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参考 平成 27 年 11 月 政府税制調査会 経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する論点整理 において示された個人所得課税についての考え方 4 平成 28 年 11 月 14 日 政府税制調査会から 経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する中間報告 が公表され 前記 1 の 配偶

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日本基準でいう 法人税等 に相当するものです 繰延税金負債 将来加算一時差異に関連して将来の期に課される税額をいいます 繰延税金資産 将来減算一時差異 税務上の欠損金の繰越し 税額控除の繰越し に関連して将来の期に 回収されることとなる税額をいいます 一時差異 ある資産または負債の財政状態計算書上の

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3. 改正の内容 法人税における収益認識等について 収益認識時の価額及び収益の認識時期について法令上明確化される 返品調整引当金制度及び延払基準 ( 長期割賦販売等 ) が廃止となる 内容改正前改正後 収益認識時の価額をそれぞれ以下とする ( 資産の販売若しくは譲渡時の価額 ) 原則として資産の引渡

[2] 株式の場合 (1) 発行会社以外に譲渡した場合株式の譲渡による譲渡所得は 上記の 不動産の場合 と同様に 譲渡収入から取得費および譲渡費用を控除した金額とされます (2) 発行会社に譲渡した場合株式を発行会社に譲渡した場合は 一定の場合を除いて 売却価格を 資本金等の払戻し と 留保利益の分

1 検査の背景 (1) 租税特別措置の趣旨及び租税特別措置を取り巻く状況租税特別措置 ( 以下 特別措置 という ) は 租税特別措置法 ( 昭和 32 年法律第 26 号 ) に基づき 特定の個人や企業の税負担を軽減することなどにより 国による特定の政策目的を実現するための特別な政策手段であるとさ

税が課税される所得を生み出す事業活動に使われているか否かを基準に損金算入規制を設けていると考えられます 株式などの出資の取得のために資金を使った場合, 株式から生じる配当やキャピタルゲインは資本参加免税により非課税となります このケースでは, オランダでの課税所得を生じないことが想定されるため, 出

平成 29 年度税制改正解説国際課税 ~ 外国子会社合算税制の改正 2 4. 外国子会社合算税制の適用フローチャート 改正前 合算課税の適用対象となる内国法人等の判定 用語解説 丸数字は左のフローチャートと対応 合算対象法人における判定 1 外国法人の株式を 10% 以上保有しているか? 合算所得な

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税制改正大綱―外国子会社合算税制の見直し

1. のれんを資産として認識し その後の期間にわたり償却するという要求事項を設けるべきであることに同意するか 同意する場合 次のどの理由で償却を支持するのか (a) 取得日時点で存在しているのれんは 時の経過に応じて消費され 自己創設のれんに置き換わる したがって のれんは 企業を取得するコストの一

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海運関係事項

適用時期 5. 本実務対応報告は 公表日以後最初に終了する事業年度のみに適用する ただし 平成 28 年 4 月 1 日以後最初に終了する事業年度が本実務対応報告の公表日前に終了している場合には 当該事業年度に本実務対応報告を適用することができる 議決 6. 本実務対応報告は 第 338 回企業会計

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「BEPSプロジェクト最終報告書の概要と実務への影響」

1 各調整方式の比較 前提 : 法人実効税率 % 金融所得の税率 20% ( 配当軽課の場合の配当分の法人税率は 30%) 比較のポイント 適用税率 法人税率か所得税率か 金融所得課税一元化にマッチするか( 税率 損益通算 ) 簡素な制度か 特定口座への対応はか 法人の税負担は軽減されるか

1. 国際的二重課税の発生理由と態様 3 税を行っていますが 諸外国においても 一般に 我が国の場合と同様に 国だけでなく地方公共団体も独自に課税権を有していますので 国の段階と地方公共団体の段階とで重複して 国際的二重課税 が生ずることとなっています 国際的二重課税 とは 基本的には このように捉

