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8 A B B B B B B B B B 175

別紙様式 (Ⅴ)-1-3で補足説明している 掲載雑誌は 著者等との間に利益相反による問題が否定できる 最終製品に関する研究レビュー 機能性関与成分に関する研究レビュー ( サプリメント形状の加工食品の場合 ) 摂取量を踏まえた臨床試験で肯定的な結果が得られている ( その他加工食品及び生鮮食品の場合

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スライド 1

Transcription:

ランダム化比較試験によるカルシウムの骨粗鬆症予防効果の解明 新潟大学大学院医歯学総合研究科地域予防医学講座社会 環境医学分野 : 中村和利新潟医療福祉大学健康科学部 : 斎藤トシ子 要旨カルシウムは日本人に不足している最も代表的なミネラルであるが 日本人閉経後女性のカルシウム低摂取の骨への悪影響を明らかにした疫学研究は少なく 介入研究は見られない 本研究の目的は ランダム化比較試験 (RCT) のデザインを用いて カルシウム摂取量増加の骨量低下抑制作用を明らかにすることである 閉経後女性 450 人のボランティアを募り 次の3 群のいずれかにランダムに割り付けた すなわち 1) カルシウム250mg/ 日を服用する群 (150 人 ) 2) カルシウム500mg/ 日を服用する群 (150 人 ) 3) プラセボを服用する群 (150 人 ) である 予定通り 450 人のボランティア参加者を集めて 介入試験を開始した 2008 年 11 月にベースライン医学検査を行ない 2009 年 11 月に1 年後中間検査を行なった アウトカムは腰椎および大腿骨頸部骨密度 血中副甲状腺ホルモン濃度 オステオカルシン濃度 ( 骨形成の指標 ) Type I collagen crosslinked N-telopeptides 濃度 ( 骨吸収の指標 ) であった ベースラインにおける参加者のカルシウム摂取量の平均値は490mg/ 日であった 中間医学検査では 425 人 (94.4%) が参加し この時点で 錠剤の服用を中止するとした者は28 人 (6.6%) であった 2010 年 11 月に最終検査を行なう予定であり 高い参加率が期待される キーワード : 介入試験 カルシウム 骨粗鬆症予防 骨密度 閉経後女性 1 緒言カルシウムは 日本人に不足している最も代表的なミネラルであり その十分な摂取が推奨されている 平成 18 年国民健康 栄養調査によると 閉経後女性 (50~69 歳 ) のカルシウム摂取の平均値は561mg/ 日 1) であり 2010 年版日本人の食事摂取基準 2) における同年代のカルシウム摂取推奨量の650mg/ 日より明らかに少ない しかしながら 日本人閉経後女性のカルシウム低摂取の骨への悪影響を明らかにした疫学研究は少なく また介入研究は皆無であり カルシウム摂取と骨の健康に関して日本人を対象としたエビデンスはほとんどないのが現状である 2) 本研究の目的は ランダム化比較試験 (RCT) のデザインを用いて カルシウム摂取量の増加は閉経後女性の骨量低下抑制に効果があるのか あるとすればどの程度のカルシウム摂取量増加が有効か を明らかにすることである 今回は 本 RCTの基本デザインを提示し ベースライン調査および1 年後中間検査の結果を基に本研究集団の特性を明らかにする なお RCTの厳密性を保つため 中間時点における3 群間の比較解析は行わない 2 対象と方法 2.1 研究デザイン研究デザインは プラセボを用いた2 重盲検ランダム化比較試験 (RCT) である 本研究は臨床試験登録システム (UMIN-CTR) に登録済みであり UMIN000001176のIDを取得している イン - 54 -

