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さみらはまもり
7 years ago
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1 播磨灘海域におけるマコガレイの生息場ネットワークをふまえた漁場整備 Fishing Ground Improvement Taking into Account the Habitat Network of Marbled Sole Pleuronectes yokohame in the Area of the Sea of Harimanada 伊藤靖 * 三浦浩 ** 中桐栄 *** 安信秀樹 **** 岡崎知治 ***** 萱野泰久 ****** 井脇幹生 ******* 山田達夫 ******** Yasushi ITO* Hiroshi MIURA** Sakae NAKAGIRI*** Hideki YASUNOBU**** Tomoharu OKAZAKI***** Yasuhisa KAYANO****** Motoo IWAKI******* and Tatsuo YAMADA******** * ( 財 ) 漁港漁場漁村技術研究所漁場と海業研究室室長 ** ( 財 ) 漁港漁場漁村技術研究所主任研究員 *** 兵庫県農政環境部農林水産局水産課 **** 兵庫県立農林水産技術総合センター水産技術センター ***** 岡山県農林水産部水産課 ****** 岡山県農林水産総合センター水産研究所 ******* 香川県農政水産部水産課 ******** 香川県水産試験場 Aquatic life has diverse ecologies such as migration in a wide sea area or alternation of the inhabitant area according to their growth stage. In the light of stock recovery and fishing ground improvement for aquatic life, it is necessary to cope with the subject from the viewpoint of a habitat network of life. To achieve this, the need for wide sea area management crossing the conventional administrative framework is arising and thus systematization of procedures to permit the government and multiple prefectures to cooperatively facilitate the project is becoming important.based on a model case of cooperative fishing ground improvement carried out by prefectures of Hyogo, Okayama and Kagawa which face the northern sea area of Harimanada, this paper analytically describes the trends of catch quantity of aquatic life in the wide sea area and arranges the related environmental data. Along these lines, this study reports the case which decided on the fishing ground improvement plan on the basis of habitat network of marbled sole in the sea area of Harimanada. Key Words : Pleuronectes yokohame, habitat network, fishing