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本シンポジウムの概要 (PM: セッション 2) 臨床試験の計画から解析までの流れの整理 13:10~13:50 (5) Estimand の解説 13:50~14:15 (6) 架空の事例の検討 1 estimand の特定 試験デザイン 主要評価項目の設定 質疑応答 (14:15~14:25) 休憩 (14:25~14:40) アンケート回収 14:40~15:20 (7) 架空の事例の検討 2 主解析の選択 例数設計 データの発生方法 15:20~16:10 (8) 架空の事例の検討 3 主解析 感度分析 休憩 (16:10~16:30) 16:30~17:10 パネルディスカッション 17:10~17:20 まとめ 2

発表構成 1. Estimandとは 2. NRC (2010) とMallinckrodt (2013) の記載 3. 具体例からの検討 4. 注意点 5. 現段階で不明な点 6. 今後の展望 3

1. Estimand とは :introduction 試験 1) 12 週投与.12 週で評価 欠測は LOCF で補完 主解析 :ANCOVA 評価時点 補完 試験 2) 12 週投与の試験 投与された最終時点で評価 主解析 :ANCOVA : 評価時点 被験者 補完 被験者 補完 時間 12W 時間 12W 解析結果は同じ この 2 試験の違いは? 4

1. Estimand とは :introduction 評価時点 試験 1 試験 2 12 週 12 週までの最終時点 解析の妥当性 LOCF によって 12 週のデータを補完 LOCF の妥当性の検討が必要 結果の解釈 12 週時点の有効性が示される 解析結果 ( 数値 ) は同じでも, 1 正当化すべき解析の仮定 2 結果から主張できることが異なる 全症例欲しいデータが取れている 解析は妥当 ANCOVA の 2 直線の平行性等は仮定 12 週時点の有効性 とみなすには中止症例の影響の評価が必要 最終時点が重要 と考えるなら最終時点で評価することの妥当性の説明が必要 ( 計画段階 ) Estimand が異なる と呼んで, よく考えていきましょう 5

2. NRC (2010) と Mallinckrodt (2013) の記載 Estimand の定義と説明 Estimand = what is being estimated (Mallinckrodt, 2013) 試験で知りたいものを明確化する NRC (2010) の説明 Primary estimand をそのばらつきと共に適切に推定することが臨床試験の目的 試験開始前 ( プロトコール完成前 ) に設定しておくこと 試験の計画段階で 治験の目的に合致する estimand を設定 estimand を妥当に推定するデザインを検討することが重要 6

2. NRC (2010) と Mallinckrodt (2013) の記載 Estimand の分類 Efficacy: 計画通りに投与された薬剤の効果 per-protocol estimand (de jure) Effectiveness: 実際に投与された薬剤 ( もしくは治療方針 ) の効果 ITT estimand (de facto) NRC (2010) 5 種類 Mallinckrodt et al. (2012), Mallinckrodt (2013) NRC + 1 種類 = 6 種類 Mallinckrodt et al. (2014) Mallinckrdt et al. (2012) から 3 種類 pick up 7

2. NRC (2010) と Mallinckrodt (2013) の記載 Estimand の構成要素 経時データの 1 時点を主要評価項目とする試験では,estimand に パラメータ ( 例. 平均の群間差 ) 時点または曝露期間 ( 例. 投与期間 8 週目 ) アウトカム ( 例. 拡張期血圧 ) 対象となる集団 ( 例. 高血圧と診断された患者 ) 後に治療 (rescue medication) が行われた場合, その後に得られたデータは解析に含めるかどうか 等が含まれる (Mallinckrodt, 2013) 8

2. NRC (2010) と Mallinckrodt (2013) の記載 本発表では以下の状況を考える 2 群比較 プラセボ対照ランダム化比較試験 優越性試験 9

2. NRC (2010) と Mallinckrodt (2013) の記載 6 種類の Estimand (Mallinckrodt, 2013) Estimand 仮説推測の対象被験者評価時点 1 Effectiveness 2 Efficacy 3 Efficacy 4 Effectiveness 5 Effectiveness 6 Effectiveness 割り付け群 ( 治療方針 ) 最初に割り付けられた治療最初に割り付けられた治療最初に割り付けられた治療最初に割り付けられた治療最初に割り付けられた治療 全被験者 最初の治療に耐えられた被験者のみ 全被験者 全被験者 全被験者 全被験者 計画された時点 計画された時点 計画された時点 未定義 未定義 計画された時点 Rescue Medication 後のデータ主解析に含める 主解析に含めない 主解析に含めない 主解析に含めない 主解析に含めない 補完することが望ましい 慢性疾患の第 III 相試験を想定 10

