糖尿病のお薬について薬を知って糖尿病と上手に付き合いましょう H29.1.25 柏原病院薬剤部
糖尿病とは インスリンが十分に作用しない 血液中にブドウ糖がたまってしまう 血糖の濃度 ( 血糖値 ) が高い状態が続く
インスリンは血糖値を下げる唯一のホルモン!!
インスリンとブドウ糖 インスリン ( 鍵 ) があるおかげで糖が細胞 ( 部屋 ) に入れる正常な場合 糖が細胞の前に到着すると インスリンが細胞のドアを開けることで糖が細胞内に取り込まれる
インスリン分泌不足 インスリンとブドウ糖 インスリン抵抗性 インスリン ( 鍵 ) が少ないので糖が細胞内に入れない インスリン ( 鍵 ) があっても細胞のドアのたてつけが悪いため ドアが開きにくい
糖尿病の治療目的 血糖 体重 血圧などをコントロール 合併症の発症 進展の阻止 健康な人と同じような生活の維持 寿命の確保
65 歳未満 糖尿病治療ガイド 2016-2017 より
65 歳以上 糖尿病治療ガイド 2016-2017 より
糖尿病の治療 食事療法 運動療法 薬物療法
糖尿病治療に用いる薬
経口血糖降下薬の種類 1 スルホニル尿素薬 (SU 薬 ) 2 3 速効型インスリン分泌促進薬 α- グルコシダーゼ阻害薬 4 5 ビグアナイド薬 チアゾリジン薬 6 DPP-4 阻害薬 7 SGLT-2 阻害薬
1. スルホニル尿素薬 (SU 薬 ) 特徴 膵臓に直接働いて インスリンを分泌させるお薬です インスリンを作る能力が保たれている患者さんにだけ有効です 注意点 低血糖を起こすことがありますブドウ糖 ( または砂糖 ) を携帯しましょう 食事療法や運動療法を正しく守らなければ 体重が増えるおそれがあります 飲み忘れたら 一回分飛ばしてください
2. 速効型インスリン分泌促進薬 特徴 膵臓に直接働いて インスリンを分泌させるお薬です インスリンを作る能力が保たれている患者さんにだけ有効です SU 薬に比べて 服用後短い時間でインスリンが分泌され 作用時間が短い点が特徴です 注意点 必ず食直前に服用してください 低血糖を起こすことがありますブドウ糖 ( または砂糖 ) を携帯しましょう 食事療法や運動療法を正しく守らなければ 体重が増えるおそれがあります 飲み忘れたら 食事を始めた後に気づいたら一回分飛ばしてください
お薬を飲むタイミングについて 食前食事を始める前 約 30 分前に飲むこと 食直前食事のすぐ前 およそ 5~10 分前に飲むこと食事がすでに目の前のテーブルに置いてあり いただきます を始める前に飲むイメージ 食後食事を終えて約 30 分以内に飲むこと 食間食後 2 時間後 ( を目安 ) に飲むこと食事と食事の間の空腹時に飲むことであり 食事中 ( 食事をしている間 ) に飲むという意味ではありません
3.α- グルコシダーゼ阻害薬 特徴 糖質がブドウ糖に分解されるのを阻害し ブドウ糖の吸収を遅らせることにより食後の急激な血糖上昇を抑えるお薬です 単独では低血糖を起こしにくいお薬です 注意点 必ず食直前に服用してください 他の糖尿病薬と一緒に服用した場合 低血糖を起こすことがあります低血糖時は必ずブドウ糖を服用してください はじめて飲む人はお腹が張ったりおならが増えたり下痢を起こすことがありますが 多くの場合は服用を続けているうちに少なくなります 飲み忘れたら 食事中ならばすぐに服用してくださいそれ以外は一回分飛ばしてください
4. ビグアナイド薬 特徴 肝臓がブドウ糖をつくるのを阻害するほか インスリンの働きをよくすることで筋肉などでのブドウ糖の利用を助けることで血糖値を下げるお薬です 単独では低血糖を起こしにくいお薬です 注意点 乳酸アシドーシスという副作用を起こすことがあります 強い倦怠感 ( だるさ ) 吐き気 下痢 筋肉痛などの症状が起きた場合は主治医に連絡してください ヨード造影剤を使用する検査を行う場合には お薬を休止する必要があります 飲み忘れたら 気づいた時点で服用してください次の服用が近いときには服用せずに次の服用時に一回分飲んでください
