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-52- 図 1 症例の内訳は,Watanabe 分類による完全型 円板状半月が 8 膝, 不完全型円板状半月が 4 膝, 手術時年齢は 10 才 -50 才 ( 平均 20 才 ), 受傷か ら手術までの期間は 3 ヶ月以内の症例が 6 膝,3 ヶ月を超える症例は 6 膝であった. 経過観察期 間は 6 ヶ月 -3.5 年 ( 平均 21 ヶ月 ) であった ( 表 1). Type of Interval from injury Follow-up period No. Age/Sex Meniscus Site of Tear to surgery (mos) after surgery (mos) 1 20 / F Incomplete Posterior 2 41 2 20 / F Complete Anterior-Middle 16 38 3 30 / M Incomplete Anterior-posterior 2 38 4 13 / M Complete Middle-posterior 6 31 5 50 / M Complete Posterior 2 23 6 18 / M Incomplete Middle-posterior 36 20 7 12 / M Complete Middle-posterior 1 19 8 15 / M Complete Middle-posterior 1 14 9 22 / M Complete Middle-posterior 24 9 10 10 / M Complete Middle-posterior 2 9 11 15 / F Incomplete Anterior 4 8 12 20 / F Complete Middle-posterior 24 6 Average 20 10 21 表 1. 半月温存手術を施行した症例 術前の自覚症状は, 膝関節痛が全例に認め られ, 引っかかり感が9 膝に認められた. 膝関節可動域制限は5 膝に, 外側関節裂隙の圧痛と Mc Murray test 陽性は11 膝に認められた. 水腫を認めた症例はなかった. 画像所見では, 単純 X 線 Rosenberg view( 立位膝屈曲 45 度での postero-anterior view) にて骨棘形成や離断性骨軟骨炎を認めた症例はなかった.MRIでは, 全例に外側半月の外周辺部に縦断裂を認めたが実質部損傷所見はなく, 十字靭帯損傷および内側半月損傷を認めた症例はなかった. 2) 手術方法麻酔は全身麻酔で体位は仰臥位とし, 患肢の大腿部をレッグホルダーで固定し, 下腿をベッドから下垂した状態で手術を行った. 関節鏡は30 度斜視鏡を用いてmedial and lateral infrapatellar portalとfar antero-medial portalの 3つのportalから関節内を鏡視し,probeを用いて円板状半月の形態, 断裂の形態および部位, 半月不安定性の有無, 体部変性の有無を詳細に調べた. 外側コンパートメントの評価は, 患肢をfigure-4 positionにし膝関節に内反ストレスを加えながら行った. 完全型円板状半月の場合, 半月が厚く脛骨外顆関節面全体を覆うため半月下面の評価が困難であるため,Far antero-medial portalから挿入したprobeで円板状半月を持ち上げながら半月下面の体部変性の有無と外周辺部の断裂状態を詳細に評価した. 縫合の手順は, まず, 半月断裂部における半月側および関節包側の断端をraspで新鮮化し, 末梢血から作成したfibrin clotを非吸収糸 (2-0 Ethibond) を用いて断裂部に挿入した. 断裂部位が中節または後節に存在する場合, まず, 非吸収糸 (2-0 Ethibond) を使用して円板状半月の上面にHenning 法に基づき inside-outでstacked sutureを行った. さらに,Far antero-medial portalからprobeを挿入し

-53- 円板状半月を上方に持ち上げながら円板状半月の下面にもinside-outでstacked sutureを行った ( 図 2). 図 2 前節の縦断裂を認めた3 膝に対しては,outside-inで縫合を行った. 縫合後,probeを用いて半月断裂部の不安定性が消失したことを確認した. なお, 半月自由縁に変性や小さな断裂を確認した7 膝では損傷部のみを最小限にtrimmingしたが, 正常型半月様までは切除を行わなかった. 合併関節軟骨損傷関節鏡視にて, 大腿骨外顆軟骨のⅠ 度損傷が2 膝に, 大腿骨滑車軟骨のⅢ 度損傷が1 膝に認められたが, 膝蓋骨, 大腿骨内顆, 脛骨内顆および外顆軟骨の損傷は認められなかった. 十字靭帯損傷や内側半月損傷を合併した症例はなかった. 3) 後療法術後 1~2 週間はニーブレースを用いて膝関節を固定し, その後,CPMを用いてROM 訓練を開始した. 