2. NRC (2010) と Mallinckrodt (2013) の記載 6 種類の Estimand:Estimand 1 全てのランダム化された症例の応答変数の改善の群間差 仮説 :Effectiveness 推測の対象 : 割付群 ( 治療方針 ) 対象集団 : ランダム化された全症例 評価時点 : 計画された時点 後 or Rescue medication 後のデータ 必ずデータを取るデザインが必要 follow-up データの欠測 Rescue medication の使用有無別に reference group を作り, controlled imputation により補完することも考えられる (Mallinckrodt, 2013) ( 利点 ) 実際の臨床に近いプロトコールが組めれば, 臨床現場に近い結果が得られる ( 欠点 ) 評価対象が薬剤ではなく, 治療方針 治験で本当に知りたいこと? 群間差が小さくなることも多いため, コストがかかる 11

2. NRC (2010) と Mallinckrodt (2013) の記載 6 種類の Estimand: Estimand 2 初期の治療に耐えられた被験者の応答変数の改善の群間差 仮説 :Efficacy 推測の対象 : 最初に割り付けられた治療 対象集団 : 最初の治療に耐えられた被験者のみ 評価時点 : 計画された時点 open label の active run in phase で治療に耐えられる被験者を選択その後ランダム化して, 一部の症例をプラセボ群に変更 中止確率減少 後のデータは不使用 ( 利点 ) 欠測が減り, 実薬群とプラセボ群の対等な比較ができる 長期投与の評価に適している ( 欠点 ) 全ての被験者に対する評価ができない ( 一般化可能性が低い ) 臨床現場では誰が耐えられるか事前に分からない 同一試験内で別の Estimand を検討することが難しい 12

2. NRC (2010) と Mallinckrodt (2013) の記載 6 種類の Estimand: Estimand 2 ( イメージ ) 実薬群 プラセボ群 実薬完了 実薬中止 プラセボ完了 プラセボ中止 実薬を投与されていたら中止していた被験者 多くを run-in phase で除外 (estimand 2 における有効性 ) =( 実薬の投与に耐えられる症例の実薬投与後の有効性 ) - ( 実薬の投与に耐えられる症例のプラセボ投与後の有効性 ) 13

2. NRC (2010) と Mallinckrodt (2013) の記載 6 種類の Estimand: Estimand 3 全ての被験者が治療を完了した と仮定した場合の応答変数の改善の群間差 仮説 :Efficacy 推測の対象 : 最初に割り付けられた治療 対象集団 : ランダム化された全症例 評価時点 : 計画された時点 全ての症例が完了したと想定 後のデータは不使用 ( 利点 ) 全ての症例が完了したと想定した場合の被験者の評価ができる 薬剤の有効性 (efficacy) の評価ができる ( 欠点 ) 症例の後のデータの影響が入らない 後ベースラインに戻る ような疾患 薬剤の場合, 後の影響を評価した解析との違いが大きくなる 14

2. NRC (2010) と Mallinckrodt (2013) の記載 6 種類の Estimand: Estimand 3 NRC (2010) では ほとんど使われない と記載 全症例が治療を完了した という仮定は現実的ではない 治療を継続させるような補助療法 支持療法が使用されることが前提 Mallinckrodt (2013) では具体例の章 (14 章 ) で primary estimand として使用 指示された通りに服薬した場合の薬剤の有効性 を薬効と考え,efficacy の評価が重要, と主張 secondary で effectiveness の評価も実施 考え方によって妥当性が変わる 15

2. NRC (2010) と Mallinckrodt (2013) の記載 6 種類の Estimand: Estimand 4 投与が続けられた範囲での AUC の群間差 仮説 :effectiveness 推測の対象 : 最初に割り付けられた治療 対象集団 : ランダム化された全症例 評価時点 : 未定義 ( 投与された最終時点 ) ( 利点 ) データの欠測はない 使用した期間と有効性を同時に評価できる ( 欠点 ) よく効いたが早期に中止 した症例と 効き目は少なかったが長く使い続けられた 症例が同等の扱い 臨床的評価をしづらい 16

