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20 後藤淳 の回転や角加速度の制御ならびに前庭 眼球反射機能をとおして眼球の制御を 卵形嚢 球形嚢により重力や直線的な加速による身体の動きと直線状の頭部の動きに関する情報を提供し 空間における頭部の絶対的な位置を制御しており また 前庭核からの出力により頸部筋群を制御している 2) 頸部筋群はヒトで最も高い筋紡錘密度を有する筋群の一つである 2) と述べられており また 頸部固有受容器は上部頸椎の頸部背側の抗重力筋に多く存在し とくに頭板状筋 大後頭直筋 頭最長筋 頭半棘筋に集中しているとも述べられている 3) 頭頸部の位置やその動きは 姿勢を制御するうえで重要であるといえる 4 6) 頸椎は 7 個の椎体から構成され その最上部に頭部が存在している 頸椎の動きは 頭蓋骨と環椎による環椎後頭関節 環椎と軸椎による環軸関節 第 3 頸椎以下の椎間関節により成り立っている 環椎後頭関節は 形のうえでは一種の楕円関節に相当し 関節包は緩い 運動は主に前方および後方運動 ( 屈曲 伸展 ) と側方運動 ( 側屈 ) である 環軸関節は環軸関節複合体とも呼ばれ 外側環軸関節と正中環軸関節から成り立っており 機能的には一つの車軸関節とみなされている 運動は主に回旋であるが わずかな屈曲 伸展がみられる 第 3 頸椎以下の椎間関節での運動は 主に側方運動 ( 側屈 ) 前 後方運動 ( 屈曲 伸展 ) わずかな回旋である 頸椎以下には胸椎があり 肋骨とともに胸郭を形成しており 頭頸部の運動の土台には胸郭が存在している 3) そのため 頭頸部の動きにとって胸郭の安定性は重要である 逆に 胸郭の位置により頭頸部の位置が影響を受けるともいえる たとえば 体幹の前 後屈や側屈などの椎間関節の戦略による胸郭の位置に対する頭頸部の位置 足関節や股関節の戦略によりバランスを獲得している場合の胸郭の位置に対する頭頸部の位置などである 頭頸部の動作は大きく分けると 周囲を見るなどの頭頸部を動かすことを主たる目的とする動作と 体全体のバランスをとる目的としての動作がある 日常生活における基本動作のなかで 頭頸部をより作用させる動作は臥位などからの起き上がり動作であり 座位 立位と向かうにつれ 重心の位置が高くなる姿勢になるほどその作用はバランスとしての作用の意味合いが強まる さまざまな動作をおこなううえで 無意識的ではあるが周囲を確認することがほとんどである 視覚や聴覚 体性感覚の使用である 周囲を見る 聞き耳を立てる 何かを感じる場合 頭頸部を安定させている また 何気 ない日常生活活動においては 動作を開始する際の方向付けのために無意識的に眼や頭頸部の関与が大きいと考えられ 体幹や上下肢を意識する場合は むしろ何かしら特別な環境である場合が多い 動き出した後は 胸郭の位置に対しバランスをとるために頭頸部の位置を変化させている バランスの効率が悪くなった場合 遠位に位置する足関節や手関節などと協調して頭頸部をより固定させて 逆に胸郭に対し制限をかけるかのように代償し バランスを維持する 頭頸部の位置とその動きが姿勢や動作に影響を及ぼすことで 呼吸機能や嚥下機能にも影響を与える 呼吸機能においては 胸郭の動きに制限を受けることで呼吸筋の活動にも影響を及ぼすと考えられる 嚥下機能においても喉頭の動きが制限されることで 喉頭周囲筋である舌骨上筋群 舌骨下筋群などの活動に影響を及ぼす 頭頸部を1 屈曲 2 伸展 3 頭蓋後退 6) ( 顎を引く ) 4 頭蓋前方突出 6) ( 顎を突き出す ) の 4 通りの位置に意識的に変化をさせたうえで 背臥位姿勢 