V 音楽科における実践例 -1 第 2 学年音楽科実践例 ようすをおもいうかべよう ~ かしをたいせつにしてうたいましょう ~ 保坂直行 1 題材について この題材は学習指導要領の第 1 学年の学年目標 (1) 及び (2) ならびに A 表現イ 歌詞の表す情景や気持ちを想像したり, 楽曲の気分を感じ取ったりし, 思いをもって歌うこと を実現するためのものである 本学級の子どもたちは, リズム打ちを楽しんだり, 歌を歌ったりすることが大好きである 音楽の時間に覚えた曲や, 毎朝歌う学級の歌を様々な場面で口ずさんでいる姿が見られる 音楽に合わせて自然に体を揺らして歌う子どもや, 歌うことに抵抗を示し, 声を出せない子どもなど, 実態は様々である 音楽の授業では, 昨年度, 題材 ようすをおもいうかべよう の歌唱教材 はるなつあきふゆ において, 歌詞にあるキーワードとなる言葉を手がかりにすると, 強弱や速度を工夫することができることを学習した しかし, 工夫を考えることができても歌唱表現に変化が見られなかったり, フレーズのまとまりを意識できずに言葉だけを変化させてしまっていたりする姿も多く見られた 本題材では, 共通事項 に着目した実践を行っていく 強弱 速度 などが工夫しやすい楽曲を用い, 曲想を感じ取らせ, 様々な曲想の違いがあることに気づかせたい そのため, 鑑賞教材には, 共通事項 が子どもたちに伝わりやすく演奏されている教材を扱う 子どもたちが鑑賞曲から受け取った楽曲の気分や場面の様子は, 共通事項 をもととしていることを実感させ, さらなる表現活動の楽しさを感じさせていきたい また, 鑑賞と表現の活動につながりをもたせ, 既習事項を生かしながら創造的に音楽活動にかかわる子どもをめざしていく 学習では, 交流の場 ( 人とのつながり ) と, これまでに身につけた力や経験を学習に結びつける活動 ( 実生活とのつながり ) を設定していく 交流の場では, 一人ひとりが自分の思いや考えを話したり, 歌唱したりし, 新たな気付きや発見につなげていきたい そこでは題材を通して, 自分の思いを友だちに 音楽のことば を用いて伝えたり, 発表したりできるように指導することにより, 自分と友だちの考えの相違点が子どもたち自身にもわかるものにしていく 自分の思いや意図をしっかりと伝えられることは, 表現の幅をさらに広げ, 表現の工夫や鑑賞の面白さを感じられる力になると考える そのため, 交流する場では, 音楽のことば を意識できるように, 工夫の仕方や発表の仕方を視覚的にもわかるよう提示する また, 学習の終わりには, わかったことが子ども自身にも感じられるよう学習シートを使用し, 既習事項を生かせたことに加え, 新たな表現方法を身につけられたことを実感できるようにしたい 2 題材の目標 楽曲の気分を感じ取りながら, 想像豊かに聴いたり思いをもって表現したりすることができるようにする
歌詞の表す様子や気持ちを想像して, 歌い方を工夫することができるようにする 本題材で位置付ける 共通事項 共通事項 本題材における学習内容 ( ア ) 曲の構成鑑賞曲 人形のゆめとめざめ から感じる場面や様子の変化は, 曲の構成や拍子の変化によることを知る 強弱速度歌唱曲 海とおひさま の歌詞は, 強弱や速度の変化によって情景を表すことができることを知る 3 本題材と研究総論のかかわり (1) 深めたい 考える力 伝える力 について本校音楽科では, 主に 自分はこうしたい こんな音楽に聴こえる こんなイメージ など子どもの内面的な思考を 考える力, 自分の思いを音 言葉で伝える などの対人的なものを 伝える力 としている 2 つの力は相互に行き来し, 活動の繰り返しによって高められていくと考えている また, 考える力 伝える力 で用いられる言語に着目し, 1 感じたことを表す言葉, 比喩する言葉 と 2 音楽を形づくっている要素についての言葉 共通事項 が文章やつぶやきに同時に存在したとき, 音楽のことば を用いているとしている 音楽のことば を思考場面や伝え合う場面の中で繰り返し用いながら活動することで, 自己の表現技能を高めながら, 自分にとって心地よいと感じられる表現にたどりつけるようにしたい 次に, 公開題材において特に深めたい 考える力 伝える力 について示す 本題材においては, 考える力 伝える力 のみとりを, 音楽のことば の深まりから行う これまでの研究においては 音楽のことば を定義したことにより, 子どもたち一人ひとりの 考える力 伝える力 の深まりを教師が把握していくことができた また, 子どもたちが自分の思いや意図をより他者にわかりやすく伝えられたり, 