はじめに 個人所得税における累進度の緩和 最高税率 ( 国 + 地方 ):89%(81 年 ) 50%( 現在 ) ブラケット数 ( 国 ):19 個 (81 年 ) 5 個 ( 現在 ) 簡素さ は基本原則のひとつ 公平 中立 簡素 労働所得税は簡素?: 控除の存在, 社会保険料との連関 Flat

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ミクロ経済学Ⅰ

はじめに 2 子ども手当 児童手当 扶養控除 子育て支援 : 家庭等における生活の安定 次代の社会を担う児童の健やかな成長 2010 年の民主党政権で従来の児童手当を拡充して子ども手当創設 2013 年の自民党政権で新たな児童手当に置き換え, 予算は同規模 2011 年度に年少親族扶養控除は廃止 :

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市場と経済A

第3回税制調査会 総3-2

参考 平成 27 年 11 月 政府税制調査会 経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する論点整理 において示された個人所得課税についての考え方 4 平成 28 年 11 月 14 日 政府税制調査会から 経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する中間報告 が公表され 前記 1 の 配偶

平成19年度税制改正.xls

財政学

2. 改正の趣旨 背景給与所得控除額の変遷 1 昭和 49 年産業構造が転換し会社員が急速に増加 ( 働き方が変化 ) する中 (1) 実際の勤務関連経費が給与所得控除を上回っても 当時は特定支出控除 ( 昭和 63 年導入 ) がなく 会社員は実際の勤務関連経費がいくら高くても実額控除できなかった

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女性が働きやすい制度等への見直しについて

第6回税制調査会 総6-3

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厚生の測度

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2. 改正の趣旨 背景の等控除は 給与所得控除とは異なり収入が増加しても控除額に上限はなく 年金以外の所得がいくら高くても年金のみで暮らす者と同じ額の控除が受けられるなど 高所得の年金所得者にとって手厚い仕組みとなっている また に係る税制について諸外国は 基本的に 拠出段階 給付段階のいずれかで課


平成19年度分から

2. 改正の趣旨 背景税制面では 配偶者のパート収入が103 万円を超えても世帯の手取りが逆転しないよう控除額を段階的に減少させる 配偶者特別控除 の導入により 103 万円の壁 は解消されている 他方 企業の配偶者手当の支給基準の援用や心理的な壁として 103 万円の壁 が作用し パート収入を10

700 万円未満の中間所得層では減税組が増税組を世帯数で圧倒する一方 年収 700 万円以上では逆に増税組の方が多くなる また専業主婦世帯では増税組が減税組よりも多い一方 妻が正規または非正規で就業している世帯では総じて減税組の方が増税組よりも多い 2 夫婦税額控除 ( 所得税 3 万 8000 円

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128 証券レビュー第 58 巻第 5 号る(平成二五年度税制改正により損益通算範囲が拡大され 上場株式等の譲渡損と配当 公社債等の利子 譲渡所得との損益通算が可能になっている) 一方で少額投資の非課税措置としてNISA制度やジュニアNISA制度 積立NISA制度が開始されている このように資本所得

研究成果報告書

タイトル

経済財政モデル の概要 経済財政モデル は マクロ経済だけでなく 国 地方の財政 社会保障を一体かつ整合的に分析を行うためのツールとして開発 人口減少下での財政や社会保障の持続可能性の検証が重要な課題となる中で 政策審議 検討に寄与することを目的とした 5~10 年程度の中長期分析用の計量モデル 短

第2回税制調査会 総2-2

平成 22 年 11 月 25 日 資料 ( 資産課税 )

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経済成長論

PowerPoint プレゼンテーション

注 1 認定住宅とは 認定長期優良住宅及び認定低炭素住宅をいう 注 2 平成 26 年 4 月から平成 29 年 12 月までの欄の金額は 認定住宅の対価の額又は費用の額に含まれる消費税等の税率が 8% 又は 10% である場合の金額であり それ以外の場合における借入限度額は 3,000 万円とする

このページを印刷する 2017 年 11 月 23 日森信茂樹 : 中央大学法科大学院教授東京財団上席研究員 副業 兼業の時代 所得税控除見直 し で不公平を正せ 来年度税制改正の作業が 与党税調で始まっている 連日のように改正案の 断片が報道されているが 全体像がいまだよくわからない そこで これ

