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エレクトロニクス 高耐圧 S i C M O S F E T 木村錬 * 内田光亮 日吉透酒井光彦 和田圭司 御神村泰樹 SiC High Blocking Voltage Transistor by Ren Kimura, Kousuke Uchida, Toru Hiyoshi, Mitsuhiko Sakai, Keiji Wada and Yasuki Mikamura Recently, with the growing global interest on energy saving, power device efficiency is increasingly important. Most power devices are fabricated utilizing silicon (Si) and their performances have approached to the limit that can be obtained with Si. Silicon Carbide (SiC) is the best candidate materials for innovative power devices that can replace Si devices. The authors have developed SiC Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistors (MOSFETs) with high blocking voltage and low on-resistance characteristics that take full advantage of SiC. This paper provides overview of the design, fabricating process and electrical properties of high blocking voltage SiC MOSFETs. The fabricated SiC MOSFETs are applied edge termination technique and shows a high blocking voltage of 3,590 V and a low specific on-resistance of 14.2 mω cm 2. These results show that the application of SiC to power electronics will provide significant benefits in improving efficiency, high voltage operation with semiconductor devices. Keywords: silicon carbide, breakdown voltage, transistor, power device 1. 緒言 近年 地球温暖化防止の観点から世界的な省エネルギーへの取り組みが重要視されている 様々なエネルギーの中で電気エネルギーは発電 送電 制御が可能であり 我々の生活において最も身近なエネルギーである この電気エネルギーを効率良く使用するためには インバータ等の電力制御システムの発電から消費までを高効率化しなければならない そのため 電力制御システムを構成する電力用半導体デバイス ( 以後 パワーデバイスとする ) の低損失化 高効率化は極めて重要である 現在 世界中で使用されているパワーデバイスの大半が半導体シリコン (Si) を用いて製造されており その構造の工夫や微細化により高性能化が達成されてきた しかし これらの構造的な工夫をもってしても その材料が Si である以上 Si の物性によって決まるデバイスの理論的性能限界以上の性能を得ることはできない したがって さらなる高性能化のためには Si の性能限界を凌駕する半導体によるパワーデバイスの実現が不可欠となる そこで注目されているパワーデバイス用材料が炭化ケイ素 (SiC) である (1) SiC の結晶構造は原子配列の積層順序の違いによって多くの結晶多形が存在するが その中でも 4H-SiC は絶縁破壊電界が高く 電子移動度も大きいことから パワーデバイス用途として最も有力視されている結晶多形の 1 つである 4H-SiC は Si の約 3 倍の禁制帯幅を持ち 絶縁破壊電界は約 10 倍である これらの特徴は 4H-SiC が Si と比較して優れた高耐圧デバイスとなり得ることを示している ま た 同じ耐圧の Si パワーデバイスと比較して 耐圧を保持するドリフト層膜厚を約 10 分の 1 不純物濃度を約 100 倍にすることができるため オン抵抗を 2 3 桁下げる事ができる 一方 4H-SiC の飽和ドリフト速度は Si の約 2 倍であり 高速スイッチングも期待できる さらに 4H-SiC の熱伝導率は Si の約 3 倍であり 高温環境でも安定動作することができる この様に SiC パワーデバイスは現在の Si パワーデバイスと比較して 高耐圧 低損失 高速動作 高温環境下での安定動作という優れたデバイス特性が期待される 現在 産業用モータや電鉄の駆動の制御に必要な耐圧 1,200 V から 3,300 Vの中 高耐圧領域では Si の IGBT (Insulated Gate Bipolar Transistor) が利用されている 当社では この耐圧領域の Si IGBT をより損失の少ない SiC MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field- Effect Transistor) に置き換えることを目標に 高耐圧 SiC MOSFET の開発を進めている 本稿では 耐圧 2,200 Vと耐圧 3,300 Vの高耐圧 SiC MOSFET の設計を行い 実際に試作した素子の評価結果について報告する 2. 高耐圧 SiC MOSFET の設計と作製プロセス 2 1 高耐圧 SiC MOSFET の耐圧保持構造高耐圧デバイスでは デバイスの最外周部に高電界が発生しやすいため その高電界を緩和する耐圧保持構造が重要である 2 0 1 3 年 7 月 S E Iテクニカルレビュー 第 18 3 号 ( 125 )

