第 章 次元回転群とそのリー代数. SO のリー代数. 節でリー代数を定義したが 以下にその定義を再録する なお 多くの教科書に従って本章以降は ep t A の代わりに ep t と書くこととする 定義.. G を 次の線型リー群とすると 任意の実数 t に対して ep t G となる gl C の全体をGのリー代数 またはリー環 という 例えば ep t が 次の特殊直交群 SO の元であれば それに対応する の集 t 合をリー代数 so という so の場合は..a 式より および Tr となる 次に ep t が 次の特殊ユニタリー群 S の元であれば それに対応する の集合をリー代数 su という su の場合は..9 式より および Tr となる 先ず 三次元回転群 SO のリー代数 so を考える 図 9.. において - 軸 Y- 軸 および Z- 軸方向の単位ベクトルをそれぞれe e およびe と記載することとした 説明の都合上本章では - 軸 Y- 軸 および Z- 軸を第 軸 第 軸 および第 軸と呼ぶこととする ベクトルを第 軸 第 軸 および第 軸から見た回転前の座標を とし 回転後の座標を とする と との関係は 9.. 式を用いて次のようになる R 9.. =.. ここで 変換行列 R は 9.. 式を用いて表される 第 軸を回転軸とする角度 θの回転を R と書くと.. 式より R R となる リー代数 so を求めるために.. R ep.. となるような 行列 を求めてみよう.. 式の左辺を θ で展開すると 次式が得られる R.... 式の右辺を θ で展開すると 次式が得られる
ep E..5 となるので 無限小変換 としては次式が得られる..6 上式で得られた が.. 式を満足しているかを調べてみよう に関しては 次式が成立することを計算することができる..7a..7b 従って.. 式の右辺は次のようになる ep!!!!..8 上式により が.. 式を満足していることが証明できた 同様にして 第 軸を回転軸とする角度 θの回転を R と書き 第 軸を回転軸とする角度 θの回転を R と書くと 次式が成立する R ep..9a R ep..9b 上式が成立することは.. 式と同様にして R と R をθで展開すると
R..a R..b となることにより理解できる 問題....9a 式および..9b 式が成立することを証明せよ t リー代数 so では..a 式より および Tr となる必要がある このような の一般形は実数のパラメーター を用いて次式のようになる.. 従って リー代数 so の総ての元 は される ことが次式を見れば了解できる を基底とする一次結合で表.. 上式より 無限小変換 が与えられたとき SO の任意の元はケのパラメーター によって ep SO と与えられる は 次元回転を生成するので 群 の生成子と呼ばれている に対しては 次の交換関係が成立することが容 易に確かめられる.. 問題.... 式を証明せよ 上の記載を拡張して リー代数の一般的な定義を次のように述べることができる 定義.. 線形リー群の元である行列の独立成分をとすると ケの実数パラメーター に対応してケの独立な無限小変換 がある これら の張るベクトル空間を線形リー群のリー代数 またはリー環 と呼ぶ またをリー代数の次元と呼ぶ なお の張るベクトルの一般形は で与えられる. S の表現 本節では 次元特殊ユニタリー群 S の色々な性質を解説する 表.. から S の元 は次の条件を満たすことが必要である E det..
.. 式の条件を満たす行列 の一般形は次式のようになる.. ここで とは複素数で それらの複素共役をとと書く 問題.... 式で与えられた が.. 式の条件を満たすことを示せ.. 式において を実数とするととは次式で表される..a..b そうすると の条件は次式で表される.. を使うと は次式で表すことができる..5 ここで は次式で定義されるパウリ行列で は単位行列 Eである..6..6 式を用いると 次のようなパウリ行列の性質が確かめられる a E..9a b..9b c E..9c d det det det..9d 問題....9 式で与えられたパウリ行列の性質を証明せよ また を 次元ベクトルにようにと書くと 次元ベクトル a a a a との成分ごとの積の和を通常のベクトルの内積のように a a a a.. と表すことができる パウリ行列の性質 b より パウリ行列の交換子積は次のようになる k k.. ここで A B AB BAであり k は次式で定義される定数である k sg k..
