ビタミン D 欠乏症 : くる病 低カルシウム血症 (131224) 乳児のビタミン D 欠乏について話題になった ほとんど知識がないので 勉強しておくことにし た 昔 子どもの栄養状態のよくなかった頃は 生後 3 か月頃からの日光浴がすすめられたものです 子どもの健康増進ということです 日光に当たらないと骨の成熟が侵されて くる病となりました 骨が軟らかい 身長が伸びない 内臓が弱いなどの症状で 日光の少ない東北地方や北海道では ことに日光浴がすすめられました その後子どもの栄養状態はよくなり 魚肉 バターなどからビタミン D の摂取量も多くなったので 日光の助けは昔ほどではなくなりました 一方では日光の害が注目されてきたのです それは紫外線のなかでも短波長の部分が 皮膚の細胞を障害し これが皮膚がんの原因となることがわかりました その発症は 50 歳 初期のくる病を示す姉と弟 (5 歳と 3 歳 ) 60 歳という年長になってからで それまでの日光に当たった Rachford, 1912 (126) 量が関係することがわかりました そのことから 子どもの ( 参考文献 5 より引用 ) 頃から日光をさけようと 1998 年 ( 平成 10 年 ) に母子健康手帳から日光浴の言葉が消えたのです 4) 最近 ビタミン D 欠乏症が世界的に増加している 日本でも 乳幼児を中心に ビタミン D 欠乏症の報告が相次いでいる 1) 北海道 東北地方 日本海沿岸地方は冬期間降雪に見舞われ 十分に日光浴をする機会が少なくなります VD は紫外線照射のもと 皮膚で合成されますので これは日本だけの問題ではありません 3) ビタミン D 欠乏が近年増加してきた要因は大きく 3 つある 1) 1 つ目は 母乳栄養が推進されていることである 母乳は 免疫など赤ちゃんにとって好ましいことが多いが 人工乳に比較して格段にビタミン D 含有量が少ない これまでビタミン D 欠乏症を発症した児は ほとんどすべて母乳栄養児である 症状が出ていなくても 多くの母乳栄養児はビタミン D 不足状態にある 2 つ目の要因は 日光浴の不足である 昔 くる病が多くみられたころは 赤ちゃんに日光浴がすすめられた ところが 欧米の白色人種で 紫外線による皮膚がんの関連が明らかになってから 紫外線対策が盛んにとられるようになった 皮膚がんだけでなく 皮膚老化いわゆるしみやしわ予防のため 若年女性はとくに紫外線対策に気をつけて
いる 白色人種では 小児期の紫外線暴露も皮膚がんに関与するというデータがあることから 赤ちゃんにまで紫外線対策の活動が広まっている 母子手帳の記載が 日光浴から外気浴に変更されたり 赤ちゃん用の日焼け止めクリームが商品化されたりしている しかし 有色人種である日本人では 紫外線と悪性の皮膚がんの発生との関連は明らかではない ビタミン D が合成されるためには 適度な日光浴が必要である 紫外線暴露を過度に避けるあまり 日光をまったく浴びないと ビタミン D 欠乏となる このことは ビタミン D 欠乏症が 北海道など緯度の高い地域や 外出を制限している乳幼児に多いことからも明らかである 3 つ目の要因は 食事制限や食事の偏りである そのなかでも最も多いのは 食事アレルギーやアトピー性皮膚炎がある幼児に 卵や動物性タンパク質を制限している場合である ビタミン D は魚 卵 きのこなどに多く含まれている アレルギーを心配して親が勝手に食事制限をしていたり 制限を行う際に適切な代替食品の指導が行われていなかったりする場合に ビタミン D 欠乏症が起こっている その他にも菜食主義や偏食によって起こる場合がある 主に乳児ではビタミン D 欠乏性低カルシウム血症 幼児ではビタミン D 欠乏性くる病を起こす 1) 病歴聴取の際にはビタミン D 欠乏症の危険因子を念頭におく必要がある 危険因子としては 完全母乳栄養母親のビタミン D 摂取不足 食事摂取不足 アレルギーなどによる食事制限 慢性下痢 外出の不足 高緯度などがあげられる 2) 症状は 年齢によって特徴があり 1 歳未満の乳児では ビタミン D 欠乏性低カルシウム血症が多く 低カルシウム血症による全身性のけいれんが初発症状となる 低カルシウム血症は 感染症などの発熱時に悪化しやすいので 熱性けいれんと思われる経過でも ビタミン D 欠乏症の可能性があるため 血中カルシウム値のチェックが必要である 乳児では 他の臨床所見として 