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様式 C-19 F-19-1 Z-19 CK-19( 共通 ) 1. 研究開始当初の背景近年のランニングブーム, マラソンブームの影響もあり, 自然の中の小径 ( 以下, トレイル ) を走る トレイルランニング が盛んになってきている ( 以前は マラニック という名称も使われていたが, 本研究は上記の名称を用いる ). トレイルランニング専門の雑誌も発刊され ( たとえば三栄書房 ラン & トレイル ), 入門書も発行されている ( たとえば岩波書店 トレイルランニング 入門からレースまで ). 以前から 日本山岳耐久レース 富士登山競走 など不整地を走るレースは開催されてきたが, 公共放送がウルトラトレイル モンブラン (UTMB, スイス ) を放送し, 国内でも富士山の周り 165 km を走るトレイルランニングレース ウルトラトレイル マウントフジ (UTMF) が開催されるようになり, トレイルランニングはさらにブームになってきている. このようにブームになっているトレイルランニングであるが, トレイルにおける走動作の特徴は明らかになっていない. 雑誌や入門書には 良い走り方 が書かれていることもあるが, 経験的な情報が大半である. その要因としては, 自然の中のトレイルを走ることが多いトレイルランニングでは, 実験室や陸上競技トラックのような整備された路面での走動作ではないことがあげられる. 実際のトレイルランニングレースでは, 手を膝に当てて歩くように登る急傾斜や手でバランスを確保しなければならない岩場などもある. そして本来であれば, 異なる路面状態に適した走動作の特徴があると予想される. 2. 研究の目的トレイルランニングレース上位入賞者の走動作を分析し, さらに実験室内での走動作と比較することで, 不整地における走動作の特徴を提示することを目的とした. 3. 研究の方法本研究では, 国内の異なるトレイルランニングレース 2 大会における上位者の走動作を分析した. またトレイルランニングレースで得られた知見を検証するために実験室内に仮設の走路を設けて, 走動作を分析した. (1) トレイルランニングレースの撮影大会主催者から撮影許可が得られた国内 2 レースを対象に ( 以下, レース A とレース B), 出場選手の走動作の撮影を行った. レース A では 24 km コースのスタート後約 6 km 地点, レース B では 21 km コースのスタート後約 4 km 地点で, 舗装路 ( 整地 ) とトレイル ( 不整地 ) が隣接したエリアで撮影を行った. レース A のトレイルは, 主に土の路面で衝撃吸収性が高く ( 柔らかい 路面, 図 1), レース B のトレイルは, 土に約 1~5cm の砂利 小石が混じり, 接地する場所によっては滑りやすそうな路面であった ( 硬いが滑りやすそう な 路面, 図 2). 撮影には 2 台または 3 台のハイスピードカメラ (CASIO EXILIM EX-F1, 3 fps) を用いた. 走方向に約 8m の撮影区間を設定し,13~14 ヶ所の較正地点に.5m 間隔でマーキングしたポールを鉛直に立ててキャリブレーションを行った. 較正地点間の直線距離を測定するとともに, 水を入れた透明のホースを用いて較正地点間の高低差を測定した. そして,3 次元 DLT 法を用いて分析対象者の身体分析点 23 点の 3 次元座標値を算出した. レース A, レース B とも同一コースを用いて年齢別クラスが設けられ, レース A では約 7 名, レース B では約 5 名の参加者が一つのコースを走った. そして年齢別クラスに関係なく, 各コースの上位 1 位以内を分析対象者とした. ただしカメラと分析対象者の間に他の分析対象者が入り, 全身の撮影ができなかったなど, 分析に適さない場合には分析対象から除外した ( レース A では 3 名, レース B では 2 名を除外 ). またレース B では国内の著名なトレイルランナーが分析対象者に含まれており, 上位 1 位に入った分析対象者は優れた長距離走能力のみならず, トレイルランニングに適した走動作をしていたと考えられる. 