具体的に k の値は次のようになる..a..b etc...c 問題.... 式を証明せよ 次に スピン回転の生成子 s を次式で定義する 定義.. s.. 式の定義と.. 式の関係を用いると 次式が得られる.. s s k k s..5 解説 [Ⅰ] の 章において 次元回転の生成子 を次のように定義した y z..a z y y z..b z z y.. y の間には 次の交換関係が成立する y z [ ] [ ] [ ].. y z y z z..5 式の交換関係は.. 式の交換関係と全く同じである ここに SO と S との接点が見えてくる 次の例題で パウリ行列と重要な性質を学習しよう 例題.. 複素行列のつくる四次元複素ベクトル空間において パウリの行列 と は 次独立な直交基底を作っている 証明 次独立性は c c c..5 c の解が c c c となることを示せばよい..5 式の左辺は 左辺 c y c c c c..6 c c c c となるので 左辺がゼロ行列になるためには c c c でなければならない y z c c 行列の作るベクトルにおける内積 A B は次式で定義されている c c c 定義.. A B a b..7 5
..7 式の内積の定義を用いると 次式が得られる..8..8 式より と の直交性が証明された 証明終 なお..8 式の右辺には係数 が付いている 従って と は規格直交とは言えない.. 式のスピン行列を用いると 規格直交性を持つ 例題.. より 任意の 複素行列 A は次のように展開できる A a..9 と..9 式の左辺との内積を取ると 次式が得られる A a a A Tr A.. 上式で は の - 要素を表した と..9 式の右辺との内積を取ると 次式が得られる a a a a.... 式と.. 式より 展開係数 a が次式のように求めることができる a Tr A.... 式の両辺の複素共役を取ると 次式が得られる a Tr A Tr A Tr A Tr A.... 式と.. 式より a は一般に複素数であることが分かる 特別な場合として Aがエルミート行列だとすると A a Tr A Tr A a A となる この場合 となるので a は実数となる これは エルミート行列の全体が四次元実ベ クトル空間を作ることに対応している 更に Aが TrA のエルミート行列の場合は.. 式より次式が得られる a Tr A Tr E A Tr A 上式より この場合は a は恒等的にゼロになることを示している 従って トレースがゼロの エルミート行列の全体が三次元実ベクトル空間を形成することに対応している 6
. S 行列と三次元実ベクトルの回転 前節の最後に トレースがゼロのエルミート行列の全体が三次元実ベクトル空間を形成することに対応している ことを説明した 三次元直交座標 から 次の行列を用意する.. この行列 は トレースがゼロのエルミート行列 を使うと 行列 は次式で表される である パウリ行列.. また の行列式は次のようになる det.. 上式より の行列式は三次元回転で不変な内積 原点からの距離の 乗 で表されることが分かる この行列 に対して S 行列 によるユニタリー変換を考える.. 上式を用いると には次のような性質があることが分かる..5a Tr Tr Tr Tr..5b 上式より もまたトレースがゼロのエルミート行列である 従って 行列 も行列 と同様に次のように表すことができる..6 上式を用いると の行列式は次のようになる 一方 det..7 det det det det det det..8 なので ユニタリー変換 は原点からの距離の 乗を不変に保つことが分かった..9 これは 三次元空間の直交変換と同じ性質である そこで 三次元の回転行列 Rと S 行列 の働きを比べてみよう まず 回転行列 R によりベクトルを に写す この操作を 次式で表わす R.. ここで 下付き添字 は 第 回目の回転を施す の意味である 第 回目以降の回転も R などと記載する 7
