今なぜ働き方改革が進んでいるのだろうか?-データで見る働き方改革の理由-

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Microsoft Word - H29 結果概要

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日韓比較(10):非正規雇用-その4 なぜ雇用形態により人件費は異なるのか?―賃金水準や社会保険の適用率に差があるのが主な原因―

調査結果 1. 働き方改革 と聞いてイメージすること 男女とも 有休取得 残業減 が 2 トップに 次いで 育児と仕事の両立 女性活躍 生産性向上 が上位に 働き方改革 と聞いてイメージすることを聞いたところ 全体では 有給休暇が取りやすくなる (37.6%) が最も多く 次いで 残業が減る (36

平成25年版 大阪における労働時間等の現状 ー仕事と生活の調和の実現に向けてー

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中小企業のための「育休復帰支援プラン」策定マニュアル

Microsoft PowerPoint - いしかわの「働き方改革」H30.4

図表 1 人口と高齢化率の推移と見通し ( 億人 ) 歳以上人口 推計 高齢化率 ( 右目盛 ) ~64 歳人口 ~14 歳人口 212 年推計 217 年推計

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Let s ゆとり! キャンペーン好事例 実施期間 : 平成 30 年 9 月 1 日 ~11 月 30 日 参加事業所数 :249 事業所 PickUp! 参加してどんな効果があったの? ゆとりキャンペーン参加事業所の事例紹介 宣言内容 県内一斉 ノー残業デー に参加します 毎月第 2 第 4 水

主な論点 資料 4 1. ワーク ライフ バランスの推進 生産性向上等の観点から 働き方とともに休み方を見直すことの必要性 重要性 (1) 有給休暇取得状況と長時間労働の国際比較 (2) 休暇取得と生産性との関係 (3) 仕事と仕事以外の生活の充実 2. 秋の連休の大型化等を実現する上での課題 (1

4 子育てしやすいようにするための制度の導入 仕事内容への配慮子育て中の社員のため以下のような配慮がありますか? 短時間勤務ができる フレックスタイムによる勤務ができる 勤務時間等 始業 終業時刻の繰上げ 繰下げによる勤務ができる 残業などの所定外労働を制限することができる 育児サービスを受けるため

ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)  レベル診断チェックシート

あおもり働き方改革推進企業認証制度 Q&A 平成 29 年 12 月 14 日 Vol.1 目次 1 あおもり働き方改革推進企業認証制度全般関係 Q1 県外に本社がある場合はどのように申請できるのか P1 2 あおもり働き方改革宣言企業関係 Q2 次世代法に基づく一般事業主行動計画とはどういうものか

調査実施の背景 わが国では今 女性活躍を推進し 誰もが仕事に対する意欲と能力を高めつつワークライフバランスのとれた働き方を実現するため 長時間労働を是正し 労働時間の上限規制や年次有給休暇の取得促進策など労働時間制度の改革が行なわれています 年次有給休暇の取得率 ( 付与日数に占める取得日数の割合

女性の活躍促進や仕事と子育て等の両立支援に取り組む企業に対するインセンティブ付与等 役員 管理職等への女性の登用促進 М 字カーブ問題の解消には企業の取組が不可欠 このため 企業の自主的な取組について 経済的に支援する 経営上のメリットにつなぐ 外部から見えるようにし当該取組の市場評価を高めるよう政

このジニ係数は 所得等の格差を示すときに用いられる指標であり 所得等が完全に平等に分配されている場合に比べて どれだけ分配が偏っているかを数値で示す ジニ係数は 0~1の値をとり 0 に近づくほど格差が小さく 1に近づくほど格差が大きいことを表す したがって 年間収入のジニ係数が上昇しているというこ

資料2(コラム)

23 歳までの育児のための短時間勤務制度の制度普及率について 2012 年度実績の 58.4% に対し 2013 年度は 57.7% と普及率は 0.7 ポイント低下し 目標の 65% を達成することができなかった 事業所規模別では 30 人以上規模では8 割を超える措置率となっているものの 5~2