頭蓋骨が柔らかくへこむ ( 頭蓋瘍 ) 肋軟骨移行部の膨隆( 肋骨念珠 ) がみられることがある 1) 1 歳すぎの幼児では ビタミン D 欠乏性くる病として発症する くる病はカルシウムやリンの不足により骨の石灰化が障害される状態である 症状としては O 脚が最も多く その他に歩行開始の遅れや歩行異常 低身長などがある 乳幼児は生理的にも O 脚となるが 程度が強い場合はレントゲン撮影が必要である 幼児では他に 肋骨念珠 手首など長幹骨骨端部の膨隆 X 脚などがみられる 1) 乳児期後期以降 すなわち処女歩行が始まる頃は O 脚 すなわち下腿の下 1/3 位が曲がってくることで見つかります 3) カルシウムを上げるために副甲状腺ホルモンが上昇し 血中リン値が低値となる つまり 血中のカルシウムあるいはリンが低値で アルカリフォスファターゼ値が高値の場合は ビタミン D 欠乏症が疑われる 血中副甲状腺ホルモンは高値となる 骨レントゲン所見では 手首や膝の長幹骨骨端部に 杯状変形 (cupping) けば立ち(fraying) 骨端部の拡大(flaring) な
どのくる病に特徴的な所見がみられる ただし 乳児では骨所見が明らかでないこともある 1) 臨床的には 骨格の変形や肋軟骨部の腫脹 ( くる病念珠 ) および成長障害などがみられる 骨軟化症では 症状として骨痛を訴えることが多い X 線学的には 長管下骨幹端にスプレッディング ( 骨端線の拡大 ) カッビング( 盃状陥凹 ) フレイング( 毛ばだち ) などがみられる また 不完全骨折と特有の仮骨形成の結果と考えられる透亮像は looser zone として知られる 痙攣 テタニーなど低カルシウム血症に伴う症状を伴うこともある テタニーを誘発する手技を用いる診察所見として Trousseau 徴候 Chvostek 徴候などがある また 筋力低下を伴う事もある 成人では ビタミン D 欠乏あるいは不足による骨粗鬆症の発症増加や 筋力低下による転倒リスクの増加が指摘されている 2) Wrist X ray showing changes in rickets, mainly cupping is seen here. Rickets. Wikipedia last modified on 6 January 2014 at 19:54. http://en.wikipedia.org/wiki/rickets ビタミン D 欠乏の診断は 血中 25OHD 値により行うことが重要である しかし 日本では保険適応がないという問題がある ビタミン D 欠乏の診断基準は小児での検討は不十分ではあるが 成人での値をふまえて 25OHD 値が 50 nmol/l(20 ng/ml) 以下をビタミン D 欠乏症 80nmol/L(32 ng/ml) 以下をビタミン D 不足とする報告が増えている 以前より 基準値が高くなっている 2) 臨床検査では低カルシウム血症 低リン血症 高アルカリホスファターゼ血症 血中 PTH 高値 血中 25OHD 低値が認められる しかし 低カルシウム血症 低リン血症は同時に存在しない場合もあることに注意を要する 2) 肝臓および腎臓の機能障害により ビタミン D の吸収障害と活性化障害がもたらされ ビタミ
ン D 欠乏性くる病が発症することがある 特に 腎機能障害においては リンの排泄障害や二次性副甲状腺機能亢進症と合わさって複雑な病態をとるので CKD-MBD(chronic kidney disease-mineral and bone disorders) と総称され 臨床的な課題として検討されている 2) 日本では 処方できる乳児用のビタミン D 製剤は 活性型ビタミン D しかないため 過量にならないよう注意して行う必要がある ビタミン D 製剤は 基本的に生理量を補充する 低カルシウム血症が強い例では 初期にはカルシウム製剤も併用する この治療とともに 生活環境の改善について指導する 適切に生活環境が改善されていれば 骨所見の改善後 ビタミン D 製剤を中止できる 1) ビタミン D 欠乏性くる病の治療には 1αOHD( アルファカルシドール ) の 0.1μg/kg/ 日程度の投与が行われるが 症状の改善とともに減量する 腎石灰化や尿路結石をきたさないよう 血中 尿中カルシウム値をモニターし 過剰投与を避ける 2) 痙攣を伴う重度の低カルシウム血症の場合は