Ⅰ 向精神薬の合理的な用い方 ④ 3 理学的および生化学的検査 身長 体重 体温 脈拍 血圧などの測定とともに 心電図およ び血液生化学的検査を施行し生体の病的状態の有無を評価してお く 脳波 CT MRI SPECT PET NIRS 等も必要に応じて施行 する 2 薬物療法の実際 ① 適切な薬剤

Similar documents
3) 適切な薬物療法ができる 4) 支持的関係を確立し 個人精神療法を適切に用い 集団精神療法を学ぶ 5) 心理社会的療法 精神科リハビリテーションを行い 早期に地域に復帰させる方法を学ぶ 10. 気分障害 : 2) 病歴を聴取し 精神症状を把握し 病型の把握 診断 鑑別診断ができる 3) 人格特徴

2 1. 精神科薬物療法の基本 医療チームの士気を高め, 心理社会的治療への導入をも容易にする. 薬物療法の効用を最大限に引き出す技術を身につけることは今日の精神科臨床において必須である. 1 薬物療法の目的 a. 対症レベルでの改善薬物治療は必ずしも病態や病因の本質に作用しなくてもよい. 認知症の

賀茂精神医療センターにおける精神科臨床研修プログラム 1. 研修の理念当院の理念である 共に生きる 社会の実現を目指す に則り 本来あるべき精神医療とは何かを 共に考えて実践していくことを最大の目標とする 将来いずれの診療科に進むことになっても リエゾン精神医学が普及した今日においては 精神疾患 症

別添 1 抗不安薬 睡眠薬の処方実態についての報告 平成 23 年 11 月 1 日厚生労働省社会 援護局障害保健福祉部精神 障害保健課 平成 22 年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業 向精神薬の処方実態に関する国内外の比較研究 ( 研究代表者 : 中川敦夫国立精神 神経医療研究センタートラン

抗精神病薬の併用数 単剤化率 主として統合失調症の治療薬である抗精神病薬について 1 処方中の併用数を見たものです 当院の定義 計算方法調査期間内の全ての入院患者さんが服用した抗精神病薬処方について 各処方中における抗精神病薬の併用数を調査しました 調査期間内にある患者さんの処方が複数あった場合 そ

オクノベル錠 150 mg オクノベル錠 300 mg オクノベル内用懸濁液 6% 2.1 第 2 部目次 ノーベルファーマ株式会社

01 表紙

26 年度後期時間割 時限は下記の通り 11 8:50~10: :30~12: :00~14: :50~14: :40~16: :30~16: :20~17:50 時限の例 開始時限が11で終了時限が11の場合は8:

wslist01

スライド 1

症例報告書の記入における注意点 1 必須ではない項目 データ 斜線を引くこと 未取得 / 未測定の項目 2 血圧平均値 小数点以下は切り捨てとする 3 治験薬服薬状況 前回来院 今回来院までの服薬状況を記載する服薬無しの場合は 1 日投与量を 0 錠 とし 0 錠となった日付を特定すること < 演習

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

医療連携ガイドライン改

11総法不審第120号

Ⅰ. 改訂内容 ( 部変更 ) ペルサンチン 錠 12.5 改 訂 後 改 訂 前 (1) 本剤投与中の患者に本薬の注射剤を追加投与した場合, 本剤の作用が増強され, 副作用が発現するおそれがあるので, 併用しないこと ( 過量投与 の項参照) 本剤投与中の患者に本薬の注射剤を追加投与した場合, 本

スライド 1

<4D F736F F F696E74202D202888F38DFC AB38ED28FEE95F182CC8BA4974C82C98AD682B782E B D B2E >

スライド 1

10038 W36-1 ワークショップ 36 関節リウマチの病因 病態 2 4 月 27 日 ( 金 ) 15:10-16:10 1 第 5 会場ホール棟 5 階 ホール B5(2) P2-203 ポスタービューイング 2 多発性筋炎 皮膚筋炎 2 4 月 27 日 ( 金 ) 12:4

幻覚が特徴的であるが 統合失調症と異なる点として 年齢 幻覚がある程度理解可能 幻覚に対して淡々としている等の点が挙げられる 幻視について 自ら話さないこともある ときにパーキンソン様の症状を認めるが tremor がはっきりせず 手首 肘などの固縮が目立つこともある 抑うつ症状を 3~4 割くらい