国際課税制度に関する意見 ( 研究会の議論の整理 ) 平成 2 8 年 3 月日本企業の海外展開を踏まえた国際課税制度の在り方に関する研究会 < はじめに > 平成 27 年 6 月以降 経済産業省の委託事業の一環として開催されてきた 日本企業の海外展開を踏まえた国際課税制度の在り方に関する研究会

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2. サプライチェーン マネジメントと国際税務戦略 サプライチェーン マネジメントと国際税務戦略には密接なつながりがあります グローバルに事業を展開している多国籍企業のサプライチェーンは 複数の国の複数の関係会社を通じて行われているのが通常であり 関係会社間の製品やサービスの取引価格は 移転価格税制

消費税 : 課税の適正化について 1 ( これまでの取組み等 ) 1. 総論 社会保障 税一体改革成案 ( 平成 23 年 6 月 30 日政府 与党社会保障改革検討本部決定 ) においては 消費税制度の信頼性を確保するための一層の課税の適正化を行う こととされている ( 参考 ) 平成 23 年度

[ 指針 ] 1. 組織体および組織体集団におけるガバナンス プロセスの改善に向けた評価組織体の機関設計については 株式会社にあっては株主総会の専決事項であり 業務運営組織の決定は 取締役会等の専決事項である また 組織体集団をどのように形成するかも親会社の取締役会等の専決事項である したがって こ

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第6回国際課税ディスカッショングループ 議事録

CONTENTS 第 1 章法人税における純資産の部の取扱い Q1-1 法人税における純資産の部の区分... 2 Q1-2 純資産の部の区分 ( 法人税と会計の違い )... 4 Q1-3 別表調整... 7 Q1-4 資本金等の額についての政令の規定 Q1-5 利益積立金額についての政

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制度見直しに関する主な方向性については 次の通り考えるものとする 1. ビッグデータ時代におけるパーソナルデータ利活用に向けた見直し 個人情報及びプライバシーの保護に配慮したパーソナルデータの利用 流通を促進するため 個人データを加工して個人が特定される可能性を低減したデータに関し 個人情報及びプラ

エチオピア 2017 年 2 月 エチオピアは FATF 及び ESAAMLG( 東南部アフリカ FATF 型地域体 ) と協働し 有効性強化及び技術的な欠陥に対処するため ハイレベルの政治的コミットメントを示し 同国は 国家的なアクションプランや FATF のアクションプラン履行を目的とした委員会

資料3

「図解 外形標準課税」(仮称)基本構想

第 298 回企業会計基準委員会 資料番号 日付 審議事項 (2)-4 DT 年 10 月 23 日 プロジェクト 項目 税効果会計 今後の検討の進め方 本資料の目的 1. 本資料は 繰延税金資産の回収可能性に関わるグループ 2 の検討状況を踏まえ 今 後の検討の進め方につ

日本版スクーク ( イスラム債 ) に係る税制措置 Q&A 金融庁

PE 帰属所得計算の実務と課題 平成 28 年 7 月 4 日公開草案事例を検討する 平成 29 年 7 月 11 日 ユナイテッド パートナーズ会計事務所代表取締役西村善朗 1. 平成 28 年 4 月 1 日以後開始事業年度に 報告対象となるもの (3 月決算法人である内国法人については 平成

資料9

各資産のリスク 相関の検証 分析に使用した期間 現行のポートフォリオ策定時 :1973 年 ~2003 年 (31 年間 ) 今回 :1973 年 ~2006 年 (34 年間 ) 使用データ 短期資産 : コールレート ( 有担保翌日 ) 年次リターン 国内債券 : NOMURA-BPI 総合指数

目 次 問 1 法人税法における当初申告要件及び適用額の制限に関する改正の概要 1 問 2 租税特別措置法における当初申告要件及び適用額の制限に関する改正の概要 3 問 3 法人税法における当初申告要件 ( 所得税額控除の例 ) 5 問 4 法人税法における適用額の制限 ( 所得税額控除の例 ) 6