部分荷重は術後 2~3 週より開始し4~5 週で全荷重を許可した. ジョギングは術後 3ヶ月より許可し,5~6ヶ月よりスポーツ復帰を許可した. 4) 評価項目 自覚症状として膝関節の疼痛と引っかかり感を, 理学所見として膝関節水腫, 可動域制限, 外側関節裂隙の圧痛,Mc Murray testを評価した. 画像評価として, 単純 X 線のRosenberg viewによる骨棘形成, 関節裂隙狭小化, 離断性骨軟骨炎の有無を評価し,MRIにおいて温存半月体部の変性の有無と縫合部の変化を評価した. 総合評価は, 池内スケールを用いて excellent, good, fair, poorに分類した.excellentは可動域制限や click,noise,painがないもの,goodは動作時に時々軽度の痛みがあるがmotion symptoms がないもの,Fairは動きに制限はないが動作時に軽度の痛みとclickまたはnoiseがあるもの,Poorは動作時だけでなく安静時にも痛みがあり動きに制限があるものである. 結果 自覚症状は,12 膝中 11 膝で膝関節の疼痛, ひっかかり感は消失した.1 膝のみ, 軽度の運動時痛と引っかかり感が残存したが, 術前よりは軽減し日常生活動作には支障をきたしていなかった. 理学所見は, 膝関節水腫は全例で認めなかった. 膝関節可動域は,12 膝中 10 膝は制限なく,2 膝で5 度以内の伸展制限が残存した. 外側関節裂隙の圧痛は,11 膝で認めず,1 膝に認めた.Mc Murray testは11 膝で陰性で,1 膝は陽性であった. 画像評価は, 単純 X 線の Rosenberg viewによる関節裂隙の狭小化は2 膝に認められたが, 骨棘形成や離断性骨軟骨炎を疑わせる透亮像は認めなかった ( 図 3).

-54- 図 3 術後 MRI 撮影が可能であった6 膝において, 全例とも縫合部の輝度変化はなく, 新たな半月実質部の変性を生じた症例はなかった. 総合評価では,excellentが11 膝, goodが1 膝であった. 考察 半月は膝関節機能の維持に重要な役割を果たしている1). 半月温存のために関節鏡視下半月縫合術が行われるようになったが, 円板状半月損傷に対しては縫合手術は困難とされ, 今だ ( 亜 ) 全切除術が一般的に行われている. 近年, 円板状半月損傷に対してもできるだけ半月を温存する手術治療が試みられるようになり, 正常型半月に近い形に形成切除する術式や形成切除に縫合を追加した術式が報告されている2),3). 本研究では, 大腿 脛骨関節が円板状半月を介して適合していると考え, 体部に変性がない場合には半月形成切除は追加せず縫合術のみを施行し本来の円板状半月構造の温存を図った. 円板状半月損傷に対する半月機能を温存する試みとして, 池内らは不完全型円板状半月損傷に対して部分切除と外周辺部の縫合を1 膝に, 縫合のみを2 膝に施行し, 観察しえた1 膝の術後 3.5 年の臨床成績はfairであったと報告している. また,RosenbergらはWrisberg type の円板状半月損傷に対して部分切除と縫合を 1 膝に施行し, 術後 1 年での2nd lookにおいて断裂部は治癒していたと報告している. さらに, 安達らは完全型円板状半月 4 膝と不完全型円板状半月 1 膝に対して部分切除と縫合を施行し, 術後 2.5 年の成績は4 膝でexcellent,1 膝で fairであったと報告している. これらの報告は, 円板状半月であっても損傷が外周辺部の縦断裂に限られる場合は, 正常型半月損傷と同様に縫合することにより半月を温存できる可能性があることを示唆している. この術式は, 従来の半月全切除のように半月機能が全廃してしまう術式に比べて, 適応は限られるものの半月機能を温存できる可能性があるという点では大きな進歩であると考えられる. しかしながら, 正常型半月様に形成切除された円板状半月がいかに機能しているかは不明である. 完全型円板状半月を有する症例では, 半月は外周辺部から内縁部までほぼ同じ厚みで脛骨外側顆関節面全体を覆い, その半月形状に適合するように大腿骨外顆が平坦化 (square off appearance) していることは, 単純 X 線やMRIによりしばしば認められる.( 図 4)

-55- 図 4 そのため, 円板状半月が正常型半月に形成切除された場合, 半月と関節面の形状との適合性が低下してしまうことが危惧される. 本研究では, 大腿 脛骨関節が円板状半月を介して適合していると考え, 体部に変性がない場合には半月形成切除は追加せず縫合術のみを施行し本来の円板状半月構造の温存を図った. 本術式を施行した12 膝の短期成績は良好であり, 円板状半月損傷の手術治療の一つの選択肢としての可能性があると考えられた. 完全型円板状半月損傷に対して縫合のみを施行した報告は極めて少なく, 我々の知る限り1994 年の松本らの報告が最初である4). 完全型円板状半月の外周辺部に縦断裂を認めた3 例に対して関節鏡視下に縫合術を行った. 