図 1 レース A における不整地 図 2 レース B における不整地 図 3 レース A における整地での較正作業 ( 左 ) とレース B における整地での撮影の様子 ( 右 ) (2) 実験室内での走動作分析トレイルランニングレース中の走動作を, 疲労がない状況での走動作と比較するために, 筑波大学体育総合実験棟 1 階実験フロアにおいて, 健康な成人 12 名の走動作をハイスピードカメラ (CASIO EXILIM EX-F1,3 fps) を用いて 2 次元撮影した. その際,3~ 4 m/s の走速度範囲を目安として,5 種類の走速度で走行させた ( 以下, 実験 1). さらに, 上述したトレイルランニングレース中の走動作の分析結果から, 路面の粘弾性が走動作に影響を与えている可能性が認められた. そ

こで, 筑波大学体育総合実験棟 1 階実験フロアに図 4 に示す仮設の走路を設置し, 光学式 3 次元動作分析装置 (VICON-MX, カメラ 14 台, 25Hz) を用いて走動作の計測を行った ( 以下, 実験 2). 仮設走路として, レース A の路面を模擬するために体育授業で用いる体操用マットを用い, レース B の路面を模擬するため床材の下に弾性体 (Satafs, 沢根スプリング ) を配置した. さらに, 走路に 18mm の板材を設置することによって路面の凹凸を模擬した. なお, 実験室内での走動作の計測に際しては, 筑波大学体育系研究倫理委員会の承認 ( 課題番号体 28-91) を得て実験を実施した. ステップ頻度 (steps/s) 3.5 3. 2.5 2. レースA トレイルレースA 舗装路レースB トレイルレースB 舗装路実験室 ( 実験 1) 2.5 3. 3.5 4. 4.5 5. 図 5 ステップ頻度 ( 図中の記号は, 図 6 以降も同様 ) 25 図 4 仮設走路に用いたマット ( 左 ) と弾性体を配置した走路 ( 断面 )( 右 ) 4. 研究成果ステップ頻度, ステップ長, 関節角度など, 走動作分析で用いられる基礎的なキネマティクス変数を算出した. 図 5 は, 走速度とステップ頻度の関係を示したものである. レース A のトレイルでのデータを星型六角形, 舗装路でのデータを, レース B のトレイルでのデータを星型五角形, 舗装路でのデータを, 実験室でのデータを小さめの記号で表示している. 走速度の平均は, レース A のトレイル 3.1 m/s, 舗装路 3.53 m/s であり, 有意に舗装路の方が大きかった (p <.1). またレース B では, トレイル 4.6 m/s, 舗装路 4.21 m/s であり, 有意傾向 (p =.86) がみられた. また, トレイルでのステップ頻度 ( 星型 ) は, 同速度の舗装路や実験室での走動作に比べて大きくなる傾向がみられた. 図 6 は, ステップ長 ( ストライド ) を脚長 ( 大腿長と下腿長の和 ) で規格化したものを示したものである. トレイルでは舗装路に比べて走速度が低下するが, その要因は, レース A ではステップ長の有意な減少 (p <.1), レース B ではステップ頻度のわずかであるが有意な増加とステップ長の有意な減少により ( ともに p <.5), 結果として走速度の減少が生じていた. 走速度の増加にともなうステップ頻度とステップ長の変化を分析し 1) た先行研究では, 走速度約 7 m/s まではステップ長の増加の寄与の方がステップ頻度より大きいと述べている. 図 6 の全プロットをみる限りは, ステップ長の増加が走速度に大きく寄与しているといえるが, 路面状況の変化をともなう場合には, ステップ頻度の増減も走速度の変化への寄与が大きくなると考えられる. ステップ長 / 脚長 (%) 離地距離 / 脚長 (%) 支持時間割合 (%) 2 15 1 2.5 3. 3.5 4. 4.5 5. 1 図 6 ステップ長 9 8 7 6 5 2.5 3. 3.5 4. 4.5 5. 8 7 6 5 4 図 7 支持時間割合 2.5 3. 3.5 4. 4.5 5. 図 8 走速度と離地距離

