船尾部の便所 スパンカーマスト及び操舵室上部が脱落した 大浦丸は 左舷船首部 のハンドレールに曲損を 前部マストに折損を 船底部に破口及び擦過痕をそれぞれ 生じた < 原因 > 本事故は 洲埼北西方沖において 大浦丸が北進中 第五育丸が漂泊して釣り中 両船長が見張りを適切に行っていなかったため 両船

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免許登録日平成 26 年 7 月 3 日免許証交付日平成 26 年 7 月 3 日 ( 平成 31 年 7 月 2 日まで有効 ) 釣り客 A 男性 54 歳釣り客 B 男性 51 歳釣り客 C 男性 74 歳死傷者等重傷 3 人 ( 釣り客 A 釣り客 B 及び釣り客 C) 損傷 なし 気象 海象

おお航海士 Aは 22 時 00 分ごろ福岡県宗像市大島東方沖で船長から 船橋当直を引き継ぎ レーダー 1 台を 6 海里 (M) レンジとして 電 子海図表示装置及び GPS プロッターを 12M レンジとしてそれぞれ 作動させ 操舵スタンド後方に立って単独で操船に当たった 本船は 航海士 A が

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その他の事項 という ) を乗せ ウェイクボーダーをけん.. 引して遊走する目的で 平成 30 年 8 月 13 日 14 時 00 分ごろ土庄町室埼北東方にある砂浜 ( 以下 本件砂浜 という ) を出発した 船長は 自らが操船し 操縦者 同乗者 E の順にウェイクボードに 搭乗させ 本件砂浜北東

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本船は 船長が1 人で船橋当直につき 主機を回転数毎分約 1,2 00( 出力約 20%) とし 約 5ノットの対地速力で 早岐港南東方沖を手動操舵により南南東進中 11 時 07 分ごろ主機が突然停止した 機関長は 温度計測の目的で機関室出入口の垂直はしごを降りていたところ ふだんと違う同室の音を

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操舵室 船室 本件倉庫の通気口 本件倉庫 船尾側 写真 1 本船本船は 船長ほか甲板員 1 人が乗り組み コンベンション協会が企画する地域興し企画の目的で 参加者 11 人及び知人 1 人を乗せ 船体中央部にある船室の各窓を閉めてエアコンを運転し 18 時 40 分ごろ檮原川津賀ダム上流の北岸の係留

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その他の事項 約 200 であり 船首の作業灯がついていて 船長が投錨する旨を指 示したので 機関室に移動して発電機を起動し いつでも主機を中立 運転にできるように準備した後 自室に戻った 航海士 A は 20 時 00 分ごろ本船が減速していることに気付いて 昇橋したところ 船長から船位が分からな

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船舶プロダクト検討について 背景 船舶の情報はユーザーの注目が高く その情報は主に AIS( 後述 ) や衛星画像 ログ情報等から得られる そして海象 気象情報との連携や統計情報等の大量データから得られる情報等から新しい価値の創出も期待できる このことからコアサービスから提供するプロダクト検討の一環

( 東京事案 ) 1 旅客フェリー万葉船体傾斜 2 旅客船第三あんえい号旅客負傷 3 旅客船第三十八あんえい号旅客負傷 ( 地方事務所事案 ) 函館事務所 4 漁船第五十五漁信丸乗揚 5 漁船善宝丸乗組員死亡 6 漁船保栄丸衝突 ( 防波堤 ) 仙台事務所 7 漁船漁栄丸プレジャーボート第五カサイ丸

平成20年函審第24号

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平成24年

平成12年4月 日

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をガス専焼モードとして運転していたところ ガス燃料管のガスリークディテクタがガス濃度上昇の信号を発し LNGの蒸発ガスの燃焼が停止して主ボイラが失火したので 蒸気消費量を減少させようとして2 台のタービン発電機のうちの1 台の負荷をディーゼル発電機に移行させたが 1 台のタービン発電機の気中遮断器を

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1. 船舶事故の概要報告書 1 ページ 旅客フェリーさんふらわあだいせつは 船長ほか22 人が乗り組み 旅客 71 人を乗せ 車両等 160 台を積載し 北海道苫小牧市苫小牧港に向けて茨城県大洗港を出港し 苫小牧港南方沖を北進中 平成 27 年 7 月 31 日 17 時 10 分ごろ第 2 甲板で

