~ 解説 ~ 第一問 問 1 課税資産の譲渡等及び国内取引に係る課税標準に関する応用理論である ⑴ 意義及び範囲については 基礎理論を基に解答すれば問題なく解けると思われる 強いて言えば 問題の条件にある 消費税法施行令に定める事項については触れる必要はない との指示から次の規定を解答する必要はないことを判断できること 1 課税対象イ ( 課税 ) 資産の譲渡等に類する行為ロ事業付随行為ハ対価補償金 2 課税標準イ ( 課税 ) 資産の譲渡等に類する行為の対価の額ロ一括譲渡の場合の対価の額 ⑵ 課税標準としての課税資産の譲渡等の対価の額と法 92に規定する 基準期間における課税売上高 法 451 課税資産の譲渡等に係る確定申告 ( 書 ) に記載すべき課税標準額 との相違点を説明させる問題である 個々の理論を思い出し 相違点を挙げられるかどうかに尽きる問題であり 正解必須ではないが 難易度が高い問題ともいえない 少なくとも白紙答案は避けて欲しいとところである 問 2 取引分類に関する事例形式の問題である 昨年の問題と比べると解答構成も含めて問題の難易度は高いかと思う ⑴ 第 1 段階として製作請負が資産の譲渡 据付工事が役務提供であるという前提で国内取引の判定ができるかどうかがあり 第 2 段階として国外において資産の譲渡等をしており そのための輸出だから国外移送の適用があるまで気付けるかに尽きる 課税仕入れについては 問題の資料からも積極的に問われていることとは思えないため 解答していなくても気にする必要はない ⑵1 緑地の整備第 1 段階として緑地の整備費用は 計算問題でよく問われる土地の造成費と何ら変わりがないものであるため 課税仕入れになるまでは解答できること 第 2 段階として課税仕入れの区分についても問題をよく読めば判断できるものであるため正解して欲しい 2 緑地の寄付第 1 段階として寄付が対象外取引だということは解答できること 第 2 段階として寄付が建築に当たっての条件とされていることから課税仕入れに当たるかどうかに関しては 正直判断が難しいところである 過去の判例でこのようなケースの負担金が明確な対価性がないため課税仕入れとならないとしたものがあるため それに習って判断をした ⑶ 保証金の引受けが対価に含まれること 一括譲渡の対象となる対価であることを読めるかに尽きる 過去に計算問題で出題されたことがあり 他の問題と比べると簡単な問題であるため 正解して欲しい なお 課税売上割合の計算については 積極的に問われていることとは思えないため 解答していなくても気にする必要はない -13-
第二問 新設法人について 設立事業年度に吸収合併とそれに伴う増資がある総合問題である 小問として翌課税期間の納税義務の判定があるが 実質的には1 題の総合問題と考えて差し支えない また 納税義務についてはかなり癖があるが 取引分類はそこまでは難しくない 取引分類を中心とした箇所でどこまでミスなく説くことができるかで合否は決まってくると思われる 1 納税義務の判定 ⑴ 前課税期間の納税義務の判定 1 基準期間がないため, 下記の特例の適用がある期間を除いては法 91( 小規模事業者の納税義務の免除 ) の適用がある 2 吸収合併が行われた課税期間であるため 法 111( 合併があった場合の納税義務の免除の特例 ) の適用を確認する 具体的な計算方法は 令 221 に定められており 1,000 万円を超えることから合併があった日以降は課税事業者となる イ被合併法人乙社の基準期間応期間は次のとおりとなる 合併法人甲社の合併があった日の属する事業年度開始の日 (H24.5.15) の2 年前の日の前日 (H22.5.15) から同日以後 1 年を経過する日 (H23.5.14) までの間に終了した被合併法人の各事業年度 前々々事業年度が基準期間応期間となる ロ基準期間応期間における課税売上高は次の算式により計算する 基準期間応期間における被合併法人の各事業年度における課税売上高 各事業年度の月数の合計数 12 3 