フォームドコンセントは書面でとった 本調査研究計画は新潟大学医学部倫理委員会の承諾を得た 2.2 対象者 50~74 歳の女性 450 人を対象とし 新潟県内在住の栄養士 食生活改善推進委員 JA 女性部より 本研究の趣旨を十分理解したうえで対象者となることに協力する者を募った 除外基準はカルシウムサプリメント使用者 骨粗鬆症治療薬服用者 ステロイド剤服用者 内分泌疾患有病者 悪性腫瘍有病者 尿路系結石の既往のある者とした 最終的に450 人の参加者を得た 2.3 研究期間 2008 年 11 月 9 日から20 日にベースライン調査を行い 基本属性 栄養評価 ( カルシウム摂取量など ) 医学 血液生化学検査を行った 介入継続期間は2 年とした 2009 年の11 月には中間医学検査を 2010 年の11 月には最終医学検査を行い 最終結果報告を行う 2.4 介入対象者 450 人を次の3 群のいずれかにブロックランダム法によりランダムに割り付け それぞれの錠剤 (5 錠 / 日 ) を毎日服用することとした すなわち 1) カルシウム250mgを服用する群 (150 人 ) 2) カルシウム500mgを服用する群 (150 人 ) 3) プラセボを服用する群 (150 人 ) である ランダム化において層化は行わなかった カルシウムを含む錠剤は炭酸カルシウム剤として作成した ( アピ ( 株 ) 岐阜) 服用は食事と共に行なうこととした 5 錠の介入用錠剤をどのように服用するかについては 原則として各自の自由とし ライフスタイルに合わせて服用することとしたが 一日 2 回または3 回に分けて服用することが望ましいと伝えた 介入用錠剤のコンプライアンスは残薬により評価することとした 2.5 アウトカム以下の項目につき 2 年間の変化率をアウトカムする すなわち 骨粗鬆症関連マーカーとしての腰椎および大腿骨頸部骨密度 (BMD) 血中副甲状腺ホルモン濃度(Intact PTH: 低カルシウム摂取による二次性副甲状腺機能亢進症の指標 ) オステオカルシン(OC) 濃度 ( 骨形成の指標 ) Type I collagen cross-linked N-telopeptides(NTX) 濃度 ( 骨吸収の指標 ) である 2.6 ベースライン医学検査ベースラインにおける対象者の基本属性 生活習慣情報の把握のための面接および医学検査は 新潟県内の11 会場 ( 糸魚川市 上越市 妙高市 十日町市 南魚沼市 魚沼市 長岡市 三条市 新潟市 新発田市 村上市 ) において 2008 年 11 月の12 日間に行った 面接では 基本属性の他 病歴 職業 嗜好品 カルシウム摂取量 活動量に関する情報を得 3) た カルシウム摂取量の評価には 半定量的食物摂取頻度調査法であるUenishiらの方法を用いた 日常の活動量については 以下の活動を1 週間に少なくとも1 回行うかどうかを聞き取った 1) 軽度の運動 ( たとえば ゲートボール 散歩など ) 2) 中等度の運動 ( たとえば 畑仕事 庭仕事など ) 身長と体重は それぞれ1mmおよび100gの単位まで測定した 体重 (kg) を身長 (m) の二乗で - 55 -

除し ボディーマスインデックス (BMI) を算出した 左右の握力はデジタル握力計で測定した 腰椎 (L2-4) と大腿骨頸部の骨密度は QDR4500a (Hologic Inc., Bedford, MA, USA) を用いて DEXA 法により測定した 空腹時血液を採取した ( 採血は日中 ) 採血後 血液を直ちに4 Cで保管し 3000rpmで10 分の遠心により血清を分離した 血清は生化学分析を行うまで-80 Cで保存した 血液生化学検査は BML 社に依頼した 血中 Intact PTHはtwo-site immunoradiometric assay (Nichols Institute Diagnostics, San Clemente, CA, USA) で測定した 血中 OC は immunoradiometric assay (Mitsubishi Kagaku Medical, Inc., Tokyo, Japan) で測定した 血中 NTXは enzyme-linked immunosorbent assay ( Osteomark NTX Serum, Ostex International, Inc., Seattle, WA, USA) で測定した 2.7 中間医学検査 1 年後の中間医学検査は2009 年 11 月の12 日間に ベースライン検査と同じ会場で行った 骨密度および血液検査については ベースラインと全く同じ要領で同じ項目の測定を行なった 面接では 過去一年間の体調について尋ねた 2.8 サンプルサイズの妥当性アジア人 ( マレーシア人 ) においてカルシウム1000mgを付加した縦断研究では 介入群と非介入群の2 年間の大腿骨頸部骨密度変化の差は平均で約 2%( 標準偏差 4.7~5.0%) であった 4) これより 検出力 (1-β)=90% 有意水準 α=0.05( 両側 ) でこの骨密度の差を検出するには 両群で84~131 例必要と算出される 4) この数字は 途中の脱落を考慮した本研究の対象者数と同等と考えられる 実際 過去の同様なRCT(2 年間 ) においても 1つの介入群において50~100 例で行なわれていることが多い また 本研究は 骨密度の2 年間 (2 点 ) の変化の差を見るのではなく 2 年間に3 回骨密度を測定し その変化率をエンドポイントとする これは 単純な 2 点の差より精度がより良いため より大きい検出力が得られる 2.9 統計解析連続変数については その正規性を確認した 血中 NTXおよびIntact PTHは正規分布しなかったため 有意差検定の際に自然対数変換を行って解析した 2 分位変数である活動量に関して 活動をしている場合は1 していない場合は0とコードした 2つの連続変数の平均値の差の検定にはt- 検定を用いた カルシウム摂取の四分位群とアウトカムとの関連の傾向を見出すため 重回帰分析を用いた ベースラインと中間医学検査の変化の検定には 対応のあるt- 検定を用いた 統計解析ソフトはSASを用いた (SAS Institute Inc., Cary, NC, USA). 有意水準 0.05 未満の場合に有意差ありとした 最終結果の統計解析では Intention-to-treatおよびPer protocolの両方において 3 群の骨密度低下率およびその他の結果指標の変化率を分散分析により解析する予定である - 56 -