ground improvement plan,harimanada 1. はじめに水産生物は広域を回遊するものや, 成長段階によって生息域を変えるものなど多様な生態をもってお, これらの資源回復, 漁場整備においては, 生物の視点に立った生息場のネットワークの視点からの取組みが必要である. そのためには, 従来の行政の枠組みを越えた広域的な海域管理が必要であ, 国および複数県が連携して事業を進めるための仕組みづくも課題となっている. また, 平成 21 年 8 月には水産庁よ今後の漁場整備の方向性について検討した海洋沿岸域における水産環境整備のあ方中間とまとめ 1) が公表された. この中間とまとめでは, 水産環境整備は生態系全体の底上げをめざし, 水産生物の動態, 生活史に対応した良好な生息環境空間を創出する整備とされ, その骨子として 1 環境基盤の重視と 2 点から空間へ,3 資源環境変動への対応が取上げられている. こうした背景をふまえ, 本調査では, 播磨灘北部海域に面する兵庫岡山香川県の 3 県が連携して実施する漁場整備をモデルケースとし, 広域的な水産生物の漁獲動向と関連する環境データを共に整理することによ, 播磨灘海域における複数県連携による漁場整備構想をとまとめた事例について, 検討内容および検討結果について報告する. 2. 調査内容本調査では以下の全体計画で進めてお, 現在進行中である ( 図 -1). また,1 事業の仕組み評価システムに関する検討,2 漁業環境情報の整理,3 現地調査の 3 課題を中心に検討を行った. また, 財団法人漁港漁場漁村技術研究所が事務局とな, 関係 3 県の行政担当者水 11

2 産試験場担当者および学識経験者を委員とする検討委員会を設け, 調査計画の立案, 調査の実施及び事業計画について, 情報を共有し, 承認を得ながら進めた. ガレイ, イシガレイを含む ), メバル, カサゴ等表 -1 対象種の候補 1 事業の仕組み評価システムに関する検討 1 調査範囲 2 対象魚種の考え方 3 施設整備に関する考え方 4 事業実施体制費用負担 5 効果判定 2 漁業環境情報の整理 1 環境情報理 ( 漁場環境漁業生産 ) 2 播磨灘海域の漁業の動向 3 対象種の選定 4 播磨灘における対象種の漁業生物情報 3 現地調査 1 聞き取調査 2 産卵場 3 稚魚の育成場 4 未成魚 ~ 成魚の生息場 5 施設整備に関する調査平成 18 年 ~ 21 年度平成 21 年 ~ 22 度度検討委員会の開催事業整備構想の策定個別事業計画の策定平成 23 年度 ~ 事業の実施図 -1 調査全体計画岡山県香川県 3. 調査結果兵庫県播磨灘徳島県図 -2 調査地点 (2) 事業実施体制事業実施体制については播磨灘全体の整備構想に沿って各県の役割分担を設定し, 各県が事業主体とな, 地域の特性に応じて計画策定および漁業調整を行う. (3) 便益の考え方既存の増殖場における便益算定の考え方は 1 餌料培養量から試算する方法 ( 岡山県香川県 ) と 2 生息密度差から試算する方法 ( 兵庫県 ) に大別された. 従来の方法を踏襲するか,3 県連携ということで統一的な便益を策定するか議論した結果, 各県毎に従来の方法を踏襲することになった. また, カレイ類のみの増産では, 便益が小さいことが予想されることから増殖場施設整備に付随して増産が見込まれる定着性魚種として, メバルカサゴ等の魚種も含めることとした. さらに事業効果に関する原単位については本調査によって得られた数値を参考とする. (4) 整備規模 3.1 事業の仕組み評価システムに関する検討 (1) 対象魚種の考え方播磨灘周辺における漁場造成対象種候補として以下の 21 種を挙げ ( 表 -1), 分布特性, 関係県の取組みについて整理した. これらのうち, 主要魚種については播磨灘海域を広く回遊し, 隣接県を越えて分布する魚種であ, かつ近年の漁獲量が減少している魚種とした. また, これらの増殖施設整備に付随して増産がみこまれる定着性魚類も主要魚種に含めることとし, 以下の種を選定した. 主要魚種 : マコガレイを中心としたカレイ類 ( メイタ現行の事業制度においては, 事業費 3 億円以上が補助事業の採択要件であ,3 県の総事業費が基準を満たすよう, 各県の整備規模を決める. (5) 事後調査事業実施後は効果判定を行い, 順応的管理の手法を導入して進めていく予定である. 効果判定のための調査内容や評価方法の統一さらに, 調査結果の共有に関しては, 今後の課題である. 12

