21 章アミンおよびその誘導体 アミン類 ( 医薬品 ) ( 抗うつ剤 ) ダイエットピル N Cl ドリエル ( エスエス製薬 ) 抗ヒスタミン剤の眠気を利用 p1166 リン酸オセルタミビル ( タミフル ) 抗インフルエンザウイルス剤 タミフル (tamiflu: リン酸オセルタミビル ) はスイスロシュ社によって製造されている抗インフルエンザウイルス剤 作用機序は ノイラミニダーゼ (Neuraminidase) 活性阻害 インフルエンザウイルスはウイルスの表面にその増殖に欠かせないタンパク質である赤血球凝集素とノイラミニダーゼを有しており そのためウイルスが増殖できるが ノイラミニダーゼを阻害することにより増殖を防ぐ よく 5N1 型などという と N が赤血球凝集素 () ノイラミニダーゼ (N) にあたる 最近発生した鳥インフルエンザが変化して発生する新型インフルエンザに対して 有効な薬であることが報告され 各国でタミフルの備蓄が始まった 昨年度の売り上げは,25.2 億ドル (33 位 ) 最近では, 異常行動なども疑われているが, インフルエンザの予防効果もあることが報告されている 1
高病原性鳥インフルエンザウイルス 2008 年 5 月に アジア アフリカ ヨーロッパで 383 人が感染内 241 人が死亡 ( 死亡率 60% 以上 ) まだ ヒトからヒトに感染するウイルスは出現していない タミフル耐性インフルエンザウイルスの出現 2008 年 2 月横浜でタミフル耐性インフルエンザによる集団感染 新型 ( 豚 ) インフルエンザウイルス (1N1 型 : 呼吸器疾患のみ ) の出現 2009 年 5 月 24 日メキシコで確認 発表 5 月 9 日日本で確認 N F N N 2 T-705( 富山化学工業 ) RNA ポリメラーゼ活性阻害 細胞内での増殖を抑制 21-1 アミンの命名 アミン (amine) はアンモニアの誘導体で, アルキル基やアリール基でその水素が一つ置換された化合物 ( 第一級 ), 二つ置換された化合物 ( 第二級 ), および三つとも置換された化合物 ( 第三級 ) がある 注 ) 第一級, 第二級, 第三級という表記法は, アルコールの時とは異なるので注意 ( 上巻 8-1 参照 ) N R N R N R N R R R アンモニア 第一級アミン 第二級アミン 第三級アミン C 3 N 2 C C 3 C 3 C C 3 C 3 C 3 第 1 級アミン 第 3 級アルコール p1162 2
アミンの命名 2 アミンは, アルカンアミン (alkanamine) として命名するほう方が主で, アルカンの語尾の -e を -amine に置き換える (IUPAC 命名法 ) 1 2 3 4 5 アミン官能基を二つ持つ化合物をジアミン (diamine) と呼ぶ p1162 アミンの命名 3 芳香族アミンであるアニリンをベンゼンアミン (benzenamine) という 第二級および第三級のアミンは窒素上の最も長いアルキル鎖をアルカンアミンの主鎖とし, 他の置換基は N- という文字の後にその置換基の名称をつける 3
アミンの命名 4 もう一つのアミンの体系的な命名法では, アミノ (-amino) という官能基を, 主鎖となるアルカンの置換基として取り扱う ( 通常は 置換基命名するときに使う ) 慣用名としてアルキルアミンが用いられる場合もある ただし 一番大事なのは IUPAC 命名法 カルボン酸誘導体の命名法上の順位 カルボン酸 > 酸無水物 > エステル > ハロゲン化アルカノイル > アミド > ニトリル > アルデヒド > ケトン > アルコール > チオール > アミン カルボン酸カルボン酸誘導体カルボニル化合物アルコール類アミン p1045 4
21-2 アミンの構造と物理的性質 アミンの窒素の軌道は sp 3 混成に非常に近く ほぼ正四面体型構造をとる この四面体の 3 つの頂点は 3 つの置換基で占められるが 4 つ目の頂点を孤立電子対が占める 窒素と三つの置換基がとる構造をピラミッド形と表現することが多い アミンの窒素周りの置換基が 3 つとも異なっている場合は 孤立電子対を第 4 の置換基とみなすと キラルな化合物であると考えられる ( 左図 ) しかし, この化合物はアミンの窒素周りで容易に反転するため ( 下図 ) 光学活性ではない R 3 C R 4 R 2 R 1 反転 炭素の場合は光学活性 p1164 アミンの水素結合 アミンはアルコールよりも弱い水素結合をする このためアルコールほどではないが, 分子量の割に沸点は高くなる また, 水に対する溶解度もある程度あるが, アルコールほど高くない 水素がなくなると融点低下 p1165 5