することを可能とするとともに 投資対象についても 株式以外の有価証券を対象に加えることとする ただし 指標連動型 ETF( 現物拠出 現物交換型 ETF 及び 金銭拠出 現物交換型 ETFのうち指標に連動するもの ) について 満たすべき要件を設けることとする 具体的には 1 現物拠出型 ETFにつ

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⑴ 政策目的本件は, 我が国において開発資金のための国際連帯税 ( 国際貢献税 ) を導入し, 持続可能な開発のための 2030 アジェンダ 等, 国際的な開発目標の達成に対応 貢献するために, 世界の開発需要に対応し得る幅広い開発資金を調達するもの これは, 外務省政策評価, 基本目標 Ⅵ 経済協

(1) 相続税の納税猶予制度の概要 項目 納税猶予対象資産 ( 特定事業用資産 ) 納税猶予額 被相続人の要件 内容 被相続人の事業 ( 不動産貸付事業等を除く ) の用に供されていた次の資産 1 土地 ( 面積 400 m2までの部分に限る ) 2 建物 ( 床面積 800 m2までの部分に限る

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ための手段を 指名 報酬委員会の設置に限定する必要はない 仮に 現状では 独立社外取締役の適切な関与 助言 が得られてないという指摘があるのならば まず 委員会を設置していない会社において 独立社外取締役の適切な関与 助言 が十分得られていないのか 事実を検証すべきである (2) また 東証一部上場

平成23年度税制改正の主要項目

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個人情報保護法の3年ごと見直しに向けて

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従って IFRSにおいては これらの減価償却計算の構成要素について どこまで どのように厳密に見積りを行うかについて下記の 減価償却とIFRS についての説明で述べるような論点が生じます なお 無形固定資産の償却については 日本基準では一般に税法に準拠して定額法によることが多いですが IFRSにおい

その他資本剰余金の処分による配当を受けた株主の

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平成29年度税制改正に関する意見書

目次 Ⅰ タックス ヘイブン対策税制の概要 3 Ⅱ 非課税所得の範囲 連結納税を適用している場合の取扱い 1 非課税所得の範囲 2 連結納税を適用している場合の租税負担割合の算定方法 Ⅲ 各国の事例に基づく検討 1 米国 ( 現物分配 連結納税 LLC) 2 英国 ( グループリリーフ ) 3 ドイ

Tax Analysis

外国税額控除 この取り扱いは 平成 21 年度税制改正の 海外子会社の配当の益金不算入制度 ( 法法 23 条の 2) により廃止されました 原則として 平成 21 年 4 月 1 日以降に開始する親会社の事業年度から適用されます ( 附則 6) ただし 租税負担率 25% 以下の軽課税国に所在する

1 繰越控除適用事業年度の申告書提出の時点で判定して 連続して 提出していることが要件である その時点で提出されていない事業年度があれば事後的に提出しても要件は満たさない 2 確定申告書を提出 とは白色申告でも可 4. 欠損金の繰越控除期間に誤りはないか青色欠損金の繰越期間は 最近でも図表 1 のよ

法人会の税制改正に関する提言の主な実現事項 ( 速報版 ) 本年 1 月 29 日に 平成 25 年度税制改正大綱 が閣議決定されました 平成 25 年度税制改正では 成長と富の創出 の実現に向けた税制上の措置が講じられるともに 社会保障と税の一体改革 を着実に実施するため 所得税 資産税についても

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また 税務局は VAT 還付に対して非協力的な姿勢なため 理不尽な理由で還付を認めないことや 還付を認めたにもかかわらず送金までに時間を要することもあるため 資金繰りを考える際には慎重に時間を見積もることをお勧めする なお 還付手続に係る労力や還付が否認されるリスクを勘案すると 控除しきれない仕入

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Ⅲ コース等で区分した雇用管理を行うに当たって留意すべき事項 ( 指針 3) コース別雇用管理 とは?? 雇用する労働者について 労働者の職種 資格等に基づき複数のコースを設定し コースごとに異なる配置 昇進 教育訓練等の雇用管理を行うシステムをいいます ( 例 ) 総合職や一般職等のコースを設定し