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る重大事故となるところでした 本件のような船舶海難の操船者等には 衝突 乗揚げ等海難を避けるべき業務上の注意義務があるのに この注意義務を怠り 何らかの過失 ( 行為 ) によって事故に至ったものとして 業務上過失往来危険罪 が成立し 厳しい処分が下されることがあります また当該事故の結果によって

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平成4年第二審第14号

裁決録

工事 海難防止のための五か条 一見張りは常時 適切に 目視のほか レーダーや AIS 等を使用霧などで視界不良時は 見張りを増員無理な回航は 居眠りの原因 一航法を守り 早目の避航 海上衝突予防法等に定められた航法や灯火等ルール遵守避航は 早めに かつ 大幅に 一最新の気象情報を入手 刻々と変化する

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既存の船舶に関する情報 1

本書作成の目的について湘南海上保安署では 毎年発生しているプレジャーボートやヨット等による定置網等への乗揚げ絡網海難を防止するために 当保安署管内である相模湾にどの様な定置網等が設置されているかを 画像を利用して分かりやすく理解してもらうことを目的としている 本書使用上の留意点について 1 本書は

なお 本件に関してご不明な点は 以下の部署にお問い合わせください 一般財団法人日本海事協会 (ClassNK) 本部管理センター別館船体部 EEDI 部門 住所 : 東京都千代田区紀尾井町 3-3( 郵便番号 ) Tel.: Fax:

< F2D93FC8E448CF68D902882B382F182DC91808BC A2E6A74>

次の内容により各組合の保険約款に規定 普通損害保険 1 通常部分危険区分 ( 漁業種類 トン数区分 船質及び塡補範囲等 ) 毎に再保険料率 ( 告示 ) を下回らない範囲で基準率が定められ これに再保険と同率の各種割増引きが適用 2 異常部分 ( 危険部分であり 台風 風浪 低気圧及び突風による危険

AIS ECDIS AIS AIS ) 1 AIS SOLAS (The International Convention for the Safety of Life at Sea) AIS AIS AIS AIS ( AIS )

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但馬水産技術センターだより 漁況情報 (G1305 号 ) 平成 25 年 8 月 28 日兵庫県立農林水産技術総合センター但馬水産技術センター発行 ハタハタ アカガレイ エチゼンクラゲに関する情報について ( 平成 25 年度底びき漁期前調査結果 ) 平成 25 年 8 月 5 6 日および 8


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側のCO₂ルーム バラストタンク等に浸水したため 右舷傾斜が生じて上甲板の右舷側が没水した状態になったことによりハッチカバー 出入口等から船体内部への浸水量が増加するとともに 風浪を受けて復原力を喪失して横転し 更に浸水量が増加して沈没したことにより発生したものと考えられる MING GUANGが波

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(00)顕著速報(表紙).xls

目 次 Q 1 マリンレジャーはどのようなものがあるの? Q 2 水上オートバイって安全なの? Q 3 最近よく耳にするミニボートってどんなもの? Q 4 プレジャーボートを操縦するのに免許は必要? Q 5 小型船舶の免許はどのようにして取得するの? Q 6 小型船舶に乗るときは救命胴衣を着用しない

2 気象 地震 10 概 況 平 均 気 温 降 水 量 横浜地方気象台主要気象状況 横浜地方気象台月別降水量 日照時間変化図 平均気温 降水量分布図 横浜地方気象台月別累年順位更新表 横浜地方気象台冬日 夏日 真夏

出来ない このようなことから 自動車の出力をそのままで使用することは不可能であり ここでは 耐久面を考慮して自動車用の出力の 1/2 を舶用定格出力として使用する 右図のトヨタ自動車 (FCHV-adv)90kW の燃料電池から 高さ 奥行 幅の寸法比率が 1: 1.38:2.45 であり 車体幅大

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普通損害保険 1 通常部分危険区分 ( 漁業種類 トン数区分 船質及びてん補範囲等 ) 毎に再保険料率 ( 告示 ) を下回らない範囲で基準率が定められ これに再保険と同率の各種割増引きが適用される ( 保険約款 ) 2 異常部分 ( 台風 風浪 低気圧及び突風による危険率で 危険部分 ) 再保険料