21-3 アミノ基の分光法 赤外分光法第一級アミンと第二級アミンは,3250~3500cm -1 の間に特徴的な幅広い N- 伸縮振動の吸収を示す 第一級アミン :2 本第二級アミン :1 本を通常示す 1600cm -1 にも N 2 基のはさみ運動の吸収が見られる 第三級アミンにはこれらの吸収は見られない ( 水素が無いため ) p1168 アミン水素のピークは幅広になることが多い 窒素の隣接炭素の水素は低磁場で共鳴 窒素の結合している炭素は低磁場で共鳴 アミノ基の分光法 - 1, 13 C NMRp1169 6
質量分析 トリエチルアミンの質量スペクトル m/z=86 はイミニウムイオンのスペクトル 21-4 アミンの酸性度と塩基性度 基本的にアミンは塩基性である p1173 7
アミンの酸性度 かなり強い塩基を使わないと脱プロトン化は出来ない 酸性度は低い LDA: かさだかく強力な塩基求核性が低い ( ブチルリチウムのような強力な塩基で合成する )pka=42 重要な試薬 これまでに, エノラートの形成反応などで何度か出てきた p1173 アミンの塩基性度 アミンは塩基性である アンモニウムイオン (RN + 3 など ) は, 酸性となる アンモニウムイオンの pk a 値が大きいほど 対応するアミンの塩基性が高い ( アンモニウム塩が + を放出しにくい = アミンが + と親和性がある = 塩基性が高い ) 数字が大きいほど RN + 3 の濃度が高い = 塩基性が高い p1176 8
基本 : アンモニウム塩の pka 値が大きいほど 塩基性が強い アルキル基が導入されると電子供与性が上がり, アミンの塩基性も上昇するが立体的なかさ高さや溶媒和の影響で, 第三級アミンの塩基性は低下する 芳香族アミンは塩基性が低い ( 共鳴安定化のため ) では次にアミンをどう合成するのかを見てみる p1177 9
21-5 アルキル化によるアミンの合成 ハロアルカンからアミンを合成する方法 アミンは求核剤として, ハロアルカンと反応することでアンモニウム塩となる 通常は同時に進行していく このため, 間接的なアルキル化が用いられる p1178 第一級アミンの合成法 - 間接的合成 ハロアルカンのシアノ化, 還元法 : 炭素数は一つ増える重要! (20 章 8 節参照 ) p1027 10
復習 ~20 章 8 節ニトリルと還元試薬の反応 2 ニトリルを水素化アルミニウムリチウムのような強力な還元剤で処理するとアミンまで還元される 炭素上の水素は LiAl 4 から導入される 触媒によって活性化された水素によって, 炭素 - 窒素の三重結合は還元されアミンを与える p1142 第一級アミンの合成法 - 間接的合成 ハロアルカンのアジ化, 還元法 : 炭素数は増えない 11
第一級アミンの合成法 - 間接的合成 重要! Gabriel 合成 : 炭素数は増えない 還元反応を経由しないので, 還元されうる官能基を持つ場合, 用いられる 酸性度が非常に高い 三重結合を有するので還元反応が使えない! p1180 練習問題 21-1 練習問題 21-2 練習問題 21-9 練習問題 21-10 12
アミンの合成まとめ 原料生成物用いる試薬は? R-X ( ハロアルカン ) R-X RN2 RC2N2 R-CX ( ハロゲン化アルカノイル ) R-CX RN2 RC2N2 アミン類 ( 医薬品の観点からさらに一例 : 教科書に載っていない例 ) L-DPA( ドーパミンの前駆体 : 映画レナードの朝 ) N 2 N 2 C 2 2 C L-DPA 神経機能の回復に効果 ( パーキンソン病の治療薬 ) 鏡 D-DPA 毒性がかなり高い ちなみにこの L-DPA の大量不斉合成に成功したことで Monsanto 社の Knowles は,2001 年ノーベル化学賞, 野依良治らとともに受賞 13
A D C B (S)-Carvone 不斉中心 光学活性化合物 ( 鏡像体 ) の例 鏡 (R)-Carvone (S) 体のカルボンは, キャラウエイの臭い, (R) 体のカルボンは, スペアミントの臭い 例えば, スペアミントの代わりに, キャラウエイ味の歯磨き粉があっても我慢は出来るかもしれない が薬だったらどうだろう? 光学活性なアミノ酸と糖などから出来ている生命体は, 右手系と左手系を厳密に区別する 左手用 右手で左手用のはさみは使いにくい 右手に左手用のグローブは入らない 右手用 左手用グローブ 薬ではどうだろう? L-DPA( パーキンソン病の治療薬 ) L-DPA N 2 C 2 神経機能の回復に効果 N 2 2 C 鏡 D-DPA 毒性がかなり高い ちなみにこの L-DPA の大量不斉合成に成功したことで Monsanto 社の Knowles は 2001 年ノーベル賞を受賞 サリドマイド ( 鎮静 睡眠薬 ): 薬害 最近では, 抗癌剤, ハンセン病治療薬として使用 N N (R) N (S) N 薬害サリドマイドはラセミ体 ( 鏡像体の等量混合物 ) を用いたためだと言われてきた 催眠性 鏡 催奇性 1992 年アメリカ FDA( 食品医薬品局 ) による医薬品のラセミ体使用に関する勧告 重要性増大 一方のみを作る技術が必要 不斉合成 14
