TTP 治療ガイド ( 第二版 ) 作成厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業 血液凝固異常症等に関する研究班 ( 主任研究者村田満 ) 血栓性血小板減少性紫斑病 (thrombotic thrombocytopenic purpura:ttp) は 緊急に治療を必要とする致死的疾患である

Similar documents
ADAMTS13 活性が著減する定型的 TTP として ADAMTS13 遺伝子異常に基づく先天性 TTP( 別名 Upshaw-Schulman 症候群, USS) と ADAMTS13 対する IgG IgA あるいは IgM 型の中和ないし非中和自己抗体による後天性 TTP が知られている こ

PT51_p69_77.indd

064 血栓性血小板減少性紫斑病

64 血栓性血小板減少性紫斑病 概要 1. 概要血栓性血小板減少性紫斑病 (TTP) は 1924 年米国の Eli Moschcowitz によって始めて報告された疾患で 症状は 1) 細血管障害性溶血性貧血 2) 破壊性血小板減少 3) 細血管内血小板血栓 4) 発熱 5) 動揺性精神神経障害を

64 血栓性血小板減少性紫斑病 概要 1. 概要血栓性血小板減少性紫斑病 (thrombotic thrombocytopenic purpura:ttp) は 1924 年米国の Eli Moschcowitz によって初めて報告された疾患で 歴史的には1) 消耗性血小板減少 2) 微小血管症性溶

ロミプレート 患者用冊子 特発性血小板減少性紫斑病の治療を受ける患者さんへ

減量・コース投与期間短縮の基準

参考 9 大量出血や急速出血に対する対処 2) 投与方法 (1) 使用血液 3) 使用上の注意 (1) 溶血の防止 参考 9 大量出血や急速出血に対する対処 参考 11 慢性貧血患者における代償反応 2) 投与方法 (1) 使用血液 3) 使用上の注意 (1) 溶血の防止 赤血球液 RBC 赤血球液


日本血栓止血学会誌 第19巻 第3号

査を実施し 必要に応じ適切な措置を講ずること (2) 本品の警告 効能 効果 性能 用法 用量及び使用方法は以下のとお りであるので 特段の留意をお願いすること なお その他の使用上の注意については 添付文書を参照されたいこと 警告 1 本品投与後に重篤な有害事象の発現が認められていること 及び本品

10,000 L 30,000 50,000 L 30,000 50,000 L 図 1 白血球増加の主な初期対応 表 1 好中球増加 ( 好中球 >8,000/μL) の疾患 1 CML 2 / G CSF 太字は頻度の高い疾患 32

< F2D CF6926D905C90BF82C98C5782E992CA926D88C4>

Microsoft Word KDIGO_GN_ES_J docx

頻度 頻度 播種性血管内凝固 (DIC) での使用 前期 後期 PLT 数 大半が Plt 2.5 万 /ml 以下で使用 使用指針 血小板数が急速に 5 万 /μl 未満へと低下 出血傾向を認

109 非定型溶血性尿毒症症候群

D961H は AstraZeneca R&D Mӧlndal( スウェーデン ) において開発された オメプラゾールの一方の光学異性体 (S- 体 ) のみを含有するプロトンポンプ阻害剤である ネキシウム (D961H の日本における販売名 ) 錠 20 mg 及び 40 mg は を対象として

スライド 1

針刺し切創発生時の対応

「             」  説明および同意書

日本内科学会雑誌第104巻第3号

1 8 ぜ 表2 入院時検査成績 2 諺齢 APTT ALP 1471U I Fib 274 LDH 2971U 1 AT3 FDP alb 4 2 BUN 16 Cr K4 O Cl g dl O DLST 許 皇磯 二 図1 入院時胸骨骨髄像 低形成で 異常細胞は認め

ステロイド療法薬物療法としてはステロイド薬の全身療法が基本になります 発症早期すなわち発症後 7 日前後までに開始することが治療効果 副作用抑制の観点から望ましいと考えられす 表皮剥離が全身に及んだ段階でのステロイド薬開始は敗血症等感染症を引き起こす可能性が高まります プレドニゾロンまたはベタメタゾ

未承認薬 適応外薬の要望に対する企業見解 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 会社名要望された医薬品要望内容 CSL ベーリング株式会社要望番号 Ⅱ-175 成分名 (10%) 人免疫グロブリン G ( 一般名 ) プリビジェン (Privigen) 販売名 未承認薬 適応 外薬の分類