他者の考えを理解しやすくする手立てとなっていたりしたことは成果としてあげられる しかし, 他者との交流後に自分の考えがどのように変容したのか, また, 題材を終えてどのような力が身に付いたのかを自覚させたり, 教師が正確にみとったりすることは難しく, 課題となっていた そこで, 題材を通して 考える力 伝える力 の深まりをみとるために 音楽のことば の表れ方に着目する そのため題材の終わりに曲の面白さを伝える紹介文 わたしのお気に入り の記述を行う 題材の終わりに紹介文を記述することは, 自分の初期の気付きや考えが, 他者との交流によってどのように変容したのかを教師だけでなく, 子ども自身も感じ取れるものとなると考える また, 題材を構成する鑑賞教材と表現教材を, 子どもがどのような結び付け方で学習したのかを教師が的確にみとることで, フェーズ Ⅳ 音楽のことば を育てる課題設定 の追究につなげていきたい (2) 考える力 伝える力 をより深めるための つながり の姿子どもの思いや意図など内面的なものである 考える力 と, 音 言葉で伝える対人的なものである 伝える力 は, 鑑賞 表現活動の繰り返しによって相互に行き来し, 高められていく そこで, 題材の中にある鑑賞 表現の学習をより結びつけていく まずは教師自身が鑑賞 表現教材に共通する 共通事項 をはじめとする身に付けさせたい力を明確にし, 焦点化して題材を展開することで, 子ども自身が鑑賞 表現の関連を感じられるようにしていきたい
考える力 伝える力 を育てる つながり については, 上で示した鑑賞 表現の関連の他に, 人とのつながり に焦点をあてていく 自分の思いや意図に支えられる 考える力 を深めていく上で, 他者との交流は不可欠であり, 音や言葉で他者に伝える場は, 子どもが自分の思いや意図である内面的な思考を深める機会となる また, 他者との交流は, 自分では気づけなかった新たな考えに出会うことができたり, 自分では意識していなかった工夫を他者によって気づかされたりする場となる そこで, 本題材では, 考える力 伝える力 をより深めるための つながり の姿を, 集団での活動の中に見出したい 具体的には, ~ に共感している姿 ~ に納得している姿 ~ に違う考えをもっている姿 を考えている 昨年 1 年生の時には, 自分の意見をもち発表することはできても, 友だちの意見に共感したり取り入れたりする姿はあまり見られないといった発達段階であった そのため, 2 年生になった今年は, 上記のような姿に着目して, 授業構成を考えていきたい 4 指導計画 ( 総 5 時数 ) 時 主な学習内容と学習活動 1 曲の感じをつかむ 挿絵を見て, 様子を思い浮かべて範唱を聴く 歌詞から思い浮かんだ海の様子を発表する 声の出し方に気をつけて歌う 歌詞の内容や楽曲の気分に合った声の出し方を工夫して歌う 歌唱海とおひさま 2 海の様子や気持ちを思い浮かべて, 歌い方を工夫する 歌詞を読み,1~2 番では, 場面がどのように変わったかを話し合う 1 番の歌詞に合った歌い方を考えて歌唱する 歌唱海とおひさま 3 海の様子や気持ちを思い浮かべて, 工夫して歌本唱する 既習を生かして, 歌唱表現の工夫をする 時 2 番の歌詞に合った歌い方を考えて歌唱する 歌唱海とおひさま 具体の評価規準 ( 評価方法 ) 様子を思い浮かべて範唱を聴き, 進んで歌おうとしている 関 1 発言 表情観察 場面や様子を想像したり, その変化を感じ取ったりして, 歌い方を工夫している 創 1 発言内容 演奏聴取 場面や様子を想像したり, その変化を感じ取ったりして, 歌い方を工夫している 創 1 発言内容 演奏聴取 評価規準 A の子どもの姿 指導を要する子どもへの手立て 自分のイメージを膨らませられるように体を動かしながら歌っている ゆったりした3 拍子の拍の流れを感じ取るようにする 柔らかい声で, 流れるような感じで歌うようにする できるだけ一息で歌うようにする 歌詞をもとにし, イメージを生かして強弱や速度を工夫しながら表情豊かに歌っている 歌詞の内容から, 時間の変化, 海や波の様子などの変化を捉えるようにする 歌詞をもとにし, イメージを生かして強弱や速度を工夫しながら表情豊かに歌っている 歌詞の内容から, 海や波の様子などの変化を捉えるようにする
