境界は, 骨髄芽球の比率という 数字 で決めている点である.1999 年に提唱された WHO 分類では,RAEB-t の呼称を廃止し,20% 以上は AML として扱うように変更されたが, 骨髄芽球比率で MDS と AML を区別する考え方自体は維持されている. FAB 分類による MDS の範疇には, 中核となる RA RAEB-t 以外に, やや唐突ともみえる, 慢性骨髄単球性白血病 (CMML) が含まれていた.CMML 症例の多くは, 末梢血での白血球数は増加するので, 一般的な MDS の大きな特徴である, 末梢血での血球減少という基準に反する. このため,CMML を MDS に含めるのがよいかどうかは当時より議論の多かった点であるが, これが MDS に含まれたのには, いわゆる Ph 1 染色体陰性慢性骨髄性白血病 (CML) をどう扱うかが当時大きな問題であったという, 歴史的な背景を考慮する必要がある. すなわち, と 両遺伝子の融合が確認される 1980 年代初頭以前は,Ph 1 染色体が確認できない骨髄増殖性疾患をひとくくりにして Ph 1 染色体陰性 CML と総称したが, これには大別して 2 つのカテゴリーが含まれていた.1 つは, 隠された(masked)Ph 1 染色体 をもつ症例, すなわち,3 way 転座 ( たとえば,9;22 転座で生じた Ph 1 染色体がさらにほかの染色体と転座を起こす ) などにより, 染色体分析レベルでは Ph 1 染色体が確認できないが, 分子レベルでは キメラが生じていて,CML と何ら変わらない病態である. もう 1 つは, 臨床的には成熟した好中球の著明な増加が認められるものの, キメラは存在せず, 分子レベルでは CML とはまったく無関係な疾患である. これらの疾患は, 骨髄増殖性疾患 (MPD) のカテゴリーに属するものであるが, 異型性が認められることも多く,MDS との鑑別は必ずしも明確ではない. 当時, Ph 1 染色体陰性 CML や類似の MPD などの疾患概念や分類が混乱の極みであったなかで, CMML の定義づけは, きちんとしたカテゴリー作りを行う一環であった. その後 の遺伝子診断が広く行われるようになって,masked Ph 1 染色体という言葉もほとんど使われなり, それどころか Ph 1 染色体陰性 CML という言葉自体が死語同然になった. そうなると, 今度は CMML を RA RAEB-t の系列と同じカテゴリーにするのは何かとおさまりが悪くなった. そこで,WHO 分類では, これも以前は若年性 Ph 1 陰性 CML(JCML) とよばれた若年性骨髄単球性白血病 (JMML) などとともに MDS/MPD というカテゴリーを作り,MDS からの独立性を高めた. FAB 分類が発表された当時から問題であったもう 1 つの状態が, 低形成性 MDS である. MDS は末梢血で汎血球減少があるにもかかわらず, 骨髄では正形成 過形成である点が疾患の特徴であり, 骨髄でも低形成であれば, 再生不良性貧血との鑑別が問題になる. 実際に低形成性 4 1. 疾患概念 病因 病態

MDS は特に若年層に多く, その頻度は 20% にも及ぶとされており, 診断に苦慮することも少なくない. このように, その疾患概念の広さと曖昧さゆえに,MDS は上述した 3 つの境界, すなわち, 1.MDS のコアである RA RAEB のグループと AML との境界,2. 骨髄増殖性疾患 (MPD) との境界,3. 再生不良性貧血との境界, を含む数多くの血液疾患と境界を接している.WHO 分類はこうした事情に配慮して, 数多くの新しいカテゴリーを新設する一方,MDS/MPD カテゴリーを設けることによって CMML を MDS から除外するなど, さまざまな工夫を行っている. ただ, こうした改善策が, かえって MDS という疾患概念をとっつきにくく複雑なものにし, 理解しにくいものへと変えていく危険性があることは否めない.MDS はやっぱり myelodysplastic syndromes なのである. C MDS AML 諸行無常は世の常,FAB 分類から WHO 分類へと変遷するうちに, いくつかの疾患概念が生まれ, いくつかのカテゴリーが去っていったり, 消えたりしたわけであるが, 結局のところ, MDS のコアは RA RAEB である. ところで, その先 RAEB が進展して, ある芽球比率を超えたときに AML になる ( 白血化 ) という発想は,FAB 分類で採用され,WHO 分類でも変わることなく受け継がれた.CML では, 骨髄性急性転化を起こしても, それはあくまでも CML の一病期であって, AML になった とはいわないし, リンパ性急性転化を起こした際にも ALL になった とはいわないのに, どうして MDS は進展すると AML になってしまうのだろうか? 