背臥位からの起き上がり 端座位姿勢 端座位での側方移動をビデオ画像ならびに筋電図にて観察をおこない 通常時の姿勢 動作との違いを比較検討した 計測に用いた筋電計はキッセイコムテック社製のテレメトリー筋 心電計 MQ16 EMG 研究ソフトウエアBIMUTAS-Video を使用し ビデオ ( ソニー HDR-CX590) を筋電計と同期させた状態で動作を記録した 筋電図対象筋は 胸鎖乳突筋 僧帽筋上部線維 腹直筋 内外腹斜筋重層部位 腸肋筋 多裂筋 広背筋 大腿直筋の8 筋とし 電極はいずれも左側とした 起き上がり動作は 右側への起き上がりとし 右肘支持から長座位を経由しての端座位姿勢までとした 数名の被験者の動作を検討した結果 以下の場面で共通した姿勢動作ならびに筋電図の波形が認められた 1 1 意識的な頭頸部の肢位 ( 以下課題とする )1~4 における背臥位姿勢では 意識しない通常時と比べて体幹屈曲の増大が認められた また いずれの課題においても 起き上がり動作時には円滑な体幹の回旋は認められず 股関節の可動性も低下傾向にあった 意識を強くするほど股関節の屈曲 内旋が出現し 体幹の屈曲も強まる傾向にあった 筋電図では 被験者の体型や意識化の程度 ( 代償の程度 ) などによりばらつきがあるものの 通常時と比べて背臥位姿勢ならびに起き上がり動作ともに胸鎖乳突筋の筋活動の増大は顕著に認められ 僧帽筋においても増大

頭頸部アラインメントの解釈 21 1 筋電図波形は 電極の貼付位置はすべて左側とし 上から 胸鎖乳突筋 僧帽筋上部線維 腹直筋 内外腹斜筋重層部位 腸肋筋 多裂筋 広背筋 大腿直筋を示す 二本の縦線は 左が計測開始 右が動作開始を示す ( 線間は背臥位肢位である ) 頭頸部の位置を予め変化させたうえで 背臥位からの起き上がり動作を筋電図にて記録したものを示す 動作開始前 ( 静的姿勢変化 ) においてすでに筋電図の変化が現れており 過剰な代償を示している 通常時と比べて背臥位姿勢ならびに起き上がり動作ともに胸鎖乳突筋の筋活動の増大は顕著に認められ 僧帽筋においても増大傾向にあった また 広背筋 大腿直筋が起き上がり動作の間 持続的に筋活動の増大が認められる傾向にあった さらに 意識を強く持つほど ( 過剰に力が入る場合 ) 大腿直筋や広背筋に筋活動の増大が認められる傾向にあった 背臥位姿勢ですでに筋活動の増大が認められた筋については 起き上がり動作に移行する際にはさらに筋活動の増大が認められる傾向にあった また その筋活動の持続時間も延長していた 傾向にあった また 広背筋 大腿直筋が起き上がり動作の間 持続的に筋活動の増大が認められる傾向にあった さらに 意識を強く持つほど ( 過剰に力が入る場合 ) 大腿直筋や広背筋に筋活動の増大が認められる傾向にあった 背臥位姿勢ですでに筋活動の増大が認められた筋については 起き上がり動作に移行する際にはさらに筋活動の増大が認められる傾向にあった また その筋活動の持続時間も延長していた 2 2 課題 1~4における端座位姿勢ならびに立ち上がり動作ともに胸鎖乳突筋や僧帽筋の筋活動について増大が認められた また 端座位姿勢において 腹斜筋や腹直筋よりも体幹伸展筋群である広背筋や腸肋筋の筋活動の増大が認められる傾向にあった これは 立ち上がり動作にも同じ傾向が認められた とくに 3 頭蓋後退 6) ( 顎を引く ) 4 頭蓋前方突出 6) ( 顎を突き出す ) 動作において この傾向は顕著であった 意識化を強めた ( 過剰に力を入れた ) 被験者においては 大腿直筋の筋活動が端座位肢位において高まる傾向もみられた 3 1 頭頸部屈曲頭頸部屈曲筋は 胸鎖乳突筋 斜角筋群 椎前筋群 ( 頸長筋 