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インスリン使用患者ケアプロトコール ー 2 型糖尿病患者版ー 糖尿病ケアプロトコール作成合同委員会 一般社団法人日本糖尿病教育 看護学会 / 日本慢性看護学会

インスリン使用患者ケアプロトコール 2 型糖尿病患者版 糖尿病ケアプロトコール作成合同委員会一般社団法人日本糖尿病教育 看護学会 / 日本慢性看護学会 インスリン使用患者ケアプロトコール作成の目的 ( 背景 趣旨 ) 平成 22 年度の特定看護師 ( 仮称 ) に関する議論を端緒として 日本慢性看護学会から ( 一社 ) 日本糖尿病教育 看護学会に インスリン療法を行っている患者の支援ツールを共同で作成する提案がなされた これを受けて両学会では平成 23 年度に 糖尿病ケアプロトコール作成合同委員会 ( 以下 合同委員会 ) を設置し 糖尿病患者がインスリン注射を生活の中に織り込んで安全に自己管理が実施でき QOL を維持 向上させていけるよう支援するための方策の一つとして インスリン使用患者ケアプロトコール ( 以下 本プロトコールという ) を作成した 以下 本プロトコールについて作成方法を述べ その実際を提示する 作成方法合同委員会を両学会それぞれの担当理事および委員で構成した 委員会メンバーによる複数回の検討を重ね インスリン使用患者の中でも患者数の多い 2 型糖尿病患者を対象として インスリン療法中に起こりやすい問題状況を挙げ それに対応するプロトコールを関連学会のガイドライン等を参考に 判断樹の様式で作成することとした 起こりやすい問題状況として取り上げたのは 以下の 4 点である 1. 低血糖を現在 発症している 2. 過去 1 ヵ月の間に低血糖を起こしている 3. 高血糖 ( 随時血糖 400mg/dl 以上の頻発 ) がある 4. 血糖値が徐々に悪化している 上記それぞれの問題状況に対応する判断樹の原案を合同委員会で作成したのち 本プロトコール全体の表面妥当性および内容妥当性の確認の手続きとして 以下の 3 段階を経た まず 委員のメンバーが共通して所属する学会の学術集会において 2 回 ( 平成 25 26 年 ) の交流集会を設け 参加者に提示して意見を求め 必要な修正を行った 次いで 糖尿病患者の診療や療養指導に経験の深い専門家 ( 医師 薬剤師 認定看護師等 ) から意見を得た さらに ( 一社 ) 日本糖尿病学会の意見を得 それらを考量 勘案して必要な追加 修正を行った 作成したインスリン使用患者ケアプロトコール 1. 本プロトコールの使用者 ( 看護師 ) と使用条件糖尿病看護に一定の経験のある看護師がインスリン使用 2 型糖尿病患者の支援に際して用いる 事前に医師から了解を得ておく - 1 -

2. 本プロトコールの適用対象 2 型糖尿病でインスリン療法を実施している人 ( 糖尿病合併妊娠を除く ) 3. 問題に対応したプロトコール問題ごとに対応させて作成したプロトコール ( 以下 P) は以下のとおりである P1: インスリン療法中の患者への低血糖症の対応 P2: インスリン療法中 過去 1 ヵ月間に低血糖をおこした場合の対応 P3: インスリン療法中の高血糖が続く場合の対応 (SMBG にて随時血糖 400mg/dl 以上が 3 日以上 ) P4: インスリン療法中の血糖コントロールが 4 ヵ月 ~ 半年前よりしている場合の対応 4. 本プロトコールで用いた判断樹の様式問題状況ごとに アウトカム ( 患者に期待される成果 ) を目標として挙げ 詳細な判断と行為のプロセスを判断樹の様式で示した 判断樹は 問題状況に関する判断ポイントを挙げ 判断ポイントごとに のどちらかに分かれ それぞれ必要な行為あるいは次の判断ポイントに進めるようにした 判断や行為の実行に際し 必要な場合はそれぞれにアセスメントボックスを設け その参考となるようにした 判断のプロセスを進めるにあたり あるいは は その向きを全体で統一することとし の場合は横向きに の場合は下に向かうようにして 混乱を避けるように配慮した 行為に関しては 看護師の判断で実施可能な事柄あるいは看護師の判断に基づいて医師に報告 相談する事柄 および医師に提案する事柄とを それぞれ異なる表示を用いて その区別が分かるようにした プロトコールの実際については 次ページ以降に示した なお 本プロトコールは 冒頭で述べたように療養生活支援の視点からインスリン療法患者の支援を目的として作成したものであり 診療の補助としての特定行為 ( 病態に応じたインスリン投与量の調整 ) とは趣旨を異にするものである 平成 27 年 12 月 21 日 糖尿病ケアプロトコール作成合同委員会 一般社団法人日本糖尿病教育 看護学会 ( 担当理事数間恵子 委員古山景子 米田昭子 ) 日本慢性看護学会 ( 担当理事河口てる子 委員伊波早苗 東めぐみ ) (50 音順 ) - 2 -

