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消化器癌術後のインクレチン発現変化と機能障害の解析 群馬大学大学院病態総合外科 講師宮崎達也 ( 共同研究者 ) 群馬大学大学院病態総合外科教授桑野博行群馬大学大学院病態総合外科助教宗田真群馬大学大学院病態総合外科助教酒井真群馬大学大学院腫瘍薬理学講師横堀武彦 はじめに中高年 高齢者において消化器癌の発生は大きな問題である 切除可能な病変の場合 手術療法が選択されるが 根治的手術後は 従来機能していた臓器が取り除かれるために 消化能や吸収能が低下し ダンピング症候群やエンプティングの異常などの機能的な障害が避けられない 消化器癌の治癒はがん治療において最も重要な点であるが QOL(Quality of life) を維持 改善を目的として術後の機能改善は高齢者が社会生活を営む上で重要である Glucagon-like peptide-1(glp-1) は1983 年に同定された消化管ホルモンで 消化管に入った炭水化物を認識して消化管粘膜上皮から分泌される また レプチン受容体を発言する孤束核ニューロンもGLPを産生することが知られており このニューロンは脳内における唯一のGLP-1 産生ニューロンとされる 1971 年に同定されたGIP(glucose-dependent insulinotropic polypeptide) とともにインクレチンと呼ばれ 膵臓からのインスリン分泌を促進するものなので 糖代謝に密接に関連する 分解酵素であるDPP-4(dipeptidyl peptidase-4) により速やかに不活化されるため 糖尿病治療としてDPP-4の阻害薬とGLP-1 受容体作動薬が用いられている GLP-1 の分泌は胃切除後のdumping 症候群と深く関与し 早期のdumping 症候群の一因といわれている また 食道癌の術前に糖尿病のある患者が 術後に改善し 治療が必要となくなることが頻繁に経験するが 食事量の減少のみがその要因であるかは明らかとされていない 病的肥満患者を対象としたstudyでは胃をスリーブ上に切除する術式やバイパス手術を行うことにより胃の貯留能を減じて減量を図るが バイパス手術をした患者において GLP-1 の再上昇が報告されており (1) 癌に対する消化管切除後の再建においても同様の治療効果が期待される 胃癌においては 2 型糖尿病患者を対象としてBillroth-1 法 ( 十二指腸を食物が通過する再建術式 ) およびRoux-enY 再建法 ( 十二指腸を食物が通過しない再建術式 ) の比較の報告がありRoux-enY 再建におけるGLP-1 の上昇を認めた (2) 食道切除後の糖代謝におけるインクレチンの役割について検討する 15

対象と方法食道切除患者を対象に 1 術前の食前食後のGLP-1をELISAにて測定する また 術後経口摂取可能となった段階 ( 術後 2-3 週 ) および日常生活を問題なく行うようになった段階 ( 術後数か月 ) における測定を行い その変化について検討する 2 食道癌においては胃管再建法 空腸再建法 および結腸再建法の再建臓器によるインクレチン濃度の変化のパターンを解析する 結果食道癌術前症例 8 例の術前 術後のtotal GLP-1およびactive GLP-1の血中濃度を測定した また 術後長期経過症例 3 例に対してtotal GLP-1およびactive GLP-1の血中濃度を測定した 症例 年齢 性別 再建術式 BMI 術後体重減少率 (%) 術前 術後 備考 Case1 68 M 後縦隔経路胃管再建術 19.4 5.5 術前 術後 Case2 78 M 後縦隔経路胃管再建術 19.5 11.1 術前 術後 Case3 70 M 後縦隔経路胃管再建術 25.9 11.5 術前 術後 Case4 67 M 胸壁前経路右結腸再建 17.1 0.2 術前 術後 Case5 77 M 空腸 Roux-en Y 再建胃全摘 24.0 8.2 術前 術後 糖尿病 Case6 84 M 後縦隔経路胃管再建術 24.4 10.4 術前 術後 Case7 71 M 後縦隔経路胃管再建術 25.8 6.1 術前 術後 糖尿病 Case8 74 F 後縦隔経路胃管再建術 21.6 7.8 術前 術後 CaseA 63 F 後縦隔経路胃管再建術 21.2 17.0 術後 経口摂取不良 CaseB 63 M 後縦隔経路胃管再建術 25.7 16.5 術後 ダンピング症状 CaseC 70 M 後縦隔経路胃管再建術 20.6 3.8 術後 経口摂取不良 1. 食道再建術後症例におけるGLP-1の食前食後変化術後のtotal-GLP-1 は食後に増加する傾向にあった activeglp-1 の食前後の変化は症例により増加する症例と減少する症例があり傾向がなかった 16