職場環境 回答者数 654 人員構成タイプ % タイプ % タイプ % タイプ % タイプ % % 質問 1_ 採用 回答 /654 中途採用 % 新卒採用 % タ

平成 29 年度下期新潟市景況調査 ( 本報告 ) Ⅳ テーマ別調査結果 93

Microsoft Word - 4AFBAE70.doc

7 8 O KAYAKU spirit I O K T C % E C O M T O K T T M T I O O T C C C O I T O O M O O

制度名 No. 1 ( 働 1) フレックスタイム制度 対象者: 営業職の正社員 労働時間の清算期間: 毎月 1 日から末日までの1か月 1 日の所定労働時間は 8 時間 清算期間内の総労働時間: 1 日あたり8 時間として 清算期間中の労働日数を乗じて得られた時間数 ただし 清算期間内を平均し1

目次. 独立行政法人労働政策研究 研修機構による調査 速報値 ページ : 企業調査 ページ : 労働者調査 ページ. 総務省行政評価局による調査 ページ

働き方の現状と今後の課題

副業は日本社会に定着するだろうか - 副業の現状や今後の課題 -

第22回規制改革会議 資料3

女性の活躍推進の意義と課題 意 義 課題 少子高齢化で生産年齢人口が減少 労働力人口の増加 海外を含む企業間競争の中で 性別に関わらず優秀な人材の確保が必要 埋もれている優秀な人材の確保 少子化と生産年齢人口の減少が進む中で 女性の活躍の推進は喫緊の課題 女性の労働力率は 第 1 子出産を機に 6

2018年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果

テレワーク制度等 とは〇 度テレワーク人口実態調査 において 勤務先にテレワーク制度等があると雇用者が回答した選択枝 1 社員全員を対象に 社内規定などにテレワーク等が規定されている 2 一部の社員を対象に 社内規定などにテレワーク等が規定されている 3 制度はないが会社や上司などがテレワーク等をす

従業員に占める女性の割合 7 割弱の企業が 40% 未満 と回答 一方 60% 以上 と回答した企業も 1 割以上 ある 66.8% 19.1% 14.1% 40% 未満 40~60% 未満 60% 以上 女性管理職比率 7 割の企業が 5% 未満 と回答 一方 30% 以上 と回答した企業も 1

2019 年 3 月 経営 Q&A 回答者 Be Ambitious 社会保険労務士法人代表社員飯野正明 働き方改革のポイントと助成金の活用 ~ 働き方改革における助成金の活用 ~ Question 相談者: 製造業 A 社代表取締役 I 氏 当社における人事上の課題は 人手不足 です 最近は 予定

社会保障給付の規模 伸びと経済との関係 (2) 年金 平成 16 年年金制度改革において 少子化 高齢化の進展や平均寿命の伸び等に応じて給付水準を調整する マクロ経済スライド の導入により年金給付額の伸びはの伸びとほぼ同程度に収まる ( ) マクロ経済スライド の導入により年金給付額の伸びは 1.6

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PowerPoint プレゼンテーション

小-労働法ハンドブック-18.indd

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女性活躍による中小企業の生産性向上の余地

滋賀県内企業動向調査 2018 年 月期特別項目結果 2019 年 1 月 滋賀銀行のシンクタンクである しがぎん経済文化センター ( 大津市 取締役社長中川浩 ) は 滋賀県内企業動向調査 (2018 年 月期 ) のなかで 特別項目 : 働き方改革 ~ 年次有給休暇の取得

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スライド 1

図 1-a 貴社は 働き方改革に向けた取り組みを なっていますか? ( 企業規模別 ) 0% 20% 40% 60% 80% 100% 1 50 名 4 46% 6% 名 55% 36% 9% 名 63% 301 名以上 82% 9% 図 2 働き方改革に取り組んでいな