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例は その事業年度開始の日における資本金の額 800 万円により判定するため 新設法人に該当せず 特例の適用はない ⑵ 当課税期間の納税義務の判定 1 基準期間がないため, 下記の特例の適用がある期間を除いては法 91( 小規模事業者の納税義務の免除 ) の適用がある 2 前事業年度等における課税売上高による納税義務の免除の特例は 次の適用関係となる イ特定期間は次のとおりとなる 令 20の61 一 に規定される6 月の期間の特例の適用があるため 特定期間は平成 24 年 5 月 15 日から平成 24 年 10 月 31 日までとなる 6 月の期間の末日がその月の末日でない場合 ( その事業年度終了の日が月の末日である場合に限る ) その事業年度開始の日からその6 月の期間の末日の属する月の前月の末日を6 月の期間とみなす ロ特定期間における課税売上高は 特定期間中に支払った支払明細書に記載すべき給与等 ( 所得税法 2311) の金額の合計額によることができるため 本問はこれにより判定する なお 支払った給与等の金額には 未払額は含まれないため 対象となる給与は平成 24 年 8 月分までとなる 結果として 給与等の支給金額が 1,000 万円以下であることから特例の適用はない 3 吸収合併が行われた課税期間であるため 法 112( 合併があった場合の納税義務の免除の特例 ) の適用を確認する 法 112では適用要件として 合併法人のその事業年度の基準期間の初日の翌日からその事業年度開始の日の前日まで に吸収合併があった場合に特例を適用すると規定しているが 甲社は当課税期間において基準期間を有しないことから適用要件を満たさないため 法 112の適用はない 4 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例は その事業年度開始の日における資本金の額 3,000 万円により判定するため 新設法人に該当し 当課税期間について納税義務がある ⑶ 翌課税期間の納税義務の判定基準期間が前事業年度となるため, 甲社の基準期間における課税売上高により納税義務の判定を行う 前事業年度は免税事業者期間と課税事業者期間とがあるため 税抜処理を正しく行うこと また 基準期間が1 年に満たないことから次の算式による年換算が必要となる 基準期間における甲社の課税資産の譲渡等の税抜対価の額 ( 税抜対価の返還等控除後の金額 ) 12 基準期間の月数の合計数 2 取引分類 ⑴ 前提となる事項 1 甲社は 前事業年度のうち平成 24 年 5 月 15 日から平成 24 年 10 月 31 日までの期間について免税事業者である 2 甲社は 店舗 A マンションB 工場 本社 での事業活動が明確であるため 個別対応方式の対応区分については次のとおり取扱う ( この点については 以降の解説では省略します ) -14-
イ課税資産の譲渡等にのみ要するもの 店舗 A 工場に関係するものロその他の資産の譲渡等にのみ要するもの マンションBに関係するものハ共通して要するもの 本社に関係するもの ⑵ 売上高 1 国内の保税地域に搬入した後 輸入手続を経ないで行う販売は 法 71 二 に規定する外国貨物の譲渡として免税取引となる 2 店舗 Aにおけるクーポンによる割引額は 収受する対価がないため 課税資産の譲渡等の対価の額に計上しない ⑶ 不動産賃貸収入 1 契約解除金は 賃借人の都合により契約解除されており 甲において貸付けの対価として収受したものではない ( 貸付けの事実がない ) ことから対象外取引となる 2 建物 Cの賃貸収入は 契約変更前は住宅の貸付けと 契約変更後は事務所の貸付けとして課税 非課税の分類を行う なお 契約変更手数料は事務所用への用途変更に当たって収受したものであるため 事務所の貸付けの対価に含まれる ( 基通 6-13-8) ⑷ 商品仕入高 1 事業譲渡契約による資産の譲渡は 課税対象となる資産の譲渡に当たるため 甲社において通常の商品の仕入れと同じく課税仕入れを認識する 