トポス alg-d http://alg-d.com/math/kan_extension/ 2018 年 5 月 5 日 1 トポス 定義. P, Q: C op Set を関手とする.P が Q の部分関手 ( 記号で P Q と書く ) 自然変換 θ : P Q で 各 a C について θ a : P a Qa が包含写像になっているもの が存在する. P Q を部分関手とすると, 自然性より,f : a b に対して次の図式が可換である. a P a Qa f P f Qf b P b Qb 従って P f = Qf P b となる. 特に x P b に対して Qf(x) P a である. 逆に Q: C op Set を関手として, 集合族 {P a} a C が次の条件を満たすとする : a C に対して P a Qa. f : a b,x P b に対して Qf(x) P a. このとき,f : a b に対して P f := Qf P b : P b P a と定義すると P は Q の部分関手になることが容易に分かる. 定義. 有限完備な圏 C の部分対象分類子 (subobject classifier) とは, 組 Ω, true であって, 以下の条件を満たすものをいう : (1) Ω C は対象で,true: 1 Ω は射である. 1
(2) 任意のモノ射 f : a b に対して, ある射 χ f : b Ω が一意に存在して, 次の図式が pullback になる.! a 1 f true b χ f Ω true を省略し, 単に Ω を部分対象分類子ということも多い. 定義. トポス (topos) *1 とは, 圏 E であって以下の条件を満たすものをいう : (1) E は有限完備である. (2) E は Cartesian 閉である.( 随伴関手 の PDF を参照.) (3) E は部分対象分類子を持つ. 命題 1. C を小圏とするとき Ĉ = SetCop はトポスである. 特に Set はトポスである. 証明. まず Ĉ は完備だった ( 極限 の PDF を参照 ).Ĉ が Cartesian 閉であることを示す. P, Q Ĉ とする. もし Ĉ が Cartesian 閉であれば Q P Ĉ が存在するが, このとき米田の補題により,a C に対して HomĈ(y(a) P, Q) = HomĈ(y(a), Q P ) = Q P (a) とならなければならない. P, Q Ĉ とする.QP := HomĈ(y( ) P, Q) Ĉ と定義する. 余米田の補題 ( 余 c C op 米田の補題 の PDF を参照 ) により P a = Hom C (a, c) P c だったことに注意 *1 以下で述べる Grothendieck トポスと区別する為に, この意味のトポスを初等トポス (elementary topos) という場合がある. また,Grothendieck トポスを単にトポスと呼ぶ場合もある. 2
すると, 任意の X Ĉ に対して自然に HomĈ(X, Q P ) = Hom Set (Xc, Q P (c)) c C op = Hom Set (Xc, HomĈ(y(c) P, Q)) c C op ( ) = Hom Set Xc, Hom Set (Hom C (d, c) P d, Qd) c C op d C op ( = Hom Set Xc, HomSet (Hom C (d, c) P d, Qd) ) c C op d C op = Hom Set (Xc Hom C (d, c) P d, Qd) c C op d C op = Hom Set (Xc Hom C (d, c) P d, Qd) d C op c C op ( ) c C op = Xc Hom C (d, c) P d, Qd = d C op Hom Set d C op Hom Set ( P d c C op = Hom Set (P d Xd, Qd) d C op = HomĈ(X P, Q) Hom C (d, c) Xc, Qd ) である (Set が Cartesian 閉なので,P d が余極限と交換すること, 特にコエンドと交換することに注意する ). よって Ĉ が Cartesian 閉と分かった. 部分対象分類子の存在を示す.Ω を a C に対して Ω(a) := {P Ĉ P y(a)} とする. f : a b を C の射として P Ωb とする.u C に対して (Ωf(P ))(u) := {k : u a f k P u} と定めるとこれは部分関手 Ωf(P ) y(a) を与える.. ) l : u v とする.k (Ωf(P ))(v) に対して k l (Ωf(P ))(u) を示せばよい. 今 k (Ωf(P ))(v) だから f k P v である.P y(a) が部分関手だ 3