CT 検査 尿路造影検査の時は注意! ビグアナイド薬 併用により まれに発生 ヨード系造影剤 乳酸アシドーシス検査時はビグアナイド薬の服用を中止し 検査 48 時間後から再開することが望ましいとされています ( 腎機能が正常な場合 ) 腎機能などによって止める期間や再開のタイミングが違うため 必ずビグアナイド薬を飲んでいることを医師に伝え 対処法を確認してください 最近は 作用がそれぞれ異なる薬を配合した薬もありますので自分が飲んでいる薬の種類について必ず把握しておいてください
5. チアゾリジン薬 特徴 インスリンの働きをよくすることで筋肉などでのブドウ糖の利用を助けることで血糖値を下げるお薬です 単独では低血糖を起こしにくいお薬です 注意点 むくみなど体に水が貯まる可能性がありますむくみが現れた時は主治医に申し出てください 膀胱がんの発症リスクをわずかに高める可能性が報告されているため 血尿 排尿痛等の症状が現れた際は必ず受診してください 食事療法を正しく守らなければ 体重が増えるおそれがあります 飲み忘れたら 朝食時に服用を忘れたら 昼食時に服用して下さいそれ以降は一回分飛ばしてください
6.DPP-4 阻害薬 特徴 インクレチン ( インスリン分泌促進ホルモン ) の血中濃度を高めることで 血糖に合わせたインスリンの分泌の促進とグルカゴン ( 血糖値上昇ホルモン ) の分泌を抑制し 血糖値を下げるお薬です 食事の摂取の影響を受けないので食前投与 食後投与いずれも可能なお薬です 単独では低血糖を起こしにくいお薬です 注意点 SU 薬との併用で重篤な低血糖が報告されています 飲み忘れたら 気づいた時点で服用してください次の服用が近いときには服用せずに次の服用時に一回分飲んでください
インクレチンとは 食事摂取時に腸管から血中に分泌されるホルモンの一種です作用として 1 膵 β 細胞に作用してインスリン分泌を促進し 膵 α 細胞に作用してグルカゴン分泌を抑制します 2 胃内容物の排出抑制により食後高血糖を抑制します 3 食欲抑制作用があり 体重を低下させますの三つがあります GLP-1 と GIP の二種類があり それぞれ分泌される細胞や生理作用が異なります DPP-4 により分解され活性を失います
インクレチンの種類と作用
7.SGLT-2 阻害薬 特徴 腎臓での糖の再吸収を抑えることで 血液中の過剰な糖を尿とともに排出し 血糖値を下げるお薬です インスリン作用を介さない作用メカニズムのため低血糖を起こしにくいお薬です インスリン抵抗性の改善が主体となり糖尿病に合併しやすい肥満 高血圧 脂質異常症などの改善効果が期待されます 注意点 多尿 頻尿 口渇に注意し 適切な水分摂取を心がけてください 尿路感染症 性器感染症 ( 特に女性 ) の発現に注意してください 飲み忘れたら 気づいた時点で服用してください次の服用が近いときには服用せずに次の服用時に一回分飲んでください
SGLT-2 阻害薬の作用 糖尿病患者糖尿病患者 SGLT2 阻害薬服用時 SGLT2 阻害薬 再吸収を抑えて尿とともに体の外へ
注射薬の種類 インスリン注射薬 インスリン以外の注射薬 (GLP-1 受容体作動薬 )
インスリン分泌の違い
インスリン療法の適応 1 型糖尿病 高血糖性昏睡 重篤な肝 腎障害 大きなケガや重い感染症にかかった場合 大きな手術を受ける場合 妊婦 静脈栄養時や高カロリー輸液使用時の血糖コントロール 著明な高血糖を認める場合 経口薬療法では良好な血糖コントロールが得られない場合 ステロイド糖尿病 糖毒性を積極的に取り除く場合 高血糖状態によって インスリンの分泌不全と作用障害がさらに増悪する悪循環のことをいいます
インスリン療法の注意点 インスリン療法は特別な治療法ではありません!! インスリンの分泌が減る 効きが悪くなるインスリン療法を行う血糖値が高くなる 種々の合併症を引き起こす インスリン療法は将来起こりうる合併症の予防のために行うものです現在の病状が重症であるから始めるというわけではありません
インスリン製剤の種類
インスリンの保管方法 未使用の製剤冷蔵庫のドアポケットに食品と区別して保管してください凍結を避けるために冷気の放出口付近には保管しないでください 使用中の製剤室温で直射日光が当たらない所に保管してください