女性が働きやすい制度等への見直しについて

085 貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準 新株予約権 少数株主持分を株主資本に計上しない理由重要度 新株予約権を株主資本に計上しない理由 非支配株主持分を株主資本に計上しない理由 Keyword 株主とは異なる新株予約権者 返済義務 新株予約権は 返済義務のある負債ではない したがって

企業会計の利益 法人税法上の所得金額 売上原価販売費一般管理費営業外費用特別損失 売上 営業外収益特別利益 損金の額原価費用損失の額 益金の額 ( 収益の額 ) 当期純利益所得の金額 2 益金の額に算入すべき金額とは何か益金の額に算入すべき金額とは 法人税法の規定や他の法令で 益金の額に算入する 又

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収益認識に関する会計基準

4. 附加価値への試みと挫折 現行事業税へ昭和 24 年 (1949 年 ) 第一次シャウプ勧告事業税の課税標準について 原料等 他の事業から購入したものの価値に その企業が附加したところの額である とし 課税標準を事業の所得によるのではなく 附加価値を採用すべきである旨勧告昭和 25 年 (194

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はじめに 会社の経営には 様々な判断が必要です そのなかには 税金に関連することも多いでしょう 間違った判断をしてしまった結果 受けられるはずの特例が受けられなかった 本来より多額の税金を支払うことになってしまった という事態になり 場合によっては 会社の経営に大きな影響を及ぼすこともあります また

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下では特別償却と対比するため 特別控除については 特に断らない限り特定の機械や設備等の資産を取得した場合を前提として説明することとします 特別控除 内容 個別の制度例 特定の機械や設備等の資産を取得して事業の用に供したときや 特定の費用を支出したときなどに 取得価額や支出した費用の額等 一定割合 の

スライド 1

税額控除限度額の計算この制度による税額控除限度額は 次の算式により計算します ( 措法 42 の 112) 税額控除限度額 = 特定機械装置等の取得価額 税額控除割合 ( 当期の法人税額の 20% 相当額を限度 ) 上記算式の税額控除割合は 次に掲げる区分に応じ それぞれ次の割合となります 特定機械

債券税制の見直し(金融所得課税の一体化)に伴う国債振替決済制度の主な変更点について

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6 課税上の取扱い日本の居住者又は日本法人である投資主及び投資法人に関する課税上の一般的な取扱いは 下記のとおりです なお 税法等の改正 税務当局等による解釈 運用の変更により 以下の内容は変更されることがあります また 個々の投資主の固有の事情によっては異なる取扱いが行われることがあります (1)

新たな国際課税ルールを策定特集 BEPS プロジェクト の取組と概要 G20 財務大臣会合で BEPS プロジェクト最終報告書について報告 11 月開催の G20 サミットでも報告予定 BEPSプロジェクトとは 多国籍企業が国際的な税制の隙間や抜け穴を利用した租税回避によって 税負担を軽減している問

第8回税制調査会 総8-2(案とれ)

問 2 戦略的な知的財産管理を適切に行っていくためには, 組織体制と同様に知的財産関連予算の取扱も重要である その負担部署としては知的財産部門と事業部門に分けることができる この予算負担部署について述べた (1)~(3) について,( イ ) 内在する課題 ( 問題点 ) があるかないか,( ロ )

法人税制改正詳解 CONTENTS はしがき 第 1 章平成 23 年 12 月改正 第 1 節 法人税率の引下げ 2 1 改正の趣旨及び内容 2 2 税率引下げの必要性 5 3 実効税率の計算への改正の影響 7 4 適用関係 8 5 実効税率と復興特別法人税との関係 8 6 法

<4D F736F F D F4390B3817A4D42418C6F896390ED97AA8D758B60985E814091E63289F AE8E9197BF E646F63>

[2] のれんの発生原因 企業 ( または事業 ) を合併 買収する場合のは 買収される企業 ( または買収される事業 ) のおよびを 時価で評価することが前提となります またやに計上されていない特許権などの法律上の権利や顧客口座などの無形についても その金額が合理的に算定できる場合は 当該無形に配