BLF57E002C_ボシュリフ服薬日記_ indd

Microsoft Word - JAID_JSC 2014 正誤表_ 原稿

医療連携ガイドライン改

葉酸とビタミンQ&A_201607改訂_ indd

6. 治療法非典型溶血性尿毒症症候群と診断されれば 血漿交換 血漿輸注療法が行われ 唯一の治療であった 非典型溶血性尿毒症症候群に対して 補体 C5 に対するモノクローナル抗体であるエクリズマブが 2013 年 9 月に本邦でも保険適応となり 治療効果が期待されている 7. 研究斑血液凝固異常症等に

< F2D C D838A8BDB92CA926D2E6A7464>

実践!輸血ポケットマニュアル

後天性血友病アンケート(Homepage用)

血漿交換療法 (PE/PA/DFPP)

3. 安全性本治験において治験薬が投与された 48 例中 1 例 (14 件 ) に有害事象が認められた いずれの有害事象も治験薬との関連性は あり と判定されたが いずれも軽度 で処置の必要はなく 追跡検査で回復を確認した また 死亡 その他の重篤な有害事象が認められなか ったことから 安全性に問

現況解析2 [081027].indd

ITP ってどんな病気? とくはつせいけっしょうばんげんしょうせいしはんびょう ITPとは 特発性血小板減少性紫斑病 のことです ITP(idiopathic thrombocytopenic purpura) とは 特発性血小板減少性 紫斑病 のことで はっきりとした原因がわからず ( 特発性とい

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( ピンク ) 血液 6 ml 血清 I 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 茶色 )

設問 3 FFP PC が必要になった場合 輸血できるものを優先する順番に並べてください 1A 型 2B 型 3O 型 4AB 型また 今回この症例患者は男性ですが 女性で AB 型 (-) だった場合 PC の輸血で注意する点はありますか? 患者は AB 型なので 4AB 型 >1A 型 =2B

使用上の注意 1. 慎重投与 ( 次の患者には慎重に投与すること ) 1 2X X 重要な基本的注意 1TNF 2TNF TNF 3 X - CT X 4TNFB HBsHBcHBs B B B B 5 6TNF 7 8dsDNA d

95_財団ニュース.indd

ータについては Table 3 に示した 両製剤とも投与後血漿中ロスバスタチン濃度が上昇し 試験製剤で 4.7±.7 時間 標準製剤で 4.6±1. 時間に Tmaxに達した また Cmaxは試験製剤で 6.3±3.13 標準製剤で 6.8±2.49 であった AUCt は試験製剤で 62.24±2

<4D F736F F D B A814089FC92F982CC82A8926D82E782B95F E31328C8E5F5F E646F63>

糖尿病経口薬 QOL 研究会研究 1 症例報告書 新規 2 型糖尿病患者に対する経口糖尿病薬クラス別の治療効果と QOL の相関についての臨床試験 施設名医師氏名割付群記入年月日 症例登録番号 / 被験者識別コード / 1/12

がん化学(放射線)療法レジメン申請書

ROCKY NOTE 血球貪食症候群 (130221) 完全に知識から抜けているので基本的なところを勉強しておく HPS(hemophagocytic syndrome) はリンパ球とマクロファージの過剰な活性

白血病治療の最前線

1. 医薬品リスク管理計画を策定の上 適切に実施すること 2. 国内での治験症例が極めて限られていることから 製造販売後 一定数の症例に係るデータが集積されるまでの間は 全 症例を対象に使用成績調査を実施することにより 本剤使用患者の背景情報を把握するとともに 本剤の安全性及び有効性に関するデータを

Microsoft PowerPoint - 薬物療法専門薬剤師制度_症例サマリー例_HP掲載用.pptx

医師主導治験 急性脊髄損傷患者に対する顆粒球コロニー刺激因子を用いたランダム化 プラセボ対照 二重盲検並行群間比較試験第 III 相試験 千葉大学大学院医学研究院整形外科 千葉大学医学部附属病院臨床試験部 1

未承認の医薬品又は適応の承認要望に関する意見募集について

はじめに この 成人 T 細胞白血病リンパ腫 (ATLL) の治療日記 は を服用される患者さんが 服用状況 体調の変化 検査結果の経過などを記録するための冊子です は 催奇形性があり サリドマイドの同類薬です は 胎児 ( お腹の赤ちゃん ) に障害を起こす可能性があります 生まれてくる赤ちゃんに