3 結果ベースライン医学検査における参加ボランティア450 人の特性を 過去に行った疫学調査 ( 横越研究 5) ) における閉経後女性の集団の結果と比較して表 1に示した 本研究の参加ボランティア集団は 一般地域住民集団と比較し3.8 歳若く BMIは小さい傾向にあった 中等度の運動を行っている人の割合は一般地域住民集団より高く そのためか 握力 骨密度とも高い傾向にあった カルシウム摂取量の分布を図 1に示した カルシウム摂取量は一般集団より少なかった ベースラインにおけるカルシウムの栄養状態を評価する目的で カルシウム摂取量と各アウトカムとの関連性を分析した ( 表 2) カルシウム摂取量と年齢には有意な正の関連 カルシウム摂取量とBMIには有意な負の関連が見られた 中間医学検査では 425 人 (94.4%) が参加した 425 人の検査結果およびベースライン検査からの変化を表 3に示した 体重は有意に増加していたが 大腿骨頸部 BMD 腰椎 BMD 血中 OC 濃度は有意に低下していた 中間医学検査の時点で 錠剤の服用を中止すると申告した者は28 人 (6.2%) であった 4 考察著者らは 本邦初の閉経後女性カルシウム付加の骨への影響を明らかにするRCTを計画し 計画通りに450 人の参加ボランティアを集め ベースライン医学検査を行なった また 1 年後のドロップアウト率も6.2% と非常に少なかった 最終検査においても高い参加率が期待される 今回 1 年後の中間医学検査を行なったが RCTの厳密性を保つため 介入 3 群間の中間比較解析は行わなかった 仮に中間解析を行って研究者の予想した結果となっていれば問題ないが 予想されない結果がでた場合 研究者による公平な介入が損なわれる可能性が否定できないからである 同様の理由で 介入 3 群間のベースラインの特性も比較を行なわなかった これらは 厳密なRCTを遂行する上で非常に重要な要素であると考えている これまでの観察型疫学研究では カルシウム摂取と骨粗鬆症に関する諸問題を解決できていない その理由はカルシウム摂取量を正確に評価できないことに尽きる 本介入研究は この点を克服するものである 本研究の最大の特色は カルシウム低摂取集団である日本人における世界で初めてのカルシウム付加のRCTであると共に プラセボを用いることによる科学的厳密性である 欧米諸国では すでに ( サプリメントによる ) カルシウム付加の骨量低下抑制効果に関する RCTが複数行なわれている システマティックレビューによると カルシウムのみの付加 (1000 ~1200mg/ 日 ) に閉経後女性の骨量低下予防効果はないと結論づけている 6) しかしながら この結論はカルシウム摂取量が日本人より明らかに多い欧米白人のRCTより得られたものであり カルシウム摂取量が少ない日本人には適用できない いくつかの観察研究では 日本人のカルシウム低摂取者における骨代謝異常が認められるからである 例えば カルシウム摂取量が日本人の平均値以下の閉経後女性の腰椎圧迫骨折発生のリスクは 平均値以上の女性より約 2 倍高いこと 7) さらにカルシウム低摂取群では骨質が低下していること 8) が報告されている このような現状において 日本人の骨粗鬆症予防におけるカルシウム摂取増加の効果を介入研究によって解明することは非常に重要であり 日本人の食事 生活習慣に見合ったカルシウム摂取増加量を提案することが求められている 介入によるカルシウム摂取増加の骨量低下抑制または骨代謝改善効果が明らかになれば 乳製 - 57 -