耐圧保持構造が無い場合 素子構造の最外周部に高い電界 が集中してしまい より低い電圧でデバイスが破壊を起こ してしまう これまで SiC パワーデバイスにおいても 様々な耐圧保持構造が提案されているが (2) (3) 我々は ガードリング型の耐圧保持構造を採用して耐圧の向上を目 指した 図 1 に耐圧 1,200 V の MOSFET の模式図を示す ガード リングは p 型領域であり イオン注入によって形成される この MOSFET に 1,200 V を印加した場合について電界強度 分布のシミュレーションを行った シミュレータは Silvaco 社製 Atlas を用いた 領域 A-A 領域の電界強度分布を図 2 に示す 図 2(a) はガードリングが無い場合 図 2(b) は ガードリングを採用した場合の電界強度分布である 図 2 図 1 耐圧 1,200 V の MOSFET 構造 表 1 MOSFET の不純物注入量注入部位注入量 [cm -2 ] p + 3.3 10 15 p-well 2.9 10 13 p - 1.3 10 13 n + 6.9 10 14 n 1.0 10 13 n - 1.0 10 11 の比較から明らかなように ガードリングが無い場合には SiC 内部の最大電界強度はデバイスの最外周部で 3.5 MV/cm となり SiC の絶縁破壊電界である 2.5 MV/cm を超えてしまう しかし ガードリングを設けることで SiC 内部の電界強度が最大でも 2.0 MV/cm と低くなり 1,200 Vの耐圧を維持できていることがわかる 耐圧 2,200 V 耐圧 3,300 VのSiC MOSFET についても同様の手順でガードリング構造の設計を行い 試作に適用した 2 2 デバイス設計と作製プロセス図 3 に耐圧 2,200 Vと耐圧 3,300 VのMOSFETの断面構造図を示す 基板には (0001) 面の n 型 4H-SiC を用いた 耐圧を保持するエピタキシャル成長層 ( エピ第 2 層 ) は 2,200 V では不純物濃度と膜厚がそれぞれ 4.5 10 15 cm -3 20 µm 3,300 V では 3.0 10 15 cm -3 30 µm を用いた p-well 領域 n + 領域 n - 領域 p + 領域 ガードリング部はそれぞれイオン注入で形成した 表 1 には図 1 図 3 における各注入層の代表的な注入量を示す チャネル長は 1 µm である ゲート酸化膜厚は 50 nm であり ゲート電極には n 型の多結晶シリコンを用いた また p-well 領域に挟まれた JFET 領域の抵抗を下げるために イオン注入によって局所ドーピングを行っている 次に作製プロセスの詳細について説明する 図 4 に素子断面模式図により高耐圧 SiC MOSFET の作製プロセスフローを示し 以下に詳細を述べる 2.50 1.88 1.25 0.63 0 図 2 ガードリング有無での電界強度分布変化 図 3 耐圧 2,200 V 3,300 V の MOSFET 構造 ( 126 ) 高耐圧 SiC MOSFET

(a) エピタキシャル成長 基板は厚さ 350 µm の 4H-SiC 基板であり (0001) 面 に対して 4 オフ角が付くように加工されている こ の基板上に 2 層構造のエピタキシャル構造を化学的気 相成長法 (CVD) により形成する (b) イオン注入 図 4 トランジスタ動作をさせるために n 型不純物として は P( リン ) イオンを p 型不純物としては Al( アル ミニウム ) イオンをイオン注入を用いて導入する 注 入阻止マスクには SiO2 膜を用い 注入部位の SiO2 を 反応性イオンエッチング (RIE) にてエッチングし それぞれのイオンを注入した イオン注入時には不純 物注入による SiC 結晶の損傷を抑制するために高温に加熱する (c) 活性化アニールイオン注入により導入した不純物を SiC の結晶構造に組み込み活性化するとともに イオン注入により生じた結晶損傷を回復させるため 高温で加熱する (d) ゲート酸化膜形成ゲート酸化膜を形成するために酸素雰囲気で酸化し その後 窒化処理を行う これにより基板全面に 50 nm 厚の SiO2 を形成する (e) ゲート電極形成ゲート電極として 低圧 CVD を用いて多結晶シリコンを基板全面に成膜する その後 この多結晶シリコン MOSFET 作製プロセス に導電性を持たせるためにリンを拡散させ 不要な部分は RIE を用いてドライエッチングにより除去する (f) オーミック電極形成基板表面のソース領域 基板裏面のドレイン領域にオーミック電極を形成する まず 基板表面に層間絶縁膜として SiO2 をプラズマ CVD を用いて成膜する その後 電極形成部の SiO2 を除去しオーミック電極を形成する この後 加熱することにより SiC との合金化を行う (g)al 電極 保護膜形成並列接続する各セル間の電気的接続を行うために 配線形成を行う ゲート電極及びソース電極上の SiO2 を RIE にてドライエッチングした後に スパッタリング法により Al を堆積し リソグラフィと RIE により不要な Al を除去し 各セルのゲート電極及びソース電極間を接続する デバイスの最終保護として厚さ 2 µm の SiO2 をプラズマ CVD により形成した 電流の取り出し口のパッド部を開口し 作製プロセスは終了する 2 3 評価用パッケージへの実装作製プロセス完了後 高熱伝導率の銅タングステン (Cu-W) をベースとして適用した評価用 TO-220 パッケージへ実装する 実装工程のフローについて 以下に述べる (a) ダイシングダイサを用いて基板を切断し 単位チップに分割する (b) マウントチップを TO-220 パッケージにはんだを用いて取り付ける (c) ボンディング Al ワイヤを用いてチップ内の各電極とパッケージ端子を電気的に接続する (d) 封止素子と Al ワイヤが完全に埋没するまでモールド樹脂を充填して封止を行う 3. 