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歴史都市防災論文集 Vol. 9(2 年 7 月 ) 論文 高山町家の構造的特長を生かした耐震補強設計法の開発 Development of Seismic Reinforcement Design Method for Traditional Wooden Houses by Taking Advantage of Structural Features in Takayama Area 佐藤英佑 向坊恭介 2 鈴木祥之 3 Eisuke Sato, Kyosuke Mukaibo and Yoshiyuki Suzuki 立命館大学客員研究員, 衣笠総合研究機構 ( 2-877 滋賀県草津市野路東 --) Visiting Researcher, Ritsumeikan University, Kinugasa Research Organization 2 木四郎建築設計室 ( 6-8 京都市東山区小松町 48-) Staff, Kishirou Architectural Design 3 立命館大学教授, 衣笠総合研究機構 ( 2-877 滋賀県草津市野路東 --) Professor, Ritsumeikan University, Kinugasa Research Organization In Takayama City, a large number of traditional wooden houses still exist and make regionally distinctive townscape. They are called Takayama-machiya. To clarify structural features of Takayama-machiya houses, structural detailed investigations were carried out. Based on the investigations, it is pointed out that traditional wooden houses have some problems on seismic performance and need some reinforcements. Therefore, it is necessary to establish a seismic reinforcement design method suitable for Takayama-machiya houses. In this paper, a case study of seismic reinforcement design is conducted for a typical two-storied Takayama-machiya. The proposed seismic reinforcement design method is useful and reasonable by taking advantage of structural features on traditional wooden houses. Keywords : Traditional wooden houses, seismic reinforcement method, seismic performance, Takayama-machiya. はじめに岐阜県高山市は 重要伝統建造物保存地区に指定されている三町および下二之町大新町をはじめ市内に伝統構法木造建築物が多く現存している これら建築物は地域特有の町並み景観を形成するとともに歴史的 文化財として高い価値があり 保存継承することは重要である このような観点から詳細な構造調査を実施した結果 多くの建築物では耐震安全性 耐久性などの問題を抱えており 劣化した木部補修を含む耐震改修が急務とされた そこで 高山市独自の高山市伝統構法木造建築物耐震化マニュアル ) が作成された 現在 木造建築物は在来工法などを対象とした壁量計算による耐力重視の耐震設計や耐震補強がなされる場合が多い 一方 伝統構法による木造建築物は高い変形性能を有しており この変形性能を生かした耐震設計 耐震補強が合理的であり かつ有効である そのため 伝統構法木造建築物が本来有している高い変形性能を生かした限界耐力計算による耐震設計 耐震補強設計マニュアル 2) があるが 設計用復元力や地震応答計算など計算を容易にするために簡略化しており 高山町家特有の構造的特長を考慮できない 本論文では 限界耐力計算を改良した近似応答計算による耐震性能評価法を導入することで各層の応答値の精度を高め 高山町家が持つ構造的特長モデル化し 耐震性能を精度よく評価可能とする耐震補強設計法を開発した ここでは 高山町家として典型的な一列型町家を対象にして 多雪区域である高山市の積雪荷重を考慮するとともに 階と 2 階の応答変位のバランスや偏心率を改善する耐震補強設計の事例を示す 2. 高山町家の意匠的 構造的特長 高山町家は切妻造り平入りの総二階建てで 屋根は金属板葺きで屋根勾配は緩く 軒の出は深く前面に板