11総法不審第120号

NIRS は安価かつ低侵襲に脳活動を測定することが可能な検査で 統合失調症の精神病症状との関連が示唆されてきました そこで NIRS で測定される脳活動が tdcs による統合失調症の症状変化を予測し得るという仮説を立てました そして治療介入の予測における NIRS の活用にもつながると考えられまし

こうすればうまくいく! 薬剤師による処方提案

博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文

シプロフロキサシン錠 100mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにシプロフロキサシン塩酸塩は グラム陽性菌 ( ブドウ球菌 レンサ球菌など ) や緑膿菌を含むグラム陰性菌 ( 大腸菌 肺炎球菌など ) に強い抗菌力を示すように広い抗菌スペクトルを

未承認薬 適応外薬の要望に対する企業見解 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 会社名要望された医薬品要望内容 CSL ベーリング株式会社要望番号 Ⅱ-175 成分名 (10%) 人免疫グロブリン G ( 一般名 ) プリビジェン (Privigen) 販売名 未承認薬 適応 外薬の分類

「手術看護を知り術前・術後の看護につなげる」

認定看護師教育基準カリキュラム

睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン_プレス資料

改訂後 ⑴ 依存性連用により薬物依存を生じることがあるので 観察を十分に行い 用量及び使用期間に注意し慎重に投与すること また 連用中における投与量の急激な減少ないし投与の中止により 痙攣発作 せん妄 振戦 不眠 不安 幻覚 妄想等の離脱症状があらわれることがあるので 投与を中止する場合には 徐々に

Microsoft PowerPoint - 参考資料

11総法不審第120号

添付文書情報 の検索方法 1. 検索条件を設定の上 検索実行 ボタンをクリックすると検索します 検索結果として 右フレームに該当する医療用医薬品の販売名の一覧が 販売名の昇順で表示されます 2. 右のフレームで参照したい販売名をクリックすると 新しいタブで該当する医療用医薬品の添付文書情報が表示され

第1回肝炎診療ガイドライン作成委員会議事要旨(案)

症患者における検討は全く行われていない そこで本研究では VPA 服用中の統合失調症患者における高アンモニア血症に関するメカニズムを検討するために当該患者 37 名の朝食前空腹時血液サンプル ( 10mL) を採取し 血清アンモニアおよび VPA 濃度 尿素サイクルに関連する 40 種類の血中アミノ

<4D F736F F D2082A8926D82E782B995B68F E834E838D838A E3132>

統合失調症ってどんな病気? 統合失調症は 全世界で共通してみられる さまざまなこころの症状を示す病気です 多くは思春期や青年期に発症し 決して稀な病気ではありません 一生のうちにこの病気にかかる人の数は 100~120 人に1 人と言われています また 現在わが国すべての診療科に入院している人の数は

平成 28 年度診療報酬改定情報リハビリテーション ここでは全病理に直接関連する項目を記載します Ⅰ. 疾患別リハビリ料の点数改定及び 維持期リハビリテーション (13 単位 ) の見直し 脳血管疾患等リハビリテーション料 1. 脳血管疾患等リハビリテーション料 (Ⅰ)(1 単位 ) 245 点 2

A9R284E

(別添様式)

95_財団ニュース.indd

2. 改訂内容および改訂理由 2.1. その他の注意 [ 厚生労働省医薬食品局安全対策課事務連絡に基づく改訂 ] 改訂後 ( 下線部 : 改訂部分 ) 10. その他の注意 (1)~(3) 省略 (4) 主に 50 歳以上を対象に実施された海外の疫学調査において 選択的セロトニン再取り込み阻害剤及び

統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異の同定と病態メカニズムの解明 ポイント 統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異 (CNV) が 患者全体の約 9% で同定され 難病として医療費助成の対象になっている疾患も含まれることが分かった 発症に関連した CNV を持つ患者では その 40%

はじめに この 成人 T 細胞白血病リンパ腫 (ATLL) の治療日記 は を服用される患者さんが 服用状況 体調の変化 検査結果の経過などを記録するための冊子です は 催奇形性があり サリドマイドの同類薬です は 胎児 ( お腹の赤ちゃん ) に障害を起こす可能性があります 生まれてくる赤ちゃんに

33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

14栄養・食事アセスメント(2)