握の問題 執行面での対応の可能性等を含め様々な角度から総合的に検討する 複数税率の導入について 財源の問題 対象範囲の限定 中小事業者の事務負担等を含め様々な角度から総合的に検討する 施策の実現までの間の暫定的及び臨時的な措置として 簡素な給付措置を実施する つまり 低所得者対策として 給付付き税額

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40 Vol. 17 No.3 1. はじめに日本の個人所得課税において国税である所得税と同様に地方税である個人住民税が重要な役割を果たしている. 個人住民税額の算出方法については所得税とほぼ同様であり, 所得に対して各種の所得控除を適用し, 課税対象所得を算出した後, 課税対象所得に対して税率を適

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1. 復興基本法 復興の基本方針 B 型肝炎対策の基本方針における考え方 復旧 復興のための財源については 次の世代に負担を先送りすることなく 今を生きる世代全体で連帯し負担を分かち合うこととする B 型肝炎対策のための財源については 期間を限って国民全体で広く分かち合うこととする 復旧 復興のため

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2. 消費税率引き上げが個人消費に与える影響 (1)1997 年度の消費増税時のレビュー ~ 大きかった駆け込み需要の影響消費税は 89 年 4 月に税率 3% で導入され 97 年 4 月に 5% に引き上げられた 89 年度の導入時は従来の物品税廃止によって自動車など耐久財の多くが実質減税となっ

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公共経済分析II

消費税増税等の家計への影響試算(2017年10月版)<訂正版>

構成 Ⅰ 所得税改革 下向きジェットコースターの不安 格差への対応 - 所得税の四位一体改革 日本の所得税 - 負担の実態 税額控除制度の効果 Ⅱ 納税者番号制度 適正課税と利便性のための基盤整備 ドイツ ( 税務識別番号 ) イギリス ( 国民保険番号 NINO) オランダ ( 市民サービス番号

減税のメリットが生じる 一方定額減税の場合は年収 600 万円を超える所得階級については ほぼ同じ減税のメリットを生じることになる 年収 600 万円に満たない所得階級については 現行制度のもとで 所得税をほとんど負担していないために 定額減税でもほとんど減税の恩恵は生じない 一方 定額給付金は 現

1. はじめに経済学では消費税と定率所得税は本質的には同じ税であることがよく知られている. どちらの税をかけても予算制約線は全く同じものであるので, 同等の効果を生む税体系と理論的には考えることができる. しかし, 消費税と所得税の同等性は成立しないという実験研究がある (Blumkin et al

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政策課題分析シリーズ16(付注)

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Winter 図 1 図 OECD OECD OECD OECD 2003

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平成 31 年度住宅関連税制改正の概要 ( 一社 ) 住宅生産団体連合会 平成 31 年 3 月 (1) 住宅ローン減税の拡充 ( 所得税 個人住民税 ) 消費税率 10% が適用される住宅取得等をして 2019 年 10 月 1 日から 2020 年 12 月 31 日までの間にその者の居住の用に

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第2回税制調査会 総2-1

経済分析第172号

相続人の居住用または事業用の宅地については2 割または5 割評価にするという小規模宅地等の評価減の特例があるが 平成 22 年度税制改正により 原則として申告期限まで居住または事業を継続していなければ適用が認められなくなっている 今回 基礎控除額が引き下げられることと合わせ 都市部の独居老人が亡くな

第9号様式(第10条、第19条、第20条関係)

このジニ係数は 所得等の格差を示すときに用いられる指標であり 所得等が完全に平等に分配されている場合に比べて どれだけ分配が偏っているかを数値で示す ジニ係数は 0~1の値をとり 0 に近づくほど格差が小さく 1に近づくほど格差が大きいことを表す したがって 年間収入のジニ係数が上昇しているというこ


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本資料は 様々な世帯類型ごとに公的サービスによる受益と一定の負担の関係について その傾向を概括的に見るために 試行的に簡易に計算した結果である 例えば 下記の通り 負担 に含まれていない税等もある こうしたことから ここでの計算結果から得られる ネット受益 ( 受益 - 負担 ) の数値については

2017 年度税制改正大綱のポイント ~ 積立 NISA の導入 配偶者控除見直し ~ 大和総研金融調査部研究員是枝俊悟

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2. 改正の趣旨 背景給与所得控除 公的年金等控除から基礎控除へ 10 万円シフトすることにより 配偶者控除等の所得控除について 控除対象となる配偶者や扶養親族の適用範囲に影響を及ぼさないようにするため 各種所得控除の基準となる配偶者や扶養親族の合計所得金額が調整される 具体的には 配偶者控除 配偶