インスリン使用患者ケアプロトコール 2 型糖尿病患者版 本プロトコールを使用する看護師 : 糖尿病看護に一定の経験のある看護師 本プロトコールの適用対象 : 2 型糖尿病でインスリン療法を実施している人 ( 糖尿病合併妊娠を除く ) 本プロトコールの構成 : 判断樹の凡例 P1: インスリン療法中の患者への低血糖症の対応 P2: インスリン療法中 過去 1 ヵ月間に低血糖をおこした場合の対応 P3: インスリン療法中の高血糖が続く場合の対応 ( SMBG にて随時血糖 400mg/dl 以上が 3 日以上 ) P4: インスリン療法中の血糖コントロールが 4 か月 ~ 半年前より悪化している場合の対応 参考文献 本プロトコールの適用方法 : 本プロトコールを適用する患者について 医師から事前に了解を得る 実施した行為は 判断根拠を含めて診療記録に記載するとともに 必要な報告を行う 著作権について 1. 本プロトコールを利用する場合は 出典を 糖尿病ケアプロトコール作成合同委員会 ( 一社 ) 日本糖尿病教育 看護学会 / 日本慢性看護学会 による インスリン使用患者ケアプロトコール 2 型糖尿病患者版 と明記してください 2. 本プロトコールの様式を他の領域で利用する場合は 糖尿病ケアプロトコール作成合同委員会 ( 一社 ) 日本糖尿病教育 看護学会 / 日本慢性看護学会 による インスリン使用患者ケアプロトコール に準拠した旨を明記してください - 3 -

判断樹の凡例 Q1. 低血糖がある *1 : 判断ポイント番号の数字は判断する順序を示す並列で判断する場合は Q 1 1 Q 1 2 のように 枝番号で示す 低血糖の対処 ブドウ糖 (10~20g) またはブドウ糖を含む飲料 (150~200mL) を摂取させる 約 15 分後 低血糖症状がなお持続するようであれば 再度同一量摂取させる : 行為 ( 細線の枠 ) 看護師の判断で実施可能な事柄 あるいは看護師の判断に基づいて医師に報告 相談する事柄 インスリン療法の調整インスリンの種類 量 回数の調整について医師に提案する : 行為 ( 太線の枠 ) 医師に提案する事柄 *1; アセスメントボックス 血糖値 70mg/dL± 症状 ( 動悸 発汗 脱力 意識レベル低下など ) がある : アセスメントボックス ( 点線の枠 ) 判断や行為の参考となる事柄 : 同じ判断樹の中の既出の判断ポイントに戻る あるいは続く場合 : 別の判断樹に続く場合 - 4 -