Transcription:

平 28.11.14 総 8-5 平成 28 年 11 月 14 日税制調査会 BEPS プロジェクト の勧告を踏まえた国際課税のあり方に関する論点整理 ( 案 ) 1. 今後の国際課税改革に当たっての基本的視点 国際課税の諸制度は 企業を取り巻くグローバルな環境が大きく変化していく中にあって 日本企業の健全な海外展開や国際競争力を維持 強化しつつ 日本の適切な課税が確保できるよう不断に見直していかなければならない 特に ビジネスモデルの変化や諸外国の国際課税改革の動きには留意する必要がある 近年 企業のビジネスモデルは大きく変化している グローバル化や情報通信技術の進展を背景に多国籍企業の活動は複雑化の一途を辿っており 生産 雇用 販売 マーケティング等をグローバルなレベルで最適な国 地域に配分するようになっている また 知的財産等の可動性の高い無形資産が付加価値の中核を占める財 サービスが増え 企業経営に大きな影響を与えるようになっている このようなビジネスモデルの変化に伴い グローバルな資本や資産の移動にも顕著な変化が確認できる 例えば 増加傾向にあるクロスボーダーの直接投資については 工場設立を通じた海外進出等の グリーンフィールド 投資や実体のある企業の M&A だけでなく 投資先国での活動を前提としない実体の伴わないペーパー カンパニー等への投資が増加してきている また 知的財産の開発の場所と 知的財産からの収益が受領される場所が一致しない傾向も観察される 国際課税制度をこのような企業行動の変化や国際資本移動の変容に適合させていくに際しては 健全な企業活動が阻害されないようにすることはもとより 一部の行き過ぎたタックス プランニングを行っている企業に対して競争上不利になることも避けなければならない 公平な競争条件をグローバルに整えるためには 国際的な協調が必要である 上記のような企業活動の変化に対し 各国政府が個々に自国の課税権を行使し続ければ 各国税制の差異や隙間を突いた租税回避行動を誘発してしまう 各国の税収に対するリスクを高めるこうした状況に効果的に対応していくためには 税制の隙間や抜け穴をふさぎ 国際課 1

税ルールを再構築していく努力を各国が協調して継続していくことが欠かせない このような問題意識の下で 多国間協調による国際課税ルールの再構築を通じて対応することを目指した G20 OECD BEPS(Base Erosion and Profit Shifting: 税源浸食 利益移転 ) プロジェクト は 15 の行動からなる最終報告書を 2015 年 10 月に提示した BEPS プロジェクト 参加国がパッケージとして実施にコミットした 15 の行動は 勧告の拘束力の観点からは 1 各国の一致した対応が求められる ミニマム スタンダード 2 各国の慣行の統一を促進する 共通アプローチ 及び 3 ベスト プラクティス に基づくガイダンスの 3 つに分類される また 15 の行動を内容面から分類を試みれば 1 課税利益認識の場と 経済活動 価値創造の場を一致させる 実態性 (substance) 2 各国政府 グローバル企業の活動に関する 透明性 (transparency) 及び 3 租税紛争の効果的解決と合意事項の一貫した実施 (consistency) による 予測可能性 の 3 つの柱のもとで整理される 今後日本の国際課税制度の改革を進めていく上では その取りまとめに当たり日本が主導的役割を果たしてきた BEPS プロジェクト の最終報告書で示された内容を 十分に踏まえていく必要がある 例えば 知的財産の海外への移転については 日本で研究開発税制を含む政策資源を投入して知財開発を支援していることを踏まえれば BEPS プロジェクト の勧告も踏まえた制度改革等を通じて しっかりと対応していかなければならない また BEPS プロジェクト の合意事項を日本が着実に実施することに加え 引き続き主導的役割を果たしながら他の国 地域による一貫した実施も促し 租税回避防止に向けたグローバルな取組みの実効性を向上させていくことも重要である さらに 外国子会社配当益金不算入制度 導入等の過去の制度改革の趣旨 及び現在の法人税体系を踏まえた 総合的視点を持って議論を進めていくことも必要である また 多国籍企業の活動に係る実態を把握するべくデータ収集や分析に精力的に取り組むことが必要である 制度改正に加えて 執行面の対応も重要である 具体的には 経済取引の国際化等に伴う調査事務の複雑化 困難化や申告件数の増加等に対応できるよう 今後 国際課税を中心に税務当局職員の増員やスキルアップを含めた執行体制やモニタリング機能の増強が必要である 2