2.GLP-1 の術前術後の変化食前のTotalGLP-1 血中濃度は術前の値は測定可能であったが 術後短期では測定感度以下であった 一方食後 2hのTotalGLP-1 血中濃度は 症例により増加する症例と減少する症例があり傾向がなかった 食前のactiveGLP-1 血中濃度は 症例により増加する症例と減少する症例があり傾向がなかった 一方食後 2hのactiveGLP-1 血中濃度は減少する傾向があった 3. 術後期間 ( 長期 vs. 短期 ) の比較術後短期 (3-4 週 ) では 食前のtotalGLP-1 は全例が感度以下であったが 食前の totalglp-1 血中濃度が 術後 3 年を経過した症例 Aでは 33.8pmol/L 5 か月を経過した症例 Bでは59.0pmol/Lと食後のtotalGLP-1 血中濃度が症例 Aで55.7pmol/L 症例 Bで52.8pmol/ Lと著明に上昇していた 17

Active-GLP-1 は食前で術後期間に関連はなく 食後は術後長期症例が高値であった 4. 再建臓器や再建経路の検討 今回の検討では症例数が少なく 特徴的な変化もなかった また 症例中に2 型糖尿病患者が2 名いたが 数値や変化に強い傾向はなかった 考察食道切除後のGLP-1の分泌は短期的 (3-4 週 ) には変化がないが 長期的 ( 数か月以上 ) にはtotalおよびactiveは血中 GLP-1 濃度が増加する このことは食道癌手術後であることから 消化管の通過が胃が存在していた状態と比較して急速になり 食後高血糖やダンピング症候群を発症する状態から 回避するために長期的に適応していった結果の可能性がある 術後のtotal-GLP1は 術前に血中にあったものが術後短期では感度以下に低下していた このことは 術後短期的には経口摂取量が減少することでGLP-1 は個体にとって必要性が低い状態となっており 食事をとった時にかろうじて少量分泌するような病態となっている可能性がある Taguchiらは胃全摘を行ったマウスでGLP-1 が上昇し 六君子湯を投与することでGLP-1が減少して食事摂取が良好となったことを報告している (3) 彼らは人に対しても 胃全摘術後 1 日で空腹時 GLP-1 濃度の上昇を認めたと報告しており 我々の検討と異なる点がある 食道切除と胃全摘術の術式の違いとして胃全摘術は空腸を挙上して再建し 十二指腸を食物が通過しないことがこの結果に影響をしている可能性がある 再建臓器および再建経路の検討は 今回の検討では症例数が限られており比較することは不可能と考えられた 糖尿病患者における食道切除再建術の影響も含めて 今後症例を重ねて検討する予定である 要約 Glucagon-like peptide-1(glp-1) は 消化管に入った炭水化物を認識して消化管粘膜上皮から分泌される消化管ホルモンである GLP-1 の分泌は 胃切除後のdumping 症候群と 18

深く関与している 一方で 消化管の手術によって糖尿病のある患者が 術後に改善し 治療が必要となくなることを経験する そこで食道切除後の糖代謝におけるGLP-1 の役割について検討した 対象は食道切除後再建を受けた症例で 今回の検討では術前術後を通して検討した 8 例と 術後比較的長期間経過した症例 3 例で術前 術後の空腹時 食後 2hの患者血漿を用いて ELISA 法にて 血中の総 GLP-1 濃度と活性型 GLP-1 濃度を測定した 食道切除後のGLP-1 の分泌は短期的 (3-4 週 ) には変化がないが 長期的 ( 数か月以上 ) にはtotalおよびactiveは血中 GLP-1 濃度が増加した 術後のtotal-GLP1は 術前に血中にあったものが術後短期では感度以下に低下していた 術後短期的には経口摂取量が減少することでGLP-1 は個体にとって必要性が低い状態となっており 食事をとった時にかろうじて少量分泌するような病態となっている可能性がある また 長期的には食後高血糖やダンピング症候群を発症する状態から 回避するために術後の消化管の形態に適応していった結果の可能性がある 今後 症例を重ねて再建臓器および再建経路についても検討したい 文献 1. DePaula AL, Macedo AL, Schraibman V, Mota BR, Vencio S. Hormonal evaluation following laparoscopic treatment of type 2 diabetes mellitus patients with BMI 20-34. Surgical endoscopy. 2009;23(8):1724-32. 2. Chen W, Yan Z, Liu S, Zhang G, Sun D, Hu S. The better effect of Roux-en-Y gastrointestinal reconstruction on blood glucose of nonobese type 2 diabetes mellitus patients. American journal of surgery. 2014;207(6):877-81. 3. Taguchi M, Dezaki K, Koizumi M, Kurashina K, Hosoya Y, Lefor AK, et al. Total gastrectomyinduced reductions in food intake and weight are counteracted by rikkunshito by attenuating glucagon-like peptide-1 elevation in rats. Surgery. 2016;159(5):1342-50. 19