(1) 船舶の堪航能力が不十分であるとき (2) 天候 本船の状態 積荷の種類又は水路等の状況に照らし 運航に危険 のおそれがあるとき (3) 水先船の航行に危険のおそれがあるとき (4) 水先人の乗下船に対する安全施設が不備であるとき (5) 水先人の業務執行に際し 身体及び生命に危険のおそれがあ

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5 ii) 実燃費方式 (499GT 貨物船 749GT 貨物船 5000kl 積みタンカー以外の船舶 ) (a) 新造船 6 申請船の CO2 排出量 (EEDI 値から求めた CO2 排出量 ) と比較船 (1990~2010 年に建造され かつ 航路及び船の大きさが申請船と同等のものに限る )

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港則法 海上交通安全法改正に伴う AIS の目的地入力について >JP FNB >JP TYO >JP CHB >JP KWS >JP ANE >JP YOK >JP KZU >JP YOS 第三管区海上保安本部

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Transcription:

船舶事故調査報告書 船種船名漁船大浦丸 漁船登録番号 KN2-1665 総トン数 9.7 トン 船種船名遊漁船第五育丸 漁船登録番号 KN3-15537 総トン数 4.9 トン 事故種類衝突 発生日時平成 24 年 3 月 4 日 12 時 20 分ごろ すのさき発生場所千葉県館山市洲埼北西方沖 館山市所在の洲埼灯台から真方位 305 2.4 海里付近 ( 概位北緯 34 59.9 東経 139 43.0 ) 平成 25 年 12 月 5 日 運輸安全委員会 ( 海事部会 ) 議決 委員長 後藤昇弘 委 員 横山鐵男 ( 部会長 ) 委 員 庄司邦昭 委 員 石川敏行 委 員 根本美奈 要旨 < 概要 > おおうら漁船大浦 丸は 船長ほか 2 人が乗り組み 帰港のため 千葉県館山市洲埼南方沖の いく 漁場を出発して北進中 遊漁船第五育丸は 船長が1 人で乗り組み 釣り客 6 人を乗 せ 洲埼北西方沖で漂泊して釣り中 平成 24 年 3 月 4 日 ( 日 )12 時 20 分ごろ両 船が衝突した 第五育丸は 釣り客 1 人が死亡したほか 船長が負傷し 右舷船尾部に破損を生じ

船尾部の便所 スパンカーマスト及び操舵室上部が脱落した 大浦丸は 左舷船首部 のハンドレールに曲損を 前部マストに折損を 船底部に破口及び擦過痕をそれぞれ 生じた < 原因 > 本事故は 洲埼北西方沖において 大浦丸が北進中 第五育丸が漂泊して釣り中 両船長が見張りを適切に行っていなかったため 両船が衝突したことにより発生した可能性があると考えられる 大浦丸の船長が 見張りを適切に行っていなかったのは 操舵室左舷側の椅子に腰を掛けて見張りを行っており 船首方に死角が生じていたことから レーダーに頼った見張りを行っていたが 1.5Mレンジとしたレーダー画面で航行の支障となる船舶を認めなかったので 航行の支障となる船舶がいないものと思ったことによるものと考えられる

1 船舶事故調査の経過 1.1 船舶事故の概要 おおうら漁船大浦 丸は 船長ほか 2 人が乗り組み 帰港のため 千葉県館山市洲埼南方沖の いく 漁場を出発して北進中 遊漁船第五育丸は 船長が1 人で乗り組み 釣り客 6 人を乗 せ 洲埼北西方沖で漂泊して釣り中 平成 24 年 3 月 4 日 ( 日 )12 時 20 分ごろ両 船が衝突した 第五育丸は 釣り客 1 人が死亡したほか 船長が負傷し 右舷船尾部に破損を生じ 船尾部の便所 スパンカーマスト及び操舵室上部が脱落した 大浦丸は 左舷船首部 のハンドレールに曲損を 前部マストに折損を 船底部に破口及び擦過痕をそれぞれ 生じた 1.2 船舶事故調査の概要 1.2.1 調査組織運輸安全委員会は 平成 24 年 3 月 4 日 本事故の調査を担当する主管調査官ほか1 人の船舶事故調査官を指名した 1.2.2 調査の実施時期平成 24 年 3 月 5 日現場調査及び口述聴取平成 24 年 3 月 6 日口述聴取及び回答書受領平成 24 年 3 月 8 日 28 日 4 月 6 日 19 日回答書受領平成 24 年 3 月 14 日現場調査 口述聴取及び回答書受領平成 24 年 3 月 26 日口述聴取 1.2.3 原因関係者からの意見聴取 原因関係者から意見聴取を行った 2 事実情報 2.1 事故の経過本事故が発生するまでの経過は 大浦丸 ( 以下 A 船 という ) の船長 ( 以下 船長 A という ) 及び乗組員 2 人 ( 以下 乗組員 A 1 及び 乗組員 A 2 という ) 並びに第五育丸 ( 以下 B 船 という ) の釣り客 ( 以下 釣り客 B 1 という ) の口述並びにB 船の船長 ( 以下 船長 B という ) 僚船の船長及びB 船の釣 - 1 -