品をはじめとしたカルシウム含有食品摂取増加の有用性を支持することになる RCTである本研究より得られる結果は 単独の研究としては最も高いレベルのエビデンスを提供し得る 現在の食事摂取基準は十分なエビデンスに基づいているとは言えない現状であり 2) 本研究により食事からのカルシウム摂取量の低い日本人を含むアジア人の新しい食事摂取基準の基礎データとなる 仮に250mg/ 日 ( 牛乳約 1 本分のカルシウム ) または500mg/ 日 ( 牛乳約 2 本分のカルシウム ) のカルシウム摂取量増加に骨密度低下抑制効果が示されれば それはカルシウム摂取量の少ないアジア人におけるグローバルスタンダードとなるであろう 5 おわりに著者らは 本邦初の地域住民を対象としたカルシウム付加のRCTを計画し 予定通り450 人の閉経後女性ボランティアを集め 介入試験を開始した 1 年後の中間点では 94.4% の高い参加率を得た 2 年後の最終検査においても高い参加率が期待される 6 謝辞本研究を遂行するにあたり 助成をいただきました社団法人日本酪農乳業協会に深謝いたします 7 参考文献 1) 健康 栄養情報研究会. 国民健康 栄養の現状 : 平成 18 年厚生労働省国民健康 栄養調査報告より. 東京 : 第一出版, 2009. 2) 厚生労働省 日本人の食事摂取基準 (2010 年版 ) 東京: 厚生労働省, 2009. 3) Uenishi K, Ishida H, Nakamura K. Development of a simple food frequency questionnaire to estimate intakes of calcium and other nutrients for the prevention and management of osteoporosis. J Nutr Sci Vitaminol 2008;54, 25-9. 4) Chee WS, Suriah AR, Chan SP, et al. The effect of milk supplementation on bone mineral density in postmenopausal Chinese women in Malaysia. Osteoporos Int 2003,14:828-34. 5) Nakamura K, Tsugawa N, Saito T, et al. Vitamin D status, bone mass, and bone metabolism in home-dwelling postmenopausal Japanese women: Yokogoshi Study. Bone 2008;42:271-7. 6) Standing Committee on the Scientific Evaluation of Dietary Reference Intakes, Food and Nutrition Board, Institute of Medicine. Dietary Reference Intakes for Calcium, Phosphorus, Magnesium, Vitamin D, and Fluoride. Washington, DC: National Academy Press, 1997. 7) Nakamura K, Kurahashi N, Ishihara J, et al. Calcium intake and the 10-year incidence of self-reported vertebral fractures in women and men: the Japan Public Health Centre-based Prospective Study. Br J Nutr 2009;101:285-94. 8) Nakamura K, Saito T, Yoshihara A, et al. Low calcium intake is associated with increased bone resorption in postmenopausal Japanese women: Yokogoshi Study. Public Health Nutr 2009;12:2366-70. - 58 -

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1 (n=450) (n=600) 59.7* 5.9 63.5 5.8 49.9* 4.0 51.0 8.3 (cm) 153.6* 5.3 150.7 5.5 (kg) 53.4 7.5 53.1 8.3 BMI(kg/m 2 ) 22.6* 3.0 23.4 3.5 (kg) 25.6* 3.7 23.2 3.9 (mg/ ) 490* 130 527 160 BMD(g/cm 2 ) 0.691* 0.097 0.668 0.094 BMD(g/cm 2 ) 0.906* 0.153 0.846 0.147 Intact PTH(pg/ml) 43.1* 14.9 40.0 13.2 OC(ng/ml) 8.1* 2.2 9.9 4.0 NTX(nMBCE/l) 17.5* 5.4 21.0 6.5 98.9%* - 95.3% - 43.2% - 41.7% - 78.2%* - 49.7% - *P<0.05 BMI BMD Intact PTH OC NTX type I collagen cross-linked N-telopeptides - 60 -

mg/ mg/ Q1(<403) Q2(403-487) Q3(488-578) Q4( 578) P * 57.6 59.6 59.7 61.8 <0.0001 (kg) 54.4 53.1 54.0 52.0 0.1292 BMI(kg/m 2 ) 22.8 22.6 22.9 22.2 0.0478 (kg) 25.7 25.4 26.0 25.3 0.3896 BMD(g/cm 2 ) 0.700 0.688 0.695 0.682 0.7258 BMD(g/cm 2 ) 0.909 0.900 0.905 0.909 0.1103 Intact PTH(pg/ml) 43.0 43.6 41.3 44.5 0.9719 OC(ng/ml) 8.2 8.1 8.2 8.0 0.5712 NTX(nMBCE/l) 17.5 18.2 16.9 17.3 0.3185 * BMI BMD Intact PTH OC NTX type I collagen cross-linked N-telopeptides (n=425) P- (kg) 54.4 7.6 +1.0 1.6 <0.0001 (kg) 25.8 3.7 0.0 2.1 0.7106 BMD(g/cm 2 ) 0.678 0.094-0.014 0.024 <0.0001 BMD(g/cm 2 ) 0.890 0.146-0.018 0.027 <0.0001 ipth(pg/ml) 41.8 13.9-0.9 10.7 0.0704 OC(ng/ml) 7.6 2.5-0.5 1.9 <0.0001 NTX(nMBCE/l) 17.5 6.2 +0.1 4.3 0.7183 BMD ipth OC NTX type I collagen cross-linked N-telopeptides - 61 -