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Transcription:

最適線形所得税の推計 :MCF からの接近 別所俊一郎 一橋大学国際 公共政策大学院 1

はじめに 個人所得税における累進度の緩和 最高税率 ( 国 + 地方 ):89%(81 年 ) 50%( 現在 ) ブラケット数 ( 国 ):19 個 (81 年 ) 5 個 ( 現在 ) 簡素さ は基本原則のひとつ 公平 中立 簡素 労働所得税は簡素?: 控除の存在, 社会保険料との連関 Flat tax の浸透 東欧諸国 (Keen et al. 08, ITAX):94 年のエストニアから 西欧についてのシミュレーションも (Fuest et al. 08, ITAX) 給付付き税額控除 の機運 負の所得税との類似性? シミュレーションはあるが, 制度は所与 最適な線形所得税 を考えてもよいのでは? 2

話の進めかた MCF と最適税制のすてきな関係 最適線形所得税への応用 設定 標準的な静学モデル 関数形の特定化 データ 単身世帯に限定しました 結果 労働供給の賃金弾力性 最適な線形所得税 : フラットタックス 負の所得税 経済厚生, 分配上の効果 おわりに 3

関連する研究群 MCF(marginal cost of public funds) Dahlby (08) 税制改正のマイクロシミュレーション 給付付き税額控除についての高山ほか (09, DP) Flat tax の効果 : Fuest et al. (08, ITAX) 最適税制の推計 最適税制 :Mirrlees (71, RES) 非線形 離散選択 :Diamond (80 J Pub E), Saez (01 RES, 02 QJE) Lone mothers: Blundell et al. (09 EJ) 労働供給の構造推定 欧米ではたくさん.Yamada (08 Applied EL) Zabalza (83 EJ) 4

MCF と最適税制 MCF(marginal cost of public funds) 追加的な税収 1 単位あたりの経済厚生の変化分 分配上の効果も明示的に考えるときは SMCF とも呼ばれる 政府が操作できるパラメタごとに MCF を計算できる 最適税制のもとでの MCF どの税制パラメタを動かしても MCF は等しい もし異なれば,MCF の低いパラメタを 引上げ, 高いパラメタを 引下げ れば, 税収を一定として経済厚生を高めることが可能 最適線形所得税と MCF 政府が操作できるのは限界税率と課税最低限のみ 限界税率を動かしたときの MCF = 課税最低限を動かしたときの MCF それぞれを動かして, 一致する点を探せばよい. 5

想定されている労働者 標準的な静学モデル 主体均衡のみ : 賃金率は外生 静学モデル : 異時点間の代替の問題 ( サービス残業や rat race) はない 個人は余暇と財消費から効用を得る 労働所得税以外に市場の friction なし 不確実性なし : 思わぬ税制改正や定額給付などはない 情報の問題なし : 税制を知悉しており, 財政錯覚なし 効用の concavity: 労働の固定費用なし (extensive margin はゼロ ) 労働供給は連続的 非自発的失業, 過少就業, 過剰就業なし 家庭内資源配分の問題を捨象 : 単身世帯に限定 6

均等化される MCF: フラットタックス フラットタックス : R = max{0, m F (Wh - E F )} 2つのMCFが等しくなる 税を支払う, 課税最低限を選ぶ, 課税最低限より少ない, の 3 グループ 限界税率 (m F ) を動かしたときの MCF 支払う税額が変化するのは, 税を支払うグループのみ 消費選択が変化するのも, 税を支払うグループのみ 課税最低限 (E F ) を動かしたときの MCF 支払う税額が変化するのは, 税を支払うグループのみ 消費選択が変化しないのは, 課税最低限より少ないグループのみ それぞれの MCF は, 個人の労働供給の弾力性と限界税率に依存 7

フラットタックス 税引後所得 = 消費 45 度線納税額課税最低限を引き下げたとき限界税率を引き上げたとき O E F 税引前所得 8

関数形の仮定 効用関数 CES 型 : 代替の弾力性は共通, 余暇ウェイトは個人属性に依存 社会厚生関数 分配ウェイト 不平等回避度一定の Atkinson 型 : 不平等回避度 3 パターン 効用水準を equivalent income で評価 いまの効用を参照価格のもとで得るために必要な所得額 CES 型効用関数のとき, 社会厚生の順序は参照価格に依存しない 推定すべきパラメタ 代替の弾力性 余暇ウェイトへの個人属性の効果 税収制約 +MCF の均等条件で,2 つのパラメタが決定 9