り客 2 人の回答書によれば 次のとおりであった (1) A 船 A 船は 船長 Aほか2 人が乗り組み 平成 24 年 3 月 4 日 03 時 00 分ごろ神奈川県三浦市間口漁港を出港し 05 時 00 分ごろ洲埼南南西方沖の漁場に着き 11 時 30 分ごろめだいはえ縄漁を終えた A 船は 約 50kg の漁獲物を船体中央部右舷側の魚倉に入れ 11 時 50 分ごろ 間口漁港に帰港するため 船長が 操舵室左舷側の椅子に腰を掛け GPSプロッターの記録を止め 約 12~13ノット (kn) の速力 ( 対地速力 以下同じ ) で針路約 350 ( 真方位 以下同じ ) とし 自動操舵で航行を始めた 乗組員 A 1 及び乗組員 A 2 は 操業を終えた後 操舵室後部で左舷側を向いて2 人並んで座った 船長 Aは 椅子に腰を掛けており 正船首から両舷にわたり 船幅の8 割からほぼ船幅分の範囲の死角 ( 視界が制限された状態 ) が生じるので 3 海里 (M) レンジのレーダー画面を見ながら 操船及び見張りを行っていた 船長 Aは 洲埼西方沖において 前方に約 10 隻の遊漁船と思われるレーダー映像を認め レーダーレンジを3Mから1.5Mに変え 船首を左右に振り 目視で前方に遊漁船群を認め 個々の遊漁船の所在を確認しながら航行し 最後の遊漁船を通過した後 レーダー画面を見て前方に航行の支障となる船舶を認めなかったので 航行の支障となる船舶がいないと思った 船長 Aは 約 10 分間ぼんやりと船首方に目を向けていた後 下を向いてたばこに火をつけようとしたところ A 船は 12 時 20 分ごろ 洲埼灯台から305 2.4M 付近において B 船と衝突した 船長 Aは 機関のクラッチを中立状態にし 操舵室から出て船首方に行き 船長 Bとケガはないか 船に壊れた所がないかなどの会話をしたところ B 船から 救助の要請があったので 12 時 26 分ごろ海上保安庁に通報した A 船は 衝突場所付近で巡視船艇の到着を待ち 負傷者が来援した巡視艇で搬送された後 間口漁港に向かった (2) B 船 B 船は 船長 Bが1 人で乗り組み 釣り客 6 人を乗せ 釣りのため 07 時 00 分ごろ僚船と共に間口漁港を出港し 07 時 40 分ごろ館山市波佐間沖に至った B 船の釣り客 6 人は 右舷船首部 右舷中央部 右舷船尾部 左舷船首部 左舷中央部及び左舷船尾部に腰を掛けて釣りをした 船長 Bは 釣果がよくないので 移動を行い 12 時 00 分ごろ洲埼北西方 - 2 -