術式は,Henning 法に準じてinside-outにて 2-0 非吸収糸を用いて縫合しているが, 半月下面の縫合は困難であったため上面からのみの horizontal mattress sutureを施行している. 術後,3 例すべてに縫合部の治癒不全と体部の新たな損傷を認めたため, 再手術にて全切除術が必要であったと報告している. 彼らは, 成績不良であった原因として,1) 正常半月とは異なる繊維配列や血行など解剖学的構造の違 いによる,2) 断裂以前に体部に変性が存在する可能性があること,3) 不完全な縫合となったため, と推測している. また,2000 年 Cosgareaらは, 完全型円板状半月の前節から中節にかけての半月滑膜移行部での断裂に対して観血的に縫合術を施行しているが, 残念ながら術後成績に関しては述べられていない5). 本治療の重要な点は, 手術適応を慎重に選択することと確実な手術を行うことである. まず, 適応として, 温存する半月体部に明らかな変性がないことが必要である. 関節鏡視で半月表面に変性が認められなくても内部に水平断裂や変性が存在することがあるため, 術前にMRIで変性所見がないことを確認する必要がある. 近年,MRI 精度の向上とともに半月体部の微細な変性を確認できるようになっており, 術前の評価には極めて有用であると考えている. さらに, 関節鏡視時に半月体部をprobeで触診し変性や硬化が存在しないかを慎重に観察する必要がある. また, 単純 X 線にて関節症性変化を認める症例では, 疼痛が残存する可能性があるため適応外と考えている. 次に, 手術方法の工夫は,1つ目に,medial and lateral infrapatellar portalとfar antero-medial portalの3つのportalを作成することである. 完全型円板状半月の場合, 脛骨外側顆関節面全体が厚い半月で覆われているため通常の方法では半月全体 ( 特に半月下面 ) を観察することはしばしば困難である. そこで, 我々はfar antero-medial portalからprobeを挿入し円板状半月を持ち上げながら体部の変性の有無と断裂部を詳細に評価し, 半月下面にも inside-outで縫合を行った.2つ目は, 断裂部には末梢血からのfibrin clotを使用したことである.arnoczky SPらは,fibrin clotが半月治癒反応を促進させる役割があると報告しており, ま

-56- た,Henning CEらは, 半月単独損傷に対する半月縫合術ではfibrin clotを使用したほうがより成績がいいと報告している.3つ目は, 縫合方法はより強固な固定性を得るためにstacked sutureを行ったことである. 松本らと我々の術式の違いは,fibrin clotを使用したこと, 半月下面にも縫合を行ったこと, 縫合方法をvertical stacked sutureで行ったことが, 術後成績を向上させたことが考えられる. 円板状半月の解剖学的構造の回復を目指して行った本術式は, 関節面と半月形状の適合性を維持しながら半月機能を温存する新しい治療であると考えている. 術後成績は自覚症状, 理学所見とも概ね良好であったが,MRIでの評価では治癒判定は不十分であり, 今後, さらなる長期的な経過観察が必要である. しかしながら, 円板状半月損傷の手術治療は半月切除という短絡的思考ではなく, 慎重に適応を選択すれば半月温存手術は1つの選択肢としての可能性があると考えられる. the peripheral tear. Arthroscopy. 20: 536-542. 2004 4. 松本憲尚. 史野根生ら. 外側円板状半月損傷に対する縫合術. 中部整災誌. 37:75-76. 1994 5. Cosgarea AJ. Ryan A. Repair of a bucket-handle tear of a complete discoid lateral meniscal incarcerated in the posterolateral compartment. Am J Sports Med. 28: 737-740. 2000 文献 1. Ahmed AM. Burke DL. In-vitro measurement of static pressure distribution in synovial joints-part I: Tibial surface of the knee. J Biomech Eng. 105(3): 216-225. 1983 2. Fujikawa K. Iseki F. Mikura Y. Partial resection of the discoid meniscus in the child's knee. J Bone Joint Surg Br. 63-B: 391-395. 1981 3. Adachi N. Ochi M. et al. Torn discoid lateral meniscus treated using partial central meniscectomy and suture of