止めを備え 一階正面は 一般的に入り口の大戸や出格子付きの腰付障子が設けられ 上部に出の小さい小庇を付ける 2 階の柱間には板連子又は板格子をはめ 一部を顕し貫付きの土壁とする このような町家が街路沿いに建ち並ぶことで町並みに統一感のある外観構成となっており 景観的価値を生みだしている 平面形状での特徴として どじ ( 通り土間 ) と言われる玄関から裏へと土間が通り その どじ に沿って部屋が正面から裏へ 列に配置する一列型 2 列配置の二列型 数は少ないが 3 列の三列型もある 2 階は吹抜を挟み みせ 2 階と奥座敷が設けられている 中央部の おえ だいどこ どじ の上の小屋組を顕しにした吹き抜けの大空間にして 高窓から光を取り入れ 柱や梁等の豪壮かつ整然とした構造美を見せる ( 写真 ) 建築意匠的および建築技術的な建築的価値は 外観よりもむしろ内部の吹き抜けの大空間にあり 町家の立面意匠を残すことは景観保存上重要であるが この吹き抜け大空間を残すことも大きな意義がある 構造的には 高山町家は通り沿いに連なり 隣家との距離がほとんどないため 張り間方向の妻壁は概ね全面壁である 一方 けた行方向には 2 階吹き抜け空間の周囲以外には壁などの耐震要素が少なく 特に 階には壁がほとんどない耐震上の弱点を有している 主要な耐震要素は 伝統的な土壁や板壁と差鴨居 貫など柱 - 横架材であり 筋かいなどの斜材は使われていない 土壁の構造的特徴として 小舞は竹ではなく ススキが大半であるが 一般的な竹小舞仕様とは耐震性能はほとんど変わらないことが実験で確認されている 3) 屋内の間仕切り壁では 両面中塗り仕上げ もしくは聚楽風の上塗り仕上げで 壁厚は mm~6mm である 外壁 ( 妻壁 ) では 妻壁の外壁側は裏返しや中塗りなどをせず外装材だけであることが多い 壁厚は 4mm~mm 程度である 2 階正面や 2 階吹き抜け空間の周囲などには 貫が土壁の下地材としてではなく 顕しで用いられており ( 写真 ) これは高山市の伝統構法木造建築物の意匠上の特徴のひとつと言える 顕しの貫は厚さ 3mm せい mm~2mm 程度である 貫の厚さが 3mm あるので 柱を貫通する通し貫写真 大きな吹き抜け空間と顕しのである場合には 復元力が期待できる 貫を有する土壁 ( 宮地家 ) 土壁と板壁を複合した特徴的な壁が どじ の外壁側の壁に多く見られる ( 写真 2) 板壁単体の使用例はほとんど無く 写真 2 のように土壁 ( 垂れ壁 ) の下部に板壁 ( 腰壁 ) となる複合壁である 板壁は薄板を使用しており 構造上の耐力はない 板壁部の内部は裏返しのない土壁の場合もみられるが 貫のみや貫 小舞下地のみで土壁はないものが多い 主要な仕口接合部は 解体材および現地調査 地元の棟梁からの聞き取りによれば 通し貫 小根ほぞ込み栓打ちまたは追入小根ほぞ車知栓打ち 長ほぞなどである 3. 高山町家の耐震診断 耐震補強事例高山町家として一般的な一列型町家である宮地家住宅 ( 高山市指定有形文化財 )( 写真 3) の耐震診断 耐震補強設計の事例を示す 耐震性能の評価法として 限界耐力計算を改良した近似応答計算を用いて 高山町家の構造的特長を生かし 多雪区域である高山市の積雪荷重を考慮して耐震診断 耐震補強設計を行う 写真 2 土壁と板壁を複合した特徴的な壁 ( 宮地家 ) 3. 耐震診断 () 構造概要図 に現況の構造平面図を示し 図 2に構造軸組図を示す 金属板葺き切妻平入りの2 階建てで X 方向 ( けた行方向 ) 約 m Y 写真 3 宮地家住宅の外観 2 6