「新入社員意識調査」に関するアンケート調査結果

第第第ライフスタイルに対する国民の意識と求められるすがた50 また 働いていないが 今後働きたい と回答した人の割合は 男性では 7.4% であるのに対し て 女性は19.1% である さらに 女性の中では 30 代の割合が高く ( 図表 2-1-2) その中でも 特に三大都市圏で高い割合となってい

2. 女性の労働力率の上昇要因 М 字カーブがほぼ解消しつつあるものの 3 歳代の女性の労働力率が上昇した主な要因は非正規雇用の増加である 217 年の女性の年齢階級別の労働力率の内訳をみると の労働力率 ( 年齢階級別の人口に占めるの割合 ) は25~29 歳をピークに低下しており 4 歳代以降は

改正労働基準法

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ニュースリリース:P&G「ダイバーシティ時代の“管理職1000人の本音”調査」を実施(参考資料)

ダイバーシティ 年に向けた政策展開のポイント テレワークが当たり前になる社会 の実現に向け 多様な主体と連携した普及啓発や導入支援への取組を強化 地域での就労支援やマッチング強化により 女性や高齢者の就業を推進 働き方改革と併せて時差 Biz の定着に向けた取組を推進 強化した政策

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ポイント

PowerPoint プレゼンテーション

参考 男女の能力発揮とライフプランに対する意識に関する調査 について 1. 調査の目的これから結婚 子育てといったライフ イベントを経験する層及び現在経験している層として 若年 ~ 中年層を対象に それまでの就業状況や就業経験などが能力発揮やライフプランに関する意識に与える影響を把握するとともに 家

①働き方アンケートプレスリリース

参考 1 男女の能力発揮とライフプランに対する意識に関する調査 について 1. 調査の目的これから結婚 子育てといったライフ イベントを経験する層及び現在経験している層として 若年 ~ 中年層を対象に それまでの就業状況や就業経験などが能力発揮やライフプランに関する意識に与える影響を把握するとともに

< 調査概要 ( 経営者版 )> 調査期間 : 平成 29 年 8 月 2 日 ( 水 )~10 月 20 日 ( 金 ) 調査地域 : 全国 調査方法 : 当社営業職員によるアンケート回収 回答数 :13,854 部無作為に 5,000 サンプル ( 男性 :4,025 名 :975 名 ) を抽

男女共同参画に関する意識調査

PowerPoint プレゼンテーション

1. 職場愛着度 現在働いている勤務先にどの程度愛着を感じているかについて とても愛着がある を 10 点 どちらでもない を 5 点 まったく愛着がない を 0 点とすると 何点くらいになるか尋ねた 回答の分布は 5 点 ( どちらでもない ) と回答した人が 26.9% で最も多かった 次いで




男女共同参画に関する意識調査

2 取組実績 ( 選択した取組事項について記入すること ) (1) 労働時間等設定改善委員会の設置等労使の話し合いの機会の整備 ( 労働時間等の設定の改善に関する特別措置法第 7 条第 2 項の規定による衛生委員会のみなしを含む ) 労働時間等設定改善委員会などの設置の有無 名称 話し合いの機会の頻

労働力調査(詳細集計)平成29年(2017年)平均(速報)結果の概要

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内閣府令本文

ボスの本音(ボスジレンマ)調査報告書_

我が国の女性の活躍推進に向けて

産業別に見た長時間労働の実態と課題

Microsoft PowerPoint

第 3 章 雇用管理の動向と勤労者生活 ては 50 歳台まで上昇する賃金カーブを描いており 他の国々に比して その上昇テンポも大きい また 第 3 (3) 2 図により勤続年数階級別に賃金カーブをみても 男女ともに 上昇カーブを描いており 男性において特に その傾きは大きくなっている なお 女性につ

