連載第 19 回では 勤務地限定社員の賃金の決め方を考えました さらに 連載第 20 回から 22 回にかけて 非正規社員の代表格であるパート社員と契約社員の賃金を 正社員のランク型賃金表 ( 1) と関連付けて取り扱う方法を考えました ランク型賃金表がさまざまな就労形態や多様な働き方に応用できることが実感できたと思います 1: ランク型賃金表 は株式会社プライムコンサルタントの登録商標です 図表 1 は 過去 3 回の連載で例示した X 社の正社員 勤務地限定社員 契約社員 パート社員の賃金の決め方を一覧にしたものです ところで この X 社の例を考える際 パート社員と契約社員は 期間の定めのある雇用契約 ( 有期契約 ) を想定していました 読者の中には 無期転換 になった場合はどうするのかという疑問を持たれた方も多 いと思います 無期転換とは 労働契約法に基づいて 有期契約を反復更新して通算 5 年を超えた場合 本人の希望により無期契約にできるというものであり いよいよ来年 4 月から該当者が誕生します そこで今回は 無期転換時の賃金の取り扱い方法について考えたいと思います ( 2) 2: 高度専門職と定年後再雇用者については 2015 年 4 月に施行された有期雇用特別措置法に定める無期転換ルールの特例の適用を受けることにより 5 年超での無期転換の対象外にすることができます 1 無期転換ルールと処遇のポイントまず 法の定めを確認しておきましょう 2013 年 4 月に施行された改正労働契約法第 18 条には次のように規定されています なお 第 2 項は 通算期間に参入しない空白期間 いわゆるクーリング期間を定めたものですので省略しました 38
( 有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換 ) 第 18 条同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約 ( 契約期間の始期の到来前のものを除く 以下この条において同じ ) の契約期間を通算した期間 ( 次項において 通算契約期間 という ) が 5 年を超える労働者が 当該使用者に対し 現に締結して いる有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に 当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは 使用者は当該申込みを承諾したものとみなす この場合において 当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は 現に締結している有期労働契約の内容である労働条件 ( 契約期間を除く ) と同一の 図表 1:X 社の基本給表の全体構成 ( 全国社員 勤務地限定社員 契約社員 パート社員の適用ランクの設定例 ) 基本給表 号数ランク月額時給 136 17 526,270 16 15 14 13 12 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 165,000 130,760 2017.5.25 先見労務管理 1,409 P1 等級 [ アシスタント ] P2 等級 [ 一般 ] K1 等級 [ 一般 ] K2 等級 [ 担当 ] パート社員 契約社員 / 職種 勤務 / 職種 勤務 地限定社員 ( パ 地限定社員 ( フ ートタイム ) ルタイム ) Ⅰ 等級 [ 一般 ] 役割責任 Ⅱ 等級 [ 担当 ] 正社員 Ⅲ 等級 [ 主任 ] Ⅳ 等級 [ 課長 ] Ⅴ 等級 [ 部長 ] S=17 点 A=16 点 S=15 点 B=15 点 A=14 点 C=14 点 S=13 点 B=13 点 D=13 点 S=12 点 A=12 点 C=12 点 S=11 点 A=11 点 B=11 点 D=11 点 S=10 点 A=10 点 B=10 点 C=10 点 S=9 点 S=9 点 A=9 点 B=9 点 C=9 点 D=9 点 A=8 点 S=8 点 A=8 点 B=8 点 C=8 点 D=8 点 S=7 点 S=7 点 B=7 点 A=7 点 B=7 点 C=7 点 D=7 点 A=6 点 A=6 点 C=6 点 B=6 点 C=6 点 D=6 点 S=5 点 B=5 点 B=5 点 D=5 点 C=5 点 D=5 点 A=4 点 C=4 点 C=4 点 D=4 点全国社員 B=3 点 D=3 点 D=3 点 1,032 C=2 点 818 D=1 点 勤務地限定社員 1 1 ( 注 ) 表中の点数 (1 点 17 点 ) は対応する評価レートを表す Ⅰ 等級 Ⅴ 等級のランクは 全国社員にはグレーの範囲 勤務地限定社員には白地の範囲を適用するパート社員 契約社員の欄の 職種 勤務地限定社員 は 労働契約法第 18 条に基づく無期転換ルールの適用後を示す 39