P1: インスリン療法中の患者への低血糖症の対応 目標 : 低血糖が速やかに改善され 患者の不安が軽減する Q1. Q2. 低血糖がある *1 意識レベル低下がある *2 低血糖の対処 ブドウ糖 (10~20g) またはブドウ糖を含む飲料 (150~200mL) を摂取させる 約 15 分後 低血糖症状がなお持続するようであれば 再度同一量摂取させる 以下を考慮する 直近の食事摂取状況 活動状況 使用している薬剤インスリンの種類 作用時間 使用量間違いとの関係経口血糖降下薬の服用状況 GLP-1 製剤との関連 腎症の進行がある患者では 低血糖が遷延する可能性がある 神経障害がある患者では 回復が遅延する 血糖測定が行えない状況で低血糖として対処した際にも その後の様子を観察する 重症低血糖の対応 応急処置 医療機関内医師へ報告 50% グルコース注射液 20mL (20% の場合 40mL) 静脈内投与 医療機関外グルカゴン 1mg(1mL) 筋注 ( 事前指示にもとづき 看護師あるいは家族が実施 ) またはブドウ糖や砂糖を口唇と歯肉の間に塗りつけ 医療機関へ連絡 Q2-1. 経過観察 意識レベルが回復しない 医師の指示に従い グルコースの静脈内投与と必要な処置 ( 状況と指示により ICU 等入室 ) を行う Q3. 低血糖が持続している *1 Q2. 医療機関外 Q2. を 2 回まで繰り返し 血糖値が回復しない場合は受診を勧める 医療機関内 外を問わず低血糖を繰り返す場合 不安感情へ配慮する 経過観察 次の食事まで 1 時間以上空く場合は 炭水化物 1 単位程度の摂取を検討する 低血糖の原因と低血糖発症予防について患者とともに考える 治療の検討 ( 処方内容の見直し ) について医師と相談する 必要により P2 : インスリン療法中 過去 1ヵ月間に低血糖をおこした場合の対応 へ - 5 -

P1: インスリン療法中の患者への低血糖症の対応 *1; アセスメントボックス 血糖値 70mg/dL 血糖値 >70mg/dL でも 交感神経症状がある場合は再検する 交感神経系症状 ( 動悸 発汗 脱力 不安 動悸 手指振戦 顔面蒼白など ) がある ( 普段血糖値が低めで経過している人では 症状を自覚しない場合がある ) ( 普段の血糖値が高い人や 急激な血糖低下がある場合には 血糖値 70mg /dl でも 低血糖症状を示すことがある ) 血糖測定ができないなど 判断が困難な場合でも 低血糖と感じた際には低血糖として対処する ( 低血糖を見逃さない ) *2; アセスメントボックス 中枢神経症状 : 血糖値が 50mg/dL 程度に低下したことにより生じる症状 ( 頭痛 目のかすみ 空腹感 眠気 ) 血糖値 50mg/dL 以下では意識レベルの低下 異常行動 痙攣 昏睡など 無自覚性低血糖 - 6 -

P2: インスリン療法中 過去 1 ヵ月間に低血糖をおこした場合の対応 目標 : 重症低血糖および頻回な低血糖の発現で QOL を下げることのないようにし 安定してインスリン療法が継続できる Q1. Q2. 低血糖があった 低血糖を起こさず管理できていることを賞賛し 他に困っていることを尋ね 必要な対応をとる 意識消失があるほどの重症低血糖であった Q3. 過去 1ヵ月に 4 回以上 70mg/dL 以下の低血糖があった または低血糖症状があり対処した 注 : 生活等に支障があれば より低頻度でも対応 原因探索 *1 Q4. 自己管理要因のいずれかに原因が考えられる *2 医師と相談して必要な対応をとる 原因に対応した指導 生活調整を行う 注射手技の確認 指導 正しい注射時間の指導 正しい単位設定の指導 体調に合わせた打ち方の指導 食事指導 補食 アルコール指導 活動時間調整 服薬指導 シックディ指導 デバイスの再検討調整困難時 インスリン減量の必要性も検討する 低血糖時に症状が現れるかの確認 対処方法の確認 考えられる原因があれば今後の予防策を話し合う 医師に報告 Q5 1. 経口血糖降下薬を服用している Q5-2. 身体要因のいずれかに原因が考えられる *3 Q5-1,2 いずれも 次回要確認 医師と経口血糖降下薬の調整が必要か相談する また 必要時インスリン調整をする 医師と相談して インスリンの種類と量の再調整を検討する Q6. 基礎分泌相当 ( 持効型 中間型 ) のインスリンの減量を提案低血糖が朝する食前である 追加分泌相当 ( 超速効型 速効型 ) のインスリンの減量を提案する 処方変更を確認して指導し その後の状況を観察する - 7 -