沖の釣り場に着き 船首を北方に向けてスパンカーを展張し 操舵室左舷側の椅子に座り 機関を使用してB 船の位置を調整しながら漂泊していた 右舷側にいた釣り客 B 1 は A 船がB 船の右舷方から接近することに気付いたが これまでの他の船と同様にA 船が避けて行くものと思い 釣りを続けた B 船は 釣り客 B 1 が間近に接近したA 船に気付き また 船長 BがA 船に気付いて前進しようとしたものの その直後にA 船と衝突した B 船では 左舷船尾部に腰を掛けていた釣り客 ( 以下 釣り客 B 2 という ) が倒れていたので 乗船者が A 船に救助を要請するように依頼し 釣り客 B 2 の救命措置を行った 負傷した船長 B 及び釣り客 B 2 は 巡視艇によって館山港に到着し 館山市内の病院に搬送された 他の釣り客は 別の巡視艇に移乗し 間口漁港に向かった B 船は 所属する漁業協同組合の組合員が操船して間口漁港に向かった 釣り客 B 2 便所 船長 B 操舵室 本事故の発生日時は 平成 24 年 3 月 4 日 12 時 20 分ごろで 発生場所は 洲埼 灯台から 305 2.4M 付近であった ( 付図 1 推定航行経路図 写真 1 A 船 写真 2 B 船参照 ) 2.2 人の死亡及び負傷に関する情報船長 B 及び医師の回答書によれば 次のとおりであった 釣り客 B 2 は 脳幹部挫傷で死亡した 船長 Bは 頭 肩等を負傷した 2.3 船舶の損傷に関する情報 (1) A 船左舷船首部のハンドレールに曲損を 前部マストに折損を 船底部に破口及び擦過痕をそれぞれ生じた ( 写真 3 A 船の損傷の状況その1 写真 4 A 船の損傷の状況その2 参照 ) - 3 -

(2) B 船右舷船尾部に破損を生じ 船尾部の便所 スパンカーマスト及び操舵室上部が脱落した ( 写真 5 B 船の損傷の状況参照 ) 2.4 乗組員等に関する情報 (1) 性別 年齢 操縦免許証船長 A 男性 61 歳一級小型船舶操縦士 特殊小型船舶操縦士 特定免許登録日昭和 51 年 12 月 10 日免許証交付日平成 23 年 3 月 1 日 ( 平成 28 年 10 月 23 日まで有効 ) 船長 B 男性 36 歳一級小型船舶操縦士 特殊小型船舶操縦士 特定免許登録日平成 11 年 2 月 26 日免許証交付日平成 22 年 1 月 26 日 ( 平成 27 年 3 月 17 日まで有効 ) 釣り客 B 2 男性 40 歳 (2) 主な乗船履歴等船長 A 船長 Aの口述によれば 漁船に約 45 年間乗船し 船長職を約 36 年間務めていた 健康状態は良好であった 船長 B 船長 Bの回答書によれば 遊漁船に約 13 年間乗船し 船長職を約 11 年間務め B 船に約 2 年半乗り組んでいた 健康状態は良好であった 2.5 船舶等に関する情報 2.5.1 船舶の主要目 (1) A 船 漁船登録番号 KN2-1665 主たる根拠地 神奈川県三浦市 船 舶 所 有 者 個人所有 総 ト ン 数 9.7トン Lr B D 12.35m 3.89m 1.25m 船 質 FRP - 4 -

機 関 ディーゼル機関 1 基 出 力 504kW 進 水 年 月 日 平成 14 年 6 月 20 日 船舶検査済票の番号 第 235-45317 号 (2) B 船 漁船登録番号 KN3-15537 主たる根拠地 神奈川県三浦市 船 舶 所 有 者 個人所有 総 ト ン 数 4.9トン Lr B D 11.89m 3.31m 1.00m 船 質 FRP 機 関 ディーゼル機関 1 基 出 力 421kW 進 水 年 月 日 平成 21 年 4 月 22 日 船舶検査済票の番号 第 241-19701 号 2.5.2 船体等の状況 (1) A 船甲板上には 船首部に航海灯用のマストを立て 中央部に機関区画の囲壁があり その後部に操舵室を設け 船尾部にスパンカー用のマスト及び便所があった 甲板下は 船首部から中央部にかけて魚倉や漁具倉などの9つの区画が 中央部に機関区画が 船尾部に漁具倉などの5つの区画がそれぞれあった 操舵室は 操縦区画と休憩区画に分かれ 操縦区画の中央に操舵装置が その左舷側に遠隔操縦装置がそれぞれあり 前面下部には 左舷側からレーダー GPSプロッター及び魚群探知機が また 前面上部には GPS 及び無線機がそれぞれ設置されていた GPSプロッターには 船位が30 秒ごとに記録されており 最後の記録が 11 時の記録から数えて93 番目 (11 時 46 分 30 秒 ) であり 北緯 34 52.3378 東経 139 44.6033 であった A 船は 船首喫水が約 0.5m 船尾喫水が約 1.6mであった 船長 Aの口述によれば 本事故当時 船体 機関及び機器類に不具合又は故障はなかった (2) B 船甲板上には 船首部に航海灯用のマストを立て 中央部に機関区画の囲壁 - 5 -