Microsoft Word - (参考資料2(第4回資料3)修)本編_企業アンケート結果

第3回 情報化社会と経済学 その3

調査結果 ~~ 就業規則について ~~ 勤め先の就業規則を把握していない 4 人に 1 人 勤め先に就業規則があるか ないかわからない 1 割 非正規労働者では 1 割半 会社で働く場合の労働時間の長さや休日等は 就業規則に定められています そこで 20 歳 ~59 歳の男女雇用労働者 ( 正規労働

結果概要 Ⅰ 人手不足への対応について 1. 人員の過不足状況について 社 % 不足している 1, 過不足はない 1, 過剰である 合計 2, 全体では 半数以上の企業が 不足している と回答 n =2,

働き方改革推進の基本方針 平成 29 年 9 月 22 日 一般社団法人日本建設業連合会 政府は 平成 29 年 3 月 28 日に 働き方改革実行計画 を策定した 本計画では 同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善 賃金引上げと労働生産性向上 罰則付き時間外労働の上限規制の導入など長時間労働の是

長野県の少子化の現状と課題

夫婦間でスケジューラーを利用した男性は 家事 育児に取り組む意識 家事 育児を分担する意識 などに対し 利用前から変化が起こることがわかりました 夫婦間でスケジューラーを利用すると 夫婦間のコミュニケーション が改善され 幸福度も向上する 夫婦間でスケジューラーを利用している男女は 非利用と比較して

26公表用 栃木局版(グラフあり)(最終版)

佐藤委員提出資料

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4 父親も育児参画しよう! 父親となる職員に, 配偶者出産休暇や男性の育児参加休暇を取得するよう働き掛けましたか 対象の職員全てに働き掛けは行われている 回答数 76 0 全人数割合 (%) 対象者なし 293 配偶者出産休暇 (3 日 ) 数値目標 31 年度までに配偶者出

事業所規模 5 人以上 (1 表 ) 月間現金給与額 産 業 ( 単位 : 円 %) 現金給与総額 きまって支給する給与 所定内給与 特別に支払われた給与 対前月増減差 対前年同月増減差 全国 ( 調査産業計 確報値 ) 262, , ,075

3.HWIS におけるサービスの拡充 HWISにおいては 平成 15 年度のサービス開始以降 主にハローワーク求人情報の提供を行っている 全国のハローワークで受理した求人情報のうち 求人者からインターネット公開希望があったものを HWIS に公開しているが 公開求人割合は年々増加しており 平成 27


事業所規模 5 人以上 (1 表 ) 月間現金給与額 産 業 ( 単位 : 円 %) 現金給与総額 きまって支給する給与 所定内給与 特別に支払われた給与 対前月増減差 対前年同月増減差 全国 ( 調査産業計 確報値 ) 278, , ,036

2016 年度の主な活動実績 2WAY マネジメント 2WAY コミュニケーションをより充実させ 効果的な面談を実施するための運用について 2016 年度も継続して 労使間で協議を重ねま した また One NEC Survey( 従業員意識調査 ) の結果もふまえ 各職場でのマネジメント向上施策を

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(参考)女性の活躍推進企業データベース記入要領

第 1 章調査の実施概要 1. 調査の目的 子ども 子育て支援事業計画策定に向けて 仕事と家庭の両立支援 に関し 民間事業者に対する意識啓発を含め 具体的施策の検討に資することを目的に 市内の事業所を対象とするアンケート調査を実施しました 2. 調査の方法 千歳商工会議所の協力を得て 4 月 21

女性が働きやすい環境を整え社会に活力を取り戻す

2018年度の雇用動向に関する道内企業の意識調査

厚生労働省告示第六十四号中小企業等経営強化法平成十一年法律第十八号第十二条第一項の規定に基づき職業紹介事業 ( ) 労働者派遣事業分野に係る事業分野別指針を次のように定めたので同条第五項の規定に基づき公 表する平成三十一年三月十四日厚生労働大臣根本匠職業紹介事業 労働者派遣事業分野に係る事業分野別指