P2: インスリン療法中 過去 1 ヵ月間に低血糖をおこした場合の対応 *1; アセスメントボックス インスリン量の過多 無自覚性低血糖 低血糖へ対処せず アルコール過多 自殺企図 認知症の悪化 経口血糖降下薬の効果遷延 *2; アセスメントボックス 自己管理要因 食事量の不足 食事時間の遅れ 糖質量不足 アルコールの多飲 運動 活動の過剰 ( 過激 空腹時 ) 特別な運動後の夜間 インスリンの過量に繋がる誤り : 不適切な量の変更 入浴での吸収促進 手技の誤り 時間が早すぎる ( 前回の注射後から 食事開始時間から ) 量が多すぎる 種類の間違い 血管内注射 注入ポンプの故障など 経口血糖降下薬の種類や量の誤り シックディ ( 食欲低下 下痢 嘔吐 ) 対応が不適切 網膜症進行によるロービジョンの影響 *3; アセスメントボックス 身体要因 腎機能低下 ( 加齢 病態の進行等 ) 肝機能低下 インスリン抵抗性の改善 ( 肥満の改善 ストレス 感染症の改善 糖毒性の解除 ステロイド剤の減量 がある時 ) GLP-1 受容体作動薬の導入 ( 併用開始 ) インスリン抗体の存在 ( 低血糖発現時間が一定しない ) 胃無力症 ( 自律神経障害による胃腸症 ) の存在 ( 食直後に低血糖が発現しやすい ) 注射部位との関連 ( 低血糖発現時間が一定しない ) インスリンボール 硬結 脂肪肥大部からの部位変更 - 8 -

P3: インスリン療法中の高血糖が続く場合の対応 (SMBG にて随時血糖 400mg/dL 以上が 3 日以上 ) 目標 : 高血糖高浸透圧症候群や糖尿病ケトアシドーシスをきたさず 安全 安定 安心してインスリン療法が継続できる Q1. 尿中ケトン陽性である *1 医師に報告する 各施設の緊急処置対応基準に従って対応する Q2. 血清血糖値が 600mg/dL 以上である *2 Q3. 感染徴候がある *3 Q4-1~4. いずれも Q4-1. 指示と異なるインスリン注射実施の可能性がある *4 Q4-2. 指示と異なる経口血糖降下薬の内服の可能性がある Q4-3. 生活行動が変化している *5 Q4-4. 他疾患の治療が開始された *6 医師に報告する 各施設の緊急処置対応基準に従って対応する 医師に報告し 適切な治療ルートにつなぐ インスリン注射の状況を確認する インスリン注射の手技 インスリン注射の実施回数 インスリン注射部位を確認する ( 硬結や脂肪肥大がないか ) デバイスへの適応性指示どおりのインスリン注射の実施を妨げる要因を確認し それぞれに対応する 心理的準備段階に対する変化 家族の協力体制 糖尿病 インスリン療法に対する理解 インスリン療法に対する否定的思いや低血糖への恐怖心 他の治療との兼ね合い ( 複雑になっていないか ) ( 原因によっては医師に報告し 必要時 指示により薬剤師に相談 協働 ) 内服療法中断の理由を聞き 継続可能な状況と判断したら 経口血糖降下薬の作用を説明し 内服再開を指導する 糖分の多い飲み物の飲用が確認できたら その制限を指導する 糖分の多い食べ物の摂取が確認できたら その制限を指導し 改めて高血糖が改善する食事療法を再指導する 血糖が安定するまで 強度が高い運動は避けるよう指導する 水分を多めにとるよう指導する SMBG の活用を指導する 体重のモニタリングを指導する ( 栄養に関することでは必要時 医師に報告し 指示より栄養士に相談 協働 ) 患者に血糖コントロールに影響することを伝えて納得してもらう 医師にインスリン療法の調整の必要がないか 相談する - 9 -