方向 ( 張り間方向 ) 約 6.mの一列型の町家である 平面図および軸組図には各階の主たる構造要素である壁の仕様および各構面の構造要素とみなす横架材および柱ほぞ位置を示す 当該建築物はX 方向両妻面に全面壁が配置されているが Y 方向の構造要素が少ない 表 に構造階高および床面積を示し 表 2に地震応答計算に用いる建築物重量を示す 各層の重量は建築物重量を図 3に示す領域で配分した 2 階の構造階高は軒高の平均とした 固定荷重 Gは当該建築物での実測調査 日本建築学会荷重指針 4) 建築基準法( 以降 建基法 ) 施行令第 84 条などに基づいて実況に応じて単位重量を設定した 積載荷重 Pは建基法施行令第 8 条に従い 単位重量 6N/mm 2 とした 積雪荷重 Sは建基法施行令第 86 条に従い 垂直積雪量 2cm 単位重量 3N/cm/mm 2 とし 地震時の積雪荷重は.3Sとした にはろ 82 249 3 96 83 柱 法表記無 :2 2 : 通し柱 W2 W2 W2 W2 通り路地 外どじ 内どじ 4 みせ おえ 奥の間 い W2 W2 W2 W2 W2 W2 W2 38 38 82 82 88 87 99 943 9 にはろい 83 82 3 96 W 277 364 88 363 363 W2 W2 W2 W2 W2 W2 W2 押 床脇 床の間 W W 4 吹抜 みせ2 階 廊下 DN HW W (h=) W2 W2 W2 W2 W2 W2 W2 38 38 82 82 88 87 99 W W 2 2 ( 細く加 ) 座敷 (h=4) (h=4) Y( けた 向 ) X( 張り間 向 ) a) 階平面 b) 2 階平面 図 構造平面図 ( 現況 ) W: 全 壁 (t=6) HW: 壁垂壁 (t=6) W2: 全 壁 (t=3) SW: 壁腰壁 (t=6) : 構造壁 : 壁 : 構造壁 2.6 23 39 38 38 2.8 94 88 87 99943 277 82 82 444 4 4 4 94 軸組図い通り 2.6 23 39 38 38 2.8 94 88 87 99943 277 82 82 444 4 4 4 94 軸組図ろ通り 2.6 23 39 38 38 2.8 94 88 87 99943 277 82 82 444 4 4 4 94 軸組図は通り 2.6 23 39 38 38 2.8 94 88 87 99943 277 82 82 444 4 4 4 94 軸組図に通り い 39 83 ろはにい 3 96 82 249 軸組図 通り 236 83 ろはにいろはにい 8 9 82 249 軸組図 2 通り 34 8 83 82 249 図 2 構造軸組図 ( 現況 ) 顕し貫 9 3 8 9 軸組図 4 通り 9 4 83 ろはに 8 9 82 249 軸組図 通り 3 7

復元力特性算定に用いる各構造要素の復元力モデルは文献 2) に従い求めた 土壁 : 両妻側の土壁は裏返し無しの片面塗りのため 壁厚 4mmに対し構造要素として有効な壁厚を 3mmとして算定した なお に通りの板壁の内部に土壁があるため全面壁として復元力を算定した X 方向の土壁は壁厚 6mmとして復元力を算定した ろ通り2 階の土壁は 左右ともに支持柱が無く 下部梁の端部の拘束力が小さいと推測されるため 耐震要素とせず 重量のみ加算する ( 壁厚 4mm) 2 柱ほぞ : 通りの柱ほぞのみ長ほぞ ( 強軸方向 :Y 方向 ) として評価し その他の柱ほぞは加算しない 3 横架材ほぞ : 柱 - 横架材仕口は 通しほぞ車知栓打ちと仮定して加算する 4 顕し貫 :2 階 4 通り-ろ~は通りの土壁面の顕し貫は 土壁内の貫に比べて断面が大きく (3mm 9mm) めり込みによる抵抗が期待できる ろ通り は通り両端大入れの通し貫として復元力を算定した ) 図 4に復元力特性を示す X 方向 Y 方向ともに 2 層に比べて 層の水平耐力が低く 両方向で 層先行降伏となる可能性が高く 特にY 方向でその傾向が顕著である 表 構造階高および床面積 階高 [m] 床面積 [m 2 ] 備考 2 階.66.7 階 2.3 7.98 2 2 固定荷重 G (kn) 吹抜け部.69m 2 土間部.4m 2 2 層 層 2 2 2 層壁重量算定部分 層壁重量算定部分 図 3 壁重量の振り分け 表 2 地震応答計算用建築物重量 ( 現況 ) 積載荷重 P 積雪荷重.3S 地震応答計算用建物重量 (kn) (kn) 積雪.2m 想定 (kn) 積雪無 G +P 積雪.2mG +P +.3S 2 層 66.3. 96.3 66.3 62.6 層 68. 3.9 3.3 99. 2.3 2 層 + 層 34.4 3.9 99.6 6.3 264.9 2 層 層 F 構造階 2F 構造階 8 4 R(rad)..2.4.6.8. 