図 7 は,1 ステップ時間に対する支持時間の割合を示したものである. 全体の傾向としては, 走速度の増加にともない支持時間の割合は減少するが, トレイルでは支持時間の割合が大きい傾向があり, 特にレース A では 9% を越える分析対象者もみられる. 図 8 は, 離地距離 ( 離地時の身体重心と足関節の水平距離 ) を示したものである. トレイルでは,( 図示していないが ) 接地距離には大きな差はないのに対して, 離地距離が大きい傾向にある. トレイルにおいて支持時間の割合が大きい要因としては, 身体の後方まで脚を伸展して地面を蹴っているものと考えられる. 接地時間を長くし ( 空中局面の時間を短くし ), 空中局面での重心の上下動を小さくすることで, 不整地でのバランスを取りやすくしている可能性がある. 次に, 身体重心高と重心高に大きく影響を及ぼす膝関節角度について検討していく. 図 9 は, 接地時の身体重心高 ( 足関節と身体重心の鉛直距離を脚長で規格化したもの ) を示したものである. 図 1 と図 11 は, 接地後の身体重心の下降量と膝関節屈曲変位をそれぞれ示したものである. レース A のトレイルでは, 接地後にほとんど膝を屈曲させない分析対象者もみられる. レース A のトレイルは, 主に土の路面で 柔らかい 路面であった. このような路面においては, 接地後に膝関節を屈曲して衝撃緩衝を行うと, 力学的エネルギーの吸収が大きくなるため, 走動作の力学的効率が悪化するのを避けていたのではないかと考えられる. 言い換えると, 下肢の路面のバネ特性のマッチング 2) の影響が大きく現れていたものと考えられる. 図 12 は, 離地瞬間の体幹 ( 上胴 ) の回旋角度を示したものである ( 走方向に正対している場合を deg). レース A, レース B とも, トレイルでは舗装路に比べて体幹をより回旋させた姿勢で離地していた (p <.5,.1). これは指導書などに記載がみられる 腕の振りを使って走る ことにつながっているのではないかと予想されるが, より客観的な考察を進めるためには, より多くのトレイルランニングレースにおいて走動作の撮影および分析を行う必要があろう. 接地後後重心下降量 / 脚長 (%) 接地後膝関節屈曲変位 (deg) 離地時上胴回旋角度 (deg) 15 1 5 5 4 3 2 1-1 4 3 2 1 2.5 3. 3.5 4. 4.5 5. 図 1 接地後の身体重心の下降量 2.5 3. 3.5 4. 4.5 5. 図 11 接地後の膝関節角変位 2.5 3. 3.5 4. 4.5 5. 図 12 接地時の体幹回旋角度 ( 実験 1 は矢状面での 2 次元分析であったため, 体幹回旋角度を算出せず ) 接地時身体重心高 / 脚長 (%) 13 12 11 1 2.5 3. 3.5 4. 4.5 5. 図 9 接地時の身体重心高 これまで述べてきた結果は, 国内トップ選手を含む分析対象者の走動作の特徴を検討したものである. しかし, 実際のトレイルランニングレースにおける結果であるため, 分析対象者が接地した路面の状態は, 完全には一定ではない. 分析対象者によっては, 柔らかい路面を避けて走っている可能性も否定できない. そこで, 実験 2 では, トレイルランニングレースから得られた知見の検証も兼ねて, 実験室内に仮設走路 ( 図 4) を設置して走動作の分析を行った. レース A のトレイルを模擬したマット床 ( 衝撃吸収性が高い ) とレース B のトレイルを模擬した弾性床,

さらに通常の体育館用フロア ( タラフレックス材 ) を走路として用いた. なお, 弾性床においては, 接地時にわずかに床面が沈むように弾性体を配置しているが, 連結部に摩擦があるため, バネのように大きな反発力を得るようなものではなく, 接地の仕方によって床面が揺れる様に弾性体の配置を工夫した. またマット床の板材を設置する際には, マットの下に敷いて路面の粘弾性への影響が小さくなるように配慮した. 図 13 は, マット床, 弾性床および通常路面における接地時の身体重心高を示したものである. 身体重心高は, 通常路面に比べてマット床の方が有意に大きく (p <.1), 弾性床と通常路面の比較では, 有意な差はみられなかった. 