2. 個別の制度設計に当たっての留意点 ⑴ 外国子会社合算税制の総合的見直し 1 背景外国子会社合算税制は 外国子会社等を通じた税負担軽減を防止する制度として昭和 53 年に導入されて以降 累次の改正が重ねられてきた 例えば 制度導入当初は 軽課税国 を指定した上で 該当する国 地域に所在する外国子会社等の所得を合算対象としていたことから 通称 タックスヘイブン対策税制 と呼ばれてきたが 平成 4 年度改正で 軽課税国 指定制度が廃止されて以降 外国子会社が所在する国 地域の法人税率に関わらず 個々の外国子会社の租税負担割合により対象を判定するアプローチへと移行している また 平成 22 年度改正では 適用除外基準 を満たすことにより会社単位の合算課税の対象外となる外国子会社等であっても ポートフォリオ投資に係る配当 利子 特許権等の使用料等 いわゆる 資産性所得 については合算することとされ 従来の会社単位の制度に所得単位の要素を加えた また 外国子会社合算税制の位置づけは 平成 21 年度税制改正における 外国子会社配当益金不算入制度 の導入に伴い 大きく変化している 同改正以前は 外国子会社の所得を 発生時に日本の親会社所得として課税すべきものと配当還流した段階で課税するものとに分けていたが 改正後は 配当の有無にかかわらず発生時に日本の親会社所得として課税すべきものを切り出す制度となった 両制度は密接に関連しており 総合的に捉える必要がある 例えば 外国子会社配当益金不算入制度には 企業の健全な海外展開を促進する効果があること 他方で 知財 金融資産等を形式的 表面的に外国子会社へと移転し 得られた所得を配当として日本に戻すことで課税を逃れる行為を助長する側面もあることに留意して外国子会社合算税制を設計する必要がある 外国子会社合算税制については 今後も ビジネスモデルの多様化 グローバル化や国際的な資本移動の変化等に応じて その機能を維持 向上させていかなければならない この問題意識は平成 28 年度与党税制改正大綱にも示されており 外国子会社の経済実態に即した課税を行うべき とする BEPS プロジェクト 最終報告書の基本的考え 3

方を踏まえ 外国子会社を利用した税負担の軽減防止という本税制の趣旨 日本の産業競争力や経済への影響 適正な執行の確保等に留意しつつ 総合的な検討を行い 結論を得るとされている 2 日本の外国子会社合算税制の総合的見直しに当たっての論点 BEPS プロジェクト 最終報告書の 行動 3 の内容を踏まえて制度見直しの方向性を考えると 日本の親会社の所得に合算すべき外国子会社の所得を見極めるためのアプローチは 以下のようなものになると考えられる 商品の製造 販売による対価の獲得等 所得が生じた場所で実際に実質的な経済活動が行われている場合 そうして得た所得を 能動的所得 として子会社所在地国での課税を優先し 日本の親会社の所得に合算しない 投資活動のリターンや知財使用料収入等 実質的な事業活動を伴わない資本 知財の提供等のみで所得を得られる場合 その所得を 受動的所得 とし外国子会社合算税制 : 見直しの方向性て 事業活動に不可欠であるなど子会社に帰属させることが合理的な場合を除き 日本の親会社の所得に合算する 上記の理論的分類を制度に反映させていくに当たっては 以下のような論点に留意する必要がある まず 現行制度がトリガー税率を上回る外国関係会社を一律 自動的に対象外としているために いわゆる under-inclusion が発生している一方で 現在の適用除外判定により 実体ある事業が合算課税されてしまうこと ( いわゆる over-inclusion) への対応を検討する必要がある この点については 租税 4