テキスト 3 キャリアカウンセリングの理論 Ⅰ キャリアカウンセリングに関するな理論主要 P17 テキスト 4 アセスメント / キャリア情報 目次構成巻末資料 p81 巻末資料 p79 目次 2 米国におけるキャリア情報 71 参考 引用文献 巻末資料 81 索引 ----

Transcription:

ニッセイ基礎研究所 基礎研レター 2016-09-15 今なぜ働き方改革が進んでいるのだろうか?- データで見る働き方改革の理由 - 生活研究部准主任研究員金明中 (03)3512-1825 kim@nli-research.co.jp 1 はじめに日本政府は人口や労働力人口が継続して減少している中で 長時間労働 残業などの悪しき慣習が日本経済の足を引っ張って生産性低下の原因になっていると考え 最近 働き方改革に積極的な動きを見せている 2015 年には企業及び労働者が働き方改革に積極的に参加できるように 働き方 休み方改善ポータルサイト を開設し 事業主等に対して自社の社員の働き方 休み方の見直しや 改善に役立つ情報 ( 働き方 休み方改善指標等 ) を提供している また 厚生労働省は 労働時間等の設定の改善により 所定外労働時間の削減や年次有給休暇の取得促進を図る中小企業事業主に対して その実施に要した費用の一部を助成する助成金制度も導入した さらに 安倍首相は働き方改革を 最大のチャレンジ と位置づけ 今年の 8 月 3 日に発足した第 3 次安倍再改造内閣に 働き方改革担当相 を新設し そのもとに 働き方改革実現会議 を開き 年度内をめどに実行計画をまとめて行く方針を固めた 8 月 26 日には 2017 年度に働き方改革を推進するために 特別会計を含めて 877 億円 ( 厚生労働省の概算要求額 ) を計上しており 最近では来年度から 退社から次の出社までに一定の休息時間を保障する インターバル規制 の導入に取り組む中小企業に対して助成金を支給する方針を固めた 企業の対応も手早い トヨタ自動車は今年の 6 月にほぼすべての総合職社員を対象に週 1 日 2 時間だけ出社すれば それ以外は自宅等社外で働ける在宅勤務を導入することを発表した また多くの企業で時間外勤務ゼロ運動や積立休暇制度 リフレッシュ休暇等の措置など長時間労働を減らすための措置が実施されている 今なぜ働き方改革が急速に進んでいるのだろうか 本稿ではその理由を明確にしたい 1 2 働き方改革が急速に進んでいる三つの理由 (1) 人口及び労働力人口の減少 日本政府が最近 働き方改革を進めている一つ目の理由として 日本の人口 特に労働力人口が継 1 本稿では 金明中 (2016) 曲がり角の韓国経済第 11 回労働者を優先した働き方改革を 東洋経済日報 2016 年 9 月 2 日 を一部引用している 1