4 既習を生かして, 歌唱表現の工夫をする 歌詞を読み,3 番では, 場面がどのように変わったかを話し合う 3 段目の歌詞や旋律に合う歌い方を考えて歌唱する 気持ちをそろえて歌う 曲のおもしろさを伝える紹介文を書く 歌唱海とおひさま 5 楽曲の気分を感じ取って聴く 音楽を聴いて, 気付いたことや想像したことを発表する 旋律を口ずさみながら, 音楽に合わせて体を動かす 鑑賞人形のゆめと目ざめ 6 様子の変化を感じ取って聴く 音楽を聴いて想像した人形の気持ちを, 場面ごとに発表し合う 人形の気持ちや場面, 様子を想像しながら, 音楽を味わう 曲のおもしろさを伝える紹介文を書く 鑑賞人形のゆめと目ざめ 楽曲の気分を感じ取り, 声の出し方に気をつけて歌っている 技 1 演奏聴取 場面や様子を想像しながら, 楽曲の気分に合ったふさわしい動きを工夫して, 楽しんで聴こうとしている 関 1 行動観察 発言 場面や様子を想像しながら, 速度や強弱や拍子, 楽曲の気分の変化を味わって聴いている 鑑 1 発言 行動観察 曲の構成や旋律に着目し, イメージを生かして強弱や速度を工夫しながら表情豊かに歌っている ちゃぷちゃぷ などの部分を, 優しい感じや明るい感じなど, 語感が生み出す歌詞の気分を大切にしながら歌うようにする 休符を大切に感じて歌うように助言する 拍 拍子に合った動きや場面をつかんで動きで表現している どの場面の音楽なのかを自由に想像しながら聴くようにする 速度が変化することに気付くようにする 曲の気分が変化に合わせて, お話をしたり, 曲に浸りながら踊ったりしている 場面ごとに人形の気持ちを板書していく 強弱の変化にも気付くように促す 5 本時の実践場面 (1) 日時平成 24 年 6 月 30 日 ( 土 )(9:00~9:45) (2) 場所山梨大学教育人間科学部附属小学校第一音楽室 (3) 本時の目標 海の様子や気持ちを思い浮かべて, 歌い方を工夫できるようにする (4) 指導意図本時は, フェーズⅣ 既習を活用し, 音楽のことば を育てる課題設定 として適しているか授業実践を通して検証していく 既習としては前学年の同一題材の歌唱曲 はるなつあきふゆ の 共通事項 ( 強弱, 速度 ) があり, これらの既習を用いて学習を進めているかどうかを見とっ
ていく 本時において深めたい 考える力 伝える力 の具体像は, 強弱, 速度を歌唱教材 海とおひさま の歌唱表現の工夫に取り入れている姿である その際, 音楽のことば を様々な場面に用いている子どもの姿を期待したい 設定する つながり は, 既習事項である 実生活とのつながり と, 他者との交流である 人とのつながり である 既習事項を想起できるよう, 子どものつぶやきを既習事項に関わらせて取り上げたりしていく 考える力 伝える力 のみとりは, 一人ひとりの記述するワークシート, 発言や観察から行っていく ワークシートは 音楽のことば が明確に記入しやすいものとなるよう, 思いや意図と 共通事項 を子どもたちが視覚的に捉えやすいように工夫していく (5) 学習過程 分主な学習活動 内容指導上の留意点 研究テーマとの関わり ( 重点 ) 5 10 1 前時までの学習を振り返る 歌詞の内容や楽曲の気分に合った声の出し方を工夫して歌う 2 本時の課題をつかむ 1 番と2 番の歌詞はどのように変わったかを考える 1~2 番の歌詞に合った歌い方や, ゆったりした3 拍子の拍の流れを感じ取りながら歌えるようにする ( 既習 実生活とのつながり ) フレーズを感じて, できるだけ一息で歌う 既習事項を生かし, 歌い方を考えられるようにする 歌詞に合った歌い方を工夫しよう 15 10 5 既習の強弱や速度を生かして歌唱表現の工夫を考える 3 本時の課題を追究する 友だちと表現方法を交流し, よりよい表現を見つける 自分の工夫との相違点に着目しながら聴くようにする 4 本時の課題を深める 友だちの発表を聴き, 自分の歌唱表現に取り入れたい工夫を考える 5 本時のまとめをする 自分なりの歌唱表現で,2 番を通して歌う 身体表現が見られた時は, どのような思いやイメージを表すために行っているかを振り返られるよう声をかけていく 深めたい 考える力 伝える力 音楽のことば を用いながら既習を表現の工夫に取り入れ歌唱する力 のぞましい子どもの姿 音楽のことば を用いて他者に伝える姿 ( 発言 ワークシート ) 友だちの発表を聴き 自分の表現との相違点に気づける姿 考えた工夫を歌唱表現に生かす力 考える力 伝える力 を深めるために設定した つながり 手立て ペアやグループの話し合い活動 主な支援の手立て 音楽のことば を用いられるよう発表の仕方の提示 (6) 授業の視点 1 設定したつながりによって, すすんで考えたり伝えたりしようとする意欲的な姿が見られたか 2 設定したつながりによって, 深めたい 考える力 伝える力 に対するのぞましい子どもの姿は見られたか 3 子どものみとりは適切であったか また, それに基づく支援は有効であったか