労働条件 ( 当該労働条件 ( 契約期間を く ) について別段の定めがある部分 除 を除く ) とする 2( 省略 ) 条文中の下線 二重線 波線は筆者が加えたものです まず下線部は 有期契約を更新して通算期間が 5 年を超えた場合 労働者の申込みがあれば無期契約に転換される という 無期転換ルールの核心部分を述べています 使用者は当該申込みを承諾したものとみなす とありますが みなす は法的効果を与えることを示す法律用語です したがって 労働者が申込めば 使用者が承諾した として取り扱うということであり 会社は拒むことができない強い規定なのです 賃金などの処遇について注目すべきは二重線を引いた部分であり これに波線部の条件がついています 二重線部を簡単に言うと 無期契約の労働条件は 契約期間の定めがなくなること以外は 現在の有期契約と同じ労働条件とする となります 一方 波線部は 就業規則や個別労働契約などで契約期間以外に別段の定めをしている場合には 同じ労働条件とはならない という条件を示しています この 2 つを組み合わせて処遇の取り扱いを読み解くと 無期転換しても 契約期間が変わるだけで働き方が変わらないなら処遇条件も変わらない 働き方が変わるなら処遇条件も変わる ということになります 今となっては当たり前のことを述べましたが この無期転換ルールが制定された当時は 有期契約から無期契約に変えると同時に処遇を上げる必要があるのではと考えた人も少なくなかったと思います その背景には 無期契約は有期契約よりも格が高 い という暗黙の前提があったと思われますが 法律は 契約期間の定めが無くなるだけで 処遇は変える必要がないことを明言しています ここで注意しなければならないのは 無期転換後も同じ働き方を続ける従業員に対して 安易に処遇を上げてしまうと 労働契約法第 20 条の 期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止 に触れる恐れがあることです もしそうなった場合は 無期転換後の高い処遇を有期契約の従業員にも適用すべきとの指摘を受けかねません 無期転換後の処遇を変える場合は 前回まで注目してきた職務の内容か人材活用の仕組みも変える必要があることを忘れないでください 2 無期転換後の処遇のポイント法律の条文を読み解くことで 無期転換後の処遇は 今後の就労条件に応じて考えればよいことが浮かび上がってきました 就労条件は 前回触れたように 1 職務の内容 2 人材活用の仕組み 3 労働時間の 3 つに分類されます 本連載で解説してきたランク型賃金表を使った取り扱いでは 1と2は貢献度の違いとして評価レートに反映させ 3は時間比例で計算するというものでした 無期転換後の処遇もこれに沿ってていねいに組み立てていくことになります 3 実際の取り扱い事例まず 具体的にイメージできるように 図表 2-1のような X 社の契約社員 M さん (K1 等級のフルタイム 職種 勤務地限定 ) が 図表 2-2に掲げる 4 つのパターンで無期転換するケースを考えてみます ( 3) 40
3:X 社の具体的な基本給表は 連載第 22 回の図表 4 を参照してください パターン A 職務の内容 ( 以下 役割責任 と言うことにします ) も人材活用の仕組みも同じ場合です 契約期間以外には何も変わりませんので 法律通り処遇条件はこれまでと同一とします すなわち 基本給は 5 ランク 33 号で移行します 引き続き一般職の評価基準で評価し 評価レートは D=3 点から S=7 点 を適用します ( 4) くどいようですが ここで処遇条件を引き上げてしまうと有期契約の処遇まで引き上げざるを得なくなりますので注意してください なお 無期契約には 契約社員 という呼び方は馴染まないので 無期転換後は職種 勤務地限定社員 ( フルタイム ) のⅠ 等級としています 4: もし有期契約時に評価も賃金改定もなかった場合はそれを踏襲することになりますが 無期契約社員に評価や賃金改定をしないのではモチベーションに悪影響を及ぼします そうしないためにも 連載第 20 回 22 回でパートタイマーや契約社員に対しても評価 賃金改定をお奨めしてきたのです パターン B この機に役割責任を一つ上げますが 人材活用の仕組みは変わらないというパターンです この場合は通常の役割責任異動の取り扱いをします すなわち 基本給はそのままとし 今後の評価基準と評価レートを適用します M さんのケースでは 今後は担当職 (Ⅱ 等級 ) として評価し 評価レートは従来より 2 点ずつ高い D=5 点から S=9 点 を適用します 役割責任の変更は 次回の評価と賃金改定から反映されることになる 図表 2:X 社の契約社員 M さんが無期転換になるケース 1 無期転換前の M さんの就労条件と処遇 職務の内容: 一般職の役割責任 (K 1 等級 ) 人材活用の仕組み: 職種 