続して減少していることが挙げられる 2016 年 1 月 1 日現在の日本の人口は 1 億 2,682 万人で ピーク時の 2008 年 12 月の 1 億 2,810 万人に比べて 128 万人も減少した また 労働力人口も 1998 年末の 6,793 万人から 2015 年末には 6,598 万人まで減少している さらに 労働力人口を 15~64 歳 ( 生産可能人口 ) に限定すると状況はより深刻である 全人口に占める 15~64 歳年齢階層の割合は 1920 年の 58.3% から 1992 年には 69.9% まで上昇したが その後は減り続け 2015 年には 60.8% で 1955 年の水準 (61.2%) まで減少した 一方 同期間における 65 歳以上人口の割合は 5.3% から 26.7% に大きく増加した 全人口に占める 15~64 歳年齢階層の割合の減少は 生産活動に参加できる人口 つまり生産可能人口の縮小を意味する 日本では 1996 年から 15~64 歳の人口が減少し始めており さらに2012 年からはその減少幅が大きくなり 毎年 80 万人以上の生産可能人口が減っている状況である このように少子高齢化が進行し 労働力人口が減少している中で 企業は労働力を確保するために 既存の男性正規職労働者を中心とする採用戦略から脱皮し 女性 高齢者 外国人などより多様な人材に目を向ける必要性が生じた しかしながら 既存の働き方は 急な配置転換や転勤 サービス残業や仕事が終わってからの上司や同僚との飲会等に耐えられる男性正規職労働者に向いており 育児や家事を主に分担している女性 フルタイム仕事よりはパートタイム仕事を希望する高齢者 日本の企業文化に慣れておらず 長時間勤務に抵抗感がある外国人労働者を活用するためには限界があった そこで 将来の労働力を確保し 成長戦略を実施するためには同じ場所で社員皆が長時間働く既存の働き方を全面的に修正し 社員一人一人の状況に合わせたより多様な働き方の実現が要求されることになった (2) 長時間労働の慣習を改善する必要性働き方改革を推進している二つ目の理由としては日本の長時間労働がなかなか改善されていない点が挙げられる 2015 年に政府が発表した 日本再興戦略 改訂 2015 未来への投資 生産性革命 では 長期的な視点に立った総合的な少子化対策を進めつつ 当面の供給制約への対応という観点からは 労働生産性の向上により稼ぐ力を高めていくことが必要である その際 何よりもまず重要なことは 長時間労働の是正と働き方改革を進めていくことが 一人一人が潜在力を最大限に発揮していくことにつながっていくとの考え方である 長時間労働の是正と働き方改革は 労働の 質 を高めることによる稼ぐ力の向上に加え 育児や介護等と仕事の両立促進により これまで労働市場に参加できなかった女性の更なる社会進出の後押しにもつながり 質と量の両面から経済成長に大きな効果をもたらす 加えて 少子化対策についてもその根幹とも言える効果が期待されるとともに 地方活性化等の鍵ともなるものであり 幅広い観点から日本全体の稼ぐ力の向上につながっていくのである そうした意識を我が国全体で共有し 醸成していくことが重要である ( 中略 ) 長時間労働の是正等を通じて女性が活躍しやすい職場づくりに意欲的に取り組む企業ほど 選ばれる 社会環境を作り出していくため 各企業の労働時間の状況等の 見える化 を徹底的に進めていく と明記されており 長時間労働を改善する必要性を強調している 2 図 1 は日本の労働者一人当たりの総実労働時間等の推移を示しており パートタイム労働者を含め 2 首相官邸 (2015) 日本再興戦略 改訂 2015 未来への投資 生産性革命 2015 年 6 月 30 日 2

た労働者一人当たりの平均総実労働時間は 1994 年の 1,910 時間から 2013 年には 1,746 時間に大きく減少していることが分かる しかしながら パートタイム労働者を除いた一般労働者 ( フルタイム労働者 ) だけの平均総実労働時間をみると 2013 年に 2,018 時間で 1994 年の 2,036 時間と大きく変わっていない つまり 日本の最近の労働時間の減少はパートタイム労働者を含めた非正規職の増加に影響を受けた可能性が高く 実際に正規職の労働時間は大きく変化していない 日本政府は長時間労働に対する対策として年次有給休暇の取得を奨励しているものの 有給休暇の取得率もあまり改善がみられない 図 2 を見ると 2014 年の労働者一人当たりの年次有給休暇の取得率は 47.3% で 2004 年の 46.6% と比べて大きな差がなく低水準にあることが分かる また 2014 年の年次有給休暇の平均取得日数も 8.8 日で 2004 年の 8.6 日と大きく変わっていない このように日本の有給休暇取得率や平均取得日数が改善されない理由としては 日本の祝日数が昔に比べて増えたことや 完全週休 2 日制 3 が少しずつ定着することにより 労働者の休日数が平均的に増加したことが考えられるが より根本的な理由は有給休暇が取れない又は取りづらいという職場環境にある 図 1 日本の労働者の総実労働時間等の推移 一般労働者の平均総実労働時間 2036 2038 2050 2026 2010 2009 2026 2017 2017 2024 2040 2028 2041 2047 2032 1976 2009 2006 2030 2018 1910 1910 1919 1891 1871 1840 1853 1836 1825 1828 1816 1802 1811 1808 1792 1733 1754 1747 1765 1746 平均総実労働時間 ( パートタイム労働者を含む ) 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 平均総実労働時間 ( パートタイム労働者を含む ) 一般労働者の平均総実労働時間 注 ) 事業所規模 5 人以上 資料 ) 厚生労働省 毎月勤労統計調査 3 週休 2 日制 と 完全週休 2 日制 を区分する必要がある 一般的に求人広告などに掲載されている 週休 2 日制 は 1 ヶ月の間に週 2 日の休みがある週が 1 度以上あることである 一方 完全週休 2 日制 は 毎週 2 日の休みがあることを表す いずれにしても どの曜日が休みになるかは企業次第であり 完全週休 2 日制 と表記されていても 企業によっては平日の 2 日が休みになっている可能性もある 3