が その後部に操舵室がそれぞれあり 船尾部にスパンカー用のマストを立て 便所を設け また 両舷に船首部から船尾部まで舷側に沿って腰掛けが設置されていた 甲板下は 船首部から中央部にかけて魚倉や漁具倉などの 8つの区画が 中央部に機関区画が 船尾部に漁具倉などの5つの区画がそれぞれあった 操舵室には 左舷側に操舵装置があり また 前面に左から魚群探知機及びレーダーが設置されていた 船長 Bの回答書によれば 本事故当時 レーダーを使用していなかった 2.5.3 A 船の船首方死角船長 A 乗組員 A 1 及び乗組員 A 2 の口述によれば A 船は 主機の回転数毎分 (rpm) が約 1,000になったときから船首の浮上が始まり 通常約 12~13kn で航行するときに使う約 1,200~1,300rpm になれば 船首が約 30cm 浮上して正船首から両舷にわたり 船幅の約 8 割 ~ 船幅分 ( 正船首から左右舷にそれぞれ約 10 ) の範囲の死角が生じていた ( 写真 6 A 船の船首方の状況 ( 停船時 ) 参照 ) 2.6 気象及び海象に関する情報 2.6.1 気象観測値本事故現場の東方約 7.6Mに位置する館山特別地域気象観測所における本事故当時の気象観測値によれば 降水量が0mm 日照時間が0 分 風向が北東 風速が 3.7m/s 気温が7.2 であった 本事故現場の南東方約 2Mに位置する洲埼灯台における本事故当時の気象情報によれば 風向が北北東 風速が8m/s であった また 本事故現場の北方約 8Mに位置する観音埼船舶通航信号所における本事故当時の気象情報によれば 風向が東北東 風速が6m/s 視程 15,000mであった 2.6.2 乗組員の観測船長 Aの口述によれば 天気は曇り 風速約 7~8m/s の東北東の風が吹き 東北東から波高約 1mの波があり 視程が約 2km であった 僚船の船長の口述によれば 天気は曇り 風速約 4~5m/s の北北東の風が吹き 波高が約 0.5~1mであり 視程が約 10km であった 2.7 類似事故事例 運輸安全委員会の船舶事故調査報告書によれば 平成 20 年 10 月 ~ 平成 25 年 5-6 -

月末において 船首が浮上することによって生じる死角に係る衝突事故は59 件あった 前記の衝突事故のうち 航行中に船首方に死角が生じた船舶が 錨泊又は漂泊といった動きの少ない船舶等と衝突した事故事例が約 9 割であった また 前記の衝突事故の約 5 割は 死角が生じた船舶の操船者が 発進時等に航行方向を目視して他船を認めなかったなどの理由で前路に他船がいないものと思い込み その後 しばらくの間 前路の見張りを適切に行っていなかったことが 事故発生の要因であった 死角が生じていた船舶における死角を補う見張り方法は 主に次のとおりであったが レーダーに頼って見張りを行う事例もあった (1) 船首を振って船首方を確認する (2) 操舵室の天井窓から顔を出して船首方を確認する 2.8 東京湾周辺における衝突事故の発生状況運輸安全委員会の船舶事故ハザードマップ ( 運輸安全委員会の船舶事故調査報告書及び旧海難審判庁の裁決書のデータに基づき作成 ) によれば 東京湾周辺における衝突事故の発生状況は 次の図のとおりであり 同事故は 船舶交通量の多い海域で発生している なお 印が衝突事故の発生した場所を示している また 青色の帯状部分が船舶交通量の多い海域であり 赤色 橙色 黄色の順に船舶交通量が減少する 図 1 東京湾周辺における衝突事故の発生状況 - 7 -