から l u v P u Hom C (u, a) l l P v Hom C (v, a) が可換となり, よって f k l P u である. これにより,f : a b に対して写像 Ω(f): Ωb Ωa が定まる. で定義する. これは関手 Ω: C op Set を与える.. ) 明らかに Ω(id a ) = id Ωa だから,a f b g c に対して Ω(g f) = Ω(f) Ω(g) を示せばよい. 定義より P Ωc,u C に対して (Ωf(Ωg(P )))(u) = {k : u a f k (Ωg(P ))(u)} = {k : u a g f k P u} = (Ω(g f)(p ))(u) だから Ωf Ωg(P ) = Ω(g f)(p ) である. true: 1(= 1) Ω を true a ( ) := y(a) で定める. これらが部分対象分類子を与えることを示そう. まず θ : P Q をモノ射とする. つまり a C に対して θ a : P a Qa はモノ射 ( つまり単射 ) である. これにより P a Qa とみなす.a, u C,x Qa に対して χ a (x)(u) := {k : u a Qk(x) P u} と定義する. C P Q Set u P u Qu k a P k Qk P a Qa x これは部分関手 χ a (x) y(a) を定義する. 4
. ) l : u v を射とするとき,k χ a (x)(v) に対して k l χ a (x)(u) となることを示せばよい. それには Qk(x) P v ならば Q(k l)(x) P u を示せばよいが, それは明らか. u P u Qu l k v a P l Ql P v Qv P k Qk P a Qa よって χ a (x) Ωa であるから,χ a : Qa Ωa は写像である. これは自然変換 χ: Q Ω を定める.. ) f : a b を射とする. 次の図式が可換であることを示せばよい. a Qa χ a Ωa f Qf Ωf b Qb χ b Ωb 即ち,x Qb に対して,y(a) の部分関手の等号 χ a (Qf(x)) = Ωf(χ b (x)) を示せばよい. つまり u C に対して χ a (Qf(x))(u) = Ωf(χ b (x))(u) を示す. これは定義より χ a (Qf(x))(u) = {k : u a Qk(Qf(x)) P u} Ωf(χ b (x))(u) = {k : u a f k χ b (x)(u)} = {k : u a Q(f k)(x) P u} となるから成り立つ. よって Ĉ における次の図式が得られた.! P 1 θ Q χ Ω true これは可換である.. ) a C に対して χ a θ a = true a! a を示せばよい. 即ち x P a に対して 5
χ a (θ a (x)) = y(a) を示せばよい.χ の定義より,u C に対して χ a (θ a (x))(u) = {k : u a Qk(θ a (x)) P u} だから, 任意の k : u a に対して Qk(θ a (x)) P u を示せばよい. それは θ : P Q が自然変換だから, 次の図式が可換となり成り立つ. P k P u P a θ u θ a Qu Qa Qk この図式が pullback になることを示す. その為に次の図式の実線部分が可換であるとする. X! τ σ P 1 Q θ true χ Ω a C とすると,χ a σ a = true a! a だから x Xa に対して χ a (σ a (x)) = y(a) で ある. 即ち任意の k : u a に対して Qk(σ a (x)) P u となる. 特に k = id a と取れば σ a (x) P a が分かる. 即ち, ある τ a : Xa P a が存在して θ a τ a = σ a となる. この τ a は自然変換 τ : X P を与える.. ) f : a b を C の射として次の図式を考える. τ a Xa P a Qa Xf P f Qf Xb P b Qb τ b θ a θ b θ が自然変換だから, 右側の四角は可換である. また σ a (= θ a τ a ) が a について自 6
然だから外側の四角も可換である. 従って τ a θ a Xa P a Qa Qa P a θ a Qa Xf = Qf = P f Xb Xb P b Qb τ b θ b Xb τ b P b となる. 今 θ a はモノ射だったから Xf Xa Xb τ a τ b P a P b P f が可換となることが分かり,τ は自然変換である. よって θ τ = σ となる自然変換 τ : X P が存在することが分かった. 逆に τ : X P が θ τ = σ を満たすとすると,θ がモノ射だから τ = τ とならなければならない. よってこのような τ が一意であることが分かる. 従ってこの図式が pullback であることが分かった. 2 層 X を位相空間,O(X) を X の開集合全体とする.O(X) は包含関係により圏となる. 関手 P : O(X) op Set を X 上の ( 集合の ) 前層というのであった. 更に, 開集合 U X と U の開被覆 {U i } に対して次が equalizer となるとき,P を層と言うのであった. ( 例: 位相空間上の層 の PDF を参照.) P (U) e P (U i ) p q i,j I P (U i U j ) ここで e(x) := x Ui で,p は U i U j U i から得られる射,q は U i U j U j から得られる射である. 定義. C を圏とする.a C に対して, 部分関手 S y(a) を a 上の sieve という. 例 2. C = O(X) の場合.S を U O(X) 上の sieve とすると S は関手 O(X) op Set 7