P3: インスリン療法中の高血糖が続く場合の対応 (SMBG にて随時血糖 400mg/dL 以上が 3 日以上 ) 前ページの Q4-1~4. いずれも インスリン製剤の注射量変更を提案する追加分泌相当のインスリン量が不足基礎分泌相当のインスリン量が不足 インスリン製剤の種類や回数変更を提案する追加分泌を加える / 基礎分泌を加える混合型 2 回療法から頻回療法へ変更する インスリン抗体が現れている可能性も視野に入れ 医師と相談する *7 処方変更を確認して指導する その後の状況を観察する *1; アセスメントボックス 糖尿病ケトアシドーシスでは インスリン絶対的欠乏により重篤な代謝障害が引き起こされ 尿中ケトン体陽性 高血糖 (>300mg/dL) アシドーシス ( 血液ガス PH7.3 未満 ) 等を呈する 治療が遅れることで ショック 重篤なアシドーシスなどに陥る *2; アセスメントボックス 高血糖高浸透圧症候群では 著しい高血糖と高度な脱水におり血漿浸透圧の上昇をきたし 種々の程度の意識障害となる 高血糖 (600mg/dL 以上 ) 浸透圧 350mOsm/L 以上 尿中ケトン (-)~(±) を呈する *3; アセスメントボックス 感染症および感染につながる主なものとして歯周疾患 皮膚感染症 ( 膿瘍 / 潰瘍 ) 腸炎 呼吸器感染症 尿路感染症 蜂窩織炎 熱傷 感染症の徴候発熱 感染部位及び周囲の疼痛 腫脹 熱感など - 10 -

*4; アセスメントボックス P3: インスリン療法中の高血糖が続く場合の対応 (SMBG にて随時血糖 400mg/dL 以上が 3 日以上 ) 指示よりも少ない量や少ない回数でインスリン注射を打つことにより インスリン量が不足する 指示と異なるタイミング ( 食前 食直前を食前 1 時間以上や食後 1 時間以上 ) でインスリン注射を打つことで インスリン療法の効果が得られない 指示と異なる種類のインスリン製剤を打つことで 期待する効果が得られない 体重減少は インスリン不足を示す場合もある 指示どおりの注射の実行を妨げることにつながる事柄として インスリン療法への抵抗感を示す言動がある 血糖コントロールとインスリン療法の関連についての理解不足と判断できる言動がある 生活パターンとインスリン療法の不適合がある 網膜症によるロービジョン進行の影響 *5; アセスメントボックス 急激な食事療法の不徹底がある 急激な運動療法の不徹底がある 糖分の多い飲み物や食べ物の摂取量の増加がある 患者自身が意識していない運動量の減少がある 糖分の多い飲みものや食べ物が多くなるような生活上の変化 ( ライフイベントなど ) がある 運動量が少なくなるような 生活上の変化 ( ライフイベンなど ) がある 非常に高度のストレス状態にある うつ状態 うつ病の有無 *6; アセスメントボックス ステロイド剤 ホルモン剤 抗がん剤などによる治療 *7 ; アセスメントボックス インスリン抗体の存在により 食事の量や内容 運動量では説明できないくらい血糖値が非常にばらつくようになる ( 逆に低血糖をきたすこともありコントロールが不安定になる ) インスリンの量を多くしても高血糖が抑えられなかったりする 抗原であるインスリンとインスリン抗体の結合状態が このような血糖値のばらつきを起こすと言われている 不用意にインスリン量を多くすると 突然に低血糖をきたすこともありうる - 11 -