3 分析 3.1 事故発生の状況 3.1.1 事故発生に至る経過 2.1 2.3 及び 2.5.2(1) から 次のとおりであった (1) A 船 1 A 船は 11 時 46 分 30 秒に洲埼灯台から186 6.3M 付近にいたものと推定される 2 A 船は 11 時 50 分ごろ洲埼灯台から186 6.3M 付近を出発し 自動操舵により 間口漁港付近に向けて約 350 の針路及び約 12~ 13kn の速力で航行したものと考えられる 3 A 船は 船長 Aが約 10 隻の遊漁船群を通過した後 前記 2 記載の針路及び速力で航行中 A 船とB 船が衝突したものと考えられる (2) B 船 1 B 船は 12 時 00 分ごろ洲埼北西方沖の釣り場に着き スパンカーを展張し 漂泊して釣り中 船長 Bが 操舵室左舷側の椅子に座り 機関を使用してB 船の位置を調整していたものと考えられる 2 船長 Bは A 船に気付いて前進しようとしたものの B 船とA 船が衝突したものと考えられる 3.1.2 事故発生日時及び場所 2.1 から 本事故の発生日時は 平成 24 年 3 月 4 日 12 時 20 分ごろで 発 生場所は 洲埼灯台から 305 2.4M 付近であったものと考えられる 3.1.3 船体の損傷 2.3から 次のとおりであったものと考えられる A 船は 左舷船首部のハンドレールに曲損を 前部マストに折損を 船底部に破口及び擦過痕をそれぞれ生じた B 船は 右舷船尾部に破損を生じ 船尾部の便所 スパンカーマスト及び操舵室上部が脱落した 3.1.4 衝突の状況 2.1 及び 3.1.3 から A 船の船首部と B 船の右舷船尾部が衝突したものと考え られる - 8 -

3.1.5 人の死亡及び負傷 2.2 から 釣り客 B 2 は脳幹部挫傷で死亡し 船長 B は頭 肩等を負傷したも のと考えられる 3.2 事故要因の解析 3.2.1 乗組員等の状況 2.4から 船長 A 及び船長 Bは 共に適法で有効な操縦免許証を有していた また 船長 A 及び船長 Bの健康状態は 共に良好であったものと考えられる 3.2.2 船舶の状況 (1) A 船 2.5.2(1) 及び 2.5.3 から 次のとおりであったものと考えられる 1 本事故当時には 船体 機関及び機器類に不具合又は故障はなかった 2 A 船は 本事故当時 船首浮上により 正船首から両舷にわたり 約 20 の範囲に死角が生じていた (2) B 船 2.5.2(2) から レーダーを備えていたが 本事故当時 使用していなかったものと考えられる 3.2.3 気象及び海象状況 2.6 から 本事故発生場所付近では 天気は曇り 風向は北北東 風速は約 8 m/s 波高は約 1m 視程は約 8M であったものと考えられる 3.2.4 見張り及び操船の状況 2.1 3.1.1 及び 3.2.2 から 次のとおりであった (1) A 船 1 船長 Aは 操舵室左舷側の椅子に腰を掛けて操船及び見張りを行っていたが この状態では 船首方に死角が生じていたことから レーダーに頼った見張りを行っていたものと考えられる 2 船長 Aは 洲埼西方沖において 前方に約 10 隻の遊漁船と思われるレーダー映像を認め レーダーを3Mレンジから1.5Mレンジに変え 船首を左右に振って目視で前方に遊漁船群を認め 個々の遊漁船の所在を確認しながら 航行したものと考えられる 3 船長 Aは 遊漁船群を通過後 レーダー画面を見て航行の支障となる船舶を認めなかったので 航行の支障となる船舶がいないものと思い B 船 - 9 -

と衝突するまで約 10 分間航走していたが レーダー画面を見たのは 本事故発生場所から約 2M 手前であったものと考えられる 4 船長 Aは 前記 3 記載のとおり 1.5Mレンジのレーダー画面で前方に他船を認めなかったので 航行の支障となる船舶がいないものと思ったことから 見張りを適切に行っていなかったものと考えられる (2) B 船 1 船長 Bは レーダーを使用せず 操舵室内の左舷側の椅子に座って操船していたものと考えられる 2 船長 Bは A 船に気付いて前進しようとしたものの その直後に両船が衝突しており 衝突直前にA 船に気付いたことから 見張りを適切に行っていなかった可能性があると考えられる 3 船長 Bの協力が得られなかったため 船長 Bが見張りを適切に行っていなかった状況を明らかにすることはできなかった 3.2.5 事故発生に関する解析 3.1.1 及び 3.2.4 から 次のとおりであった (1) A 船 1 A 船は 洲埼灯台から186 6.3M 付近を出発し 自動操舵により 間口漁港付近に向けて約 350 の針路及び約 12~13kn の速力で航行中 船長 Aは 操舵室左舷側の椅子に腰を掛けて操船及び見張りを行っていたが この状態では 船首方に死角が生じていたことから レーダーに頼った見張りを行っていたものと考えられる 2 船長 Aは 洲埼西方沖において 前方に約 10 隻の遊漁船と思われるレーダー映像を認め レーダーを3Mレンジから1.5Mレンジに変え 船首を左右に振って目視で前方に遊漁船を認め 個々の遊漁船の所在を確認しながら航行し 遊漁船群を通過後 航行の支障となる船舶がいないものと思ったので 見張りを適切に行っていなかったことから A 船とB 船が衝突したものと考えられる (2) B 船 1 B 船は 洲埼北西方沖において スパンカーを展張し 漂泊して釣り中 船長 Bが レーダーを使用せず 操舵室左舷側の椅子に座って操船していたものと考えられる 2 船長 Bは 見張りを適切に行っていなかったことから B 船とA 船が衝突した可能性があると考えられる 3 船長 Bの協力が得られなかったため 船長 Bが見張りを適切に行ってい - 10 -