本稿ではこれ以降,RA と RAEB, それに MDS が白血化した AML まで含めて,( 適切な言葉がないため )MDS/AML と記載する. 一方, はっきりとした MDS の病期を経ておらず, 異形成が少ない AML のことを MDS/AML と区別して, AML とよぶことにする.MDS を理解するためには,MDS/AML と AML の違いの ( あるいは違いのなさの ) 解明が必要であり, それは決して芽球比率が 20% だ,30% だとかいう些末な話ではない. おそらく最も重要な,MDS/AML と AML の違いは好発年齢である. AML はがん全体でみると孤児とでもいうべき, 非常に特殊な立ち位置にある. すなわち, ほとんどすべてのがんは好発年齢をもっている. なかでも大半のがんは小児期にはきわめてまれで,40 50 歳頃から始まるいわゆるがん年齢に圧倒的に多い. 一方, 小児期によくみられるがんは, 成人以降に発症することは大変まれである. ところが, AML, たとえば,8;21 転座に伴う Runx1(AML1)-ETO 転写因子を発現する AML は, 幼稚園児にも,90 歳の超高齢者にも発症する. しかも, その頻度は大きくは変わらず, 平坦な年齢分布であるというか, 好発年齢をもたない. 一方, AML とは対照的に,MDS/AML の年齢分布は多くのがん同様, がん年齢に大きく偏っている. 小児期にも MDS は発症するが, その頻度は AML の数パーセント程度以下である. 一方, がん年齢以降, 特に高齢者では,MDS の頻度は AML よ 1.MDS の疾患概念 病因 病態 5

りもむしろ多い. 好発年齢は, 後述するように, 広島 長崎の原爆被爆者に多発する AML や MDS/AML の疫学上の相違とも深く関連する問題であって,MDS/AML と AML の相違の本質にかかわっている. 幼稚園児でも,90 歳を超える超高齢者でも, まったく同じ分子機序のがんが発生することは, 実は驚くべきことである. 幼児と超高齢者では, エピゲノム修飾状態がまったく異なる. このことが, 小児がんは小児期に, 通常の成人型がんはがん年齢で好発する大きな理由の 1 つであると考えられている.AML1-ETO 転写因子のような, そのどちらでも発がんに寄与する発がん遺伝子産物は, エピゲノム状態に依存せずに発がんを促進するか, もしくは, エピゲノム状態を発がんにふさわしいように変化させるかのいずれかであろう. このことは, 大変興味深い点であり, 後述する. D MDS/AML de novo AML MDS/AML と AML の違いを浮き彫りにするために, 両者の発病メカニズムをゲノム異常の観点から概観すると, 染色体異常では両者に大きな相違がみられるのに対し, 点変異ではこれまでのところ RUNX1/AML1 を唯一の例外として, 両者に大きな差はみいだせない. 1 染色体所見は大きな手がかりである. とはいっても,RA では正常核型であることが多いし, AML の半数近くも正常核型であることをまず押さえておきたい. 残り半数にみられる染色体異常のうち, ノンランダムな染色体異常は,MDS/AML と AML の間で大きな違いがみられる. すなわち, 周知のとおり AML では,8;21 転座や 15;17 転座,11q23 を切断点とする転座など, その数, 数百にも及ぶ キラ星のごとき ノンランダムな染色体転座がみいだされており, その切断点からキメラ遺伝子の発現がみられることである. 一般的に, これら AML の定番の転座は,MDS/AML では病期にかかわらず認められることはごくまれである. 逆に, もっぱら MDS/AML で認められる転座やキメラ遺伝子も少数ながら知られている. しかしその頻度は MDS/AML の 程度と多くない ( 表 1-1). 一方,MDS/AML では, 染色体大領域欠損やモノソミー ( 5/5q, 7/7q,20q ) な 表 1-1 MDS にみられる染色体転座 逆位 ( 文献 17 より改変 ) 異常 MDS tmds 標的遺伝子 ( 候補 ) t(11;16)(q23;p13.3) t(3;21)(q26.2;q22.1) inv(3)(q21q26.2) t(2;11)(p21;q23) t(1;3)(p36.3;q21.2) t(6;9)(p23;p34) 3% 2% MLL-CBP AML1-Evi1 Evi Nup98-HOXD13 MEL1 DEK-NUP214 6 1. 疾患概念 病因 病態