図 14 は, 接地時の膝関節角度を示したものである. 弾性床に比べてマット床の方が, 接地時の膝関節角度が有意に大きかった (p <.5). 一般に, 膝関節を屈曲した姿勢で接地することは, 関節の剛性を低くして, 接地時の衝撃吸収性を高めることにつながる. もしマット床において膝関節をより屈曲させた姿勢で接地すれば, マット床による力学的エネルギーの吸収に加えて, 膝関節による力学的エネルギーの吸収も生じ, 長距離走における力学的エネルギー利用の有効性が低下することになる. 言い換えると, レース A のトレイルのような軟弱地やマット床のような衝撃吸収性がある路面では, 接地時の衝撃吸収は路面が担い, 下肢は身体の支持の役割を担っていると考えられる. 接地時身体重心高 / 脚長 (%) 接地時膝関節角度 (deg) 13 12 11 1 マット床弾性床通常路面 2.5 3. 3.5 4. 4.5 5. 18 17 16 図 13 接地時の身体重心高 15 マット床弾性床通常路面 2.5 3. 3.5 4. 4.5 5. 図 14 接地時膝関節角度 接地時身体重心高 / 脚長 (%) 13 12 11 1 マット床マット床 & 板材弾性床弾性床 & 板材 2.5 3. 3.5 4. 4.5 5. 図 15 凹凸路面での接地時の身体重心高 図 15 は, 18mm 厚の板材を配置して路面に凹凸を設けた際の, 接地時の身体重心高を示したものである. 弾性床においては身体重心高に有意な差はみられないが, マット床においては板材が設置された路面に接地する際には, 有意に身体重心高が小さかった (p <.5). 被験者には板の厚みを教示し, また設置した板材も目視しているが, マットの下に板材を設置したため, 実験中には板材の厚みを視認できない. そのために, いわゆる 腰を落とした走り をすることで, もしバランスを崩した際の対応をとりやすくしていた可能性がある. 一方の弾性床の場合には, 板材や板厚を視認できたため, わずかではあるが飛び上がるような動作をすることで, 接地時の身体重心高に差がみられなかったと想定される. 以上, 本研究では, 不整地における走動作をバイオメカニクス的に分析し, その基本的な特徴を明らかにすることができた. 不整地では, 路面の 柔らかさ に応じて接地時の膝関節角度を調整している可能性が高いことは, 長距離走における力学的エネルギー利用の有効性の観点からも支持できることであり, 妥当性が高い知見であると考えている. しかし, 研究開始当初に予定していたアイマークレコーダによる視線の分析 ( 路面の凹凸をどのように捉えているか ) は, 今後の課題として残っており, 不整地における走動作をより詳細に明らかにするために継続した研究が必要であろう. < 引用文献 > 1 Dorn, T. W., Schache, A. G., and Pandy, M. G.: Muscular strategy shift in human running: dependence of running speed on hip and ankle muscle performance. Journal of Experimental Biology, 215, 1944-1956, (212). 2 McMahon,T. A. and Green, P. R.: Fast running tracks. Scientific American,

239, 148 163, (1978). 5. 主な発表論文等 学会発表 ( 計 2 件 ) 1 藤井範久 : トレイルランニングレースにおける走動作のキネマティクス的特徴 - 異なる路面状態での走動作の比較 -. 第 37 回バイオメカニズム学術講演会,216 年 11 月 12-13 日, 富山県立大学 ( 富山県 射水市 ) 2 藤井範久 : 不整地における走動作のキネマティクスに関する基礎的研究. 第 66 回日本体育学会大会,215 年 8 月 25 日 -27 日, 国士舘大学 ( 東京都 世田谷区 ), 6. 研究組織 (1) 研究代表者藤井範久 (FUJII,Norihisa) 筑波大学 体育系 教授研究者番号 :1261786