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

プラザキサ服用上の注意 1. プラザキサは 1 日 2 回内服を守る 自分の判断で服用を中止し ないこと 2. 飲み忘れた場合は 同日中に出来るだけ早く1 回量を服用する 次の服用までに 6 時間以上あけること 3. 服用し忘れた場合でも 2 回量を一度に服用しないこと 4. 鼻血 歯肉出血 皮下出


1)表紙14年v0

世界血友病連盟 (WFH) 発行 World Federation of Hemophilia 2009 年 世界血友病連盟 (WFH) は 非営利の血友病 / 出血性疾患団体による教育目的の WFH 出版物の再配布を推奨しています 本出版物の再印刷 再配布 翻訳の許可を取得するには 下記の広報部の

<4D F736F F D2082A8926D82E782B995B68F E834E838D838A E3132>

Microsoft Word - CDDP+VNR患者用パンフレット doc

B型肝炎ウイルスのキャリアで免疫抑制・化学療法を受ける患者さんへ

公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研究事業 ( 平成 28 年度 ) 公募について 平成 27 年 12 月 1 日 信濃町地区研究者各位 信濃町キャンパス学術研究支援課 公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研

検査項目情報 von Willebrand 因子 ( フォン ウィルレブランド因子 ) Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital 一次サンプル採取マニュアル 血液学的検査 >> 2B. 凝固 線溶関連検査


日本内科学会雑誌第104巻第9号

輸液製剤

「血液製剤の使用指針《(改定版)

保医発 第 1 号平成 2 9 年 6 月 2 6 日 地方厚生 ( 支 ) 局医療課長都道府県民生主管部 ( 局 ) 国民健康保険主管課 ( 部 ) 長都道府県後期高齢者医療主管部 ( 局 ) 後期高齢者医療主管課 ( 部 ) 長 殿 厚生労働省保険局医療課長 ( 公印省略 ) 公

PowerPoint プレゼンテーション

保医発 第 9 号平成 2 9 年 3 月 2 日 地方厚生 ( 支 ) 局医療課長都道府県民生主管部 ( 局 ) 国民健康保険主管課 ( 部 ) 長都道府県後期高齢者医療主管部 ( 局 ) 後期高齢者医療主管課 ( 部 ) 長 殿 厚生労働省保険局医療課長 ( 公印省略 ) 公知申

(事務連絡)公知申請に伴う前倒し保険適用通知廃止

第1回肝炎診療ガイドライン作成委員会議事要旨(案)

2018 年 10 月 4 日放送 第 47 回日本皮膚アレルギー 接触皮膚炎学会 / 第 41 回皮膚脈管 膠原病研究会シンポジウム2-6 蕁麻疹の病態と新規治療法 ~ 抗 IgE 抗体療法 ~ 島根大学皮膚科 講師 千貫祐子 はじめに蕁麻疹は膨疹 つまり紅斑を伴う一過性 限局性の浮腫が病的に出没

(別添様式1)

3 スライディングスケール法とアルゴリズム法 ( 皮下注射 ) 3-1. はじめに 入院患者の血糖コントロール手順 ( 図 3 1) 入院患者の血糖コントロール手順 DST ラウンドへの依頼 : 各病棟にある AsamaDST ラウンドマニュアルを参照 入院時に高血糖を示す患者に対して 従来はスライ

緒言

Orang

B型平成28年ガイドライン[5].ppt

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

Microsoft Word - ③中牟田誠先生.docx

輸血情報 血液製剤の使用指針 の改定について この度 血液製剤の使用指針 が改定され 平成 29 年 3 月 31 日に厚生労働省より通知されました 主な変更点についてご紹介します 1. 推奨の強さとエビデンスの強さの表記について 一般社団法人日本輸血 細胞治療学会が作成した 科学

社会保障 介護認定 1. 要介護 2. 要支援 3. なし要介護度 生活状況 移動の程度 身の回りの管理 ふだんの活動 1. 歩き回るのに問題はない 3. 寝たきりである 1. 洗面や着替えに問題はない 3. 自分でできない 1. 問題はない 3. 行うことができない 2. いく

ROCKY NOTE 食物アレルギー ( ) 症例目を追加記載 食物アレルギー関連の 2 例をもとに考察 1 例目 30 代男性 アレルギーについて調べてほしいというこ