勤務地ともに変更の可能性はない ( 職種 勤務地限定 ) 労働時間: フルタイム 基本給:5 ランク 33 号 2 M さんの無期転換のパターン 無期転換後の就労条件パタ契約期間以外に職務の内容労働ーン人材活用の仕組み変わること < 役割責任 > 時間 無期転換後の呼び方 A フル一般職 (Ⅰ 等級 ) 職種 勤務地限定タイムなし職種 勤務地限定社員 ( フルタイム ) のⅠ 等級 B フル職種 勤務地限定社員 ( フ担当職 (Ⅱ 等級 ) 職種 勤務地限定役割責任が一つ上がるタイムルタイム ) のⅡ 等級 C 一般職 (Ⅰ 等級 ) 勤務地限定 フル勤務地限定社員 ( フルタ職種の限定がなくなるタイムイム ) のⅠ 等級 D 担当職 (Ⅱ 等級 ) 勤務地限定 フル役割責任が一つ上がる勤務地限定社員 ( フルタタイム職種の限定がなくなるイム ) のⅡ 等級 2017.5.25 先見労務管理 41
わけですね パターン C 役割責任は従来のままですが 人材活用については職種限定をなくして勤務地限定のみにする場合です 今後は長期間働くことになるので 臨機応変に職種変更ができるようにしようという考えです ランク型賃金表では 人材活用上の制約の有無を基本給の適用ランクと評価レートに反映しますので それに従うことになります M さんは 勤務地限定の一般職になりますから 基本給の適用ランクは従来より 1 ランク高い 4 ランクから 8 ランク を 評価レートは 1 点ずつ高い D=4 点から S=8 点 を適用します なお評価については 役割責任は同じですので 引き続き一般職用の基準を使います 一般職で D=4 点から S=8 点 を適用しますので 図表 1 から分かるように これからは 勤務地限定社員のⅠ 等級 と同じ処遇条件になります さて ここで基本給 ( 現在 5 ランク 33 号 ) をどのようにするかという問題が生じます 言いかえると人材活用上の制約が一つに減ることを すぐに賃金に反映すべきかどうかという問題です これには 次の 2 つの方法が考えられます ( ア ) 基本給を 1 ランク分 (8 号 ) 高い 6 ランク 41 号に移行する ( イ ) 基本給は 5 ランク 33 号のまま移行し 制約が緩んだことに対しては 今後の賃金改定で高い評価レートを適用することで報いる 方法 ( ア ) これは 人材活用上の柔軟性も会社に対する貢献の一つであることをストレートに表すという原理原則的な取り扱いです 方法 ( イ ) ( ア ) は 筋は通ってはいますが なんとなくしっくりこない方もいるでしょう 腑に落ちない感じがするのは 2 つの疑問があるからだと思います 一つは 職種の限定はなくなるけれど 実際に職種変更はあるだろうかという 現実性に関する疑問 であり もう一つは 将来 止むを得ない事情によって再び職種限定になり 職種 勤務地限定に戻るときは 1 ランク下げるのかという 逆パターンに関する疑問 です 前者は 定期的な人事ローテーションがない会社では抱きやすい疑問ですね 後者は 例えば 家族の介護のために出張や外回りが多い営業職への異動要請を避けるために事務職限定を申請するなどのケースが考えられます 仮に介護が理由だった場合 介護費用がかさむときに基本給を一気に 1 ランク ( 金額にして数万円 ) 下げるのは忍びないという心情が働くかもしれません ( イ ) は これら 2 つの疑問に応えるための方法です 賃金については極端な変動を避け 段階的に改定するという基本方針に沿うことによって 職種限定の有無にもソフトランディングで対応しようという考え方です ( ア )( イ ) のどちらを選ぶかについては 今後の法整備や行政指導によって何らかの規定が加わるかもしれませんが 現段階では各社の事情に応じて判断すればよいと考えています 42
パターン D 役割責任を一つ上げるとともに 職種限定をなくして勤務地限定にする場合です この場合の取り扱いは パターン B と C の組み合わせで考えればよいでしょう まず 役割責任が担当職 Ⅱ 等級に上がりますので 評価基準は担当職用に変わり 評価レートは 2 点ずつ高い D=5 点から S=9 点 になります さらに 職種限定がなくなることによって 基本給の適用ランクは 1 ランク高い 6 ランクから10ランク 評価レートは 1 点ずつ高い D=6 点から S=10 点 になります その結果 今後は 勤務地限定社員のⅡ 等 級 として取り扱うことになります ( 図表 1 参照 ) さて ここでも移行時の基本給をどうするかという問題がありますが パターン C と全く同じように考えればよいでしょう 評価レートの上昇は合計 3 点ですが 人材活用上の制約がなくなることによる適用ランクのアップは 1 ランク分ですので 前述の ( ア ) 1 ランク分アップして移行する か ( イ ) 移行時はアップせずに今後の賃金改定で報いる の 2 つの方法から選択します やはり 