P4: インスリン療法中の血糖コントロールが 4 ヵ月 ~ 半年前より悪化している場合の対応 目標 : インスリン療法と患者の生活が調整されて その人らしく生活しつつ適切な血糖コントロールが維持できる Q1. Q2. 身体と他の治療の状態に変化がある *1 インスリン変更を要する可能性がある *2 インスリン療法の調整インスリンの種類 量の調整について医師に相談する Q3. インスリン注射を指示どおりに行えていない *3 原因を確認する インスリン注射の手技 インスリン注射部位の異常 ( 硬結や脂肪肥大 ) デバイスが合っているか 心理的準備段階の変化 家族の協力体制の変化 糖尿病 インスリン療法に対する理解 インスリンに対する否定的な思いや低血糖への恐怖心 他の治療との兼ね合いが複雑になっていないか それぞれの原因に対応する Q4. Q5. Q6. インスリンの作用に影響する可能性がある生活上の変化がある *4 それに対応するための生活調整が患者にとって負担になる *5 インスリン変更を要する可能性がある *2 インスリン療法の調整インスリン分泌能 インスリン抵抗性など身体的変化の再確認と インスリンの種類 量の調整について医師に提案する 血糖コントロールが悪化する要因を患者と一緒に探る 生活環境の変化 SMBG を活用した血糖値と生活行動の関係 目標設定が高すぎないか ( 無理をしていないか ) これまでの病気の過程を考慮した現在のインスリンの意義 インスリン療法以外の気がかりや心配事がないか 再度 生活調整の相談 提案 目標の再設定を行う 実行可能な方法を見出す これまでの努力を認め自尊感情を高める 体調の変化を確認する インスリン療法の効果を一緒に探る 実行可能な生活調整の相談 提案 その後の血糖コントロール状況の観察 生活調整の負担感があれば再調整を行う - 12 -

P4: インスリン療法中の血糖コントロールが 4 ヵ月 ~ 半年前より悪化している場合の対応 *1; アセスメントボックス 治療について確認する 糖尿病以外の疾患を持ち 血糖に影響する治療が始まった 併用の経口血糖降下薬の種類 量が変更になった 身体について確認する 体重の増加 減少がある 身体の機能の変化がある 体調に変化がある 慢性疼痛 ( 腰痛や膝関節痛など ) 歯周病の悪化 シックデイなどの炎症が継続している 認知状態に変化がある 患者に思い当たることがあるか確認する 食行動の変化があるか 活動量の変化があるか 十分な睡眠がとれているか *2; アセスメントボックス SMBG による血糖プロフィールが以前と比べて上昇している インスリン製剤の作用動態 持続時間 作用発現時間と生活の兼ね合いが適切でない 低血糖が頻発している *3; アセスメントボックス インスリン量は指示どおりか タイミングは指示どおりか 製剤の種類は指示どおりか 網膜症によるロービジョン進行の影響はないか *4; アセスメントボックス ライフイベントを経験している 生活環境の変化を経験している ライフイベントや生活環境の変化により 食事時間 量 内容が変化している ライフイベントや生活環境の変化により 活動時間 量 内容が変化している *5; アセスメントボックス 生活上の変化に伴って 求められる生活調整の範囲 量が大きい 生活上の変化に対し 自力で対応できない 生活上の変化に対し 家族の協力がない - 13 -

参考文献 1) 川村佐和子監修, 数間恵子, 川越博美編集. 在宅療養支援のための医療処置管理看護プロトコール第 2 版, 日本看護協会出版会, 2010. 2) 厚生労働省医政局長通知 ( 第 1228001 号 ) 医師および医療関係職と事務職員等での役割分担の推進について, 2007 年 12 月 28 日. 3) 日本糖尿病学会編. 科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン 2013, 南江堂, 2013. 4) 日本糖尿病学会編. 糖尿病治療ガイド 2014-2015, 文光堂, 2014. 5) 日本糖尿病学会編. 糖尿病学用語集第 3 版, 文光堂, 2011. 6) 日本糖尿病療養指導士認定機構編. 糖尿病療養指導ガイドブック 2015. メディカルレビュー社, 2015. 7) 日本糖尿病教育 看護学会編. 糖尿病看護ベストプラクティスインスリン療法, 日本看護協会出版会, 2014. - 14 -