8 4 R(rad)..2.4.6.8. a) X 方向 ( 張り間方向 ) b) Y 方向 ( けた行方向 ) 図 4 復元力特性 ( 現況 ) (2) 近似応答計算結果表 3 図 に近似応答計算の結果を示す クライテリアの検定に用いる損傷限界変形角 ( 稀に発生する地震動に対する応答許容値 ) を/9rad 安全限界変形角( 極めて稀に発生する地震動に対する応答許容値 ) を /2rad( 積雪時 :/rad) とした 近似応答計算に用いる入力加速度は平成 2 年建設省告示 46 号の加速度応答スペクトルを用いた 地盤増幅率は同 47 号に基づき設定し 防災科学技術研究所により公開された表層 3mの平均 S 波速度を基に設定した 高山市伝統建造物群保存地区の表層 3mの平均 S 波速度は約 4m/sで第 種地盤に近く 第 種と第 2 種の中間の値 ( 第. 種 ) とした 地域係数 Z =. 調整係数 p =.8 q =. とした 近似応答計算は 階の変形を各ステップの基準とし 同ステップにおける2 階の変形と剛性が一致するよう 収斂計算を行った 減衰評価は各階ごとに減衰を求め モードエネルギーで重みづけをしたモード減衰で評価した その際 損傷限界角以下の変形時には履歴吸収エネルギーをとして減衰定数を算定した 表 3 中の応答値は 前述図 4の復元力特性から建築物の自重による水平力の見かけ上の耐力低下 (P-Δ 効果による耐力低下 ) を考慮した復元力特性を用いた近似応答計算の結果を示している X 方向 Y 方向ともに 階が大きな応答値を示しており 稀に発生する地震動時にY 方向 階が設計クライテリアを大きく上回り 積 4 8

表 3 近似応答計算結果 ( 現況 ) 方向 P-Δ 効果による稀に発生する地震動時極めて稀に発生する地震動時付加曲げ成分考慮積雪なし積雪.2m 積雪なし積雪.2m 等価固有周期 T eq (sec.).23.769 *** 4.634 X 方向 減衰定数 h =h eq +h (%).. ***. ( 張り間方向 ) 加速度増幅率 G s..69 ***.69 自由度系応答変形角 (rad.) / 226 / 2 / *** / 7. 2 階応答変形角 (rad.) / 39 / 2 / *** / 3. 階応答変形角 (rad.) / 9 / / *** / 3.4 クライテリアの検定 OK OK NG NG 等価固有周期 T eq (sec.).797 *** *** *** Y 方向 減衰定数 h =h eq +h (%) 9.9 *** *** *** ( けた行方向 ) 加速度増幅率 G s.69 *** *** *** 2 2 自由度系応答変形角 (rad.) / 63 / *** / *** / *** 2 階応答変形角 (rad.) / 283 / *** / *** / *** 階応答変形角 (rad.) / 49 / *** / *** / *** クライテリアの検定 NG NG NG NG 応答変形角の *** は応答値なしを示す 2 P-Δ 考慮 P-Δ 考慮 復元力特性復元力特性 極極 2 8 4..2.4.6.8. 8 4..2.4.6.8. 2 2 8 a) X 方向 ( 張り間方向 ) 積雪無 b) Y 方向 ( けた行方向 ) 積雪無 P-Δ 考慮 2 P-Δ 考慮復元力特性 復元力特性極極 2 8 4..2.4.6.8. 4..2.4.6.8. c) X 方向 ( 張り間方向 ) 積雪.2m d) Y 方向 ( けた行方向 ) 積雪.2m 図 近似応答計算結果 ( 現況 ) 雪時に層崩壊を生じる恐れがある 極めて稀に発生する地震動時は応答値なしで 倒壊の危険性がある 3.2 耐震補強の検討 () 耐震補強計画概要図 6 7に耐震補強後の構造平面図および構造軸組図を示す X 方向 Y 方向ともに耐震補強として乾式土壁パネルまたは板壁を増設する 乾式土壁パネルは土壁に比べて単位面積重量が小さく 最大耐力以降の荷重低下が少なく 靱性に優れた耐震要素である 6) 当該建築物は土壁が主たる構造要素であり 最大耐力以降の荷重低下が大きいため 妻面の壁の一部を土壁から乾式土壁パネルに変更した また 梁桁スパンが大きく鉛直荷重支持が厳しいと思われる箇所へ柱を増設する 表 4に地震応答計算に用いる耐震補強後の建築 9