カルシウム製剤の静注により血清カルシウム値を補正する 血清カルシウム値を補正してテタニー症状を軽快させることを目的として カルテコールなどの投与により急速にカルシウムを負荷するときは 心拍数の低下をきたすことがあるので 心電図計でモニターする必要がある 2) 自然のVD にはVD 2 ( エルゴカルシフェロール ) と VD 3 ( コレカルシフェロール ) があります 前者は魚 卵黄など動物性食品 後者は皮膚での合成のほか キクラゲ キノコ 大豆など植物性食品に多く含まれます 両者の抗くる病効果は変わらないと考えられています 3) 欧米では 近年のビタミン D 欠乏症の増加のために全母乳栄養児にビタミン D の予防的投与が推奨されているが 日本では 乳児用の天然ビタミン D 製剤がない 現在わが国でできることとしては 母乳栄養児や食事制限をしている小児では 食事や乳児用ミルクからビタミン D を積極的にとること 適度な日光浴 ( 季節 緯度などにより異なるがおおむね 1 日 15 分程度 ) をすすめること 食事制限は危険性や必要性を認識したうえで行うことである 1) ビタミン D 欠乏の第一原因は ビタミン D の摂取不足であるので ビタミン D の栄養素としての必要量を決定する必要がある しかし ビタミン D は 日光照射による体内合成も可能であるので 必要摂取量の決定が難しい 上述の米国の基準では 2003 年版では 1 日 200 単位であったビタミン D 推奨量が 400 単位 (10μg) に引き上げられ それも生まれた日から毎日必要であるということが強調されている これに対し 日本の 2010 年版食事摂取基準によると ビタミン D の目安量は 6 ヶ月未満が 100 単位 6 ヶ月から 1 歳未満が 200 単位 1-7 歳が 100 単位 8-9 歳が 120 単位 9-14 歳が 140 単位となっており 少ない量となっている ただし 日照を受ける機会の少ない乳児の目安量は 200 単位に増量されている 外遊びが少なく カルシウム摂取も不足しがちな現代生活では より多くのビタミン D を摂取することが望ましい ビタミン D を多く含んだ食品には 魚介類 ( 魚肉 ウナギ しらす干し アンコウの肝など ) 卵黄 バター キノコ類などがある 2) 低出生体重児ばかりでなく 母乳栄養を促進するうえで VD 不足には注意が必要です 妊婦の栄養の過誤 ダイエットなどで 母親の VD 不足が指摘されています VD 不足のもっとも
よい指標は 血中 25(OH)D 濃度と考えられています 胎盤は 25(OH)D は通過させますが VD 1 25(OH) 2 D は通過させません 一方 母乳中への移行は VD は良好ですが 25(OH) D は 1% ほどで悪く 1 25(OH) 2 D はまったく移行しません 以上のことから 低出生体重児の VD の供給は VD を母親に投与し 母乳を介して児に供給することが理想です 活性 VD は母乳に移行しませんので 母乳を推進する人たちは VD の入手も同時に働きかける必要があります 3) 普段から 小さな子供に接しているプライマリ ケア医が出来ることも多いと思う 母乳栄養児や食事制限をしている児では特に 食事やミルクからビタミン D を積極的にとること 適度な日光浴をすすめること 食事制限は危険性や必要性を認識したうえで行うことを意識しておこうと思う 熱性痙攣のような場合でも 状況によっては低カルシウム血症も疑う必要がある 症状や所見にも注意をしておこうと思う 参考文献 1. 北中幸子. 乳幼児のビタミン D 欠乏. 綜合臨牀 60(2): 306-307, 2011. 2. 大薗恵一. 現代の栄養欠乏としてのビタミン D 欠乏. ビタミン 86(1): 28-31, 2012. 3. 松浦信夫. よくある子どもの骨の病気 ~ 北国にまだ残るビタミン D 欠乏性くる病 ~. チャイルドヘ ルス 14(2): 1026-1029, 2011. 4. 巷野悟郎. お母さんから出たこんな質問. チャイルドヘルス 14(7): 1432-1432, 2011. 5. くる病とビタミン D. KJ カーペンター : 栄養学小史その三 (1912 ー 1944). 西南女学院大学ホ ームページ http://www.seinan-jo.ac.jp/university/nutrition/history/history03.htm