なかった状況を明らかにすることはできなかった 3.2.6 類似事故の状況 2.7から 航行中に船首方に死角が生じた船舶は 船首方の見張りを行うため 船首を振る 操舵室の天井窓から顔を出すという方法を主に行っていたが レーダーに頼って見張りを行う事例もあったものと考えられる 船首が浮上することによって生じる死角に係る事故の約 5 割においては 死角が生じた船舶の操縦者が 発進時等に航行方向を目視して他船を認めなかったなどの理由で前路に他船がいないと思い込み その後 しばらくの間 前路の見張りを適切に行っていなかったことにより 衝突に至っていることから 船首方の見通しが妨げられないように見張りの方法を工夫し 又は船首方の死角の解消が図られれば 類似事故の発生を減少できるものと考えられる 2.8から 船舶交通量が多い海域で衝突事故が多発していることから 航行中及び漂泊中共に常時見張りを適切に行う必要があると考えられる 4 原因 本事故は 洲埼北西方沖において A 船が北進中 B 船が漂泊して釣り中 両船長が見張りを適切に行っていなかったため 両船が衝突したことにより発生した可能性があると考えられる 船長 Aが 見張りを適切に行っていなかったのは 操舵室左舷側の椅子に腰を掛けて見張りを行っており 船首方に死角が生じていたことから レーダーに頼った見張りを行っていたが 1.5Mレンジとしたレーダー画面で航行の支障となる船舶を認めなかったので 航行の支障となる船舶がいないものと思ったことによるものと考えられる 5 再発防止策 本事故は 洲埼北西方沖において A 船が北進中 B 船が漂泊して釣り中 両船長が見張りを適切に行っていなかったため 両船が衝突したことにより発生した可能性があると考えられる 船長 Aが 見張りを適切に行っていなかったのは 操舵室左舷側の椅子に腰を掛けて見張りを行っており 船首方に死角が生じていたことから レーダーに頼った見張 - 11 -

りを行っていたが 1.5Mレンジとしたレーダー画面で航行の支障となる船舶を認めなかったので 航行の支障となる船舶がいないものと思ったことによるものと考えられる したがって 船長 A 及び船長 Bは 次の措置を行うことが必要なものと考えられる 他船との衝突の虞などについて 判断することが求められることから 船首方の見通しが妨げられないようにレーダー等の備えられている機器を有効に活用して見張りの方法を工夫し 又は可能な限り 船首方の死角の解消を図ること 特に 周囲の船舶の状況を適確に把握して安全確認に努め 釣り客の安全確保を図ること - 12 -

付図 1 推定航行経路図 間口漁港 事故発生場所 ( 平成 24 年 3 月 4 日 12 時 20 分ごろ発生 ) 洲埼灯台 A 船の GPS プロッター に記録された最後の地点 1M - 13 -

写真 1 A 船 写真 2 B 船 衝突箇所 - 14 -

写真 3 A 船の損傷の状況その 1 破口 擦過痕 写真 4 A 船の損傷の状況その 2 曲損 折損 - 15 -

写真 5 B 船の損傷の状況 レーダー等操舵室上部の脱落 船尾部便所及びスパ ンカーマスト脱落 右舷船尾部破損 ( 衝突箇所 ) 写真 6 A 船の船首方の状況 ( 停船時 ) 死角部分 海面 レーダー画面 - 16 -