Microsoft Word - ’ì“èŁa.doc

indd

資料 3 1 医療上の必要性に係る基準 への該当性に関する専門作業班 (WG) の評価 < 代謝 その他 WG> 目次 <その他分野 ( 消化器官用薬 解毒剤 その他 )> 小児分野 医療上の必要性の基準に該当すると考えられた品目 との関係本邦における適応外薬ミコフェノール酸モフェチル ( 要望番号

要望番号 ;Ⅱ-286 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 要望者 ( 該当するものにチェックする ) 学会 ( 学会名 ; 特定非営利活動法人日本臨床腫瘍学会 ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 優先順位 33 位 ( 全 33 要望

saisyuu2-1

1. 重篤な不正出血の発現状況 ( 患者背景 ) (1) 患者背景 ( 子宮腺筋症 子宮筋腫合併例の割合 ) 重篤な不正出血発現例の多くは子宮腺筋症を合併する症例でした 重篤な不正出血を発現した 54 例中 48 例 (88.9%) は 子宮腺筋症を合併する症例でした また 子宮腺筋症 子宮筋腫のい

1) 自己免疫性後天性 F13 欠乏症では 出血を止めるために F13 濃縮製剤を注射することが必要である ただし 自己抗体によるインヒビターや免疫複合体除去亢進があるので 注射した F13 が著しく早く効かなくなるため 止血するまで投与薬の増量 追加を試みるべきである 2) 自己免疫性後天性 F8

貧血 

「手術看護を知り術前・術後の看護につなげる」

仙台市立病院医誌 索引用語 Hericobacter ITP Pb lori除菌 特発性血小板減少性紫斑病 ITP に対する Hericobαcter 介 昭 木 藤 横 修 村 々 基 圭 高佐一 幸 義遠 及 川島萱 ノ 矢ム 敦 枝 エ ハ 初 志 弓 保 史道 志

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

(2) レパーサ皮下注 140mgシリンジ及び同 140mgペン 1 本製剤については 最適使用推進ガイドラインに従い 有効性及び安全性に関する情報が十分蓄積するまでの間 本製剤の恩恵を強く受けることが期待される患者に対して使用するとともに 副作用が発現した際に必要な対応をとることが可能な一定の要件

発作性夜間ヘモグロビン尿症 :PNH (Paroxysmal Nocturnal Hemoglobinuria) 1. 概要 PNH は PIGA 遺伝子に後天的変異が生じた造血幹細胞がクローン性に拡大する 造血幹細胞疾患である GPI アンカー型蛋白である CD59 や DAF などの補体制御因子

日本内科学会雑誌第98巻第12号

10038 W36-1 ワークショップ 36 関節リウマチの病因 病態 2 4 月 27 日 ( 金 ) 15:10-16:10 1 第 5 会場ホール棟 5 階 ホール B5(2) P2-203 ポスタービューイング 2 多発性筋炎 皮膚筋炎 2 4 月 27 日 ( 金 ) 12:4

Ⅰ. 改訂内容 ( 部変更 ) ペルサンチン 錠 12.5 改 訂 後 改 訂 前 (1) 本剤投与中の患者に本薬の注射剤を追加投与した場合, 本剤の作用が増強され, 副作用が発現するおそれがあるので, 併用しないこと ( 過量投与 の項参照) 本剤投与中の患者に本薬の注射剤を追加投与した場合, 本

用法・用量DB

検査項目情報 トータルHCG-β ( インタクトHCG+ フリー HCG-βサブユニット ) ( 緊急検査室 ) chorionic gonadotropin 連絡先 : 基本情報 ( 標準コード (JLAC10) ) 基本情報 ( 診療報酬 ) 標準コード (JLAC10)

3 病床数 施設 ~19 床 床 床以上 284 (3 施設で未回答 ) 4 放射線専門医数 ( 診断 治療を含む ) 施設 ~5 人 226 6~10 人 人

Transcription:

TTP 治療ガイド ( 第二版 ) 作成厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業 血液凝固異常症等に関する研究班 ( 主任研究者村田満 ) 血栓性血小板減少性紫斑病 (thrombotic thrombocytopenic purpura:ttp) は 緊急に治療を必要とする致死的疾患である 原因不明の血小板減少と溶血性貧血を認めた場合に本疾患を疑うことが重要である 指定難病の診断基準では ADAMTS13 活性が 10% 未満の症例のみを TTP とした また ADAMTS13 活性の結果が判明するまでに現状では数日を要するため 病状によってはその結果を待たずに治療を開始する必要がある TTP には先天性 (Upshaw-Schulman 症候群 :USS) と 後天性が存在する 先天性は ADAMTS13 遺伝子異常により 後天性は ADAMTS13 に対する自己抗体 ( インヒビター ) が産生されることにより発症する ADAMTS13 活性が 10% 未満に低下している症例でインヒビターが存在すれば後天性である それ以外の症例は USS が疑われるが 経時的な同酵素活性の確認や両親の検査で後天性との鑑別が可能な場合があり 最終的な診断は ADAMTS13 遺伝子解析が必要である 本ガイドラインでは後天性を中心に記載し 最後に先天性を別項目として記載する 後天性は成人について記載しており 小児に対する薬剤の用法 用量は経験が少ないため注意を要する ADAMTS13 活性非著減例 (10% 以上 ) の治療については 本ガイドでは扱わない 1. 後天性 TTP 1) 急性期原因不明の血小板減少と溶血性貧血を認めた場合 後天性 TTP を疑うことが重要である できるだけ 早期に治療を開始することが必要である 他疾患との鑑別のため直接クームス試験陰性を確認し 破砕赤血球の存在が参考になる また 急性期には心血管イベントによる死亡が問題となるため トロポニンを確認する A 初期治療 a) 血漿交換 (1A) 新鮮凍結血漿 (fresh frozen plasma: FFP) を置換液とした血漿交換を 1 日 1 回連日施行する FFP の量は 患者循環血漿量の 1~1.5 倍 ( 一般に循環血漿量は 50mL/kg とされる ) を用いて交換する 血漿交換が有効である理由として 1)ADAMTS13 の補充 2)ADAMTS13 インヒビターの除去 3)ADAMTS13 で切断できない超高分子量 von Willebrand 因子重合体の除去 などが予想される アルブミンでは1) の効果が期待できないため 置換液として使用してはいけない なお 緊急避難的に FFP 輸注が行われることがあるが FFP を置換液とした血漿交換と比べると明らか 1

に効果が劣ることが報告されている 血漿交換 FFP 50~75mL/kg を置換液として 1 日 1 回連日施行する 理想としては 英国ガイドラインで記載されているように 血小板が正常化 (15 万 / μl 以上 ) して 2 日後まで連日施行することであるが 日本国内では保険適用 (1 週間に 3 回 3 ヶ月まで ) の問題から実際には困難である そのため 当初 5 日程度 連日施行後に隔日に施行し 血小板数と ADAMTS13 等の推移を見ながら 血漿交換の実施を判断する b) ステロイド療法 (1B) ステロイドパルス療法 ステロイド大量内服のいずれも使用されているが どちらが優れているか明らかになっていないが 重症例にステロイドパルスが選択される傾向にある ステロイド投与によって 自己抗体の産生抑制が期待できる なお 高齢者や糖尿病 重症感染症患者などでは減量を考慮する また 保険適用外であるが一般的に使用されている薬剤であるので 推奨 1にした ステロイドパルス療法 ( 保険適用外 ) 5% ブドウ糖または生理食塩水 500mL メチルプレドニゾロン 1,000mg 1 日 1 回約 2 時間かけて点滴静注当初 3 日間継続その後ステロイド量を漸減する ステロイド大量内服 ( 保険適用外 ) プレドニゾロン 1 mg /kg/ 日例患者体重 60kgの場合プレドニゾロン 60mg 12 錠内服朝 6 錠 昼 4 錠 夕 2 錠 c) 抗血小板薬 (2B) 血小板数が 5 万 /μl 以上に回復した場合にアスピリン投与が行われる場合があるが TTP の再発に対する効果は明らかではない 抗血小板薬療法 ( 保険適用外 ) アスピリン 81 100 mg 1 日 1 回 朝内服ステロイド中止まで d) その他の治療 2