さらに R で回転して を に写す R.. " そうすると とは回転 R R R で結ばれている " R R R R.. ここで と対応させると.. 式に対応して.. 式型の変換を考えることができる.. 次に " " と対応させると ".. となる.. 式に.. 式を代入すると 次式が得られる "..5 上式で である.. 式と..5 式を比較すると 回続けて行ったベクトルの回転で現れる変換行列のかたちが R の対応のもとで同じかたちになっ ていることが分かる このことを SO 行列 Rと S 準同型であると呼ぶ 行列 はその積に関して 三次元の回転行列 Rで 直交座標系の各座標軸まわりの回転を復習してみよう.. 式より 第 軸を回転軸とする角度 θの回転を R と書くと R R となる 上式において 次のように書き換える..=..6..7 そうすると..6 式の回転は次式で表すことができる ep..8a..8b..8ab 式を再現するような S 行列によるユニタリー変換 ると 次式が得られる を求め ep /..9 ep / 実際..9 式を用いて.. 式の右辺を計算すると次式が得られる ep / ep / ep / ep / 8
ep ep.. 式は..8ab 式を満足している.. なお..9 式の右辺は を用いて次のように書き直すことができる / ep ep ep / /.. 例題.. 行列 ep / は S 行列であり - 軸まわ りの角度 θ の回転を与える 証明行列 はトレースがゼロの反エルミート行列であるので 定義.. より は S 行列であることが分かる が第 軸を回転軸とす る角度 θの回転を表すことは 上で証明した 次に が第 軸を回転軸とする角度 θの回転を表すことを証明しよう は次のように変形できる ep /.. 上式を用いて を計算すると 次のようになる.. 式を用いて 各成分ごとに比べると次式がえられる 上式は 第 軸を回転軸とする角度 θ の回転を再現している 同様にして.... ep /..5 は第 軸を回転軸とする角度 θ の回転を表すことが証明できる 証明終 例題.. より 次式が得られる..6 9
問題....5 式の が第 軸を回転軸とする角度 θの回転を表すことを証明せよ 問題....6 式を証明せよ 例題.. より がリー群 S の元であることが分かる その指数関数 の肩にある / は.. 式より次の交換関係を満足しているこ とを示すことができる..7..7 式は.. 式と同じ交換関係を示しているので / は su のリー代数を満足している ことが分かる 以上の結果より 任意の三次元回転をオイラー角で表した..7 式 R ep ep ep..7=..8 Z に対応する S 行列は次式で表されることが分かる Y..9 例題....8 式の右辺を計算して.. を求めると が S の条件 Z.. を満たすことを示せ 証明..9 式の右辺に..9 式と.. 式を代入すると ep / ep / ep / ep / ep ep / / ep ep / /.. となる なお.. 式の最後の項は多くのリー代数の教科書に記載されている しかし 文献 [5] の p.9 には少し違う数式が記載されている この相違は 文献 [5] における三次元回転とオイラー角の記述手法が他の多くの教科書と違う所が原因である この分野ではこのような教科書上の記述手法に相違があり 学生が勉強する時に混乱をまねいている.. 式の結果より とと とを計算してみよう ep /..a
ep /..b..c 上式より.. 式の結果は.. 式の条件を満足していることが分かる 証明終. SO と S との関係 前節では三次元の回転を表す行列として SO 行列 Rと S 行列 の働きを調べた 第 - 軸 まわりの回転に対応する S 行列 は角度 θについ ては例題.. に示すように θ/ のかたちで依存している これは SO 行列 R のθ 依存性とは対照的である R に を代入すると..6 式の 例から分かるように元に戻って単位行列になる R.. 一方 に を代入すると..6 式から.. となる.. 式の最後の項は - 単位行列 となっており.. 式の右辺のような単位行列になっていない.. 式の行列は S では重要なので 次式のように K と名前を付ける K.. において さらに 回転すると.. となり単位行列を得る 従って において角度 の回転を行うと K..5 が成り立っている SO の R による三次元ベクトルの回転を考えた場合.. 式より次式のように変換される R..6 これに対応する S 考えられる のユニタリー変換に対しては.. 式より次の 通りが