図 2 労働者 1 人平均年次有給休暇の取得状況の推移 30 46.6 47.1 46.6 46.7 47.4 47.1 48.1 49.3 47.1 48.8 47.3 50 25 40 % 20 15 10 5 18.0 17.9 17.7 17.6 18.0 17.9 17.9 18.3 18.3 18.5 18.5 8.4 8.4 8.3 8.2 8.5 8.5 8.6 9.0 8.6 9.0 8.8 30 20 10 % 0 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 労働者 1 人平均付与日数労働者 1 人平均取得日数取得率 0 注 1) 長期的な推移を見るために 複合サービス事業 を含めていないデータを使用 注 2) 付与日数 は 繰越日数を除く 注 3) 取得日数 は 前年 ( 又は前々会計年度 )1 年間に実際に取得した日数である 注 4) 取得率 は 取得日数計 / 付与日数計 100(%) である 資料 ) 厚生労働省 就労条件総合調査 : 結果の概要 各年度より筆者作成 厚生労働省が2014 年に実施した調査 4 によると 回答者の68.3% 5 か有給休暇の取得に対して ためらいを感じる ( 図 3) と答えており その最も大きな理由 ( 複数回答 ) として みんなに迷惑がかかると感じるから を挙げた また 職場の雰囲気で取得しづらいから (30.7%) や 上司がいい顔をしないから (15.3%) を有給休暇の取得にためらいを感じる理由として挙げるなど 多くの労働者が職場の雰囲気や上司 仲間の視線を意識して有給休暇を使用していないことが分かる ( 図 4) 図 3 年次有給休暇の取得へのためらい あまりためらいを感じない, 22.4% まったくためらいを感じない, 8.4% 無回答, 1.0% ためらいを感じる, 24.8% ややためらいを感じる, 43.5% 資料 ) 厚生労働省 (2014) 平成 26 年度労働時間等の設定の改善を通じた 仕事と生活の調和 の実現及び特 別な休暇制度の普及促進に関する意識調査 4 厚生労働省 (2014) 平成 26 年度労働時間等の設定の改善を通じた 仕事と生活の調和 の実現及び特別な休暇制度の普及促進に関する意識調査 5 ためらいを感じる (24.8%) と ややためらいを感じる (43.5%) の合計 4