回避のリスクを 外国子会社全体の税負担水準と活動の態様 により判断する現行の方法から 外国子会社の所得の内容 ( 受動的所得 / 能動的所得 ) により判断するアプローチへと転換することで under-inclusion over-inclusion の双方に適切に対処しうる また こうしたアプローチは 日本企業が外国子会社の実態をより正確かつ適時に把握する機会を提供することとなるため 日本の多国籍企業のガバナンス向上にも貢献するとも言える 他方 納税者にとっての過度な事務負担や不確実性の発生は避けなければならない 従って 租税回避リスクを効果的に捉えつつ 過度な事務負担を生じさせない 制度適用免除基準 を 諸外国の事例も参照しつつ 外国子会社の売上高 利益率 資本金 税負担率 対象所得の金額等 幅広く検討し 設定する必要がある 同時に 上記 制度適用免除基準 に関わらず 直ちに事業体レベルで合算すべき租税回避リスクが高い者への対応についても検討が必要である なお 実体があれば合算せず 実体がなければ合算 との方向での改革は 実体ある企業の国際的な誘致競争激化を促す側面もあることから 法人課税を巡る国家間の租税競争に如何に対処するか という広い視点も持って検討すべきである 外国子会社の所得の種類に応じて親会社への合算対象を決めるアプローチを採用する場合には 能動的所得 に分類される事業所得の中に 受動的所得 に分類される知的財産からの所得が混じっているような 能動的所得 受動的所得 の判別困難な所得に対する切分け方法を検討することが必要となる この点に対処する方法の一つとして BEPS プロジェクト 最終報告書が提示した 超過利潤アプローチ すなわち ある特定地域 あるいは全世界の子会社を対象に 問題となる所得を生み出した財産に対し 一定の利益率を掛けて合算対象所得を計算する方法が考えられる ただし 超過利潤アプローチ は 外国子会社の所得を合算税制の対象から除外するための簡便な方法という性質を持つことにも留意すべきである 制度設計に当たっては 健全な事業活動を行う企業の活動を意図せずして阻害することがないよう 外国子会社の実態を把握することが重要となる この点 例えば 地域統括会社は 様々な機能や経済実体を持っており一概には租税回避リスクを判断し難いこと また 一般に租税回避リスクが高いと言われるいわゆるペーパー カンパニーであっても リスク管理等 経済合理的な理由に基づくものもあること等に留意することが必要である 5

外国子会社の実態を把握する観点からは 外国子会社の取引や実態に関する情報の収集制度を外国子会社合算税制に盛り込むことや 後述する タックス プランニングの義務的開示制度 を通じた当局による情報収集力の向上と併せて 収集した情報を適切に分析 活用するための体制強化についても 企業の事務負担に配慮しつつ 検討すべきである また 改正の趣旨 目的を明確にし これに則した立法及び執行を確保することも必要である ⑵ タックス プランニングの義務的開示制度 (MDR : Mandatory Disclosure Rules) 義務的開示制度は 税務当局がタックス プランニング スキームによる潜在的な税務リスクを迅速に特定し 対応するために その開発 販売者 ( 及び必要な範囲で納税者 ) に一定の情報の税務当局への報告を義務付ける制度である BEPS プロジェクト では 既に同趣旨の制度を導入している米国 英国 カナダ アイルランド 南アフリカ ポルトガル イスラエル 韓国の経験を踏まえつつ 行き過ぎた濫用的なタックス プランニング スキームの開発 利用を抑止するとともに 当局による適時の政策的対応を可能とするといった目的 効果を持つ ベスト プラクティス として 制度導入の検討が勧告された 以上を踏まえ 今後 本制度の日本での導入を検討するに当たっては 特に以下の点に留意すべきである まず 開示対象取引の基準設定に当たっては 制度目的を効果的に達成しつつ 過剰な事務負担等をプロモーター及び納税者に与えないよう 何らかの客観的な基準を用いて開示対象となるスキームを特定することが必要である また 既存の情報開示制度等との役割分担を最適化するとともに 開示の対象範囲や罰則等について 他国の制度から大きく乖離しないようにすることも重要である なお 本件は現状日本に存在しない新たな制度であることから 制度を導入する場合には 執行状況やその効果を適切に把握し制度のさらなる改善に活かしていくことが必要である ⑶ 移転価格税制の見直し ( BEPS プロジェクト 勧告のポイント ) BEPS プロジェクト では 主として 関連者間の無形資産の移転により生じる租税回避に対し適切に対応することを目的として議論が行われた その際 比較対象となる取引に基づく客観的価格付けが困難と 6