2. NRC (2010) と Mallinckrodt (2013) の記載 6 種類の Estimand: Estimand 5 投与された最終時点での応答変数の群間差 仮説 :effectiveness 推測の対象 : 最初に割り付けられた治療 対象集団 : ランダム化された全症例 評価時点 : 未定義 ( 投与された最終時点 ) ( 利点 ) データの欠測が発生し得ない ( 欠点 ) 投与された最終時点 で評価することが妥当な疾患 薬剤にしか使用できない 適用可能な状況は多くない? 慢性疾患等で, 後に有効性が減弱する場合, 計画された時点 の評価に ( 誤って ) 用いると, 有効性が過大評価される 17

2. NRC (2010) と Mallinckrodt (2013) の記載 6 種類の Estimand: Estimand 6 計画された時点での, 最初に割り付けられた治療による応答変数の変化の群間差 仮説 :Effectiveness 推測の対象 : 最初に割り付けられた治療 対象集団 : ランダム化された全症例 評価時点 : 計画された時点 後のデータ rescue medicationなしの時点は使用 rescue medication 使用後は不使用. 補完 後は無治療 を想定 = 最初に割り付けられた治療 の評価 ( 利点 ) 中止後ベースライン値に戻る ような薬剤に対して, 中止症例の影響を合わせて評価 ( 欠点 ) 補完方法によって結果が変わる 補完モデルの妥当性の検討が必要 完了例と中止例で経時推移が大きく異なる場合, 全体の平均 の解釈には注意が必要 18

2. NRC (2010) と Mallinckrodt (2013) の記載 6 種類の Estimand: Estimand 6 補完の方法 BOCF 中止後, 応答変数がベースライン近くに戻る薬剤など pmi (placebo Multiple Imputation) rescue medication 使用前のデータ + rescue medication 使用後はプラセボ群のデータを使用して補完 19

2. NRC (2010) と Mallinckrodt (2013) の記載 6 種類の Estimand:estimand 間の関係 評価したいものが 割付群 ( 治療方針 ):Estimand 1 最初に割り付けられた薬剤 :Estimand 6 どちらも ( 補完以外の ) 解析方法は同じ 有効性を評価したい対象集団が 初期の治療に耐えられた被験者 :Estimand 2 全症例 ( 治療を完了したと想定 ):Estimand 3 どちらも後のデータは使用しない 解析手法は同じ MAR が成り立つと解析は容易 プロトコールで規定された時点 以外で評価するとき 時間と有効性を合わせて評価したい :Estimand 4 投与された最終時点の有効性で評価したい :Estimand 5 20

2. NRC (2010) と Mallinckrodt (2013) の記載 6 種類の Estimand: その他の estimand responder analysis 治療を完了 + 計画された時点で応答変数の値が閾値を超える の複合エンドポイント 上記条件を満たす responder の割合を評価 は 治療失敗 とみて, non-responder に 欠測はない しやすさは, 治験と臨床現場では異なることも多い を endpoint に含めるのは妥当か?(Mallinckrodt, 2013) NRC (2010) では estimand 5 に含まれている Mallinckrodt (2013) では estimand1~6 以外 21

3. 具体例からの検討 疼痛をベースに,Estimand 1~6 を検討する (Case 1) 慢性疼痛 プロトコールで規定された時点の影響を評価したいと想定 (Case 2) がん疼痛 短期でも ( プロトコールで規定された期間投与が続けられなくても ) 痛みの緩和に意味があると想定 どちらも投与は 12W と想定 22

3. 具体例からの検討 : 慢性疼痛 (Case1) 慢性疼痛の治療薬の治験 薬剤を正しく使った際の, 薬剤の有効性が知りたい Estimand 3 ( 臨床現場に近い ) 治療方針の有用性が知りたい Estimand 1 最初に投与された薬剤の有用性が知りたい 中止後に Rescue Medication がない状態 ( 無治療 ) での計画された評価時点での有効性 Estimand 6 実薬の投与に耐えられる症例に対する薬剤の有効性が知りたい Estimand 2 は 慢性疾患の治療 としては失敗と考え, 有効な症例の割合を評価したい Responder rate 23

3. 具体例からの検討 : 慢性疼痛 被験者 被験者 Estimand 1 Estimand 3 時間 Estimand 6 12W 収集 収集 収集 被験者 時間 Rescue medication or 欠測が ある場合 : 補完 ない場合 : データ使用 12W 完了を想定 完了を想定 完了を想定 1 試験で同時に検討可能 時間 12W 24