で,V O(X) に対して S(V ) y(u)(v ) = Hom O(X) (V, U) = { 0 (= ) (V U のとき ) 1 (= { }) (V U のとき ) である. よって S は写像 O(X) 2 = {0, 1}, 即ち部分集合 S O(X) とみなせる. 更 に,S が関手であることから W V に対して写像 Hom O(X) (V, U) = S(V ) S(W ) = Hom O(X) (W, U) が存在する. 故に V S ( 即ち S(V ) = 1) ならば W S ( 即ち S(W ) = 1) でなければ ならない. また V U ならば V / S である. 以上により,U 上の sieve S は部分集合 S O(U) で, 条件 を満たすものと同一視できる. V S, W O(U), W V = W S (1) {U i } を U の開被覆とする. 即ち U = U i である. このとき S := {V O(U) ある i I が存在して V U i } と定義すれば S は明らかに条件 1 を満たすので,S は U 上の sieve とみなせる. この S は U = V を満たす. V S 逆に,U 上の sieve S が U = V S V を満たすとすると S = {V O(U) ある W S が存在して V W } となる. そこで,U = V となる sieve を covering sieve と呼ぶ. V S U 上の sieve S は部分関手 θ : S y(u) であった. これにより, 前層 P に対して写像 i := HomÔ(X) (θ, P ): HomÔ(X) (y(u), P ) HomÔ(X) (S, P ) が定まる. 定理 3. 位相空間 X 上の前層 P が層 任意の開集合 U X 上の covering sieve S に対して i: HomÔ(X) (y(u), P ) HomÔ(X) (S, P ) が全単射を与える. 8
証明. {U i } を開被覆とする. E P (U i ) p q i,j I P (U i U j ) を p, q の equalizer とすると E := { x i } P (U i ) x i Ui U j = x j Ui U j である. S を {U i } から定まる covering sieve とする. このとき全単射 f : Hom(S, P ) E が 存在する.. ) θ Hom(S, P ) とする.S(Ui ) = 1 = { } だから θ Ui ( ) P (U i ) である. よっ て写像 f : Hom(S, P ) P (U i ) を f(θ) := θ Ui ( ) P (U i ) と定義する ことができる.f(θ) E である.. ) i, j I に対して θ Ui ( ) Ui U j = θ Uj ( ) Ui U j を示せばよい.θ が自然変換 だから θ Ui U j S(U i U j ) P (U i U j ) θ Ui U j S(U i U j ) P (U i U j ) S(U i ) P (U i ) θ Ui S(U j ) P (U j ) θ Uj は可換である. よって θ Ui ( ) Ui U j = θ Ui U j ( ) = θ Uj ( ) Ui U j となり成り立つ. よって f : Hom(S, P ) E とみなすことができる. この f の逆写像 g が存在することを示せばよい. x i E とする.V O(X) に対して θ V : S(V ) P (V ) を次のように定める : V / S のとき,θ V は一意な射 S(V ) = P (V ) とする. V S のとき,V U i となる i I を取り θ V ( ) := x i V と定める. (x i Ui U j = x j Ui U j だから, これは well-defined である.) これは V について自然である. 9
. ) V W に対して次の図式が可換であることを示せばよい. θ V S(V ) P (V ) S(W ) P (W ) θ W W / S, 即ち S(W ) = ならば自明だから W S とする. この場合 V S で あるから,θ W ( ) V = θ V ( ) を示せばよい. これは x i W V = x i V ということ だから成り立つ. よって自然変換 θ : S P が得られる. これにより g( x i ) := θ と定義する. つまり V S に対して g( x i ) V ( ) = x i V である. このとき ( g f(θ) ) V ( ) = ( g( θ Ui ( ) ) ) V ( 0) = θ U i ( ) V = θ V ( ) f g( x i ) = g( x i ) Ui ( ) = x i だから g = f 1 である. よって f : Hom(S, P ) P (U i ) とみなせば Hom(S, P ) f P (U i ) p q i,j I P (U i U j ) は equalizer である. 