赤血球輸血は心疾患のない患者ではヘモグロビン値 7.0 g/dl 未満を目安に行うが 心疾患が存在すれば 8.0g/dL 未満を目安とする (1A) なお 血小板輸血は明らかな出血がある場合には適応となるが それ以外の予防的使用は血栓症を増悪させる危険性があるため禁忌と考えられる (1B) また 膠原病 悪性腫瘍やチクロピジンなどの薬剤使用などにより ADAMTS13 活性が著減する二次性 TTP が存在する 薬剤性の場合は薬剤を中止し 基礎疾患がある場合は 基礎疾患の治療を継続する 二次性 TTP でも ADAMTS13 活性が著減しているので 原発性と同様に血漿交換を実施する B 難治例 早期再発例血漿交換を5 回以上行っても血小板数が5 万 /μl 以上に回復しない場合 もしくは 15 万 /μl 以上に回復しても再度血小板数が5 万 /μl 未満に低下した場合には 血漿交換に加えてリツキシマブ投与を考慮する (1B) この場合に 血漿交換による ADAMTS13 の投与に反応して ADAMTS13 インヒビターが上昇している場合 (ADAMTS13 inhibitor boosting) が予想されるので ADAMTS13 検査が望ましい ADAMTS13 inhibitor boosting の場合は 血漿交換が有効ではないため リツキサン治療が強く推奨される なお TTP に対するリツキシマブの効果が明らかになるまでの期間は 10 日 ~14 日間であるので その間も血漿交換が必要な場合がある a) リツキシマブ (1B)( 保険適用外 ) リツキシマブは CD20 に対するモノクローナル抗体であり 体内の B リンパ球を減らすことで ADAMTS13 インヒビターの産生を抑制する 保険適用外であるが広く使用されている薬剤であるので 推奨 1にした リツキシマブ療法 1 回投与量リツキシマブ 375 mg /m 2 輸液ポンプにて徐々に投与速度を上げる 1 週間に 1 回投与 合計 4 回 リツキシマブ以外に下記の治療が難治性 再発性症例に有効な場合があるが 全例に効 果が期待できるわけではない 様々な投与方法があるが代表的なものを記載する b) シクロフォスファミド (2B)( 保険適用外 ) 生理食塩水 500mL 3

シクロフォスファミド 500mg/body or 500mg/m 2 1 日 1 回 2 時間で投与 通常は 1 回のみ投与 c) ビンクリスチン (2B)( 保険適用外 ) 生理食塩水 20mL ビンクリスチン 1mg/body 1 日 1 回ゆっくり静脈投与 通常は 1 回のみ投与 d) シクロスポリン (2B)( 保険適用外 ) シクロスポリン 4 mg /kg 1 日 2 回に分けて連日内服投与 シクロスポリンの血中濃度を確認し トラフ 100-200 ng/ml 程度を維持する e) その他の治療 ( 保険適用外 ) 以前は脾臓摘出 (2C) 免疫グロブリン大量療法(2C) が難治例 再発例の TTP に対して実施されていたが リツキシマブが使用できるようになったことより 現状では選択される機会が少なくなっている C. 寛解期寛解期となった場合 ステロイド治療は ADAMTS13 活性およびインヒビターの経過を見ながらできるだけ早期に中止する 寛解期に特別な治療は存在しないが 最低 1 年間は定期的に通院し 血小板数と ADAMTS13 検査などを行うことが望ましい 2. 先天性 TTP(USS) USS の特徴として 新生児期の重症黄疸にて交換輸血を受けている場合がある その後 血小板減少が再発するため先天性 TTP と診断され FFP の定期輸注が行われている早期発症例がある また 妊娠 感染などを契機に初めて TTP 発作が出現し 成人以降に診断される症例も存在する USS の中には FFP の定期輸注が継続的に必要な症例から 増悪時のみ FFP の輸注が必要な症例まであり 有効な FFP の投与方法は症例によって異なる FFP 輸注 (1B) FFP 5~10 ml/kg を 2~3 週ごとに輸注する 症状出現時には まず 10mL/kg を輸注し て効果を確認する この際ドナーの人数が最小となるように考慮する 現在までに日本国内で経験はないが USS で ADAMTS13 同種抗体が産生された場合には FFP の効果が悪くなると思われるので USS においても ADAMT13 インヒビターの定期 的な検査が必要である 4

第一版平成 27 年 7 月 10 日作成 第二版平成 28 年 1 月 22 日改訂 表 1 推奨度の強さ 1. 強い推奨 GRADE system による推奨度 ほとんどの患者において 良好な結果が不良な結果より明らかに勝っており その信頼度が高い 2. 弱い推奨 良好な結果が不良な結果より勝っているが その信頼度は低い 推奨の基になったエビデンスの質 A: 複数の RCTs において確立したエビデンス あるいは観察研究による極めて強いエビデンス B:RCTs による限定的なエビデンス あるいは観察研究による強いエビデンス C: 重大な弱点のある RCTs によるエビデンス 観察研究による弱いエビデンス あるいは間接的エビデンス RCT; ランダム化比較試験 5