データ 2002 年 就業構造基本調査 個票 一橋大学経済研究所附属社会科学統計情報研究センターを経由して独立行政法人統計センターから提供されました. 働き盛りの単身世帯 (25~59 歳 ) に限定 (12,444 人 ) 労働供給関数の推定の簡単化 社会厚生関数の設定の簡単化 過去 1 年間に大きな変動がなかった労働者に限る 賃金率 所得 労働時間の区間データのみ利用可能 :interval 回帰の当てはめ値 税制 所得税 住民税 社会保険料 社会保険料は全額を賃金税とみなす 推定 :Zabalza (83, EJ) で用いられた構造推定 10

サンプルの代表性 : 一般世帯の世帯主と比較 年齢 :30 歳代前半までの比率が高い 労働日数の分布は似ている 25.0 20.0 一般 単身 サンプル 60.0 50.0 40.0 一般単身サンプル 15.0 30.0 20.0 10.0 10.0 5.0 0.0 0.0 ~29 歳 ~34 歳 ~39 歳 ~44 歳 ~49 歳 ~54 歳 ~59 歳 11

サンプルの代表性 : 一般世帯の世帯主と比較 個人所得 : 低所得者層の比率が高い ピークは同じ 労働時間 : 長時間労働がやや少ない 25.0 20.0 一般 単身 35.0 30.0 一般 単身 サンプル 25.0 サンプル 15.0 20.0 10.0 15.0 10.0 5.0 5.0 0.0 0.0 12

労働供給の弾力性 効用パラメタを直接推定 CES 型だが,Cobb-Douglas 型に近い 代替効果 所得効果が大きめ, 非補償弾力性はゼロ近傍 ケースAでは全体を一括推定, ケースBではサンプルを性 / 正規で分割 平均 標準偏差 最小値 中位値 最大値 ケースA 非補償弾力性 -0.045 0.042-0.119-0.057 0.167 所得効果 -0.771 0.107-0.994-0.795-0.454 補償弾力性 0.726 0.083 0.479 0.743 0.938 ケースB 非補償弾力性 -0.066 0.117-0.460-0.031 0.214 所得効果 -0.771 0.107-0.994-0.795-0.454 補償弾力性 0.705 0.118 0.300 0.721 0.992 13

労働供給の弾力性 分配ウェイト 所得階層別に平均をとってみた 非補償弾力性は所得が高いほど高い CES 型効用関数の形状 + 余暇ウェイトへの家計属性の効果 観測値数 労働供給の弾力性 分配ウェイト 年間所得 非補償補償所得効果弾力性弾力性 q = 3 q = 5 q = 10 250 万円未満 2180-0.072-0.849 0.777 0.2762 0.1660 2.1460 250~500 4908-0.067-0.803 0.735 0.2003 0.0722 0.0090 500~750 3297-0.037-0.762 0.725 0.1622 0.0524 0.0046 750~1000 1184 0.003-0.690 0.692 0.1434 0.0439 0.0032 1000~1250 461 0.028-0.594 0.623 0.1277 0.0368 0.0021 1250~1500 210 0.080-0.509 0.590 0.1037 0.0263 0.0011 1500~1750 114 0.096-0.481 0.577 0.0839 0.0186 0.0006 1750~2000 63 0.078-0.477 0.555 0.0687 0.0134 0.0003 2000~2250 10 0.063-0.482 0.545 0.0575 0.0100 0.0002 2250~2500 14 0.053-0.487 0.540 0.0474 0.0073 0.0001 2500 万円以上 3 0.103-0.462 0.565 0.0384 0.0052 0.0000 14

実行可能なフラットタックス 税収制約を満たす限界税率と課税最低限の組合せ 300 250 200 150 100 50 0 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0 15