ロペラミド塩酸塩カプセル 1mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにロペラミド塩酸塩は 腸管に選択的に作用して 腸管蠕動運動を抑制し また腸管内の水分 電解質の分泌を抑制して吸収を促進することにより下痢症に効果を示す止瀉剤である ロペミン カプセル

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

未承認の医薬品又は適応の承認要望に関する意見募集について

301226更新 (薬局)平成29 年度に実施した個別指導指摘事項(溶け込み)

Microsoft Word - ①【修正】B型肝炎 ワクチンにおける副反応の報告基準について

医療法人高幡会大西病院 日本慢性期医療協会統計 2016 年度



医薬品の添付文書等を調べる場合 最後に 検索 をクリック ( 下部の 検索 ボタンでも可 ) 特定の文書 ( 添付文書以外の文書 ) の記載内容から調べる場合 検索 をクリック ( 下部の 検索 ボタンでも可 ) 最後に 調べたい医薬品の名称を入力 ( 名称の一部のみの入力でも検索可能

使用上の注意 1. 慎重投与 ( 次の患者には慎重に投与すること ) 1 2X X 重要な基本的注意 1TNF 2TNF TNF 3 X - CT X 4TNFB HBsHBcHBs B B B B 5 6TNF 7 8dsDNA d

INDEX 1. どのような病気ですか? 2. どのような症状ですか? 3. 病気の経過と症状は? 4. 治療はどのように行われますか? 1p 2p 4p 6 p 5. 精神科リハビリテーションとは? 10p 6. 再発しやすい病気です 12p 7. 再発のサインを見逃さない 13p 8. 制度を上

ピルシカイニド塩酸塩カプセル 50mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにピルジカイニド塩酸塩水和物は Vaughan Williams らの分類のクラスⅠCに属し 心筋の Na チャンネル抑制作用により抗不整脈作用を示す また 消化管から速やかに

Microsoft PowerPoint - (最新版)0311付.pptx

資料

PowerPoint プレゼンテーション

untitled

査を実施し 必要に応じ適切な措置を講ずること (2) 本品の警告 効能 効果 性能 用法 用量及び使用方法は以下のとお りであるので 特段の留意をお願いすること なお その他の使用上の注意については 添付文書を参照されたいこと 警告 1 本品投与後に重篤な有害事象の発現が認められていること 及び本品

公的医療保険が対象とならない治療 投薬などの費用 ( 例 : 病院や診療所以外でのカウンセリング ) 精神疾患 精神障害と関係のない疾患の医療費 医療費の自己負担ア ) 世帯 ( 1) における家計の負担能力 障害の状態その他の事情をしん酌した額 ( しん酌した額が自立支援医療にかかった費用の 10

総合診療

日本内科学会雑誌第98巻第12号

3. 安全性本治験において治験薬が投与された 48 例中 1 例 (14 件 ) に有害事象が認められた いずれの有害事象も治験薬との関連性は あり と判定されたが いずれも軽度 で処置の必要はなく 追跡検査で回復を確認した また 死亡 その他の重篤な有害事象が認められなか ったことから 安全性に問

事柄であるため まず 特例法と GID に関してここ 1 ジェンダー アイデンティティの判定 DSM- Ⅳ -TR や ICD-10 を参考にしながら 以下の で見ておきたい ことを中心に検討する ①自らの性別に対する不快感 嫌悪感を持つ 1. 特例法の概要 ②反対の性別に対する強く持続的な同一感を

DRAFT#9 2011

<8CA788E389EF95F D E717870>

用法 用量 発作性夜間ヘモグロビン尿症における溶血抑制 mg mg mg mg kg 30kg 40kg 20kg 30kg 10kg 20kg 5kg 10kg 1900mg mg mg mg

Untitled

P01-16

染症であり ついで淋菌感染症となります 病状としては外尿道口からの排膿や排尿時痛を呈する尿道炎が最も多く 病名としてはクラミジア性尿道炎 淋菌性尿道炎となります また 淋菌もクラミジアも検出されない尿道炎 ( 非クラミジア性非淋菌性尿道炎とよびます ) が その次に頻度の高い疾患ということになります

( 様式乙 8) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 米田博 藤原眞也 副査副査 教授教授 黒岩敏彦千原精志郎 副査 教授 佐浦隆一 主論文題名 Anhedonia in Japanese patients with Parkinson s disease ( 日本人パー