物重量を示す 固定荷重 Gは土壁の一部を乾式土壁パネルに変更することにより耐震補強前と比較して建築物全体で約 % の重量低減となった 図 8に耐震補強後の復元力特性を示す 復元力特性は前述の~4の耐震補強要素に加えて 下記の要素の復元力を加算して求めた 乾式土壁パネルを用いた補強壁 : 乾式土壁パネルは受け材仕様を基本とし 文献 6) で示された実験値に基づいて復元力を算定する 2 階 4 通りの乾式土壁パネルは顕し貫仕様とし 受け材使用の復元力を7% に低減することで復元力を算定した パネル厚さは片面張 :26mm 両面張:2mmとした 6 補強板壁 : 補強板壁は 板厚 3mmの両面貼り 吸付桟とし 実験値に基づいて復元力を設定する 板壁の復元力特性は文献 ) を基に 壁長さに応じて補正を行った にはろい 83 82 249 3 96 WW 柱 法表記無 :2 2 : 通し柱 WW WW W2 W2 W2 W2 柱増設通り路地 WW 内どじ外どじ柱増設 WW 4 3332 22 柱増設 9 W3w W3w W3w W3s みせおえ奥の間 柱増設 W2 W2 W2 W2 W3s W3s W3s 38 38 82 82 88 87 99 943 W3s 柱増設 にはろい 83 82 3 96 W3s 277 364 88 363 363 W2 W2 W2 W2 W3s W3s W3s W W 吹抜 4 HW (h=) SW (h=4) W2 W2 W2 W2 W3s W3s W3s 38 38 82 82 88 87 99 W3s W3w W3w 2 2 ( 細く加 ) みせ2 階 顕し貫とし, 耐 を7% で算定 廊下 座敷 DN W3w 押 床脇床の間 SW (h=4) Y( けた 向 ) X( 張り間 向 ) W: 全 壁 (t=6) HW: 壁垂壁 (t=6) W2: 全 壁 (t=3) SW: 壁腰壁 (t=6) W3s: 全 乾式 壁 ( ) WW: 板壁 W3w: 全 乾式 壁 ( 両 ) : 構造壁 a) 階平面 b) 2 階平面図 6 構造平面図 ( 耐震補強 ) : 壁 : 乾式 壁 : 板壁 : 構造壁 2.6 23 39 38 38 2.8 94 88 87 99943 277 82 82 444 4 4 4 94 軸組図い通り 2.6 23 39 38 38 2.8 94 88 87 99943 277 82 82 444 4 4 4 94 軸組図ろ通り 2.6 23 39 38 38 2.8 277 82 82 444 94 22 88 87 99943 4 4 4 94 軸組図は通り 2.6 23 39 38 38 2.8 277 82 82 444 94 88 87 99943 4 4 4 94 軸組図に通り い 39 83 ろはにいろはにいろはにい 82 249 3 96 軸組図 通り 236 992 83 8 9 82 249 軸組図 2 通り 図 7 構造軸組図 ( 耐震補強 ) 6 34 2 8 992 83 82 249 顕し貫 9 3 8 9 軸組図 4 通り 9 4 992 83 ろはに 8 9 82 249 軸組図 通り

7 補強小壁 : 乾式土壁パネルによる補強を想定するが復元力特性は土壁 6mm 厚と同等として評価する 8 増設柱の柱ほぞ : 増設柱のほぞは加算しない 9 横架材ほぞ : 足固めを取替または増設する箇所は 雇いほぞ車知栓打ちと仮定して加算する 耐震補強要素の追加により 現況と比較して最大耐力が 2~4 倍上昇し 最大耐力以降の靱性が向上した 偏心率は補強前の最大.24( 階張り間方向 ) から補強後の最大.7(2 階張り間方向 ) に改善された (2) 近似応答計算結果 表 図 9 に近似応答計算の結果を示す 耐震診断と同様 クライテリアの検定に用いる損傷限界変形角 ( 稀に発生する地震動に対する応答許容値 ) を /9rad 安全限界変形角 ( 極めて稀に発生する地震動に対す る応答許容値 ) を /2rad( 積雪時 :/rad) とした 耐震要素を追加することにより応答値は各方向 積雪 の有無にかかわらずクライテリアを満足している また Y 方向の 階に多く耐震補強要素を追加したこと により X Y 方向の応答のバランスも改善され 階と 2 階の応答値のバランスも改善された 既存の耐震要 素の一部を乾式土壁パネル耐震壁とすることで大変形時の靱性を確保し 高山町家の特徴である吹抜け等の開放的な空間を残した耐震補強を可能とした 固定荷重 G (kn) 表 4 地震応答計算用建築物重量 ( 耐震補強 ) 積載荷重 P (kn) 積雪荷重.3S 積雪.2m 想定 (kn) 地震応答計算用建物重量 (kn) 積雪無 G +P 積雪.2mG +P +.3S 2 層 6.9. 