最適なフラットタックス 不平等回避度の設定に依存 不平等回避的なほど : 限界税率が高く, 課税最低限が高い q = 5が現在の課税最低限 (110 万円 ) に近い 経済厚生は現行税制よりもフラットタックスのほうが高い 比例税としての社会保険料の影響か 限界税率が高いほど, 労働供給総量は減る ケースA q = 3 q = 5 q = 10 限界税率 20.3% 26.1% 34.2% 課税最低限 36.4 万円 127.7 万円 196.4 万円 1 人当たり税引前所得 537.7 万円 515.6 万円 487.5 万円 社会厚生 現行税制 -2023.8-372.9-409.4 フラットタックス -2017.5-361.3-253.7 16

フラットタックスの効果 : 労働供給 税引前所得でみると 高所得者層の労働供給が刺激される : 限界税率の引き下げ 中所得者層の労働供給が抑制される : 限界税率の引き上げ 3500 3000 2500 theta = 3 theta = 5 theta = 10 現行 2000 1500 1000 500 0 0-200- 400-600- 800-1000- 1200-1400- 1600-1800- 2000-2200- 2400-2600- 17

フラットタックスの効果 : 限界税率 所得階層別の平均値 高所得者層では税率引き下げ 0.6 0.5 0.4 theta = 3 theta = 5 theta = 10 現行 0.3 0.2 0.1 0.0 0-200- 400-600- 800-1000- 1200-1400- 1600-1800- 2000-2200- 2400-2600- 18

フラットタックスの効果 : 税額 低所得者層は減税 不平等回避度 3,5: 少数の高所得者の減税 + 中所得者の増税 不平等回避度 10: 高所得者層の増税 累進度の強化 1200 1000 観測値数 現行 theta = 3 theta = 5 theta = 10 2500 2000 800 600 400 1500 1000 200 500 0 0-200- 400-600- 800-1000- 1200-1400- 1600-1800- 2000-2200- 2400-2600- 0 19

実行可能な負の所得税 税収制約を満たす限界税率と消費最低限の組合せ 160 140 120 100 80 60 40 20 0 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 20

最適な負の所得税 不平等回避度の設定に依存 : 税率は flat tax より高い 不平等回避的なほど : 限界税率が高く, 課税最低限が高い q = 5が現在の課税最低限 (110 万円 ) に近い 経済厚生は現行税制よりも負の所得税のほうが高い 比例税としての社会保険料の影響か 限界税率が高いほど, 労働供給総量は減るケースA q = 3 q = 5 q = 10 限界税率 20.9% 28.5% 42.1% 課税最低限 27.4 万円 133.6 万円 197.7 万円 消費最低限 5.7 万円 38.1 万円 83.2 万円 1 人当たり税引前所得 539.6 万円 509.1 万円 451.7 万円 社会厚生 現行税制 -2023.8-372.9-409.4 負の所得税 -2029.3-352.4-19.3 21

負の所得税の効果 : 労働供給 税引前所得でみると 高所得者層の労働供給が刺激される : 限界税率の引き下げ 中所得者層の労働供給が抑制される : 限界税率の引き上げ 3500 3000 2500 theta = 3 theta = 5 theta = 10 現行 2000 1500 1000 500 0 0-200- 400-600- 800-1000- 1200-1400- 1600-1800- 2000-2200- 2400-2600- 22

負の所得税の効果 : 限界税率 所得階層別の平均値 低所得者層で引き上げ 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0 theta = 3 theta = 5 theta = 10 現行 0-200- 400-600- 800-1000- 1200-1400- 1600-1800- 2000-2200- 2400-2600- 23

負の所得税の効果 : 税額 低所得者層は減税 不平等回避度 3,5: 少数の高所得者の減税 + 中所得者の増税 不平等回避度 10: 中 高所得者層の増税 累進度の強化 1400 1200 1000 800 theta = 3 theta = 5 theta = 10 現行 600 400 200 0-200 0-200- 400-600- 800-1000- 1200-1400- 1600-1800- 2000-2200- 2400-2600- 24

おわりに やったこと 単身世帯を対象に最適な線形所得税体系を推計 equivalent incomeを用いて社会厚生関数を明示的に考慮 最適な限界税率や課税最低限は社会の持つ不平等回避度に大きく依存 いずれの結果でも最も所得の低い階層には減税することが望ましい 社会保険料の見直し? 不平等回避度が高いばあいには, 税制の累進度を高めることが望ましい 限界と拡張 平均の労働供給の抑制, 税引前所得の減少 異なる世帯類型への拡張 : 労働供給関数の推定, 経済厚生の評価 労働供給のextensive margin vs intensive margin 税制以外の所得再分配政策の考慮 25