2 消費者から買い入れた衣料品についても 他の者 (= 消費者 ) が事業として資産の譲り渡しをした場合 に課税資産の譲渡等となる取引であるため 甲社において課税仕入れとなる 3 保税地域から甲社までの運賃は 保税地域における役務の提供に当たらないため 輸出免税の適用はない 4 輸入手続を経ていない外国貨物の仕入高は 国内における課税仕入れ 保税地域から引き取る外国貨物のいずれにも該当しないため仕入税額控除の適用はない ⑸ 仕入値引戻し高輸入商品に係るリベートは 外国貨物について消費税額の還付を受けるものではないため 仕入税額控除の調整はない ⑹ 給与手当通勤手当が課税仕入れに当たるかどうかの判定は その通勤に通常必要であると認められる部分かどうかによるため 所得税法において給与所得として課税されるかどうかは関係ない ⑺ 賃借料指定保税地域内の倉庫の家賃は 輸出免税に規定される外国貨物に係る保管に係る役務の提供には当たらないため 課税仕入れに該当する ⑻ 広告宣伝費テレホンカードの購入代金は 非課税取引に規定される物品切手等の譲渡に係る取引であるため課税仕入れに該当しないが 印刷費用は役務提供に係る取引として課税仕入れに該当する ⑼ 支払手数料輸出免税の対象となる外国貨物等に係る役務の提供には 通関業法に規定する通関業務に係る役務の提供が含まれているが 送り状や包装明細書の作成は 通常 輸出者が作成して通関業者に交付するものであり 通関業法の輸出申告業務には当たらない 結論として輸出免税の対象とならないことから課税仕入れに該当する ⑽ 貸倒損失 1 K 社に対する販売代金の貸倒れは 免税事業者であった期間の課税資産の譲渡等に係る貸倒れであるため控除はない 2 事業譲渡契約により取得した売掛金は 課税資産の譲渡等の対価として取得したものではないため控除はない ⑾ 受取利息配当金外国銀行の国内支店は居住者に該当するため一般の非課税取引となるが 外国法人が発行する社債の利子は非課税資産の輸出等の適用がある ⑿ 有価証券売却益事業協同組合の持分の払戻金は 出資の払戻しと剰余金の配当であるため 資産の譲渡等に該当しない ⒀ 雑収入アンテナ設置に伴う利用料は建物の屋上施設の貸付けに係る対価であるため課税取引に該当する ⒁ 有価証券売却損国内上場株国株式の譲渡は 財産の所在が国外にあるため 国外取引として対象外取引とされる 対して これに係る売却手数料は国内の証券会社に支払ったものであるため課税仕入れに該当し 国外取引には非課税取引がないことから 国外における課税資産の譲渡等 にのみ要する課税仕入れとして課税対応に区分される ⒂ 当期材料仕入高国外の事業者に材料を無償で支給し 加工を委託する行為は 無償支給であることから資産の譲渡等に該当せず また 国内以外の地域における資産の譲渡等又は自己の使用のための輸出にも当たらないことから法 312の国外移送の適用もない -15-
⒃ 建設仮勘定 1 建物と土地の購入対価については 消費税等の金額は土地 建物価額を合理的に区分した金額に基づき計算されたものである とあることから 消費税額を5% で割り戻すことにより建物の税抜取得価額を計算することができる 2 土地に係る非課税は譲渡及び貸付けに関するもののみが規定されているため 仲介手数料は土地に係るものを含めその全額が課 税仕入れに該当する 3 未経過固定資産税は 土地 建物それぞれの取得対価であるため 建物に係る固定資産税相当額を課税仕入れに計上する ⒄ 有価証券の購入 1 国内上場株式は投資目的で所有することから購入手数料は その他の資産の譲渡等とされる有価証券の譲渡に係るものとして非 課税対応の課税仕入れに計上する 2 外国法人発行社債に係る購入手数料は その利子が非課税資産の輸出等の適用を受けるものであるため 課税対応の課税仕入れ に計上する 外債の購入手数料に関しては 次の点を踏まえて解答を作成した 非課税資産の輸出等の規定は その課税期間において非課税資産の輸出等がされた場合に限り適用されるものであり 受取 利息配当金 で示された社債利子に係る外債と当課税期間に購入した外債が同じものであるかどうかで解答は異なる