3 3.2 漁業環境情報の整理既往知見から播磨灘海域の環境情報を整備して漁場基本図を作成した図-3 6 以下の項目について得られた情報は GIS ソフトを用いて可視化を行ったさらに対象生物の成長段階別分布を重ね合わせることによ海域の利用状況をとまとめたこれらの情報を収録した電子データを 3 県に配布し漁業者や行政への説明資料として活用した収録情報水深底質魚礁藻場干潟漁業権流況マコガレイの成長段階別分布漁場等図-6 流況 3.3 現地調査マコガレイについて既往知見を集めた結果成長段階における模式的分布鉛直分布についてはある程度の知見が集まったが播磨灘海域内における水平分布については十分な情報が得られなかったそこで現地調査によ成長段階別の分布を明らかにした 1 聞き取調査小型底曳網や刺網延縄等の漁業者を対象にカレイ類マコガレイメイタガレイイシガレイの成長段階別の分布漁期漁法について聞き取を行った表-2 図-3 水深表-2 聞き取調査票抜粋１マコガレイの成長段階別の分布状況について以下の項目について教えて下さい分布場所は別図に記入して下さい出現時期 13 底質漁法藻場の関係大きさ 20cm 未満 (産卵親魚) 20 30cm 30 40cm 40 50cm 稚魚期 (1 3cm) 図-4 底質図-5 藻場干潟場所水深産卵期 50cm 以上幼魚期 3 5cm (3 10cm) 5 10cm 未成魚期 10 15cm (10 20cm) 15 20cm 成魚期 20 30cm (20cm ) 30 40cm 40 50cm 50cm 以上

4 2 産卵場マコガレイの卵は直径約 mm の粘着沈性卵 2)であ岩礁帯近傍の砂泥底においてを産卵する 3) これらの産卵場を特定するために聞き取調査によって位置情報を収集した場所において卵を採取するとともに水深水質水温塩分底質(粒度組成強熱減量) 流況等の環境測定を実施したさらに産卵が確認された場所を整理し産卵場の環境条件についてとまとめた 3 仔魚マコガレイは産卵後孵化までに 10 日程度を要し孵化後約30日の浮遊期間を経て着底することが知られてい孵化仔魚の分布状況は卵稚仔ネットによる孵化仔魚る 4) の採取による実態把握とマコガレイ産卵場からの幼稚仔分散過程について瀬戸内海の流動モデルを適用してシミュレーション 5)を行った図-7 その結果播磨灘の産卵場で孵化したマコガレイ仔魚は一部海峡を越えて系外に流出するものを除けば播磨灘内に留ま着底するものと考えらたまた産卵場と着底場の結びつきについても明らかになった一例をあげると岡山県東部沿岸海域に着底するものは小豆島東部や淡路島南部等の離れた産卵場由来のものが多数を占めることが示唆された図-7 マコガレイ仔魚分散計算結果 4 稚魚着底マコガレイは 10ｍ以浅の砂泥底に着底することが知られているこのような立地環境を満たす既存の増殖場や周辺海域においてマコガレイの稚魚の密度や胃内容物餌料生物底質粒度組成強熱減量等について調査を実施したその結果構造物の直近では稚魚密度が高く滞在期間や食性に関する情報が得られたまた増殖場を整備する場合の原単位も算定した図-8 マコガレイの成長段階別分布 14

5 (5) 幼魚 ~ 成魚 ( 漁場への加入 ) 小型底曳網漁業者による標本船調査と調査船による底曳網の試験操業によって把握した結果, 着底後 6 月末 ( 水温 20 未満 ) までは 10~20m の浅海域に分布し, 大きな移動を伴わなかった.7 月になると 20m 以深の沖へ移動分散すると考えられた. これは水温 20 以上によ活性が高くなることによると思われる.8~9 月にかけて兵庫県沿岸域では, 水温 26 以上, 低酸素水域 (3mg/l 程度 ) を避けるように移動し, 環境条件の緩和される場所に高密度域を形成した.9~11 月は岡山県香川県沿岸域では, ほとんど確認されなかった. 一方, 兵庫県海域では, 姫路市 ~ 加古川市沿岸部の 20m 以浅において出現した.12 ~1 月になると兵庫県沿岸部に加え, 家島諸島や小豆島北部の産卵場周辺において出現が確認され, 密度も増加した. その後, 翌年 5 月頃に漁獲加入するものと考えられた. 