1. 注射針を取り付ける 2. 空打ちをする インスリン注射薬の使い方 毎回打つ前に 2 単位にセットし針を上に向けて行う 注射針内の空気を抜いたり 針が詰まっていないことや正常に作動することの確認のために行う大切な操作です 3. 単位を設定し 皮膚に対してまっすぐに針を刺し 注入ボタンを押す 4. 注入ボタンを押したまま 10 秒待ち 注入ボタンを押したまま針を引きぬく 5. 針を取り外す押したまま 10 秒数える
注射の部位について 1お腹 2 上腕の外側 3お尻 4 太ももの四か所に可能ですが部位によって吸収速度が異なります できるだけ吸収が最も速く 吸収速度が安定しているお腹に打ちましょう また 同じ個所に連続して注射すると硬いしこりができて吸収が悪くなります注射は前回から 2~3cm ほどずらして打つように心がけましょう
GLP-1 受容体作動薬とは 膵臓に働き 血糖値にあわせてインスリン分泌を促進し グルカゴン分泌を抑制します 胃内容物排出促進作用があります 食欲を抑制し 体重を減らす作用があります DPP-4 による分解を受けにくいお薬です 現在販売されているお薬は全て注射薬です 副作用として 消化器症状 ( 便秘 吐き気 下痢 ) が投与初期に現れやすいことが知られています
GLP-1 受容体作動薬の種類 商品名血中半減期 ( 時間 ) 作用時間 ( 時間 ) ビクトーザ皮下注 13~15 >24 バイエッタ皮下注 5μg バイエッタ皮下注 10μg 1.4(5μg) 1.3(10μg) 8 ビデュリオン皮下注 - 注 1) - 注 1) リキスミア皮下注 2.12(10μg) 2.45(20μg) 15 トルリシティ皮下注 - 注 2) - 注 2) 注 1) 徐放製剤のため該当データなし 注 2) 持続製剤のため該当データなし
低血糖症とは 血糖値が下がりすぎる状態をいいます 食事の遅れや普段より激しい運動 薬の量の間違いなどが主な原因になります
低血糖症が起こったら すぐに糖分 ( ブドウ糖がベスト!) を摂取し 15 分ほど安静にして様子をみましょうブドウ糖なら 10g ほど 砂糖なら 20g ほどが目安です 市販のジュースなら 200mL ほどをとりましょう人工甘味料では低血糖は回復しないので必ずブドウ糖もしくは砂糖が含まれているものを摂取してください 次のような場合は必ず医療機関を受診しましょう 糖分を摂取しても低血糖が改善しない 症状が重い ( 糖分を摂取できない 意識レベルが低下する等 ) 症状が長引く 繰り返す 重症化を防ぐために 普段からブドウ糖あるいはそれに代わるものを必ず持ち歩きましょう低血糖と感じたら我慢せずに直ちに糖分を摂取してください
シックデイとは 風邪をひくなど体調をくずしたとき または食欲不振のため食事ができないときをいいます 食事の量や体調によって薬の服用量やインスリン注射の用量調節が必要な場合がありますシックデイの際にはどうすればよいか 医師からあらかじめ指示を受けるようにしましょう特にインスリン治療中の方は 食事がとれなくても自己判断でインスリン注射を中断してはいけません不安な場合は主治医に連絡し指示を受けるようにしましょうまた 発熱等が強いときは必ず医療機関を受診するようにしましょう
検査や手術前の注意点 検査や手術の前には 必ず医師に糖尿病薬を使用していることを伝えてください 絶食の検査や手術の種類によっては お薬を中止したり減量したりすることがあります 中止や減量などの指示がある際は指示を守るようにしましょう
最後に お薬手帳について お薬手帳を持参していると服用中のお薬を正確に伝えることができますまた 飲み合わせの事故も防ぐことができ 安全な薬物治療につながります お薬手帳は先の震災等の災害時にも大いに役立ちました普段服用しているお薬の情報が記載されているので災害時にもかかわらず 治療に必要不可欠なお薬の提供を受けることができました 備えあれば憂いなし!! お薬手帳をひとり一冊にまとめて常に携行するようにしましょう
ご清聴ありがとうございました