96.3 6.9 8.2 層 6.9 3.9 3.3 96.9.2 2 層 + 層 27.8 3.9 99.6 8.8 28.4 2 2 層 層 2 2 層 層 2 2 8 8 4 R(rad)..2.4.6.8. 4 R(rad)..2.4.6.8. a) X 方向 ( 張り間方向 ) b) Y 方向 ( けた行方向 ) 図 8 復元力特性 ( 耐震補強 ) 表 近似応答計算結果 ( 耐震補強 ) P -Δ 効果による稀に発生する地震動時極めて稀に発生する地震動時方向付加曲げ成分考慮積雪なし積雪.2m 積雪なし積雪.2m 等価固有周期 T eq (sec.).379.96.66.4 X 方向減衰定数 h =h eq +h (%)...43 2.4 ( 張り間方向 ) 加速度増幅率 G s...4.69 自由度系応答変形角 (rad.) 2 階応答変形角 (rad.) 階応答変形角 (rad.) クライテリアの検定 / 428 / 96 / 4.3 / 27. / 97 / 26 / 2.8 / 66. / 364 / 7 / 32.7 / 2.6 OK OK OK OK 等価固有周期 T eq (sec.).44.726.764.6 Y 方向 減衰定数 h =h eq +h (%)...83.86 ( けた行方向 ) 加速度増幅率 G s..69.69.69 自由度系応答変形角 (rad.) / 3 / 3 / 32. / 26. 2 階応答変形角 (rad.) / 86 / 22 / 74.4 / 2.3 階応答変形角 (rad.) / 263 / 7 / 26. / 2. クライテリアの検定 OK OK OK OK 4. おわりに岐阜県高山市に現存する伝統構法木造建築物である町家について 構造詳細調査によって構造的特長を把 7 2

2 2 2 P-Δ 考慮 復元力特性 8 極 4..2.4.6.8. a) X 方向 ( 張り間方向 ) 積雪無 2 8 P-Δ 考慮復元力特性極 4..2.4.6.8. b) Y 方向 ( けた行方向 ) 積雪無 2 2 2 P-Δ 考慮 復元力特性 8 極 4..2.4.6.8. 2 8 P-Δ 考慮復元力特性極 4..2.4.6.8. c) X 方向 ( 張り間方向 ) 積雪.2m d) Y 方向 ( けた行方向 ) 積雪.2m 図 9 近似応答計算結果 ( 耐震補強 ) 握した 張り間方向には両側の妻壁が全面的に土壁であり 一方 けた行方向には 2 階吹き抜け空間の周囲以外には壁などの耐震要素が少なく 特に 階には壁がほとんどない これは京町家など多くの町家と同様に耐震上の弱点となっている 極めて稀に発生する地震動時には倒壊の危険性がある 屋根は金属板葺きであり また土壁の厚さが小さいために 建築物重量は軽いが 多雪区域である高山市の積雪荷重を考慮した場合と考慮しない場合で 建築物重量は大きく異なる そのため 耐震補強設計では 積雪の有無とともに 階と2 階の耐力 応答のバランスを改善し さらに耐震性能が向上するように変形性能の高い乾式土壁や板壁などの耐震要素を追加 配置した 中央部の吹き抜けの大空間は高山町家の大きな構造的特長であり 意匠的な特長ともなっているので 耐震補強では 町家の立面意匠とともに吹き抜け大空間の構造を損なうことのないように配慮した 本研究で提案した構造的特長を生かした耐震補強設計法は 高山市の重要伝統建造物保存地区などの伝統構法木造建築物の耐震補強に有用であり 今後 具体的な事例に実装するなど活用するとともに耐震改修の促進を図る 謝辞 : 本研究は 高山市をはじめ高山市伝統構法木造建築物耐震化マニュアル作成検討委員会 飛騨高山伝統構法木造建築物研究会の支援のもとに実施した ここに謝意を表する 参考文献 ) 高山市伝統構法木造建築物耐震化マニュアル作成検討委員会 : 高山市伝統構法木造建築物耐震化マニュアル,24.3 2) 木造軸組構法建物の耐震設計マニュアル編集委員会 : 伝統構法を生かす木造耐震設計マニュアル- 限界耐力計算による耐 震設計 耐震補強設計法, 学芸出版社,24.3 3) 村石一明 田中邦明 森迫清貴 : 飛騨高山伝統構法土壁の繰り返し載荷実験, 構造工学論文集,Vol.6B,pp.37-362,24. 3. 4) 日本建築学会 : 建築物荷重指針 同解説,2.3. ) 中治弘行 鈴木祥之 : 顕しの貫がある土壁の復元力特性, 第 9 回歴史都市防災シンポジウムに投稿中 6) 杉山亮太 鈴木祥之 後藤正美 村上博 : 乾式土壁パネルを用いた木造軸組耐力壁の開発, 日本建築学会技術報告集, 第 24 号,pp.2-3,26.2. 8 22