図 4 ためらいを感じる理由 ( 複数回答 ) みんなに迷惑がかかると感じるから 74.2 後で多忙になるから 44.3 職場の雰囲気で取得しづらいから 30.7 上司がいい顔をしないから 15.3 昇格や査定に影響があるから 9.9 その他 6.0 % 資料 ) 厚生労働省 (2014) 平成 26 年度労働時間等の設定の改善を通じた 仕事と生活の調和 の実現及び特 別な休暇制度の普及促進に関する意識調査 (3) ダイバーシティー ( 多様性 ) マネジメントの推進と生産性向上働き方改革を推進している三つ目の理由としては 日本政府が奨励しているダイバーシティー ( 多様性 ) マネジメントや生産性向上が働き方改革と直接的に繋がっている点が挙げられる ダイバーシティー ( 多様性 ) マネジメントとは 個人の性別や人種 国籍などの違いにこだわらずに優秀な人材を活用する企業経営方式である 実際 (1) でも述べた通り 最近は経済のグロバール化が進むことにより 様々な環境に対応できる多様な人材の必要性が高まっている 図 5 は OECD 加盟国の労働者一人当たりの平均年間労働時間と労働生産性の関係を示しており 両者の間には負の相関があることが確認できる 例えば ルクセンブルクの場合 労働者一人当たりの平均年間労働時は 1,509 時間で短いものの 労働生産性は 138,909 ドルで最も高い水準を維持している 一方 メキシコや韓国の場合 労働時間は長いのに労働生産性は低い水準に留まっている 日本は過去と比べて労働時間は短くなったものの 労働生産性は他の国と比べてまだ低い 例えば 2014 年における日本の労働生産性 ( 就業者一人当たり名目付加価値 ) 6 は 72,994 ドルで OECD 平均 87,155 ドルより低く OECD 加盟国の中でも 21 位に留まっている 7 不要な残業や休日勤務などが労働生産性を低くした原因である可能性が高く 日本政府は働き方の改革を推進することにより多様な人材を活用することで生産性を引き上げることを目指している 6 労働生産性 = GDP / ( 就業者数 労働時間 ) 購買力平価 (PPP) により換算 7 公益財団法人日本生産性本部 (2015) 日本の生産性の動向 2015 年版 5

図 5 OECD 加盟国の労働者一人当たりの平均年間労働時間と労働生産性の関係 (2014 年基準 ) 資料 ) 公益財団法人日本生産性本部 (2015) 日本の生産性の動向 2015 年版 と OECD.Stat より筆者作成 3 おわりに 7 月の参院選での勝利で 長期政権への礎をさらに固めた安倍首相は果敢な労働改革を実施しており 日本政府や多くの日本企業もこれに同調し速いスピードで改革が進もうとしている 働き方改革は 非正規労働者の処遇改善 長時間労働の是正 ワーク ライフ バランスの実現 多様な人材が労働市場で活躍できることを目指しているものの 企業の立場からは大きな負担になることもあるだろう また 労働の柔軟性や生産性を高める政策が同時に実施されることにより既存の正規労働者の雇用安定性は弱まる一方 労働強度は高まる可能性が高い 働き方改革が生産性向上や経済成長だけを優先にすると 労働者の生活の質はより悪化する恐れが高い そこで 働き方改革がマクロ的な数値を引き上げることを優先にするより 労働者の健康や生活の満足度を優先的に考慮して実施されることを望むところである それこそが働き方改革による弊害を最小化し より住みやすい社会の構築に繋がる 真の働き方改革 であるだろう 8 参考文献 金明中 (2016) 曲がり角の韓国経済第 11 回労働者を優先した働き方改革を 東洋経済日報 2016 年 9 月 2 日 厚生労働省 (2014) 平成 26 年度労働時間等の設定の改善を通じた 仕事と生活の調和 の実現及び特別な休暇制度の普及促進に関する意識調査 厚生労働省 就労条件総合調査 : 結果の概要 各年度 厚生労働省 毎月勤労統計調査 公益財団法人日本生産性本部 (2015) 日本の生産性の動向 2015 年版 首相官邸 (2015) 日本再興戦略 改訂 2015 未来への投資 生産性革命 2015 年 6 月 30 日 8 金明中 (2016) 曲がり角の韓国経済第 11 回労働者を優先した働き方改革を 東洋経済日報 2016 年 9 月 2 日を引用 修 正 6