便微生物移植技術の特許分析レポート

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別紙様式 (Ⅱ)-1 添付ファイル用 本資料の作成日 :2016 年 10 月 12 日商品名 : ビフィズス菌 BB( ビービー ) 12 安全性評価シート 食経験の評価 1 喫食実績 ( 喫食実績が あり の場合 : 実績に基づく安全性の評価を記載 ) による食経験の評価ビフィズス菌 BB-12

A23「タイ特許調査方法の検討」

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ン (LVFX) 耐性で シタフロキサシン (STFX) 耐性は1% 以下です また セフカペン (CFPN) およびセフジニル (CFDN) 耐性は 約 6% と耐性率は低い結果でした K. pneumoniae については 全ての薬剤に耐性はほとんどありませんが 腸球菌に対して 第 3 世代セフ

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ータについては Table 3 に示した 両製剤とも投与後血漿中ロスバスタチン濃度が上昇し 試験製剤で 4.7±.7 時間 標準製剤で 4.6±1. 時間に Tmaxに達した また Cmaxは試験製剤で 6.3±3.13 標準製剤で 6.8±2.49 であった AUCt は試験製剤で 62.24±2

D961H は AstraZeneca R&D Mӧlndal( スウェーデン ) において開発された オメプラゾールの一方の光学異性体 (S- 体 ) のみを含有するプロトンポンプ阻害剤である ネキシウム (D961H の日本における販売名 ) 錠 20 mg 及び 40 mg は を対象として

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あった AUCtはで ± ng hr/ml で ± ng hr/ml であった 2. バイオアベイラビリティの比較およびの薬物動態パラメータにおける分散分析の結果を Table 4 に示した また 得られた AUCtおよび Cmaxについてとの対数値

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Transcription:

1. 分析の準備 :FMT (Fecal microbiota transplantation) の特許母集団をつくるこの 1.2 年で盛んに話題にあがるようになった 便微生物移植 (Fecal microbiota transplantation:fmt) の特許情報を探ることにしました FMT は 難治性の CDI 腸炎 (Clostridium difficile による感染症 ) に高い効果を発揮する新しい治療法です 欧米では治療実績も蓄積され一般的になりつつある治療法で さらに潰瘍性大腸炎やクローン病 過敏性大腸炎など新たな適応を探る臨床試験も活発に進んでいます 国内ではいまだ保険適用ではありませんが 治療を受けられる医療機関はいくつか知られるようになりました 治療方法は明快で 健康なヒトから採取した便を希釈し 患者の腸内に移植するというものです では分析母集団を作ります 今回のテーマは新しい技術分野ゆえ 特許分類は使えません キーワードを駆使します 下図の検索で 47 件の公報からなる母集団を作りました 今回の検索は タイトル 抄録 クレームのいずれかに 便微生物移植 のキーワードを含むものに限定しています そのため 単なるプロバイオティクス製剤や製品 腸内の善玉細菌を培養した微生物製剤などは基本的に母集団に含まれません 使用 DB 対象公報検索実施日検索式 Totalpatent WO 公報 2017 年 6 月 TITLE-ABST-CLAIM((((fecal! or feces or feaces or faecal! or stool or excrement)w/2(microbiota! or microbiome! or symbio! or microfauna or flora! or microflora! or microsymbio!)) or ((fecal! or feces or feaces or faecal! or stool or excrement)w/5(transplant! or restration or infusion or graft! or interplant)) or "fecal microbial transplant!" or "faecal microbial transplant!" or "fecal bacteriotherapy" or "faecal bacteriotherapy")) 母集団件数 47 件 2. 特許分析 : 出願件数の年別統計 出願年ごとの出願件数を集計しました 結果は下記の通りでした