各社の実情に応じて判断することになります 図表 3:X 社の契約社員 M さんの無期転換後の処遇条件 一般職 (Ⅰ 等級 ) 担当職 (Ⅱ 等級 ) 無期転換後の勤務職種 地限人材活用の仕組み パターン A 従来と同じ ( 無期転換のみ ) 定 移行時の基本給 : 従来と同じ勤務地限無期転換後の役割責任 パターン B 評価基準 : 担当職用に変える 評価レート :+2 点 定ことにより1ランクアップさせるかどう 移行時の基本給 : 職種限定がなくなる パターン C 評価基準: 一般職用のまま 評価レート:+1 点 移行時の基本給 : 職種限定がなくなる パターン D 評価基準: 担当職用に変える 評価レート :+3 点 ( 役割責任上昇で +2 点 職種限定をなくすことで+1 点 ) かは判断 ことにより1ランクアップさせるかどうかは判断 図表 4: ランク型賃金表における無期転換後の処遇の取り扱いルール無期転換後の役割責任 従来と同じ従来より高い無期転換後の従来と同人材活用の仕組み A 従来と同じ ( 無期転換のみ ) じ 移行時の基本給 : 従来と同じ従来より制約が少な B 評価基準 : 新しい役割責任用に変える 評価レート : 役割責任の変化に応じてプラスする い 移行時の基本給 : 制約が減ることによ計する ) りランクアップさせるかどうかは判断 移行時の基本給 : 制約が減ることによ C 評価基準: 従来と同じ D 評価基準 : 新しい役割責任用に変える 評価レート : 制約の変化に応じてプラ 評価レート : 役割責任と制約の変化に スする 応じてプラスする ( 両者のプラス分を合 りランクアップさせるかどうかは判断 注 1) 無期転換前後で労働時間が変化した場合の基本給は 時間比例で計算した金額とする注 2) 上表では役割責任の下降や人材活用上の制約が増える場合には触れていないが そういうケースは評価レートが下がる方向で考える 2017.5.25 先見労務管理 43
A から D まで 4 パターンの対応方法を見てきましたが 賃金については 役割責任と人材活用の仕組みの変化に対して評価レートと適用ランクを変えていけばよいことがわかりました 図表 3 は 横軸に役割責任 縦軸に人材活用の仕組みをとって 4 パターンでの処遇条件を整理したものです 4 無期転換時の取り扱いルール M さんのケースを通してランク型賃金表を使っている場合の取り扱い方が見えてきました 図表 4 は 図表 3 をもとに一般的にルール化したものです 図表中の A から D は先ほどの 4 パターンに対応していますので M さんの事例を読み返しながら内容を確認してみてください なお 人材活用の制約が 2 つなくなる場合 (X 社で言えば M さんが無期転換時に全国社員に変わるようなケース ) は 基本給の適用ランクは一気に 2 ランク上がります こうしたときの基本給の移行方法については 先ほどの 2 つの考え方だけでなく折衷案を加えた 3 種類が考えられます すなわち ( カ ) 基本給を 2 ランク分 (16 号 ) 高い号数に移行する ( キ ) 基本給はそのままとし 制約が緩んだことに対しては 今後の賃金改定で高い評価レートを適用することで報いる ( ク ) 折衷案 : 基本給を 1 ランク分 (8 号 ) 高い号数に移行し あとは今後の賃金改定で高い評価レートを適用することで報いる は 賃金を時間比例で計算しますが 時給制のパートタイマーをフルタイムに変更する場合は 簡素化のために月給制に変更することにしてもよいでしょう パート時給はフルタイム社員の時間単価に合わせていましたので有利不利はありません 今回は 無期転換時の対応方法をパターン分けして解説しましたがいかがでしょうか ランク型賃金表という一つの軸に乗っているので基本的な考え方さえ押さえればすっきり整理できますね これを参考に 自社の実情に合わせて応用してみてください < 補足 > 今回 有期契約から無期契約に転換する方法を考えましたが 労働契約法の無期転換ルールへの対応としては 無期転換を回避するために 5 年以内で雇止めする という方法もあります このように 理論上は無期転換しないという選択肢もありますが 労働政策研究 研修機構の 改正労働契約法とその特例への対応状況及び多様な正社員の活用状況に関する調査 (2015 年 12 月 18 日公表 ) によると 2015 年 7 月時点で 有期契約が更新を含めて通算 5 年を超えないように運用していく と考える企業は 6% とごく少数になっています 約 4 分の 1 の企業が対応方法を決めていませんが 6 割は何らかの形で無期契約の対応をすると答えており 人手不足による人材確保ニーズも相まって 大半の企業で無期転換が進んでいくと考えられます ここまで フルタイムの契約社員がフルタイムの無期社員になる場合を考えてきましたが 実際には無期転換前後に労働時間を変えることもあり得ます そういう場合 44