頭長筋 前頭直筋 ) などである 起始部である胸骨や上位肋骨 胸椎などには充分な安定性が必要である 頭頸部屈曲による前方への重心移動に対し後方へ戻す筋群の活動が必要になり 胸腰椎後弯による代償が必要になる 胸腰椎後弯は大胸筋や腹筋群などの筋の収縮が必要になるが 後弯が強すぎると脊柱全体が丸くなる形 ( 円背位 ) をとり 頭頸部屈曲筋の起始部が変位することで不安定になり頭頸部のみの屈曲作用が低下する そのため 胸腰部 とくに腰部の伸展筋 ( 脊柱起立筋群 ) である腸肋筋や広背筋を収縮させることで胸腰部を固定し 頭頸部の屈曲力が発揮できるような環境を確保していると考えられる 2 頭頸部伸展頭頸部伸展筋は 僧帽筋上部線維や頭板状筋 頭半棘筋 脊柱起立筋群 環椎後頭関節ならびに環軸関節の伸展筋群などである 頸椎と胸椎をまたぐ体幹後面筋群である脊柱起立筋 ( 最長筋 腸肋筋など ) の協調性により 頭頸部伸展時には胸腰部前弯による代償も出現する 頭頸部のみを伸展させるためには 胸椎以下の脊柱が安定

22 後藤淳 2 筋電図波形は 電極の貼付位置はすべて左側とし 上から 胸鎖乳突筋 僧帽筋上部線維 腹直筋 内外腹斜筋重層部位 腸肋筋 多裂筋 広背筋 大腿直筋を示す 二本の縦線は 左が計測開始 右が動作開始を示す ( 線間は端座位肢位 ) 課題 1~4における端座位姿勢ならびに立ち上がり動作ともに胸鎖乳突筋や僧帽筋の筋活動について増大が認められた また 腹斜筋や腹直筋よりも体幹伸展筋群である広背筋や腸肋筋の筋活動の増大が認められる傾向にあった とくに 3 頭蓋後退 ( 顎を引く ) 4 頭蓋前方突出 ( 顎を突き出す ) 動作において この傾向は顕著であった 意識化を強めた ( 過剰に力を入れた ) 被験者においては 大腿直筋の筋活動が端座位肢位において高まる傾向もみられた していることが重要であり 胸腰椎の前弯が強すぎると脊柱全体が弓なりになる ( 反る ) 形をとり 頭頸部のみの伸展作用が低下する とくに胸椎のアラインメントは重要であり 腹筋群の収縮とともに胸腰椎の安定をさせるために腸肋筋や最長筋などの筋群を活動させることで胸腰部を固定し 頭頸部伸展力が発揮できるような環境を確保していると考えられる 3 頭蓋後退頭蓋後退は Neumann 6) によると 頭蓋後退は低 ~ 中位頸椎が伸展するか もしくはまっすぐな状態と同時に上位頭頸部の屈曲であると述べている 頸椎を後弯方向に動作をおこない 頸椎の生理的前弯を少なくしながら頭部を屈曲させ 外見上頸部をアップライトにさせる動作である 頭部屈曲は後頭環軸関節における前方運動であり 主動作筋は前頭直筋であるが動きはわずかであるために 上位頸椎の屈曲に作用する筋群が同時に働いて 実際には頭頸部の屈曲を形成している 上位頸椎の屈曲には頭長筋や頸長筋 ならびに舌骨上 下筋群の活動も重要であり 逆にこの姿勢の持続は呼吸や嚥下機能に影響をもたらす これらの筋群を活動させるためには 胸腰部 とくに最長筋や腸肋筋などの胸部の伸展筋を収縮させて胸腰部を前弯させ さらに上部腹直筋などの体幹屈筋群を収縮させて伸展筋群に対し制動をおこなうこと で胸腰椎 ( 胸郭 ) を安定させ 頭部屈曲力を発揮させていると考えられる さらに顎を引く力を増大させる場合は 広背筋や腹筋群などの代償がおこなわれることになると考える 4 頭蓋前方突出頭蓋前方突出は Neumann 6) によると 頭蓋前方突出は低 ~ 中位頸椎の屈曲と同時に上位頭頸部の伸展の動作であると述べている 頭部伸展筋は大 小後頭直筋 上 下頭斜筋 頸部屈曲筋は3 頭蓋後退の箇所で前述した筋群であり とくに上位頸椎から頭部の伸展としての役割と下位頸椎の屈曲としての役割がある胸鎖乳突筋の働きは重要である 