1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009 2011 2013 2015 出願件数の推移 20 18 18 16 14 13 12 10 8 8 6 4 2 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 3 2 2 本当にこの 2,3 年で急激に件数がアップしていることがわかります しかし驚いたこ とは 1989 年に既に最初の出願があるということです この出願 BORODY THOMAS J というオーストラリアを拠点とする 微生物 / 消化器系疾患の研究者により出願されています (Borody Thomas 氏はピロリ菌の研究でノーベル賞を受賞した 同じオーストラリアの Dr. Robin Warren とともに 一時期ピロリ菌駆除方法を研究していたことでも知られているようです Wikipedia 参照 ) この出願 WO9001335A1 TREATMENT OF GASTRO-INTESTINAL DISORDERS, では 適切な microflora を患者の腸内容物と置換することにより 疾患を治療 予防する方法が広くクレームされています この microflora は大便から構築されることもしっかりクレームされています 下位請求項では多くの種類の腸内細菌群が列挙され これらを何らかの形で摂取することで種々の腸内微生物の不調に関連する疾患を抑制する という極めて広い概念であり 現在のプロバイオティクス思想をもそのまま包含している印象です この出願 EP で EP433299B1 として権利化されています 米国ではこの出願に関連 して権利化されたものはみつかりませんでした EP433299B1 の存在が 米国と比較 した場合の欧州での FMT 関連研究の抑制に寄与しているという推測もできそうです

特許分析 : 優先国からみる出願人の活動拠点まず優先国から各出願人 ( 筆頭出願人 ) の拠点を推測しました 米国が最も多く 次いで英国が続きました ほぼ米国拠点のプレイヤーに出願が専有されていることがわかります 優先国 出願件数 占有率 (%) US 35 74.5 GB 3 6.4 AU 2 4.3 EP 2 4.3 FR 2 4.3 DK 1 2.1 HU 1 2.1 IT 1 2.1 次に 出願人の 属性 について分析しました 属性 は各出願人の HP 情報の 閲覧により求めました 今回の母集団に含まれる全出願人 (54 出願人 ) はバイオ 系ベンチャー 大学 / 病院 / 研究機関 個人などの計 10 属性のいずれかに分類でき ました 次に各 属性 の出願を 拠点国 別に集計しました 結果は下記の通り です 拠点国別の内訳 属性 出願人数 US GB AU EP FR DK HU IT 19 15 2 2 19 16 3 6 2 3 1 4 1 1 1 1 =バイオ系ベンチャー = 大学 / 病院 / 研究機関 = 個人 = 創薬系ベンチャー =バイオ大手 = 医療機器 = 化学大手 = 食品 = 食品大手 = 医薬品大手

この業界は多くのバイオ系ベンチャーの参入より構成されていることがわかります ベンチャーの多くはほぼ米国拠点のものに占められていました 大学 / 病院 / 研究機関の参入も多くは米国主導であることがうかがえます 米国を除けば イギリス フランス オーストラリなどに研究開発拠点があることがわかります 特許分析 :FMT 関連技術のメインプレイヤー (2 件以上の出願をもつ出願人 ) 出願人ごとの出願件数を集計し FMT 関連技術に関与するメインプレイヤーを探 索しました 結果から 2 件以上の出願をもつ出願人をメインプレイヤーと規定 集計結果は下の通りです 属性出願人名 出願件数 ( 件 ) 占有率 (%) SYNTHETIC BIOLOGICS(US) 6 10.7 BORODY THOMAS J(AU) 3 5.4 CALTECH(US) 3 5.4 CRESTOVO(US) 3 5.4 INSTITUT NATIONAL DE LA RECHERCHE AGRONOMIQUE(FR) 2 3.6 MAAT PHARMA(FR) 2 3.6 MAYO FOUNDATION FOR MEDICAL EDUCATION AND RESEARCH(US) 2 3.6 SECOND GENOME(US) 2 3.6 その他 ( 出願件数が 1 件の出願人 ) 33 58.7 メインプレイヤーは合計 8 出願人 そのうち 4 出願人はバイオベンチャーでし た 残る 3 出願人が大学等 1 出願人が前述の Borody Thomas 氏でした 各メインプレイヤーの出願の特徴を確認してみました 出願人 / 出願件数 SYNTHETIC BIOLOGICS(US)/6 出願人 出願内容の特徴 腸内マイクロバイオームの保護 改善に関連する領域に特化し たベンチャー 腸内送達型のラクタマーゼ製剤に関する出願み られた これらの製剤と FMT を併用する療法がクレームされ る BORODY THOMAS J(AU)/3 FMT による感染症治療の先駆的研究者 FMT の基本コンセプト を 1989 年に既に出願している

