鎮静と譫妄の評価 徳島大学病院救急集中治療部 大藤純
集中治療室ストレスが多い 照明 アラーム音 医療機器の雑音医療従事者の会話 チューブ刺激
ICU のストレスの原因 環境因子 騒音 ( アラーム 雑談 ) 照明 (24 時間連続 ) 同じ環境 見慣れない器械 ライン など 医原性因子 全身性炎症反応疼痛 気管チューブ刺激人工呼吸器との不同調低酸素血症心不全 など 非薬物的アプローチ 不穏 譫妄 睡眠障害 鎮痛薬の介入 予後への不安孤独感 精神的因子 脆弱な精神機能 ( 老人 ) 倦怠感 不快感 睡眠障害 鎮静薬の介入
鎮静不十分のリスク 不穏状態による事故 事故抜管 カニューレ抜去 ベットからの転落事故 酸素消費量の増加 低酸素血症 心筋虚血 その他の臓器虚血 ストレスが誘発するカテコラミンの急激な上昇 心筋虚血 創傷治癒 凝固 頻脈 高血圧 不眠 ( 日内周期の乱れ 睡眠時間の不足 ) 集中看護がさらに必要 抑制帯で患者を抑える 過鎮静で長期管理をすることによるリスク 睡眠障害 譫妄 心的外傷後ストレス障害 (PTSD)
過鎮静のリスク 呼吸抑制 停止 酸素化悪化 換気能低下 循環抑制 血圧低下 心筋虚血 その他の臓器虚血 筋委縮 人工呼吸器からの離脱困難 中枢神経機能低下 意識障害 意識障害の確認できない ( 脳出血 脳梗塞 ) 譫妄 睡眠障害 PTSD の原因 長期の高次機能障害 免疫機能の低下
ICU の鎮静管理 PAD (Pain, Agitation, Delirium)guideline 疼痛 興奮 譫妄を正しく評価する 非薬物的アプローチを考える 鎮痛から開始 十分な鎮痛を行う 浅めの鎮静を目標とする
疼痛 興奮 譫妄の評価法 疼痛の評価法 : 挿管患者 :Behavioral Pain Scale (BPS) Critical Care Pain Observation Tool(CPOT) 非挿管患者 :VAS 興奮の評価法 : Richmond Agitation Sedation Scale (RASS) Sedation Agitation Scale (SAS) 譫妄の評価法 : Confusion Assessment Methods for the ICU(CAM-ICU) Intensive Care Delirium Screening Checklist(ICDSC)
項目 説明 スコア 表情 上肢 呼吸器との同調性 穏やかな一部硬い ( 眉が下がっている など ) 全く硬い ( まぶたを閉じている など ) しかめ面 全く動かない一部曲げている 5 てん 指を曲げて完全に曲げているずっと引込めている同調している時に咳嗽も大部分は同調している呼吸器とファイティング呼吸器の調節がきかない 1 2 3 4 1 2 3 4 1 2 3 4 *5 点以下に調整する
呼びかけ刺激身体刺激STEP 1 30 秒間患者観察 (0 +4) STEP +4 +3 +2 2 呼びかけ刺激身体刺激 好戦的な非常に興奮した興奮した 1 大声で名前を呼ぶか 開眼するように言う 210 秒以上アイ コンタクトができなければ繰り返す 3 動きが見られなければ 肩を揺するか 胸骨を摩擦する 明らかに好戦的な 暴力的な スタッフに対する差し迫った危険 チューブ類またはカテーテル類を自己抜去 ; 攻撃的な 頻繁な非意図的な運動 人工呼吸器ファイティング +1 0-1 -2-3 -4-5 落ち着きのない意識清明 落ち着いている傾眠状態軽い鎮静状態中等度鎮静状態深い鎮静状態昏睡 不安で絶えずそわそわしている しかし動きは攻撃的でも活発でもない 完全に清明ではないが 呼びかけに 10 秒以上の開眼及びアイ コンタクトで応答する 呼びかけに 10 秒未満のアイ コンタクトで応答 呼びかけに動きまたは開眼で応答するがアイ コンタクトなし呼びかけに無反応 しかし 身体刺激で動きまたは開眼 呼びかけにも身体刺激にも無反応
STEP 1 RASS による評価 RASS が -4 か -5 の場合 評価を中止し 後で再評価する RASS が -4 より上 (-3~+4) の場合 次のステップ 2 に進む STEP 2 せん妄評価 1. 急性発症または変動性の経過 ( 所見 1) 2. 注意力欠如 ( 所見 2) 3. 意識レベルの変化 ( 実際の RASS)( 所見 3) 4. 無秩序な思考 ( 所見 4)
STEP 2 せん妄評価 1. 急性発症または変動性の経過 ( 所見 1) 基準線からの精神状態の急性変化? または患者の精神状態が過去 24 時間で変動したか? Yes No せん妄 なし 終了 2. 注意力欠如 ( 所見 2) へ
STEP 2 せん妄評価 2. 注意力欠如 ( 所見 2) 患者さんに 10 個の数字を読みますので 1 と言ったときに 私の手を握ってください と伝え 次の 10 個の数字を 3 秒間隔で読む 2 3 1 4 5 7 1 9 3 1 スコア エラー :1 の時に握らなかった回数と 1 以外の時に握った回数の合計 エラー 3 回未満 せん妄 なし 終了 エラー 3 回以上 3. 意識レベルの変化 ( 実際の RASS)( 所見 3) へ