K K..7 このことは SO 行列 R には のみならず K 味する も対応することを意.5 S とスピノル 文献 [] や文献 [] を参考にして 三次元回転を.. 式とは別の方法で記述してみよう なお 本節では座標系として yz- 直交座標軸系を用いる 次頁の図.5. に示すように 半径 の球がその中心が yz- 座標軸系の原点 Oと一致するように置かれているとする 球面上の点 Pの座標を y z とし 点 Pと球の南極点 S とを結ぶ Sの座標は である 図.5. の-y 平面を複素平面と見なし 直線 PSが -y 平面と交わる交点 ζを y z と対応させる この対応では 半径 の球面の北半球上の点は -y 平面の原点を中心とする半径 の円の内部に対応する 南北半球上の点はその円の外部に対応する 具体的に yzをζで表せば次式が得られる y.5.a z.5.b 問題.5..5. 式を証明せよ 図.5. と.5. 式とを見比べると 点 Pが南極点 Sと一致している場合は点 Sはという無限遠点に対応している 無限遠点を除外して考えるならば 南 極点 S だけは対応する複素数がない そこで / とおいて 複素数 を導入する そうすると.5. 式は次のように書き換えることができる * *.5.a * * y.5.b y.5.c z.5.d 上式のようにすれば 南極点 Sは に対応している 問題.5..5. 式を証明せよ
P O S 図.5. Oを原点とする直交座標系 yz- 座標系 において 半径 の球がその中心がyz- 座標軸系の原点 Oと一致するように置かれているとする 球面上の点 P の座標を y z とし 点 Pと球の南極 Sとを結ぶ 文献 [] の図. を参考にして 本図を描いた 三次元空間の回転を行えば 図.5. の半径 の球上の点 P y z は同じ半径の球上の他の点 P y z に移動する 従って対応する複素平面上の点 ζも点 ζ に移動することになる あるいは が に変換されると言ってもよい それでは のどのような変換が三次元空間の回転に対応するのだろうか を..9 式で定義された で変換して を得たとしよう ep / ep /.5.
上式で現れた複素二成分量 をスピノルと呼ぶ スピノルはスピンの表示などで よく使われている.5. 式に.5. 式の変換を施せば y z は y z を用いて y ep y.5.a z z.5.b と表すことができる これは z- 軸周りの角度 θ の回転にほかならない 問題.5..5. 式を証明せよ 次に を.. 式で定義された で変換して を得たとしよう / / / /.5.5.5. 式にこの変換を行えば.5. 式の分子と分母に現れる各項は * * * *.5.6a * * * *.5.6b * * と表すことができる 上式により y z は y z を用いて.5.6c.5.6d z ep z.5.7a y y.5.7b と表すことができる これは y- 軸周りの角度 θ の回転にほかならない 以上のことから.. 式でオイラーの角 で表される三次空間の回転と の変換とを.. 式で求められた S 行列 を用いて a b.5.8 b * a * と対応づけることができる.5.8 式の最後の項で定義した二つの複素数 ab は a ep /.5.9a b ep /.5.9b と定義することができる これらの複素数 ab はケーリー クラインのパラメータ と呼ばれている なお 明らかに a b である
章問題解答 問題....8 式と同様な手順で証明できる 問題.... 式に..6 式..9a 式 および..9b 式を代入し 行列の計算を具体的に行うことによって証明することができる 問題.... 式の左辺に.. 式の一般形を代入すれば証明できる 問題....6 式を..9 式に代入すれば証明できる 問題.. 例えば..9b 式を用いて を愚直に計算してみると 次のようになる 一方 は次のようになる 従って k 場合の.. 式が証明された 他の場合も同様に証明できる 問題.... 式と同様な計算を行えば 証明できる 問題.. 問題の式の右辺にパウリ行列の値を代入して..9 式や.. 式や..5 式と同じになることを示せば 証明できる 5