2. 平成 9 年遠隔診療通知の 別表 に掲げられている遠隔診療の対象及び内 容は 平成 9 年遠隔診療通知の 2 留意事項 (3) イ に示しているとお り 例示であること 3. 平成 9 年遠隔診療通知の 1 基本的考え方 において 診療は 医師又は歯科医師と患者が直接対面して行われることが基本

のつながりは重要であると考える 最近の研究では不眠と抑うつや倦怠感などは互いに関連し, 同時に発現する症状, つまりクラスターとして捉え, 不眠のみならず抑うつや倦怠感へ総合的に介入することで不眠を軽減することが期待されている このようなことから睡眠障害と密接に関わりをもつ患者の身体的 QOL( 痛

表紙.indd

抗菌薬の殺菌作用抗菌薬の殺菌作用には濃度依存性と時間依存性の 2 種類があり 抗菌薬の効果および用法 用量の設定に大きな影響を与えます 濃度依存性タイプでは 濃度を高めると濃度依存的に殺菌作用を示します 濃度依存性タイプの抗菌薬としては キノロン系薬やアミノ配糖体系薬が挙げられます 一方 時間依存性

untitled

Epilepsy2015

1508目次.indd

 

検査項目情報 6475 ヒト TARC 一次サンプル採取マニュアル 5. 免疫学的検査 >> 5J. サイトカイン >> 5J228. ヒトTARC Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital Ver.6 thymus a

糖尿病経口薬 QOL 研究会研究 1 症例報告書 新規 2 型糖尿病患者に対する経口糖尿病薬クラス別の治療効果と QOL の相関についての臨床試験 施設名医師氏名割付群記入年月日 症例登録番号 / 被験者識別コード / 1/12

2013_ここからセンター_発達障害

Microsoft Word - 第14回定例会_平田様_final .doc

要望番号 ;Ⅱ 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 1) 1. 要望内容に関連する事項 要望 者 ( 該当するものにチェックする ) 優先順位 学会 ( 学会名 ; 日本ペインクリニック学会 ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 2 位 ( 全 4 要望中 )

”ƒ.pdf

インスリンが十分に働かない ってどういうこと 糖尿病になると インスリンが十分に働かなくなり 血糖をうまく細胞に取り込めなくなります それには 2つの仕組みがあります ( 図2 インスリンが十分に働かない ) ①インスリン分泌不足 ②インスリン抵抗性 インスリン 鍵 が不足していて 糖が細胞の イン

002_責)モズレー_紘.indd

ファルマシア・53巻・7号・668頁

要望番号 ;Ⅱ-286 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 要望者 ( 該当するものにチェックする ) 学会 ( 学会名 ; 特定非営利活動法人日本臨床腫瘍学会 ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 優先順位 33 位 ( 全 33 要望

フレイルのみかた

<4D F736F F D208D B B835896F2938A975E82CC8D6C82A695FB2E646F63>

脂質異常症を診断できる 高尿酸血症を診断できる C. 症状 病態の経験 1. 頻度の高い症状 a 全身倦怠感 b 体重減少 体重増加 c 尿量異常 2. 緊急を要する病態 a 低血糖 b 糖尿性ケトアシドーシス 高浸透圧高血糖症候群 c 甲状腺クリーゼ d 副腎クリーゼ 副腎不全 e 粘液水腫性昏睡

に効果のあった医療機関及び薬局での事例 ( 学会ガイドライン STOPP クラ イテリア プレアボイド等 ) の収集と分析を行う必要がある 2. 高齢者の多剤服用 ( ポリファーマシー ) 対策のためのガイドライン等 高齢者の薬物動態等を踏まえた投与量の調整 ( 止めどき 減らしどき ) や薬物相互

ータについては Table 3 に示した 両製剤とも投与後血漿中ロスバスタチン濃度が上昇し 試験製剤で 4.7±.7 時間 標準製剤で 4.6±1. 時間に Tmaxに達した また Cmaxは試験製剤で 6.3±3.13 標準製剤で 6.8±2.49 であった AUCt は試験製剤で 62.24±2

資料2 ゲノム医療をめぐる現状と課題(確定版)