環椎後頭関節や環軸関節に関与する筋は中位から下位頸椎の安定性が必要であり 中位頸椎から下位頸椎の関与する筋は胸椎の安定性が必要である これらの拮抗関係を成立させるためには 頭部屈曲と頸部伸展の拮抗関係を安定させるための上位胸椎でのさらなる安定性が必要になると考えられる そのため より顎を出すためには 肩甲挙筋や僧帽筋などの筋群による肩甲骨の安定化により遠心性に頭部の制御をおこない さらに頸部屈曲に対し広背筋などの肩関節伸展筋や胸椎部の脊柱起立筋群を収縮させることで拮抗力を作り出していると考えられる そのため上肢を引き込む動作が認められることが多い

頭頸部アラインメントの解釈 23 3 4 頭頸部への介入による端座位ならびに端座位での側方移動において 1 両側頭部あたりに指で軽い接触刺激を加えたうえ 被験者に頭頸部がリラックスできる位置に自ら移動した位置での側方移動 ( 図 3の頸部保持 ) 2 耳垂と肩峰を結ぶ線が水平線と垂直になる位置を補正し その位置を意識させての側方移動 ( 図 3の耳垂 - 肩峰 ) 3 検者にて被験者の両頭頸部を把持したうえ 被験者に痛みの出ない範囲で牽引した状態での側方移動 ( 図 3の頸部牽引 ) を実施し 通常の端座位ならびに端座位での側方移動との違いについて ビデオ画像ならびに筋電図にて観察をおこない比較検討をした 筋電計ならびにビデオ機器 筋電図記録対象筋は前述したものと同じとした 筋電図記録は 一度左側に体重移動をおこなってから右側に体重移動し 最大右側移動後 3 秒間静止させたものとした 1 両側頭部への接触刺激による端座位と側方移動 ( 図 3 の頸部保持 ) 端座位姿勢において 通常時と比べて後方に変位する傾向がみられた 側方移動については距離が増大する傾向がみられた 筋活動においては 軽度ではあるが腸肋筋 多裂筋が低下傾向を示した 2 耳垂と肩峰を結ぶ線が水平と垂直になる位置での端座位と側方移動 ( 図 3の耳垂 - 肩峰 ) 端座位姿勢では 通常時と比べて後方に位置し さらに1の側頭部への接触刺激時よりも頭頸部がわずかに伸展位置 ( 頭蓋後退 ) になる傾向がみられた 筋活動においては 大きな変化は認められないものの 側頭部への接触刺激時よりは腸肋筋 多裂筋 大腿直筋がわずかに増大傾向を示した 3 両側頭部把持による牽引した状態での端座位と側方移動 ( 図 3の頸部保持 ) 端座位姿勢においては 把持して牽引したことで後方に変位し かつ骨盤から頭部までアップライトポジションになった 側方への移動は 通常時より移動距離が短い傾向がみられた 筋活動においては 通常時と大きな変化がないかもしくは逆に腸肋筋 多裂筋 大腿直筋の筋活動が増大する被験者もあった 両側頭部への軽い接触刺激により通常時よりさらにリラックスした座位姿勢が認められ 側方移動距離も増大した 筋電図からは 指先接触による修正座位姿勢において 腸肋筋や多裂筋の筋活動の減弱が認められた 頭頸部の過剰な代償により体幹筋の筋活動が充分に発揮できていないような場合には 軽い接触を用いる環境の選択が過剰な代償を減弱し 円滑な筋活動を導く治療の一つと して有効になる可能性が考えられる ただし この接触刺激が何に働きかけられたかについては明確にはできていない 前庭系や体性感覚系への影響 接触刺激箇所による違いによる影響 またハンガー反射 7) による頭頸部への動作の影響も論じられており 今後の検討が必要である 一般的に立位の正常なアラインメントとされている姿勢においては 耳垂 ( 乳様突起 ) 肩峰 大転子 膝関節前方 足関節外果前方などと言われている 2, 4, 6) この耳垂 肩峰 