以上から播磨長海域におけるマコガレイの成長段階別分布を作成した ( 図 -8). カレイ類についてカレイ類の増産のためには, 資源管理と増殖場造成を行う必要がある. 播磨灘全域でのマコガレイの成長段階別分布を考慮し, 海域の特徴を活かした役割分担と施設整備を行う. 産卵親魚保護, 育成場の整備, 高水温期の滞留場整備によ, 加入資源の増大を図る. なお, 浅海域への投石や魚礁設置によメバルカサゴ等の定着性魚類の保護育成も期待されることから, これらの生態にも配慮した構造や配置計画とする. 水産環境整備の視点の導入水産資源の回復増殖のためには対象種の増殖方策に加えて, 藻場干潟などの基礎生産の場の造成が必要であるとの観点から, 生態系全体の嵩上げに配慮し, 積極的に藻場や干潟の造成を行う. 4. 漁場整備構想の策定現地調査の結果をふまえ, マコガレイの成長段階別分布と予想される漁場整備内容について整理を行った ( 表 -3). 播磨灘では海域によって, 成長段階別分布が異なっているため, 必然的に漁場整備に求められる役割は県によって異なる ( 表 -4). 漁場整備構想の策定にあたっては以下の基本方針を確認した. 表 -3 整備内容 ( 案 ) 項目事業の必要性内容育成場整備稚魚の餌場隠れ場として重要な藻場干潟が埋立等によ減少した消失した藻場干潟と同等規模の面積を補填することは困難であ藻場が形成されないやや深い水深干潟造成藻場造成増殖礁設置投石帯にも育成場を新たに造成する人工魚礁等の設置によ小型底曳網の操業からマコガレイ稚魚を守る人工魚礁等の設置によメバルカサゴクロダイ等の増殖を図ることができる産卵場整備産卵場を造成し天然資源の嵩上げを図る投石高水温期の滞留場整備構造物を産卵場の外縁に設置し産卵親魚を小型底曳網から保護する夏季の高水温と貧酸素水塊によるマコガレイの減耗を防ぐために好条件の場所に滞留施設を造成し漁獲からの保護と餌料添加による成長を促す覆砂魚礁設置投石魚礁設置表 -4 各県海域におけるマコガレイの成長段階別分布産卵場稚魚幼魚 ~ 未成魚成魚 ( 漁場 ) 兵庫県海域岡山県海域なし香川県海域 : 多く分布 : 普通に分布 : 少ない分布謝辞本調査は水産庁水産基盤整備調査委託事業複数県における総合的な漁場整備手法開発調査の一部をとまとめたものであ, 調査の実施にあた協力頂いた地元漁業協同組合の皆様や 3 県の関係者各位にこの場を借てお礼申しあげる. 参考文献 1) 水産庁ホームページ : o.html 2) 岩井保 : 水産脊椎動物 Ⅱ 魚類, 恒星社厚生閣, 東京,pp , ) 反田實長井隆一 : 播磨灘北部におけるマコガレイの産卵場, 水産海洋研究, 第 71 巻, 第 1 号,pp.29-37, ) 南卓志 : マコガレイの初期生活史, 日本水産学会誌, 第 47 巻, 第 11 号,pp , ) 中山哲嚴八木宏藤井良昭伊藤靖三浦浩安信秀樹杉野博之山田達夫 : 瀬戸内海全域を対象とした流動低次生産モデルの開発及びマコガレイ幼稚仔分散過程への適用, 土木学会論文集 B2( 海岸工学 ),volb2-65,no.1, pp ,

2.2 効果検証の考え方海域全体の生産力の底上げ効果の検証にあたっては, 水産環境整備を実施している調査海域において, 漁場施設等の基盤整備による生態系ピラミッドを想定し, 上位の階層にあたる 1 漁獲対象となる魚類の増加を評価する従来型の方法に加え, 上位の階層を支える環境基盤にも着目し,2 漁

2.2 効果検証の考え方海域全体の生産力の底上げ効果の検証にあたっては, 水産環境整備を実施している調査海域において, 漁場施設等の基盤整備による生態系ピラミッドを想定し, 上位の階層にあたる 1 漁獲対象となる魚類の増加を評価する従来型の方法に加え, 上位の階層を支える環境基盤にも着目し,2 漁水産環境整備マスタープランの効果検証に関する一考察 ~ 播磨灘海域における適用例 ~ Consideration on the Verification of the Effect of the Master Plan for Development of Fishery Environment - An Application Case to the Sea of Harimal 三浦浩 * 伊藤靖