インフルエンザ定点以外の医療機関用 ( 別記様式 1) インフルエンザに伴う異常な行動に関する調査のお願い インフルエンザ定点以外の医療機関用 インフルエンザ様疾患罹患時及び抗インフルエンザ薬使用時に見られた異常な行動が 医学的にも社会的にも問題になっており 2007 年より調査をお願いしております

Transcription:

2 Ⅰ 向精神薬の合理的な用い方 向精神薬による薬物療法の導入は精神医療を一変させ 多くの患 者達に多大な恩恵をもたらしたことは 万人の認めるところとなっ ている 精神障害は生物学的基盤を有するのみでなく 心理社会的 な側面も無視できないが 精神薬理学はあくまで科学の一分野であ り 薬物療法に際しては その薬理学的および生化学的基礎の充分 な認識を必要とする それゆえ適切かつ有効で科学的 合理的な薬 物療法が施行されるためには 医師の精神医学や薬理学のみならず 一般医学に対する広い知識が要求される 1 薬物療法の開始に際して ① 正確な診断 薬物治療は診断に基づいて行われる 当然正確な診断が必要だ が 診断は単に病名の決定にあるのではなく 疾患の病的メカニズ ム 経過および転帰 治療への反応性の予測などを総合的に判断し たものでありたい 初発か再発か 急性期か慢性期か 前景に立っている症状は何 か 合併症の有無などが重要である ② 標的症状の見極め 病像全体の中からとらえた標的症状を決定しておくと 治療成績 をあげることができる しかしながら各種の標的症状に対してそれ ぞれ有効であると思われる薬物を組み合わせて処方すると必然的に 多剤併用 polypharmacy となる 現在 抗精神病薬や抗うつ薬 でそれぞれの疾患の個々の症状に特異的に有効な薬物は存在しな い 多剤併用の効用を支持するデータは存在しないことに留意すべ きである ③ 治療歴の聴取 これまでどのような治療を受けたか その効果や副作用はどうで あったか 特に薬物に焦点をあてて聴取しておくことは大切であ る また血縁者の当該薬物に対する薬効の評価は薬物選択の情報と して重視される 498 12978

Ⅰ 向精神薬の合理的な用い方 ④ 3 理学的および生化学的検査 身長 体重 体温 脈拍 血圧などの測定とともに 心電図およ び血液生化学的検査を施行し生体の病的状態の有無を評価してお く 脳波 CT MRI SPECT PET NIRS 等も必要に応じて施行 する 2 薬物療法の実際 ① 適切な薬剤の選択 適切な診断が前提となるが 標的症状に対しての薬物の効果を評 価する 薬剤は単剤投与を原則とし 多剤併用は極力避ける ② 合理的な適応基準にのっとった適切な薬用量と充分な投与期 間 用法 用量 充分な薬効が得られないときは まず最初に投与した薬剤の許容 最大量まで投与する 安易な多剤併用は極力避ける 投与期間が充 分でも標的症状が消退しない際は他剤への変更も考慮する 効果と 副作用を勘案しながら漸増し 減量も漸減を心がける 投与経路や 投薬回数は必ずしも経口投与や 1 日 3 回にこだわらず 病態や身体 状況に適った方法を柔軟に選択する ③ 副作用の防止 副作用の出現には常に監視を怠らぬようにしたい 出現頻度の高 いものに関しては 事前に説明しておくことも必要であるし 患者 が副作用を常に報告できる雰囲気をつくっておくことも重要といえ る 薬物の血中濃度の測定は体内動態を知り 効果や副作用出現の 予測に役立つ また向精神薬同士および他剤との薬物相互作用にも 注意が必要である 副作用の詳細は第Ⅴ章にまとめた 高齢者や小児は薬物動態や薬力学が成人と異なるので 投薬に際 しては 投与量を 1 2 1 3 にする ④ アドヒアランス 主体的 継続的服薬 の向上 患者の意識的および無意識な薬物療法に対する構えを把握し 良 498 12978