大転子の位置を座位姿勢に用いてみると 側頭部への刺激よりも体幹筋などの筋活動は増大し さらに被験者からも軽度の努力が必要であるとの意見が得られた この姿勢による治療展開は わずかながらではあるが体幹の円滑な筋活動を妨げる可能性があると考えられる 頭頸部の重さを軽減させる目的で被験者に痛みを感じない範囲で両側頭部から把持をした課題においては 把持をしたことで約 5 ~ 10 kgの体重減少がみられた しかしながら 側方移動においては筋活動が増大するケースもみられ 側方移動距離も短くなる傾向にあった 体重を軽減させられたものの頭頸部牽引により頭頸部周囲の筋の伸張 さらに頭頸部の筋膜や腱膜の伸張により体幹の筋膜や腱膜の伸張にもつながり 結果的に動作時に必要な伸張性を妨げた可能性がある また 伸張に対し防御的に収縮をさせる反応が出現した可能性もあり それらの結果 円滑な動作を妨げたものと推測する 理学療法開始肢位において 頭頸部周囲筋が過剰に代償をしている状況は好ましくない また 極端に変位をしている頭頸部の位置においても 整形外科的な問題によるものでなければ そのポジションは好ましいと言えない この問題の起因を精査し その原因を修正しながらアプローチを展開する必要がある たとえば ベッドからの起き上がり動作では 起き上がりを誘導する際に 頭頸部の頑張りとともに上肢で引き込むような姿勢動作が認められる場合には 起き上がり動作開始時のベッドの角度を挙げ 頭頸部の過剰な状況が軽減されるように工夫することが重要である もしくは 適切にセラピストが介助 援助することが求められる 円背姿勢に対する適切な理学療法開始肢位の一例を図 5に示す 適切なポジションが設定されていない状況では過剰な姿勢 動作が出現する場合が多く その姿勢からの動作については 問題点に対するアプローチではなく 本人の努力を助長させた動作学習になる危険が高く そのまま動作を繰り返し続けることで 二次的問題を作り出してしまう可能性がある 座位からの立ち上がり動作においては 骨盤が後傾した円背位の姿勢の場合 後方に体重が変位しており この状況からの立ち上がり動作は 顎を突き出した姿勢を

24 後藤淳 3 筋電図波形は 電極の貼付位置はすべて左側とし 上から 胸鎖乳突筋 僧帽筋上部線維 腹直筋 内外腹斜筋重層部位 腸肋筋 多裂筋 広背筋 大腿直筋を示す 筋電図記録は 一度左側に体重移動をおこなってから右側に体重移動し 最大右側移動後 3 秒間静止させたものを記録した 頸部保持 ( 両側頭部への接触刺激による端座位と側方移動 ) では軽度ではあるが腸肋筋 多裂筋が低下傾向を示した 耳垂 - 肩峰 ( 耳垂と肩峰を結ぶ線が水平と垂直になる位置での端座位と側方移動 ) では側頭部への接触刺激時よりは腸肋筋 多裂筋 大腿直筋がわずかに増大傾向を示した 頸部牽引 ( 両側頭部把持による牽引した状態での端座位と側方移動 ) では通常時と大きな変化がないかもしくは逆に腸肋筋 多裂筋 大腿直筋の筋活動が増大する被験者もあった 4 端座位姿勢にて 側方への体重移動をビデオにて撮影した画像を示す 条件は以下の 4 条件である 1 通常 2 頸部保持 3 耳垂 - 肩峰 ( 矢状面上で耳垂と肩峰を結ぶ線が床面と垂直に合わせた肢位 ) 4 頸部牽引 ( セラピストが被験者の側頭部を把持した状態 ) 画像は一度左側に体重移動をおこなってから右側に体重移動し 最大右側移動後 3 秒間静止させたものである ( 縦線は 床面に対する垂直の線である ) 頸部保持 ( 両側頭部への接触刺激による端座位と側方移動 ) では端座位姿勢において 通常時と比べて後方に変位する傾向がみられた 側方移動については距離が増大する傾向がみられた 耳垂 - 肩峰 ( 耳垂と肩峰を結ぶ線が水平と垂直になる位置での端座位と側方移動 ) による端座位姿勢では 通常時と比べて後方に位置し さらに頸部保持よりも頭頸部がわずかに伸展位置 ( 頭蓋後退 ) になる傾向がみられた 頸部牽引 ( 両側頭部把持による牽引した状態での端座位と側方移動 ) では端座位姿勢において 把持して牽引したことで後方に変位し かつ骨盤から頭部までアップライトポジションになった 側方への移動は 通常時より移動距離が短い傾向がみられた