いう無形資産の性質 及び関連者間取引における契約や取引条件の恣意的操作のしやすさ等に留意しつつ ⑴ 無形資産移転時の価格設定 ⑵ 無形資産移転後に得られる使用料の価格設定について 検討が進められ 以下の方法が提示された 無形資産移転時の価格設定 無形資産の価格算出に必要な信頼しうる比較対象が特定できない場合 ビジネスにおける事業計画策定等に幅広く採用されている ディスカウンティド キャッシュフロー (DCF) 法 を活用する 取引時点で評価が困難な無形資産については 予測便益 と 実際の利益 とが一定以上乖離し 納税者が予測の合理性を示せない場合に 発生した 実際の利益 に関する情報を使って移転時の独立企業間価格を事後的に再計算する 所得相応性基準 を採用する 無形資産移転後に得られる使用料の価格設定 外国子会社は 無形資産の法的所有 (legal ownership) のみによっては所得配分を受けられないものとする 外国子会社は 資産の開発や改善等に必要な資金の提供以外は何らの貢献もしておらず リスクもとっていない場合には その資金を国債に投資した場合に得られる程度のリターンのみしか受領できないものとする 無形資産の取扱いと併せて BEPS プロジェクト では行動 10 において 多国籍企業グループの親会社が外国子会社等に提供する人事 会計 法務等 いわゆる グループ内のサービス提供 に係る費用とこれへの対価の配分方法についても議論された 具体的には 同様のサービス提供が第三者間で行われる場合を想定して取引価格を決定するべきところ 目安となる価格が先進国の市場と途上国の市場とで大きな乖離がある場合 両国の課税当局間での合意形成が困難であることに着目し これへの対応策として実際に要した費用に一定の利益マークアップ率を適用する等のガイダンスの策定が合意された ベスト プラクティス として示された上記 BEPS プロジェクト 最終報告書の内容 及び今後改訂される OECD 移転価格ガイドライン を踏まえて 今後 日本の 移転価格税制 見直しを検討することが必 7

要である ⑷ 過大支払利子税制 ( BEPS プロジェクト 勧告のポイント ) BEPS プロジェクト 最終報告書では 利払いを通じた課税利益の圧縮は最も容易な BEPS 手法の一つである旨を指摘した上で 価値創造の場で税金を払うべき との原則を踏まえ 一定の所得を生み出すために通常必要な資金調達コストを超える規模で利払いを行っている企業については 超過分の利子の損金算入を否認するという結論が出された こうした観点から BEPS プロジェクト では 共通アプローチ として 単体企業の利子損金算入について 純支払利子の対 EBITDA 1 比率が一定の閾値 (10~30% の範囲で各国が設定 ) を超えた部分を控除制限することを勧告した また オプションとして グループ企業全体の純支払利子の対 EBITDA 比率まで利子損金算入を容認する グループ比率ルール も提示された 今後日本の 過大支払利子税制 を見直すに当たっては 現在 50% である閾値引下げの必要性と程度 及び適用対象や特別ルール等について本勧告を踏まえた検討が必要である ( 以上 ) 1 EBITDA (Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation, and Amortization): 税引後当期所得 + 純支払利子 + 減価償却費 + 特別償却 + 当期税額 8