しかし 他に売却した外債がなく 有価証券として計上されているものが当課税期間に購入した社債だけであることを考え ると 受取利息配当金 で示された社債と同一のものと判断できる ⒅ 固定資産の購入等 1 建物 Cは 居住用として貸し付けていたものを事務所用としての貸付けに変更していることから非課税業務用から課税業務用へ の転用に当たり 仕入税額控除の調整が必要となる 甲社の前事業年度は課税売上割合ベースでは95% 以上であるため 個別対応方式での税額控除を行っていないように見える が 問題では個別対応方式により計算を行っていると説明されている 個別対応方式による計算となっている理由は 前事業年度の課税事業者となった期間の課税売上高を12 月換算すると5 億円 を超えていることによると考えられる 前事業年度の課税期間における課税売上高 ⑴ 264,446,682 円 -4,030,000 円 -35,447,000 円 =224,969,682 円 224,969,682 円 100/105+35,447,000 円 =249,703,840 円 ⑵ 1,931,482 円 -(1,931,482 円 -406,000 円 ) 4/105 125/100=1,858,840 円 ⑶ ⑴-⑵=247,845,000 円 247,845,000 円 ⑷ 5 12=594,828,000 円 2 コンピューターは乙社において調整対象固定資産の仕入れとされるもので 比例配分法による税額控除 承継した甲社における 保有要件などを満たしていることから著しい変動の判定が必要となる なお 合併により承継した資産に係る通算課税売上割合の算出方法は次のとおりとなる 課税期間以降の課税期間を基に計算する 図解 前事業年度 当課税期間 甲社 甲 11 甲 12 甲 2 前々々事業年度 前々事業年度 前事業年度 乙社 乙 1 乙 2 乙 3 合併 仕入れ ⑴ 仕入れ等の課税期間の課税売上割合 ⑵ 通算課税売上割合 乙 2の課売 乙 2~ 乙 3の課売 + 甲 1~ 甲 2の課売 乙 2の売上 乙 2~ 乙 3の売上 + 甲 1~ 甲 2の売上 甲 11は免税事業者であるため 税抜処理は不要である -16-
3 店舗 A 備品と営業権はいずれも営業譲渡契約において譲り受けた資産であるため 課税仕入れに該当する 営業権は小売店舗における事業に関するものであるため 課税対応の課税仕入れに区分される 4 ブランド通常使用権は S 社が所有する専用使用権についての貸付けに係る対価であるため 専用使用権の登録機関により国内取引の判定を行う 3 中間申告当課税期間の直前の課税期間に吸収合併をしているため, 中間納付税額は, 次の算式により計算する 前事業年度の合併のため合併前期間に係る消費税額のみを合併法人の確定消費税額に加算することに注意すること 1 1 月中間申告の場合 ( 法 4212) + 2 3 月中間申告の場合 ( 法 4245) + 3 3 6 月中間申告の場合 ( 法 4267) + 6 図 解 24.1 24.5 24.11 25.4 26.3 503,100 円 甲社 6 月 11 月 乙社 1,680,400 円 10 月 中間申告税額の計算に関しては 甲社が課税事業者となったのが平成 24 年 11 月以後であることから 課税事業者となった後 の期間のみでその計算を行うという考え方もある しかし 中間申告の理論では計算の基礎とする月数を 課税期間の月数 としか規定しておらず また 法人の課税期間は あくまで 事業年度 であることから免税事業者 課税事業者を問わず課税期間の月数を基に計算する方法を採用している いずれかの考え方が解答とされるかはハッキリといえないが 課税事業者となった後の期間のみで計算を行うという考え方 では 計算結果は次のとおりとなる (1 月 3 月は省略している ) 中間申告税額 503,100 円 1,680,400 円 0 6+ 6=603,720 円 > 240,000 円 603,700 円 5 10 5-17-