頭頸部アラインメントの解釈 25 5 左から 背臥位 ベッド上長座位 端座位 適切な位置にクッションなどを入れ 患者自ら周囲の状況を確認する動作が努力することなく可能になる頭頸部の位置を選択する 6 1: 円背姿勢により骨盤が後傾位の場合 あるいは立ち上がり時に前方への体重移動が円滑ではない場合は 頭頸部の筋群が過剰に代償することが予想される 座面にクッションを入れることで骨盤の前傾を誘導しやすくなる 2: クッションなどを入れることで逆に前方への不安定さが増強される場合 後方に向かってセラピストにもたれさせ セラピストの後上方に向かって誘導することで 腰椎前弯による骨盤前傾動作が円滑になり 体幹伸展の活動を促通することができる さらにそこから下肢で地面をける動作につなげることで 膝 股関節の伸展筋の活動を促通することができる 取りやすい 8) 骨盤の位置を前傾位に援助することで重心が前方に移動し 立ち上がり時の頭頸部の代償は軽減できる ( 図 6) 大腰筋や大殿筋などの筋緊張や筋力の低下により骨盤の後傾が観察されることがあるが このような状況で骨盤の前傾動作の獲得のために操作をおこなう場合 頭頸部の過剰な代償が起こることがある このような場合 セラピストが患者の後方から配置し セラピストにもたれかかるようにするなかで セラピストと患者の身体の隙間をクッションなどで埋め その状況から患者にはセラピストに向かって体を延びるように指示する ( 図 6) このとき セラピストは骨盤の前傾動作とともに胸部あたりの脊柱起立筋群の促通による伸展動作を促す ( 図 6) 頭頸部はセラピストにもたれかかるようにしておくと過剰な代償が出現しないなかで 体幹筋などへのアプローチができる 図 7 は脳血管障害右片麻痺患者の座位場面である 骨盤は麻痺側に回旋し後傾している 立ち上がり動作時に骨盤前傾が不十分で頭頸部の過剰な代償が出現し かつ前方への恐怖感も強く 前方への体重移動が難渋している症例である 図のようにクッションなどを用いてセラピストにもたれさせ セラピストの後上方に向かって腰椎前弯に伴う骨盤前傾と胸腰椎の伸展動作の誘導を繰り返しながら 大腰筋 最長筋 多裂筋 腸肋筋 広背筋などを促通する 骨盤の前傾が円滑化した後 下肢で地面を蹴る動作をおこなうなかで膝 股関節の伸展筋の活動を促通し 股関節伸展による骨盤の後傾動作を誘導する 徐々にポジションを端座位に近づけながら同様に骨盤の前傾と体幹の伸展動作 地面を蹴る動作のなかで膝 股関節伸展筋を促通し 立位場面に近づける この治療中 頭頸部の過剰な代償が出現しないよう注意を払う その

26 後藤淳 7 立ち上がり動作時に骨盤前傾が不十分であり かつ前方への恐怖感も強く 前方への体重移動が難渋している症例 この際 頭頸部の過剰な代償が出現する 図のように クッションなどを用いてセラピストにもたれさせ セラピストの後上方に向かっての骨盤の前傾と体幹の伸展誘導を繰り返しながら 大腰筋 最長筋 多裂筋 腸肋筋 広背筋などを促通する 骨盤の前傾が円滑化した後 下肢で地面を蹴る動作をおこなうなかで膝 股関節の伸展筋の活動を促通し 股関節伸展による骨盤の後傾動作を誘導する 