3. 具体例からの検討 : 慢性疼痛 Responder analysis non-responder 被験者 時間 12W non-responder non-responder 1 試験で estimand 1, 3, 6 と同時に検討可能 25

3. 具体例からの検討 : 慢性疼痛 Estimand 2 active run-in 後 被験者 完了を想定 時間 12W run-in phase で対象を制限 1 試験内で他の etsimand と同様に評価するのは難しい 26

3. 具体例からの検討 : がん疼痛 (Case2) がん疼痛の治験薬の治験 使用している期間と有効性を合わせて評価したい (AUC) Estimand 4 どれだけの期間使用できるかは問題にせず, 投与された最終時点での評価がしたい Estimand 5 27

3. 具体例からの検討 : がん疼痛 Estimand 4 Estimand 5 : 評価時点 : 評価時点 被験者 被験者 時間 12W 時間 12W 1 試験で同時に検討可能 28

3. 具体例からの検討 : がん疼痛 まとめ Estimand 1~6, Responder rate は, 疾患等の状況次第で全て primary estimand になりうる 29

4. 注意点 重要なことは Estimand 1~6 の中から選ぶ のではなく, 試験ごとに適切な Estimand を考えること Estimand 1~6 はあくまで例. 他の Estimand も定義可能. 30

5. 検討課題 薬剤の一生の中で,estimand をどう位置付けるか? 例. 承認前 承認までに必要な情報は何か? そのためにどのような治験を計画すべきか? 承認後 承認後の継続した薬剤のベネフィット リスクの検討のために, どのような試験を計画すべきか? それぞれの段階で, 適切な estimand をどのように決めていくか? 31

5. 検討課題 Estimand は全て検定すべきか? 試験の目的 と考えるなら Decision Making ベースの議論が必要? その場合は検定の多重性は? Mallinckrodt (2013) では primary のみ検定.secondary は推定のみ 感度分析全般も含め, 複数の推定値を込みにして判断 するのであれば, 推定値ベースでの Decision Making の定量的基準は不要か? 検証試験を複数行う場合 Estimand は共通にするべきか? 固定したEstimandに対する再現性をみるべきか? 色々なEstimandを検討し, 広い知見を得るべきか Estimand 2 は単独では評価しにくい 32

5. 検討課題 複数の estimand の検討は 感度分析 か? Mallinckrodt (2013) では感度分析に含めているが, 妥当か? どこまで治験で行うべきか? Estimand 1 が示されれば望ましいが, コスト大. 治験の段階で必要か? 治験と臨床現場での治療の関係 どの程度一致を目指すべきか ( 一般化可能性 )? 治験の役割は? NRC (2010) では,(causal) estimand という表現がある 因果効果 である必要はどの程度あるか? 33

5. 検討課題 臨床現場で利用しやすい estimand と利用しにくい estimand 例 ). AUC (estimand 4) は 申請時 : 投与期間と有効性を同時に評価でき, 便利 臨床現場 : 自分がその薬剤を使えばよいか にどう役立てる? 34

6. 今後の展望 ICH E9 (R1) Choosing Appropriate Estimands and Defining Sensitivity Analyses in Clinical Trials. ) 本発表内容は, 現段階のものであり, 今後大きく変更される可能性もあります 検討課題が多く, さらなる活発な議論が必要 35

参考文献 1. Mallinckrodt, C. H. (2013). Preventing and Treating Missing Data in Longitudinal Clinical Trials. Cambridge Press. 2. Mallinckrodt, C. H., Chuang-Stein, C., Molenberghs, G., O Kelly, M., Ratitch, B., Janssens, M., and Bunouf, P. (2014). Recent development in the prevention and treatment of missing data, Therapeutic Innovation & regulatory Science,48, 68-80. 3. Mallinckrodt, C. H., Lane, P. W., Schnell, D., Peng, Y., Mancuso, J. P. (2008). Recommendations for the Primary Analysis of continuous Endpoints in Longitudinal Clinical Trial, Drug Information Journal, 42, 303-319. 4. Mallinckrodt, C. H., Lin, Q., Lipkovich, I., and Molenberghs, G. (2012). A structured approach to choosing estimands and estimators in longitudinal clinical trials, Pharmaceutical Statistics, 11, 456-461. 5. National Research Council. (2010). The Prevention and Treatment of Missing Data in Clinical Trials. The National Academies Press. 36