STEP 2 せん妄評価 3. 意識レベルの変化 ( 実際の RASS) ( 所見 3) RASS が 0 の場合 次のステップへ RASS=0 RASS 0 以外 せん妄あり 終了 4. 無秩序な思考 ( 所見 4) へ
STEP 2 せん妄評価 4. 無秩序な思考 ( 所見 4) 指示 2 本の指を上げてみせ 同じことをさせる 反対の手で同じことをさせる 1. 石は水に浮くか? ( 葉っぱは水に浮くか?) 2. 魚は海にいるか? ( ゾウは海にいるか?) 3. 1 グラムは 2 グラムより重いか? (2 グラムは 1 グラムより重いか?) 4. 釘を打つのにハンマーを使うか? ( 木を切るのにハンマーを使うか?) エラー 2 問未満 エラー 2 問以上 せん妄なし せん妄あり 終了 終了
CAM-ICU に関する用語のまとめ 評価 RASS ( 鎮静 ) CAM-ICU (4 つの所見 ) 不穏 (agitation) +1~+4 陰性 活発型せん妄 (hyperactive delirium) 不活発型せん妄 (hypoactive delirium) +1~+4 0~-3 陽性 陽性 昏睡 (coma) -4または-5 評価不可
非薬物的アプローチ 環境因子の改善 : 騒音 :( アラーム音や話声を最小限に ) 光 : 照明 ( 昼夜の調整 ) 自然光を取り入れる看護ケア : 夜間の介入は最小限に 医原性因子の改善 : 人工呼吸 : 同調性の工夫 低侵襲の呼吸補助 (HFNC) 脱水 低酸素の改善 血圧の調整 感染症治療 など
十分な鎮痛 痛みの原因 : 術創部の疼痛 気管チューブの刺激 同一体位による疼痛 低酸素血症や炎症など原疾患による疼痛 内科系患者でも疼痛はある 治療 : BPS5 点以下など参考に 鎮静薬より鎮痛薬から使用する オピオイドが第一選択 硬膜外鎮痛なども可能なら併用する アセトアミノフェンは単独では鎮痛効果弱いがオピオイド使用量を減らす可能性がある
浅い鎮静の方法 Protocolized sedation: 鎮静プロトコールを使用 Daily sedative interruption:1 日 1 回鎮静中断 No sedation: 鎮静薬は用いず モルヒネなどの鎮痛薬で対応 利点 : 人工呼吸期間 ICU 滞在期間 入院期間の短縮早期のリハビリテーションが可能医療費削減 問題点 : ストレス反応 ( 血圧 脈拍 酸素需要の増大 ) 事故抜管 ライントラブル 看護労力の増大 ICU でのストレス体験 PTSD
譫妄とは? 時間または日単位で変動する認知機能の低下などを伴う意識障害 ( 痴呆とは異なる ) 重症患者での多臓器不全の一症状 ICU 患者の 30-80% でみられる 不活発型 (40-60%) 混合型 (40-60%) 活発型 ( 数 %) 譫妄の発症は合併症併発率や致死率を上げ 予後不良因子のひとつ 特に不活発型で予後不良 睡眠障害とも関連 譫妄予防 適切な鎮静と鎮痛は必要
ICU における睡眠障害 睡眠の分断 浅睡眠の増加 深睡眠 REM 睡眠の消失 概日リズムの消失 ( 夜間の不眠 ) 正常な睡眠パターン
ICU における睡眠障害の例 症例 :62 歳男性開心術後 Rem Wake Stage 1 Stage 2 Stage 3 Stage 4 Movement 15:00 18:00 21:00 00:00 03:00 06:00 09:00 12:00 概日リズム消失 SWS や REM 睡眠の抑制 症例 :81 歳男性心不全 Rem Wake Stage 1 Stage 2 Stage 3 Stage 4 Movement Ø 18:00 Ø 21:00 à 00:00 à 03:00 à 06:00 à 09:00 à 12:00 à 15:00 à 18:00 睡眠の中断 頻回の覚醒 概日リズム消失
睡眠障害の原因と対策 原因 : 環境因子 ( 騒音 昼夜を問わない照明 看護ケア ) 患者因子 ( 原疾患によるストレス 高齢 炎症反応 術後疼痛 低酸素 脱水など ) 医原性因子 ( 呼吸器との不同調性 鎮静鎮痛薬 ) 対策 : 環境因子 : 照明 看護ケアは昼夜のリズムを意識した管理 アイマスクや耳栓などの工夫患者因子 : 原疾患の治療 脱水 低酸素などの補正医原性因子 : 人工呼吸器の調整 適度な鎮静鎮痛管理 ( 日中の鎮静中断や覚醒 非ベンゾジアゼピン系鎮静薬 DEX?)
鎮静法による睡眠動態の比較 24 時間の持続鎮静 STAGING Wake Stage 1 Stage 2 Stage 3 Stage 4 Rem Movement ŒŽ 18:00 Î 00:00 Î 06:00 Î 12:00 Î 18:00 Staging Daily awakening Rem Wake Stage 1 Stage 2 Stage 3 Stage 4 Movement 15:00 18:00 21:00 Ø 00:00 Ø 03:00 Ø 06:00 Ø 09:00 Ø 12:00 Ø 15:00 周期的に REM 睡眠が出現 : 自然睡眠に近くなる
まとめ 疼痛 興奮 譫妄を正しく評価する 鎮痛から開始 十分な鎮痛を行う 昼夜のリズムを考えたケア 鎮静レベルの目標を設定 可能なら浅めの鎮静を行う