次の図式を考える. Hom(S, P ) i Hom(y(U), P ) f = P (U i ) e P (U) p q i,j I P (U i U j ) この図式の左の四角は可換である.. ) θ Hom(y(U), P ) を取る.θ に対応する x P (U) は x = θ U (id U ) で与えられ るから,θ を右回りで写したものは θ U (id U ) Ui になる. 一方, 左回りで写すと 10
f i(θ) = θ Ui ( ) になるから i I に対して θ U (id U ) Ui = θ Ui ( ) を示せばよい. θ が自然変換で U i U だから次が可換である. θ Ui Hom(U i, U) P (U i ) θ Ui θ U (id U ) Ui Hom(U, U) θ U P (U) id U θ U (id U ) θ U よって θ U (id U ) Ui = θ Ui ( ) が分かる. (= ) S を開集合 U X 上の covering sieve とする.{V } V S は U の開被覆である から, 上記の議論により次の図式を得る. Hom(S, P ) i Hom(y(U), P ) f = P (V ) V S e P (U) p q V,W S P (V W ) 仮定より e が equalizer となるから i は同型である. ( =) {U i } を U の開被覆とする. これから得られる covering sieve S を取り, 上記 の議論から次の図式を得る. Hom(S, P ) i Hom(y(U), P ) = P (U i ) e P (U) p q i,j I P (U i U j ) i が同型だから e が p, q の equalizer となる. よって P は層である. これを使い, 一般の圏 C 上の前層が層であることを定義することができる. その為には, まず c C 上の sieve S がいつ covering sieve になるかを定めなければならない. 定義. C を圏とする. 各対象 a C に対して,a 上の sieve からなる集合 J(a) が与えられ, 以下の条件を満たすとき,J を C の Grothendieck 位相という. (1) y(a) J(a) である.(y(a) を maximal sieve と呼ぶ.) (2) f : a b,s J(b) に対して Ωf(S) J(a) である. 11
(3) S J(a),R が a 上の sieve で 任意の f S(b) に対して Ωf(R) J(b) ならば R J(a) である. また J(a) に含まれる sieve を covering sieve と呼ぶ. 圏 C の Grothendieck 位相 J が与えられたとき, 組 C, J を景 (site) という. 定義. 景 C, J 上の層とは, 前層 P : C op Set であって, 任意の c C と S J(c) に対して i: HomĈ(y(c), P ) HomĈ(S, P ) が全単射となるものを言う. C, J 上の層全体がなす Ĉ の充満部分圏を Sh(C, J) と書く. 例 4. C = O(X) の場合.J(U) := {S S は U 上の covering sieve} と定義すると J は O(X) の Grothendieck 位相になる.. ) maximal sieve, 即ち S = O(U) は U 上の covering sieve であるから条件 1 は成り立つ. 次に f : U U として S を U 上の sieve とする.V O(X) に対して (Ωf(S))(V ) = {k : V U f k S(V )} だから V Ωf(S) V U かつ V S である. よって条件 2 は S が U 上の covering sieve ならば S O(U) は U 上の covering sieve である という条件となり, 成り立つ. 最後に,S を U 上の covering sieve,r を U 上の sieve とする. 条件 3 の 任意の f S(b) に対して Ωf(R) J(b) は V S ならば R O(V ) は V 上の covering sieve である という条件になり, この条件が成り立つとき R は covering sieve である, というのが条件 3 である. 故に成り立つ. この景 O(X), J 上の層は, 定理 3 より位相空間 X 上の層となる. 定理 5. Sh(C, J) はトポスである. 定義. ある景 C, J に対する Sh(C, J) と圏同値になる圏を Grothendieck トポスと呼ぶ. 参考文献 [1] S. Mac Lane and I. Moerdijk, Sheaves in Geometry and Logic, Springer, 1992 12