骨盤の前傾が円滑になった時点で ポジションを端座位に近づけながら同様に治療を繰り返し 立位場面に近づける この治療中 頭頸部の過剰な代償が出現しないよう注意を払う その後 端座位に戻り 通常の立ち上がり動作を実施するためのアプローチをおこなう 後 端座位に戻り 通常の立ち上がり動作を実施するためのアプローチをおこなう 頭頸部のアラインメントにおいては 立位で述べられている正常姿勢のアラインメントを座位や臥位でそのままあてはめることは難しい そもそも正常な立位姿勢として述べられている位置関係においても あくまでも理想とされるアラインメントであり あらゆる人にあてはまるものではない 頭頸部はバランスを保つために重要な機能が備わっており その位置や状況の変化が姿勢 動作に影響を及ぼすことを理解しなければならない 修正できるものであれば修正が必要であるが 人それぞれによって体格の違いなどにより頭頸部のアラインメントが変位しており 単にアップライト肢位を求めれば良いのではない 重要なことは 頭頸部が姿勢 動作に問題を引き起こす条件になっていないかどうかである 頭頸部を円滑に稼働させることができる条件は 土台である胸郭が安定していることが重要である 頭頸部の正しいアラインメントはそれぞれの姿勢における胸郭の位置にも左右されるが 過剰な筋活動に基づく姿勢や動作をおこなわなくても良い状態であることが大切である 具体的には 意識をすることなく周囲を見渡せる 力を入れなくても起き上がる 立ち上がる などの動作ができることである 日常生活活動において 頭頸部筋群の過剰な代償が必要である場合は その個人において動作課題が大きい可能性を意味する 適切な治療課題にするためには 介助の提供かそれとも場面を変更する必要がある たとえば ベッドからの起き上がり動作を考えてみる 起き上がる 際に上肢の引き込みとともに頭頸部の過剰な代償が認められる場合 介助の提供の例としては 頭頸部を持ち上げ 起き上がる方向に顔を向けるよう介助する 体幹背面から体を引き起こす など 場面の変更の例としては ベッドの背もたれをギャッジアップして頭頸部や上肢の過剰な代償が起こらない場面を設定する などである 過剰な代償を利用する動作の繰り返しは 他の動作においても適切な箇所の筋活動を妨げ さらに頭頸部以外の筋群の過剰な代償を引き起こすことにつながりかねない また 循環器系 呼吸器系 さらには嚥下機能にも負担が増え 背景にある疾患を増悪させる危険性もぬぐいきれない セラピストは直接頭頸部への介入をしていない場合においても 常に頭頸部の状況をモニターできていることが必要であると思われる 1) 大築立志 他 : 姿勢の脳 神経科学 その基礎から臨床まで.pp1 20, 市村出版,2011. 2) 田中繁 高橋明 ( 監訳 ): モーターコントロール, 原著第 3 版.pp46 82,152 182, 医歯薬出版,2009. 3) 鈴木俊明 他 :The Center of the Body 体幹機能の謎を探る, 第 5 版.pp187 195, アイペック,2013. 4) 中村隆一 他 : 基礎運動学.pp4 25, 229 265, 医歯薬出版, 1985. 5) 平田幸男 : 分冊解剖学アトラス 運動器 I.pp35 107, 文光堂,2014. 6) Neumann DA: 筋骨格系のキネシオロジー, 原著第 2 版. pp341 418, 医歯薬出版,2015. 7) 佐藤未知 他 : ハンガー反射の発生条件の検討. 情報処理学会インタラクション,2009. 8) 後藤淳 他 : 立ち上がり動作 力学的負荷に着目した動作分析とアラインメント. 関西理学 2: 25 40, 2002.