4 Ⅰ 向精神薬の合理的な用い方 好な医師患者関係を築くことがアドヒアランス向上に役立つ 服薬 に関する指示が簡単 明瞭なこと 薬剤の数が少ないことなどはア ドヒアランス向上に寄与する ⑤ 向精神薬多剤投与減算規定 平成 26 年 10 月 1 日から 抗不安薬 睡眠薬 抗うつ薬 抗精神 病薬の適切な投薬の推進のため 向精神薬多剤投与減算規定が施行 されている 規定では 1 回の処方において 3 種類以上の抗不安 薬 3 種類以上の睡眠薬 4 種類以上の抗うつ薬または 4 種類以上 の抗精神病薬を投与した場合に薬剤科が 20 減額となる 本項でも強調したように 薬剤は単剤投与を原則とするべきであ る しかし実際の臨床では多剤大量投与が依然としてみられてい る 上述のような規定で多剤併用が減少するであろうが 臨床医は 薬物投与の原則を遵守し 適切な薬剤投与を考えるべきであろう 498 12978

6 Ⅱ. 精神障害とその治療 1. 統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群 総説 2014 年に DSM- Ⅳから DSM-5 に改訂された精神疾患の統計診断マニュアルによれば, いわゆる統合失調症圏に属する統合失調症を中心とする精神病性障害は統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群としてまとめられた. また従来の統合失調症の下位分類 ( 解体型, 妄想型, 緊張型 ) はなくなった. 今回の改訂にあたってはこの点を考慮して, これらの疾患群に対する薬物療法について解説することとした. 精神病性障害は 1: 妄想,2: 幻覚,3: まとまりのない思考 ( 発語 ),4: ひどくまとまりのない, または異常な運動行動 ( 緊張病を含む ),5: 陰性症状の 5 項目の内 1 つ以上該当するものとされる. 1 4 はいわゆる陽性症状で精神病症状に該当する. これらの障害に含まれるものとして,1: 統合失調型 ( パーソナリティ ) 障害,2: 妄想性障害,3; 短期精神病性障害,4: 統合失調様障害,5: 統合失調症,6: 統合失調感情障害,7: 物質 医薬品誘発性精神病性障害,8: 他の医学的疾患による精神病性障害,9: 緊張病があげられている. このうち 1 はパーソナリティ障害として, また 7 は精神作用物質使用によって生じる精神病状態,8 はいわゆる症状性精神病をさしている.9 は従来, 統合失調症のサブタイプとしていたが, 今回の改訂で統合失調症に限らず, 緊張病症候群を呈するものを緊張病として広くとらえることになった. したがって本章では 2,3, 4,5,6 および 9 の障害を中心として精神病性障害の症状それぞれで構成される臨床病像に従って解説する. このうち 3 および 4 は病像的には統合失調症に合致するが, 罹病期間の相違によるものである. 498-12978

1. 統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群 7 この障害の中心をなす統合失調症については現段階で必ずしも一つの疾患単位ではなく, 症候群とみなす考え方が支持されているが, この障害に特徴的にみられる諸特性からこれらの一群の障害の総称として統合失調症という疾患名があると理解した方が適切かもしれない. しかし, 統合失調症の特徴的症状には認知や行動, 情動の面において機能の障害がみられるが, 一つの症状だけでは本疾患と診断するには適切ではないので, いずれにしても総合的に判断することも要請される. 一方, 本症は人格の病といわれるように人格全体に極めて深刻な障害を及ぼすものであるが, 薬物療法や精神科リハビリテーションなどの治療法の普及や社会生活支援のためのシステムの整備などによって, 著しい精神荒廃を示すような重症型患者が減少し, 逆に入院を必要としない軽症群の増加の指摘もされるようになっている. 本症はもともと内因性精神病といわれるように自生的に生じるとされるが, いまだその原因は不明である. 身体因として生理, 生化学的, 遺伝学的, 病理学的異常は想定されているが, 生物学的にみた疾患単位としての位置づけには成功していない. このうち遺伝学的研究では遺伝負因と発病リスクには深い関係があることが統計的に示されているので, その生物学的要因の関与は明らかである. 一方, 精神心理学的要因も発症や経過に無関係とはいえず, ストレス 脆弱性仮説といったこれらを統合した生物学的 精神心理学的な発病モデルの提唱もされている. 現時点ではしたがって本症の治療法は対症療法的な対応に限定されるが, 一方, 精神薬理学的知見からドパミンなどの脳内神経伝達物質による情報伝達機構の変化と統合失調症の精神症状の関連が明らかになっており, 抗精神病薬による本症の治療は重要な位置を占めている. 統合失調症の症状は陽性症状と陰性症状に大別できるが, 前者は産出性の症状で精神病症状ともいわれる. 主として急性期病像を構 498-12978