21-6 還元アミノ化によるアミンの合成 還元アミノ化 : アルデヒド, ケトンとアミンを反応させた後に生じるイミンを還元する アンモニアを用いて反応させると, 第一級アミン, 第一級アミンを用いて反応させると, 第二級アミン第二級アミンを用いて反応させると, 第三級アミンを与える 重要! イミンの還元にはヒドリド還元剤, 水素還元 ( 接触還元 ) が用いられる p1181 酸性条件下で NaB 3 CN が還元剤として使用される 15
第三級アミンの合成例 - 還元アミノ化 - C 3 N C 3 N + NaB 3 CN N(C 3 ) 2 第三級アミンの合成例 - 還元アミノ化 - 16
ここまでに習った合成手法は, どのように使われているか? 例えば 9-4 トシル化 19-8 ハロゲン化アルカノイル合成 19-9 エステル化 21-5 N- メチル化 ベンジル基の脱保護 (22 章 ) 20-2 アミド化 21-5 N- アルキル化 21-7 カルボン酸アミドからのアミンの合成 カルボン酸アミドは水素化アルミニウムリチウムで還元するとアミンに変換される 重要! 20 章 6 節 エステルの還元反応 (20 章 4 節 ) とは少し異なる 水酸化ナトリウムの存在下, 臭素あるいは塩素で酸化すると, アミンに変換できる この反応を ofmann 転位と呼ぶ (20 章 7 節に詳しい反応機構 ) この変換反応では, 二酸化炭素を放出するので, 出発原料よりも一つ炭素の短いアミンとなる p1184 17
(20-7 ofmann 転位 : 反応機構 ) 問題 : どうやって合成しますか? R N 2 R 滑るように転位するので 立体保持する R R R N 2 R N 2 要復習!! p1136 21-8 第四級アンモニウム塩 :ofmann 脱離 (21 章 5 節ハロアルカンからアミンを合成する方法 ) 重要! テトラアルキルアンモニウム塩は強塩基と反応して, アルケンを放出する この反応を ofmann 脱離と呼ぶ (ofmann 則,ofmann 転位と同一人物が発見 ) b a p1185 18
ofmann 脱離の反応例 徹底メチル化 脱離反応の配向性は置換基の少ないアルケンのほうに脱離する Ag 2 : 水酸化物イオンの供給源 ofmann 脱離のアルキル化はメチル化を行う 脱離するベータ水素がないため 参考 E2 反応 C 3 C 3 C 2 C C 3 Br 塩基 3 C C 3 Saytzef 則 E2 反応 C 3 置換基の多いアルケン ( 生成物の安定性で決定 ) 11 章 8 節 p504 C 3 C 3 C 2 C C 3 N + (C 3 ) 3 塩基 3 C C 2 I - ofmann 脱離 置換基の少ないアルケン 19
C 3 C 2 C C 3 Br 塩基 E2 反応 アンモニウム塩化 参考 3 C C 3 置換基の多いアルケン C 3 C 2 C C 3 N + (C 3 ) 3 塩基 C 2 I - ofmann 脱離 置換基の少ないアルケン 異性体を作り分けもできますが 一番いい二重結合形成反応は ( 参考アルケン合成の別法 17-12 リンイリドの付加 :Wittig 反応 ) 有機リン化合物から生じるリンイリド ( 右図 ) とカルボニル化合物は反応してアルケンを与える この反応を Wittig 反応と呼ぶ Georg Friedrich Karl Wittig Wittig 反応の発見を評価され 1979 年ノーベル賞受賞 すべてを合わせて覚えると良い 20
21-9 Mannich 反応 : イミニウムイオンによるエノールのアルキル化 重要! エノールが, カルボニル化合物とアミンから形成されるイミニウムイオンに求核攻撃する反応を,Mannich 反応と呼ぶ ( アルドール反応 :18 章 5 節に類似 ) β- アミノカルボニル化合物を与える p1187 Mannich 反応の反応機構 p1187 21
21-10 アミンのニトロソ化 アミンと亜硝酸を反応させると, ニトロシルカチオンへのアミンの求核的反応によって N- ニトロソアンモニウム塩を生じる 重要! 第三級アミンからの N- ニトロソアンモニウム塩は, 不安定 第二級アミンからの N- ニトロソアンモニウム塩は N- ニトロソアミンを与える あまり重要ではない p1189 アミンのニトロソ化 -2 かなり重要! 重要なのは 第一級アミンとの反応 第一級アミンは類似のニトロソアミンをまず与えるが, 水素移動とプロトン化, 脱離反応を経て, ジアゾニウム塩を与える 22 章 10 節でこれらを用いる反応を習います p1192 22
アミンのニトロソ化 -3 ジアゾメタンの生成 :N- メチル -N- ニトロソアミドを塩基で処理するとジアゾメタンに変換される 重要! 12 章 9 節参照 p1196 ジアゾメタンは, カルボン酸と反応するとメチルエステルへと変換される 酸 塩基などに不安定な化合物のメチルエステル化に用いられる p1196 23
練習問題 21-12 練習問題 21-14 どちらの方法が好ましいか? 練習問題 21-19 24