高耐圧 MOSFET の特性 3 1 オン抵抗測定作製した耐圧 2,200 V 設計の素子及び耐圧 3,300 V 設計の素子の順方向特性評価結果を図 5 に示す ゲート電圧 15 V ドレイン電圧 2 V での特性オン抵抗は耐圧 2,200 V 設計の素子で 12.6 mω cm 2 耐圧 3,300 V 設計の素子で 14.2 mω cm 2 となった 耐圧 3,300 V 設計の素子の方が若干 抵抗が高いがこれはより高い耐圧を得るためにエピタキシャル成長層が厚く ドーピング濃度が低いためである 3 2 耐圧測定本試作で作製した耐圧 2,200 V 設計の素子及び耐圧 3,300 V 設計の素子の耐圧を測定するため 逆方向リーク特性の評価を行った その結果を図 6 に示す なお 本検討では逆方向電流が 1 µa を超えるドレ 2 0 1 3 年 7 月 S E Iテクニカルレビュー 第 18 3 号 ( 127 )

20 16 12 8 4 0 0 2 4 6 8 10 図 5 高耐圧 SiC MOSFET の順方向電流特性 高耐圧化で重要な要素としては ガードリング部の注入濃度 幅 間隔があり より複雑な設計を検討し 試作を試みている 加えて耐圧に重要と思われるものにエピタキシャル成長層の品質がある 特に 結晶欠陥が混入した領域では絶縁破壊電界が低下するため 耐圧を下げる大きな原因になる したがって エピタキシャル成長の技術についても詳細な検討を実施中である さらに パワーデバイスに求められる特徴として 高電流密度化 と 大面積化 がある これを達成するためにはデバイスの低オン抵抗化及び歩留まりの向上が挙げられる 前者に対してはデバイス構造の改善を進める また後者に対しては歩留まりを下げる要因を調査し改善することが重要であり エピタキシャル成長層品質の向上が一つの課題である また 生産の観点から プロセスバラツキ抑制による歩留まり向上も必要であり 設計とプロセスの両面から技術開発を進めていく 110-6 110-7 110-8 110-9 110-10 5. 結言 Si パワーデバイスの性能限界を超える材料として期待されている SiC を用いて 高耐圧 SiC MOSFET を開発した 本報告では 耐圧 3,300 V 以上の SiC MOSFET を開発することに成功した これにより SiC MOSFET の中 高圧インバータ等への応用が期待できる 今後はより耐圧の高い SiC MOSFET 開発を進めるためにデバイス構造のさらなる改善を進めていく 同時にオン抵抗低減 また 耐圧や歩留りを左右するエピ品質のさら なる向上を進めていく 110-11 0 1,000 2,000 3,000 4,000 図 6 高耐圧 SiC MOSFET の逆方向特性 参考文献 イン電圧で耐圧を定義した 耐圧 2,200 V 設計の素子の耐圧は 2,390 V 設計 3,300 Vの素子の耐圧は3,590 V となり それぞれ 2,200 V 3,300 Vの耐圧が得られたことが確認された 耐圧 2,200 V 設計の素子及び耐圧 3,300 V 設計の素子のエピタキシャル成長層の理想耐圧 (1 次元 pn 接合の耐圧 ) は それぞれ約 2,900 Vと約 4,050 V となるため 理想耐圧の 80 90 % が得られていることになる (1) M. Bhatnagar and B.J. Baliga, IEEE Transactions on Electron Devices, vol.40, pp.645-655(1993) (2) K. P. Schoen, J. M. Woodall, J. A. Cooper Jr., M. R. Melloch, IEEE Transactions Electron Devices, vol.45, pp.1595-1604(1998) (3) B. J. Baliga, Power semiconductor devices, Boston: PWS Publishing Co.,(1995) 4. 今後の展望本報告では電力システム制御に用いられている Si IGBT を SiC MOSFET に置き換えることを視野に入れ 耐圧 3,300 V までの SiC MOSFET を開発した 本検討ではガードリング構造が耐圧に与える影響を確認した 今後の ( 128 ) 高耐圧 SiC MOSFET

執筆者 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 木村錬 * : パワーデバイス開発部 内田 光亮 : パワーデバイス開発部 日吉 透 : パワーデバイス開発部 酒井 光彦 : パワーデバイス開発部主査 和田 圭司 : パワーデバイス開発部主査 御神村泰樹 : パワーデバイス開発部部長 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- * 主執筆者 2 0 1 3 年 7 月 S E Iテクニカルレビュー 第 18 3 号 ( 129 )