CALTECH(US)/3 CRESTOVO(US)/3 INSTITUT NATIONAL DE LA RECHERCHE AGRONOMIQUE(FR)/2 MAAT PHARMA(FR)/2 2014 MAYO FOUNDATION FOR MEDICAL EDUCATION AND RESEARCH(US)/2 マイクロバイオームと各種疾患 体質との相関に関する研究を主導している 自閉症スペクトラム セロトニンレベルの低下 大腸腫瘍にそれぞれ関連するフローラを特定し FMT による治療方法をクレームしている FTM 製剤に特化したバイオベンチャー Clostridium difficile 感染症を対象とした経口製剤のパイプラインなどを抱える FMT 用の便保存組成物 便の投与スケジュールをクレームする出願が見られた フランス国立農業研究所による出願は全て下記の MAAT PHARMA との共願である 年創業のフランス発のマイクロバイオータ領域特化型ベンチャー 便由来生菌の凍結保存組成物に関する出願が見られた メイヨー クリニックは 上述の Borody Thomas 医師がかつて感染症研究を行った場でもある Clostridium difficile 感染症の診断に有効な便中マーカー 治療効果を測定するためのフローラを用いた薬剤感受性試験に関する出願が見られた SECOND GENOME(US)/2 2009 年創業のマイクロバイオータ領域特化型ベンチャー 2 件 の出願はそれぞれ 便サンプル中のフローラのアッセイ方法によ る診断方法に関するものであった バイオベンチャーの 4 社はいずれもマイクロバイオータ領域に特化した企業でした 一方で メインプレイヤー中には大手企業の存在は見受けられず今のところは研究開発型ベンチャーがこの領域を牽引しているといえますが 今後 この治療方法が一般化し 市場規模が拡大したときに大企業の参入を含めて業界がどう展開していくのか 興味がもたれます 特許分析 : メインプレイヤーの研究コラボレーション上記のメインプレイヤーによる出願では 一部共同出願が見られました 共同出願の出願人を確認することで各プレイヤーの研究コラボレーション関係が推測できます 各共同出願の内容を確認した結果が下記の図です

CRESTOVO が最も活発な共同研究活動を行っているようで 国境を越えフラ ンスの国立研究機関とも提携しています ベンチャー 大学 病院が前臨床 臨床試験を通してコラボレーションするのは製薬業界では一般的といえますが 大企業の参入がほぼ見られないというのはこの分野の特徴であり 如何に最先端の技術分野であるかということを端的に表しているといえます 3. まとめ日本ではまだ一般的とはいえない便微生物移植技術についての特許分析を行いました 今回 敢えて プロバイオティクス プレバイオティクス 的な観点の出願は除外し FMT に直結する出願のみを WO 出願から収集しました 現在の FMT の基礎研究 製剤化研究は米国ベンチャーが主導している状況が明らかになりましたが 意外にも FMT の基本コンセプトは 1980 年代後半のオーストラリアの医師による出願に描かれていて さらに欧州で権利化されていた事に驚かされました 今後 この療法の実績が蓄積されることで恐らく大手企業による M&A 独自技術開発による参入が予想されます 日本人としてはその一角に是非国内企業の名が連なることを願いつつ 今後の技術発展を注視したいところです